説明

希土類元素及び鉄を含有する合金から希土類元素を回収する方法

【課題】希土類元素及び鉄を含有する合金から希土類元素を効率良く回収する。
【解決方法】本発明の方法は、希土類元素及び鉄を含有する合金から希土類元素を回収する方法であって、前記合金の少なくとも一部を、塩化鉄(III)、硫酸鉄(III)、及び硝酸鉄(III)から選ばれる少なくとも1種を含む水溶液によって溶解させる溶解工程を含むことを特徴とする。前記水溶液は、塩化鉄(III)を含む水溶液であることが好ましい。また、本発明の方法は、前記溶解工程において得られた溶液中に酸化剤を加えることによって、当該溶液中に含まれる鉄(II)イオンを鉄(III)イオンに酸化させる酸化工程を含んでもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類元素及び鉄を含有する合金から希土類元素を回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
元素の周期表において、3族及びランタノイド系列に属する希土類元素は、工業製品の性能向上に欠かせないものとなっている。例えば、ガドリニウム(Gd)やジスプロシウム(Dy)は光磁気ディスクの材料に、ネオジム(Nd)は永久磁石の材料に用いられる。したがって、これらの元素は、現在のエレクトロニクス産業において必要不可欠となっている。
【0003】
希土類元素の安定供給を可能にする方法として、廃棄されたエレクトロニクス製品や、製品の製造工程で生じた削り屑等のスクラップから希土類元素を回収、再利用する方法が検討されている。例えば、特許文献1〜3には、希土類元素及び鉄を含有するスクラップを塩酸等の鉱酸によって溶解させた後、溶解液のpHを調整することによって希土類元素をフッ化物、シュウ酸塩、あるいは炭酸塩等の形で分離回収する方法が開示されている。
【0004】
しかし、スクラップの溶解液として鉱酸を用いる方法では、酸ミスト、水素ガス、あるいはNOガスなどの有害ガスが発生して作業環境が悪化するおそれがある。また、塊状のスクラップは鉱酸によって溶解させるのに時間がかかるために、大過剰の鉱酸を用いる必要があり、大幅にコストが増加するとともに大量の廃棄物が発生してしまう。これを解決するために、塊状のスクラップを破砕機等によって予め細かく粉砕しておく方法があるが、この場合、粉塵の発生や、粉砕工程を追加することに伴う設備的なコストの増大という別の問題が生じてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭63−4028号公報
【特許文献2】特開昭62−187112号公報
【特許文献3】特開2004−175652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記のような事情に鑑みてなされたものであって、希土類元素及び鉄を含有する合金から希土類元素を効率良く回収することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行なったところ、従来用いられていた塩酸、硫酸、硝酸などの鉱酸ではなく、塩化鉄(III)、硫酸鉄(III)、及び硝酸鉄(III)から選ばれる少なくとも1種を含む水溶液を用いることによって、希土類元素及び鉄を含有する合金から希土類元素を極めて効率的に回収できることを新たに発見し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、希土類元素及び鉄を含有する合金から希土類元素を回収する方法であって、前記合金の少なくとも一部を、塩化鉄(III)、硫酸鉄(III)、及び硝酸鉄(III)から選ばれる少なくとも1種を含む水溶液によって溶解させる溶解工程を含むことを特徴とする。
【0009】
本発明にいう「希土類元素」とは、周期表の3族及びランタノイド系列に属する元素のことであり、例えば、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho,Er、Tm、Yb、及びLuから選択される1種または2種以上のことである。
【0010】
前記溶解工程において、合金を溶解させるための水溶液としては、塩化鉄(III)を含む水溶液を用いることが特に好ましい。
【0011】
本発明の方法において、前記溶解工程において得られた溶液中に酸化剤を加えることによって、当該溶液中に含まれる鉄(II)イオンを鉄(III)イオンに酸化させる酸化工程を含むことが好ましい。
【0012】
本発明の方法は、前記酸化工程において得られた溶液のpHを1以上6以下に調整することによって、当該溶液中に含まれる鉄(III)イオンを水酸化鉄(III)に変化させて固液分離する第1分離工程を含んでもよい。
【0013】
本発明の方法は、前記第1分離工程において水酸化鉄(III)が分離された後の溶液のpHを6以上10以下に調整することによって、当該溶液中に含まれる希土類元素イオンを水酸化物に変化させて固液分離する第2分離工程を含んでもよい。
【0014】
本発明の方法において、前記酸化工程において得られた溶液の一部を前記溶解工程で前記合金を溶解させるために使用することが好ましい。
【0015】
前記酸化剤は、塩素であることが好ましい。
前記希土類元素は、ネオジムであることが好ましい。
【0016】
また、本発明は、上記のいずれかの方法によって回収された希土類元素を含む回収物を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、希土類元素及び鉄を含有する合金から希土類元素を効率良く回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1実施形態のフローシートである。
【図2】本発明の第2実施形態のフローシートである。
【図3】本発明の第3実施形態のシステム全体を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<第1実施形態>
以下、本発明の第1実施形態ついて詳細に説明する。
本発明は、希土類元素及び鉄を含有する合金から、希土類元素を回収する方法である。本発明における「希土類元素及び鉄を含有する合金」の具体例としては、ネオジム(Nd)と鉄(Fe)を含有するネオジム磁石を挙げることができる。本発明における「希土類元素及び鉄を含有する合金」には、鉄と希土類元素以外の金属元素あるいは非金属元素が含まれてもよい。例えば、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、タングステン(W)、ホウ素(B)、炭素(C)、及び窒素(N)から選ばれる少なくとも1種の元素が含まれてもよい。本発明において希土類元素を回収する対象となる「希土類元素及び鉄を含有する合金」は、例えばニッケルや銅などによってその表面をめっきされたものであってもよい。
【0020】
図1は、本発明の第1実施形態のフローシートである。図1に示すように、本発明の方法は、溶解工程、酸化工程、第1分離工程、及び、第2分離工程を有している。以下、これらの各工程について説明する。
【0021】
(溶解工程)
溶解工程では、希土類元素及び鉄を含有する合金の少なくとも一部を、塩化鉄(III)、硫酸鉄(III)、及び硝酸鉄(III)から選ばれる少なくとも1種を含む水溶液によって溶解させる。溶解工程においては、合金に対して水溶液を加えてもよいし、水溶液に対して合金を加えてもよい。合金は、ある程度の大きさを持った塊状のスクラップであってもよく、予め細かく粉砕したものであってもよい。溶解工程において用いる水溶液は、合金の溶解速度を上げるために加温することが好ましく、例えば30〜90℃に加温することが好ましい。溶解工程において用いる水溶液の濃度は、特に制限するものはないが、30〜60重量%であることが好ましい。
【0022】
鉄及び希土類元素を含む合金を、塩化鉄(III)を含む水溶液を用いて溶解させた場合には、以下の式(1)、(2)の反応が発生する。
Fe+2FeCl → 3FeCl …(1)
Ln+3FeCl → 3FeCl+LnCl …(2)
(Lnは、希土類元素を表す)
【0023】
鉄及び希土類元素を含む合金を、硫酸鉄(III)を含む水溶液を用いて溶解させた場合には、以下の式(3)、(4)の反応が発生する。
Fe+Fe(SO → 3FeSO …(3)
2Ln+3Fe(SO → 6FeSO+ Ln(SO …(4)
【0024】
鉄及び希土類元素を含む合金を、硝酸鉄(III)を含む水溶液を用いて溶解させた場合には、以下の式(5)、(6)の反応が発生する。
Fe+2Fe(NO → 3Fe(NO …(5)
Ln+3Fe(NO → 3Fe(NO+Ln(NO …(6)
【0025】
上記の式(1)〜(6)の反応により生成した生成物は、容易に電離して水溶液中に溶解する。つまり、合金に含まれていたFe及びLn(希土類元素)は、Fe2+及びLn3+として溶液中に存在することとなる。
なお、上記の式(1)〜(6)は、Lnが3価のイオンになる場合の反応式を示しているが、例えばLnが3価以外のイオンになる場合は、上記(1)〜(6)とは異なる反応が生じることがある。
【0026】
溶解工程において得られた溶液中には、合金に付着していた塗料やガラスなどの不溶成分が含まれている場合がある。溶液中に含まれるこれらの不溶成分は、次の酸化工程の前に濾過等によって取り除かれることが好ましい。また、溶解工程において得られた溶液中の溶解成分として、合金に施されたニッケルめっき由来のニッケルが存在している場合がある。このニッケル成分は、例えば特開平9−156930号公報に記載の方法等の公知の方法によって沈殿させ、濾過等によって前記不溶成分と共に取り除いてもよい。
【0027】
(酸化工程)
酸化工程では、溶解工程において得られた溶液中に酸化剤を加えることによって、当該溶液中に含まれる鉄(II)イオンを鉄(III)イオンに酸化させる。この反応の半反応式は、以下の式(7)の通りとなる。
Fe2+ → Fe3+ + e …(7)
【0028】
酸化工程における酸化剤としては、一般的な酸化剤、例えば、空気、酸素、過酸化水素、オゾン、又は塩素等を用いることができる。この中では、塩素又は空気を用いることが好ましく、塩素を用いることが最も好ましい。
【0029】
例えば、溶解工程において塩化鉄(III)を含む水溶液を用いた場合であって、かつ、本工程における酸化剤として塩素を用いた場合には、以下の式(8)の反応が発生する。
2FeCl +Cl → 2FeCl …(8)
【0030】
溶解工程において硫酸鉄(III)を含む水溶液を用いた場合であって、かつ、本工程における酸化剤として酸素を用いた場合には、以下の式(9)の反応が発生する。
4FeSO + O +2HSO
→ 2Fe(SO + 2HO …(9)
【0031】
溶解工程において硝酸鉄(III)を含む水溶液を用いた場合であって、かつ、本工程における酸化剤として酸素を用いた場合には、以下の式(10)の反応が発生する。
4Fe(NO + O +4HNO
→ 4Fe(NO + 2HO …(10)
【0032】
(第1分離工程)
第1分離工程では、酸化工程において得られた溶液のpHを1以上6以下、より好ましくは3以上5以下、最も好ましくは3.5以上4.5以下に調整する。これにより、溶液中に含まれる鉄(III)イオンを不溶性の水酸化鉄(III)に変化させて濾過等によって固液分離することができる。反応式は、以下の式(11)の通りとなる。
Fe3+ + 3OH → Fe(OH)↓ …(11)
【0033】
pHを上記の範囲に調整するためには、溶液中に水酸化ナトリウムなどの公知の塩基性物質を加えればよい。
【0034】
水酸化鉄(III)を溶液中から固液分離するためには、濾過、遠心分離、沈殿分離、圧搾などの公知の分離方法を用いればよい。
【0035】
(第2分離工程)
第2分離工程では、第1分離工程において水酸化鉄(III)が分離された後の溶液のpHを6以上10以下、より好ましくは7以上9以下、最も好ましくは7.5以上8.5以下に調整する。これにより、溶液中に含まれる希土類元素イオンを不溶性の水酸化物に変化させて濾過等によって固液分離することができる。反応式は、以下の式(12)の通りとなる。
Ln3+ + 3OH → Ln(OH)↓ …(12)
【0036】
pHを上記の範囲に調整するためには、溶液中に水酸化ナトリウムなどの公知の塩基性物質を加えればよい。
【0037】
希土類元素の水酸化物を溶液中から固液分離するためには、濾過、遠心分離、沈殿分離、圧搾などの公知の分離方法を用いればよい。
【0038】
以上に説明した溶解工程、酸化工程、第1分離工程、及び第2分離工程を順番に実施することによって、鉄及び希土類元素を含む合金から希土類元素を回収することができる。
なお、第2分離工程において希土類元素は水酸化物の形で分離されるが、この水酸化物からは電解法などの公知の方法を用いて希土類元素を単体の形で取り出すことも可能である。
【0039】
酸化工程において得られる溶液中には、溶解工程において用いる水溶液に含まれる成分と同じ成分が含まれている。例えば、溶解工程において塩化鉄(III)水溶液を用いた場合には、酸化工程において得られる溶液中にも塩化鉄(III)が含まれている。したがって、酸化工程において得られる溶液は、溶解工程において合金を溶解させるための水溶液として使用することが可能である。
【0040】
酸化工程において得られる溶液の一部を溶解工程の水溶液として使用することによって、プロセス全体で消費する鉄の消費量を削減することができる。すなわち、溶解工程において用いる塩化鉄(III)、硫酸鉄(III)及び硝酸鉄(III)から選ばれる少なくとも1種を含む水溶液を酸化工程によって再生し、その再生した溶液の一部を再度溶解工程において用いることを繰り返すことにより、プロセス全体で用いられる鉄は、スクラップ等の溶解対象である希土類元素及び鉄を含む合金から供給される形になり、酸化剤を供給するのみでプロセス全体を連続的に繰り返すことが可能となる。これにより、塩化鉄(III)、硫酸鉄(III)、もしくは硝酸鉄(III)の消費量を少なくすることができるために、プロセス全体を連続的に繰り返す際のランニングコストを削減することが可能になる。また、溶液中から希土類元素を回収した後の廃水の排出量を削減することが可能になり、環境保全にとって好ましくない物質の排出を抑制することができる。なお、鉄を含む水溶液を繰り返し使用したためにその水溶液中の鉄の濃度が上昇した場合には、水を供給して鉄の濃度を適切な範囲に調整することができる。
【0041】
<第2実施形態>
以下、本発明の第2実施形態について詳細に説明する。第2実施形態では、本発明の方法により希土類元素を回収する対象となる合金として、鉄70%、ネオジム25%、及びホウ素1.0%を含有するネオジム磁石を用いた(%はいずれも重量%である)。合金を溶解させるための水溶液として、塩化鉄(III)水溶液を用いた。鉄(II)イオンを鉄(III)イオンに酸化させるための酸化剤として、塩素ガスを用いた。
【0042】
図2は、第2実施形態のフローシートである。
図2に示すように、第2実施形態では、5.1gのネオジム磁石の塊に対して、50℃に加温した濃度37.6重量%のFeCl水溶液を加えて6時間攪拌した(溶解工程)。これにより、ネオジム磁石はほぼ完全に溶解してFeClとNdClを含有する溶液が得られた。得られた溶液の濃度は、FeClが3.2重量%であり、Ndが1200重量ppmであった。
【0043】
上記の溶解工程で得られた溶液を70℃に加温しながら攪拌しつつ、その溶液中に塩素ガスを100ml/分の速度で吹き込んだ(酸化工程)。塩素ガスを吹き込んでいる最中の溶液の酸化還元電位を測定し、酸化還元電位が1000mV以上となった時点で塩素ガスの供給を停止した。溶液のFeCl濃度は0.01重量%以下となっており、FeClの大部分がFeClに変化していることを確認した。
【0044】
上記の酸化工程で得られた溶液を攪拌しつつ、この溶液中に48重量%の水酸化ナトリウム水溶液と水を加えてpHを約4.0に調整した。このpH調整により発生した沈殿物を濾過によって分離して濾液を得た(第1分離工程)。濾液のFe濃度は1.0重量ppm以下となっており、溶液中のFeの大部分が濾過によって分離されたことを確認した。
【0045】
続いて、上記の第1分離工程で得られた溶液(濾液)を攪拌しつつ、48重量%の水酸化ナトリウム水溶液と水を加えてpHを約8.0に調整した。このpH調整により発生した沈殿物を濾過によって分離して濾液を得た(第2分離工程)。濾液のNd濃度は1.0重量ppm以下となっており、溶液中のNdの大部分が濾過によって分離されたことを確認した。濾過によって分離された沈殿物の組成を分析したところ、主元素はNdであり、Feは検出されなかった。
【0046】
最後に、酸化工程において得られた溶液の一部を溶解工程において用いることで同様の試験を行った。酸化工程において得られた溶液中にはFeClが含まれており、この溶液を加えることでネオジム合金が容易に溶解することを確認できた。また、酸化工程において得られた溶液の一部を溶解工程において使用することを繰り返すことによって、FeClの消費量が全体として減少することを確認できた。また、溶液中からネオジムを回収した後の廃水の排出量を削減できることを確認できた。
【0047】
<第3実施形態>
以下、本発明の第3実施形態について詳細に説明する。第3実施形態では、本発明の方法を工業的に実施するためのシステムの一例について説明する。
【0048】
図3は、本発明の第3実施形態に係るシステム全体を示す図である。
図3に示すように、本実施形態に係るシステム100は、上流から順番に、塩化第二鉄貯留槽2、水貯留槽4、溶解反応槽6、第1溶液貯留槽8、酸化反応槽10、第2溶液貯留槽12、第1水酸化ナトリウム貯留槽14、第1pH調整槽16、第1フィルタープレス18、濾液貯留槽20、第2水酸化ナトリウム貯留槽22、第2pH調整槽24、及び、第2フィルタープレス26を備えている。
【0049】
塩化第二鉄貯留槽2からは、ポンプP1によって所定濃度の塩化鉄(III)水溶液が溶解反応槽6に移送される。水貯留槽4からは、ポンプP2によって水が溶解反応槽6に移送される。溶解反応槽6の上部にはホッパ28が設置されており、このホッパ28からはネオジム磁石が溶解反応槽6に投入される。溶解反応槽6では、塩化鉄(III)水溶液、水、及びネオジム磁石が攪拌されてネオジム磁石の溶解が行われる。なお、溶解反応槽6には蒸気配管30が接続されており、溶解反応槽6の内部温度は蒸気配管30から供給される蒸気の供給量によって約50℃に制御される。溶解反応槽6の内部温度は、温度センサ32によって計測される。
【0050】
溶解反応槽6においてネオジム磁石が溶解することにより得られた溶液は、ポンプP3によって第1溶液貯留槽8に移送される。ポンプP3と第1溶液貯留槽8との間の配管には、フィルター34が設置されており、このフィルター34によってネオジム磁石に付着していた塗料やガラスなどの不溶成分が溶液中から取り除かれる。第1溶液貯留槽8に貯留された溶液は、次に、ポンプP4によって酸化反応槽10に移送される。
【0051】
酸化反応槽10には塩素ガス配管36が接続されており、この塩素ガス配管36によって酸化反応槽10の内部に塩素ガスが酸化還元電位が1000mV以上となるまで吹き込まれる。なお、酸化反応槽10の上部には酸化還元電位センサ38が設置されており、この酸化還元電位センサ38によって酸化反応槽10に貯留されている溶液の酸化還元電位が計測される。
【0052】
また、酸化反応槽10には蒸気配管40が接続されており、酸化反応槽10の内部温度は、蒸気配管40から供給される蒸気の供給量によって約70℃に制御される。酸化反応槽10の内部温度は、温度センサ42によって計測される。
【0053】
酸化反応槽10において鉄(II)イオンが鉄(III)イオンに酸化された溶液は、ポンプP5によって第2溶液貯留槽12に移送される。第2溶液貯留槽12に貯留された溶液は、ポンプP6によって第1pH調整槽16に移送される。また、第1水酸化ナトリウム貯留槽14に貯留されている水酸化ナトリウム水溶液は、ポンプP7によって第1pH調整槽16に移送される。
【0054】
第1pH調整槽16においては、第2溶液貯留槽12から移送された溶液と、水酸化ナトリウム水溶液との攪拌・混合が行われる。これにより、第1pH調整槽16に貯留されている溶液のpHが約4.0に調整される。なお、第1pH調整槽16に貯留されている溶液のpHは、第1水酸化ナトリウム貯留槽14からの水酸化ナトリウム水溶液の供給量によって制御される。第1pH調整槽16に貯留されている溶液のpHは、pH計43によって計測される。
【0055】
第1pH調整槽16においてpHが約4.0に調整された溶液は、不溶性の水酸化鉄(III)が発生することでスラリー状となっている。このスラリー状の溶液は、ポンプP8によって第1フィルタープレス18に移送される。この第1フィルタープレス18によってスラリー状の溶液が濾過されて水酸化鉄(III)が分離される。
【0056】
第1フィルタープレス18によって水酸化鉄(III)が分離された溶液は、濾液貯留槽20に貯留される。濾液貯留槽20に貯留された溶液は、ポンプP9によって第2pH調整槽24に移送される。また、第2水酸化ナトリウム貯留槽22に貯留されている水酸化ナトリウム水溶液は、ポンプP10によって第2pH調整槽24に移送される。
【0057】
第2pH調整槽24においては、濾液貯留槽20から移送された溶液と、水酸化ナトリウム水溶液との攪拌・混合が行われる。これにより、第2pH調整槽24に貯留されている溶液のpHが約8.0に調整される。なお、第2pH調整槽24に貯留されている溶液のpHは、第2水酸化ナトリウム貯留槽22からの水酸化ナトリウム水溶液の供給量によって制御される。第2pH調整槽24に貯留されている溶液のpHは、pH計44によって計測される。
【0058】
第2pH調整槽24においてpHが約8.0に調整された溶液は、不溶性の水酸化ネオジム(III)が発生することでスラリー状となっている。このスラリー状の溶液は、ポンプP11によって第2フィルタープレス26に移送される。この第2フィルタープレス26によってスラリー状の溶液が濾過されて水酸化ネオジム(III)が分離される。なお、水酸化ネオジム(III)が分離された後の濾液は、後の排水処理工程において適切に処理される。
【0059】
第2溶液貯留槽12の出口側の配管は、返流配管46によって溶解反応槽6に接続されている。この返流配管46により、第2溶液貯留槽12に貯留されている溶液の一部を、溶解反応槽6において用いるネオジム合金の溶解液として返流することが可能となっている。なお、返流配管46にはバルブ48が取り付けられており、このバルブ48によって溶解反応槽6への返流量を任意に調整することが可能となっている。
【0060】
本実施形態に係るシステム100によれば、例えばスクラップとして廃棄されたネオジム磁石から、希土類元素であるネオジムを効率的に回収することができる。また、第2溶液貯留槽12に貯留されている溶液の一部を溶解反応槽6に返流することによって、塩化鉄(III)の消費量を削減することができるために、システム100を連続的に運転する際のランニングコストを削減することが可能になる。また、溶液からネオジムを回収した後の廃水の排出量を削減することが可能になり、環境保全にとって好ましくない物質の排出を抑制することができる。なお、鉄を含む水溶液を繰り返し使用したためにその水溶液中の鉄の濃度が上昇した場合には、例えば溶解反応槽6または第2溶液貯留槽12に水を供給して鉄の濃度を適切な範囲に調整することができる。
【0061】
<第4実施形態>
以下、本発明の第4実施形態について詳細に説明する。
第4実施形態では、本発明の効果を実証するために、塩化鉄(III)水溶液、硝酸鉄(III)水溶液、塩酸、及び硝酸をそれぞれ用いて、ネオジム磁石を溶解させる試験を行った。また、塩化鉄(III)水溶液、硫酸鉄(III)水溶液、及び塩酸をそれぞれ用いて、表面にニッケルめっきが被覆されていないネオジム磁石を溶解させる試験を行った。
【0062】
(実施例1)
50℃に加温した37.6重量%の塩化鉄(III)水溶液1000gに、Fe約70重量%、Nd約25重量%、B約1.0重量%の表面にニッケルめっきが被膜されたネオジム磁石1個5.12gを加えて撹拌した。そして、30分、1時間経過後の残渣量をそれぞれ測定して溶解率を算出した。結果を表1にまとめた。
【0063】
(実施例2)
50℃に加温した44.4重量%の硝酸鉄(III)水溶液1000gに、Fe約70重量%、Nd約25重量%、B約1.0重量%の表面にニッケルめっきが被膜されたネオジム磁石1個5.12gを加えて撹拌した。そして、30分、1時間経過後の残渣量をそれぞれ測定して溶解率を算出した。結果を表1にまとめた。
【0064】
(実施例3)
50℃に加温した37.6重量%の塩化鉄(III)水溶液1000gに、Fe約70重量%、Nd約25重量%、B約1.0重量%の表面にニッケルめっきが被覆されていないネオジム磁石1個8.13gを加えて撹拌した。そして、15分、30分、45分経過後の残渣量をそれぞれ測定して溶解率を算出した。結果を表2にまとめた。
【0065】
(実施例4)
50℃に加温した33.0重量%の硫酸鉄(III)水溶液1000gに、Fe約70重量%、Nd約25重量%、B約1.0重量%の表面にニッケルめっきが被覆されていないネオジム磁石1個8.13gを加えて撹拌した。そして、15分、30分、45分経過後の残渣量をそれぞれ測定して溶解率を算出した。結果を表2にまとめた。
【0066】
(比較例1)
50℃に加温した35.1重量%の塩酸1000gに、Fe約70重量%、Nd約25重量%、B約1.0重量%の表面にニッケルめっきが被膜されたネオジム磁石1個5.12gを加えて撹拌した。そして、30分、1時間経過後の残渣量をそれぞれ測定して溶解率を算出した。結果を表1にまとめた。
【0067】
(比較例2)
50℃に加温した24.5重量%の硝酸1000gに、Fe約70重量%、Nd約25重量%、B約1.0重量%の表面にニッケルめっきが被膜されたネオジム磁石1個5.12gを加えて撹拌した。そして、30分、1時間経過後の残渣量をそれぞれ測定して溶解率を算出した。結果を表1にまとめた。
【0068】
(比較例3)
50℃に加温した35.1重量%の塩酸1000gに、Fe約70重量%、Nd約25重量%、B約1.0重量%の表面にニッケルめっきが被覆されていないネオジム磁石1個5.12gを加えて撹拌した。そして、15分、30分、45分経過後の残渣量をそれぞれ測定して溶解率を算出した。結果を表2にまとめた。
【0069】
上記の実施例及び比較例において、溶解率は、以下の式(13)により算出した。
溶解率(%)=(溶解前の合金の重量−残渣の重量)/溶解前の合金の重量
×100 …(13)
【0070】
【表1】

【0071】
【表2】

【0072】
表1に示す結果からわかるように、未粉砕のネオジム磁石を溶解させる試験において、塩化鉄(III)水溶液を用いた場合には、ネオジム磁石のほぼ全量が短時間で溶解することを確認できた(実施例1)。また、硝酸鉄(III)水溶液を用いた場合にも、塩化鉄(III)水溶液を用いた場合と比較すると溶解速度が若干劣るものの、ネオジム磁石のほぼ全量が短時間で溶解することを確認できた(実施例2)。これに対して、希土類金属の回収で従来から汎用されている塩酸あるいは硝酸を用いた場合には、30分及び1時間経過後もネオジム磁石のほとんどが溶解しないことを確認できた(比較例1、2)。
【0073】
表2に示す結果からわかるように、表面にニッケルめっきが被覆されていないネオジム磁石を溶解させる試験において、塩化鉄(III)水溶液を用いた場合には、ネオジム磁石のほぼ全量が短時間で溶解することを確認できた(実施例3)。また、硫酸鉄(III)水溶液を用いた場合にも、塩化鉄(III)水溶液を用いた場合と同様に、ネオジム磁石のほぼ全量が短時間で溶解することを確認できた(実施例4)。これに対して、希土類金属の回収で従来から汎用されている塩酸を用いた場合には、塩化鉄(III)あるいは硫酸鉄(III)水溶液を用いた場合よりも溶解速度が遅く、45分経過後もネオジム磁石の一部が溶解していないことを確認できた(比較例3)。
【符号の説明】
【0074】
2…塩化第二鉄貯留槽
4…水貯留槽
6…溶解反応槽
8…第1溶液貯留槽
10…酸化反応槽
12…第2溶液貯留槽
14…第1水酸化ナトリウム貯留槽
16…第1pH調整槽
18…第1フィルタープレス
20…濾液貯留槽
22…第2水酸化ナトリウム貯留槽
24…第2pH調整槽
26…第2フィルタープレス
100…システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類元素及び鉄を含有する合金から希土類元素を回収する方法であって、
前記合金の少なくとも一部を、塩化鉄(III)、硫酸鉄(III)、及び硝酸鉄(III)から選ばれる少なくとも1種を含む水溶液によって溶解させる溶解工程を含む、方法。
【請求項2】
前記水溶液は、塩化鉄(III)を含む水溶液である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記溶解工程において得られた溶液中に酸化剤を加えることによって、当該溶液中に含まれる鉄(II)イオンを鉄(III)イオンに酸化させる酸化工程を含む、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記酸化工程において得られた溶液のpHを1以上6以下に調整することによって、当該溶液中に含まれる鉄(III)イオンを水酸化鉄(III)に変化させて固液分離する第1分離工程を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記第1分離工程において水酸化鉄(III)が分離された後の溶液のpHを6以上10以下に調整することによって、当該溶液中に含まれる希土類元素イオンを水酸化物に変化させて固液分離する第2分離工程を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記酸化工程において得られた溶液の一部を前記溶解工程で前記合金を溶解させるために使用する、請求項3から請求項5のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記酸化剤は、塩素である、請求項3から請求項6のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記希土類元素は、ネオジムである、請求項1から請求項7のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
請求項1から請求項8のうちいずれか1項に記載の方法によって回収された希土類元素を含む回収物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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