説明

干瓢代替物、その製造方法及び紐材で結んだ食品の製造法

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、昆布巻,巾着,ロールキャベツ等の食品において、これらの食品が形崩れしたりするのを防止するために、これらの食品を結ぶのに使用する可食性紐材及びその製造方法に係り、特に、大豆蛋白を主原料とする可食性紐材において、湿潤時における伸びを抑制するようにした点に特徴を有する可食性紐材及びその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】昆布巻や巾着等の食品が形崩れしたりするのを防止するために、これらの食品を結ぶ可食性紐材として、我が国においては古くから一般に干瓢が使用されていた。
【0003】しかし、干瓢の原料となる夕顔の生産は天候に左右されやすいため、その生産が安定せず、可食性紐材の安定した供給が困難であった。また、夕顔から干瓢を製造するにあたっては、夕顔の果肉を切削して製造するため、均質で且つ一定長以上の長尺定寸製品を安定して製造するということも困難であった。
【0004】このため、従来においても、上記のような可食性紐材を様々な原料から人工的に製造することが検討されてきた。
【0005】そして、従来においては、例えば、特公昭56−37773号公報に示されるように、大豆蛋白及びカゼインを主原料とするアルカリ性水溶液を酸性凝固液中に押出し、これを凝固させて可食性の紐材を製造することが、また特公昭60−203149号公報にが示されるように、コラーゲンを主成分とするシート状物を裁断したり、貼り合わたりする等の二次加工を行ない可食性の紐材を製造することが開発された。
【0006】ここで、上記の各公報に示されるようにして可食性紐材を製造した場合、均質でかつ連続した可食性の紐材を安定して生産できるようになったが、これらのようにして製造された各可食性紐材は、柔軟性が乏しかったり、咀嚼性が悪くて、食感に違和感がある等の様々な欠点を有していた。
【0007】例えば、コラーゲン質を主原料として製造された可食性紐材においては、これを用いて昆布巻等の食品を結び、これを煮込んだりした場合に、この可食性紐材が伸びて昆布巻等の食品が形崩れするということはなく、昆布巻等の食品を結ぶという面ではかなり満足できるものであったが、可食性紐材におけるだし汁等の吸水性が悪く、また咀嚼性も悪くて、食した際に違和感があり、味や食感の面で問題があった。
【0008】一方、大豆蛋白質を主原料として製造された可食性紐材においては、これを用いて昆布巻等の食品を結び煮込んだりした場合、この可食性紐材へのだし汁の吸水が良く、また咀嚼性もよくて、味や食感の面では優れていたが、煮込みを行なった際に、この可食性紐材が勝手に伸びてしまい、昆布巻等の食品が形崩れするという問題があった。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】この発明は、昆布巻,巾着,ロールキャベツ等の食品が形崩れしたりするのを防止するために、これらの食品を結ぶのに使用する可食性紐材における上記のような問題を解決することを課題とするものである。
【0010】すなわち、この発明は、上記のような可食性紐材を均質な状態で連続して製造でき、均質な可食性紐材を安定して供給できるようにすると共に、だし汁等の吸水性や咀嚼性に優れ、湿潤時において勝手に伸びるということもなく、昆布巻等の食品を結んで煮込んだりした際に、これらの食品が形崩れするということがなく、かつ食感や風味にも優れた可食性紐材を提供することを課題とする。
【0011】ここで、本発明者等は、だし汁等の吸水性及び咀嚼性の面で優れている大豆蛋白を主原料とする可食性紐材について検討を行なった。
【0012】そして、本発明者等は、大豆蛋白を主原料とする可食性紐材が湿潤時に勝手に伸びるのを抑制するため、主原料となる大豆蛋白に架橋剤等を加えて大豆蛋白を変性させ、可食性紐材が湿潤時に勝手に伸びるのを抑制することを考えついた。
【0013】しかし、このように架橋剤等を大豆蛋白に加えて可食性紐材を製造した場合、湿潤時における可食性紐材の勝手な伸びは抑制されるようになったが、大豆蛋白の変性により、この可食性紐材における吸水性や咀嚼性が低下するという問題が生じた。
【0014】このため、本発明者等は、更に大豆蛋白を主原料とする可食性紐材について検討を加え、この発明を完成するに至ったのである。
【0015】
【課題を解決するための手段】この発明における可食性紐材においては、上記のような課題を解決するため、大豆蛋白を主原料とする紐状物を延伸処理させて、この紐状物に湿潤及び/又は加熱に対する収縮性を付与するようにしたのである。
【0016】また、このような可食性紐材を製造するにあたっては、大豆蛋白を主原料とする紐状物を製造した後、この紐状物に延伸処理を行って湿潤及び/又は加熱に対する収縮性を付与するようにする他、大豆蛋白を主原料とするフィルムに延伸処理を行い、このフィルムを用いて湿潤及び/又は加熱に対する収縮性が付与された紐状物を製造することができる。
【0017】ここで、この可食性紐材においては、主原料となる大豆蛋白の他に、必要に応じて、澱粉、ガム質、可食性繊維等の多糖類や、動植物性の油脂、グリセリン,ソルビット,マンニット,マルチトール,プロピレングリコール等の湿潤剤または可塑剤、乳化剤、色素、調味料等を加えることができる。
【0018】又、大豆蛋白を主原料とする紐状物を製造するにあたっては、上記のような原料を含む溶液やペーストを平滑面上に流延させた後、これを加熱乾燥させてフィルム状に成形し、これらのフィルムを適当な幅に裁断して紐状物を得るようにし、更に必要に応じて裁断されたフィルムを複数枚重ねたり、フィルムを折り畳んだりして、フィルムが積層された状態になった紐状物を得るようにしてもよい。
【0019】なお、上記のようにして大豆蛋白を主原料とする紐状物を製造する場合において、これに延伸処理を施すにあたっては、紐状物に製造された状態で延伸処理を行なう他、フイルム状に形成された段階で延伸処理を行ない、その後、このように延伸処理されたフィルムを上記のようにして紐状物に形成するようにしてもよい。
【0020】ここで、上記のように紐状物或いはフィルム状になったものを延伸処理するにあたっては、これらを乾燥させた状態のままで、これらに張力を作用させて延伸を行なうようにしても良いが、これらを加熱又は加湿させた状態で、これらに張力を作用させて延伸を行なうようにすると、小さな張力でこれらを充分に延伸させることができると共に、上記紐状物或いはフィルムにおける破損も少なくなるため、好ましくは、上記紐状物或いはフィルムに対して加熱又は加湿操作を行なうようにする。
【0021】また、上記のようにフィルムや紐状物を延伸させるにあたっては、これらの厚みが0.03〜0.3mm程度である場合、一般に延伸を行う前の長さの1.2〜4倍程度になるように延伸させることが好ましい。
【0022】そして、上記のようにフィルムや紐状物を延伸させて可食性紐材を得ると、この可食性紐材を液体中に浸漬させたり、加熱させたりした場合に、この可食性紐材が収縮されるようになる。
【0023】ここで、この可食性紐材を液体中に浸漬させたり、加熱させたりした場合における収縮率は、この可食性紐材を製造する場合において、フィルムや紐状物を延伸させる倍率によって変化させることができ、フィルムや紐状物の延伸倍率を高くする程、この可食性紐材における収縮率が大きくなる。
【0024】また、この可食性紐材を液体中に浸漬させた場合における収縮率は、この液体のpH,塩濃度,糖度等によって変化し、例えば、上記のように延伸を行う前の長さの1.2〜4倍程度になるように延伸させた可食性紐材を、pH5.5の溶液中において常温で充分に湿潤状態にさせた場合には、湿潤させる前の長さの40〜98%の長さに収縮する。
【0025】また、この可食性紐材を加熱させた場合における収縮率は、可食性紐材を加熱させる温度によって変化し、例えば、上記のように延伸を行う前の長さの1.2〜4倍程度になるように延伸させた可食性紐材を、乾燥下において80℃で加熱した場合には、この可食性紐材の長さが加熱する前の長さの40〜98%の長さに収縮する。
【0026】
【作用】この発明における可食性紐材のように、大豆蛋白を主原料とする紐状物において延伸処理を施すと、この可食性紐材を液体中に浸漬させたり、加熱させたりした場合に、この可食性紐材が収縮されるようになり、このため、この可食性紐材によって昆布巻等の食品を結んで煮込んだりした場合に、この可食性紐材が勝手に伸びて、これらの食品が形崩れするということがなくなる。
【0027】また、この発明においては、上記のような可食性紐材を製造するにあたり、大豆蛋白を主原料とする紐状物を製造した後、この紐状物に延伸処理を行って湿潤及び/又は加熱に対する収縮性を付与するようにしたり、大豆蛋白を主原料とするフィルムに延伸処理を行い、このフィルムを用いて湿潤及び/又は加熱に対する収縮性が付与された紐状物を製造するようにしたため、主原料となる大豆蛋白に架橋剤等を加えて可食性紐材における勝手な伸びを抑制する場合のように、大豆蛋白が変性するということがなく、可食性紐材物におけるだし汁等の吸水性や咀嚼性が低下するということもない。
【0028】
【実施例】以下、この発明の実施例に係る可食性紐材及びその製造方法について具体的に説明すると共に、比較例を挙げ、この発明の実施例に係る可食性紐材が優れていることを明らかにする。
【0029】(実施例1)この実施例のものにおいては、粉末状の分離大豆蛋白(不二製油株式会社製:ニューフジプロ−R)80重量部に対して、小麦澱粉20重量部と、可塑剤40重量部と、水400重量部とを加え、これらを20Torrの真空下で混合撹拌してペースト状の溶液を得た。
【0030】そして、このペースト状の溶液をテトラフルオロエチレンでコーティングした無端ベルト上に展延し、これを連続的に乾燥させて、膜厚が約70μmになった大豆蛋白フィルムを連続して製造した。
【0031】次に、このようにして製造された大豆蛋白フィルムを40mm幅に切断してテープ状に形成した後、このようにテープ状になったフィルムをその長手方向に沿って3回折り畳み、フィルムが8層に重なった紐状物を得た。なお、この紐状物は、幅が5mm、厚みが560μmであった。
【0032】そして、このように折り畳まれてフィルムが8層になった紐状物を乾燥した状態のままで加熱ロール間に導き、この加熱ロール間において上記紐状物を加熱して軟化させ、この状態で上記紐状物に張力を作用させて延伸を行ない、その後、このように延伸された紐状物を冷却固定化させて、上記紐状物の3倍の長さになった可食性紐材を製造した。
【0033】なお、このようにして製造された可食性紐材は、その幅が3.6mm、厚みが320μmになっていた。
【0034】(比較例)この比較例においては、上記実施例1の場合と同様にしてフィルムが8層に重なった紐状物を製造し、その後における加熱ロール間での延伸を行なわないようにした。
【0035】そして、上記実施例1と比較例とにおいて製造された各可食性紐材を、だし汁中に入れて30分間煮沸処理を行なった後、これらの各可食性紐材における引張破断強度及び各可食性紐材における長さの変化を測定した。
【0036】この結果、実施例1の可食性紐材においては、その引張破断強度が150gであり、またその長さは煮沸処理を行う前の長さの52%に収縮していたのに対し、比較例の可食性紐材においては、その引張破断強度が152gであり、またその長さは煮沸処理を行う前の長さより30%伸びていた。
【0037】この結果から明らかなように、延伸処理を行なった実施例1の可食性紐材は、延伸処理を行なっていない比較例の可食性紐材と、煮沸処理した後における引張破断強度の点では殆ど差がない一方、煮沸処理した後における長さについては、比較例の可食性紐材か伸びていたのに対し、延伸処理を行なった実施例1の可食性紐材は逆に収縮していた。
【0038】次に、上記実施例1の可食性紐材と比較例の可食性紐材とを用いてそれぞれ昆布巻を結び、これらの昆布巻をだし汁で30分間煮込みを行なった。
【0039】この結果、上記比較例の可食性紐材によって結んだ昆布巻は、可食性紐材自体の伸びに加え、昆布巻の膨張による伸びも加わり、昆布巻が形崩れしたものになった。
【0040】これに対し、上記実施例1の可食性紐材を用いて結んだ昆布巻の方は、可食性紐材が上記の煮込みによる加熱下での湿潤によって収縮し、昆布巻がほどよく縛り付けられ、形崩れするということがなく、また、このようにして煮込んだ昆布巻を食したところ、この可食性紐材にだし汁が良くしみ込んでいて、その味が良好であり、またその食感も咀嚼性に優れた良好なものであった。
【0041】(実施例2)この実施例においては、上記実施例1と同様にして得た紐状物を、上記実施例1の場合と同様に、乾燥した状態のままで加熱ロール間に導き、この加熱ロール間において上記紐状物を加熱して軟化させ、この状態で上記紐状物に張力を作用させて延伸を行ない、その後、このように延伸された紐状物を冷却固定化させて、上記紐状物の2.5倍の長さになった可食性紐材を製造した。
【0042】そして、この可食性紐材をだし汁中に入れて30分間煮沸処理を行った後、この引長破断強度及び収縮率を測定したところ、その引張破断強度が150g、その収縮率が55%であった。
【0043】次に、この実施例の可食性紐材をリング状にし、このようにリング状になった可食性紐材の中にロールキャベツをはめ込み、これを煮込調理した。
【0044】この結果、リング状なったこの実施例の可食性紐材は煮込調理による加熱下での湿潤によって収縮し、ロールキャベツがこの可食性紐材によってほどよく縛り付けられ、またこのようにして煮込んだロールキャベツを食したところ、この可食性紐材に液が良くしみ込んでいて、味が良好であり、またその食感も咀嚼性に優れた良好なものであった。
【0045】(実施例3〜5)これらの実施例においては、粉末状の分離大豆蛋白(不二製油株式会社製:ニューフジプロ−R)100重量部に対して、可塑剤40重量部と、水500重量部とを加えるようにし、その後は、上記実施例1の場合と同様にして、フィルムが8層に重なって、幅が5mm、厚みが560μmになった紐状物を得た。
【0046】次いで、このようにして得た紐状物を、上記実施例1の場合と同様に、乾燥した状態のままで加熱ロール間に導き、この加熱ロール間において上記紐状物を加熱して軟化させ、この状態で上記紐状物に張力を作用させて延伸させた後、このように延伸された紐状物を冷却固定化させるようにして、実施例3においては上記紐状物の1.2倍の長さになった可食性紐材を、実施例4においては上記紐状物の2.0倍の長さになった可食性紐材を、実施例5においては上記紐状物の2.9倍の長さになった可食性紐材を製造した。
【0047】そして、このように製造した実施例3〜5の各可食性紐材をpHの5.5の常温の溶液に10分間浸漬させた場合における各可食性紐材の収縮率(A)と、実施例3〜5の各可食性紐材を乾燥下において80℃で10分間加熱した場合における各可食性紐材の収縮率(B)とを測定し、これらの結果を下記の表1に示した。
【0048】
【表1】


【0049】この結果から明らかなように、大豆蛋白を主原料とする紐状物に延伸処理を行った各実施例の可食性紐材は、これを湿潤させた場合、また加熱した場合のいずれの場合においても収縮し、勝手に伸びるということがなく、またその収縮率は、上記の紐状物を延伸させる倍率を大きくする程、大きくなることが判った。
【0050】
【発明の効果】以上詳述したように、この発明における可食性紐材及びその製造方法においては、大豆蛋白を主原料とする紐状物を延伸処理させ、或は大豆蛋白を主原料とするフィルムを延伸処理した後、このフィルムを用いて紐状物を製造し、大豆蛋白を主原料とする紐状物に湿潤及び/又は加熱に対する収縮姓を付与するようにしたため、湿潤時や加熱時にこの可食性紐材が勝手に伸びるということがなくなると共に、主原料となる大豆蛋白に架橋剤等を加えた場合のように大豆蛋白が変性して、可食性紐材におけるだし汁等の吸水性や咀嚼性が低下するということもなかった。
【0051】この結果、この発明に係る可食性紐材は、大豆蛋白を主原料とする可食性紐材における良好な吸水性や咀嚼性を維持しながら、湿潤時における勝手な伸びがなくなり、昆布巻,巾着,ロールキャベツ等の食品を結んで煮込んだりした際に、これらの食品が形崩れするということがなく、またこれを食した場合における食感や風味もよく、これらの食品に好適に利用できるようになった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】大豆蛋白を主原料とし湿潤剤又は可塑剤を含み延伸処理された乾燥紐状物であって、pH5.5の溶液中に常温浸漬すると浸漬前の長さの40〜98%に収縮する性質を有することを特徴とする干瓢代替物。
【請求項2】大豆蛋白を主原料とし湿潤剤又は可塑剤を含み紐状物を得る前の乾燥フィルム又は紐状物を1.2〜4倍に延伸することを特徴とする干瓢代替物の製造方法。
【請求項3】pH5.5の溶液中に常温浸漬すると浸漬前の長さの40〜98%に収縮する性質を有する大豆蛋白を主原料とし湿潤剤又は可塑剤を含み延伸処理された乾燥紐状物で食品を結ぶことを特徴とする紐材で結んだ食品の製造法。

【特許番号】第2581321号
【登録日】平成8年(1996)11月21日
【発行日】平成9年(1997)2月12日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−40349
【出願日】平成4年(1992)1月29日
【公開番号】特開平5−84040
【公開日】平成5年(1993)4月6日
【前置審査】 前置審査
【出願人】(000236768)不二製油株式会社 (386)
【参考文献】
【文献】特開 昭48−103765(JP,A)
【文献】特開 昭48−72354(JP,A)
【文献】特開 昭49−81563(JP,A)
【文献】特開 昭53−29955(JP,A)
【文献】特公 昭56−37773(JP,B2)