説明

平版印刷シートへの加工に適した合金

【課題】 平版印刷シートへの加工に適した合金を提供する。
【解決手段】 平版印刷シートに加工するのに適したAl合金であって、重量%の単位で:
Fe 0.16〜0.40
Si 最高0.25
Cu 最高0.01
Mn 最高0.05
Ti 最高0.015
Mg 0.02〜0.10
Zn 最高0.06
不特定の他の成分 それぞれ最高0.03
Al 残分
の組成を有し、Alの最低含有率が99.3である、合金。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平版印刷シートへの加工に適した合金、特にオフセット印刷プレート製造業者によって使用される薄い圧延アルミニウム・ストリップの形態の合金に関し、およびそのような平版印刷シートの加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薄い圧延アルミニウム・ストリップの形態のアルミニウム合金はオフセット印刷プレート製造業者によって使用されていることが知られている。
【0003】
薄い圧延アルミニウム・ストリップを平版印刷シートに加工するためには、プレート製造業者は、最初に、典型的には、アルカリ溶液中でアルミニウム・ストリップの脱脂またはエッチングを行う。この方法によって、アルミニウム表面の砂目立ての準備ができ、軽微な表面欠陥が均される。
【0004】
次に、電気的砂目立て(electrograining)によって、渦巻き状の半球ピットを有する表面形状が形成される。これは典型的には塩酸を主成分とする電解質、または硝酸を主成分とする電解質中で行われる。
【0005】
電気的砂目立ては、アルミニウム・ストリップが入れられた電解槽を通して交流(AC)を使用することで行われる。半サイクルごとに起こる電気化学反応で、溶解によってアルミニウムが表面から効率的に除去される。
【0006】
あるいは、アルミニウム・ストリップの表面は、たとえばブラシ掛けによって機械的に粗面化することもできる。しかし、この方法はあまり一般的ではない。
【0007】
アルミニウム・ストリップ表面に形成されるピットの機能は、アルミニウム・ストリップの表面積を増加させること、および水を保持することである。言い換えると、ピットが存在することによって、アルミニウム・ストリップが親水性になる。
【0008】
次に、電気的砂目立てプロセス中に形成された水酸化アルミニウムのスマットを除去するためにデスマット・ステップを行うことができる。
【0009】
次に、アルミニウム・ストリップを陽極酸化する。この結果、アルミニウム・ストリップのピットを有する表面上に、多孔質陽極酸化物が成長する。これによって、耐摩耗性コーティングが形成され、それによって、アルミニウム・ストリップから形成された平版印刷シートの印刷品質の寿命が延長される。これによって、感光性コーティングの付着性を良好にすることもでき、それによってプレートが化学的により不活性になり、そのためプレートの貯蔵寿命が改善される。
【0010】
通常は、次に感光性ポリマー・コーティングをアルミニウム・ストリップに適用する。このコーティングは、水をはじくが、油を引き寄せる。印刷インクは油性であるので、平版印刷シートが油を引き寄せることが必要となる。
【0011】
この段階で、平版印刷プレートは、親油性感光層で覆われた親水性の陽極酸化アルミニウム層を含む。
【0012】
最も単純な形態では、たとえば露光によって、コーティングの一部を除去することによって画像が形成される。これは、下にある親水性陽極酸化層が現れるようにするため、コーティングが容易に除去できる必要があることを意味する。しかし、印刷実行中に十分に画定された画像が維持されるようにするために、コーティングが耐摩耗性である必要もある。
【0013】
したがって、平版印刷シートの形成に使用されるアルミニウム・ストリップが、十分な強度および適切な表面機能性を有することが重要である。
【0014】
用語「表面機能性」は、表面に条痕が全く形成されず方向性も生じることなく、ピットの大きさの均一な分布を得るために十分に電気的砂目立てが行われる材料の性質を表すために使用される。このことは、結果として得られる印刷画像の品質のために重要である。
【0015】
ほとんどのプレート製造業者は、電気的砂目立てプロセス中に、HClを主成分とする溶液を電解質として使用している。しかし、HNO3を主成分とする電解質の使用も知られている。砂目立てプロセスの機構は電解質ごとに異なる。両方の電解質で十分に材料の砂目立てが行われると好都合である。
【0016】
平版印刷プレートの製造業界においては、特に、2つの合金の種類を使用することが知られている。第1の合金の種類はAA1050として知られており、以下の表1に示す組成を有する。AA1050は良好な電気的砂目立て挙動を示す。
【0017】
「良好な電気的砂目立て挙動」を有する場合、それはその材料が、広範囲の条件下で均一にピットを有する表面を形成できる性質を有することを意味する。このような材料は、塩酸か硝酸かのどちらかを主成分とする電解質中で電気的砂目立て可能となるべきである。
【0018】
【表1】

【0019】
第2の合金の種類はAA3XXXとして知られており、以下の表2および3に記載の組成を有するAA3103またはAA3003合金を含む。AA3XXXは、AA1050の強度と比較すると改善された強度を有する。しかし、AA3XXXの電気的砂目立て特性はAA1050型合金ほど良好ではない。
【0020】
【表2】

【0021】
【表3】

【0022】
AA1050型合金は、従来、欧州、アジア、および南米の市場で使用されている。この型の合金はHClおよびHNO3を主成分とする両方の溶液中で十分に電気的砂目立てされるが、他の合金と比較すると強度が低い。このため、より長時間の印刷作業に使用される平版印刷シートの形成に合金が使用される状況では問題となる可能性があると考えられる。
【0023】
AA3XXX型合金は、従来、北米で使用されている。この型の合金の電気的砂目立てはより困難であり、そのため機械的粗面化プロセスを利用可能な場合により頻繁に使用される。
【0024】
AA3XXX合金は、HCl中で電気的砂目立て可能であるが、この電気的砂目立てプロセスによって、表面に条痕が形成される場合がある。したがって、これらの合金は、電気的砂目立て挙動が比較的不十分であるが、高い未処理強度(raw strength)および高い焼き付け強度(bake strength)を有する。
【0025】
感光性コーティングの耐摩耗性は、多くの場合、平版印刷プレートの焼き付けによって改善される。しかし、この方法はアルミニウム基材の強度に悪影響を及ぼす場合がある。これは北米においてより一般的に実施されており、A3XXXの使用が多いことの説明となる傾向にある。
【0026】
合金の焼き付け強度は、典型的には標準焼き付け試験を使用して測定される。標準焼き付け試験は、240℃で10分間合金を加熱することを伴う。
【0027】
平版印刷シートへの加工に使用される合金は、焼き付けによって顕著な軟化が起こらず、それによって合金強度に悪影響が生じないことが重要である。アルミニウム合金基材の顕著な軟化および関連する微細構造の変化は、印刷プレートの寸法特性に対しても悪影響が生じうる。これは、疲労破壊に関して有害となりうる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
一般に、良好な電気的砂目立て挙動を示す合金は要求される強度を有さない場合があり、一方、要求される強度を有する合金は電気的砂目立て挙動が不十分となる場合があることが分かった。
【課題を解決するための手段】
【0029】
本願発明の第1の態様によると、平版印刷シートに加工するのに適したAl合金であって、重量%の単位で:
Fe 0.16〜0.40
Si 最高0.25
Cu 最高0.01
Mn 最高0.05
Ti 最高0.015
Mg 0.02〜0.10
Zn 最高0.06
不特定の他の成分 各最高0.03
Al 残分
の組成を有し、Alの最低含有率が99.3である合金が提供される。
【0030】
合金中のアルミニウムのパーセント値が高いことにより、他の成分の量は対応して少ない。この結果、使用後に再利用する場合に、汎用性のより高い合金となる。
【0031】
好ましくは、アルミニウムの最低含有率は99.45重量%である。より好ましくは、アルミニウムの最低含有率は99.50重量%である。
【0032】
合金中のアルミニウムの重量パーセント値がより高くなると、使用後に再利用する場合の合金の汎用性がさらに高まる。
【0033】
マグネシウムは、合金の砂目立て性能を改善するために使用されるが、合金の強度に対する影響は限定されている。しかし、マグネシウムは未処理および焼き付け後の両方の合金の機械的性質(強度)などを改善するので、合金中にマグネシウムが存在することは重要である。しかし、再利用の目的での合金の汎用性を損なわない範囲で、0.10重量%までにマグネシウムの範囲を限定することが重要である。
【0034】
本願発明による合金は、最高0.099重量%のマグネシウムを含有することができる。
【0035】
好ましくは、マグネシウム含有率は0.02〜0.05重量%の範囲内である。
【0036】
亜鉛も合金の砂目立て性能を改善するが、これも合金の強度に対する影響は限定されている。アルミニウム合金中最高0.05重量パーセントの亜鉛が、合金の電気化学的性質に関して有益な硬化を有することができることを本発明者らは発見した。
【0037】
好都合には、亜鉛の最低含有率が0.02重量%である。
【0038】
合金中の亜鉛対マグネシウムの比は、実質的に0.1〜2.3の範囲内とすることができる。
【0039】
亜鉛およびマグネシウムの含有率を制御することによって、結果として得られるアルミニウム合金が良好な電気的砂目立て挙動を有することができることが分かった。
【0040】
アルミニウム合金中の鉄の存在は2つの目的に役立つ。その第1は、プレート製造プロセスの電気的砂目立て(粗面化)ステップ中に均一なピット構造を形成するために必須である鉄リッチの金属間化合物の形成を確実にすることである。第2は、良好な温度安定性、特にプレートの焼き付け後の強度保持に有益となる、材料中の固溶体中に十分な鉄が存在することを確実にすることである。
【0041】
最低限の鉄含有率を有する合金の利点の1つは、それによって合金の構造中に十分な数の第2の相の金属間化合物の存在が確実となることである。そして、これはアルミニウム中への鉄の溶解量が過剰になる場合にのみ実現可能となる。
【0042】
合金の鉄含有率が増加すると、鉄がアルミニウム合金に硬化効果を付与し、そのため合金の強度が増加するので好都合である。
【0043】
しかし、上限の0.4重量%を超えるまで鉄を増加させることは、このような、さらなる添加によって、合金の構造にさらに好ましい効果が得られるわけでもなく、強度のさらなる増加も最小限であるため好都合ではない。鉄含有率が0.4重量%を超えて増加することのさらなる不利益は、再利用の目的での合金の汎用性が損なわれることである。
【0044】
アルミニウム合金中の銅の存在は、粗面化されたピットの形態に影響を与えうるが、他方で、未処理および焼き付け後の両方の条件での材料強度を改善できることが分かった。本発明者らは、銅の重量パーセント値を0.01以下に維持すると、合金は銅が存在することによる改善された強度の利益を得ることができ、同時にピット形態に対する銅の悪影響が最小限に維持されることを発見した。
【0045】
アルミニウム合金中のチタンの存在は、冶金学的結晶粒度を適切に制御するために必要である。しかしチタンが多すぎると、合金の電気化学的性能に対して悪影響を及ぼすことがある。本発明者らは、チタンの重量パーセント値が0.015以下であれば、合金は、チタンによって得られる結晶粒度の制御による利益を得ることができ、同時に電気化学的性能に対する悪影響が最小限に維持されることを発見した。
【0046】
本願発明による合金の1つは最高0.049重量%のマンガンを含有することができる。
【0047】
好ましくは、最低マンガン含有率は0.005重量%である。
【0048】
合金中にマンガンが存在することで、合金の未処理強度および焼き付け後強度の両方が増加する。しかし、マンガンは合金電気的砂目立て挙動に対して悪影響を及ぼす場合があり、そのため合金中のマンガン量が多くなりすぎるべきではない。
【0049】
好ましくは、マンガン含有率は0.005〜0.030重量%の範囲内となる。
【0050】
好都合には、マンガン対マグネシウムの比が実質的に0.08〜1.63の範囲内である。
【0051】
本願発明の第2の態様によると、本願発明の第1の態様による合金から形成された平版印刷シートが提供される。
【0052】
本願発明の第3の態様によると、本願発明の第1の態様による合金から形成された平版印刷シートの加工方法が提供される。
【0053】
これより、単なる例として以下に示す実施例を参照しながら本発明を説明する。
【0054】
合金を形成する成分の重量パーセント値を示す本発明の好ましい実施形態の4つの実施例の組成の詳細を以下に示す。
【0055】
【表4】

【0056】
添付の図面を参照しながら単なる非限定的な例によって本発明をさらに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】未処理の焼き付けしていない状態、ならびに200℃、220℃、240℃、および260℃のそれぞれで10分間焼き付けした後の前述の実施例1、2、3、および4の長手方向における極限引張強度を示すグラフであり、周知の合金のグループAA3XXXおよびAA1050と比較している。
【図2】未処理の焼き付けしていない状態、ならびに200℃、220℃、240℃、および260℃のそれぞれで10分間焼き付けした後の前述の実施例1、2、3、および4の長手方向における耐力(Rp)を示すグラフであり、周知の合金のグループAA1050と比較している。
【図3】未処理の焼き付けしていない状態、ならびに200℃、220℃、240℃、および260℃のそれぞれで10分間焼き付けした後の前述の実施例1、2、3、および4の横方向における極限引張強度を示すグラフであり、周知の合金のグループAA1050と比較している。
【図4】未処理の焼き付けしていない状態、ならびに200℃、220℃、240℃、および260℃のそれぞれで10分間焼き付けした後の前述の実施例1、2、3、および4の横方向における耐力(Rp)を示すグラフであり、周知の合金のグループAA1050と比較している。
【図5】曲げ試験を行った後のAA1050合金のサンプルの断面を示す顕微鏡写真であり、倍率が200倍である。
【図5a】曲げ試験を行った後のAA1050合金のサンプルの断面を示す顕微鏡写真であり、倍率が100倍である。
【図6】曲げ試験を行った後の前述の実施例1のサンプルの断面を示す顕微鏡写真であり、倍率が200倍である。
【図6a】曲げ試験を行った後の前述の実施例1のサンプルの断面を示す顕微鏡写真であり、倍率が100倍である。
【図7】図5に示されるAA1050のサンプルの外側の曲げられた表面をより詳細に示す顕微鏡写真であり、倍率が112.5である。
【図8】図6に示される実施例1のサンプルの外側の曲げられた表面をより詳細に示す顕微鏡写真であり、倍率が112.5倍である。
【発明を実施するための形態】
【0058】
引張強度または極限引張強度/応力(UTS)は、引張試験の過程で材料に加えられた最大荷重を材料の元の断面積で割ったものである。脆性または強靱な材料では、これは破断点と一致するが、通常は、UTSを通過した後で応力が減少しながら伸張が持続する。
【0059】
耐力(Rp)は、明確な降伏点を示さずに金属中である量の永久ひずみ(塑性変形)を発生させるのに必要な応力である。添付の図2および図4においては、耐力は0.2%のひずみを発生させる応力(Rp0.2)である。
【0060】
前述したように、標準焼き付け試験は240℃で10分間である。図1〜図4において、各合金の強度の挙動を示し、異なる焼き付け条件下で強度がどのように低下するかを示すために、別の温度、すなわち200、220、および260℃についても試験が行われる。
【0061】
図1に示されるように、実施例1〜4のそれぞれは、未処理の焼き付けされていない状態と、示された温度群との両方で、AA1050のグループの合金と比較した場合に、長手方向でより高い極限引張強度を有する。しかしAA3XXXのグループの合金は実施例1〜4よりも高い強度を有する。
【0062】
図2は、実施例1〜4のそれぞれが、未処理の焼き付けされていない状態と、示された温度群との両方で、AA1050のグループの合金よりも長手方向で高い耐力を有することを示している。
【0063】
図3は、実施例1〜4のそれぞれが、未処理の焼き付けされていない状態と、示された温度群との両方で、AA1050のグループの合金よりも横方向で高い極限引張強度を有することを示している。
【0064】
図4は、実施例1〜4のそれぞれが、未処理の焼き付けされていない状態と、示された温度群との両方で、AA1050のグループの合金よりも横方向で高い耐力を有することを示している。
【0065】
曲げ特性は、プレス性能に関しては強度よりも重要であると認められるが、測定は簡単ではない。したがって、近似的な基準として強度が多くの場合に使用される。しかし、記載の実施例に対して簡単な曲げ試験を行った。
【0066】
使用した曲げ試験は、印刷機上に平版印刷プレートを取り付けるために使用される曲げの形成および検査に基づいた静的試験である。
【0067】
材料の性質(たとえば合金の組成、調質、および合金の加工方法)は、初期の曲げに対して顕著な影響を有し、疲労に対する影響は限定されているため、静的試験が最も適切であると考えられる。疲労による破壊は、主として曲げ寸法および材料ゲージによって求められることを理解されたい。
【0068】
曲げ試験を行うために、特定の合金から形成されたプレートを厳密な1組のパラメーターで曲げた。特定されたゲージを含めて寸法が指定値から大きく変動する場合、それによって試験結果が不十分となりうる。
【0069】
サンプルの厚さ測定値は、0.275〜0.280mmの間で可能な限り一定に維持した。
【0070】
主として内側の曲げ半径およびゲージによって、曲げの外側の表面に対するひずみ量が決定される。設定パラメーターの変化がわずかであっても、これが大きく変化しうる。したがって、内側の曲げ半径は一定に維持される。
【0071】
使用する際は、アルミニウム平版印刷プレートをプレート曲げ装置を使用して曲げられる。プレート曲げ装置は印刷機と関連しており、曲げを形成するために使用される設備の一部である。この試験では、設定半径での60°の単純な曲げを形成して、プレート曲げ装置をシミュレートした。60°は、典型的に使用される曲げ角度の範囲内である。
【0072】
プレートの圧延方向に対して平行および垂直の曲げ軸を有する2つの方向で試験を行った。圧延方向は、圧延中にアルミニウムシートが加工される方向である。
【0073】
これらの試験を、AA1050のグループの合金に対して行った試験と比較した。
【0074】
試験を実施した後、合金の曲げを、その断面および外側の表面の外観に関して光学顕微鏡法を使用することで評価した。
【0075】
AA1050合金のサンプルおよび前述の実施例1のサンプルの曲げ試験データーを示す顕微鏡写真を図5〜図8に示している。
【0076】
図5および図5aは、前述したように、曲げ試験を実施した後のAA1050合金のサンプルの断面を示す顕微鏡写真である。内側の曲げ表面の圧縮変形によって生じる合金の内側表面上に内向きのひずみが存在することをこれらの図面から見ることができる。このひずみは参照番号1によって示される囲まれた領域中に存在する。圧縮変形は、内向きのひずみの量によって評価することができる。
【0077】
領域2に示されるように、外側表面上の剪断変形によって合金の外側表面上に形成されたリッジが存在することも見ることができる。剪断変形の量は、形成されたリッジの深さによって評価することができる。
【0078】
材料に変形のリッジが形成されないことが好都合であると考えられる。これは、リッジが応力の集中部分となり、印刷プレートの破壊が始まる弱い点となりうると考えられるからである。
【0079】
図6および図6aは、同様の曲げ試験を行った後の前述の実施例1のサンプルの断面を示している。図5および図5aに示されるAA1050合金のサンプルの外側表面と比較すると、領域3に示される内部の曲げ変形は減少しており、領域4に示される外側表面はより滑らかになっていることがこれらの図面から分かる。
【0080】
図7および図8は、それぞれAA1050合金のサンプルおよび実施例1のサンプルの外側の曲げ表面のさらなる詳細を示している。再び図7から分かるように、参照番号5が付けられた囲まれた領域において、実施例1のサンプルと比較すると、AA1050合金のサンプル中に深いリッジが存在する。
【0081】
図5〜図8に示されるような顕微鏡写真の解析は主として定性的である。それにもかかわらず、観察される剪断変形および亀裂の量が、異なる材料の間で変動するため、異なる合金の間で直接比較することができる。各合金について曲げの外側表面上の粗さ測定も行い、曲げの外側表面上の剪断変形のリッジのピークから谷までの最大距離を測定した。
【0082】
外側曲げ表面のこれらの形状測定は、白色光干渉計を使用して行った。この用途において、干渉計は表面粗さの非接触測定方法として使用される。
【0083】
粗さ測定の結果を以下の表5に示す。
【0084】
【表5】

【0085】
試験結果のまとめを以下の表6に示す。この表から分かるように、AA1050のグループの合金はこのような曲げ試験中に中程度の変形を示す。AA3XXXのグループの合金は、曲げにおいて変形をほとんど示さないことが分かる。
【0086】
【表6】

【0087】
上述したように、均一なピットを有し条痕のない表面が、塩酸を主成分とする溶液または硝酸を主成分とする溶液のいずれかの中で合金の電気的砂目立てを行うことによって形成され、良好な機能性を有する表面が得られるということが重要である。
【0088】
AA1050のグループの合金およびAA3XXXのグループの合金の両方と比較した実施例1〜4の電気的砂目立て性能を以下に示す。
【0089】
以下に示す結果は、HClを主成分とする電解質中での合金の実験室試験に基づいている。
【0090】
電気的砂目立て性能の測定に以下の尺度を使用した。
【0091】
【表7】

【0092】
異なる実施例の結果を以下に示す。
【0093】
すべての条件で1000C/dm2の電荷密度を使用しているが、電気的砂目立ては異なる時間の長さで行われる。
【0094】
「容易な」実験室条件は24秒間の電気的砂目立てによって行われる。
【0095】
「中間の」条件は9.5秒間の電気的砂目立てによって行われる。
【0096】
「困難な」条件は6.5秒間の電気的砂目立てによって行われる。
【0097】
【表8】

【0098】
これらの結果は、実施例1〜4のそれぞれが、AA1050のグループの合金と電気的砂目立て特性が少なくとも同等に良好であり、ある条件下ではAA1050のグループの合金よりも優れていることを示している。
【0099】
実施例1〜4のそれぞれの電気的砂目立て挙動は、すべての場合で、AA3XXXのグループの合金よりも優れている。
【0100】
したがって、本願発明によって、AA1050型合金と比較して改善された強度を有し、AA3XXX型合金と比較して改善された電気的砂目立て挙動を有するアルミニウム合金が提供される。
【0101】
これより本願発明による平版印刷シートの形成方法を簡単に説明する。この方法は、合金の製造およびスラブの鋳造;薄い圧延アルミニウム・ストリップの製造;ならびに平版印刷シートの製造;の3つのサブプロセスとして見ることができる。これよりこれらのプロセスについて以下に詳細に説明する。
【0102】
合金の製造およびスラブの鋳造
溶融アルミニウムのDC(直接チル)鋳造によって、圧延シートインゴットを作製する。
【0103】
適切な添加によって金属の元素組成を記載の量に制御する。
【0104】
これらのインゴットは、典型的には、400〜650mmの間の厚さである。
【0105】
薄い圧延アルミニウム・ストリップの製造
表面の清浄性および均一性を改善するために、鋳肌を除去することによって圧延シートインゴットのスカルピングが行われる。両面から合計で最高25mmが除去される。
【0106】
熱間圧延のために、400〜600℃の出口金属温度を実現することで予備加熱が行われる。
【0107】
11〜18mmの間の厚さの板ゲージに複数回通してインゴットの熱間圧延が行われる。
【0108】
インライン急冷によってプレート温度を<50℃まで下げる。
【0109】
次に、中間ゲージまでプレートを冷間圧延する。
【0110】
バッチ・インター・アニーリング(batch inter-annealing)を行うことができる。目標金属温度は350〜550℃の間である。
【0111】
0.1〜0.5mmの間の最終製品厚さを達成するために、さらなる冷間圧延ステップが使用される。
【0112】
次に、得られたコイルを平らにし、脱脂した後に、平版印刷シートの製造のために供給することができる。
【0113】
平版印刷シートの製造
アルカリ系エッチング・プロセスによって表面の粗面化の準備をする。
【0114】
粗面化は、好ましくは、電気的砂目立てによって行われる。これは、塩酸を主成分とする電解質中または硝酸を主成分とする電解質中で行われる。電気的砂目立て浴にAC電流を流すことで粗面化が行われる。
【0115】
電気的砂目立てした表面を陽極酸化することで耐摩耗性が改善される。
【0116】
前述の基本的なプロセス・ステップの一部またはそれぞれの間に種々の他のインライン処理を行うことでプレート特性を改善することができる。
【0117】
感光性コーティングを適用する。
【0118】
プレートに画像を形成した後、感光性コーティングの耐摩耗性を改善するために焼き付けを行うことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平版印刷シートへの加工に適したAl合金であって、重量%の単位で:
Fe 0.16〜0.40
Si 最高0.25
Cu 最高0.01
Mn 最高0.05
Ti 最高0.015
Mg 0.02〜0.10
Zn 最高0.06
不特定の他の成分 それぞれ最高0.03
Al 残分
の組成を有し、Alの最低含有率が、99.3である、合金。
【請求項2】
アルミニウム(Al)の最低含有率が、99.45重量%である、請求項1に記載の合金。
【請求項3】
アルミニウムの最低含有率が、99.50重量%である、請求項1または請求項2に記載の合金。
【請求項4】
最高0.099重量%のマグネシウムを含有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の合金。
【請求項5】
マグネシウム含有率が、0.02〜0.05重量%の範囲内である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の合金。
【請求項6】
亜鉛(Zn)の最低含有率が、0.02重量%である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の合金。
【請求項7】
前記合金中の亜鉛対マグネシウムの比が、0.1〜2.3の範囲内である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の合金。
【請求項8】
最高0.049重量%のマンガンを含有する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の合金。
【請求項9】
マンガン(Mn)の最低含有率が、0.005重量%である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の合金。
【請求項10】
マンガン(Mn)含有率が、0.005〜0.030重量%の範囲内である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の合金。
【請求項11】
マンガン対マグネシウムの比が、0.08〜1.63の範囲内である、請求項1〜10のいずれか1項に記載の合金。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の合金から形成された平版印刷シート。
【請求項13】
請求項12に記載の平版印刷シートを加工する方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図5a】
image rotate

【図6】
image rotate

【図6a】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2010−12779(P2010−12779A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−149393(P2009−149393)
【出願日】平成21年6月24日(2009.6.24)
【出願人】(509179168)ブリッジノース アルミナム リミテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】Bridgnorth Aluminium Ltd
【Fターム(参考)】