説明

希土類磁石

【課題】優れたBr及びHcJを有する希土類磁石を提供する。
【解決手段】R(但し、RはYを含む希土類元素から選ばれる1種以上の元素であって、Ndを必須成分として含む)、B、Al、Cu、Zr、Co、O、C及びFeから主として構成され、各元素の含有割合が、R:25〜34質量%、B:0.85〜0.98質量%、Al:0.03〜0.3質量%、Cu:0.01〜0.15質量%、Zr:0.03〜0.25質量%、Co:3質量%以下(但し、0質量%を含まず。)、O:0.2質量%以下、C:0.03〜0.15質量%、Fe:残部、である希土類磁石。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類磁石、より詳しくは、R−T−B系の組成を有する希土類磁石に関する。
【背景技術】
【0002】
R−T−B(Rは希土類元素、TはFe等の金属元素)系の組成を有する希土類磁石は、優れた磁気特性を有する磁石であり、その磁気特性の更なる向上を目指して多くの検討がなされている。磁石の磁気特性を表す指標としては、一般に、残留磁束密度(Br)及び保磁力(HcJ)が用いられ、これらの積(最大エネルギー積)が大きいほど優れた磁気特性を有する磁石であると言うことができる。
【0003】
希土類磁石のBrやHcJは、その組成が変わることで変化することが知られている。例えば、下記特許文献1〜3には、BrやHcJの向上を目的として、それぞれ特徴的な組成を有する希土類磁石が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2004/029995号パンフレット
【特許文献2】特開2000−234151号公報
【特許文献3】国際公開第2005/015580号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、希土類磁石の用途は多岐にわたっており、従来に比して高い磁気特性が求められる場合が増えてきている。そのような状況下、BrやHcJといった磁気特性、特にBrは少しでも向上することができれば、工業的には極めて有用である。
【0006】
そこで、本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、優れたBr及びHcJを有する希土類磁石を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の希土類磁石は、R(但し、RはYを含む希土類元素から選ばれる1種以上の元素)、B、Al、Cu、Zr、Co、O、C及びFeから主として構成され、各元素の含有割合が、R:25〜34質量%、B:0.85〜0.98質量%、Al:0.03〜0.3質量%、Cu:0.01〜0.15質量%、Zr:0.03〜0.25質量%、Co:3質量%以下(但し、0質量%を含まず。)、O:0.2質量%以下、C:0.03〜0.15質量%、Fe:残部、であることを特徴とする。
【0008】
本発明の希土類磁石は、R14Bで表される基本組成を有する、いわゆるR−T−B系希土類磁石である。本発明の希土類磁石は、上述した組成を有していることから、従来に比してBr及びHcJを高いレベルで両立することができる。かかる理由については必ずしも明らかでないものの、次のように推測される。
【0009】
すなわち、本発明の希土類磁石は、まず、上述した基本組成よりもBの含有割合が小さい(0.98質量%以下である)ことから、Bリッチ相が過度に形成されることがなく、相対的に主相の体積比率が大きくなって、高いBrを有するようになる。また、通常、Bの量が少ないと、軟磁性のR17相が形成されてHcJの低下を招き易いが、本発明では微量のCuを含有していることから、このようなR17相の析出が抑制され、むしろHcJ及びBrの向上に有効なR14C相が生成するようになる。さらに、本発明の希土類磁石においては、Oの含有割合が0.2質量%以下と少ないことから、焼成時に液相が潤沢に存在することができ、これによりCuの分散が良好となることや、HcJに有効なRリッチ相が多くなることがある。これらの要因によって、本発明の希土類磁石によれば、優れたBr及びHcJの両方が得られると考えられる。
【0010】
また、本発明の希土類磁石は、主たる構成元素として更にGaを含むものであってもよい。すなわち、R(但し、RはYを含む希土類元素から選ばれる1種以上の元素)、B、Al、Cu、Zr、Co、O、C、Fe及びGaから主として構成され、各元素の含有割合が、R:25〜34質量%、B:0.85〜0.98質量%、Al:0.03〜0.3質量%、Cu:0.01〜0.15質量%、Zr:0.03〜0.25質量%、Co:3質量%以下(但し、0質量%を含まず。)、O:0.2質量%以下、C:0.03〜0.15質量%、Ga:0.2質量%以下(但し、0質量%を含まず。)Fe:残部であることを特徴とするものであってもよい。Gaを更に含むことで、HcJを一層向上させることが可能となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、優れたBr及びHcJを有する希土類磁石を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】Bの含有割合に対するBrの値をプロットしたグラフである。
【図2】Bの含有割合に対するHcJの値をプロットしたグラフである。
【図3】Cuの含有割合に対するBrの値をプロットしたグラフである。
【図4】Cuの含有割合に対するHcJの値をプロットしたグラフである。
【図5】Oの含有割合に対するBrの値をプロットしたグラフである。
【図6】Oの含有割合に対するHcJの値をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。
【0014】
好適な実施形態の希土類磁石は、R、B、Al、Cu、Zr、Co、O、C及びFeから主として構成され、各元素の含有割合が、R:25〜34質量%、B:0.85〜0.98質量%、Al:0.03〜0.3質量%、Cu:0.01〜0.15質量%、Zr:0.03〜0.25質量%、Co:3質量%以下(但し、0質量%を含まず。)、O:0.2質量%以下、C:0.03〜0.15質量%、Fe:残部、である。
【0015】
ここで、希土類磁石が、R、B、Al、Cu、Zr、Co、O、C及びFeから主として構成されるとは、希土類磁石が、製造時等において意図せずに混入した不可避不純物を除くと上記の元素のみで構成されることを意味する。本実施形態の希土類磁石には、上述した必須の構成元素以外に、Mn、Ca、Ni、Si、Cl、S、F等の不可避不純物が、0.001〜0.5質量%程度混入していてもよい。
【0016】
上述した組成を有する本実施形態の希土類磁石は、例えば、R14Bで表される正方晶系の結晶構造を有する粒子状の主相と、この主相間に配置された粒界相とから構成される。粒界相は、例えば、R元素の含有割合が大きいRリッチ相やBの含有割合が大きいBリッチ相等を含む。ここで、上記Tは、主に上述した構成元素のうちのFe及びCoである。希土類磁石に含まれるその他の元素は、添加成分として主相及び粒界のいずれにも含まれる場合がある。
【0017】
希土類磁石の構成元素のうち、Rは、Yを含む希土類元素から選ばれる1種以上の元素であり、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Yb、Lu及びYからなる群より選ばれる1種以上の元素が挙げられる。なかでも、Rとしては、Nd又はDyを必須成分として含むと好ましい。
【0018】
希土類磁石におけるRの含有割合は、25〜34質量%である。Rの含有割合が25質量%未満であると、主相であるR14B相が形成され難くなって、軟磁性を有するα−Fe相が形成され易くなり、その結果HcJが低下する。一方、34質量%を超えると、R14B相の体積比率が低くなり、Brが低下する。また、Rと酸素とが反応することで酸素の含有割合が過度に増加し、これに伴ってHcJに寄与するRリッチ相が減少することによりHcJも低下する。良好なBr及びHcJを得る観点からは、Rの含有割合の下限値は28質量%、上限値は30質量%であるとより好ましい。Rの含有割合が30質量%以下であると、主相であるR14B相の体積比率が特に高くなり、更に良好なBrが得られるようになる。
【0019】
上述のように、RとしてはNd又はDyが好ましい。特に、Dy14B相は、高い異方性磁界を有することから、HcJを向上させる効果がある。しかしながら、Dy14B相が多すぎる場合はBrが低下する傾向にあることから、Dyの含有割合は0.1〜8質量%として、残部が他の希土類元素(特にNd)となるようにすることが好ましい。Dyの含有割合は、高いBrを得る場合は0.1〜3.5質量%であると好ましく、一方、高いHcJを得る場合は3.5〜8質量%であると好ましい。
【0020】
また、希土類磁石におけるB(ホウ素)の含有割合は0.85〜0.98質量%である。Bの含有割合が0.85質量%未満であると、粒界相に軟磁性のR17相が析出し易くなり、HcJが低下する。一方。0.98質量%を超えると、Bリッチ相(例えばNd1.1)が過度に形成されて、Brが不十分となる。これらの観点から、Bの含有割合は、0.86〜0.98質量%であると好ましく、0.90〜0.94質量%であるとより好ましい。
【0021】
本実施形態の希土類磁石においては、Bの含有割合をR14Bで表される基本組成の化学量論比よりもわずかに小さくすることで、Bリッチ相が殆ど形成されないようにし、主相の体積比率を向上させることで、高いBrを得ることが可能となる。なお、従来、R−T−B系の希土類磁石の製造においては、異常粒成長を抑制するためにあえてBリッチ相を形成させることも多かったが、本実施形態では、上述した適量のZrが含まれるとともに、Oの含有割合が通常よりも小さくなるようにすることによって、Bリッチ相を形成させなくても異常粒成長を抑制することができる。その結果、より均一且つ微細な構造を有しており、しかも優れた磁気特性を有する希土類磁石を得ることが可能となる。
【0022】
また、希土類磁石は、R14Bの基本組成におけるTで表される元素としてFe(鉄)に加えてCo(コバルト)を含有しており、Coの含有割合は0質量%を超え3質量%以下である。CoはFeと同様の相を形成するが、Coを含む相を含むことで、希土類磁石のキュリー温度が向上するほか、粒界相の耐食性が向上する。
【0023】
さらに、希土類磁石は、必須の添加元素としてAl(アルミニウム)及びCu(銅)を含有している。これらの元素を含むことによって、希土類磁石のHcJ、耐食性及び温度特性が向上する。Alの含有割合は、0.03〜0.3質量%である。また、Cuの含有割合は0.01〜0.15質量%である。
【0024】
特に、本実施形態においては、従来、B量が少ないと粒界相に軟磁性のR17相が析出してHcJの低下を招き易かったところ、Cuを含有することで、例えばR14C相が析出し易くなることによってR17相の析出が抑制され、これによりHcJが良好に維持されるようになる。このようなCuによる効果は、上述した本実施形態におけるBの含有割合の場合に特に顕著に得られる傾向にある。そして、Cuの含有割合が0.01質量%未満であったり0.15質量%を超えたりすると、このような効果が十分に得られず、また、0.01質量%未満である場合はBrの低下も生じる。Cuの含有割合は、0.03〜0.11質量%であるとより好ましい。
【0025】
また、本実施形態の希土類磁石におけるO(酸素)の含有割合は、0.2質量%以下であり、Oを含有していなくてもよい。Oの含有割合が0.2質量%を超えると、非磁性の酸化物相の割合が増大してBrやHcJが低下する。特に、本実施形態の希土類磁石のように、Bの含有割合が化学量論量よりも小さく、且つCuを含む組成とした場合に、上記のような低酸素とすることによる磁気特性の向上効果が顕著に得られる。
【0026】
さらに、上述のようにBの含有割合を化学両論量よりも小さくして実質的なBリッチ(R)相を無くし、且つ、上記のような低酸素とすることで焼成時の液相量を増加させることにより、焼成時の焼結性が変化して、得られる希土類磁石は、低温度領域でも十分な焼結がなされたものとなる。その結果、本実施形態の希土類磁石は、焼結後の結晶粒径が微細であり、これによっても高HcJを発揮し得るものとなり得る。
【0027】
なお、磁気特性を向上させる観点からは、Oの含有割合はできるだけ小さいことが好ましいが、通常、製造時等に大気中の酸素等に由来するOが不可避的に希土類磁石に取り込まれるため、Oを含有させないようにするのは困難である。そのため、Oの含有割合の下限値は、通常0.03質量%程度、より好ましくは0.005質量%程度となる。なお、Oを含むことで、過焼結を防止し、且つ優れた角形性が得られる場合もあることから、このような特性を良好に得る観点からは、Oの含有割合の下限値を上記範囲とすることが好ましい。Oのより好適な含有割合は、0.03〜0.1質量%である。これらの観点から、Oの含有割合は、0.03〜0.07質量%であると更に好ましく、0.03〜0.04質量%であると特に好ましい。
【0028】
さらに、本実施形態の希土類磁石は、Zr(ジルコニウム)を0.03〜0.25質量%含有する。Zrは、希土類磁石の製造過程での結晶粒の異常成長を抑制することができ、得られる焼結体(希土類磁石)の組織を均一且つ微細にして磁気特性の向上に寄与する。特に、本実施形態のようなOの含有割合が小さい(0.2質量%以下)場合に、このようなZrの効果が顕著となる。
【0029】
Zrの含有割合が0.03質量%未満であると、結晶粒の異常成長を抑制する効果が十分に得られなくなり、希土類磁石の角形比が低下する。また、0.25質量%を超えると、希土類磁石のBr及びHcJが不十分となる。ここで、角形比とは、Hk/HcJで表される値であり、Hkとは、磁気ヒステリシスループ(4πI−Hカーブ)の第2象限における磁化がBrの90%となるときの磁界強度である。この角形比は、外部磁界の作用や温度上昇による減磁のし易さを表すパラメータであり、角形比が小さいと、減磁の程度が大きい性質があることを意味する。また、角形比が小さいと、着磁に要する磁界強度が増大する。さらに、角形比が小さい希土類磁石は、磁気ヒステリシスループの第2象限の形状に問題があるため、磁石としての適用が困難となる傾向にある。
【0030】
さらに、希土類磁石におけるC(炭素)の含有割合は、0.03〜0.15質量%である。このCの割合が少なすぎる場合、粒界相に軟磁性のR17相が析出し易くなってHcJが低下する。また、多すぎる場合は、角形比の低下が見られる。
【0031】
さらにまた、希土類磁石は、上述した元素に加えて、主たる構成元素としてGaを更に含むものであってもよい。この場合、Gaの含有割合は、0質量%を超え0.2質量%以下であると好ましく、0.05〜0.15質量%であるとより好ましい。なお、Gaを含む場合も、その他の構成元素の含有割合は上記と同様である。希土類磁石がGaを含む組成を有する場合、このGaが主相の異方性磁界を向上させることができると考えられ、これによってHcJが向上する傾向にある。また、Gaを含むことで、最適なBの含有割合の範囲内でのBの量の変動に対して、HcJが高いレベルで安定する傾向にもある。Gaの含有割合が多すぎる場合、上記の好適範囲とした場合に比べて飽和磁化が低くなりBrが低下する傾向にある。また、Gaは比較的高価であるため、コスト低減の観点からはその使用量はできるだけ少ない方が望ましい。
【0032】
本実施形態の希土類磁石は、上述したように、R14Bで表される組成を有する主相から主に形成されるが、RとしてDyを含む場合、粒子状の主相の外周近傍はDyの含有割合が大きい相(シェル)であり、その内側がDyの含有割合が小さい相(コア)であるコアシェル構造を有していると好ましい。このようなコアシェル構造を有していると、Dyの含有割合が大きいシェル部による高いHcJと、Dyの含有割合が小さいコア部による高いBrとが得られ、優れたHcJ及びBrの両方が得られ易くなる。特に、Dyは高価な元素でもあるため、このようなコアシェル構造を採用することで、Dyの使用量を最小限にして高いHcJが得られることから、コストの低減にも有効である。そして、このようなコアシェル構造は、本実施形態の希土類磁石の組成、特に、B及びOの含有割合が小さく、Cuを含む組成において、特に形成され易い傾向にある。
【0033】
次に、上述した実施形態の希土類磁石の製造方法について説明する。
【0034】
希土類磁石の製造においては、まず、希土類磁石の各構成元素の原料金属を準備し、これらを用いてストリップキャスティング法等を行なうことにより原料合金を作製する。原料金属としては、例えば、希土類金属や希土類合金、純鉄、フェロボロン、またはこれらの合金が挙げられる。そして、これらを用い、所望とする希土類磁石の組成が得られる原料合金を作製する。なお、原料合金としては、組成が異なる複数のものを準備してもよい。
【0035】
次に、原料合金を粉砕して、原料合金粉末を準備する。原料合金の粉砕は、粗粉砕工程及び微粉砕工程の段階で行うことが好ましい。粗粉砕工程は、例えば、スタンプミル、ジョークラッシャー、ブラウンミル等を用い、不活性ガス雰囲気中で行うことができる。また、水素を吸蔵させた後、粉砕を行う水素吸蔵粉砕を行うこともできる。粗粉砕工程においては、原料合金を、粒径が数百μm程度となるまで粉砕を行う。
【0036】
次に、微粉砕工程において、粗粉砕工程で得られた粉砕物を、更に平均粒径が3〜5μmとなるまで微粉砕する。微粉砕は、例えば、ジェットミルを用いて行うことができる。なお、原料合金の粉砕は、必ずしも粗粉砕と微粉砕との2段階で行なう必要はなく、はじめから微粉砕工程を行ってもよい。また、原料合金を複数種類準備した場合は、これらを別々に粉砕して混合するようにすればよい。
【0037】
続いて、このようにして得られた原料粉末を磁場中で成形して、成形体を得る。より具体的には、原料粉末を電磁石中に配置された金型内に充填した後、電磁石により磁場を印加して原料粉末の結晶軸を配向させながら、原料粉末を加圧することにより成形を行なう。この磁場中の成形は、例えば、12.0〜17.0kOeの磁場中、0.7t/cm〜1.5t/cm程度の圧力で行えばよい。
【0038】
磁場中成形後、成形体を真空又は不活性ガス雰囲気中で焼成し、焼結体を得る。焼成は、組成、粉砕方法、粒度等の条件に応じて適宜設定することが好ましいが、例えば、1000〜1100℃で1〜5時間行なえばよい。
【0039】
そして、焼結体に対して、必要に応じて時効処理を施すことにより、希土類磁石を得る。時効処理を行うことによって、得られる希土類磁石のHcJが向上する傾向にある。時効処理は、例えば、2段階に分けて行うことができ、800℃近傍、及び600℃近傍の2つの温度条件で時効処理を行うと好ましい。このような条件で時効処理を行うと、特に優れたHcJが得られる傾向にある。なお、時効処理を1段階で行う場合は、600℃近傍の温度とすることが好ましい。
【0040】
以上、好適な実施形態の希土類磁石及びその製造方法について説明したが、本実施形態の希土類磁石は、上述のように、Bの含有割合が小さいことから、Bリッチ相の形成が抑制されて主相であるR14B相の割合が多くなるため、優れたBrが得られる。また、希土類磁石は、Cuを含むことから、Bの含有割合が少ないにもかかわらず軟磁性のR17相の形成が抑制され、その結果高いHcJが得られる。さらに、本実施形態の希土類磁石では、Oの含有割合が小さいため、実質的なR量が多い状態となり、これにより、HcJに寄与するRリッチ相が増大したり、R14B相やR14C相の形成が有利となってR17相が更に形成され難くなったりする。その結果、上述したようなBrやHcJの向上効果が特に顕著に得られるようになる。
【実施例】
【0041】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0042】
[希土類磁石の製造]
(実施例1〜23、比較例1〜9)
まず、希土類磁石の原料金属を準備し、これらを用いてストリップキャスティング法により、下記表1で表される実施例1〜23及び比較例1〜9の希土類磁石の組成が得られるように、それぞれ原料合金を作製した。
【0043】
次に、得られた原料合金に水素を吸蔵させた後、Ar雰囲気で600℃、1時間の脱水素を行う水素粉砕処理を行った。なお、本実施例では、この水素粉砕から、焼成までの各工程(微粉砕及び成形)を、100ppm未満の酸素濃度の雰囲気下で行なった。
【0044】
続いて、水素粉砕後の粉末に、粉砕助剤としてオレイン酸アミドを0.15wt%添加し、ナウターミキサーを用いて5〜30分間混合した後、ジェットミルを用いて微粉砕を行い、平均粒径が3μmである原料粉末を得た。
【0045】
それから、原料粉末を、電磁石中に配置された金型内に充填し、15kOeの磁場を印加しながら1.2t/cmの圧力を加える磁場中成形を行い、成形体を得た。その後、成形体を、真空中で1030℃で4時間焼成した後、急冷して焼結体を得た。そして、得られた焼結体に対し、850℃で1時間、及び、540℃で2時間(ともにAr雰囲気中)の2段階の時効処理を施し、実施例1〜23及び比較例1〜9の希土類磁石をそれぞれ得た。
【0046】
[特性評価]
(Br、HcJ及びHk/HcJの測定)
実施例1〜23、比較例1〜9で得られた希土類磁石について、B−Hトレーサーを用いてBr(残留磁束密度)、HcJ(保磁力)及びHk/HcJ(角形比)をそれぞれ測定した。得られた結果を表1にまとめて示す。
【0047】
【表1】

【0048】
(評価1)
Oの含有割合が0.05wt%であり、Bの含有割合が0.84〜1.00の範囲で異なる希土類磁石(比較例1、2及び実施例1〜5)、及び、Oの含有割合が0.036wt%であり、Bの含有割合が0.88〜0.96の範囲で異なる希土類磁石(実施例10〜13)について、Bの含有割合に対するBrの値をプロットしたグラフを図1に、HcJの値をプロットしたグラフを図2にそれぞれ示す。また、これらの図中には、比較のため、Oの含有割合が0.21又は0.22wt%(「約0.22wt%」とまとめて示す)であり、Bの含有割合が0.90〜0.97の範囲で異なる希土類磁石(比較例3〜6)について、Bの含有割合に対するBr又はHcJの値をそれぞれプロットして得られたグラフも併せて示す。
【0049】
図1及び図2より、Oの含有割合が0.036wt%又は0.05wt%と小さい場合は、Bの含有割合が1wt%未満の特定の範囲(例えば、0.85〜0.98wt%)においてBr及びHcJが向上していることが確認された。一方、Oの含有割合が約0.22wt%である場合は、このようなBr及びHcJの向上効果は得られていなかった。
【0050】
このことから、Oの含有割合が小さく、しかもBの含有割合が1wt%未満の特定の範囲である場合に、優れたBr及びHcJの両方が得られることが確認された。なお、比較例7の希土類磁石は、Oの含有割合が0.50wt%であるものであるが、低密度であり、測定し得る程度の磁気特性が得られなかった。
【0051】
(評価2)
Cuの含有割合が0.00〜0.18の範囲で異なる希土類磁石(実施例4、6及び7並びに比較例8及び9)について、Cuの含有割合に対するBrの値をプロットしたグラフを図3に、HcJの値をプロットしたグラフを図4にそれぞれ示す。
【0052】
図3及び4より、Cuの含有割合が大きくなるとBrの低下が見られるものの、Cuの含有割合が小さくなり過ぎるとHcJが低下してしまうことが確認された。その結果、希土類磁石は、少なくともCuを含み、しかもCuの含有割合が大きくなり過ぎない場合(例えば、0.15wt%以下の場合)に、優れたBr及びHcJを両立させ得ることが確認された。
【0053】
(評価3)
Bの含有割合が0.90wt%であり、Oの含有割合が0.037〜0.22の範囲で異なる希土類磁石(実施例4、8、9及び12並びに比較例6)、及び、Bの含有割合が0.96又は0.97wt%(「0.97wt%」とまとめて示す)であり、Oの含有割合が0.036〜0.21の範囲で異なる希土類磁石(実施例1、10及び比較例3)について、Oの含有割合に対するBrの値をプロットしたグラフを図5に、HcJの値をプロットしたグラフを図6にそれぞれ示す。
【0054】
図5及び6より、Oの含有割合が大きくなるにしたがって、Br及びHcJのいずれもが低下してしまうことが確認された。したがって、これらの結果からも、Oの含有割合が小さい場合(特に0.1wt%以下である場合)に、優れたBr及びHcJが得られることが判明した。また、Oの含有割合が小さいほどBr及びHcJが向上しているが、この向上の度合いは、Bの含有割合が0.90wt%の場合の方が、0.97wt%の場合よりも大きいことが確認された。
【0055】
[希土類磁石の製造]
(実施例24〜28)
下記表2で表される実施例24〜28の組成が得られるようにしたこと以外は、実施例1等と同様にして実施例24〜28の希土類磁石をそれぞれ作製した。これらは、実施例1等の組成に加えて、更にGaを主たる構成元素として含む組成を有するものである。
【0056】
[特性評価]
(Br、HcJ及びHk/HcJの測定)
実施例24〜28で得られた希土類磁石について、実施例1等と同様にしてBr(残留磁束密度)、HcJ(保磁力)及びHk/HcJ(角形比)をそれぞれ測定した。得られた結果を表2にまとめて示す。
【0057】
【表2】

【0058】
表2より、Gaを更に含む組成を有する希土類磁石は、Gaを含まない同様の組成(例えば、実施例2、4、5等)に比べると、特にHcJが向上していることが確認された。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
R(但し、RはYを含む希土類元素から選ばれる1種以上の元素であって、Ndを必須成分として含む)、B、Al、Cu、Zr、Co、O、C及びFeから主として構成され、
各元素の含有割合が、
R:25〜34質量%、
B:0.87〜0.94質量%、
Al:0.03〜0.3質量%、
Cu:0.03〜0.11質量%、
Zr:0.03〜0.25質量%、
Co:3質量%以下(但し、0質量%を含まず。)、
O:0.03〜0.1質量%、
C:0.03〜0.15質量%、
Fe:残部、
である、ことを特徴とする希土類磁石。
【請求項2】
R(但し、RはYを含む希土類元素から選ばれる1種以上の元素であって、Ndを必須成分として含む)、B、Al、Cu、Zr、Co、O、C、Fe及びGaから主として構成され、
各元素の含有割合が、
R:25〜34質量%、
B:0.87〜0.94質量%、
Al:0.03〜0.3質量%、
Cu:0.03〜0.11質量%、
Zr:0.03〜0.25質量%、
Co:3質量%以下(但し、0質量%を含まず。)、
O:0.03〜0.1質量%、
C:0.03〜0.15質量%、
Ga:0.2質量%以下(但し、0質量%を含まず)、
Fe:残部、
である、ことを特徴とする希土類磁石。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−70062(P2013−70062A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−224088(P2012−224088)
【出願日】平成24年10月9日(2012.10.9)
【分割の表示】特願2008−544690(P2008−544690)の分割
【原出願日】平成20年6月27日(2008.6.27)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】