説明

平版印刷インキ組成物

【課題】 石油系溶剤に一部または全部を環境負荷が少ない特定の植物油由来の溶剤に置き換え、さらに機上安定性に優れ、印刷物の高い光沢性と画像再現性(印刷品質)に優れるオフセット輪転印刷用インキを提供する。
【解決手段】 インキ構成上のロジン変性フェノール樹脂の内、n−ヘプタントレランス(溶解性)が30ml〜80mlである高溶解樹脂を限定使用し、樹脂の溶解性を高める事で、印刷機上でインキ物性の変動が低減し、印刷品質の安定性が向上し且つ高光沢な印刷物を提供する事を特徴とするオフセット輪転印刷用インキ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石油系溶剤を、植物油から精製した溶剤に置き換えた環境対応型の平版印刷インキ組成物、特にオフセット輪転印刷用インキに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境対応型のオフセット輪転印刷用インキとして、石油系溶剤を、植物油から精製した溶剤に置き換えたインキが開発されている。また、ヤシ油から精製したジオクチルエーテルを溶剤として用いたオフ輪インキを業界に先駆けて開発し、今日、実用化に至っている。本願は、植物油由来の溶剤を使用しながらも、より高性能な環境対応型オフセット輪転印刷用インキを開発すべく鋭意検討を行った結果、性能面で更なるレベルアップ(高光沢・高安定性)効果が得られた。
【0003】
特許文献1には、石油資源の枯渇保護を目的とし、石油系溶剤の全てを植物油由来の溶剤に置き換えるが、印刷適性・印刷効果は従来の石油系溶剤使用のオフセットインキと遜色ない環境対応型インキが記載されている(特許文献1参照)。
【0004】
特許文献2には、オフセット輪転印刷用インキにおいて、石油系溶剤の一部または全部を特定の植物油由来の溶剤に置き換えることにより、環境負荷が少なく、印刷におけるインキ乾燥性および機上安定性が優れ、また、印刷機のインキローラーやブランケットのゴム材質に対する膨潤が極めて少ないインキが記載されている(特許文献2参照)。
【0005】
【特許文献1】特許4352713号公報
【特許文献2】特開2005−60693号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、オフセット輪転印刷用インキにおいて、石油系溶剤の一部または全部を環境負荷が少ない特定の植物油由来の溶剤に置き換え、さらに機上安定性に優れ、印刷物に高い光沢性と優れた画像再現性(印刷品質)を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、上記課題を解決すべく、鋭意検討の結果、ワニス用樹脂の溶解性(n−ヘプタントレランス)を高める事で、印刷機上でインキ物性の変動が飛躍的に低減し印刷品質の安定性が向上、且つ高光沢な印刷物が得られたことで、本発明に想到した。
【0008】
ワニス用樹脂の溶解性を高める事で溶剤との相溶性が向上し、それによってインキ塗膜を形成するワニスの物性が安定化し、インキが印刷機上での外的要因(圧力、機械熱 等)にさらされた際に、インキから溶剤が離脱し辛くなって、インキ物性の変動が低減する。このことにより、画像再現性(印刷品質)が良好で安定した印刷物が得られる。また、ワニス用樹脂の溶解性を高める事で、インキ粘度が低下し、インキが用紙に転移した直後から発現する塗膜表面のレベリングが助長されて高光沢な印刷物が得られる。ただし、ワニス用樹脂の溶解性が高すぎると、適度なインキ粘度が保てなくなり、インキ塗膜の潰れによる画像太りが生じて印刷品質が劣化する。
【0009】
すなわち、本発明は、植物油由来のジオクチルエーテル、及びn−ヘプタントレランスが30ml〜80mlであるロジン変性フェノール樹脂を含有することを特徴とする平版印刷インキ組成物を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の平版印刷インキ組成物は、樹脂の溶解性(n−ヘプタントレランス)を高める事で、印刷機上でのインキ物性の変動が飛躍的に低減し、印刷品質の安定性が向上し且つ高光沢な印刷物を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次に好ましい実施の形態を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。本発明の平版印刷インキ組成物は、植物油由来のジオクチルエーテル、及びn−ヘプタントレランスが30ml〜80mlであるロジン変性フェノール樹脂を含有することを特徴とする。
本発明を主として特徴づける溶剤は、植物油脂由来の脂肪族アルコールから誘導されるジオクチルエーテルに限定される。該ジオクチルエーテルは、公知の方法にて、植物油脂から得られる脂肪族アルコールから公知の方法にて誘導され、常温にて液体であり、かつ印刷機のインキローラーやブランケットのゴム材質に対する膨潤作用が極めて少ない植物油脂由来の溶剤である。
【0012】
前記のジオクチルエーテルの原料であるオクチルアルコールは、例えば、ヤシ油など植物油脂由来の脂肪酸エステルを公知の方法で、例えば、水素添加による高圧還元法などによって還元して得られる。
得られたオクチルアルコールをエーテル化したジオクチルエーテルは、常温にて液体で、その沸点はオフセット輪転印刷インキの蒸発乾燥性に適合した温度となる。
【0013】
本発明でワニス用樹脂として使用するロジン変性フェノール樹脂は、その樹脂の溶解性を示すn−ヘプタントレランスが30ml〜80mlのロジン変性フェノール樹脂である。該樹脂のn−ヘプタントレランスが上記範囲内であることにより、得られるインキの機上安定性や、それを用いて印刷された印刷物の光沢が、より優れたものになる。
【0014】
本発明におけるn−ヘプタントレランスは、ビーカーに秤量した樹脂1gをトルエン9gに25℃条件下で溶解させ、n−ヘプタンをビュレットを使用し滴下し、溶液が白濁しビーカー底部越に新聞紙活字が読み取れなくなるまでのn−ヘプタン滴下量を測定することによって得られる。
【0015】
本発明の平版印刷インキ組成物に使用するロジン変性フェノール樹脂は、ロジンとレゾール縮合体との付加生成物を多価アルコールでエステル化する等、公知の合成方法によって先に定義したn−ヘプタントレランスが30ml〜80mlになるように反応させて得られる。上記レゾール縮合体は、アルキルフェノールとホルムアルデヒドを原料としており、該アルキルフェノールは、その種類によって溶剤と樹脂との相溶性を適度に操作することが可能である。一般的にはフェノールのアルキル基鎖長が長いアルキルフェノールを用いるほど、ロジン変性フェノール樹脂の溶解性は高くなる。
【0016】
本発明の平版印刷インキ組成物に使用するロジン変性フェノール樹脂を構成するロジン類としては、ガムロジン、トール油ロジン、ウッドロジン、水添ロジン、不均化ロジン、重合ロジンが例示される。多価アルコール類としては、グリセリン、ジグリセリン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパンなどが例示される。
また、アルキルフェノール類としては、石炭酸、クレゾール、ブチルフェノール、オクチルフェノール、ノニルフェノールなどが例示され、特にはブチルフェノール、オクチルフェノール、ノニルフェノールを単体あるいは混合して、樹脂のn−ヘプタントレランスが先に定義した30ml〜80mlになるように調整することができる。
【0017】
本発明に使用する溶剤は、前記したジオクチルエーテルが主成分であり、該ジオクチルエーテルと、沸点が220℃〜310℃である植物油脂由来の脂肪酸エステルおよび/または石油系溶剤との混合物であってもよい。上記沸点範囲内であれば、平版印刷インキ組成物の蒸発乾燥性に適合したインキが得られる。
【0018】
前記のジオクチルエーテル(a)と植物油脂由来の脂肪酸エステル(b)とを混合溶剤として使用する場合には、溶剤中の(a)が50質量%以上であることが好ましい。a/b=50〜100質量%/50〜0質量%である。上記の脂肪酸エステル(b)の割合が50質量%を超えるインキでは、印刷機のインキローラーやブランケットのゴム材部分が印刷中に著しく膨潤し、安定した印刷が行えなくなる。
【0019】
また、前記のジオクチルエーテルと石油系溶剤とを混合溶剤として使用する場合の該石油系溶剤の混合量は、とくに規制はないが、上記の石油系溶剤の配合割合が多くなるとインキの乾燥時に石油系溶剤の蒸発量が多くなり大気汚染などの環境負荷が増大する。
【0020】
前記ジオクチルエーテルと併用することができる植物油脂由来の脂肪酸エステルは、その総炭素数が17以下、好ましくは10〜17のものであり、それら脂肪酸エステルの沸点はオフセット輪転印刷用インキの蒸発乾燥性に適合したものとなる。該脂肪酸エステルは、植物油脂から誘導された脂肪酸エステルの単体あるいは混合物が好ましく使用されるが、その他の合成法によるものも使用する事ができる。
【0021】
上記脂肪酸エステルは、例えば、脂肪酸とアルコールとのエステル化によって生成したものを使用することができる。該脂肪酸エステルの生成に使用される脂肪酸は、ヤシ油、パーム油、パーム核油、大豆油、菜種油、亜麻仁油、サフラワー油、オリーブ油、落花生油、ゴマ油、綿花油などの植物油から生成される。これらの植物油は、一般に、複数の脂肪酸から構成されているので、それらを公知の方法で分離精製し、得られた単体の脂肪酸あるいはこれらを混合して使用することができる。
【0022】
該脂肪酸としては、例えば、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ベラルゴン酸、カプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、ウンデシレン酸などが挙げられる。
【0023】
また、上記の脂肪酸と反応して脂肪酸エステルを生成する該アルコールとしては、例えば、アミルアルコール、ヘキシルアルコール、ヘプチルアルコール、オクチルアルコール、ノニルアルコール、デシルアルコール、ウンデシルアルコール、ドデシルアルコール、トリデシルアルコール、テトラデシルアルコール、3−メチル−1−ブチルアルコール、2−エチル−1−ブチルアルコール、2,4−ジメチル−3−ペンチルアルコール、2−エチル−1−ヘキシルアルコール、3,5,5−トリメチル−1−ヘキシルアルコール、4−デシルアルコール、2−イソプロピル−5−メチル−1−ヘキシルアルコール、2−ブチル−1−オクチルアルコールなどが挙げられる。
【0024】
前記脂肪酸エステルの製造方法としては、例えば、前記の脂肪酸とアルコールとの反応による直接エステル化反応による方法、エステルとアルコールまたはエステルと脂肪酸、あるいはエステルとエステルとから合成するエステル交換反応による方法、塩化アシルとアルコールとの反応による方法、およびエポキシドと脂肪酸との反応による方法などが挙げられる。好ましくは直接エステル化反応による方法が挙げられる。上記の直接エステル化反応による方法は、前記の脂肪酸とアルコールとを混合し、適宜適当なトルエンやキシレンなどの共沸脱水剤を加えて熱することにより、水を留出させながら反応を進める。触媒としては、硫酸やp−トルエンスルホン酸などのブレンステッド酸、酸化亜鉛や活性アルミナ、酸化チタン、テトライソプロピルチタナートなどのルイス酸を使用する。
【0025】
該脂肪酸エステルにおいて、その総炭素数が17以下、好ましくは10〜17のものは、オフセット輪転印刷用インキの蒸発乾燥性に適合する沸点を有する。前記脂肪酸エステルは、総炭素数が少ないほど沸点が低く、総炭素数が多いほど高くなる。したがって、その総炭素数が17以下、好ましくは10〜17の範囲内の脂肪酸エステルを該ジオクチルエーテルと併用することで、インキの蒸発乾燥性を操作することが可能である。
【0026】
前記脂肪酸エステルとしては、例えば、カプロン酸ヘプチルエステル、カプロン酸オクチルエステル、カプロン酸ノニルエステル、カプロン酸デシルエステル、カプリル酸ヘキシルエステル、カプリル酸ヘプチルエステル、カプリル酸オクチルエステル、カプリル酸ノニルエステル、カプリン酸アミルエステル、カプリン酸ヘキシルエステル、カプロン酸2−エチルヘキシルエステル、カプロン酸3,5,5−トリメチルヘキシルエステル、カプロン酸4−デシルエステル、カプロン酸2−イソプロピル−5−メチルヘキシルエステル、カプリル酸2,4−ジメチル3−ペンチルエステル、カプリル酸2−エチルヘキシルエステル、カプリル酸3,5,5−トリメチルヘキシルエステル、カプリン酸2−エチルブチルエステルなどが挙げられる。本発明に前記脂肪酸エステルを使用する際には、これら脂肪酸エステル単体、あるいは数種の脂肪酸エステルの混合物であってもよい。
【0027】
前記の石油系溶剤としては、パラフィン系炭化水素、ナフテン系炭化水素および芳香族分が1% 以下の炭化水素からなる炭化水素系溶剤の単体よび混合物からなる石油系溶剤など、好ましくはアニリン点が60〜110℃の上記の石油系溶剤が挙げられる。
【0028】
上記の石油系溶剤としては、炭素数6〜20のパラフィン系炭化水素、例えば、n−ペンタン、イソペンタン、n−ヘキサン、2−メチルペンタン、n−ヘプタン、n−オクタン、トリメチルペンタンなどのパラフィン系溶剤、シクロヘキサン、シクロヘキシルメタン、オクタデシルシクロヘキサン、メチルイソプロピルシクロヘキサンなどのナフテン系溶剤、および新日本石油(株) 製の「AF ソルベント4号」、「AF ソルベント5号」、「AF ソルベント6号」、「AF ソルベント7号」など、およびこれらの混合物が挙げられる。
【0029】
また、本発明の平版印刷インキ組成物において、インキワニス中に植物油を使用することが望ましく、植物油としては例えば、ヒマシ油、落花生油、オリーブ油などの不乾性油、大豆油、綿実油、菜種油、ゴマ油、コーン油などの半乾性油、およびアマニ油、エノ油、キリ油などの乾性油など、好ましくは半乾性油および/または乾性油が挙げられる。これらの中でもアマニ油および大豆油が特に好ましい。
【0030】
本発明の平版印刷インキ組成物は、塗膜を形成させるインキワニスに、必要に応じて、着色剤としての顔料、耐摩擦剤としてのワックスなどを混練して得られる。インキワニスは、前記ワニス用樹脂と前記ジオクチルエーテルまたは該ジオクチルエーテルと前記脂肪酸エステルおよび/または石油系溶剤との混合物からなる溶剤を配合して、必要に応じて、植物油、ゲル化剤を配合して調製する。
【0031】
本発明の平版印刷インキ組成物に使用するインキワニスは、その調製方法としては、例えば、前記のワニス用樹脂と、溶剤と、植物油とを配合して、窒素気流雰囲気下で200 ℃ にて30分間加熱撹拌して、その後150℃ に冷却後、必要に応じてゲル化剤を添加して、さらに200℃ にて60分間加熱撹拌して得られる。
【0032】
上記のゲル化剤としては、公知のものを使用することができ、例えば、アルミニウムエチルアセテートジイソプロピレート、アルミニウムイソプロピレート、ステアリン酸アルミニウム、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス( エチルアセテート)、アルミニウムジイソプロポキサイト、アルミニウムトリイソプロポキサイト、アルミニウムジイソブトキサイト、オクチル酸アルミニウムなどおよびそれらの混合物が挙げられる。これらのゲル化剤の中でエチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレートが好ましく使用される。上記のゲル化剤は、川研ファインケミカル(株)からALCHなどの商品名で入手して本発明で使用することができる。
【0033】
また、本発明の平版印刷インキ組成物は、必要に応じて、可塑剤および耐摩擦剤としてのパラフィンワックス、カルナバワックス、ポリエチレンワックス、ポリテトラフルオロエチレンワックスなどのワックスコンパウンドなどの添加剤を本発明の目的を妨げない範囲において配合して使用することができる。
【0034】
また、本発明の平版印刷インキ組成物に使用する着色剤としては、例えば、酸化チタン、カーボンブラック、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、亜鉛華、弁柄、群青、紺青、アルミニウム粉などの無機顔料、アリリド系、アセト酢酸アリリドモノアゾ系、アセト酢酸アリリドジスアゾ系、ピラゾロン系などの不溶性アゾ顔料、銅フタロシアニンブルー、スルホン化銅フタロシアニンブルー、金属フリーフタロシアニン系、キナクリドン系、ピラントロン系、ジオキサジン系、インダストロン系、アントラピリミジン系、フラバントロン系、チオインジゴ系、アントラキノン系、ペリノン系、ペリレン系、イソインドリン系、金属錯塩系、キノフタロン系などの多環式および複素環式顔料および染料が挙げられる。本発明のインキは、実施例の例示の通り、公知の方法にて前記の成分を均一に混練することで得られる。
なお、本発明のインキは上記の着色剤を添加せずオーバーコートニスやメジウムとして使用することができる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明の平版印刷インキ組成物を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、本明細書では特に断りのない限り、「部」および「%」は質量基準である。実施例および比較例のワニス組成を表1に、これを採用したインキ組成を表2に、およびこれらインキの評価結果を表3に示す。
【0036】
(ロジン変性フェノール樹脂(1)の製造例)
撹拌器、還流冷却器および温度計を備えた反応装置に、キシレン溶媒中でパラターシャリーブチルフェノール150部とp−オクチルフェノール150部とパラホルムアルデヒド160 部を仕込み、水酸化ナトリウム触媒下で90℃に加熱し反応させ、その後、水を分離除去してレゾール樹脂を得た。次に、撹拌器、水分離器付き還流冷却器および温度計を備えた反応装置で、窒素雰囲気下でガムロジン500部、無水マレイン酸17部を180℃まで昇温加熱し、上記のレゾール樹脂を加え、その後、ゆっくりと昇温して200℃でグリセリン50部と触媒として水酸化カルシウムを投入し、7時間で260℃まで昇温してエステル化し、重量平均分子量60,000、n−ヘプタントレランス35mlのロジン変性フェノール樹脂(1)を調製した。
【0037】
(ロジン変性フェノール樹脂(2)の製造例)
撹拌器、還流冷却器および温度計を備えた反応装置に、キシレン溶媒中でパラターシャリーブチルフェノール100部とp−オクチルフェノール200部とパラホルムアルデヒド150 部を仕込み、水酸化ナトリウム触媒下で90℃に加熱し反応させ、その後、水を分離除去してレゾール樹脂を得た。次に、撹拌器、水分離器付き還流冷却器および温度計を備えた反応装置で、窒素雰囲気下でガムロジン500部、無水マレイン酸13部を180℃まで昇温加熱し、上記のレゾール樹脂を加え、その後、ゆっくりと昇温して200℃でグリセリン50部と触媒として水酸化カルシウムを投入し、7時間で260℃まで昇温してエステル化し、重量平均分子量60,000、n−ヘプタントレランス45mlのロジン変性フェノール樹脂(2)を調製した。
【0038】
(ロジン変性フェノール樹脂(3)の製造例)
撹拌器、還流冷却器および温度計を備えた反応装置に、キシレン溶媒中でp−オクチルフェノール340部とパラホルムアルデヒド165部を仕込み、水酸化ナトリウム触媒下で90℃に加熱し反応させ、その後、水を分離除去してレゾール樹脂を得た。次に、撹拌器、水分離器付き還流冷却器および温度計を備えた反応装置で、窒素雰囲気下でガムロジン500部、無水マレイン酸4部を180℃まで昇温加熱し、上記のレゾール樹脂を加え、その後、ゆっくりと昇温して200℃でペンタエリスリトール50部と触媒として水酸化カルシウムを投入し、7時間で260℃まで昇温してエステル化し、重量平均分子量100,000、n−ヘプタントレランス70mlのロジン変性フェノール樹脂(3)を調製した。
【0039】
(ロジン変性フェノール樹脂(4)の製造例)
撹拌器、還流冷却器および温度計を備えた反応装置に、キシレン溶媒中でパラターシャリーブチルフェノール245部とパラホルムアルデヒド150部を仕込み、水酸化ナトリウム触媒下で90℃に加熱し反応させ、その後、水を分離除去してレゾール樹脂を得た。次に、撹拌器、水分離器付き還流冷却器および温度計を備えた反応装置で、窒素雰囲気下でガムロジン500部、無水マレイン酸22部を180℃まで昇温加熱し、上記のレゾール樹脂を加え、その後、ゆっくりと昇温して200℃でグリセリン50部と触媒として水酸化カルシウムを投入し、7時間で260℃まで昇温してエステル化し、重量平均分子量60,000、n−ヘプタントレランス20mlのロジン変性フェノール樹脂(4)を調製した。
【0040】
(ロジン変性フェノール樹脂(5)の製造例)
撹拌器、還流冷却器および温度計を備えた反応装置に、キシレン溶媒中でp−オクチルフェノール340部とパラホルムアルデヒド130部を仕込み、水酸化ナトリウム触媒下で90℃に加熱し反応させ、その後、水を分離除去してレゾール樹脂を得た。次に、撹拌器、水分離器付き還流冷却器および温度計を備えた反応装置で、窒素雰囲気下でガムロジン500部、無水マレイン酸1部を180℃まで昇温加熱し、上記のレゾール樹脂を加え、その後、ゆっくりと昇温して200℃でグリセリン50部と触媒として水酸化カルシウムを投入し、7時間で260℃まで昇温してエステル化し、重量平均分子量30,000、n−ヘプタントレランス90mlのロジン変性フェノール樹脂(5)を調製した。
【0041】
次に、本発明で使用するワニスの調製例J1〜J6および比較例で使用するワニスの調製例M1 〜M3と、これらワニスを使用したインキの実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお、文中の「部」または「%」とあるのは特に断りがない限り質量基準である。なお、本発明は、下記の実施例に限定するものではない。
【0042】
(ワニスの調整例J1〜J6)
表1に示すように、ロジン変性フェノール樹脂、大豆油と溶剤とを配合して、窒素気流雰囲気下で200℃にて30分間加熱撹拌し、その後150℃に冷却し、その後、ゲル化剤を配合して、さらに、200℃にて60分間均一に加熱撹拌してワニスJ1〜J6を調製した。
【0043】
(ワニスの調整例M1〜M3)
比較例に使用するワニスは、表1に示すように、下記の方法で調整した。
(ワニスM1)
前記のワニス調製例のワニスJ1において使用するロジン変性フェノール樹脂(1)をロジン変性フェノール樹脂(4)に代える以外はワニス調製例J1と同様にしてワニスM1を調製した。
(ワニスM2)
前記のワニス調製例のワニスJ1において使用するロジン変性フェノール樹脂(1)をロジン変性フェノール樹脂(5)に代える以外はワニス調製例J1と同様にしてワニスM2を調製した。
(ワニスM3)
前記のワニス調製例のワニスJ2において使用する溶剤を植物油由来のジオクチルエーテルを石油系溶剤のAFソルベント7号に代える以外はワニス調製例J2と同様にしてワニスM3を調製した。
【0044】
【表1】

【0045】
(実施例1〜6)
上記のワニスJ1〜J6の各々を使用し、表2のように各該ワニスにフタロシアニンブルーを配合し、公知の方法で均一に混練して、次に、インキのタックがインコメーター測定器で10〜11になるように、さらに、各々の上記ワニスの調製に使用した溶剤および該ワニスを追加配合して、公知の方法で均一に混合し本発明のインキK1〜K6を調製した。なお、タックの測定値は、得られたインキ1.31mlを東洋精機(株)製インコメーターのロールに塗布し、ロール温度32℃、回転スピード1200rpmで1分間回転させた後の測定値である。
【0046】
(比較例1〜3)
前記のワニスM1〜M3の各々を使用し、表2のように各該ワニスにフタロシアニンブルーを配合し、公知の方法で均一に混練して、次に、インキのタックがインコメーター測定器で10〜11になるように、さらに、各々の上記ワニスの調製に使用した溶剤および該ワニスを追加配合して、公知の方法で均一に混合し本発明のインキN1〜N3を調製した。なお、比較例3は、従来から用いられている標準的な組成のオフセット輪転印刷インキである。
【0047】
【表2】

【0048】
(機上安定性)
インキ0.5ccを東洋精機(株)製インコメーターに塗布し、ロール温度32℃、回転スピード1200rpmに設定して回転させ、測定初期のタック値と、その1分後のタック値を読み取り、タックの経時的な変動(ΔT)を測定した。変動の少ない方が安定性良好と評価した。
【0049】
(光沢性)
通常のオフセット輪転印刷機にて印刷を行い、得られた印刷物の任意画線部分を、村上色彩技術研究所製のデジタル光沢計(入射角/反射角=60°/60°)を用いて光沢を評価した。
【0050】
(印刷品質)
通常のオフセット輪転印刷機にて印刷を行い、得られた印刷物の任意画線部分の網点形状をマイクロスコープ等を用い光学的に拡大し、画像再現性や品質の安定性を目視評価した。
×:画像再現性が悪い、および/または、品質が不安定である。
△:印刷品質上、問題ない
○:画像再現性が良好で、品質が安定している。
【0051】
【表3】

【0052】
上記の評価結果から、本発明の平版印刷インキ組成物は、物性の機上安定性に優れており、高光沢で、且つ画像再現性に優れた印刷物が安定的に得られるという、優れた特性を有している。実施例1〜3は、使用したロジン変性フェノール樹脂の溶解性が、性能向上に有効と見出された範囲内にあり、実施例4〜6は、それら樹脂を混合使用したものである。比較例1、2は、使用したロジン変性フェノール樹脂の溶解性が、その範囲外にあり、比較例1は低溶解方向、比較例2は高溶解方向に外れている。また比較例3は、従来型の標準的なオフセット輪転印刷用インキである。実施例1〜6は、従来型のインキである比較例3に比べて、機上安定性が良好で、得られた印刷物は何れも高光沢で、且つ画像再現性に優れたものとなった。これに対して比較例1は、比較例3に比べて性能に優位性はみられず、比較例2は、樹脂溶解性が高すぎてインキが軟らかく、そのため得られた印刷物の画像は潰れて再現性が損なわれる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の環境対応型の平版印刷インキであるオフセット輪転印刷用インキは、刷り出しから刷了まで機上安定性に優れ、得られた印刷物は光沢性があり、画像再現に優れる高品位な仕上がりを提供し、かつ、石油系溶剤に伴う環境負荷を低減する事が出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物油由来のジオクチルエーテル、及び、n−ヘプタントレランスが30ml〜80mlであるロジン変性フェノール樹脂を含有することを特徴とする平版印刷インキ組成物。
【請求項2】
前記した植物油がヤシ油である請求項1に記載の平版印刷インキ組成物。
【請求項3】
ジオクチルエーテル以外の溶剤成分として、沸点が220〜310℃の脂肪酸エステル及び/または石油系溶剤を含有する請求項1に記載の平版印刷インキ組成物。
【請求項4】
前記した脂肪酸エステルが、総炭素数が17以下の脂肪酸エステルである請求項1記載の平版印刷インキ組成物。

【公開番号】特開2011−213935(P2011−213935A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−84989(P2010−84989)
【出願日】平成22年4月1日(2010.4.1)
【出願人】(310000244)DICグラフィックス株式会社 (27)
【Fターム(参考)】