説明

希ガス−ハロゲン・エキシマランプ

【課題】透光性セラミックスからなる発光管の両端に金属製キャップが設けられ、発光管内に希ガスとハロゲンとが封入された希ガス−ハロゲン・エキシマランプにおいて、発光管内のハロゲンの減少速度を抑制し、長時間ランプを点灯しても、光出力の低下が少なく、しかも、発光管内のハロゲンの減少に伴い発光管内面とキャップとの間で放電が発生しても、発光管が破損することがない構造を提供することにある。
【解決手段】発光管両端の金属キャップをニッケルまたはニッケルを主成分とする合金により構成し、発光管の外側に向かって略球状の膨出形状としたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は希ガス−ハロゲン・エキシマランプに関し、特に、放電容器が透光性セラミックスからなり、その両端に封止用の金属キャップが設けられている希ガス−ハロゲン・エキシマランプに係わる。
【背景技術】
【0002】
従来から、誘電体材料よりなる発光管の外周面に電極を設けるとともに、その内部に希ガスとハロゲンを封入し、該発光管内に発生させた誘電体バリア放電によって前記放電ガスのエキシマ分子を生成して、該エキシマ分子からエキシマ光を放射させる希ガス−ハロゲン・エキシマランプが知られている。
このようなランプは、例えば、光化学反応用の紫外線光源として利用されている。
【0003】
上記のような希ガス−ハロゲン・エキシマランプは、放電ガスを選択することによって所望の波長のエキシマ光を得るものであり、そのために希ガス(アルゴン、クリプトン、キセノン等)とハロゲン(フッ素、塩素、臭素、沃素等)を適宜に組み合わせて選択する。
以下の表に、希ガスとハロゲンの組み合わせに応じた放射波長を示す。

【0004】
これらの紫外光は、露光、表面改質、殺菌等の種々の用途に利用されている。特に、193nm、248nmの紫外線放射が得られるアルゴン−フッ素、クリプトン−フッ素の希ガス−ハロゲン・エキシマランプは、レジストの特性試験、周辺露光、マスク検査等の幅広い用途に利用されている。
【0005】
ところで、放電容器が石英ガラスからなるランプでは、放電ガスのハロゲンとしてフッ素を用いた場合に、石英ガラス中にフッ素が取り込まれてしまい、放電空間内に本来必要とされるフッ素量が減少し、希ガスとフッ素のエキシマ分子の生成量が減少してしまい、エキシマランプから放射される光出力が低下するという問題があった。
【0006】
上記において、フッ素が石英ガラスに取り込まれていくメカニズムは必ずしも明確ではないが、以下のように考えられている。
放電容器を構成する石英ガラスは、エキシマ分子から放射される多量の紫外線の照射を受け、表面の(=Si−O−Si=)の結合の一部が切断され、=Si・(・は不対電子、=は酸素との結合を表す)などの欠陥が生じ、これとフッ素が反応して、石英ガラス中にフッ素が取り込まれていくものと考えられている。
その結果、放電空間中のフッ素量が減少し、フッ素と希ガスのエキシマ分子の生成量が減少して光出力が減少するものである。
【0007】
このような問題を解決するために、特開2009−59606号に示されているように、発光管材料として、石英ガラス以外のフッ素と反応し難い材料、例えば、透光性セラミックスであるサファイアを用いた希ガス−ハロゲン・エキシマランプが知られている。
【0008】
図6に、この透光性セラミックスを用いた従来の希ガス−ハロゲン・エキシマランプが示されている。
同図において、(A)は発光管の管軸方向に沿った断面図であり、(B)は発光管の管軸方向に対して垂直方向の断面図、即ち、(A)におけるA−A断面図である。
【0009】
希ガス−ハロゲン・エキシマランプ1の発光管2は、短波長紫外光を透過し、かつフッ素との反応が少ない材料として、透光性セラミックスのサファイアからなるものである。
前記発光管2の長手方向における両端は開放されており、その両端には封止用の平坦状の金属キャップ31、32が取り付けられる。該キャップ31、32は、例えば鉄(Fe)にニッケル(Ni)及びコバルト(Co)を配合した合金のいわゆるコバールにより形成される。このコバールは、発光管材料であるサファイアと熱膨張係数が近いことから採用される。
【0010】
前記発光管2と金属キャップ31、32とは、例えば、銀と銅との合金(Ag−Cu合金)であるロウ材からなる封止材41、42により密閉状に封止される。
【0011】
一方のキャップ31には排気管5が設けられており、該排気管5を介して発光管2の内部の放電空間21が排気・減圧された後に、希ガスとハロゲンが封入される。これらの発光物質が封入された後、排気管5は圧接などで封止部51が形成されることにより、発光管2は密閉構造となる。
発光管2内の放電空間21に封入される発光物質としては、前記した、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)又はキセノン(Xe)からなる希ガスと、六フッ化硫黄(SF)、四フッ化炭素(CF)又は三フッ化窒素(NF)からなるフッ化物などが挙げられる。
【0012】
また、発光管2の外周面には、図6(B)に示すように、一対の外部電極61、62が互いに電気的に離れるように対向配置され、該電極61、62は図6(A)に示すように、発光管2の管軸方向に沿って延びるように設けられている。
この外部電極61、62は、例えば銅をペースト状にしたものを発光管2の外周面に塗布し、乾燥させて形成することができる。
【0013】
ランプ点灯時には、一対の外部電極61、62間に電圧が印加されることにより、発光管2を介して該外部電極61、62間に放電が発生する。
発光管2内に、アルゴン(Ar)と六フッ化硫黄(SF)が封入されている場合、これらが電離されて、アルゴンイオンやフッ素イオンを形成し、アルゴン−フッ素からなるエキシマ分子が形成され、193nmの波長近傍の光が発光され、発光管2から放射される。
【0014】
ところで、このようなランプにおいて金属キャップ31、32を用いるのは、発光管2材料がサファイアであり、このサファイアは、加熱しても圧潰封止することができないため、石英ガラスのように、発光管2自身で封止することができず、封止用の金属キャップ31、32を用いて発光管2を封止するものである。
そして、該キャップ31、32は、発光管2材料であるセラミックス(サファイア)と熱膨張係数の近いコバールによって形成することにより、ランプ点灯中に、発光管2が破損することがないようにしたものである。
【0015】
下記の表は、サファイアとコバールの熱膨張係数の関係を整理したものである。

【0016】
しかしながら、上記の構成を有する希ガス−ハロゲン・エキシマランプでは、発光管2内に封入されたハロゲンのうち、特に、フッ素(F)は非常に強い酸化力を有するものであるために、発光管2内のフッ素がコバールのキャップ31、32と反応してしまい、発光管2内のフッ素が減少するという不具合があった。
コバールは、主成分が鉄であり、この鉄とフッ素が反応するからである。
【0017】
かかる不具合に対して、金属キャップ31、32の材料をニッケルあるいはニッケルを主成分とする合金にすることにより前記ハロゲンとの反応を低く抑えようとする試みがある。
ニッケルは、コバールに比べハロゲンとの反応性が低く、発光管2内のハロゲンの減少速度を抑制し、長時間ランプを点灯しても、光出力の低下が少なく、長寿命のランプを期待できるというものである。
【0018】
しかしながら、一方では、ニッケルの熱膨張係数は発光管材料であるサファイアと大きく異なるものである。
下記の表は、サファイアとニッケルの熱膨張係数の関係を整理したものである。

【0019】
上記のように、キャップ31、32をニッケルあるいはニッケル合金から構成すると、ハロゲンとの反応性が低く、発光管2内のハロゲンの減少速度を相当程度抑制することができるものである。
しかしながら、ハロゲンの減少を完全に抑えることはできず、点灯時間の経過とともに発光管2内のハロゲンはやはり漸次減少していく。
そして、ハロゲンの減少とともに、今度は、外部電極61、62と対向している発光管2の内面とキャップ31、32との間で異常放電が発生し易くなる。この放電が起るとニッケル製のキャップ31、32がサファイア製の発光管2に比べて高温になって両者の温度差が大きくなり、サファイアとニッケルの熱膨張係数の違いが大きいため、発光管2が裂けるように破壊されるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特開2009−59606号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、発光管内のハロゲンの減少速度を抑制し、長時間ランプを点灯しても、光出力の低下が少なく、しかも、発光管内のハロゲンの減少に伴い発光管内面とキャップとの間で放電が発生しても、発光管が破損することがない希ガス−ハロゲン・エキシマランプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記課題を解決するために、この発明に係る希ガス−ハロゲン・エキシマランプは、透光性セラミックスからなる発光管の両端部に封止用の金属キャップが設けられてなり、該金属キャップはニッケルまたはニッケルを主成分とする合金から構成されるとともに、該キャップが、外側に向って略球状の膨出形状に形成されていることを特徴とするものである。
さらには、前記金属キャップの膨出形状の先端部が平坦面に形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、透光性セラミックスからなる発光管の両端に設けられたニッケルまたはニッケルを主成分とする金属キャップを略球状の膨出形状にしたことにより、キャップは外側に向かって変形しやすくなり、電極下方の発光管内面と金属キャップとの間に異常放電が発生してキャップが熱せられる事態が生じたとしても、該キャップは外側に向かって膨出する方向に延伸して変形するので、キャップと発光管の接続部位に無理な応力がかかることがなく、発光管の破壊を防止することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る希ガス−ハロゲン・エキシマランプの断面図。
【図2】本発明の他の実施例の部分断面図。
【図3】本発明のランプの実験説明図。
【図4】比較例のランプの実験説明図。
【図5】実験結果を示す表。
【図6】従来の希ガス−ハロゲン・エキシマランプの断面図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1において、本発明の希ガス−ハロゲン・エキシマランプは、サファイア等の透光性セラミックスからなる発光管2の両端に、ニッケル(Ni)あるいはニッケルを主成分とする合金からなるキャップ81、82が、銀と銅の合金(Ag−Cu合金)であるロウ材からなる封止材41、42によって取り付けられている。
【0026】
なお、発光管2の材料である透光性セラミックスとして、酸化アルミニウム(Al)を主成分とするサファイア(単結晶アルミナ)やアルミナ(多結晶アルミナ)が挙げられ、この他には、二フッ化マグネシウム(MgF)、フッ化リチウム(LiF)、二フッ化バリウム(BaF)、イットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG)のようなフッ化物を使用できる。
【0027】
また、ニッケル合金としては、種々のものが使用されうるが、一例として、下記の表4でニッケルおよびニッケル合金の熱膨張係数を整理する。

【0028】
そして、前記キャップ81、82は、外側に向かって略球状に膨出する形状(いわゆる、ドーム形状)とされている。そして一方のキャップ81に排気管5が取り付けられている。なお、ここで外側とは、発光管2からみて外側、即ち、外方という意味である。
キャップ81、82は外側に膨出形状となっているので、温度上昇したときに外側に向かって延伸するように変形するので、発光管2に必要以上の応力をかけることがなく、該発光管2の破壊を防止するものである。
【0029】
なお、キャップ81、82の膨出形状は略球状としたが、特に球状であるだけでなく、例えば、回転楕円体形状などの形状であってもよい。また、図2に示すように、その先端部を平坦面9としてもよく、こうすることにより、排気管5の取り付けが容易になる。
【0030】
<実験例>
本発明の効果を検証するために、図3及び図4に示すような実験を行った。
図3は本発明の構造をもつ希ガス−ハロゲン・エキシマランプであり、図4は比較例として、ニッケル製の平坦形状のキャップ31をもった希ガス−ハロゲン・エキシマランプである。
これらのランプにおいて、電極61に対応する発光管内面と、キャップ31、81との間で強制的に放電10を発生させて、発光管2が破損するかどうかを調べた。
その実験条件は以下のとおりである。
キャップ:ニッケル
発光管:サファイア(内径φ7.6mm×外径φ10mm×長さ200mm)
外部電極:金(幅2mm×長さ100mm)
封入ガス:90%Ne−10%Ar、80kPa
印加電圧:8kV(p−p)(電極と金属キャップ間に印加)
【0031】
上記の実験条件で、キャップ31、81の厚さを種々変化させて実験し、発光管2からのガスのリークの有無を調べた結果を示す表が図5である。
同図で分かるように、図4の比較例においては、キャップ31の厚さを変化させてみても該キャップの変形が起こらずに、発光管2に亀裂が生じ、該発光管からのガスのリークが発生したのに対して、図3の本発明においては、キャップ81の厚さを適宜の厚さ(本実験の場合0.5mm以下)とすることにより、発光管2に亀裂が生じることがなく、ガスのリークが生じなかった。
【0032】
以上のように、本発明の希ガス−ハロゲン・エキシマランプでは、キャップの形状を略球状に膨出する形状としたことにより外側に向かって変形しやすくなり、その厚さを、発光管の形状・封入ガス圧・点灯条件などに応じて適宜に選択することによって、外側に変形可能として発光管の破損を未然に防止できるものである。
【符号の説明】
【0033】
1 希ガス−ハロゲン・エキシマランプ
2 発光管
21 放電空間
41、42 封止材
5 排気管
61、62 電極
81、82 金属キャップ
9 平坦面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性セラミックスよりなる発光管と、該発光管の両端に設けられた封止用の金属製キャップと、前記発光管の外面に設けられた外部電極とからなり、前記発光管の内部には希ガスとハロゲンが封入された希ガス−ハロゲン・エキシマランプにおいて、
前記キャップは、ニッケルまたはニッケルを主成分とする合金からなり、外側に向って略球状の膨出形状に形成されていることを特徴とする希ガス−ハロゲン・エキシマランプ。
【請求項2】
前記金属キャップの先端部が平坦面に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の希ガス−ハロゲン・エキシマランプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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