説明

布用固形描画材

【課題】フタル酸エステル系可塑剤に代わる、安全性の高い可塑剤を配合してなる経時定着安定性を有する布用固形描画材を提供する。
【解決手段】顔料、ワックス、樹脂、脂肪酸エステル系可塑剤を含むことを特徴とする布用固形描画材であり、脂肪酸エステル系可塑剤がアジピン酸ジオクチル、アジピン酸ジイソデシル、コハク酸ジエチル、セバシン酸ジ2−エチルヘキシルから選ばれる少なくとも1種の可塑剤であることを特徴とする布用固形描画材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、布に対する経時定着安定性が高い布用固形描画材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来公知の布用固形描画材は、一般に、着色剤といわれる顔料や染料を加熱溶解したワックス、パラフィン、オイル、樹脂等に分散した後、冷却、固化させることにより製造されている。このような布用固形描画材には塗布面の経時定着安定性を有する為に可塑剤としてフタル酸ジブチルが配合されている。
【0003】
しかし、近年、安全性の基準が厳しくなっており、フタル酸エステル系可塑剤はその毒性が懸念されている為、様々な製品における使用が規制される動きが見られるなか、布用固形描画材においても、フタル酸エステル系可塑剤に代わる新たな可塑剤が求められている。(特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭55−41716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、フタル酸エステル系可塑剤に代わる、安全性の高い可塑剤を配合してなる経時定着安定性を有する布用固形描画材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
顔料、ワックス、樹脂、脂肪酸エステル系可塑剤、を含むことを特徴とする布用固形描画材。
【発明の効果】
【0007】
フタル酸エステル系可塑剤に代わる布用固形描画材を検討するため、安全性の高い種々の可塑剤を検討した結果、脂肪酸エステル系の可塑剤が適していることを見いだした。脂肪酸エステル系可塑剤は芳香環を含有しない構造であるため、立体障害を持ちにくい可塑剤である。このため、フタル酸エステル系可塑剤に比べ、脂肪酸エステル系の可塑剤は樹脂の細部にまで均一に浸透し、樹脂の分子間力が和らぎ、結晶構造の偏りが少なくなる。樹脂が均一になることで、顔料が樹脂に過不足なく付着または包含される。さらに、本発明は布へ塗布した後、アイロンによる熱処理を行うが、その際、塗布面に含まれている樹脂と布の分子運動が激しくなり、分子間距離が均一になる。アイロンによる熱処理後、布が冷めることにより繊維が収縮し、熱処理時繊維に入り込んだ定着剤である樹脂がより強く保持される。
これにより、繰り返し洗濯を行っても劣化しにくい経時定着安定性に優れ、安全性の高い塗布面を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の布用固形描画材に使用する顔料は、着色剤として使用するものであって、従来公知の、カーボンブラック、酸化チタン、鉄黒、群青、弁柄、水酸化鉄、酸化亜鉛、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、ワッチングレッド、カーミン6B、ハンザイエロー、ピラゾロンオレンジ等の無機顔料、有機顔料を問わず使用可能であって、単独または2種類以上混合して用いても良い。その使用量は種類によって大きく異なるが、発色並びに描画性を考慮すれば固形描画材全量に対して2〜10重量%が好ましい。
【0009】
ワックスは固形描画材の塗布性能を向上させる為に使用するものであって、動物系ワックス、植物系ワックス、鉱物系ワックス、石油系ワックス、天然ワックス、合成ワックス等があげられる。これらの物質は2種類以上混合が好ましい。その使用量は15〜30重量%が好ましい。
【0010】
樹脂は定着性を向上させる為のものであって、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリメチルメタアクリレート、ポリ塩化ビニリデン、ポリテトラフロロエチレン、エチレン−ポリテトラフロロエチレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体、塩化ビニル・酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−メチルアクリレート共重合体、AS樹脂、ABS樹脂、AAS樹脂、ACS樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、ポリスチレン、ポリメチルペンテン、ポリブテン、スチレンブタジエン、ポリエステル樹脂などが挙げられる。樹脂は、何れも単独または2種類以上混合して用いても良い。樹脂の使用量は固形描画材全量に対して10〜20重量%が好ましい。
【0011】
可塑剤は脂肪酸エステル系可塑剤が好ましく、さらにはアジピン酸ジオクチル、アジピン酸ジイソデシル、コハク酸ジエチル、セバシン酸ジ2−エチルヘキシルから選ばれる1種の可塑剤を固形描画材全量に対して5〜10重量%が好ましい。
【0012】
尚、上記各成分以外、必要に応じて、増量剤若しくは充填剤として従来公知のマイカ、クレー、カオリン、タルク、炭酸カルシウム、シリカ、硫酸バリウム等の体質顔料を固形描画材全量に対して1〜30重量%用いたり、安定剤としてエポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油、エポキシ化モノエステル、エポキシ樹脂を20〜40重量%用いたり、滑材として金属石鹸を併用することも可能である。
【0013】
本発明の固形描画材は、上記各成分を加熱撹拌混合し、ロールミルなどの混練機で混練りし、これを溶融状態で型に流し込み、または圧入、もしくは押出して、冷却固化して得ることができる。
【実施例】
【0014】
以下、本発明を説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
カーミン6B 1.5重量部
ナフトールAS系溶性アゾ顔料(既存化学物質番号4−1055) 1.5重量部
パラフィンワックス 14.0重量部
ポリエチレンワックス 7.0重量部
ジステアリルケトン 22.0重量部
塩化ビニル・酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体 14.0重量部
エポキシ化大豆油 31.5重量部
ステアリン酸カルシウム 0.5重量部
アジピン酸ジオクチル 8.0重量部
上記成分について、顔料を加熱溶解したワックス、オイル、可塑剤に分散した後、樹脂を入れて撹拌する。成形機に流し込み、冷却、固化することに赤色布用固形描画材を得た。
【0015】
(実施例2)
酸化チタン 2.5重量部
フタロシアニンブルー 2.0重量部
パラフィンワックス 15.0重量部
ポリエチレンワックス 7.0重量部
ジステアリルケトン 21.0重量部
エチレン−アクリル酸共重合体 14.0重量部
エポキシ化大豆油 30.0重量部
ステアリン酸カルシウム 0.5重量部
コハク酸ジエチル 8.0重量部
上記成分を実施例1と同様方法で青色布用固形描画材を得た。
【0016】
(実施例3)
カーボンブラック 4.0重量部
パラフィンワックス 14.0重量部
ポリエチレンワックス 6.0重量部
ジステアリルケトン 21.5重量部
塩化ビニル・酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体 14.0重量部
エポキシ化大豆油 32.0重量部
ステアリン酸カルシウム 0.5重量部
セバシン酸ジ2−エチルヘキシル 8.0重量部
上記成分を実施例1と同様方法で黒色布用固形描画材を得た。
【0017】
(実施例4)
ジスアゾイエロー 4.0重量部
フタロシアニングリーン 0.5重量部
パラフィンワックス 14.0重量部
ポリエチレンワックス 6.0重量部
ジステアリルケトン 22.0重量部
塩化ビニル・酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体 14.0重量部
エポキシ化大豆油 31.0重量部
ステアリン酸カルシウム 0.5重量部
アジピン酸ジオクチル 8.0重量部
上記成分を実施例1と同様方法で黄緑色布用固形描画材を得た。
【0018】
(実施例5)
ピラゾロンオレンジ 2.5重量部
パラフィンワックス 14.0重量部
ポリエチレンワックス 3.0重量部
ジステアリルケトン 26.0重量部
塩化ビニル・酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体 14.0重量部
エポキシ化大豆油 32.0重量部
ステアリン酸カルシウム 0.5重量部
アジピン酸ジオクチル 8.0重量部
上記成分を実施例1と同様方法で橙色布用固形描画材を得た。
【0019】
(実施例6)
酸化鉄 1.0重量部
水酸化鉄 2.0重量部
カーボンブラック 0.4重量部
パラフィンワックス 14.0重量部
ポリエチレンワックス 7.0重量部
ジステアリルケトン 22.0重量部
エチレン−メチルアクリレート共重合体 14.0重量部
エポキシ化大豆油 31.0重量部
ステアリン酸カルシウム 0.6重量部
アジピン酸ジオクチル 8.0重量部
上記成分を実施例1と同様方法で焦茶色布用固形描画材を得た。
【0020】
(比較例1)
実施例1において、アジピン酸ジオクチルをフタル酸ジブチルに置き換えて実施例1と同様に赤色布用固形描画材を得た。
【0021】
(比較例2)
実施例2において、コハク酸ジエチルをフタル酸ジブチルに置き換えて実施例2と同様に青色布用固形描画材を得た。
【0022】
(比較例3)
実施例3において、セバシン酸ジ2−エチルヘキシルをフタル酸ジブチルに置き換えて実施例3と同様に黒色固形描画材を得た。
【0023】
上記実施例1〜6及び比較例1〜3で得られた布用固形描画材を用いて、洗濯堅牢試験を行った。洗濯前と洗濯後の描画面の色度を測定し、色差を算出した。結果を表1に示す。
【0024】
洗濯堅牢試験:布(綿ブロード ♯60)に各例で得た布用固形描画材で筆記した。筆記後、試験片を12〜24時間後自然乾燥し、アイロン(140〜210℃)で定着させる。熱によって溶解したワックスが浸み出すので吸い取る紙または布を必要とする。
冷却後、試験片は洗剤(ライオン(株)トップ)を水に溶かした洗剤液に30分間浸し、筆跡を擦り合せるように手もみ洗い50回を行う。試験片は自然乾燥させる。
試験前後の色差計(分光色差計NF777(日本電色(株)製))を用いて試験片の色度を測定し、色落ち具合の色度(ΔE)を評価する。
【0025】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料、ワックス、樹脂、脂肪酸エステル系可塑剤を含むことを特徴とする布用固形描画材。
【請求項2】
脂肪酸エステル系可塑剤がアジピン酸ジオクチル、アジピン酸ジイソデシル、コハク酸ジエチル、セバシン酸ジ2−エチルヘキシルから選ばれる少なくとも1種の可塑剤であることを特徴とする請求項1記載の布用固形描画材。

【公開番号】特開2011−116800(P2011−116800A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−272796(P2009−272796)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【出願人】(000005511)ぺんてる株式会社 (899)
【Fターム(参考)】