説明

帯域阻止フィルタ

【課題】伝送線路内を通じて発生する、隣接した共振器間の不要結合を低減することができ、小形でかつ高減衰量を確保することのできる帯域阻止フィルタを得る。
【解決手段】内導体101と、外導体102とで構成された伝送線路100と、伝送線路100の両端に位置し、外部回路に接続される入出力端子501と、外導体100に設けられた結合孔201と、結合孔201を介して伝送線路100との間で電磁界結合する2つ以上の共振器301とを備えている。伝送線路100内において、結合孔201の少なくとも1つの入力端子側と出力端子側の双方とには、結合孔201の中心から阻止周波数における波長の1/8未満の距離に、外導体102の内壁の異なる2点間を電気的に短絡する不要結合低減手段が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、伝送線路と共振器とからなるマイクロ波帯およびミリ波帯の帯域阻止フィルタに関し、特に、伝送線路の結合孔の近傍に不要結合低減手段を設けた帯域阻止フィルタに関するものである。
ここでは、伝送線路として、同軸線路やサスペンデッド線路のような、内導体を電気的に取り囲むように外導体が存在する形状や、トリプレート線路のような、内導体の上下に地導体が配置された形状を想定している。
【背景技術】
【0002】
従来から、マイクロ波帯送受信装置で用いられる帯域阻止フィルタの一例として、電気壁で囲まれた共振器(直方体の誘電体)の1つの表面に結合孔を設け、結合孔を介して複数の共振器を伝送線路に多段に接続する構成が知られている(たとえば、特許文献1参照)。また、伝送線路としては、誘電体基板を用いたトリプレート線路が採用されている。
【0003】
特許文献1に記載の帯域阻止フィルタは、結合孔以外の場所を電気壁で覆った誘電体を共振器とし、結合孔以外の周囲を電気壁で覆った誘電体基板の層間にストリップ線路を設けた伝送線路により構成されている。
【0004】
上記従来の帯域阻止フィルタにおいては、共振周波数の近傍で、結合孔を介して共振器と伝送線路との間で電磁界エネルギーの交換が行われており、入力端子から入力された高周波信号のうち、共振周波数の近傍の信号は、入力側に反射される。したがって、共振器を一定の間隔で複数個配置することにより、共振周波数を中心とする帯域において減衰する特性(帯域阻止形のフィルタ特性)が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−203506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の帯域阻止フィルタは、トリプレート線路の上下地導体間が電気的に接続されていない場合には、基本モードであるTEMモード以外に平行平板モードが発生する。一方、内導体の上下の地導体を接続した場合には、平行平板モードは回避されるものの、伝送線路の断面形状に依存した高次モードが発生し、この高次モードは、伝送線路内で遮断特性を有しており、距離に依存して減衰するという特性を有する。しかしながら、基本モード以外の高次モードによって、阻止周波数の信号が隣接する共振器に伝送線路を通じて伝搬される場合には、所望の減衰量が確保できないという課題があった。
【0007】
特に、帯域阻止フィルタを形成するために必要な最短の共振器間隔λo/4(λoは阻止周波数の波長)で共振器が配置される場合には、上記課題の影響が顕著となる。また、この場合、共振器間隔が短いことから、距離による減衰量が不十分であり、高次モードが微弱ながらも伝搬する。阻止帯域幅が比較的広い場合には、共振器と伝送線路との間が密結合となるうえ、結合孔が大きいので、伝送線路が不連続となりやすく、高次モードの発生量そのものが増加する。共振器で発生した電磁界エネルギーは、基本モードで減衰されるものの、高次モードで伝搬される信号レベルが優勢となり、結果として、高い減衰量を得ることが困難になるという課題があった。
【0008】
一方、共振器間隔を3λo/4(最短の共振器間隔の3倍)に設定した場合には、高次モードの伝搬がある程度抑圧されて隣接する共振器間の不要結合が低減され、フィルタの減衰量の向上が見込めるものの、全体の軸長が長くなりコンパクトに収めることができないので、小形化および軽量化が強く要求される場合には、適用することができないという課題があった。
【0009】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、隣接する共振器間の不要結合を低減することができ、小形ながらも高減衰量を確保することのできる帯域阻止フィルタを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明に係る帯域阻止フィルタは、外部回路に接続される入力端子および出力端子と、結合孔とを有する伝送線路と、結合孔を介して伝送線路との間で電磁界結合する1つまたは複数の共振器とを備えた帯域阻止フィルタであって、結合孔の少なくとも1つの入力端子側と出力端子側の双方において、前記結合孔の中心から阻止周波数における波長の1/8未満の距離に、前記外導体の内壁の異なる2点間を電気的に短絡する不要結合低減手段が設けられたものである。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、不要結合低減手段により、伝送線路内の高次モードを閉じ込める作用があるので、結合孔付近で発生する電磁界エネルギーを伝搬させない効果と、伝送線路内の不連続構造によらず、共振周波数および外部Q値を安定化する効果がある。これにより、伝送線路内を通じて発生する隣接する共振器間の不要結合を低減して、小形ながらも高減衰量を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明の実施の形態1に係る帯域阻止フィルタの外観を示す平面図である。
【図2】図1内のA−A線による側断面図である。
【図3】図2内のB−B線による平断面図である。
【図4】図2内の共振器の第1空間領域の電磁界分布(TE101モード)を平断面図、C−C側断面図およびD−D側断面図で示す説明図である。
【図5】図2の帯域阻止フィルタのTEMモードを示す説明図である。
【図6】図5内のE−E線による平断面図である。
【図7】図5内のF−F線による側断面図である。
【図8】図2の帯域阻止フィルタの方形同軸線路の最低次の高次モードを示す説明図である。
【図9】図8内のG−G線による平断面図である。
【図10】図8内のH−H線による側断面図である。
【図11】この発明の実施の形態1における結合孔の異なる形成例を示す平面図である。
【図12】この発明の実施の形態1に係る帯域阻止フィルタの等価回路図である。
【図13】図1内のA−A線による側断面図の異なる配置例である。
【図14】この発明の実施の形態3に係る帯域阻止フィルタを示す側断面図である。
【図15】図14内のJ−J線による平断面図である。
【図16】この発明の実施の形態4に係る帯域阻止フィルタを示す側断面図である。
【図17】図16内のK−K線による平断面図である。
【図18】この発明の実施の形態5に係る帯域阻止フィルタを示す側断面図である。
【図19】図18内のL−L線による平断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
実施の形態1.
図1〜図13はこの発明の実施の形態1を説明するための図であり、図1は帯域阻止フィルタの外観を示す平面図、図2は図1内のA−A線による側断面図、図3は図2内のB−B線による平断面図である。
【0014】
図4〜図12はこの発明の実施の形態1が適用される帯域阻止フィルタの基本構成および電磁界分布を説明するための図である。
図4は図2内の共振器301を示す説明図であり、共振器301内の基本的な電磁界分布(TE101モード)を、平面図、C−C断面図およびD−D断面図で示している。
【0015】
図5は図2の帯域阻止フィルタのTEMモード(基本モード)を示す説明図であり、不要結合低減手段となる仕切り構造(図2、図3内の金属導体111a〜118b)を除去して、基本モードの磁界分布を、図1内のA−A線による側断面図で示している。
図6は図5内のE−E線による平断面図、図7は図5内のF−F線による側断面図であり、かつ電磁界分布を示す。
【0016】
図8は図2の帯域阻止フィルタにおける、方形同軸線路の最低次の高次モードを示す説明図であり、不要結合低減手段(仕切り構造)を除去して、伝送線路100上に最低次の高次モードの電磁界分布を示した状態を、図1内のA−A線による側断面図で示している。なお、方形同軸線路の最低次の高次モードの電磁界分布は、方形導波管の基本モード(TE10モード)に類似している。
図9は図8内のG−G線による平断面図、図10は図8内のH−H線による側断面図であり、かつ電磁界分布を示す。
【0017】
図11はこの発明の実施の形態1における結合孔201の異なる形状例を示す平面図であり、共振器301と伝送線路100とを接続する結合孔201の形状例を示している。
図12はこの発明の実施の形態1に係る帯域阻止フィルタの同等価回路である。
図13はこの発明の実施の形態1における共振器301の異なる配置例を示す側断面図(A−A線による)である。
【0018】
ここでは、伝送線路100として方形同軸線路を適用した場合を例にとって説明する。
また、共振器301として、空気または誘電体の周囲を電気壁で閉じた単純な形状を例にとって説明する。
【0019】
ただし、伝送線路100は、横断面が円形や楕円形の同軸線路であってもよいし、共振器301の形状は、空気層と誘電体層との複合物であっても問題なく、かつ、その接続方法に制限を付けないものとする。
【0020】
また、共振器301の数を4個としているが、4個未満、または5個以上であっても、この発明の内容を制限するものではない。
さらに、結合孔201についても、図11の形状に制限されることはなく、別の形状、数量であっても構わない。
【0021】
図1〜図3において、この発明の実施の形態1に係る帯域阻止フィルタは、筐体構造を有する方形同軸形の伝送線路100と、伝送線路100上に配置された1つ以上(ここでは、4個)の共振器301とにより構成されている。
伝送線路100は、内導体101と、内導体101を覆う外導体102と、内導体101と外導体102との間に介在された第1誘電体103とにより構成されている。
【0022】
外導体102は、上面両端部に入出力端子501を有するとともに、上面に少なくとも1つ(ここでは、4個)の結合孔201a〜201d(以下、総称して「結合孔201」ともいう)が形成されている。
共振器301は、図2に示すように、外導体102の上面および201a〜201dを共有構成として、第1導体203に覆われて形成されており、λo/4(λoは阻止周波数の波長)の間隔10a〜10cだけ距離を置いて伝送線路100上に配置されている。
【0023】
外導体102の内部においては、図2、図3に示すように、たとえば結合孔201aの付近に、金属導体111a、111b、112a、112bと、外導体102の上下幅広面106、107と、により囲まれた仕切り構造が存在する。
【0024】
伝送線路100と共振器301とは、結合孔201を介して電磁界結合が行われ、入出力線路端で帯域阻止形のフィルタ特性を有する。
各共振器301は、図12の等価回路において、共振回路410として表され、抵抗値が0であれば、共振周波数で短絡線路として動作し、出力側に高周波信号を通さない帯域阻止形の性質を有する。
【0025】
図4においては、共振器301内の基本的な電磁界分布(TE101モード)を示している。
図5〜図7は、仕切り構造(金属導体111a〜118b)を除いた状態での伝送線路100上の基本モード(TEMモード)の高周波伝搬状態を示している。
【0026】
図5〜図7において、第1導体203で囲まれた共振器301に蓄えられたTE101モードの電磁界エネルギーは、共振周波数近傍で、結合孔201を介して、基本モード(TEMモード)で伝送線路100との間で電磁界結合される。
この電磁界結合が所定間隔で複数段配列されることにより、出力側において所望周波数の高周波信号が減衰されるという、帯域阻止形のフィルタ特性が得られる。
【0027】
図8〜図10は、仕切り構造(金属導体111a〜118b)を除いた状態での、最低次の高次モードにおける高周波伝搬状態を示している。
図8〜図10において、第1導体203で囲まれた第2誘電体202に蓄えられたTE101モードの電磁界エネルギーは、方形同軸線路である伝送線路100の最低次の高次モードとの間で、結合孔201を介して磁界結合される。
【0028】
方形同軸線路の断面寸法を適切に選定することにより、上記の高次モードは、阻止周波数でエバネッセント(evanescent)波となるので、共振器301から漏洩する高次モードの電磁界の強度は、距離に応じて指数関数的に減衰する。
しかし、たとえば、結合孔201が広く、かつ隣接する共振器301の結合孔201(たとえば、201aと201bと)の間隔10aが回路上の最短距離であるλo/4の長さである場合には、隣接する共振器の相互間で不要結合が生じて、減衰量の低減が生じやすい。
【0029】
すなわち、帯域阻止フィルタに高い減衰量が要求される場合は、結合孔201は広くなる傾向にあるので、仕切り構造を備えていない場合には、共振器301内の電磁界エネルギーが結合孔201を通じて伝送線路100側に漏洩し、高次モードを介して隣接する共振器301と不要結合が発生する。また、伝送線路内の不連続部分によって電磁界分布が乱されるので、共振周波数および外部Q値が安定化されないという問題も生じる。
【0030】
これに対し、図1〜図3のように、金属導体111a〜118bの仕切り構造を適用することにより、方形同軸線路からなる伝送線路100の断面寸法の横幅を短くすることができ、方形同軸線路の最低次の高次モードのカットオフ周波数をさらに高くすることが可能である。
すなわち、方形同軸線路の最低次の高次モードで伝搬する高周波信号は、大きく減衰するので、隣接する共振器301に不要結合しにくくなる特徴を有する。
【0031】
また、金属導体111a〜118bの仕切り構造により、共振器301から漏洩する電磁界エネルギーが伝送線路100内の仕切り構造より外側に漏れず、共振器301および金属導体111a〜118bで囲まれた領域のみに電磁界が分布するので、仕切り構造より外側における主線路内の電磁界分布にかかわらず、共振周波数および外部Q値が安定するという特徴を有する。
なお、金属導体112aと113a、金属導体112bと113bなど、1つの共振器の出力側の仕切り構造と、隣接する共振器の入力側の仕切り構造が一体化してもよい。
【0032】
以上のように、この発明の実施の形態1(図1〜図3)に係る帯域阻止フィルタは、外部回路に接続される入出力端子501と1つ以上の結合孔201とを有する伝送線路100と、結合孔201を介して伝送線路100との間で電磁界結合する1つ以上の共振器301と、伝送線路100内において結合孔201の入力端子側および出力端子側の双方に設けられた不要結合低減手段と、を備えている。
【0033】
伝送線路100は、高周波信号を伝送する同軸線路形を有し、金属で形成された円形または方形の同軸線路の内導体101と、内導体101の外側の少なくとも一部を取り囲むように配置された、第1誘電体103と、第1誘電体103の外側を取り囲むように配置され、結合孔201が設けられ、かつ両端部に外導体102が設けられた同軸線路の外導体102と、により構成されている。
【0034】
共振器301は、結合孔201を介して伝送線路100との間で電磁界結合するために、外導体102の外側に近接して結合孔201の付近に配置されており、第2誘電体202と、第2誘電体202の周囲を取り囲むように配置された第1導体203と、により構成されている。
不要結合低減手段は、伝送線路100内の内導体101との電気的接触を避けるように配置された複数の金属導体111a〜118bにより構成されている。
【0035】
このように、不要結合低減手段として、仕切り構造となる金属導体111a〜118bを設けることにより、伝送線路100内の高次モードを伝搬させない効果とともに、共振器301から漏洩する電磁界エネルギーの漏洩を抑える効果もあるので、電磁界分布が固定されて、伝送線路100内の他の構造物にかかわらず、共振周波数および外部Q値を固定することができる。
また、伝送線路100内において、内導体101との電気的接触を避けるように金属導体111a〜118bを設けることにより、外導体102の横断面の幅方向(図7〜図10の横方向)の寸法を短くすることができる。
【0036】
したがって、伝送線路100を方形同軸線路とした場合、金属導体111a〜118bが外導体102の内壁を狭めることにより、方形同軸線路の最低次の高次モードのカットオフ周波数が上昇するので、高次モードによる高周波エネルギーの伝搬をさらに抑圧することが可能となる。
【0037】
同様に、伝送線路100が円形同軸線路の場合であっても、円形導波管でいうところの円形TE11モードに類似した、円形同軸線路の最低次の高次モードの抑圧効果を実現することができる。
また、他の高次モードにおいても同様であり、この発明の実施の形態1の構造により、不要結合を低減することができる。
さらに、電磁界の分布領域が固定されるので、伝送線路100内の他の構造物にかかわらず、共振周波数および外部Q値を固定することができる。
【0038】
この結果、不要結合低減手段により、伝送線路100内の高次モードを伝搬させない作用と、共振器301から漏洩する電磁界エネルギーの漏洩を抑える作用とを実現し、電磁界分布を固定するとともに、共振周波数および外部Q値を固定することができ、共振器301の外部Q値が小さい(この場合、主線路と共振器が密結合な)場合であっても不要結合を低減して、小形でかつ高減衰量を確保した帯域阻止フィルタを得ることができる。
【0039】
また、この発明の実施の形態1によれば、帯域阻止フィルタの設計を容易にすることが可能である。ここで、通常の帯域阻止フィルタの設計作業の煩雑性について説明する。
一般に、帯域阻止フィルタを設計する際には、フィルタに要求される性能から、共振周波数、外部Qなど、各共振器に必要な特性が得られる。各共振器の設計では、物理構造を考慮した共振器の電気特性が、等価回路上の共振器の電気特性と一致するように、物理構造の調整が行われる。
【0040】
しかしながら、このように設計された複数の共振器301と伝送線路100を組み合わせた場合、主線路となる伝送線路を介して不要結合が生じ、所望の減衰量が確保できないことがある。この問題を回避するためには、伝送線路100の途上に仕切り構造を設けることが考えられるが、共振器に必要な外部Q値が小さい(密結合である)場合、結合孔が大きくなるため伝送線路内に不連続部分が生じて、高次モードの発生量そのものが増加しやすい。このため、伝送線路に配置した仕切り構造の影響を受けて、共振周波数および外部Q値が変化するという問題があった。
【0041】
通常、上記問題が発生する場合、仕切り構造を設けたうえで、さらに共振器301の構造に変化を加え、共振周波数および外部Q値を調整する作業が追加で必要となっていた。
【0042】
この発明の実施の形態1に係る帯域阻止フィルタの設計では、1つの共振器301と、仕切り構造を配置した伝送線路100の一部を組み合わせて共振周波数と外部Q値の設計を行い、それらを縦列接続してフィルタを形成する。この結果、共振器単体の特性が変化せず、所望の帯域阻止形のフィルタ特性を容易に得られる。
【0043】
上記設計手法によれば、共振周波数および外部Q値を調整する追加の作業が必要でなく、設計の簡素化が図れる。さらには設計費の低減により、製品の低コスト化を実現することが期待できる。
【0044】
実施の形態2.
なお、上記実施の形態1(図1〜図3)では、伝送線路100の上に共振器301が搭載される構造を想定したが、結合孔201を介して伝送線路100と共振器301が電磁界エネルギーを交換するためには、上記位置関係に限られるものではない。
以下、この発明の実施の形態2について説明する。なお、伝送線路や共振器の概略形状などは上記実施の形態1と類似しているので、ここでは、図13を参照しながら、配置についての相違点のみ述べる。
【0045】
図13においては、伝送線路100の上側、下側の両方に共振器301が配置された場合を示している。
図13のように、伝送線路100の上下のどちらに共振器301が配置されても問題はない。特に、伝送線路内に誘電体が詰まっている場合には、比誘電率による波長短縮効果により、共振器間の物理間隔が、共振器そのものの大きさよりも狭くなり、同一面上に配置できなくなることから、上側と下側に交互に配置することが考えられる。
【0046】
このような構造においても、結合孔の周辺に配置した仕切り構造の効果により、隣接する共振器間の不要結合が低減されるとともに、共振周波数と外部Q値が固定されるので、帯域阻止形のフィルタ特性を安定に得ることができる。
【0047】
実施の形態3.
なお、上記実施の形態1(図1〜図3)では、金属導体111a〜118bの具体的構成について言及しなかったが、図14および図15に示すように、金属ネジ121a〜128bで構成してもよい。
【0048】
図14はこの発明の実施の形態3に係る帯域阻止フィルタを示す側断面図であり、図1内のA−A線による側断面図に対応している。また、図15は図14内のJ−J線による平断面図であり、各図において、前述(図2、図3)と同様のものについては、前述と同一符号を付して詳述を省略する。
【0049】
ここでは、前述と同様に、伝送線路100として方形同軸線路を適用した場合を示し、また、共振器301として、空気または誘電体の周囲を電気壁で閉じた単純な形状とした場合を例にとって説明する。
【0050】
ただし、伝送線路100は、円形や楕円形の同軸線路であってもよいし、共振器301の形状は、空気層と誘電体層との複合物であっても問題なく、かつ、その接続方法には制限を付けないものとする。また、共振器301の数は、4個未満、または5個以上であってもよく、結合孔201の形状は、図11に示した形状および数量に制限されることはない。
【0051】
図14、図15において、この発明の実施の形態3に係る帯域阻止フィルタは、前述(図2、図3)の金属導体111a〜118bを金属ネジ121a〜128bで構成した点が異なる。
各共振器301は、前述と同様に、図12の等価回路中で共振回路410として表され、出力側に特定の周波数信号を通さない帯域阻止形の性質を有する。
【0052】
金属ネジ121a〜128bは、外導体102の下側幅広面107に設けられた穴から挿入されて、外導体102内の結合孔201の前後に配置される。
また、金属ネジ121a〜128bの先端部を外導体102の上側幅広面106に接触させることにより、下側幅広面107と上側幅広面106とは導通(短絡)される。
上下幅広面106、107の導通手段としては、金属ネジ121a〜128bを上側幅広面106にネジ止めしてもよく、または上側幅広面106に押し当てるのみでもよい。
【0053】
前述(図2、図3)の金属導体111a〜118bを有する外導体102を切削加工する場合には、高い加工精度が求められるとともに、加工部位が多いことから、低コスト化を実現することができない。
【0054】
一方、高次モードを抑圧するためには、伝送線路をTE10モードが漏洩しにくい形状を維持すればよいので、金属導体の代わりに、上下幅広面を金属ネジ121a〜128bで導通させることにより、電磁界エネルギーの漏洩を防ぐことができる。
よって、図14、図15の構成においても、電気的に前述と同等の特性が得られるとともに、比較的切削部位の少ない外導体102と金属ネジ121a〜128bの材料費のみでよく、低コスト化が可能となる。
【0055】
ところで、組立性を考慮して製作する場合、外導体102は、上側幅広面106と下側幅広面107とをそれぞれ含むように、上下に2分割される。また、組立時には、2分割された外導体102の中に誘電体103と内導体101とが配置される。このとき、外導体102の周囲には、金属ネジなどを用いて電気的な接触が行われるものの、内導体側に突出した金属導体111a〜118bの部分は、電気的な接触が確保されない可能性がある。
【0056】
また、誘電体103と内導体との高さの総和が、外導体102の内壁の高さよりも高い場合には、外導体102の周囲を金属製のネジなどでネジ止めする際に、突出した金属導体111a〜118bの部分は、電気的な接触が確保されない可能性が高い。
【0057】
方形同軸線路の最低次の高次モードにおいては、上下間のわずかな隙間を通って伝送線路100内の伝搬が行われるので、上下に2分割された外導体102の接触/非接触が、不要結合の低減が可能か否かを決定することになる。
【0058】
この発明の実施の形態3においては、金属ネジ121a〜128bを用いることにより上記課題を解決している。すなわち、金属ネジ121a〜128bを上下幅広面106に押し当てる(または、ネジ止めする)ことにより、上下に2分割した外導体102を確実に接触させている。
【0059】
以上のように、この発明の実施の形態3(図14、図15)によれば、外導体102はネジ穴を有し、金属ネジ121a〜128bからなる金属導体は、ネジ穴を介して外導体102の外部から伝送線路100内に挿入されているので、複雑な切削加工が不要な外導体102と、金属ネジ121a〜128bとを用いて、前述と同等の効果を奏するとともに、低コスト化を実現することができる。
さらに、外導体102を上下に分離して製作した場合にも、フィルタを構成する際には確実に電気的な接触を確保することが可能である。
【0060】
実施の形態4.
なお、上記実施の形態1〜3(図1〜図3、図14、図15)では、不要結合低減手段として、外導体102内の内導体101の付近に配置された金属導体または金属ネジを用いたが、図16および図17に示すように多層の誘電体基板を用い、外導体102および内導体101に代えて複数の導体パターン601、606、607とし、不要結合低減手段として、各導体パターンに介在されたスルーホール611a〜618bを用いてもよい。
【0061】
図16はこの発明の実施の形態4に係る帯域阻止フィルタを示す側断面図であり、図1内のA−A線による側断面図に対応している。また、図17は図16内のK−K線による平断面図であり、各図において、前述と同様のものについては、前述と同一符号を付して詳述を省略する。
【0062】
ここでは、前述の伝送線路100とは異なり、多層の誘電体基板により方形同軸線路に近い形状を実現した伝送線路600を構成した例を示している。
以下、特に、伝送線路600に注目して説明する。
【0063】
図16、図17において、この発明の実施の形態4に係る帯域阻止フィルタの伝送線路600は、多層(3層)の誘電体基板(トリプレート線路)に形成されており、第1導体パターン601と、第1導体パターン601の上側に設けられた第1誘電体層602と、第1導体パターン601の下側に設けられた第2誘電体層603と、第1誘電体層602の上側に配置され、結合孔201を有する第2導体パターン606と、第2誘電体層603の下側に配置された第3導体パターン607と、により構成されている。
【0064】
この場合、伝送線路600の内部においては、たとえば結合孔201a付近に、スルーホール611a、611b、612a、612bと、第2および第3導体パターン(上下幅広面)606、607と、により囲まれた仕切り構造が存在する。
【0065】
伝送線路600と共振器301とは、結合孔201を介して電磁界結合が行われ、入出力線路端で帯域阻止形のフィルタ特性を有する。
また、前述の実施の形態1、2と同様に、各共振器301は、図12の等価回路中で共振回路410として等価的に表され、抵抗値が0であれば、共振周波数で短絡線路として動作し、出力側に高周波信号を通さない帯域阻止形の性質を有する。
【0066】
以上のように、この発明の実施の形態4(図16、図17)に係る帯域阻止フィルタの伝送線路600は、高周波信号の入出力方向に配置された第1導体パターン601と、第1導体パターン601の上側に配置された第1誘電体層602と、第1誘電体層602の上側に配置された第2導体パターン606と、第1導体パターン601の下側に配置された第2誘電体層603と、第2誘電体層603の下側に配置された第3導体パターン607と、により構成されている。
【0067】
共振器301は、第2導体パターン606に設けられた結合孔201と、第2導体パターン606の上側に配置された誘電体(前述の第2誘電体)202と、誘電体202の上側に配置された導体(前述の第1導体)203と、により構成されている。
共振器301は、伝送線路600が形成された多層の誘電体基板に形成されており、結合孔201を介して伝送線路600との間で電磁界結合する。
【0068】
不要結合低減手段は、高周波信号の入出力方向に沿って、伝送線路600内の第1導体パターン601との電気的接触を避けるように両側に配置されたスルーホール611a〜618bにより構成され、第2および第3導体パターン606、607は、スルーホール611a〜618bによって接続されている。
【0069】
これにより、前述と同等の効果を奏することができるうえ、他の高周波回路とともに製造可能な多層の誘電体基板を用いて伝送線路600を構成することから、不要結合低減手段として、別部品(金属導体または金属ネジ)が不要となり、基板製造時に単純に同時成形可能なスルーホール611a〜618bで実現可能なので、コスト低減を実現することができる。
【0070】
また、伝送線路600の構造によれば、誘電体基板の比誘電率から得られる波長短縮効果によって、回路の小形化が図れるとともに、伝送線路600が他の高周波回路基板と同時に製作可能となるので、全体の実装面積を低減することが可能であり、全体的な小形化を実現することができる。
【0071】
実施の形態5.
なお、上記実施の形態4(図16、図17)では、多層の誘電体基板の上に共振器301を構成したが、図18および図19のように、共振器801を多層の誘電体基板内に構成してもよい。
【0072】
図18はこの発明の実施の形態5に係る帯域阻止フィルタを示す側断面図であり、図1内のA−A線による側断面図に対応している。また、図19は図18内のL−L線による平断面図であり、各図において、前述と同様のものについては、前述と同一符号を付して詳述を省略する。
【0073】
ここでは、前述の実施の形態4の構成に加えて、伝送線路600と共振器801とを含めて、すべて多層の誘電体基板を用いて方形同軸線路に近い形状を実現した構造を例にとって説明し、特に、共振器801の違いについて述べる。
【0074】
図18、図19において、この発明の実施の形態5に係る帯域阻止フィルタの共振器801は、第3導体パターン607の底面に設けられた結合孔701と、第3導体パターン607の下側に位置する第3誘電体層702と、第3誘電体層702の下側に配置された第4導体パターン704と、第3誘電体層702の一部を電気的に取り囲むスルーホール列703と、により構成されている。
【0075】
この場合、共振器801が多層の誘電体基板内に構成されることから、多層の誘電体基板内において、スルーホール619a、619b、620a、620bが追加されている。
なお、図19においては、図18内のスルーホール列703および第4導体パターン704は示されていない。
【0076】
この発明の実施の形態5(図18、図19)に係る帯域阻止フィルタの伝送線路600は、高周波信号の入出力方向に配置された第1導体パターン601と、第1導体パターン601の上側に配置された第1誘電体層602と、第1誘電体層602の上側に配置された第2導体パターン606と、第1導体パターン601の下側に配置された第2誘電体層603と、第2誘電体層603の下側に配置された第3導体パターン607と、により構成されている。
【0077】
また、共振器801は、第3導体パターン607に設けられた結合孔701と、第3導体パターン607の下側に配置された第3誘電体層702と、第3誘電体層702の下側に配置された第4導体パターン704と、第3誘電体層702の一部を電気的に取り囲むスルーホール列703と、により構成されている。
共振器801は、伝送線路600が形成された多層の誘電体基板に形成されており、結合孔701を介して伝送線路600との間で電磁界結合する。
【0078】
さらに、不要結合低減手段は、高周波信号の入出力方向に沿って、伝送線路600内の第1導体パターン601との電気的接触を避けるように両側に配置された複数のスルーホール611a〜620bにより構成されている。
第2および第3導体パターン606、607は、複数のスルーホール611a〜620bによって接続されている。
【0079】
上記共振器構造を用いることにより、前述の実施の形態4と同等の作用効果を奏する。
また、共振器801を含め、すべて多層の誘電体基板内でレイアウトが可能となり、他の高周波回路基板と同時に製造が可能となるので、低コスト化を実現するとともに、さらなる小形化を実現することができる。
さらに、全体的なコスト低減および比誘電率による小形化が可能になるうえ、共振器801の部分をレイアウトする際の自由度が向上し、全体的な回路規模を比較的小さく実現することができる。
【符号の説明】
【0080】
100、600 伝送線路、101 内導体、102 外導体、103 誘電体、106 上側幅広面、107 下側幅広面、111a〜118b 金属導体、121a〜128b 金属ネジ、201、201a〜201d、701 結合孔、202 第2誘電体(誘電体)、203 第1導体(導体)、301、801 共振器、501 入出力端子、601 第1導体パターン、602 第1誘電体層、603 第2誘電体層、606 第2導体パターン、607 第3導体パターン、611a〜620b スルーホール、702 第3誘電体層、703 スルーホール列、704 第4導体パターン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内導体と、前記内導体を電気的に取り囲む外導体とで構成された伝送線路と、
前記伝送線路の両端に位置し、外部回路に接続される入力端子および出力端子と、
前記外導体に設けられた結合孔と、
前記結合孔を介して前記伝送線路との間で電磁界結合する1つまたは複数の共振器と
を備えた帯域阻止フィルタであって、
前記伝送線路内において、前記結合孔の少なくとも1つの入力端子側と出力端子側の双方には、前記結合孔の中心から阻止周波数における波長の1/8未満の距離に、前記外導体の内壁の異なる2点間を電気的に短絡する不要結合低減手段が設けられたこと
を特徴とする帯域阻止フィルタ。
【請求項2】
前記不要結合低減手段は金属ネジであること
を特徴とする請求項1に記載の帯域阻止フィルタ。
【請求項3】
前記内導体の一部分または全体を取り囲むように誘電体が配置されたこと
を特徴とする請求項1または2に記載の帯域阻止フィルタ。
【請求項4】
前記伝送線路は、多層の誘電体基板に形成され、
高周波信号の入出力方向に配置された第1導体パターンと、
前記第1導体パターンの上側に配置された第1誘電体層と、
前記第1誘電体層の上側に配置された第2導体パターンと、
前記第1導体パターンの下側に配置された第2誘電体層と、
前記第2誘電体層の下側に配置された第3導体パターンと、により構成され、
さらに、前記第2導体パターンと前記第3導体パターンの少なくとも一方には前記結合孔が設けられており、
前記共振器は、
前記第2導体パターンの上側、または前記第3導体パターンの下側に配置された1つまたは複数の誘電体または空気と、
前記誘電体または前記空気の周囲のうち、前記結合孔以外の部分を取り囲むように配置された導体と、により構成され、
前記不要結合低減手段は、
前記伝送線路内において、前記結合孔の少なくとも1つの入力端子側と出力端子側の双方に、前記結合孔の中心から阻止周波数における波長の1/8未満の距離に、前記第2および第3導体パターンを接続するよう配置されたスルーホール、によって構成されたこと
を特徴とする請求項1に記載の帯域阻止フィルタ。
【請求項5】
前記共振器は、前記伝送線路が形成された前記多層の誘電体基板に形成され、
前記第2導体パターンの上側と前記第3導体パターンの下側の少なくとも一方に配置された第3誘電体層と、
前記第3誘電体層が配置された前記第2または第3導体パターンに対向する面に配置された第4導体パターンと、
前記第3誘電体層を電気的に1つまたは複数の領域に分けるように、前記第2または第3導体パターンと、前記第4導体パターンを接続するスルーホール列と、によって構成されたこと
を特徴とする請求項4に記載の帯域阻止フィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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