説明

希土類永久磁石の製造方法

【発明の詳細な説明】
〔産業上の利用分野〕
本発明は、酸化され易い希土類元素(Yを含む、以下同じ)を含む希土類永久磁石用合金粉末を粉末冶金法で永久磁石に作製する方法の改良に関するものである。
〔従来の技術〕
希土類永久磁石の中で、希土類元素、鉄およびホウ素を必須元素とする合金(以下、R−Fe−B合金という)は高価なCoを必須成分とせず、かつ安価なFeおよびBを多量に使用できるため、従来の高性能磁石の代表であった希土類−コバルト磁石より原料コストが安価であり、しかも希土類−コバルト磁石を凌ぐ高性能が期待できるため、その実用化に向かっての研究が活発に為されている。
R−Fe−B合金磁石の製造方法の一つに粉末冶金法がある。この方法では、一般に合金を溶製し、造塊した後、得られたインゴットを粗粉砕および微粉砕し、最終的には平均粒径が数μmの微粉末とする段階が実施される。かくして得られた微粉末は各種用途に合わせた形状に成型された後に、焼結、時効等の工程を経て、永久磁石となる。
〔発明が解決しようとする問題点〕
R−Fe−B合金は非常に酸化し易く、酸化により磁気特性は劣化するため、パラフィン等の表面被覆剤を微粉砕粉末と混合したり、あるいは成型時の潤滑剤であるステアリン酸亜鉛などを微粉砕粉末と混合するなどの工夫により微粉末の酸化を妨げる手段が一般に採用されている。しかしながら、これらの手段による処理を経て製造されたR−Fe−B合金磁石には次のような問題があることに本発明者らは着目した。
(1)活性な表面の単位重量当たりの割合が極めて大である微粉の状態でR−Fe−B合金とパラフィン、ステアリン酸亜鉛などとを混合するために、混合前に既にかなり酸化が進行しているか且/または混合中に酸化が進行することに起因して、製品の酸素含有量がかなり高くなる。かかる製品の酸素含有量を低くすると磁気特性の向上が期待できる。
(2)パラフィン、ステアリン酸亜鉛などと微粉砕粉末を混合するという工程が通常の粉末冶金工程に附加される。
〔問題点を解決するための手段〕
本発明は、上記した問題点を効果的に解決すべく、合金粗粉材に酸化防止有機剤を混合し、乾式微粉砕を行ない、粉砕中に粉末表面への酸化防止有機剤の被覆が進行し、微粉砕した微粉末表面が酸化防止有機剤によって被覆されることを特徴とし、その後通常の粉末冶金法により、酸素量が少なくかつ磁気特性が優れた永久磁石を得る希土類永久磁石の製造方法である。
本発明において、合金粗粉材および微粉材は従来、それぞれ、ディスクミル、およびジェットミルにより粉砕される平均粒径のものを指し、合金粗粉材の典型的平均粒径は30〜60メッシュアンダーであり、微粉の典型的平均粒径は1〜10μmである。上記合金粗粉材の平均粒径では、単位重量当たりの比表面積が小さいため、通常の方法で粉砕しても酸化は少ない。かかる合金粗粉材と酸化防止有機剤とを乳鉢あるいは混合撹拌機で混合するなどの方法で配合し、さらに微粉砕を行なうと、微粉砕中に酸化防止有機剤が粉末中に均一に混合されまた微粉末の個々の粒子は表面被覆剤などにより被覆される。酸化防止有機剤としては、従来表面被覆剤として使用されているパラフィンなど、酸化からR−Fe−B合金を保護し、成型工程では金型と成型体の摩擦を低減する作用をし、焼結工程では揮散する有機物質を用いることができる。また従来離型剤として使用されているステアリン酸亜鉛、ステアリン酸銅などを使用する事ができる。なお、これらに限らず、成型中の粉末の流動、充填の障害とならないパルチメン酸などの有機物質を使用することもできる。
R−Fe−B合金と酸化防止有機剤との配合量割合は特に制限がないが、前者が多すぎると酸化防止の効果がなく、一方後者が多すぎると成型工程に悪影響があり、また燃焼ガスの処理が厄介になるため、適当なる配合量比に調節する。その一例は、R−Fe−B合金100重量部に対して酸化防止有機剤を0.001〜0.2重量部である。
R−Fe−B合金の組成は、本発明においては、何等制限されない。即ち、永久磁石として有用な磁気的性質を具備するに足る程度の希土類元素を含み、このために易酸化性を帯びるあらゆるR−Fe−B合金に本発明法が適用できる。その組成の一具体例を示すと、5〜35%R,50〜93%Fe,2〜15%Bであり、Feは鉄族遷位金属で置換可能であり、また添加元素として、V,Ta,W,Nb,Mo,Cr,Ti,Hf,Ni,Sn,Zr,Mn,Ge,Biなどを適当量添加する組成例も可能である。希土類元素としては、Ndを始めとしてあらゆる元素を用いることができるが、特にミッシュメタルを用いたR−Fe−B合金に本発明法を適用すると酸化防止の効果が大きく、著しい磁気特性の改良がある。
微粉砕後の工程は通常の粉末冶金工程であり、本発明が特徴とするところではない。唯、この工程は酸化防止有機剤を揮散させるために、本発明において必須の工程である。
〔作 用〕
R−Fe−B合金の粗粉と表面被覆剤などを混合しながら微粉砕すると、微粉砕工程で表面被覆剤などが粉末の表面を被覆して空気による酸化の進行を妨げ、酸化され易い微粉が多くなるにともなって表面被覆剤が粉末をより密に被覆し、表面が活性な微粉状態でのR−Fe−B系合金と表面被覆剤との合金のための工程が省略され、これらの作用によって、焼結磁石中の酸素量が少なくなりそして磁気特性が向上する。
以下、実施例によりさらに具体的に本発明を説明する。
〔実施例〕
実施例1 Nd15B7Fe78の組成を有する合金を溶製した後、造塊し、得られたインゴットを32メッシュ以下の粒度まで粗粉砕を行なった。得られた粗粉に対して0.05重量%のステアリン酸亜鉛をN2ガス雰囲気で混合、撹拌した後、ジェット・ミル粉砕を行ない、平均粒径が4μmの微粉を得た。
この微粉を10kOeの磁場中で1.5ton/cm2の圧力で圧粉した後、1100℃、2時間、Arガス雰囲気中で焼結し、続いて600℃、1時間で時効処理を行なった(試料A)。
比較例1 実施例1で得られた32メッシュ以下の粗粉をジェット・ミル粉砕して、平均粒径が4μmの微粉を得た。得られた微粉に対して0.05重量%のステアリン酸亜鉛をN2ガス雰囲気で混合、撹拌した後、実施例1と同じ条件で磁場中成形、焼結、時効を行なった(試料B)。
実施例2 組成が((Ce0.7La0.30.5(Nd0.65Pr0.15Dy0.20.50.17((Fe0.97Al0.030.920.080.83である合金を実施例1と同じ方法で平均粒径が4μmの微粉にした。この微粉を10kOeの磁場中で1.5ton/cm2の圧力で圧粉した後、1070℃、2時間、Arガス雰囲気中で焼結し、続いて600℃、1時間で時効処理を行なった(試料C)。
比較例2 実施例2の粗粉を比較例1と同様に微粉にし、得られた微粉に対して0.05重量%のステアリン酸亜鉛をN2ガス雰囲気で混合、撹拌した後、実施例2と同じ条件で磁場中成形、焼結、時効を行なった(試料D)。
試料A〜Dの磁気特性および焼結体中の酸素量を表1に示す。




表1に示すように、本発明の実施例では製品の酸素量が少なくなる。唯、微粉砕前の酸化、微粉砕中の若干の酸化、および粉末冶金工程での酸化が避けられないため、製品の酸素量が痕跡量になっているのではない。それにも拘わらず、保磁力(iHc)および最大エネルギ積((BH)max)の向上はNd系R−Fe−B合金磁石およびミッシュメタル系R−Fe−B合金磁石の両者で顕著である。
〔発明の効果〕
本発明によると、R−Fe−B合金磁石の製品酸素量を簡単かつ確実な手段で低減するとともに、磁気特性の顕著な向上を達成できる。このためのコスト増要因は殆どなく、却って微粉末と表面被覆剤との混合を省略することによるコスト低減が期待できる。よって、本発明は、R−Fe−B合金磁石の弱点である酸化による磁気特性劣化を軽減する点で工業的に有意義である。

【特許請求の範囲】
1.希土類元素(Yを含む)、鉄およびホウ素を必須元素とする合金を粗粉砕および微粉砕して、粉末冶金法により永久磁石を製造する方法おいて、合金粗粉材に酸化防止有機剤を配合して乾式微粉砕を行ない、粉砕中に粉末表面への酸化防止有機剤の被覆が進行し、微粉砕した微粉末表面を酸化防止有機剤によって被覆して、その後通常の粉末冶金法により、酸素量が少なくかつ磁気特性が優れた永久磁石を得ることを特徴とする希土類永久磁石の製造方法2.希土類元素がミッシュメタルである特許請求の範囲第1項記載の希土類永久磁石の製造方法。

【特許番号】第2682619号
【登録日】平成9年(1997)8月8日
【発行日】平成9年(1997)11月26日
【国際特許分類】
【出願番号】特願昭61−243214
【出願日】昭和61年(1986)10月15日
【公開番号】特開昭63−98107
【公開日】昭和63年(1988)4月28日
【審判番号】平7−22280
【出願人】(999999999)ティーディーケイ株式会社
【合議体】
【参考文献】
【文献】特開 昭61−34101(JP,A)