説明

帯電抑制搬送装置

【課題】被搬送物と搬送体との間での静電気の発生が抑制され、静電気に起因する歩留まりの低下を抑えることができる帯電抑制搬送装置を得る。
【解決手段】絶縁体1は、ガラスやPP材の搬送体であり、ローラ2で搬送される。このローラ2は鉄製でイオン発生器3により帯電される、その帯電量は絶縁体1の電位を電位モニタ4で計測し、その情報をイオン発生器3の出力にフィードバック制御されるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばローラやベルト等により物品、あるいは、物品が納入された箱を搬送する搬送装置に関し、ローラやベルト等を除電することにより、物品、あるいは、物品が納入された箱に静電気を発生させないようにした帯電抑制搬送装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ローラコンベアにて物品を搬送する際には、ローラ部材と物品資材や物品が納入された箱との接触摩擦により、静電気が発生しやすい。ここで記述する物品とは、プラスチックフィルム、プラスチックシート、ガラス基板、紙、板、金属、電子デバイス(ICや絶縁性基板など)、電子電気機器などである。近年では電子デバイスを構成するLSIを内蔵した絶縁性基板や電気機器とローラあるいはベルト等との間に発生する摩擦により物品の搬送を行う自動搬送設備が増加している。このような設備では、物品、あるいは、物品が納入された箱とローラあるいはベルト等とで発生する静電気によって周囲の塵埃が物品に引き寄せられ、塵埃が物品に付着する可能性があり、物品の歩留まりが低下する問題が生じる。また、物品に帯電した静電気の量によっては、物品と外部との間で放電が発生する。物品が電子デバイスであるような場合、電子デバイス中のLSIが絶縁破壊により損傷を受け、物品が不良となる場合がある。したがって、静電気の発生を防止したり、発生した静電気を速やかに逃がすことができるような方策を講じることが、物品の歩留向上を図る上で極めて有用である。
【0003】
前述のような観点にもとづき、搬送される資材と同じ帯電列になるように電荷制御剤をゴムローラや樹脂ローラ等に練り込み、あるいは表面に固定させることにより、また電荷制御剤を添加することにより、搬送される資材と同じ帯電列になるように調整された樹脂で金属ローラを被覆することにより、搬送される資材の表面への静電気の発生を防止する帯電防止方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−145683号広報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電荷制御剤を練り込んだのローラにおいては、搬送される資材表面での静電気の発生を防止することができるが、成形物を化合物から調合し、ローラ状に成形するため、製作に手間がかかるという課題があった。また搬送される資材と同じ帯電列になる様に調整された電荷制御剤添加樹脂を金属ローラに被覆しているが、電荷制御剤添加樹脂層が表面に露出し、短期間で添加樹脂層が摩耗することで、静電気防止の効果が得られなくなるという問題もあった。
【0006】
さらに、他の静電気抑制対策として、除電器(イオン発生器)の多数箇所への設置がある。イオン発生器は除電メーカから市販されており、イオン発生器の設置は一般的な対策ということができる。しかし、搬送装置の設置環境は、場合によっては、塵埃の多い屋外環境ということもあり、そのような環境では、イオン発生器の放電素子が汚染され、短期間でに除電効果が悪化する。従って、毎日のメンテナンスと多数のイオン発生器設置が必要であり、設置・保守コストが大きくなるという問題点がある。
【0007】
従って、多数のイオン発生器等の機器の設置を不要とし、静電気防止効果が長期間持続する方策が求められていた。本発明は、このような課題を解決することを目的とするものであり、簡便な装置で、静電気の発生自体を安定して長期間抑制することができるようにした。
【0008】
摩擦帯電により生じる静電気は、異なる2種の物質を擦り合わせることで、一方から他方へ電荷が移動し電位差を生じる現象であり、摩擦に続いて物体同士を引き離すとき、高い電圧が生じる。この電荷移動の序列を求めたものが帯電列と呼ばれる。また、静電気による不良を防ぐには、静電気の発生を防止する方法と、発生した静電気を逃がす方法とが考えられる。一度発生した静電気を完全に除去することは難しく、静電気による不良を防ぐためには、基となる静電気の発生を抑制することが肝要である。本発明ではかかる点に重点をおいた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、被搬送物と搬送体との間に発生する摩擦により該被搬送物を搬送する帯電防止搬送装置であって、上記搬送体が、少なくとも上記被搬送物と同電位になるように、イオン発生器によりイオンを照射し、その出力を制御できるように構成されているものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、被搬送物と搬送体との間での静電気の発生自体が抑制され、静電気の発生を防止させる特別な対策や、発生した静電気を速やかに逃がす特別な対策を採ることなく、静電気に起因する歩留まりの低下を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る帯電抑制搬送装置による絶縁板の搬送状態と帯電抑制イオン発生器の制御状況を説明する図である。
【図2】ローラ搬送工程における静電気発生の例と従来方式のイオン発生器による除電状況を説明する図である。
【図3】本発明に係る帯電抑制搬送装置において、イオン発生器の出力と絶縁板の電位の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
まず、搬送工程における静電気発生の一例をローラによる搬送系にて説明する。その概要を図2に示す。例えばLSIを内蔵した物品5を絶縁箱6に入れて、次工程へ搬送させる。そのとき、ローラ部材表面と絶縁箱6の裏面との間で静電気が発生する。この絶縁箱6に発生した静電気により、物品5に静電誘導現象が生じ、絶縁箱6と同レベルに帯電した物品5をアースや人体が接触したときに、静電気放電が生じ、物品5内の内蔵LSI中の絶縁膜が絶縁破壊を生じる可能性がある。
【0013】
従来方式のイオン発生器による除電装置では、図2に示すようにローラ2の上部に多数のイオン発生器3を取り付け、多量のプラスとマイナスのイオンを照射し絶縁箱6や物品5に発生した静電気を除去する機構である、しかしながらこのイオンのシャワーは物品5の隅々までには届かず物品5を完全に除電することはできない。さらに次のローラとの摩擦により、静電気は加算され電位が上昇する。
【0014】
この静電気を発生させないためには、絶縁箱6とローラ2との間で電荷の移動が発生しない対策が必要である。そのために、絶縁箱6とローラ2の電位が同じになるように、帯電によりローラ2の電位をコントロールする、その結果電荷の移動はなくなり、絶縁箱6には静電気が発生しない搬送装置を提案する。この対策で物品5の静電気不具合も生じない。
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図1を参照しつつ説明する。図1に示すように、ローラ2の内部にはイオン発生器3が設定されており、イオンシャワーをローラに照射している。絶縁板1とローラ2との間には摩擦により電子の移動が起ころうとするが、イオン発生器3のイオンシャワーにより、ローラ2を絶縁板1と同電位に帯電しておけば電子の移動は起こらず、絶縁板1に電位は発生しない。さらに、このローラ通過後に絶縁板1の電位を電位モニタ4により測定し、イオン発生器3の出力をフィードバックすれば、常に絶縁板1が零電位となるように制御できる。
【0016】
イオン発生器3は、沿面放電式イオン発生器であり、小型で薄いので細いローラ2の内部に設定できる。針式イオン発生器は大きく小さなローラには設定できない。
【0017】
沿面放電式イオン発生器の電源は、一般にパルス波電源にDCバイアスが重畳されている。このパルス波の大きさを変えることで放出イオン量を調整できる、またDCバイアスを変えることでプラスイオンを放出したり、マイナスイオンを放出したりできる。この電圧は針式イオン発生器の3分の1程度で低い。このためローラに接近させて配置しても放電は安定しており定常的にイオンを発生できる、針式イオン発生器の電圧は高いのでローラに火花放電を起こし、放電が不安定になるので、絶縁距離をとることが必要となりローラも大きくなければならなくなる。
【0018】
絶縁板1とローラ2間の摩擦帯電による静電気は、2種の物体間の電子移動状況で決まる、プラスとなるかマイナスとなるかは帯電列として経験的に把握されている。その1例を表1に示す。例えばガラスの絶縁板と鉄のローラによる接触界面では、ガラスから鉄に電子が移動し、ガラスはプラスに鉄はマイナスに帯電する。この電子の移動をなくすためには、ローラをマイナスに帯電し電子が流れ込もないようにすれば良い。
【0019】
【表1】

【0020】
表1において上の物質はプラスに、下の物質はマイナスに帯電する。したがってこの帯電を抑制するには、2物体の組み合わせにより、照射するイオンはプラスであったりマイナスを必要とする場合がある。沿面放電式イオン発生器の場合、電源のDCバイアスの正負の調整でその放出イオンの極性を制御できる。また帯電列表の位置ずれの大きさで帯電する静電気の大きさが決まる、2物体の位置が大きくずれていれば大きな静電気となるが、この大きさは決まっているわけでなく、周囲の温度・湿度の条件で変動する。本発明では移動対象物体の電位を電位モニタ4で計測し、その大きさをフィードバックしてイオン発生器の出力を制御する。従って対象物は常に零電位になるように調整できる。
【0021】
図1のローラ式搬送路において絶縁板を流した場合、イオン発生器の出力と絶縁板の電位との関係を図3に示す。ローラ2は鉄製で絶縁板1はガラスである、摩擦帯電によりガラスは正に帯電し鉄のローラ2は負に帯電しようとする、イオン発生器からマイナスのイオンを放出し、ローラ2を負電位にすれば、ガラスからの電子移動は反発されガラスは帯電しなくなる。イオン発生器の出力を上げていけばガラスの電位は零となり、さらに上げれば逆に負の電位になることがわかる。
【0022】
この現象から、搬送体の電位をモニタしてイオン発生器の出力を調整すれば、周囲の環境が変化して搬送体の電位が変動しても常に搬送体の電位を零にできることが分かる。また搬送体の種類が変わって、発生する電位が変動したり正負の極性が変わっても、対応できることになる。
【0023】
従来方式では、多数のイオン発生器を設定して、発生した静電気を除去していたので、微小な隙間部分など静電気を除去できない部分もあった、本方式は静電気を発生させない機構なので、どの部分にも静電気は発生しない。また比照射体の近くに設置できるのでイオンの使用効率が良くなり、イオン発生器も少なくて済む。さらに、沿面放電式イオン発生器を使用すれば、消費電力は小さく、省エネルギーとなる。
【0024】
本方式と従来方式による除電性能の比較結果を表2に示す。これは鉄製ローラ上にガラス板を搬送した例であり、除電装置前後におけるガラスの表面電位をフラット部と振れ幅について測定したものである。これによると従来方式では除電しても電位は零とはならず、そのバラツキも大きい、本方式では電位は零となり変動も微小であることが分かる。
【0025】
【表2】

【符号の説明】
【0026】
1 絶縁板
2 ローラ
3 イオン発生器
4 電位モニタ
5 物品
6 絶縁箱

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被搬送物と搬送体との間に発生する摩擦により該被搬送物を搬送する帯電防止搬送装置であって、
上記搬送体の電位が被搬送物と同電位となるように、イオン発生器の出力を制御することを特徴とする帯電抑制搬送装置。
【請求項2】
上記イオン発生器が沿面放電式イオン発生器で構成されることを特徴とする請求項1記載の帯電抑制搬送装置。
【請求項3】
上記イオン発生器が上記搬送体内部に設置されていることを特徴とする請求項1記載の帯電抑制搬送装置。
【請求項4】
上記被搬送物の電位を測定し、この電位をもとにイオン発生器の出力を調整することを特徴とする請求項1記載の帯電抑制搬送装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−236051(P2011−236051A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−119809(P2010−119809)
【出願日】平成22年5月7日(2010.5.7)
【出願人】(591230549)株式会社岡部マイカ工業所 (15)
【Fターム(参考)】