説明

帯電防止コート剤および積層体

【課題】樹脂成分を実質的に使用しなくとも密着性や塗工性などに優れた帯電防止コート剤を提供する。
【解決手段】酸化スズ系超微粒子、親水性有機溶剤、水を含有し、酸化スズ系超微粒子濃度が1質量%以上8質量%以下であり、かつ、親水性有機溶剤の含有量が50質量%以上であって、樹脂成分の含有量が酸化スズ系超微粒子100質量部に対して1質量部以下であることを特徴とする帯電防止コート剤。また、基材上に前記帯電防止コート剤を塗布、乾燥してなる塗膜を積層したことを特徴とする積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂成分を実質的に含まない、帯電防止性、密着性、塗工性に優れた帯電防止コート剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一般的な工業材料や磁気記録材料として用いられている熱可塑性樹脂フィルムは表面抵抗率が大きいため、摩擦などによって容易に帯電して、フィルム表面にほこり、ごみなどが付着するといった問題が発生する。
【0003】
このような問題を解決する手法として酸化スズ系超微粒子含有帯電防止コート剤を塗工する方法が挙げられる。酸化スズ系超微粒子が水性媒体中に分散しているゾルに関する検討は数多くされているが、これらは帯電防止コート剤の原料として利用されるもので、一般的に酸化スズ系微粒子を含有する帯電防止コート剤にはバインダ成分として樹脂粒子が添加されている(特許文献1、2参照)。樹脂粒子を添加することでぬれ性が良くなり、低溶剤化もできるというメリットがあるが、帯電防止コート剤を調製する際、混合安定性や分散安定性維持に留意して作業をしなければならないという煩わしさに加え、樹脂の種類によっては加水分解などの原因により樹脂が分解することで帯電防止コート剤の安定性が悪くなったり、乾燥した樹脂成分が塗膜や機械に付着して外観不良を起こすなどの問題がある。
【0004】
【特許文献1】特開2005−290287号公報
【特許文献2】特開2006−124439号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、樹脂成分を実質的に含まないにもかかわらず、適度な密着性や塗工性等の物性を有し、優れた帯電防止性を発現する帯電防止コート剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、酸化スズ系超微粒子濃度を1質量%以上8質量%以下とし、かつ、50質量%以上の親水性有機溶剤を含有させることで、樹脂成分をほとんど含まなくとも、充分な塗工性を付与することができ、しかも得られた塗膜は適度な密着性を有し、帯電防止性にも優れており、さらにこのような特性は、コロナ放電処理などの物理的表面処理が施されていない基材に対しても発現することを見出し、この知見に基づいて本発明に到達した。
【0007】
すなわち本発明の要旨は下記の通りである。(1)酸化スズ系超微粒子、親水性有機溶剤、水を含有し、酸化スズ系超微粒子濃度が1質量%以上8質量%以下であり、かつ、親水性有機溶剤の含有量が50質量%以上であって、樹脂成分の含有量が酸化スズ系超微粒子100質量部に対して1質量部以下であることを特徴とする帯電防止コート剤。
(2)樹脂成分を実質的に含まないことを特徴とする(1)記載の帯電防止コート剤。
(3)20℃、剪断速度20.40s−1での粘度が50〜500mPa・sであることを特徴とする(1)または(2)記載の帯電防止コート剤。
(4)20℃、剪断速度20.40s−1での粘度が50〜500mPa・sであり、かつ、20℃、剪断速度1.02s−1での粘度が100〜10000mPa・sであることを特徴とする(1)〜(3)いずれかに記載の帯電防止コート剤。
(5)基材上に(1)〜(4)のいずれかに記載の帯電防止コート剤を塗布、乾燥してなる塗膜を積層したことを特徴とする積層フィルム。
【発明の効果】
【0008】
本発明の帯電防止コート剤は塗工性が良好であり、樹脂成分が極めて低減されているために樹脂成分が原因の各種問題発生を抑制することができ、しかも適度な密着性を有する、帯電防止性能に優れた塗膜を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
本発明の帯電防止コート剤の必須成分である酸化スズ系超微粒子とは、酸化スズ系化合物、あるいはその溶媒和物や配位化合物の超微粒子のことをいい、一般にその平均粒径は200nm以下でシャープな粒径分布を持つものである。酸化スズ系超微粒子の具体例としては、酸化スズ、アンチモンドープ酸化スズ、インジウムドープ酸化スズ、酸化スズドープインジウム、アルミニウムドープ酸化スズ、タングステンドープ酸化スズ、酸化チタン−酸化セリウム−酸化スズの複合体、酸化チタン−酸化スズの複合体などが挙げられ、それらの溶媒和物や配位化合物の超微粒子も用いることができる。塗膜の透明性や価格の点から酸化スズ超微粒子が特に好ましい。
【0011】
上記の酸化スズ系超微粒子の製造方法は特に限定されないが、例えば、金属スズやスズ化合物を加水分解または熱加水分解する方法、スズイオンを含む酸性溶液をアルカリ加水分解する方法、スズイオンを含む溶液をイオン交換膜やイオン交換樹脂によりイオン交換する方法など何れの方法も用いることができる。
【0012】
本発明の帯電防止コート剤において使用される酸化スズ系超微粒子は、あらかじめ水中もしくは水を主成分とする溶媒中に分散したゾルとして使用される。
【0013】
なお、ここでいうゾルとは、1〜100nm程度の大きさを持つ固体分散質が液体分散媒中に分散した流動性のある系で、固体分散質が活発なブラウン運動をしており、速やかに濾紙を通過する程度まで分散しているものまたはその状態を指す。酸化スズ系超微粒子ゾルの製造方法は特に限定されないが、一般的に塩基性化合物によって分散安定化されているものが多く、取り扱いやすさからもそのようなものが好ましい。
【0014】
ゾル中における酸化スズ系超微粒子の数平均粒子径は、50nm以下が好ましく、より好ましくは30nm以下、さらに好ましくは20nm以下のものが好ましい。体積平均粒子径は200nm以下であるものが好ましく、50nm以下であるものがより好ましく、20nm以下であるものがさらに好ましい。酸化スズ系化合物の数平均粒子径が50nmを超えたり、体積平均粒子径が200nmを超えると、薄い塗膜を均一に形成することが困難になるばかりでなく、塗膜の透明性が低下や基材との密着性が低下することがある。
【0015】
酸化スズ系超微粒子のゾルは市販のものを使用することもできる。例えば、酸化スズ水分散体としては、山中化学工業社製EPS−6、アンチモンドープ酸化スズ系水分散体としては、石原産業社製SN100Dなどがある。
【0016】
ゾルに含まれる塩基性化合物としては、塗膜形成時に揮発するアンモニアまたは有機アミン化合物が塗膜の強度の面から好ましく、中でも沸点が30〜250℃の有機アミン化合物が好ましく、さらに好ましくは50〜200℃の有機アミン化合物である。沸点が30℃未満の場合は、取り扱いが困難になる。沸点が250℃を超えると塗膜から乾燥によって有機アミン化合物を飛散させることが困難になり、塗膜の強度が低下する場合がある。
【0017】
有機アミン化合物の具体例としては、トリエチルアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、アミノエタノールアミン、N−メチル−N,N−ジエタノールアミン、イソプロピルアミン、イミノビスプロピルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、3−エトキシプロピルアミン、3−ジエチルアミノプロピルアミン、sec−ブチルアミン、プロピルアミン、メチルアミノプロピルアミン、3−メトキシプロピルアミン、モノエタノールアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン等を挙げることができる。
【0018】
本発明の帯電防止コート剤には親水性有機溶剤が含まれていることが必須である。親水性有機溶剤としては、20℃における水に対する溶解性が50g/L以上のものが好ましく、その具体例としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルが挙げられ、液の安定性や価格の点からメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノールが特に好ましい。
【0019】
親水性有機溶剤は、帯電防止コート剤中に50質量%以上含まれていることが必要である。固形分濃度によりその添加量は変化するが、50〜80質量%が好ましく、60〜70質量%がより好ましい。親水性有機溶剤の量が50質量%未満では、コート剤がチキソ性を有さず、したがって十分な塗工性が発現しない場合があり、80質量%を超えると酸化スズ系超微粒子が凝集する場合がある。
【0020】
また、本発明の帯電防止コート剤における酸化スズ系超微粒子濃度は1質量%以上8質量%以下であることが安定性と帯電防止性能を両立するために必要である。酸化スズ系超微粒子濃度は2〜6質量%が好ましい。固形分濃度が1質量%以下では、基材に塗布した際に十分な厚さの塗膜が形成されず帯電防止性能が発現しない場合があるうえ、適度な粘度にコントロールすることが困難になり、塗工そのものが困難になる場合もある。一方8質量%を越えると凝集する場合がある。
【0021】
本発明における帯電防止コート剤の粘度は仕上り外観性だけでなく、その他の塗膜性能及び作業性能等にも関係する。このため、帯電防止コート剤の粘度(見掛け粘度)は、高剪断速度(20.40s-1)下では20℃において、50〜500mPa・sであることが好ましく、より好ましくは100〜400mPa・sであり、150〜300mPa・sが最も好ましい。粘度が500mPa・sより高いと、塗膜に凸凹が生じて仕上り外観性が低下する傾向となる。一方、高剪断速度下での粘度が低いことは好ましいことではあるが、あまりに低く、50mPa・sより低いと、過度にぬれ広がり適度な塗工厚みを得るのが困難になる。
【0022】
本発明における帯電防止コート剤の粘度は、上述の高剪断速度における粘度に加えて、低剪断速度(1.02s-1)下において、100〜10000mPa・sの粘度を有していることが好ましく、1000〜7000mPa・sであることがさらに好ましい。上記した低剪断速度下における好ましい粘度範囲および高剪断速度下における好ましい粘度範囲をともに満たす帯電防止コート剤はチキソ性(チキソトロピー)を有している。帯電防止コート剤にチキソ性を与えることにより、低剪断速度下(静止時)での粘度を増大させて過度のぬれ広がりを抑制する一方、高剪断速度下での粘度を低く維持できる。これにより、コロナ放電処理などの物理的表面処理が施されていない基材に対しても、密着性を低下させることなく、充分な塗工性を付与できると共に良好な仕上がり外観を得ることができる。低剪断速度下での粘度については、10000mPa・sより高いと、取り扱いが困難になり作業性が低下する。一方、100mPa・sより低いと、耐ぬれ広がり性が低下し、例えば、厚膜の塗膜を得るのが困難になる。粘度の調整は主に親水性有機溶剤の含有量によって行われ、さらには総固形分濃度を適宜調節することによって行うことができる。親水性有機溶剤の含有量が少ない場合または固形分濃度が低い場合には粘度は低くなり、親水性有機溶剤の含有量が多い場合または固形分濃度が高い場合には粘度は高くなる傾向にある。
【0023】
本発明の帯電防止コート剤は、例えば、酸化スズ系超微粒子の水性分散体と親水性有機溶剤とを混合することによって調製される。
【0024】
上記帯電防止コート剤を調製する際に、酸化スズ系超微粒子の水性分散体と親水性有機溶剤とを混合する装置は特に限定されず、公知の攪拌装置を使用することが可能である。上記のような混合液の分散性は一般に良好であり、混合操作は極めて短時間かつ簡便である。
【0025】
本発明の帯電防止コート剤は、樹脂成分として、酸化スズ系超微粒子100質量部に対して1質量部以下である。好ましくは0.1質量部以下であり、より好ましくは樹脂成分を使用しないことである。本発明はこのように樹脂成分を極めて低減しているにもかかわらず、適度な密着性と塗工性を発現するのである。
【0026】
本発明でいう樹脂成分としては、一般的にコート剤や接着剤のバインダとして用いられているような、例えば、ポリエステル樹脂やポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂などが挙げられる。
【0027】
本発明の帯電防止コート剤には、本発明の効果が損なわれない範囲で、滑剤、顔料あるいは染料、紫外線吸収剤、レベリング剤、消泡剤、ワキ防止剤、分散剤などを添加することができる。
【0028】
塗膜の密着性の点から、帯電防止コート剤中の界面活性剤(カチオン性乳化剤、アニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤、あるいは両性乳化剤)や保護コロイド化合物などの不揮発性化合物の含有量は酸化スズ系超微粒子100質量部あたり5質量部以下であることが好ましく、3質量部以下がより好ましく、1質量部以下がさらに好ましく、添加しないことが最も好ましい。このような化合物は乾燥後も塗膜中に残存し、経時的に塗膜性能を低下させてしまう恐れがあるからである。
【0029】
塗工方法としては、例えば、グラビアロールコーティング、リバースロールコーティング、ワイヤーバーコーティング、リップコーティング、エアナイフコーティング、カーテンフローコーティング、スプレーコーティング、浸漬コーティング、はけ塗り法等により各種基材の表面に均一にコーティングし、必要に応じて室温付近でセッティングした後、乾燥処理に供することにより、均一な樹脂塗膜を各種基材の表面に密着させて形成することができる。このときの加熱装置としては、通常の熱風循環型のオーブンや赤外線ヒーター等を使用すればよい。また、加熱温度や加熱時間としては、被コーティング物である基材の特性により適宜選択されるものであるが、樹脂基材のように融点を有する場合には、経済性を考慮して加熱温度を10℃〜基材の融点とすることが好ましく、20℃〜基材の融点がより好ましく、30℃〜基材の融点が特に好ましく、加熱時間としては、1秒〜20分が好ましく、5秒〜15分がより好ましく、10秒〜10分が特に好ましい。
【0030】
本発明において、塗膜の塗工量は0.1〜1g/mであることが好ましく、0.2〜0.8g/mがより好ましく、0.3〜0.5g/mがさらに好ましい。塗工量が1g/mを超えると塗膜の透明性、基材密着性が低下する。塗工量が0.1g/m未満では帯電防止性能が悪化する。帯電防止性能は表面固有抵抗値で評価することができ、塵やほこり等の付着を抑える点から、この値が1010Ω/□未満であれば実用上好ましい。
【0031】
本発明に用いる基材としては、特に限定されることはなく、例えば、樹脂からなる成形体、フィルム、シート、合成紙、ガラスなどが挙げられる。樹脂としては熱可塑性樹脂が好ましい。塗膜性能を十分に発揮させる点から、基材のヘイズは10%以下、より好ましくは5%以下の樹脂フィルムまたはシート(以下、フィルム等)を用いることが好ましい。樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、アイオノマー、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体などのポリオレフィン樹脂や環状ポリオレフィン樹脂、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46等のポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート(以下、PET)、A−PET、ポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリトリメチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリ乳酸等のポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂またはそれらの混合物が挙げられる。フィルム等として前記樹脂からなるフィルム等単体またはフィルム等の積層体が挙げられる。本発明の帯電防止コート剤はぬれ性に優れているので、基材に物理的表面処理が施されている必要はないが、施されていてもよい。ここで、物理的表面処理を施す方法としては、光、電子線、イオンビーム、プラズマを用いた処理方法が挙げられる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、基材としては、PPシート(厚み300μm、出光ユニテック社製スーパーピュアレイ)(以下、SP)、A−PETシート(三菱化学社製、厚み200μm)(以下、AP)、延伸ポリプロピレンフィルム(東セロ社製、OP U−1、厚み20μm)(以下、PP)または2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(ユニチカ社製エンブレットPET12、厚み12μm)を用いた。なお、各種評価は塗工フィルムを温度23℃、湿度65%雰囲気下で1日放置後に実施した。
【0033】
(1)帯電防止特性
JIS−K6911に基づいて、株式会社アドバンテスト製デジタル超高抵抗/微少電流計、R8340を用いて、塗工フィルム(積層体)の塗膜の表面固有抵抗値を、温度23℃、湿度65%雰囲気下で測定した。
【0034】
(2)粘度および剪断速度
BROOKFIELD ENGINEERING LABORATORIES,INC.製B型粘時計SYNCHRO-LECTRIC VISCOMETER Model LVT(Spindle 31)を用い、温度20℃にて測定した。剪断速度は、ロータ回転数(3rpmおよび60rpm)に0.34をかけて換算した。なお、5mPa・s未満の場合には、測定精度が低下して数値を決定できないため、測定結果は「5mPa・s未満」とした。
【0035】
(3)水性分散体の固形分濃度
帯電防止コート剤を適量秤量し、これを150℃で残存物(固形分)の質量が恒量に達するまで加熱し、固形分濃度を求めた。
【0036】
(4)塗膜量(塗工量)
あらかじめ面積と質量を計測した基材に本発明の塗工液を所定量、塗工し、60℃で30秒間、乾燥した。得られた積層体の質量を測定し、塗工前の基材の質量を差し引くことで塗膜量を求めた。塗工量と塗工面積から単位面積当りの塗膜量(g/m)を計算した。
【0037】
(5)塗工性
基材に帯電防止コート剤を塗工した際の様子を目視で判定した。
○:均一に塗工できている、△:一部にハジキが確認される、×:コート剤が著しくはじかれている
【0038】
(6)ヘイズ
JIS−K7361−1に基づいて、濁度計(日本電色工業株式会社製、NDH2000)を用いて、塗工フィルム(積層体)のヘイズ測定を行った。ただし、この評価値は、各実施例で用いた基材フィルムの濁度(SP:3.1%、AP:0.7%、PP:2.4%、PET:2.8%)を含んでいる。
【0039】
(7)密着性
コートフィルムの塗膜面に粘着テープ(ニチバン社製TF−12)を貼り付けた後、勢いよくテープを剥離した。塗膜面の状態を目視で観察して、以下のように評価した。
○:全く剥がれがなかった。
△:一部に剥がれが生じた。
×:全て剥がれた。
【0040】
(8)粒子径
酸化スズ系超微粒子の数平均粒子径、体積平均粒子径はそれぞれ日機装社製マイクロトラック粒度分布計UPA150(Model No.9340)を用いて、動的光散乱法によって測定した。
【0041】
《酸化スズ系ゾルの調製》
【0042】
(酸化スズゾルの調製)
塩化第二スズ五水和物35g(0.1モル)を200mlの水に溶解して0.5Mの水溶液とし、撹拌しながら28%のアンモニア水を添加することでpH1.5の白色酸化スズ超微粒子含有スラリーを得た。得られた酸化スズ超微粒子含有スラリーを70℃まで加熱した後、50℃前後まで自然冷却したうえで純水を加え1Lの酸化スズ超微粒子含有スラリーとし、遠心分離器を用いて固液分離を行った。この含水固形分に800mlの純水を加えて、ホモジナイザーにより撹拌・分散を行った後、遠心分離器を用いて固液分離を行うことで洗浄を行った。洗浄後の含水固形分に純水を75ml加えて酸化スズ超微粒子含有スラリーを調製した。
【0043】
得られた酸化スズ超微粒子含有スラリーにトリエチルアミン3.0mlを加え撹拌し、透明感が出てきたところで70℃まで昇温した後、加温をやめ自然冷却することで固形分濃度11.5質量%の有機アミンを分散安定剤とする酸化スズゾルZ−1を得た。数平均粒子径、体積平均粒子径はそれぞれ8.5nm、9.8nmであった。
【0044】
実施例1
酸化スズゾルZ−1(8.7g)に水(4.6g)を加えた後、n−プロパノールを20.0g(帯電防止コート剤に含まれる溶剤総量が60質量%になる量)加えることで、固形分濃度3.0重量%の帯電防止コート剤を得た。粘度を測定したところ、剪断速度20.40s−1での粘度が148mPa・sであり、剪断速度1.02s−1での粘度が1400mPa・sであり、チキソ性を有していた。PETのコロナ処理面に調製した帯電防止コート剤を乾燥後の塗膜量(塗工量)が0.2g/mになるように塗工後、60℃で30秒間乾燥して塗工フィルムを得た。
【0045】
実施例2〜6
酸化スズゾルZ−1(8.7g)に、n−プロパノールを13.0g(帯電防止コート剤に含まれる溶剤総量が60質量%になる量)加えることで、固形分濃度4.6重量%の帯電防止コート剤を得た。粘度を測定したところ、剪断速度20.40s−1での粘度が408mPa・sであり、剪断速度1.02s−1での粘度が6900mPa・sであり、チキソ性を有していた。各種基材に調製した帯電防止コート剤を乾燥後の塗膜量(塗工量)が0.2g/mになるように塗工後、60℃で30秒間乾燥して塗工フィルムを得た。
【0046】
実施例7
酸化スズゾルZ−1(8.7g)に水(11.3g)を加えた後、n−プロパノールを30.0g(帯電防止コート剤に含まれる溶剤総量が60質量%になる量)加えることで、固形分濃度2.0重量%の帯電防止コート剤を得た。粘度を測定したところ、剪断速度20.40s−1での粘度が58mPa・sであり、剪断速度1.02s−1での粘度が100mPa・sであり、チキソ性を有していた。PETのコロナ処理面に調製した帯電防止コート剤を乾燥後の塗膜量(塗工量)が0.2g/mになるように塗工後、60℃で30秒間乾燥して塗工フィルムを得た。
【0047】
実施例8
酸化スズゾルZ−1(8.7g)に、n−プロパノールを20.3g(帯電防止コート剤に含まれる溶剤総量が70質量%になる量)加えることで、固形分濃度3.4重量%の帯電防止コート剤を得た。粘度を測定したところ、剪断速度20.40s−1での粘度が75mPa・sであり、剪断速度1.02s−1での粘度が900mPa・sであり、チキソ性を有していた。PETのコロナ処理面に調製した帯電防止コート剤を乾燥後の塗膜量(塗工量)が0.2g/mになるように塗工後、60℃で30秒間乾燥して塗工フィルムを得た。
【0048】
比較例1
酸化スズゾルZ−1(8.7g)に水(11.3g)を加えた後、n−プロパノールを13.3g(帯電防止コート剤に含まれる溶剤総量が40質量%になる量)加えることで、固形分濃度3.0重量%の帯電防止コート剤を得た。粘度を測定したところ、剪断速度20.40s−1での粘度が5mPa・s未満であり、剪断速度1.02s−1での粘度が5mPa・s未満であった。チキソ性は見られなかった。PETのコロナ処理面に調製した帯電防止コート剤を乾燥後の塗膜量(塗工量)が0.2g/mになるように塗工しようとしたが顕著なハジキが発生し、塗工できなかった。
【0049】
比較例2
酸化スズゾルZ−1(8.7g)に水(35.7g)を加えた後、n−プロパノールを66.7g(帯電防止コート剤に含まれる溶剤総量が60質量%になる量)加えることで、固形分濃度0.9重量%の帯電防止コート剤を得た。粘度を測定したところ、剪断速度20.40s−1での粘度が5mPa・s未満であり、剪断速度1.02s−1での粘度が5mPa・s未満であった。チキソ性は見られなかった。PETのコロナ処理面に調製した帯電防止コート剤を乾燥後の塗膜量(塗工量)が0.2g/mになるように塗工しようとしたが顕著なハジキが発生し、塗工できなかった。
【0050】
実施例1〜8、比較例1〜2の結果をまとめて表1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
実施例1〜8に示すように、本発明の帯電防止コート剤は、帯電防止性、透明性に優れていた。さらに、樹脂成分を含まなくとも適度な密着性を有することも分かった。その性能は基材および表面処理の有無によらないことも確認できた(実施例2〜6)。一方、親水性有機溶剤含有量が本発明の範囲を外れると、粘度が大きく低下し、安定した塗工性が得られず帯電防止性が悪化した(比較例1)。また、酸化スズ系超微粒子濃度が本発明の範囲を外れると、粘度が大きく低下し、安定した塗工性が得られず、さらには十分な帯電防止層が形成できなかった(比較例2)。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化スズ系超微粒子、親水性有機溶剤、水を含有し、酸化スズ系超微粒子濃度が1質量%以上8質量%以下であり、かつ、親水性有機溶剤の含有量が50質量%以上であって、樹脂成分の含有量が酸化スズ系超微粒子100質量部に対して1質量部以下であることを特徴とする帯電防止コート剤。
【請求項2】
樹脂成分を実質的に含まないことを特徴とする請求項1記載の帯電防止コート剤。
【請求項3】
20℃、剪断速度20.40s−1での粘度が50〜500mPa・sであることを特徴とする請求項1または2記載の帯電防止コート剤。
【請求項4】
20℃、剪断速度20.40s−1での粘度が50〜500mPa・sであり、かつ、20℃、剪断速度1.02s−1での粘度が100〜10000mPa・sであることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の帯電防止コート剤。
【請求項5】
基材上に請求項1〜4のいずれかに記載の帯電防止コート剤を塗布、乾燥してなる塗膜を積層したことを特徴とする積層体。


【公開番号】特開2008−208241(P2008−208241A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−47200(P2007−47200)
【出願日】平成19年2月27日(2007.2.27)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】