説明

布粘着テープ

【課題】薄層化及び軽量化を実現しつつ、緯方向及び経方向の両方の手切れ性、及び、加工性に優れた布粘着テープを提供する。
【解決手段】布粘着テープ100は、布粘着テープ用基材1,2の両面にラミネート層20が形成されてなるラミネート基布22の片面に、感圧性粘着剤が塗布されてなる粘着剤層24が設けられたものである。布粘着テープ用基材1は、並列された経糸12の全幅に渡って緯糸16が交互に織込まれた織組織を有する織布からなり、布粘着テープ用基材2は、並列された経糸12がたて編みされた独立鎖編み14の全幅に渡って緯糸16が挿入された編布からなる。また、布粘着テープ用基材1,2における経糸12及び緯糸16は、非極性樹脂に、0.05〜3.0質量%の含有割合で無機フィラーが添加された樹脂組成物から形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄層布粘着テープに関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、布粘着テープは、従前の段ボール等を用いた荷造り・梱包作業に加え、塗装時や引越し等の作業時に壁や床等を保護する養生用途のみならず、その優れた手切れ性(引き裂き容易性)が奏する簡便性ゆえに、日常生活においても、応急固着や仮止め等に多用されるようになってきた。
【0003】
一般に、布粘着テープは、織布や編布等の基材の片面又は両面をポリエチレン樹脂等のポリオレフィン樹脂でラミネートした後、感圧接着剤を塗布することにより製造される。また、これらの織布及び編布基材を構成する糸種としては、レーヨンスフ糸(rayon staple fiber)、綿糸、CVC(chief value of cotton:綿高率混;PET/綿の混紡糸)糸、TR糸(ポリエステル/スフ混紡糸)、マルチフィラメント糸、フラットヤーン等が一般的に用いられている(例えば、特許文献1〜6参照)。
【0004】
このような構造を有する布粘着テープは、その経方向(長手方向、縦方向、経糸方向)の強度を十分に維持しつつ、緯方向(幅方向、横方向、緯糸方向)の手切れ性を十分に確保できることを最大の特徴としている。かかる特性は、各種作業に要求される最低限の強度が経方向(長手方向)において連続的に維持されつつ、緯方向(幅方向)の引き裂き易さ、及び、その引き裂きの直線性を維持するべく、経糸と緯糸の交点でラミネート層を確実に密着させて経糸/緯糸間のズレを抑止する固定効果によって発現される。
【特許文献1】特公平1−41189号公報
【特許文献2】特許第2623947号公報
【特許文献3】特許第2635795号公報
【特許文献4】特許第2843043号公報
【特許文献5】特許第3555880号公報
【特許文献6】実開平4−69482号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
先述したとおり、近時、布粘着テープは日常生活においても多用されていることから、これまでよりも(例えば、業務用製品等に比して)より薄く且つより軽量なものが熱望されている。また、そればかりか、用途が各種のものへと拡大したため、場合によっては、緯方向のみならず、経方向の手切れ性も要求されるようになってきた。
【0006】
しかし、かかる要求に対し、標準的なスパン糸を用いた従来の織物基材では、緯方向及び経方向の手切れ性を実現できるものの、基材を構成する経糸の繊維の太さを細くするには限界があり、こうなると、片面をラミネートするタイプのものでは、布粘着テープにおけるラミネート層の空間体積率がある程度大きくなるため、布粘着テープ製造に多量の粘着剤を塗布する必要があり、軽量化には限界があった。
【0007】
これを解決するべく、ポリエステル糸のようなマルチフィラメント糸を経糸に用いることにより薄層化を図ることも提案されているが、マルチフィラメント糸は一般に引張強度が大きい傾向にあるため、経糸を極端に細くしたり、或いは、経糸に化学的、物理的処理を施し強度低下を図ったりすることにより、手切れ性を付与する必要があった。こうなると、製造上、取り扱いが煩雑となったり、工数(手間)が増大してしまったりといった不都合があり、その結果、生産性が低下してしまうという問題があった。
【0008】
また、薄層化と軽量化を両立させるべく、経糸及び緯糸としてポリエチレン樹脂等からなるフラットヤーンを用いた織布基材の両面に、同種のポリエチレン樹脂をラミネートした基布を積層した布粘着テープが上市されている。しかし、かかる布粘着テープでは、ある程度の薄層化と軽量化が実現され得るものの、布粘着テープにおける経方向と緯方向の強度バランスをとるために、緯糸の引張強度をより大きくする必要があるので、経方向の手切れ性が不十分であった。
【0009】
一方、編布を基材として用いた布粘着テープが、米国等ではダクト用テープとして市販されており、さらには、上記特許文献5に開示されているように、経糸にポリエステル糸、及び、緯糸にフラットヤーンを用いた編布基材が提案されており、見かけ上の薄層化と軽量化の向上が試みられている。しかし、こうした編布を基材として用いた布粘着テープでは、編布生産時に製造不具合や外観上の問題が発生したり、また、ラミネート密着性不足に起因して手切れ性の発現が十分でなかったり、未だ十分に満足できる特性を有するものが得られていないのが現状である。
【0010】
すなわち、特許文献5等に記載された編布基材を用いたものは、極性を有するマルチフィラメントが多数並列し且つ独立鎖編みされた経糸の全幅にわたり、非極性のフラットヤーンが緯糸として挿入されて編布が形成されているが、その編み時に形成される経糸のループに緯糸を挿入するとき、非極性フラットヤーンの滑り性不足や摩擦(摩擦熱)によってヤーンが切れてしまったり(例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)の摩擦係数は5.0)、経糸が傷付いて基材そのものが切れてしまったりといった不具合が発生することがあった。また、場合によっては、緯糸に顕著に生じる摩擦帯電によっても、緯糸が切れてしまったり、垂れ(タレ)や抜け等の編機の不具合が発生したりするおそれもあり、加工性の観点から改善が望まれていた。
【0011】
この摩擦帯電は、旧来より、織布や編布生産時やその後工程の加工時に発生することが知られているが、その要因や作用機序の詳細については未だ十分に解明されていない。また、経験的に知られている摩擦帯電列が離れているほど摩擦帯電圧(例えば、日本工業規格JIS L 1094 5.2「織物及び編物の帯電圧試験方法」に準じて測定される帯電圧)が大きくなる等と言われているが、同種繊維や金属ロールと基材の摩擦においても、有意量の摩擦帯電が生じることもあり、理論的に十分な説明ができない事象が未だ多く存在しているのが現状である。
【0012】
さらに、この編布上に非極性のフラットヤーンと同一の非極性樹脂をラミネートする際、通常、密着性を向上させる目的で化学的及び/又は物理的なAC(アンカーコート)処理を施すことが多いが、化学的なAC処理の場合、編布の静電気帯電によってAC剤が部分的にはじかれたり(部分ハジキの発生)、また、コロナ(放電)処理のような物理的なAC処理の場合、繊維内部の空間における糸間距離が、電気的反発力によって必要以上に離間して保持されてしまったりすることがある。こうなると、ラミネート樹脂と基材との濡れ性が不均一及び不十分となり、その結果、両者の密着性が十分に高められず、良好な手切れ性が局所的に発現し難くなるという不都合があった。
【0013】
そこで、本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、薄層化及び軽量化を実現しつつ、緯方向及び経方向の両方の手切れ性、及び、加工性に優れた布粘着テープを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明者は鋭意研究を重ねた結果、布粘着テープの基材である織布又は編布を構成する経糸及び緯糸として、所定の組成を有するものを用いることにより、基材のみならず布粘着テープの特性を改善できることを見出し、本発明に到達した。
【0015】
すなわち、本発明による布粘着テープは、経糸と緯糸とを有する織布又は編布からなる基材、好ましくは、緯糸、又は、経糸と緯糸がフラットヤーンからなり、且つ、織布又は編布からなる基材、及び、その基材の片面側又は両面側に形成されており且つ樹脂がラミネート処理されてなるラミネート層を有するラミネート基布と、ラミネート基布の片面又は両面に形成されており、且つ、感圧性粘着剤が塗布されてなる粘着剤層とを備えており、基材を構成する経糸及び緯糸のうち少なくとも緯糸、好ましくは経糸及び緯糸の両方が、非極性樹脂に0.05〜3.0質量%(実質的に重量%と同義)の無機フィラーが含有されてなる樹脂組成物からなるものである。また、その基材の片面又は両面に化学的又は物理的に形成されたアンカー層を設けると好適である。
【0016】
本発明者が、かかる構成を有する布粘着テープの種々の物性について測定及び解析を行ったところ、基材を構成する経糸及び緯糸(少なくとも緯糸)として、ポリオレフィン樹脂等の非極性樹脂に上記の含有割合で無機フィラーを添加したものを用いた場合、その少なくとも緯糸に見かけ上の極性と滑り性が付与され、基材を形成するときに滑り性が向上されるとともに、帯電防止効果(摩擦帯電の抑止効果)が得られることが判明した。また、その基材上に樹脂をラミネート処理する際に、基材が呈する帯電防止効果により、基材とラミネート層との密着性が高められることが確認された。特に、例えば、上述の如く経糸が鎖編されて形成されたループに緯糸を挿入する構造の編布では、滑り性向上と帯電防止効果が顕著であることが確認された。これにより、手切れ性及び引き裂きの向上が図られ、また、経糸や緯糸としてフラットヤーンを用いる場合にも有意な効果が得られ、その結果、布粘着テープ用基材ひいては布粘着テープの更なる薄層化及び軽量化も実現される。
【0017】
また、基材は、経糸の繊度(Dwarp)が10〜1000デニールであり、且つ、縦糸の織り密度(Uwarp)が、緯糸の織り密度(Uweft)以上のものであると好ましい。なお、織り密度は、打ち込み本数(本/インチ)で表される。
【0018】
さらに、ラミネート層を構成する樹脂は、融点が65〜350℃のものであり、経糸及び緯糸のうち少なくとも緯糸は、融点が65〜250℃であり、且つ、メルトフローレート(MFR)が0.1〜20である樹脂で形成されたものであると好適である。
【0019】
またさらに、ラミネート層を構成する樹脂の容積が、基材における空間体積の好ましくは20%以上であり、より好ましくは50%以上であることが望ましい。
【0020】
さらにまた、ラミネート基布におけるラミネート層と基材との密着性が、3(N/インチ)以上であると更に好適である。
【0021】
また、感圧性粘着剤は、貯蔵弾性率(G’:ジープライム)が105〜107(dyn/cm2)であり、且つ、厚さが5〜200μmであり、当該布粘着テープの厚さが1.0mm以下であると有用である。
【0022】
さらに、基材は、経糸が鎖編みされた編布からなるものであると一層好ましい。
【0023】
より具体的には、緯糸は、幅が0.2〜2.0(mm)であり、且つ、厚さが0.01〜0.1(μm)であるフラットヤーンからなるものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、経糸と緯糸とを有する織布又は編布からなる基材にアンカー処理層を介して樹脂のラミネート層が形成されているので、薄層化及び軽量化を簡易に実現できる。また、基材を構成する経糸及び緯糸のうち少なくとも緯糸が、0.05〜3.0質量%の無機フィラーを含有するポリオレフィン系樹脂組成物からなることにより、その少なくも緯糸に、極性と滑り性が付与され、基材形成の際の滑り性と帯電防止効果が高められるので、経糸や緯糸の破損や切断を抑止して加工性を向上させつつ、基材とラミネート層との濡れ性が均一且つ十分に高められ、これにより、両者の密着性を十分に高めることができるので、経糸及び緯糸双方の手切れ性を向上させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。さらに、図面の寸法比率は、図示の比率に限定されるものではない。また、以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をその実施の形態のみに限定する趣旨ではない。さらに、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな変形が可能である。
【0026】
図1及び図2は、本発明による布粘着テープの好適な一実施形態に備わる布粘着テープ用基材を概略的に示す平面図である。図1に示す布粘着テープ用基材1(基材)は、並列された経糸12の全幅に渡って緯糸16が交互に織込まれた織組織を有する織布からなる。ここで、「織布」とは、所定の本数引き揃えた経糸を織機にかけ、摩擦に耐えられるように糊付けした緯糸をシャトル、空圧、水圧等で連続的に交差させて織り上げるものをいう。
【0027】
また、図2に示す、布粘着テープ用基材2(基材)は、並列された経糸12がたて編みされた独立鎖編み14の全幅に渡って緯糸16が挿入された編布からなる。ここで、「たて編み」とは、針に平行する状態の導糸針に整経された経糸を導き、これを編針に絡ませて編成運動を行なう編み方であり、針に対する糸の絡ませ方で、開き目、閉じ目ができ、一本の針に常に一本の糸を絡ませるとき、ループの連鎖がひも状に形成される。
【0028】
さらに、図3は、本発明による布粘着テープの好適な一実施形態の要部を概略的に示す断面図である。布粘着テープ100は、図1及び図2にそれぞれ示す布粘着テープ用基材1,2の両面にラミネート層20が形成されてなるラミネート基布22の片面に、感圧性粘着剤が塗布されてなる粘着剤層24が設けられたものである。なお、布粘着テープ用基材1,2とラミネート層20との接合性を高める観点より、布粘着テープ用基材1,2の片面又は両面にアンカー層を形成してもよく、このアンカー層は、例えば、コロナ処理等の物理的処理(機械的な処理も含む)、或いは、化学的処理によって形成することができる。
【0029】
織布からなる布粘着テープ用基材1、及び、編布からなる布粘着テープ用基材2では、経糸12及び緯糸16の材質は、非極性樹脂であれば特に制限されず、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂等のうち非極性のものが挙げられ、より具体的には、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート)、ポリアミド(6―ナイロン、66-ナイロン)、ビスコースレーヨン、アセテート、ポリビニルアルコール系合成樹脂(ビニロン)、ポリウレタン等が好適であり、布粘着テープ用基材1,2ひいては布粘着テープ100の厚さをより薄くできる観点から、ポリエステルが望ましい。
【0030】
また、糸の形態も特に制限されないが、好ましくは、経糸12が、フィラメントヤーン、スパンヤーン、バルキーヤーン、フラットヤーン等で形成され、緯糸16が、フラットヤーンで形成されている。
【0031】
ここで、フィラメントヤーン(Filament yarn)は、連続した長繊維を数本以上合わせたマルチフィラメント糸の形状で使用でき、多くの化学繊維がこれに相当し、また、異種フィラメントを合わせたハイブリッドマルチフィラメントを使用することもできる。
【0032】
また、スパンヤーン(span yarn)は、天然繊維や短くカットした化学繊維を束ね、撚りをかけて紡績した糸をいい、前述のレーヨンスフ糸、綿糸、CVC糸、TR糸等が一般的であり、切れ性に優れる糸である。
【0033】
さらに、バルキーヤーン(bulky yarn)は、本来まっすぐなフィラメント糸に、捲縮を施すことにより、バネの伸縮性と毛糸の嵩高性、保湿性、吸湿性を付与したものであり、テープ基材用糸としてフィラメント糸の切れにくさを改善するために用いる。
【0034】
またさらに、フラットヤーン(flat yarn)は、Tダイ又はインフレーション式製膜機で作製したフィルムを適当幅に切れ込んで(スリットして)テープ状にした後、延伸処理により所定方向に分子を配向させたものをいう。このフラットヤーンは、剛性が過度に小さいと、小さな力で捩れを起こしたり、僅かな張力の変化で断面積が変化したりして、緯糸切れの原因となり得る。また、滑り性が不足すると、織布や編布時に、原糸ボビンからの解除摩擦による寸法変化等の解除不良や、解除摩擦や経糸との摩擦による静電気発生を主因とする糸切れを引き起こし易い。
【0035】
ここで、経糸12としてフィラメントヤーンを用いると、スパンヤーン、バルキーヤーンに比して細い糸で同一強度を得易く、その結果、布粘着テープ用基材1,2(基布)をより薄くできる利点がある。一方、経糸12としてスパンヤーン又はバルキーヤーンを用いると、厚さの観点からは不利であるものの、フィラメントヤーンに比して繊維長が短いので、引き裂き性を向上でき、且つ、緯糸16との絡み効果を有するので、手切れ性をより向上させ易い利点がある。他方、経糸12としてフラットヤーンを使用すると、経方向の手切れ性を付与する観点からは、緯糸16との組み合わせに注意を要するものの、その断面が扁平な矩形状をなすので、打ち込み本数をより少なくでき、且つ、布粘着テープ用基材1,2をより薄くできる利点がある。
【0036】
また、緯糸16としてフラットヤーンを用いると、布粘着テープ用基材1,2を一層薄くすることができ、布粘着テープの引き裂きの直線性を維持し易く、さらに、後述するラミネート層との高い密着性等を確保し易くなる利点がある。
【0037】
ここで、手切れ性の良し悪しは、一般に、より小さい応力で切れることと、切り口の直線性つまり引き裂きの直線性によって判断することができる。
【0038】
小さい応力での切れ性を高めて手切れ性を向上させるには、経糸12のほぐれ易さを高め、低強度化によって緯糸16よりも経糸12の引張強度を低下させ、低伸度化により手切れ時のきっかけを作り易くするとともに、応力が印加されたときに経糸12と緯糸16がズレないように固定することが有効である。例えば、上述した各種の糸のなかでもスパンヤーンを用いると、経糸12のほぐれ易さをより高めることができ、また、フィラメントヤーンを低強度化するには、細くするか、化学的・物理的な処理により強度を低下させることが有用である。
【0039】
切り口の直線性を十分に確保するには、緯糸16の整列性を高めることが好ましく、これには、打ち込み本数を増大させることが有利であり、緯糸16としてフラットヤーンを用いれば、打ち込み本数を増やすのと同様の効果を奏することができる。
【0040】
また、一般に、緯方向の引き裂き直線性は比較的発現させ易い傾向にあるものの、織布において経糸12にフラットヤーンを用いた場合、その構造上、経方向の手切れ性が発現されないか、直線的に切り裂くことが困難な傾向にある。この要因のひとつは、先述の如く、経糸に比して緯糸の引張強度が極めて大きいことである。例えば、前述した特許文献5に記載された基材では、経糸にポリエステル繊維を使用する場合のその引張強度は40〜400gf(0.392〜3.92N)であり、緯糸のフラットヤーンの強度は800〜2300gf(7.84〜22.5N)と経糸に比して桁違いに大きい。
【0041】
これに対し、例えば編布からなる布粘着テープ用基材2では、経糸12として、引張強度が例えば40〜400gf(0.392〜3.92N)であるポリエステル繊維を用いた場合、緯糸16にフラットヤーンを用いるときの引張強度は、経糸12と同程度すなわち400gf(3.92N)又はそれより若干大きい程度とされる。これにより、従来に比して手切れ性に優れ、しかもより薄い布粘着テープを得ることができる。
【0042】
そのために、布粘着テープ用基材1,2における経糸12及び緯糸16のうち少なくとも緯糸16は、本来その化学構造から非極性であるポリエチレン樹脂等の非極性樹脂に、0.05〜3.0質量%の含有割合で無機フィラーが添加された樹脂組成物から形成されている。無機質フィラーとしては、特に制限はなく、炭酸カルシウム、硫酸マグネシウム、酸化アルミニウム等から、適宜選択して使用することができる。
【0043】
このように布粘着テープ用基材1,2を構成する経糸12及び緯糸16(少なくとも緯糸16)としてポリオレフィン樹脂等の非極性樹脂に上記の含有割合で無機フィラーを添加したものを用いた場合、経糸12及び緯糸16(少なくとも緯糸16)に見かけ上の極性と滑り性が付与され、基材を形成するときに滑り性が向上されるとともに、帯電防止効果(摩擦帯電の抑止効果)が発現される。
【0044】
かかる作用効果が奏される作用機序の理論的な詳細は未だ解明されてはいないが、無機質フィラーの表面突起効果と表面改質効果によって吸着水が増加し、これにより滑り性と帯電防止効果が発現されるものと推定される。ただし、かかるメカニズムに限定されない。
【0045】
また、無機フィラーの添加量が0.05〜3.0質量%であれば、経糸12及び緯糸16(少なくとも緯糸16)の伸びが抑制され、スティフネス(フィルムのこわさを表し、JIS P 8125 荷重曲げ法による板紙のこわさ試験方法に準拠して測定することができる。)が増加するため、糸形成時の糸切れの発生を十分に防止でき、さらに、布粘着テープ用基材1,2の織布や編布を形成するときの糸切れを抑止し、且つ、寸法安定性を向上させることができるとともに、布粘着テープ用基材1,2にラミネート層20を積層する際に基材のカール(巻き)を抑制できる。
【0046】
この無機フィラーの添加量が0.05質量%未満の場合、経糸12及び緯糸16(少なくとも緯糸16)の表面積の増加が不十分となり、その結果、糸の滑り性が不足してしまうことにより、その摩擦抵抗が、無機フィラー未添加の非極性樹脂からなる糸と大差なく、有意な帯電防止効果を得ることができない。一方、無機フィラーの添加量が3.0質量%を超えると、経糸12及び緯糸16(少なくとも緯糸16)そのものの剛性が向上されるものの、透明性が著しく低下したり、糸表面から無機フィラーの一部が剥落したりする等、糸製造環境や基布製造環境を汚染する不具合を引き起こし、また、ラミネート時の密着強度が著しく低下してしまうことにより、実用的な製品を得難くなる。
【0047】
さらに、ラミネート層20としては、特に制限されないが、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリブチレン樹脂、それらの共重合体等のポリオレフィン樹脂を好ましく使用でき、これらのなかでは、コスト及びフィルム形成の観点からポリエチレン樹脂が特に好ましい。
【0048】
ここで、ラミネート層として、例えばポリエチレン等のポリオレフィン樹脂を布粘着テープ用基材にラミネートする場合、無機フィラーが添加されていない一般的なポリエチレンからなる糸を使用した布粘着テープ用基材では、化学的なアンカー処理やコロナ処理等の物理的なアンカー処理が必要な傾向にあるが、このとき、布粘着テープ用基材同士の摩擦やガイドロール等との摩擦による基材の静電気帯電による部分ハジキ(局所的なハジキ)が発生したり、繊維内部の空間が電気的反発力によって必要以上に保持されたりして、ラミネート樹脂と経糸及び緯糸との濡れ性が不均一又は不十分となってしまい、その結果、布粘着テープ用基材とラミネート層との密着性が不十分となり、そのため、良好な手切れ性が部分的に発現しなくなるといった不都合が生じる傾向にある。
【0049】
これに対し、ラミネート層20として、例えばポリエチレン等のポリオレフィン樹脂を布粘着テープ用基材1,2にラミネートする場合には、良好な滑り性と高い帯電防止効果により、安定した手切れ性を有する布粘着テープ100を得ることが可能である。しかも、経糸12及び緯糸16(少なくとも緯糸16)が無機フィラーを含有することにより、見かけ上の融点が上昇し耐熱温度を高めることができるので、布粘着テープ用基材1,2にラミネート層20をラミネートするときにより高い温度で加熱でき、これにより、ラミネート層20濡れ性が向上され、両者の密着性を更に向上させることができる。その結果、布粘着テープ100の手切れ性を更に改善することが可能となる。
【0050】
また、布粘着テープ用基材2によれば、経糸12が鎖編みされているので、経糸12と緯糸16との交差部位間で経方向の糸伸びを制限することができ、これにより、布粘着テープ100の手切れ性をより一層向上させることができる。
【0051】
また、布粘着テープ用基材1,2では、経糸12の繊度(Dwarp)が10〜1000デニールとされ、且つ、経糸12の織り密度(Uwarp)が、緯糸16の織り密度(Uweft)以上、すなわち、下記式(1);
Uweft≦Uwarp …(1)、
で表される関係を満たす範囲の値であると好ましい。なお、織り密度は、打ち込み本数(本/インチ)で表される。
【0052】
この経糸12の繊度(Dwarp)が10デニール未満であると、経方向の強度が過度に低くなってしまい、場合によっては、弱い衝撃によって布粘着テープが切れてしまうことがある。一方、この経糸12の繊度(Dwarp)が1000デニールを超過すると、逆に、経方向の強度が過度に大きくなってしまい、手で切断し難くなるおそれがある。また、経糸12の織り密度(Uwarp)が、緯糸16の織り密度(Uweft)未満となると、緯方向へ手で引き裂く際に経糸12のずれが過大となってしまい、その結果、応力が集中し難くなり、切断面に毛羽立ちが顕著に目立つようになってしまう。
【0053】
さらに、ラミネート層20を構成する樹脂の融点が65〜350℃であり、経糸12及び緯糸16のうち少なくとも緯糸16の融点が65〜250℃であり、且つ、メルトフローレートが0.1〜20である樹脂で形成されたものであると好適である。ラミネート層20の樹脂の融点が65℃未満の場合、基布への流れ込み量は十分となるものの、加工温度が低くなるため、基布を熱劣化させることが困難となり、手切れ性が不都合な程度に低下してしまう傾向にある。一方、ラミネート層20の樹脂の融点が350℃を超える場合、加工温度が過度に高くなるため、基布の熱劣化が過剰となってしまい、こうなると手切れ時の適度な直進性を発現させることが困難な傾向にある。
【0054】
また、緯糸12の融点が65℃未満の場合、熱劣化による強度低下を引き起こし易くなる傾向にある。一方、緯糸12の融点が250℃を超える場合には、逆に熱劣化が生じ難く、十分な手切れ性を発現させ難くなる傾向にある。
【0055】
さらに、緯糸16を形成する樹脂のMFRが0.1未満の場合、緯糸16がフラットヤーンのときにその作製時の吐出量が過少となってしまい、生産性及び経済性を十分に高め難い傾向にある。一方、緯糸16を形成する樹脂のMFRが20を超えると、場合によっては成膜性が極度に悪化し、加工性を著しく損ねてしまう傾向にある。
【0056】
またさらに、ラミネート層20を構成する樹脂の容積が、布粘着テープ用基材1,2における空間体積の20%以上であると有用である。この割合が20%未満であると、ラミネート層20による基布の固定が十分に行なわれないことがあり、その結果、ラミネート層の剥がれや手切れ性の低下といった不都合を生じ易い傾向にある。
【0057】
さらにまた、ラミネート基布22におけるラミネート層20と布粘着テープ用基材1,2との密着性が、3(N/インチ)以上であるとより好ましい。この密着性が3(N/インチ)未満であると、被着体に貼付した布粘着テープ100を剥がす際、ラミネート層20と布粘着テープ用基材1,2との間で剥がれが発生してしまい、被着体の貼り付け面を汚してしまうという不具合が生じ易い傾向にある。
【0058】
加えて、粘着剤層24を形成する感圧性粘着剤の貯蔵弾性率G’が105〜107(dyn/cm2)であり、且つ、厚さが5〜200μmであり、布粘着テープ100の厚さが1.0mm以下であると更に好適である。この貯蔵弾性率G’が105(dyn/cm2)未満であると、粘着剤層24の流動性が過度に高くなる一方で、この貯蔵弾性率が107を超えると、初期タックが発現し難くなり、場合によっては、粘着テープ用途として不適となってしまう傾向にある。また、布粘着テープ100の厚さが1.0mmを超えると、ロール状テープとしたときに過度に重くなってしまい、作業性が悪化する傾向にある。
【0059】
さらに、緯糸16の幅が0.2〜2.0(mm)であり、且つ、厚さが0.01〜0.1(mm)であるフラットヤーンからなるものであると特に好ましい。この、緯糸16の幅が0.2mm未満では、緯糸16の強度が過弱となってしまい易く、手切れ時の緯方向直進性が得難くなる傾向にある。一方、その幅が2.0mmを超えると、フラットヤーンの折れが発生し易くなるといった不都合がある。また、緯糸16の厚さが0.01mm未満の場合も、強度が過度に低くなってしまい易く、加工中に切れが発生し易くなる傾向にある。他方、その厚さが0.1mmを超えると、テープ剛性が過大となってしまい、テープ使用時の被着体への追従性が不都合な程度に悪化してしまう傾向にある。
【0060】
図4及び図5は、それぞれ、本発明による布粘着テープの好適な他の実施形態の要部を概略的に示す断面図である。図4に示す布粘着テープ200は、図1及び図2にそれぞれ示す布粘着テープ用基材1,2の片面にラミネート層20が形成されてなるラミネート基布26の片面に、粘着剤層24が設けられたものである。また、図5に示す布粘着テープ300は、図3に示す布粘着テープ100のラミネート基布22の両面に、粘着剤層24,24が設けられたものである。このように構成された布粘着テープ200,300においても、布粘着テープ100と同様の作用効果が奏される。
【実施例】
【0061】
以下、本発明に係る具体的な実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0062】
〈実施例1〜3及び比較例1〜5〉
経糸及び緯糸として、表1〜表3に示す各種の糸及び基材構成を用い、図3に示す布粘着テープ100と同様の構成を有する布粘着テープを作製した。また、その両面にポリエチレンフィルムを0.1mm厚さで押出し加工してラミネートテープを形成した。
【0063】
〈評価〉
実施例1〜3及び比較例1〜5のラミネートテープについて、厚さ、手切れ性、加工性、密着性、動摩擦係数、動摩擦帯電圧、引き裂き強さ、引張強度、伸びを以下の方法により測定評価した。
【0064】
(厚さ)
ポリエチレンフィルム有りのもの/無しのものについて、サンプル片の厚さをダイヤルシックネスゲージ(PEAKOCK社製:MODEL H−1A)を用いて測定した。
【0065】
(手切れ性)
経方向及び緯方向において、実施例1〜3及び比較例1〜5で得たラミネートテープにつき、各10枚の試験片を手で切断し、その際の初期抵抗、切断面のきれいさ、直進性を観察し、手切れ性良否の判断を行なった。
【0066】
(加工性)
製造時の糸切れの有無、糸の引っ掛かりの有無、糸のヨレやタレの有無に基づいて、加工性の良否を判定した。
【0067】
(密着性)
各ラミネートフィルムを布粘着テープに加工し、JIS Z0237に準拠して粘着力の測定を実施した。なお、密着性の測定値は、ラミネート層の剥がれがある場合には、その粘着力以下とし、ラミネート層の剥がれがない場合には、その粘着力以上とした。
【0068】
(動摩擦係数)
緯糸の試験片5つについて、大栄科学社製の糸動摩擦係数測定器(型式:μkタイプ)を用いて動摩擦係数を測定し、その平均値を算出した。このとき、ドラム(材質:ナイロン)回転数を30rpm、バランス分銅を10gとした。
【0069】
(動摩擦帯電圧)
JIS L1094の5.2摩擦帯電圧測定法に準拠し、経方向及び緯方向における摩擦帯電圧を測定した。
【0070】
(引き裂き強度)
JIS P8116の紙及び板紙の引裂き強さに準拠し、東洋精機社製のELEMENDORF TEARING TESTERを用いて、経方向及び緯方向における引き裂き強度を測定した。
【0071】
(引張強度)
JIS L 1096Aに準拠し、経方向及び緯方向における引張強度を測定した。
【0072】
(伸び)
上記引張強度測定時の破断時の伸びを、東洋精機社製のSTOROGRSPH V1−Cを用いて測定し、その値を経方向及び緯方向における伸度とした。
【0073】
以上のようにして実施例1〜3及び比較例1〜5のラミネートテープについて測定評価した結果を表1〜表3にまとめて示す。
【0074】
【表1】

【0075】
【表2】

【0076】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0077】
以上説明したとおり、本発明による布粘着テープは、薄層化及び軽量化を実現しつつ、緯方向及び経方向の両方の手切れ性、及び、加工性に優れるので、業務用及び日常用を問わず、荷造り・梱包作業、塗装時や引越し等の作業時に壁や床等を保護する養生用途、応急固着や仮止め用途等の各種用途、及び、これらの作業が必要な種々の分野において、広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明による布粘着テープの好適な一実施形態に備わる布粘着テープ用基材を概略的に示す平面図である。
【図2】本発明による布粘着テープの好適な一実施形態に備わる布粘着テープ用基材を概略的に示す平面図である。
【図3】本発明による布粘着テープの好適な一実施形態の要部を概略的に示す断面図である。
【図4】本発明による布粘着テープの好適な他の実施形態の要部を概略的に示す断面図である。
【図5】本発明による布粘着テープの好適な他の実施形態の要部を概略的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0079】
1,2…布粘着テープ用基材(基材)、12…経糸、14…独立鎖編み、16…緯糸、20…ラミネート層、22,26…ラミネート基布、24…粘着剤層、100,200,300…布粘着テープ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
経糸と緯糸とを有する織布又は編布からなる基材、及び、該基材の片面側又は両面側に形成されており且つ樹脂がラミネート処理されてなるラミネート層、を有するラミネート基布と、
前記ラミネート基布の片面又は両面に形成されており、且つ、感圧性粘着剤が塗布されてなる粘着剤層と、
を備えており、
前記経糸及び前記緯糸のうち少なくとも緯糸は、非極性樹脂に0.05〜3.0質量%の無機フィラーが含有されてなる樹脂組成物からなる、
布粘着テープ。
【請求項2】
前記基材は、前記経糸の繊度(Dwarp)が10〜1000デニールであり、且つ、前記経糸の織り密度(Uwarp)が前記緯糸の織り密度(Uweft)以上のものである、
請求項1記載の布粘着テープ。
【請求項3】
前記ラミネート層を構成する樹脂は、融点が65〜350℃のものであり、
前記経糸及び前記緯糸のうち少なくとも前記緯糸は、融点が65〜250℃であり、且つ、メルトフローレートが0.1〜20である樹脂で形成されたものである、
請求項1又は2項記載の布粘着テープ。
【請求項4】
前記ラミネート層を構成する樹脂の容積が、前記基材における空間体積の20%以上である、
請求項1〜3のいずれか1項記載の布粘着テープ。
【請求項5】
前記ラミネート基布における前記ラミネート層と前記基材との密着性が、3(N/インチ)以上である、
請求項1〜4のいずれか1項記載の布粘着テープ。
【請求項6】
前記感圧性粘着剤は、貯蔵弾性率が105〜107(dyn/cm2)であり、且つ、厚さが5〜200μmであり、
当該布粘着テープの厚さが1.0mm以下である、
請求項1〜5のいずれか1項記載の布粘着テープ。
【請求項7】
前記基材は、前記経糸が鎖編みされた編布からなる、
請求項1〜6記載のいずれか1項記載の布粘着テープ。
【請求項8】
前記緯糸は、幅が0.2〜2.0(mm)であり、且つ、厚さが0.01〜0.1(mm)であるフラットヤーンからなるものである、
請求項1〜7のいずれか1項記載の布粘着テープ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−138031(P2009−138031A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−312704(P2007−312704)
【出願日】平成19年12月3日(2007.12.3)
【出願人】(000145079)株式会社寺岡製作所 (23)
【Fターム(参考)】