説明

平板X線検出装置

【課題】鮮鋭性、輝度に優れる平板X線検出装置を提供すること。
【解決手段】鮮鋭性、輝度に優れる平板X線検出装置は、反射層と、厚さLのシンチレータ層とを含み、該シンチレータ層がヨウ化セシウムと賦活剤とを含有する柱状結晶を含み、該シンチレータ層の賦活剤平均濃度Aと該反射層側からL/5の位置までのシンチレータ層の賦活剤濃度Bとの関係がB>Aであり、該シンチレータ層の柱状結晶の根元(結晶成長の起点)から10μmの位置での平均円相当径aと先端での平均円相当径bが30≧b/a≧1.5とすることにより得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被写体の放射線画像を形成する際に用いられるシンチレータプレートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、X線画像のような放射線画像は医療現場において病状の診断に広く用いられている。特に、増感紙−フィルム系による放射線画像は長い歴史の中で高感度化と高画質化が図られた結果、高い信頼性と優れたコストパフォーマンスを併せ持った撮像システムとして、いまなお世界中の医療現場で用いられている。
【0003】
しかしながら、これら画像情報は所謂アナログ画像情報であって、近年発展を続けているデジタル画像情報のような自由な画像処理や瞬時の電送ができない。
そして、近年では、コンピューテッドラジオグラフィ(CR)やフラットパネル型の放射線ディテクタ(FPD)等に代表されるデジタル方式の放射線画像検出装置が登場している。これらはデジタルの放射線画像が直接得られ、陰極管や液晶パネル等の画像表示装置に画像を直接表示することが可能なので、必ずしも写真フィルム上への画像形成が必要なものではない。その結果、これらのデジタル方式のX線画像検出装置は、銀塩写真方式による画像形成の必要性を低減させ、病院や診療所での診断作業の利便性を大幅に向上させている。
【0004】
X線画像のデジタル技術の一つとして、コンピューテッド・ラジオグラフィ(CR)が現在医療現場で受け入れられている。しかしながら、鮮鋭性が十分でなく空間分解能も不充分であり、スクリーン・フィルムシステムの画質レベルには到達していない。そして、更に新たなデジタルX線画像技術として、例えば、雑誌Physics Today,1997年11月号24頁のジョン・ローランズ論文"Amorphous Semiconductor Usher in Digital X−ray Imaging"や、雑誌SPIEの1997年32巻2頁のエル・イー・アントヌクの論文"Development of a High Resolution,Active Matrix,Flat−Panel Imager with Enhanced Fill Factor"等に記載された、薄膜トランジスタ(TFT)を用いた平板X線検出装置(FPD)が開発されている。
【0005】
平板X線検出装置(FPD)はCRより装置が小型化し、高線量での画質が優れているという特徴がある。しかし、一方ではTFTや回路自体のもつ電気ノイズのため、低線量の撮影においてSN比が低下し十分な画質レベルには至っていない。
【0006】
放射線を可視光に変換するために、放射線により発光する特性を有するX線蛍光体で作られたシンチレータプレートが使用されるが、低線量の撮影においてSN比を向上するためには、発光効率の高いシンチレータプレートを使用することが必要になってくる。
【0007】
一般に、シンチレータプレートの発光効率は蛍光体層の厚さ、蛍光体のX線吸収係数によって決まるが、蛍光体層の厚さは厚くすればするほど蛍光体層内での発光光の散乱が発生し、鮮鋭性は低下する。そのため、画質に必要な鮮鋭性を決めると膜厚が決定する。
【0008】
その中でも、ヨウ化セシウム(CsI)はX線から可視光に対する変更率が比較的高く、蒸着によって容易に蛍光体を柱状結晶構造に形成できるため、光ガイド効果により結晶内での発光光の散乱が抑えられ、蛍光体層の厚さを厚くすることが可能であった(例えば、特許文献1参照)。
【0009】
また、発光効率を向上させるため、タリウム、ナトリウム、ルビジウムなどの賦活剤と呼ばれる元素をヨウ化セシウムに含有させることが知られている。また、受光素子から遠いところにあるシンチレータの端に反射面を設け、シンチレータから受光素子への光の伝達を向上させることも試みられている(例えば、特許文献2参照)。
【0010】
また、結晶内を伝播する光はライトガイド効果により、結晶の根元から先端へ向かう光と先端から根元へ向かう光とに分けられる。先端から根元へ向かう光は、基板で反射する際に散乱成分が多くなる。上記のように輝度を向上させることで、結晶内を伝達する光量が増加するので散乱光も増加し、鮮鋭性を低下させることが問題であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭63−215987号公報
【特許文献2】特公平7−21560号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、上記問題に鑑みてなされたものであり、鮮鋭性、輝度に優れるシンチレータプレートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
1.反射層と、厚さLのシンチレータ層とを含む平板X線検出装置において、
該シンチレータ層がヨウ化セシウムと賦活剤とを含有する柱状結晶を含み、
該シンチレータ層の賦活剤平均濃度Aと該反射層側からL/5の位置までのシンチレータ層の賦活剤濃度Bとの関係がB>Aであり、該シンチレータ層の柱状結晶の根元(結晶成長の起点)から10μmの位置での平均円相当径aと先端での平均円相当径bが30≧b/a≧1.5となることを特徴とする平板X線検出装置。
【0014】
2.前記柱状結晶が賦活剤濃度の異なる複数の蒸着源を加熱し、蒸着して基板上に形成された結晶であることを特徴とする前記1に記載の平板X線検出装置。
また、本発明は、下記の構成にも関連する。
【0015】
[1]基板上に反射層、及びヨウ化セシウムと賦活剤を含有する厚さLのシンチレータ層を順次に設けてなるシンチレータプレートにおいて、該シンチレータ層の賦活剤平均濃度Aと該反射層側からL/5の位置までのシンチレータ層の賦活剤濃度Bの関係が次式(1)を満たすことを特徴とするシンチレータプレート。
式(1) 2≦B/A
[2]前記シンチレータ層が柱状結晶であることを特徴とする前記[1]記載のシンチレータプレート。
【0016】
[3]前記賦活剤の平均濃度がヨウ化セシウムに対して0.001〜50モル%であることを特徴とする前記[1]または[2]に記載のシンチレータプレート。
[4]前記賦活剤がタリウム化合物であることを特徴とする前記[1]〜[3]のいずれか1項に記載のシンチレータプレート。
【0017】
[5]前記柱状結晶がヨウ化セシウム及びタリウム化合物を含む蒸着源を加熱し、蒸着して基板上に形成された結晶であることを特徴とする前記[1]〜[4]のいずれか1項に記載のシンチレータプレート。
【0018】
[6]前記タリウム化合物が臭化タリウム、塩化タリウム、ヨウ化タリウムまたはフッ化タリウムであることを特徴とする前記[4]または[5]に記載のシンチレータプレート。
[7]基板上に反射層、及びヨウ化セシウムと賦活剤を含有するシンチレータ層を順次に設けてなるシンチレータプレートにおいて、該シンチレータ層の柱状結晶の基板から10μmの位置での平均円相当径aと先端での平均円相当径bが30≧b/a≧1.5となることを特徴とする前記[2]〜[6]のいずれか1項に記載のシンチレータプレート。
【発明の効果】
【0019】
本発明によって、鮮鋭性、輝度に優れる、シンチレータプレートを提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明のシンチレータプレートの断面図である。
【図2】本発明に係る蒸着装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明について詳述する。
基板上に反射層及びヨウ化セシウムと賦活剤を含有する厚さLのシンチレータ層を順次に設けてなるシンチレータプレートにおいて、該シンチレータ層の賦活剤平均濃度Aと該反射層側からL/5の位置までのシンチレータ層の賦活剤濃度Bの関係が、2≦B/Aを満たすことを特徴とする。また、また、基板上に反射層、及びヨウ化セシウムと賦活剤を含有するシンチレータ層を順次に設けてなるシンチレータプレートにおいて、該シンチレータ層の柱状結晶の基板から10μmの位置での平均円相当径aと先端での平均円相当径bが30≧b/a≧1.5となることを特徴とする。
【0022】
本発明に係るシンチレータ層は、X線等の入射された放射線のエネルギーを吸収して、波長が300nmから800nmの電磁波、即ち可視光線を中心に紫外光から赤外光に亘る電磁波(光)を発光する蛍光体(シンチレータ)を含有する層であり、ヨウ化セシウムと賦活剤を含有する蒸着結晶からなる。
【0023】
(基板)
本発明に係る基板はシンチレータ層を担持可能な板状、フィルム体であり、X線等の放射線を入射線量に対し10%以上を透過させることが可能なものである。
【0024】
基板としては、各種のガラス、高分子材料、金属等を用いることができる。
例えば、石英、ホウ珪酸ガラス、化学的強化ガラスなどの板ガラス、サファイア、チッ化珪素、炭化珪素などのセラミック基板、シリコン、ゲルマニウム、ガリウム砒素、ガリウム燐、ガリウム窒素など半導体基板、またセルロースアセテートフィルム、ポリエステルフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリアミドフィルム、ポリイミドフィルム、トリアセテートフィルム、ポリカーボネートフィルム、炭素繊維強化樹脂シート等の高分子フィルム(プラスチックフィルム)、アルミニウムシート、鉄シート、銅シート等の金属シート或いは該金属酸化物の被覆層を有する金属シートなどが挙げられる。
【0025】
基板としては、厚さ50〜500μmの可とう性を有する高分子フィルムであることが好ましい。ここで、「可とう性を有する」とは120℃での弾性率(E120)が1000〜6000N/mm2であることをいい、かかる基板としてポリイミドまたはポリエチレンナフタレートを含有する高分子フィルムが好ましい。
【0026】
なお、「弾性率」とは引張試験機を用い、JIS−C2318に準拠したサンプルの標線が示すひずみとそれに対応する応力が直線的な関係を示す領域において、ひずみ量に対する応力の傾きを求めたものである。これがヤング率と呼ばれる値であり、本発明では、かかるヤング率を弾性率と定義する。
【0027】
本発明に用いられる基板は、上記のように120℃での弾性率(E120)が1000〜6000N/mm2であることが好ましい。より好ましくは1200〜5000N/mm2である。
【0028】
具体的には、ポリエチレンナフタレート(E120=4100N/mm2)、ポリエチレンテレフタレート(E120=1500N/mm2)、ポリブチレンナフタレート(E120=1600N/mm2)、ポリカーボネート(E120=1700N/mm2)、シンジオタクチックポリスチレン(E120=2200N/mm2)、ポリエーテルイミド(E120=1900N/mm2)、ポリアリレート(E120=1700N/mm2)、ポリスルホン(E120=1800N/mm2)、ポリエーテルスルホン(E120=1700N/mm2)等からなる高分子フィルムが挙げられる。
【0029】
これらは単独で用いてもよく、積層あるいは混合して用いてもよい。中でも、特に好ましい高分子フィルムとしては、上述のようにポリイミドまたはポリエチレンナフタレートを含有する高分子フィルムが好ましい。
【0030】
(反射層)
本発明に係る反射層は、シンチレータ層で発せられた蛍光の基板方向に放射進行する電磁波を反射しうる層である。
【0031】
反射層としては金属薄膜が好ましく用いられる。金属薄膜としては、Al、Ag、Cr、Cu、Ni、Ti、Mg、Rh、Pt及びAuからなる群の中の物質を含む材料からなる膜が好ましく用いられる。更に、Cr膜上にAu膜を形成する等、金属薄膜を2層以上形成してもよい。反射層としては、上記の中でも特にアルミニウムを含有する膜を用いる態様が好ましい態様である。
【0032】
(シンチレータ層)
本発明に係るシンチレータ層は放射線の照射により、蛍光を発する放射線蛍光体を含有する層であり、ヨウ化セシウムと賦活剤を含有する蒸着結晶からなる。
【0033】
本発明に係る賦活剤とは、ヨウ化セシウム中に含有されることで発光効率を上昇し得る元素である。賦活剤としてはタリウム化合物、ナトリウム化合物、ルビジウム化合物等が挙げられるが、特にタリウム化合物が好ましく用いられる。ヨウ化セシウム中に含有させるには、例えば、ヨウ化セシウムとタリウム化合物を含む蒸着原を加熱し、上記基板上に蒸着する方法により行うことができる。
【0034】
本発明に係る蒸着結晶とは、ヨウ化セシウムと賦活剤を含む化合物とを含有する蒸着源を加熱し、基板上に蒸着して形成された結晶である。
本発明においては、賦活剤としては上記のようにタリウム化合物が好ましく、蒸着に用いられるタリウム化合物としては、臭化タリウム、塩化タリウム、ヨウ化タリウムまたはフッ化タリウムが挙げられる。
【0035】
また、蒸着結晶中の賦活剤の濃度としては、ヨウ化セシウムに対して発光効率の面から0.001〜50モル%の範囲が好ましく、特に0.1〜20モル%の範囲が好ましい。
蒸着結晶としては、柱状結晶であることが好ましい。
【0036】
本発明の効果は、該シンチレータ層の賦活剤平均濃度Aとシンチレータ層総膜厚の基板側1/5領域の賦活剤平均濃度Bとが式(2≦B/A)を満たすことで達成できるが、好ましくは2≦B/A≦10が望ましい。B/A>10となると基板側の結晶性が乱れ、柱状結晶を独立性が低下し、400μm以上の膜厚の蒸着膜形成が困難となる。更に、本発明の効果はシンチレータ層の基板から1/5領域が2層以上のシンチレータ層から構成され、その中にTlを含まない層があっても、上記式を満たすことで得ることができる。本発明におけるTl濃度は以下のような測定により得られる。
【0037】
柱状結晶について結晶の成長方向に結晶を5等分し、分割された各々の賦活剤の濃度を測定する。賦活剤の濃度は、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP−AES:Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectrometer)にて測定する。この方法は金属元素等をプラズマ中で励起させたときに発生する光を分光し、各元素特有の波長から定性分析、発光強度から定量分析を行う手法であり、水溶液に含まれる微量無機元素の定量、及び定性ができる。
【0038】
代表的なTlの定量には蛍光体を基板から剥がした試料に濃塩酸を加えて加熱乾固し、更に王水を加えて加熱溶解した後、超純水で適宜希釈したものを測定する。
賦活剤濃度はヨウ化セシウムに対するモル%で表される。
【0039】
分割された各々の領域の濃度平均値を測定した柱状結晶の平均濃度Aとし、5分割された領域の内、一番基板側の領域の濃度を平均濃度Bとする。A、Bが2≦B/Aの関係を満たすことで、基板側の結晶には賦活剤が高濃度であるために黄色着色が発生する。よって、結晶根元の黄色着色の部分では発光光が吸収される。その結果、基板面へ向かう光は吸収されて散乱成分を減少でき、高鮮鋭性を達成することができる。
【0040】
このような構成のシンチレータプレートを作製する一般的な方法としては、蒸着時に賦活剤濃度の異なる蒸着源を使用し、蒸着タイミングをずらす方法やTlとCsIを別々の蒸着源として蒸着する方法がある。
【0041】
本発明においては、該シンチレータ層の柱状結晶の基板から10μmの位置での平均円相当径aと先端での平均円相当径bが、30≧b/a≧1.5を満たすことが必要である。より好ましくは10≧b/a≧2である。
【0042】
柱状結晶の円相当径は、形成された柱状結晶からなるシンチレータ層を導電性の物質(白金パラジウム、金、カーボンなど)でコーティングした後に、走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)(日立製作所製S−800)にて観察し、得られた画像より各柱状結晶の円相当径を測定する。30本の平均により、平均円相当径とする。結晶先端の平均円相当径は蒸着終了面、基板から10μmの位置での平均円相当径は基板上に形成した結晶膜表面をカッターにより基板から10μm程度になるまで削って得られた結晶面を観察したものを指す。ここで示す円相当径とは、個々の柱状結晶断面に外接する円の直径である。
【0043】
該シンチレータ層の柱状結晶の基板から10μmの位置での平均円相当径aと先端での平均円相当径bが、30≧b/a≧1.5を満たすことで、基板側で結晶径が細いことで結晶の独立性が向上し、先端が太くなることで、受光素子側での発光断面積が大きくなり輝度の向上が得られる。30<b/aの場合は柱状結晶の強度が弱くなってしまう。
【0044】
このような構成のシンチレータプレートを作製する一般的な方法としては、蒸着時に不活性ガス、例えば、Arガスを蒸着初期には多めに導入し、後半へかけてArガス量を減らしていくことで達成できる。
【0045】
(中間層)
本発明においては、反射層とシンチレータ層の間に中間層を有してもよい。
中間層としては、例えば、ポリエステル樹脂、ポリアクリル酸共重合体、ポリアクリルアミドまたはこれらの誘導体及び部分加水分解物、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリルニトリル、ポリアクリル酸エステル等のビニル重合体及びその共重合体、ロジン、シェラック等の天然物及びその誘導体などの樹脂を含有する層が挙げられる。
【0046】
(シンチレータプレート)
本発明のシンチレータプレートについて図1を参照して説明する。
本発明のシンチレータプレート10は、図1に示すように基板1上にシンチレータ層2を備えるものであり、シンチレータ層2に放射線が照射されるとシンチレータは入射した放射線のエネルギーを吸収して、波長が300nmから800nmの電磁波、即ち可視光線を中心に紫外光から赤外光に亘る電磁波(光)を発光する。
【0047】
以下、基板1上にシンチレータ層2を形成させる方法について説明する。
シンチレータ層2は蒸着法により形成される。蒸着法は基板1を公知の蒸着装置内に設置するとともに、蒸着源にヨウ化セシウム及び賦活剤を含むシンチレータ層2の原材料を充填した後、装置内を排気すると同時に窒素等の不活性なガスを導入口から導入して1.33×10-3〜1.33Pa程度の真空とし、次いで、原材料を抵抗加熱法、エレクトロンビーム法などの方法で加熱蒸発させて基板1表面にヨウ化セシウムの蒸着結晶を堆積し、基板1上にシンチレータ層2が形成される。
【0048】
次に、図2を参照して、蒸着法を行う際に使用する蒸着装置の一例として、蒸着装置20について説明する。
蒸着装置20には、真空ポンプ21と真空ポンプ21の作動により内部が真空となる真空容器22とが備えられている。真空容器22の内部には、蒸着源として抵抗加熱ルツボ23が備えられており、この抵抗加熱ルツボ23の上方には回転機構24により回転可能に構成された基板1が基板ホルダ25を介して設置されている。また、抵抗加熱ルツボ23と基板1との間には、必要に応じて抵抗加熱ルツボ23から蒸発する蛍光体の蒸気流を調節するためのスリットが設けられている。なお、基板1は蒸着装置20を使用する際に基板ホルダ25に設置して使用するようになっている。
【0049】
このような気相堆積法により支持体上に蛍光体層を形成する製造方法において、シンチレータ層の賦活剤平均濃度Aとシンチレータ層総膜厚の基板側1/5領域の賦活剤濃度Bが式(2≦B/A)を満たすためには、蒸着初期に賦活剤濃度の高い蒸着原料を蒸着することで達成できる。また、柱状径を基板側から先端にかけて太くするには、不活性ガス、例えば、Arガスを蒸着初期には多めに導入し、後半へかけてArガス量を減らしていくことで達成できる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
実施例1
(蒸着基板の作製)
厚さ0.5mmのAlを10cm×10cmのサイズに切り出し、基板とした。
【0051】
(シンチレータ層の作製)
ヨウ化セシウムに賦活剤原料として、ヨウ化タリウム(TlI)をCsIに対して2.4mol%、0.3mol%と濃度の異なる蒸着材料を作製した。蒸着材料を濃度別に抵抗加熱ルツボに充填し、また回転する基板ホルダに基板を設置し、基板と蒸発源との間隔を400mmに調節した。
【0052】
続いて、蒸着装置内を一旦排気し、Arガスを導入して0.1Paに真空度を調整した後、10rpmの速度で基板を回転しながら基板の温度を200℃に保持した。次いで、抵抗加熱ルツボを加熱してシンチレータ用蛍光体を蒸着する。シンチレータ(蛍光体層)の膜厚が100μmとなったところで、Tl濃度の薄い材料が入っている抵抗加熱ルツボの蒸着を開始する。総膜厚が500μmになったところで蒸着を終了させ、シンチレータプレートを得た。
【0053】
実施例2
(蒸着基板の作製)
実施例1と同様にした。
【0054】
(シンチレータ層の作製)
ヨウ化セシウム(CsI)に賦活剤原料としてヨウ化タリウム(TlI)を混合した。ヨウ化タリウムはCsIに対して1.5mol%、0.3mol%と濃度の異なる蒸着材料を作製した。蒸着材料を濃度別に抵抗加熱ルツボに充填し、また回転する支持体ホルダに基板を設置し、基板と2個の蒸発源との間隔を400mmに調節した。
【0055】
続いて、蒸着装置内を一旦排気し、Arガスを導入して0.1Paに真空度を調整した後、10rpmの速度で基板を回転しながら基板の温度を200℃に保持した。次いで、Tl濃度の濃い蒸着材料が入っている抵抗加熱ルツボを加熱して、シンチレータ用蛍光体を蒸着する。シンチレータ(蛍光体層)の膜厚が100μmとなったところで、Tl濃度の薄い材料が入っている抵抗加熱ルツボの蒸着を開始する。総膜厚が500μmになったところで、蒸着を終了させシンチレータプレートを得た。
【0056】
実施例3
(蒸着基板の作製)
実施例1と同様にした。
【0057】
(シンチレータ層の作製)
ヨウ化セシウム(CsI)に賦活剤原料としてヨウ化タリウム(TlI)を混合した。ヨウ化タリウムはCsIに対して3.1mol%、0.3mol%と濃度の異なる蒸着材料を作製した。蒸着材料を濃度別に抵抗加熱ルツボに充填し、また回転する支持体ホルダに基板を設置し、基板と2個の蒸発源との間隔を400mmに調節した。
【0058】
続いて、蒸着装置内を一旦排気し、Arガスを導入して0.1Paに真空度を調整した後、10rpmの速度で基板を回転しながら基板の温度を200℃に保持した。次いで、Tl濃度の濃い蒸着材料が入っている抵抗加熱ルツボを加熱して、シンチレータ用蛍光体を蒸着する。シンチレータ(蛍光体層)の膜厚が100μmとなったところで、Tl濃度の薄い材料が入っている抵抗加熱ルツボの蒸着を開始する。総膜厚が500μmになったところで、蒸着を終了させシンチレータプレートを得た。
【0059】
実施例4
(蒸着基板の作製)
実施例1と同様にした。
【0060】
(シンチレータ層の作製)
実施例1と同様に蒸着材料を作製した。
続いて、蒸着装置内を一旦排気し、Arガスを導入して0.1Paに真空度を調整した後、10rpmの速度で基板を回転しながら基板の温度を200℃に保持した。次いで、抵抗加熱ルツボを加熱してシンチレータ用蛍光体を蒸着する。シンチレータ(蛍光体層)の膜厚が100μmとなったところで、Tl濃度の薄い材料が入っている抵抗加熱ルツボの蒸着を開始する。蒸着開始時のArガス導入量を徐々に減少させながら、総膜厚が400μmになったところで蒸着を終了させ、シンチレータプレートを得た。蒸着終了時のAr導入量は、蒸着初期の1/3とした。
【0061】
実施例5
(蒸着基板の作製)
実施例1と同様にした。
【0062】
(シンチレータ層の作製)
実施例1と同様に蒸着材料を作製した。
続いて、蒸着装置内を一旦排気し、Arガスを導入して0.1Paに真空度を調整した後、10rpmの速度で基板を回転しながら基板の温度を200℃に保持した。次いで、抵抗加熱ルツボを加熱してシンチレータ用蛍光体を蒸着する。シンチレータ(蛍光体層)の膜厚が100μmとなったところで、Tl濃度の薄い材料が入っている抵抗加熱ルツボの蒸着を開始する。蒸着開始時のArガス導入量を徐々に減少させながら、総膜厚が400μmになったところで蒸着を終了させ、シンチレータプレートを得た。蒸着終了時のAr導入量は、蒸着初期の1/10とした。
【0063】
比較例1
(蒸着基板の作製)
実施例1と同様にした。
【0064】
(シンチレータ層の作製)
ヨウ化セシウム(CsI)に賦活剤原料としてヨウ化タリウム(TlI)を混合した。ヨウ化タリウムはCsIに対して0.6mol%、0.3mol%と濃度の異なる蒸着材料を作製した。蒸着材料を濃度別に抵抗加熱ルツボに充填し、また回転する支持体ホルダに基板を設置し、基板と2個の蒸発源との間隔を400mmに調節した。
【0065】
続いて、蒸着装置内を一旦排気し、Arガスを導入して0.1Paに真空度を調整した後、10rpmの速度で基板を回転しながら基板の温度を200℃に保持した。次いで、Tl濃度の濃い蒸着材料が入っている抵抗加熱ルツボを加熱してシンチレータ用蛍光体を蒸着する。シンチレータ(蛍光体層)の膜厚が100μmとなったところで、Tl濃度の薄い材料が入っている抵抗加熱ルツボの蒸着を開始する。総膜厚が500μmになったところで蒸着を終了させ、シンチレータプレートを得た。
【0066】
比較例2
(蒸着基板の作製)
実施例1と同様にした。
【0067】
(シンチレータ層の作製)
ヨウ化セシウム(CsI)に賦活剤原料としてヨウ化タリウム(TlI)を混合した。ヨウ化タリウムはCsIに対して0.3mol%の蒸着材料を作製した。蒸着材料を抵抗加熱ルツボに充填し、また回転する支持体ホルダに基板を設置し、基板と蒸発源との間隔を400mmに調節した。
【0068】
続いて、蒸着装置内を一旦排気し、Arガスを導入して0.1Paに真空度を調整した後、10rpmの速度で基板を回転しながら基板の温度を200℃に保持した。次いで、蒸着材料が入っている抵抗加熱ルツボを加熱してシンチレータ用蛍光体を蒸着する。総膜厚が500μmになったところで蒸着を終了させ、シンチレータプレートを得た。
【0069】
比較例3
(蒸着基板の作製)
実施例1と同様にした。
【0070】
(シンチレータ層の作製)
実施例1と同様に蒸着材料を作製した。
続いて、蒸着装置内を一旦排気し、Arガスを導入して0.1Paに真空度を調整した後、10rpmの速度で基板を回転しながら基板の温度を200℃に保持した。次いで、抵抗加熱ルツボを加熱してシンチレータ用蛍光体を蒸着する。シンチレータ(蛍光体層)の膜厚が100μmとなったところで、Tl濃度の薄い材料が入っている抵抗加熱ルツボの蒸着を開始する。蒸着開始時のArガス導入量を徐々に減少させながら、総膜厚が400μmになったところで蒸着を終了させ、シンチレータプレートを得た。蒸着終了時のAr導入量は、蒸着初期の9.5/10とした。
【0071】
比較例4
(蒸着基板の作製)
実施例1と同様にした。
【0072】
(シンチレータ層の作製)
実施例1と同様に蒸着材料を作製した。
続いて、蒸着装置内を一旦排気し、Arガスを導入して0.1Paに真空度を調整した後、10rpmの速度で基板を回転しながら基板の温度を200℃に保持した。次いで、抵抗加熱ルツボを加熱してシンチレータ用蛍光体を蒸着する。シンチレータ(蛍光体層)の膜厚が100μmとなったところで、Tl濃度の薄い材料が入っている抵抗加熱ルツボの蒸着を開始する。蒸着開始時のArガス導入量を徐々に増加させながら、総膜厚が400μmになったところで蒸着を終了させ、シンチレータプレートを得た。蒸着終了時のAr導入量は、蒸着初期の13/10とした。
【0073】
実施例1、2、3、4、5、比較例1、2、3、4で作製したサンプルを用いて、下記の方法で賦活剤濃度の測定、鮮鋭性、輝度の評価を行った。
(賦活剤濃度の測定)
得られたシンチレータ層について、結晶の成長方向に結晶を5等分し、分割された各々の賦活剤の濃度を測定した。
【0074】
賦活剤の濃度は誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP−AES:Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectrometer)にて測定した(セイコー電子工業:SPS−4000)。Tlの定量には蛍光体に濃塩酸を加えて加熱乾固し、更に王水を加えて加熱溶解した後、超純水で適宜希釈したものを用いる。賦活剤濃度はヨウ化セシウムに対するモル%で表される。5分割された濃度の賦活剤平均濃度と、シンチレータ層総膜厚の基板側1/5領域の賦活剤濃度を表1に示す。
【0075】
(鮮鋭性の評価)
得られたシンチレータプレートをPaxScan2520(Varian社製FPD)にセットし、鮮鋭性を以下に示す方法で評価した。
【0076】
鉛製のMTFチャートを通して管電圧80kVpのX線をFPDの放射線入射面側に照射し、画像データを検出しハードディスクに記録した。その後、ハードディスク上の記録をコンピュータで分析して当該ハードディスクに記録されたX線像の変調伝達関数MTF(空間周波数1サイクル/mmにおけるMTF値)を鮮鋭性の指標とした。MTFはModulation Transfer Functionの略号を示す。測定結果を下記表1に示す。但し、表1中、各試料の先鋭性を示す値は実施例1の鮮鋭性を100とした相対値である。
【0077】
(輝度の評価)
管電圧80kVpのX線を各試料の裏面(シンチレータ蛍光体層が形成されていない面)から照射し、瞬時発光を光ファイバーで取り出し、発光量を浜松ホトニクス社製のホトダイオード(S2281)で測定してその測定値を「発光輝度(感度)」とした。測定結果を下記表1に示す。但し、表2中、各試料の発光輝度を示す値は、実施例3のサンプルの発光輝度を1.0とした相対値である。
【0078】
【表1】

【0079】
【表2】

【0080】
表1から、本発明のシンチレータプレートは、鮮鋭性に優れていることが分かる。
表2から、本発明のシンチレータプレートは、高輝度であることが分かる。
【符号の説明】
【0081】
1 基板
2 シンチレータ層(蛍光体層)
10 シンチレータプレート
20 蒸着装置
21 真空ポンプ
22 真空容器
23 抵抗加熱ルツボ
24 回転機構
25 基板ホルダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反射層と、厚さLのシンチレータ層とを含む平板X線検出装置において、
該シンチレータ層がヨウ化セシウムと賦活剤とを含有する柱状結晶を含み、
該シンチレータ層の賦活剤平均濃度Aと該反射層側からL/5の位置までのシンチレータ層の賦活剤濃度Bとの関係がB>Aであり、該シンチレータ層の柱状結晶の根元(結晶成長の起点)から10μmの位置での平均円相当径aと先端での平均円相当径bが30≧b/a≧1.5となることを特徴とする平板X線検出装置。
【請求項2】
前記柱状結晶が賦活剤濃度の異なる複数の蒸着源を加熱し、蒸着により形成された結晶であることを特徴とする請求項1に記載の平板X線検出装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−47696(P2013−47696A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−267102(P2012−267102)
【出願日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【分割の表示】特願2009−509299(P2009−509299)の分割
【原出願日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】