説明

希土類ドープCaF2層を有する太陽電池構造及び太陽電池モジュール構造

【課題】太陽電池効率を現在のものより大幅に向上させるためには、現在の太陽電池セルでは未利用である帯域の光を有効に利用することが必要である。短波長領域の光エネルギーを利用するためには一般的にワイドギャップ半導体を利用して太陽電池の短波長側の分光感度特性を向上させる方法が取られる。この方法の波長領域は使用する半導体のバンドギャップに制約される。セルのスタック数を増やすと製造コストが大きく上昇するとともに、格子整合、各セルの間の電流マッチングが困難になるなど制約が多い。
【解決手段】希土類ドープCaF波長変換層を太陽電池セルまたはモジュールの入射光路に挿入し、適切な分光感度特性を持った太陽電池素子と組み合わせることによって、実効的な短波長側の分光感度特性を拡大する。本構造の導入により太陽電池素子またはモジュールの変換効率を増大させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は太陽電池および太陽電池モジュールに関する。
【産業上の利用分野】
【0002】
【希土類添加フッ化カルシウム結晶の特徴】
現在、フッ化ルシウム結晶はレンズ結晶材料に大型結晶が使われるなど多くの注目を集めている結晶材料である。10μmの赤外領域から125nmの紫外域に至る範囲で高い透過率と適当な屈折率変化を持つことから、紫外光源用窓、光学関連部品としての用途がある。さらに不純物を添加しシンチレータ結晶としての有用な特性を有している。本発明者らは希土類添加CaFの光学特性について鋭意研究を積み重ねた結果、ランタン系元素と適当な酸素をフッ化カルシウム結晶中に添加することにより紫外域にわたる短波長成分を可視域の波長に高効率で変換できることを見出した。
【発明の開示】

【従来技術の問題点1】
【0003】
結晶系Si太陽電池の開発にはLSIプロセスで積み上げられてきた技術を移植することが可能であったことから太陽電池の中では最も古くから実用化が図られてきた。光発電システムは90年代より普及が始まりシステム価格は低下しつつあるが、その発電単価は火力、原子力等の既存の発電システムと比べると2〜3倍であり、製造コストが高いことが光発電システム普及の最大のネックとなっている。太陽光発電システムの普及を促すには製造コストの削減が急務であるが、現在のデバイス構造では量産規模の拡大だけでシステムコストを目標値である現在の1/3まで下げるのは困難な状況である。
セルの製造プロセスコストが下がると、その価格低減はいずれ原料コストによって制約を受けるようになる。これを回避する方法としてはセルの薄膜化、高効率化、集光セル方式の採用が考えられる。特に変換効率向上は原料使用量の低減の他に架台、工事費等の周辺設備コストの削減によるコスト削減効果が期待できる。加えて、わが国では光発電システムを主に住宅等の屋根に設置しているが、効率の低いシステムで必要な出力を得るには大面積が必要となり設置可能な場所が限定される。太陽電池の変換効率が向上すればより狭いエリアで必要なシステムを設置することができる。このために未利用であるスペースが有効利用できるようになり光発電システムの普及に拍車がかけられる。
【従来技術の問題点2】
【0004】
現在主に使われている結晶Si系太陽電池は多結晶Siまたは単結晶Siを用いたシングルpn接合セルである。このような構造のセルの理論効率は28%程度といわれているが量産レベルでは単結晶Siで15−17%が一般的である。将来における太陽電池の大量普及を促進するためには、これまでない高効率かつ低コストなセルが求められる。太陽電池の効率を現在のものより大幅に向上させるためには、現在のセルでは未利用の紫外域及び赤外域の光エネルギーを有効に利用することが必要である。これを実現する方法として多接合構造によるマルチバンドギャップあるいは中間バンドを有する新たなバンド構造を利用した太陽電池構造が提案され、理論的には60%以上の変換効率の可能性が示されている。
【従来技術の問題点2】
【0005】
短波長領域の光エネルギーを利用するためには一般的にワイドギャップ半導体を利用して太陽電池の短波長側の分光感度特性を向上させる方法が取られる。この方法の波長領域は使用する半導体のバンドギャップに制約される。現在作られているIII−V族系マルチスタック太陽電池ではバンドギャップの上限が2.2eVであり、紫外領域に十分な感度を持たせることが困難である。さらにセルのスタック数を増やすと製造コストが大きく上昇するとともに、格子整合、各セルの間の電流マッチングが困難になるなど制約が多い。
【従来の問題点の解決策】
【0006】
波長変換素子を利用すれば、太陽電池の吸収できない短波長光を太陽電池の吸収帯域である長波長側ににシフトさせることにより実効的な太陽電池のスペクトル帯域を拡大することが可能となり、より少ないスタック数で波長域の拡大を図ることができる。本発明に使用される希土類添加フッ化カルシウムは、短波長領域の光を広い範囲にわたって効率よく長波長の光に変換することが可能であり、適切な分光感度特性を持った太陽電池素子と組み合わせることによって、太陽電池の実効的な分光感度特性を紫外域にまで広く拡大することが可能になる。本方法を用いればワイドギャップ半導体を用いて分光感度帯域を短波長側に広げる手段に比較して製造コストを大幅に抑えながら太陽電池の変換効率を容易に向上させることが可能となる。
【解決策の実施例1】
【0007】
図1にEu添加CaF結晶の蛍光分光分析の結果を示す。CaF結晶に入射した410nmより短波長側の波長成分はすべて結晶に吸収されて420−430nmの波長に変換されている。図2の様な400nm−900nmの範囲に分光感度特性を持つGaAs単一接合セルに厚さ1mmのEu添加CaF結晶板を重ねて太陽電池モジュールを構成した。図3にモジュール構造を示す。光源はAM1.5のソーラーシミュレータを用いた。CaF結晶を組み合わせることによって3%の短絡電流増加が観測され、短波長領域の収集効率が増大していると考えることができる。CaF結晶への不純物添加条件、組み合わせる太陽電池特性等の最適化によりさらなる変換効率の向上が期待できる。
【解決策の実施例2】
【0008】
図4にアモルファスシリコン太陽電池と組み合わせたモジュール構造を示す。400−700nmに分光感度特性を持つアモルファスシリコン太陽電池に厚さ1mmのEuドープCaF結晶板を重ねて太陽電池モジュールを構成した。CaFを組み合わせることによって2%の短絡電流増加が観測され、短波長領域の収集効率が増大していると考えることができる。CaFへのドーピング条件、組み合わせる太陽電池特性等の最適化によりさらなる変換効率の向上が期待できる。
【その他の応用例】
【0009】
このような太陽電池モジュールは自動車搭載用電池や信号機との組み合わせに用いられることは明らかであり現在使用されている携帯電話や時計、さらには安全用品例えば運動靴や衣料品の一部に使われる可能性はいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】Eu添加CaF結晶の蛍光分光分析の結果
【図2】GaAs太陽電池収集効率スペクトル
【図3】GaAsシングルセルとCaFを組み合わせた構造の太陽電池モジュール構造
【図4】アモルファスシリコンセルとCaFを組み合わせた構造の太陽電池モジュール構造
【符号の説明】
【0011】
1 GaAsシングルセル
2 EuドープCaF
3 a−Siセル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1層の希土類ドープCaF層を有する太陽電池素子
【請求項2】
入射光路に少なくとも1層の希土類ドープCaF層を有する太陽電池モジュール
【請求項3】
CaF層に添加してある希土類元素としてはEuである太陽電池モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−173545(P2006−173545A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−382437(P2004−382437)
【出願日】平成16年12月13日(2004.12.13)
【出願人】(503250573)エス・シー・テクノロジー株式会社 (1)
【Fターム(参考)】