説明

帯電防止剤

【課題】帯電防止性を有する透明な層を形成できる帯電防止剤と、前記帯電防止剤を用いた帯電防止性成形体を提供。
【解決手段】平均繊維径が200nm以下のセルロース繊維であり、前記セルロース繊維を構成するセルロースのカルボキシル基含有量が0.1〜2mmol/gであるセルロース繊維を含む帯電防止剤であって、前記帯電防止剤からなる層のヘイズ値(JIS K7105)が3.8%以下である帯電防止剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯電防止性を有する透明な層を形成できる帯電防止剤と、前記帯電防止剤からなる層を有する帯電防止性成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースは帯電防止剤として有用な成分であり、成型体上に塗布あるいは噴霧する等の手段で、帯電防止効果を持つ層を有する成形体を得ることができる。
【0003】
特許文献1は、セルロースを帯電防止剤として含む組成物に関する発明であるが、セルロースの平均粒径は、1〜10μmのものが使用されているため、光の散乱により、コーティングにより得られるフィルムは白濁している。このような白濁したフィルムは、透明性が低いという問題があった。
【0004】
特許文献2は、微結晶セルロースを含有するコーティング剤と、それを基材に塗布した積層材料に関する発明である。原料となる微結晶セルロース粉末は、平均粒径が100μm以下のものが好ましいことが記載され、実施例では、平均粒径が3μmと100μmのものが使用されているだけであり、後述の繊維の微細化処理についての記載は一切なく、塗布したコーティング剤層の透明性は不十分であった。
【0005】
特許文献3には微細セルロース繊維に関する発明が開示されており、コーティング材として使用できる可能性が記載されているが、具体的な効果が示された用途については記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−327837号公報
【特許文献2】特開2002−348522号公報
【特許文献3】特開2008−1728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、帯電防止性を有する透明な層を形成できる帯電防止剤と、前記帯電防止剤を用いた帯電防止性成形体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、課題の解決手段として、平均繊維径が200nm以下のセルロース繊維であり、前記セルロース繊維を構成するセルロースのカルボキシル基含有量が0.1〜2mmol/gであるセルロース繊維を含む帯電防止剤であって、前記帯電防止剤からなる層のヘイズ値(JIS K7105)が3.8%以下である帯電防止剤を提供する。
【0009】
本発明は、他の課題の解決手段として、基材となる成形体に、上記の帯電防止剤からなる層を有している、帯電防止性成形体を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の帯電防止剤を用いることにより、基材となる成形体上に透明な帯電防止性を有する層を形成することができる。このため、基材となる成形体を選択することにより、透明な帯電防止性成形体が得られるほか、前記成形体表面の色や模様等を生かしたままで、即ち前記色や模様等が肉眼で確認できる状態で帯電防止性を有する成形体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<帯電防止剤>
本発明の帯電防止剤は、以下において説明する特定のセルロース繊維を含むものである。
【0012】
本発明で用いるセルロース繊維は、平均繊維径が200nm以下のものであり、好ましくは1〜200nm、より好ましくは1〜100nm、更に好ましくは1〜50nm、特に好ましくは1〜20nmのものである。平均繊維径は、実施例に記載の測定方法により、求められるものである。
【0013】
本発明で用いるセルロース繊維を構成するセルロースのカルボキシル基含有量は、高い帯電防止性を得ることができる観点で、0.1〜2mmol/gであり、好ましくは0.4〜2mmol/g、より好ましくは0.4〜1.8mmol/gである。カルボキシル基含有量は、実施例に記載の測定方法により、求められるものである。カルボキシル基含有量を0.1mmol/g以上とすることで、後述の繊維の微細化処理により、セルロース繊維の平均繊維径を200nm以下に微細化することができる。
【0014】
なお、本発明で用いるセルロース繊維は、セルロース繊維を構成するセルロースのカルボキシル基含有量が上記範囲のものであるが、実際の製造過程における酸化処理等の制御状態によっては、酸化処理後のセルロース繊維中に前記範囲を超えるものが不純物として含まれることもあり得る。
【0015】
本発明で用いるセルロース繊維は、平均アスペクト比が10〜1,000、より好ましくは10〜500、さらに好ましくは100〜350のものである。平均アスペクト比は、実施例に記載の測定方法により、求められるものである。
【0016】
本発明で用いるセルロース繊維は、例えば、次の方法により製造することができる。まず、原料となる天然繊維(絶対乾燥基準)に対して、約10〜1000倍量(質量基準)の水を加え、ミキサー等で処理して、スラリーにする。
【0017】
原料となる天然繊維としては、例えば、木材、パルプ、リンターパルプ、竹パルプ、バガスパルプのような脱リグニン処理を施した精製パルプ、コットン繊維、コットンリンター、麻繊維のようなセルロース系天然繊維、穀物又は果実由来の食物繊維(例えば、小麦フスマ、えん麦フスマ、とうもろこし外皮、米ぬか、ビール粕、大豆粕、えんどう豆繊維、おから、リンゴ繊維等)、木材や稲ワラに代表されるようなリグノセルロース材料等を用いることができる。
【0018】
次に、触媒として2,2,6,6,−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシル(TEMPO)を使用して、前記天然繊維を酸化処理する。触媒としては他に、TEMPOの誘導体である4−アセトアミド−TEMPO、4−カルボキシ−TEMPO、及び4−フォスフォノオキシ−TEMPO等を用いることができる。
【0019】
TEMPOの使用量は、原料として用いた天然繊維(絶対乾燥基準)に対して、0.1〜10質量%となる範囲である。
【0020】
酸化処理時には、TEMPOと共に、次亜塩素酸ナトリウム等の酸化剤、臭化ナトリウム等の臭化物を共酸化剤として併用する。
【0021】
酸化剤は次亜ハロゲン酸又はその塩、亜ハロゲン酸又はその塩、過ハロゲン酸又はその塩、過酸化水素、及び過有機酸などが使用可能であるが、好ましくは次亜塩素酸ナトリウムや次亜臭素酸ナトリウムなどのアルカリ金属次亜ハロゲン酸塩である。酸化剤の使用量は、原料として用いた天然繊維(絶対乾燥基準)に対して、約1〜100質量%となる範囲である。
【0022】
共酸化剤としては、臭化アルカリ金属、例えば臭化ナトリウムを使用することが好ましい。共酸化剤の使用量は、原料として用いた天然繊維(絶対乾燥基準)に対して、約1〜30質量%となる範囲である。
【0023】
スラリーのpHは、酸化反応を効率良く進行させる点から9〜12の範囲で維持されることが望ましい。
【0024】
酸化処理の温度(前記スラリーの温度)は、1〜50℃において任意であるが、室温で反応可能であり、特に温度制御は必要としない。また反応時間は1〜240分間が望ましい。
【0025】
酸化処理後に、使用した触媒等を水洗等により除去する。この段階では反応物繊維は微細化されていないので、水洗とろ過を繰り返す精製法で行うことができる。必要に応じて乾燥処理した繊維状や粉末状の帯電防止剤の中間体(後述の微細化処理前の帯電防止剤)を得ることができる。
【0026】
その後、該中間体を水等の溶媒中に分散し、微細化処理をする。微細化処理は、離解機、叩解機、低圧ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、グラインダー、カッターミル、ボールミル、ジェットミル、短軸押出機、2軸押出機、超音波攪拌機、家庭用ジューサーミキサーで所望の繊維幅や長さに調整することができる。この工程での固形分濃度は50質量%以下が好ましい。その範囲とすることで、分散時に必要とされるエネルギーを抑えることができる点で好ましい。
【0027】
このような微細化処理により、平均繊維径が200nm以下のセルロース繊維を得ることができ、更に平均アスペクト比が10〜1,000、より好ましくは10〜500、さらに好ましくは100〜350のものであるセルロース繊維を得ることができる。
【0028】
その後、必要に応じて固形分濃度を調整した懸濁液状又は必要に応じて乾燥処理した粉末状(但し、セルロース繊維が凝集した粉末状物であり、セルロース粒子を意味するものではない)にすることができる。なお、懸濁液にするときは、水のみを使用したものでもよいし、水と他の有機溶媒(例えば、エタノール等のアルコール)や界面活性剤、酸、塩基等との混合溶媒を使用したものでもよい。
【0029】
このような酸化処理及び微細化処理により、セルロース構成単位のC6位の水酸基がアルデヒド基を経由してカルボキシル基へと選択的に酸化され、前記カルボキシル基含有量が0.1〜2mmol/gのセルロースからなる、平均繊維径が200nm以下の微細化された高結晶性セルロース繊維を得ることができる。この高結晶性セルロース繊維はセルロースI型結晶構造を有している。これは、このセルロース繊維は、I型結晶構造を有する天然由来のセルロース固体原料が表面酸化されて、微細化された繊維であることを意味する。すなわち、天然セルロース繊維はその生合成の過程において生産されるミクロフィブリルと呼ばれる微細な繊維が多束化して高次な固体構造が構築されているが、そのミクロフィブリル間の強い凝集力(表面間の水素結合)を、アルデヒド基あるいはカルボキシル基の導入によって弱め、さらに微細化処理を経ることで微細セルロース繊維が得られる。
【0030】
そして、酸化処理条件を調整することにより、前記のカルボキシル基含有量を所定範囲内にて増減させ、極性を変化させたり、該カルボキシル基の静電反発や前述の微細化処理をしたりすることにより、セルロース繊維の平均繊維径、平均繊維長、平均アスペクト比等を制御することができる。
【0031】
本発明の帯電防止剤は、上記した特定のセルロース繊維を含む懸濁液状や乾燥物等にすることができる。本発明の帯電防止剤を懸濁液状にするとき、目的に応じた成形ができるように固形分濃度を調整すればよく、例えば、固形分濃度は0.05〜30質量%の範囲にすることができる。
【0032】
なお、本発明の帯電防止剤には、本発明の課題を解決できる種類及び量の範囲内において、公知の充填剤、顔料等の着色剤、紫外線吸収剤、耐水化剤(シランカップリング剤等)、粘土鉱物(モンモリロナイト等)、架橋剤(エポキシ基、イソシアネート基等の反応性官能基を有する添加剤)、金属塩、コロイダルシリカ、アルミナゾル、酸化チタン等を配合することができる。
【0033】
本発明の帯電防止剤は、それから得られた層のヘイズ値が3.8%以下のものが好ましく、より好ましくは3%、さらに好ましくは2%以下のものである。なお、前記ヘイズ値は、実施例に記載の測定方法により求める。
【0034】
<帯電防止性成形体>
本発明の帯電防止性成形体は、基材となる成形体に、上記した帯電防止剤からなる層(帯電防止層)を有しているものである。
【0035】
本発明の帯電防止性成形体は、懸濁液状の帯電防止剤を使用するとき、次の製造方法により、製造することができる。
まず、基材となる成形体の一面又は両面に対して、塗布法、噴霧法、浸漬法等の公知の方法により、好ましくは塗布法又は噴霧法により、帯電防止剤を付着させ、帯電防止層を形成する。その後、自然乾燥、送風乾燥等の方法により乾燥する。
【0036】
帯電防止層の厚みは、20〜5000nmが好ましく、より好ましくは50〜2000nm、更に好ましくは100〜1500nmである。
【0037】
基材となる成形体は、所望形状及び大きさのフィルム、シート、織布、不織布等の薄状物、各種形状及び大きさの箱やボトル等の立体容器等を用いることができる。これらの成形体は、紙、板紙、プラスチック、金属(多数の穴の開いたものや金網状のもので、主として補強材として使用されるもの)又これらの複合体等からなるものを用いることができる。基材となる成形体は、同一又は異なる材料(例えば接着性やぬれ性向上剤)の組み合わせからなる多層構造にすることもできる。
【0038】
基材となる成形体は、透明であってもよいし、不透明であってもよいし、着色されているものや、模様、文字、図形等が表示されたものであってもよい。
【0039】
基材となるプラスチックは、用途に応じて適宜選択することができるが、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ナイロン6、66、6/10、6/12等のポリアミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、脂肪族ポリエステル、ポリ乳酸(PLA)、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート等のポリエステル、セロハン、三酢酸セルロース(TAC)等のセルロース、から選ばれる1又は2以上を用いることができる。
【0040】
基材となる成形体の厚みは特に制限されるものではなく、用途に応じた強度が得られるように適宜選択すればよく、例えば、1〜1000μmの範囲にすることができる。
【0041】
本発明の帯電防止性成形体は、実施例に記載の測定方法により求められる表面固有抵抗値は1.0×1010Ω/□以下が好ましく、より好ましくは1.0×105〜5.0×109Ω/□の範囲である。
【0042】
本発明の帯電防止剤を用いて、基材となる成形体上に透明な帯電防止層を形成することで、容易に帯電防止性を付与することができる。このため、本発明の帯電防止性成形体は、基材が透明なものの場合には透明性を損なうことがないし、基材が着色されていたり、模様が形成されていたり、文字や図形等が表示されていたりする場合であっても、それらの外観を損なうことなく、帯電防止性が付与されている。
【実施例】
【0043】
表1に示す各項目の測定方法は、次のとおりである。
【0044】
(1)セルロース繊維
(1-1)平均繊維径、平均繊維長及び平均アスペクト比
セルロース繊維の平均繊維径は、0.0001質量%に希釈した懸濁液をマイカ上に滴下して乾燥したものを観察試料として、原子間力顕微鏡(Nanoscope III Tapping mode AFM、Digital instrument社製,プローブはナノセンサーズ社製Point Probe(NCH)使用)で繊維高さを測定した。セルロース繊維が確認できる画像において、5本以上抽出し、その繊維高さから平均繊維径を求めた。
【0045】
平均アスペクト比は、セルロース繊維を水で希釈した希薄懸濁液(0.005〜0.04質量%)の粘度から算出した。粘度の測定には、レオメーター(MCR300、DG42(二重円筒)、PHYSICA社製)を用いて、20℃で測定した。セルロース繊維の質量濃度とセルロース繊維懸濁液の水に対する比粘度の関係から、次式でセルロース繊維のアスペクト比を逆算し、セルロース繊維の平均アスペクト比とした。
【数1】

(The Theory of Polymer Dynamics, M.DOI and D.F.EDWARDS, CLARENDON PRESS・OXFORD,1986,P312に記載の剛直棒状分子の粘度式(8.138)を利用した(ここでは、剛直棒状分子=セルロース繊維とした)。(8.138)式とLb2×ρ0=M/NAの関係から数式1が導出される。ここで、ηspは比粘度、πは円周率、lnは自然対数、Pはアスペクト比(L/b)、γ=0.8、ρsは分散媒の密度(kg/m3)、ρ0はセルロース結晶の密度(kg/m3)、Cはセルロースの質量濃度(C=ρ/ρs)、Lは繊維長、bは繊維幅(セルロース繊維断面は正方形とする)、ρはセルロース繊維の濃度(kg/m3)、Mは分子量、NAはアボガドロ数を表す。)
【0046】
平均繊維長は、上記の方法より測定された繊維径とアスペクト比より算出した。
【0047】
(1-2)カルボキシル基含有量(mmol/g)
酸化したパルプの絶乾重量約0.5gを100mlビーカーにとり、イオン交換水を加えて全体で55mlとし、そこに0.01M塩化ナトリウム水溶液5mlを加えてパルプ懸濁液を調製し、パルプが十分に分散するまでスタラーにて攪拌した。そして、0.1M塩酸を加えてpH2.5〜3.0としてから、自動滴定装置(AUT−501、東亜デイーケーケー(株)製)を用い、0.05M水酸化ナトリウム水溶液を待ち時間60秒の条件で注入し、パルプ懸濁液の1分ごとの電導度とpHの値を測定し、pH11程度になるまで測定を続けた。そして、得られた電導度曲線から、水酸化ナトリウム滴定量を求め、カルボキシル基含有量を算出した。
天然セルロース繊維はセルロース分子約20〜1500本が集まって形成される高結晶性ミクロフィブリルの集合体として存在する。本発明で採用しているTEMPO酸化反応では、この結晶性ミクロフィブリル表面に選択的にカルボキシル基を導入することができる。したがって、現実には結晶表面にのみカルボキシル基が導入されているが、上記測定方法によって定義されるカルボキシル基含有量はセルロース重量あたりの平均値である。
【0048】
(2)帯電防止性成形体
(2-1)表面固有抵抗値(Ω/□)
帯電防止フィルムを25℃、50%RHの恒温恒湿室内に保管し、1日後に、横河ヒューレットパッカード社製、型番4329Aのハイレジスタンスメータにより、ASTM D 257の試験法に従って、表面固有抵抗値を測定した(測定電圧100V)。結果を表1に示す。
【0049】
(2-2)ヘイズ値(%)
ヘイズ値は、ヘイズメーター((株)村上色彩技術研究所製 HM-150型)を使用し、JIS K7105の試験方法に従って、測定した。結果を表1に示す。なお、表1に示すヘイズ値は、帯電防止層のヘイズ値であり、基剤シートとして用いたポリエチレンテレフタレート(PET)シート(商品名:ルミラー、東レ社製、シート厚み7μm)のヘイズ値2.7%を測定値より減じた値である。数字の小さい方が、透明性が良好であることを示す。
(2-3)帯電防止層の厚み(nm)
帯電防止層の厚みは、セルロース繊維の比重を1.5として、湿潤膜厚と固形分から算出した値である。この値は原子間力顕微鏡で測定した膜厚とよく一致していた。
【0050】
製造例1〔帯電防止剤として使用する特定のセルロース繊維の製造〕
(1)原料、触媒、酸化剤、共酸化剤
天然繊維:針葉樹の漂白クラフトパルプ(製造会社:フレッチャー チャレンジ カナダ、商品名 「Machenzie」、CSF650ml)
TEMPO:市販品(製造会社:ALDRICH、Free radical、98%)
次亜塩素酸ナトリウム:市販品(製造会社:和光純薬工業(株) Cl:5%)
臭化ナトリウム:市販品(製造会社:和光純薬工業(株))。
【0051】
(2)製造手順
まず、上記の針葉樹の漂白クラフトパルプ繊維100gを9900gのイオン交換水で十分攪拌後、パルプ質量100gに対し、TEMPO1.25質量%、臭化ナトリウム28.4質量%、次亜塩素酸ナトリウム14.2質量%をこの順で添加し、pHスタッドを用い、0.5M水酸化ナトリウムの滴下にてpHを10.5に保持し、酸化反応を行った。
【0052】
次に、120分の酸化時間で滴下を停止し、酸化パルプを得た。該酸化パルプをイオン交換水にて十分洗浄し、脱水処理を行った。その後、酸化パルプ10gとイオン交換水990gをミキサー(Vita−Mix−Blender ABSOLUTE、大阪ケミカル(株)製)にて10分間攪拌する(微細化処理時間が10分)ことにより、繊維の微細化処理を行い、帯電防止剤として使用する特定のセルロース繊維の懸濁液を得た。得られた懸濁液中の固形分濃度(即ち、特定のセルロース繊維濃度)は、1.5質量%であった。
【0053】
実施例1
基材シートとしてポリエチレンテレフタレート(PET)シート(商品名:ルミラー、東レ社製、シート厚み7μm、ヘイズ値2.7%)の片側面上に、製造例1で得たセルロース繊維からなる帯電防止剤(固形分1.5質量%の懸濁液)をバーコーター(#50)で塗布した後、23℃で120分間以上乾燥して、帯電防止性フィルムを得た。
【0054】
実施例2
製造例1で得たセルロース繊維からなる帯電防止剤(但し、固形分を0.75質量%に調整した懸濁液)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で帯電防止性フィルムを得た。
【0055】
実施例3
製造例1で得たセルロース繊維からなる帯電防止剤(但し、固形分を0.3質量%に調整した懸濁液)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で帯電防止性フィルムを得た。
【0056】
実施例4
製造例1において、微細化処理時間を300分として製造したセルロース繊維からなる帯電防止剤(但し、固形分を0.3質量%に調整した懸濁液)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で帯電防止性フィルムを得た。
【0057】
実施例5
製造例1において、臭化ナトリウム12.5質量%とし、酸化時間10分、微細化処理時間を60分として製造したセルロース繊維からなる帯電防止剤(但し、固形分を0.3質量%に調整した懸濁液)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で懸濁液を調製し、帯電防止性フィルムを得た。
【0058】
比較例1
ポリエチレンテレフタレート(PET)シート(商品名:ルミラー、東レ社製、シート厚み7μm)を用いた。
【0059】
比較例2
原料にマイクロクリスタリンセルロース(MCC)(KC−フロック300G,日本製紙ケミカル(株)製)を用い、次亜塩素酸ナトリウム56.8質量%とし、微細化処理をしなかった以外は、製造例1と同様の方法で懸濁液を調製した。その後、この方法で得られたセルロース繊維からなる帯電防止剤(但し、固形分を0.3質量%に調整した懸濁液)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で帯電防止性フィルムを得た。
【0060】
比較例3
製造例1で得たセルロース繊維からなる帯電防止剤に代えて、カルボキシメチルセルロースNa塩(置換度0.47、第一工業製薬(株)製)の水溶液(固形分濃度0.3質量%)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で帯電防止性フィルムを得た。
【0061】
比較例4
製造例1で得たセルロース繊維からなる帯電防止剤に代えて、ポリビニルアルコール(PVA103、クラレ(株)製)の水溶液(固形分濃度0.3質量%)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で帯電防止性フィルムを得た。
【表1】

実施例1〜5と比較例3、4との対比から明らかなとおり、本発明の帯電防止剤を用いた成形体は、周知の水溶性ポリマー水溶液を用いたものと同程度の透明性(ヘイズ値)を示していた。
そして、実施例1〜5と比較例1〜4との対比から明らかなとおり、本発明の帯電防止剤を用いた成形体は表面抵抗値が小さく、高い帯電防止性を有していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均繊維径が200nm以下のセルロース繊維であり、前記セルロース繊維を構成するセルロースのカルボキシル基含有量が0.1〜2mmol/gであるセルロース繊維を含む帯電防止剤であって、
前記帯電防止剤からなる層のヘイズ値(JIS K7105)が3.8%以下である帯電防止剤。
【請求項2】
前記セルロース繊維の平均アスペクト比が10〜1,000である、請求項1記載の帯電防止剤。
【請求項3】
基材となる成形体に、請求項1又は2に記載の帯電防止剤からなる層を有する、帯電防止性成形体。
【請求項4】
帯電防止剤からなる層の厚みが5000nm以下である請求項3に記載の帯電防止性成形体。

【公開番号】特開2010−215779(P2010−215779A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−63820(P2009−63820)
【出願日】平成21年3月17日(2009.3.17)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】