説明

布線装置とこれを用いた高密度マルチワイヤ配線板の製造方法

【課題】 ワイヤ交差部のみでワイヤ送り出し量を増加させることが可能な布線装置と、これを用いたワイヤ断線、大きなワイヤ変形等の不具合のない高密度配線が可能なマルチワイヤ配線板の製造方法を提供する。
【解決手段】 従来の布線装置に、スタイラス高さを検出する高さ検出部、および絶縁被覆ワイヤの送り出し量を制御する制御部を備え、前記高さ検出部が前記スタイラス高さの高さ変位によりワイヤ交差部を検出した場合、前記制御部の信号によりワイヤ送り出し量がワイヤ交差部の無い場合に対して1.1倍から1.5倍の範囲で増加することを特徴とする布線装置を提供することで課題を解決した。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、布線装置とこれを用いた高密度マルチワイヤ配線板の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、電子機器の小型、軽量、高速化の要求が高まり、マルチワイヤを含むプリント配線板の高密度化が進んでいる。マルチワイヤ配線板は、接着剤付絶縁基板上に絶縁被覆ワイヤをはわせてゆくと同時に接着していき、配線パターンを形成することによって製造される。このようなマルチワイヤ配線板の製造には、超音波発振器、スリップリング、発振コイル、トルクモータ、スタイラス、フィーダ等で構成されるヘッド部と、X軸移動テーブルと、回転機構、上下移動機構、ヘッド取付部を備えたY軸移動機構等とからなる布線装置が用いられる。
【0003】絶縁被覆ワイヤを布線する一般的な方法としては、まず、スタイラスを上から押圧して絶縁被覆ワイヤの端部を接着剤付絶縁基板に固定する。この状態で、スタイラスに超音波振動を加えることで接着剤を加熱、活性化させ、絶縁被覆ワイヤを絶縁基板に接着する。このようにしてスタイラスを加圧、振動させながら布線する方向に移動させることにより継続して絶縁被覆ワイヤの布線を行う。
【0004】そして、図4に示すように新規絶縁被覆ワイヤが既接着ワイヤと交差するワイヤ交差部に達すると、交差部前半ではスタイラスが既接着ワイヤに押し上げられながら絶縁被覆ワイヤを接着し、交差部後半ではスタイラスが下降しながら絶縁被覆ワイヤの接着を行う。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】上記のように布線を行うとき、絶縁被覆ワイヤには超音波振動やスタイラス加圧力による下向きの力と布線速度による横向きの力がかかり、その合成として進行斜め方向に力が加わっている。さらに、従来の布線装置は、ワイヤ交差部においてワイヤ送り出し量を変える機能がないため、図6に示すようにワイヤ交差の無い場合、2重、3重等の多重交差の場合においてもワイヤ送り出し量を一定に保って布線を行っている。
【0006】この結果、ワイヤ交差部において、既接着ワイヤは新規絶縁被覆ワイヤに押しつぶされて変形もしくは断線を起こし、新規絶縁被覆ワイヤも、特にワイヤ交差部後半で、伸ばされて変形もしくは図5に示すような断線を起こす。従って、従来の布線装置では、多重交差数の飛躍的な増加、すなわちマルチワイヤ配線板のさらなる高密度化には対応できない。
【0007】上記を鑑みて、本発明は、ワイヤ交差部のみでワイヤ送り出し量を増加させることが可能な布線装置と、これを用いたワイヤ断線、大きなワイヤ変形等の不具合のない高密度配線が可能なマルチワイヤ配線板の製造方法を提供する。
【0008】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために本発明の布線装置は、従来のマルチワイヤ配線板の製造に用いる布線装置に、スタイラス高さを検出する高さ検出部、および絶縁被覆ワイヤの送り出し量を制御する制御部を備え、前記高さ検出部が前記スタイラス高さの高さ変位によりワイヤ交差部を検出した場合、前記制御部の信号によりワイヤ送り出し量がワイヤ交差部の無い場合に対して1.1倍から1.5倍の範囲で増加することを特徴とする。
【0009】ここでワイヤ送り出し量とは、ワイヤフィード量/テーブル移動量×100で表される量を示す。
【0010】また、上記の布線装置を用いてマルチワイヤ配線板を製造することで、ワイヤ交差部におけるワイヤ送り出し量不足によるワイヤ配線の不具合を解消することができる。
【0011】以下に本発明の実施の形態について詳しく説明する。
【0012】
【発明の実施の形態】本発明に係る布線装置は、図1に示すように、発振コイル106に直流電流を流すことにより超音波を発する超音波発振器113、超音波発振器113より発信される超音波を受けて振動し、かつトルクモータ102により加圧力が加えられるスタイラス101、スタイラス101の先端部に取り付けられ、絶縁被覆ワイヤ114を接着剤付絶縁基板上に固定するスタイラスチップ104、絶縁被覆ワイヤ114をスタイラスチップ104へ供給するフィーダ103、布線が終わった後に絶縁被覆ワイヤ114を切断するためのカッタ105、マグネット116、およびスリップリング107を有するヘッド部と、接着剤付絶縁基板を取り付け、固定するためにヘッド部の下部に設置され、布線を行う際には布線する方向と反対に平行移動するX軸移動テーブル112と、ヘッド部の回転、上下移動を行うための回転機構109、上下移動機構110、およびヘッド取付部108を備えたY軸移動機構111と、から少なくとも構成される布線装置に、スタイラスの高さを常に検出する高さ検出部115を備えている。ここで使用される高さ検出部115は、接触式、非接触式高さ検出器等、特に限定されないが非接触式ホールセンサであることが好ましい。そして、この高さ検出部115、フィーダ103、X軸移動テーブル112およびX軸移動テーブル速度検出器118は、図3に示すようなワイヤ送り出し量を制御するためのフィード量指令回路を含む制御部117に接続されている。(図1でフィーダ103との接続は図示されていない。)
【0013】上記のように構成される本発明の布線装置を用いたマルチワイヤ配線板の製造方法としては、まず、絶縁被覆ワイヤを布線、固着するための接着剤層を絶縁樹脂基板に形成する。ここで用いる絶縁樹脂基板にはあらかじめエッチング等の方法で内層回路が設けられている多層板でもよい。また、接着剤層を形成する方法としては接着剤をスプレーコーティング、ロールコーティング、ディップコーティング等のように直接塗布、乾燥しても、フィルム状の接着材をホットロールラミネートしてもよく、特に限定されない。
【0014】その後、絶縁被覆ワイヤを布線、固着する。本発明で用いられる絶縁被覆ワイヤは、銅などの導体金属線を熱硬化樹脂等で所望の厚さに被覆し、さらにこの上から接着剤で被覆することで得られるが、一般的に使用されているものであれば特に限定されない。布線は、前述したように、スタイラス101およびスタイラスチップ104を超音波発信器113およびトルクモータ102により振動、加圧させながら行われる。ワイヤ交差部の無い場合は、図7に示されるような従来の制御回路により、テーブル速度信号をデジタル信号に変換し、パルス幅変調信号によって速度に比例したワイヤ送り出し量を指示し、絶縁被覆ワイヤの配線を行う。
【0015】一方、ワイヤ交差部においては、絶縁被覆ワイヤ及びスタイラス101が既接着ワイヤにより押し上げられ、スタイラス101に取り付けた高さ検出部115がその時のスタイラス高さ信号を検出し、この信号が制御部117に入る。図3に示す制御部117内では、フィード量指令回路の微分回路等を経由し、ワイヤ交差後半の信号を取り出す。そして、その信号電圧がしきい値回路において設定されたしきい値を超えていると切替え信号が発信され、切替えスイッチがワイヤ交差部の無い場合の制御回路から増幅回路を経由する制御回路に切替わる。そしてこれが制御部117からの信号としてフィーダ103に発信され、ワイヤ送り出し量が1.1倍から1.5倍の範囲で増加する。従って、交差部のワイヤにかかる力は緩和されることになり、断線、変形といった不具合が生じることなく布線、固着を継続して行うことができる。
【0016】布線が終了した後は、絶縁被覆ワイヤを保護するための保護層を形成し、マルチワイヤ配線板を完成させる。この保護層には、熱硬化樹脂、光硬化樹脂等が用いられるが、特に限定されない。
【0017】以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明する。
【0018】
【実施例】実施例1本発明の布線装置を用いて、ワイヤ送り出し量と多重交差部における絶縁被覆ワイヤの接着性の関係を調べた。ワイヤ送り出し量は80%から170%の範囲で10%刻みの値で評価した。結果を表1に示す。
【0019】
【表1】


【0020】表1からは、2重、3重交差ではワイヤ送り出し量を初期設定に対して110〜150%とするのが好ましく、ワイヤ送り出し量を150%以上にすると2重、3重交差でワイヤ溶着不足が発生し、好ましくないことがわかる。
【0021】実施例2次に本発明の布線装置を用いて、マルチワイヤ配線板を作成した。
【0022】接着剤付絶縁基板として、厚さ0.3mmのI−671(日立化成工業株式会社製、商品名)に、接着材である厚さ80μmのAS−U01(日立化成工業株式会社製、商品名)を120℃の温度でロールラミネートして貼付したものを用いた。また、絶縁被覆ワイヤは、直径80μmの銅線にポリイミド樹脂であるPyre−ML−RC5057(デュポン社製、商品名)を塗布し、350℃で8分間乾燥することを繰り返し、23μmの厚さになるまで塗布し、その表面に接着剤であるHAW−216D(日立化成工業株式会社製、商品名)を塗布し、200℃で1分間乾燥することを繰り返し、15μmの厚さにしたものを用いた。
【0023】これらの接着剤付絶縁性基板と絶縁被覆ワイヤを本発明の布線装置にセットし、交差部におけるワイヤ送り出し量を初期設定の110%とし、交差部を過ぎるとワイヤ送り出し量が初期設定に戻るシーケンスでマルチワイヤ配線板を作成した。このときの接着シーケンスを図2に示す。
【0024】上記実施例2で作成したマルチワイヤ配線板にワイヤの断線、変形等の不具合は見られなかった。
【0025】本発明は上記に実施の形態を示したが、この記載が本発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者にはここでは記載していない様々な代替実施の形態、実施例、運用技術が明らかとなろう。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【0026】
【発明の効果】以上より、本発明の布線装置を用いてマルチワイヤ配線板を製造することで、ワイヤ交差部の接着において、既接着ワイヤ及び新規絶縁被覆ワイヤの変形又は断線のない高密度マルチワイヤ配線板を提供することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明のマルチワイヤ配線板の布線装置の一形態を示す側面図である。
【図2】 本発明の実施例に用いた布線装置のシーケンスである。
【図3】 本発明の布線装置のワイヤ送り出し制御ブロックダイアグラムの一例である。
【図4】 ワイヤの2重、3重交差部を示す一部拡大立体図である。
【図5】 ワイヤ交差部におけるワイヤ断線示す一部拡大立体図である。
【図6】 従来の布線装置のシーケンスである。
【図7】 従来の布線装置のワイヤ送り出し制御ブロックダイアグラムである。
【符号の説明】
1.既接着ワイヤ 2.新規既絶縁被覆ワイヤ
3.始点 4.コーナ部
5.ワイヤ断線 6.ワイヤ交差部
101.スタイラス 102.トルクモータ
103.フィーダ 104.スタイラスチップ
105.カッタ 106.発振コイル
107.スリップリング 108.ヘッド取付部
109.回転機構 110.上下移動機構
111.Y軸移動機構 112.X軸移動テーブル
113.超音波発振器 114.絶縁被覆ワイヤ
115.高さ検出部 116.マグネット
117.制御部 118.X軸移動テーブル速度検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】 接着剤付絶縁基板上に絶縁被覆ワイヤを布線、固着して配線パターンを形成するマルチワイヤ配線板の製造に用いる布線装置であって、スタイラス高さを検出する高さ検出部、および絶縁被覆ワイヤの送り出し量を制御する制御部を備え、前記高さ検出部が前記スタイラス高さの高さ変位によりワイヤ交差部を検出した場合、前記制御部からの信号によりワイヤ送り出し量がワイヤ交差部の無い場合に対して1.1倍から1.5倍の範囲で増加することを特徴とする布線装置。
【請求項2】 前記高さ検出部がホールセンサであることを特徴とする請求項1記載の布線装置。
【請求項3】 請求項1記載の布線装置を用いて布線することを特徴とするマルチワイヤ配線板の製造方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図1】
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【図5】
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【図6】
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