説明

平版印刷版及びその加工方法

【課題】 平版印刷版の端部汚れをさらに改善することができる平版印刷版及びその加工方法を得る。
【解決手段】 剪断加工部の剪断部92に配置された押圧ローラ22の外周面に設けた傾斜部70の傾斜角θ1を約83〜87°とし、押圧部94に配置された上ローラ120の外周面に設けた傾斜部132を、ウエブ12の表面12Aに対して水平方向約5μm当たり垂直方向へ約3μm変形する形状としている。このように、傾斜部70及び傾斜部132で複数回に渡ってそれぞれウエブ12の端部を押圧することで、ウエブ12の表面に所定量のクラックを生じさせることができる。このように、ウエブ12の表面にクラックを発生させることで、ガム引きの際、該クラック内にフィニッシャーを入り込ませることができ、親水性を向上させることができるため、シリケートを用いなくても、ウエブ12の親水性を向上させ、インクを付き難くすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感光性平版印刷版等の平版印刷版及びその加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
感光性平版印刷版(以下、適宜「PS版」という)は、一般にシート状或いはコイル状のアルミニウム板等の支持体に、例えば、砂目立て、陽極酸化、シリケート処理、その他化成処理等の表面処理を単独又は適宜組み合わせて行い、次いで、感光液の塗布、乾燥処理を行った後に所望のサイズに切断されることで製造される。このPS版は、露光、現像処理、ガム引き等の製版処理が行われ、印刷機にセットされ、インクが塗布されることで、紙面に文字、画像等が印刷される。
【0003】
このようなPS版を用いた印刷には、一般商業印刷機を用いてPS版のサイズよりも小さな印刷紙に印刷を施す場合と、例えば新聞印刷等のように、PS版のサイズよりも大きい印刷紙に印刷する場合がある。後者においては、PS版の全面が印刷面として使用されるため、PS版の切断辺(周囲の部分)に付着したインクが印刷紙面に印刷されて汚れとなり、印刷物の商品価値を損ねることがある。
【0004】
このため、不要なインクによるPS版の印刷紙面の汚れを防止する方法として、例えば、特許文献1に記載されているように、アルミニウムからなる支持体の端部の角(エッジ部)をヤスリやナイフで削り取る方法、あるいは、特許文献2に記載されているように切断面に不感脂化液を塗布する方法が知られている。
【0005】
また、特許文献3に記載されているように、切断時に発生するバリがこの汚れのひとつの原因のため、印刷面側にバリを発生させない方法がある。さらに、特許文献4には切断端部を印刷面と逆側に曲がった形状にすることで、改善傾向がみられることが提案されている。
【0006】
しかし、上述の支持体の端部の角をヤスリやナイフで削り取る方法では、PS版を1枚ずつ取り出して削り取らなければならず、大量処理には不適である。また、バリやキズなどインクの付着を引き起こす欠陥があると、削り取った部分にインクが絡んでしまい、結局このインクで印刷紙面が汚れてしまうこともある。また、切断面に不感脂液を塗布する方法も、PS版同士がくっついて取扱いが悪くなったり、現像不良を引き起こしたりする場合がある。
【0007】
また、切断時にバリを印刷紙面側に発生させないだけでは、印刷条件により汚れ発生がみられ、また、切断端部が下方(印刷面と逆側)に曲がった形状は、汚れは良化傾向にあるものの露光現像を行う製版機上で搬送中、引っかかる問題など、搬送不良の原因となる場合がある。
【0008】
これらに代わる改善策として、PS版をスリッタ、カッタ等によって剪断するときに、剪断と同時に、いわゆる剪断だれによる傾斜面を表面処理層のエッジ部に形成することが有効であるということが、特許文献5〜10等の各公報に記載されている。
【0009】
しかし、スリッタ、カッタ等を使用した剪断加工によって、印刷紙面の汚れを防止するための有効な傾斜面を形成しようとすると、裏面(表面処理層が形成された面と反対の面)に、大きなバリが生じてしまうことがある。このバリが裏面から突出していると、例えば露光機内でPS版を搬送する場合、PS版が蛇行したり、バリが欠落してゴミとなってしまう等の問題が生じるおそれがある。
【0010】
このような不都合を解消するためには、例えば、PS版に表面処理層を形成する前段階で傾斜面を形成する等、コイル製造工程で加工を施すことが考えられる。
【0011】
しかしながら、このような製造方法では、PS版のサイズごとにコイル幅を設定して後処理をしなけらばならない。特に、PS版はサイズ数が多く、各サイズごとにコイル幅を設定することは困難である。また、長尺状のウエブから、その幅方向に複数枚のPS版を形成する場合があるが、上記の製造方法では、ウエブの幅方向に1枚しかPS版を製造できず、製造効率が低下する。
【0012】
一方、近年において、平版印刷版として、CTP(Computer to Plate)といわれ、コンピュータ等により作成(合成、編集)された版下データに基づいて、直接レーザー書き込みが行われる平版印刷版が使用され始めているが、該平版印刷版への密着性や現像部でのカスの低減の目的でシリケートを用いないものが現れ始めている。
【0013】
シリケートを用いなかった場合、平版印刷版の端部の親水性が損なわれ、平版印刷版の端部汚れを悪化させる弊害もあり、断面形状など平版印刷版の端部の物理的性質での改善が望まれている。
【特許文献1】特公昭57−46754号公報
【特許文献2】特公昭62−61946号公報
【特許文献3】特開昭62−19315号公報
【特許文献4】特開平7−32758号公報
【特許文献5】特開平5−104871号公報
【特許文献6】特開平8−11451号公報
【特許文献7】特開平9−323486号公報
【特許文献8】特開平10−35130号公報
【特許文献9】特開平10−100566号公報
【特許文献10】特開2001−19719号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記事実を考慮し、端部汚れをさらに改善することができる平版印刷版及びその加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
請求項1に記載の発明は、平版印刷版の表面のエッジ先端部から約150μmまでの測定領域に発生するクラックの面積が、前記測定領域の全面積の約7〜30%であることを特徴としている。
【0016】
請求項1に記載の発明では、平版印刷版の切断時に発生する平版印刷版の表面のエッジ部のクラックの量を規定し、平版印刷版の表面のエッジ先端部から約150μmまでの測定領域に発生するクラックの面積を、該測定領域の全面積の約7〜30%としている。
【0017】
平版印刷版にシリケートを用いない場合、平版印刷版の端部の親水性が損なわれ、平版印刷版の端部汚れを悪化させるという弊害が生じるが、平版印刷版の表面にクラックを発生させることで、ガム引きの際、該クラック内にフィニッシャーを入り込ませることができ、親水性を向上させることができる。このため、シリケートを用いなくても、平版印刷版の親水性を向上させ、インクを付き難くすることができる。
【0018】
一方、平版印刷版の表面にあまりにも多数のクラックが発生すると、印刷物にインク汚れ等が生じてしまうおそれもあるが、平版印刷版の表面のエッジ先端部から約150μmまでの測定領域に発生するクラックの面積を、該測定領域の全面積の約30%までとすることで、クラックによるインク汚れの問題も生じない。
【0019】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の平版印刷版において、前記エッジ先端部側のダレが、前記エッジ先端部から約20μm内で、水平方向約5μm当たり垂直方向へ約3〜10μm変形していることを特徴としている。
【0020】
請求項2に記載の発明では、エッジ先端部から約20μm内で、水平方向約5μm当たり垂直方向へ約3〜10μm変形させるように、ダレを形成することで、インク汚れを生じさせるような大きなクラックを生じさせることはなく、また、平版印刷版の表面のエッジ先端部側に所定量のクラックを生じさせることができる。
【0021】
請求項3に記載の発明は、平版印刷版のエッジ部を加工する平版印刷版の加工方法であって、先端角度θが約83〜87度の第1成形工具で前記エッジ部を塑性変形させた後、前記エッジ先端部の形状を水平方向約5μm当たり垂直方向へ約3〜10μm変形させる第2成形工具でエッジ部を塑性変形させることを特徴としている。
【0022】
請求項3に記載の発明では、先端角度θが約83〜87度の成形工具でエッジ部を塑性変形させた後、エッジ部の先端形状を水平方向約5μm当たり垂直方向へ約3〜10μm変形させる第2成形工具でエッジ部を塑性変形させることで、平版印刷版のエッジ部において、なだらかな傾斜面を形成させることができる。また、成形工具で加工を行うことで、カッターやスリッタと比較して、さらに加工精度を上げることができる。
【0023】
請求項4に記載の発明は、平版印刷版のエッジ部を加工する平版印刷版の加工方法であって、請求項1又は2に記載の平版印刷版のエッジ部を加工した加工工具がカッタ又はスリッタであり、上刃と下刃の水平方向のクリアランスが板厚の約10〜30%であることを特徴としている。
【0024】
請求項4に記載の発明では、カッタ又はスリッタによって、請求項1又は2に記載の平版印刷版を形成する。ここで、該カッタ又はスリッタの上刃と下刃の水平方向のクリアランスを板厚の約10〜30%としている。
【0025】
カッタ又はスリッタの上刃と下刃の水平方向のクリアランスを板厚の約10%以上とすることで、平版印刷版の切断時において、エッジ部を丸くだらすことができる。また、該クリアランスを板厚の約30%以下とすることで、平版印刷版の裏面に平版印刷版の搬送等に支障を来すような大きなバリが生じないようにすることができる。
【0026】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の平版印刷版の加工方法において、前記上刃先の先端角度が約80〜95度であり、平版印刷版を合紙とともに切断することを特徴としている。
【0027】
請求項5に記載の発明では、上刃先の先端角度を約80〜95度とし、平版印刷版を合紙とともに切断することで、上刃の刃先の切れを悪くして、平版印刷版のエッジ部を丸くだらして切断することができる。
【0028】
請求項6に記載の発明は、平版印刷版のエッジ部を加工する平版印刷版の加工方法であって、前記平版印刷版の切断後に、成形部材で前記エッジ部を押圧し、請求項1又は2に記載の平版印刷版に加工することを特徴としている。
【0029】
請求項6に記載の発明では、平版印刷版の切断後に、成形部材で平版印刷版のエッジ部を押圧して、請求項1又は2に記載の平版印刷版に加工することで、切断と同時に平版印刷版のエッジ部を塑性変形させる場合と比較して、エッジ部を精度良く変形させることができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明は、上記構成としたので、請求項1に記載の発明では、平版印刷版の表面にクラックを発生させることで、ガム引きの際、該クラック内にフィニッシャーを入り込ませることができ、親水性を向上させることができる。このため、シリケートを用いなくても、平版印刷版の親水性を向上させ、インクを付き難くすることができる。一方、平版印刷版の表面にあまりにも多数のクラックが発生すると、印刷物にインク汚れ等が生じてしまうおそれもあるが、平版印刷版の表面のエッジ先端部から約150μmまでの測定領域に発生するクラックの面積を、該測定領域の全面積の約30%までとすることで、クラックによるインク汚れの問題も生じない。
【0031】
請求項2に記載の発明では、エッジ先端部から約20μm内で、水平方向約5μm当たり垂直方向へ約3〜10μm変形させるように、ダレを形成することで、インク汚れを生じさせるような大きなクラックを生じさせることはなく、また、平版印刷版の表面のエッジ端部側に所定量のクラックを生じさせることができる。
【0032】
請求項3に記載の発明では、先端角度θが約83〜87度の成形工具でエッジ部を塑性変形させた後、エッジ部の先端形状を水平方向約5μm当たり垂直方向へ約3〜10μm変形させる第2成形工具でエッジ部を塑性変形させることで、平版印刷版のエッジ部において、なだらかな傾斜面を形成させることができる。また、成形工具で加工を行うことで、カッターやスリッタと比較して、さらに加工精度を上げることができる。
【0033】
請求項4に記載の発明では、カッタ又はスリッタの上刃と下刃の水平方向のクリアランスを板厚の約10%以上とすることで、平版印刷版の切断時において、エッジ部を丸くだらすことができる。また、該クリアランスを板厚の約30%以下とすることで、平版印刷版の裏面に平版印刷版の搬送等に支障を来すような大きなバリが生じないようにすることができる。
【0034】
請求項5に記載の発明では、上刃先の先端角度を約80〜95度とし、平版印刷版を合紙とともに切断することで、上刃の刃先の切れを悪くして、平版印刷版のエッジ部を丸くだらして切断することができる。
【0035】
請求項6に記載の発明では、切断と同時に平版印刷版のエッジ部を塑性変形させる場合と比較して、エッジ部を精度良く変形させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
図1には、本発明の1実施形態の平版印刷版を加工する加工装置の例として、平版印刷版(以下、「PS版」という)を剪断するための剪断加工部10を備えた加工ライン90が示されている。
【0037】
この加工ライン90の上流側(図1右上側)には、あらかじめロール状に巻かれたウエブ12を順次巻き出す送出機14が配設されている。送出機14から送り出された長尺状のウエブ12がレベラ15でカール矯正され、送りローラ16に至ると、合紙18が貼り合わされ、帯電により密着されて、ノッチャー20に至る。
【0038】
ノッチャー20は、ウエブ12に打ち抜き部を設け、剪断加工部10を構成する剪断ローラ24の上刃48、50(いずれも図2参照)が、打ち抜き位置でウエブ12の幅方向へ移動できるようにする。これにより、ウエブ12と合紙18とをまとめて連続剪断しながら、ウエブ12の剪断幅を変更することが可能となる。以下、単に「幅方向」というときは搬送されるウエブ12の幅方向をいい、「内側」、「外側」というときは、ウエブ12の幅方向内側、外側をそれぞれいうものとする。
【0039】
剪断加工部10による剪断で生じた剪断屑86は、図示しないチョッパへ送られて細かく切断された後、回収コンベア82によって回収箱84に回収され、合紙18は吸引パイプ23で吸引処理される。
【0040】
このようにして、所定の剪断幅に剪断されたウエブ12は、測長装置26で送り長が検出され、指示されたタイミングで走間カッタ28により切断される。これにより、設定されたサイズのPS版30が製造される。
【0041】
次に、PS版30は、コンベア32によって集積部34に送られ、所定枚数積み重ねられて、集積束31が構成される。なお、集積部34では、この集積束31の上下若しくは片側に、厚紙等からなる保護シート(一般に「当てボール」と称される)を配置することも可能である。
【0042】
そして、集積束31は、搬送部35を経てパレット33に積み重ねられる。その後、ラック倉庫等の保管庫あるいは包装工程に送られ、包装材料(テープ、内装材、外装材等)によって包装される。また、自動製版機用のスキッド(平台スキッド、縦型スキッド等)に積み重ねることも可能である。なお、これらのスキッドに積み重ねて包装する場合には、加工ライン90に、集積束31をスキッドに集積するための集積装置を設け、加工ライン90内において直接スキッドに集積するようにしてもよい。
【0043】
以上のようにして、PS版30は包装されて出荷されるが、包装形態によっては、合紙18や、その他の包装材料を省略してもよい。
【0044】
ここで、ウエブ12には、図5(A)に示すように、アルミニウム製の支持体13上にあらかじめ感光層17(又は感熱層)が形成されており、この感光層17(又は感熱層)が形成された面が、PS版30(図1参照)の画像形成面(ウエブ12の表面12A)となっている。ウエブ12は、加工ライン90によって加工されて所望のサイズとされることで、印刷に使用可能なPS版30となる。
【0045】
また、支持体13としてのアルミニウム板は、例えば、JIS1050材、JIS1100材、JIS1070材、Al−Mg系合金、Al−Mn系合金、Al−Mn−Mg系合金、Al−Zr系合金、Al−Mg−Si系合金等を適用し得る。メーカにおけるアルミニウム板の製造過程では、上記規格に適合するアルミニウムの鋳塊を製造し、このアルミニウム鋳塊を熱間圧延した後、必要に応じて焼鈍と呼ぶ熱処理を施し、冷間圧延により所定の厚さとされた帯状のアルミニウム板に仕上げる。
【0046】
なお、PS版30(ウエブ12)の具体的構成は特に限定されないが、例えば、ヒートモード方式およびフォトン方式のレーザ刷版用の平版印刷版とすることによって、デジタルデータから直接製版可能な平版印刷版とすることができる。
【0047】
PS版30は、長方形の板状に形成された薄いアルミニウム製の支持体の片面に、塗布膜(感光性印刷版の場合には感光層、感熱性印刷版の場合には感熱層)を塗布して形成されている。この塗布膜に、露光、現像処理、ガム引き等の製版処理が行われ、印刷機にセットされ、インクが塗布されることで、紙面に文字、画像等が印刷される。
【0048】
以下、図3に示すように、塗布膜が塗布された面を画像形成面といい、この反対側の面、すなわち塗布膜が塗布されていない面を非画像形成面という。なお、本実施形態のPS版30は、印刷に必要な処理(露光や現像等)が施される前段階のものであり、場合によっては平版印刷版原版あるいは平版印刷版材と称されることもある。
【0049】
また、PS版30は、感光層又は感熱層中の成分を種々選択することによって、種々の製版方法に対応した平版印刷版とすることができる。本発明の平版印刷版の具体的態様の例としては、下記(1)〜(11)の態様が挙げられる。
(1) 感光層が赤外線吸収剤、熱によって酸を発生する化合物、および酸によって架橋する化合物を含有する態様。
(2) 感光層が赤外線吸収剤、および熱によってアルカリ溶解性となる化合物を含有する態様。
(3) 感光層が、レーザ光照射によってラジカルを発生する化合物、アルカリに可溶のバインダー、および多官能性のモノマーあるいはプレポリマーを含有する層と、酸素遮断層との2層を含む態様。
(4) 感光層が、物理現像核層とハロゲン化銀乳剤層との2層からなる態様。
(5) 感光層が、多官能性モノマーおよび多官能性バインダーとを含有する重合層と、ハロゲン化銀と還元剤を含有する層と、酸素遮断層との3層を含む態様。
(6) 感光層が、ノボラック樹脂およびナフトキノンジアジドを含有する層と、ハロゲン化銀を含有する層との2層を含む態様。
(7) 感光層が、有機光導電体を含む態様。
(8) 感光層が、レーザー光照射によって除去されるレーザー光吸収層と、親油性層および/または親水性層とからなる2〜3層を含む態様。
(9) 感光層が、エネルギーを吸収して酸を発生する化合物、酸によってスルホン酸またはカルボン酸を発生する官能基を側鎖に有する高分子化合物、および可視光を吸収することで酸発生剤にエネルギーを与える化合物を含有する態様。
(10) 感光層が、キノンジアジド化合物と、ノボラック樹脂とを含有する態様。
(11) 感光層が、光又は紫外線により分解して自己もしくは層内の他の分子との架橋構造を形成する化合物とアルカリに可溶のバインダーとを含有する態様。
【0050】
特に、レーザー光の照射により現像液に対する可溶性が変化する感光層(又は感熱層)を有する平版印刷版では、感光層(又は感熱層)が損傷を受けやすいため、本発明の平版印刷版包装構造を適用すると、後述するようにいわゆる膜剥れを確実に防止でき、好ましい。
【0051】
なお、ここでいうレーザー光の波長は特に限定されず、例えば、
(a) 波長域350〜450nmのレーザー(具体例としては、波長405±5nmのレーザーダイオード)。
(b) 波長域480〜540nmのレーザー(具体例としては、波長488nmのアルゴンレーザー、波長532nmの(FD)YAGレーザー、波長532nmの固体レーザー、波長532nmの(グリーン)He−Neレーザー)。
(c) 波長域630〜680nmのレーザー(具体例としては、波長630〜670nmのHe−Neレーザー、波長630〜670nmの赤色半導体レーザー)。
(d) 波長域800〜830nmのレーザー(具体例としては、波長830nmの赤外線(半導体)レーザー)。
(e) 波長1064〜1080nmのレーザー(具体例としては、波長1064nmのYAGレーザー)。
【0052】
等を挙げることができる。これらのうち、例えば、(b)及び(c)の波長域のレーザー光はいずれも、上記した(3)又は(4)の態様の感光層又は感熱層を有する平版印刷版の双方に適用可能である。また、(d)及び(e)の波長域のレーザー光はいずれも、上記した(1)又は(2)の態様の感光層又は感熱層を有する平版印刷版の双方に適用可能である。もちろん、レーザー光の波長域と感光層又は感熱層との関係はこれらに限定されない。
【0053】
PS版30の形状等は特に限定されず、例えば、厚み0.1〜0.5mm、長辺(幅)300〜2050mm、短辺(長さ)200〜1500mmのアルミニウム板の片面に感光層又は感熱層が塗布されたもの等とすることができる。
【0054】
使用される合紙としては平版印刷版に用いられる一般的なものでよいが、代表例を下記に示す。合紙18としても、PS版30の塗布膜を確実に保護できれば、その具体的構成は限定されないが、例えば、木材パルプを100%使用した紙や、木材パルプを100%使用せず合成パルプを使用した紙、及びこれらの紙の表面に低密度ポリエチレン層を設けた紙等を使用できる。特に、合成パルプを使用しない紙では、材料コストが低くなるので、低コストで合紙18を製造することができる。より具体的には、漂白クラフトパルプから抄造した坪量20〜55g/m2、密度0.7〜0.85g/cm3、水分4〜6%、ベック平滑度10〜800秒、PH4〜6、透気度15〜300secの合紙が挙げられるが、もちろんこれに限定されない。
【0055】
ところで、平版印刷版を剪断する剪断加工部10は、図3に示すように、ウエブ12の搬送方向(矢印F方向)上流側に設けられた剪断部92と、剪断部92の下流側に設けられた押圧部94と、で構成されている。
【0056】
ここで、剪断部92は、図2に示すように、ウエブ12を幅方向の所定位置で剪断する剪断ローラ24と、この剪断ローラ24による剪断時にウエブ12を表面12Aから押圧する押圧ローラ22と、隣り合う剪断ローラ24の間に位置し搬送されるウエブ12の裏面12B側に配置された受けローラ40と、を有している。
【0057】
剪断ローラ24は、ウエブ12の表面12A側において、搬送されるウエブ12の幅方向端部(エッジ部)近傍及び略中央に設けられた上刃48、50と、これらの上刃48、50に対応して、ウエブ12の裏面12B側に設けられた下刃54、56と、で構成されている。
【0058】
幅方向端部近傍の上刃48は、正面視にて扁平台形の略皿状に形成されており、大径側がウエブ12の幅方向内側に向くように配置されている。また、上刃48は、最も下側に位置した部分がウエブ12の裏面12Bよりも下方に至るように所定の位置及び径とされており、回転によってウエブ12を剪断(トリミング)する剪断部分となっている。
【0059】
また、幅方向中央の上刃50は、端部近傍の上刃48よりもさらに扁平な略皿状に形成されており、これらの上刃50が大径側がウエブ12の幅方向外側へ向くようにして一対設けられている。また、上刃50も、上刃48と同様に、最も下側に位置した部分がウエブ12の裏面12Bよりも下方に至るように所定の径とされており、回転によってウエブ12を剪断する剪断部分となっている。さらに、上刃50は幅方向に移動可能とし、上刃50の間に皿ばね52を配設し、上刃50どうしを互いに離間する方向へ付勢してもよい。
【0060】
一方、幅方向端部近傍に設けられた下刃54は、一定の径を有する扁平な円筒状又は円柱状に形成されており、ウエブ12を支持しながら、上刃48との間で挟み込んで剪断する。ここで、下刃54の上刃48に対する水平方向のクリアランスt1を、図4(A)、(B)に示すように(なお図4(A)、(B)は上刃48及び下刃54を模式的に示した図である)、ウエブ12の板厚t2の約10〜30%としている。
【0061】
また、図2に示すように、下刃54よりも幅方向端部には、全体として下刃54よりも小径とされ、さらに幅方向内側に向かって次第に縮径された縮径部68を有する受けローラ42が設けられている。上刃48と下刃54とでウエブ12を挟みつけて剪断すると、ウエブ12の端部がこの受けローラ42によって支持されつつ、縮径部68に向かって折れ曲がり、容易に剪断できるようになっている。
【0062】
これに対し、幅方向略中央に設けられた下刃56は、端部の下刃54と同一の径を有する扁平な円筒状又は円柱状のローラが所定の間隙72をあけて対向配置されることにより構成されている。そして、この間隙72に上刃50が入り込み、2つの上刃50が一定間隔をあけて、下刃56にそれぞれ隣接した位置となる。具体的には、下刃56の上刃50に対する水平方向のクリアランスを、上刃48及び下刃54同様、ウエブ12の板厚t2の約10〜30%としている(図4(A)参照)。
【0063】
そして、下刃56はウエブ12を支持しながら上刃50との間で挟み込んで剪断する。このとき、剪断によって打ち抜かれる部分(剪断屑86)が間隙72に入り込むので、容易に剪断できる。このようにして剪断されたウエブ12は、上刃48と上刃50の間の部分(剪断によって切り残された部分)が、最終的な製品であるPS版30(図1参照)となる。
【0064】
一方、押圧ローラ22は、ウエブ12の表面12A側に位置するように、上刃48、50のそれぞれに隣接して配置されている。それぞれの押圧ローラ22は、正面視にて扁平台形の略皿状に形成されており、大径側の端面が上刃48又は上刃50と密着するように取り付けられている。
【0065】
この押圧ローラ22の外周面には、図5(A)、(B)に示すように、最も下側に位置したときウエブ12の表面12Aに対して直交する方向を基準に傾斜角θ1で傾斜する傾斜部70を設けており、上刃48と下刃54又は上刃50と下刃56とでウエブ12を剪断したとき、この傾斜部70がウエブ12の端部を押圧し、ウエブ12の端部に、ウエブ12の表面12Aに対して所定の傾斜角(90°―θ1)で傾斜した傾斜面74を形成させる。
【0066】
また、図2に示すように、押圧ローラ22及び上刃48、50は、それぞれ1本のシャフト78に取り付けられており、ウエブ12の搬送方向と同方向へ同速で回転する。同様に、下刃54と受けローラ40、下刃56と受けローラ42もそれぞれ1本のシャフト80に取りつけられており、ウエブ12の搬送方向と同方向(上刃48、50及び押圧ローラ22とは逆回転方向)へ同速で回転する。また、幅方向両端のシャフト78、80は、レール44に沿ってウエブ12の幅方向へ移動する基台46に取り付けられている。
【0067】
一方、図3に示す剪断部92の下流側に配置された押圧部94は、ウエブ12の表面12A側において、ウエブ12の幅方向の所定位置に配設された上ローラ120、122と、ウエブ12の下側において、上ローラ120、122に対応して配設された下ローラ124、126とで構成されている。
【0068】
ウエブ12の幅方向の端部に配設された上ローラ120は、軸方向外側に設けられた円筒部130と、この円筒部130から内側に向かって次第に縮径された扁平円錐状の傾斜部132と、で構成されている。この傾斜部132は、傾斜角θ2とした場合、90°―θ2が、水平方向約5μm当たり垂直方向へ約3μm変形する形状となるようにしている。
【0069】
これに対して、中央の上ローラ122は、全体として略円板状とされ、軸方向中央において一定の半径及び幅(軸方向の長さ)を有する円筒部134が形成されている。この円筒部134の外周面がウエブ12の表面12Aと成す角度は、適宜選択できるが、略平行とされていることが好ましい。
【0070】
また、円筒部134の軸方向両側からは、軸方向端部において先端に向かって次第に縮径され上ローラ120と同様、扁平円錐状の傾斜部132を設けている。そして、上ローラ120、122は、それぞれシャフト138に取り付けられており、同一方向にウエブ12と同速度で回転する。
【0071】
一方、中央の上ローラ122に対応して設けられた下ローラ126は、一定の間隔をあけて配置された2つの受けローラ140、142によって構成されている。これらの受けローラ140、142の隙間は、最終的に製造されるPS版30の形状により適宜選択できる。また、この隙間は、上ローラ122によって押圧されて変形したウエブ12の侵入を許容し、ウエブ12の一部が入り込むようになっている。
【0072】
ここで、下ローラ124、126はいずれも略同一径とされており、シャフト144に取り付けられ、上ローラ120、122と反対の方向に、ウエブ12と同速度で回転し、下ローラ124、126上をウエブ12が感光層17(図5(B)参照)を上にした状態で搬送される。
【0073】
そして、ウエブ12は搬送されながら上ローラ120、122によって押圧され、ウエブ12の表面12A、かつエッジ部P(図7(A)参照)から約20μm内に連続して、該表面12Aに対して、水平方向約5μm当たり垂直方向へ約3μm変形する傾斜面146が形成される(図5(B)参照)。
【0074】
なお、シャフト138、144は各々1軸で構成してもよいし、上ローラ120、122及び下ローラ124、126ごとに幅方向(シャフト138、144の長手方向)に分割して構成してもよい。一般的には、シャフト138、144を分割した方が、上ローラ120、122及び下ローラ124、126の条件の設定が容易になる。
【0075】
また、本実施形態では一例として、ウエブ12の幅方向に2枚のPS版30を取る場合を挙げたため、ウエブ12の幅方向略中央及び幅方向略中央に剪断ローラ24及び押圧ローラ22を設けたが、剪断ローラ24及び押圧ローラ22の数は、ウエブ12の幅方向に何枚のPS版30を取るかによって決定される。
【0076】
次に、本実施形態の剪断加工部10を有する加工ライン90を使用して、ウエブ12を剪断する方法を説明する。
【0077】
図1に示すように、加工ライン90において搬送されてきたウエブ12が剪断加工部10に至ると、図2に示すように、剪断部92を構成する下刃54、56及び受けローラ40によって支持されながらさらに搬送される。
【0078】
そして、ウエブ12には、上刃48、50と下刃54、56との間で挟まれて剪断力が作用し、ウエブ12は所定位置で剪断され(切断工程)、剪断された部分は剪断屑86となる。剪断屑86は回収コンベア82によって搬送され、回収箱84に回収される。
【0079】
このとき、押圧ローラ22が上刃48又は上刃50と一体で回転し、傾斜部70がウエブ12を表面12A側から押圧するため、剪断縁の近傍のウエブ12が部分的に変形し、この剪断縁には、表面12Aと連続し、表面12Aに対して所定の傾斜角(90°―θ1)で傾斜した傾斜面74が形成される(図5(A)参照)。
【0080】
次に、ウエブ12は、図3に示すように、押圧部94を構成する下ローラ124、126によって支持される。このとき、上ローラ120、122は回転して、ウエブ12を上側から押圧する。これにより、ウエブ12がさらに変形し、ウエブ12の表面12Aには、剪断部92の押圧ローラ22によって形成された傾斜面74の上に、押圧ローラ22によって形成された傾斜面146が形成される。そして、図1に示すように、ウエブ12は、走間カッタ28で切断され、所望のサイズのPS版30が得られる。
【0081】
このように、剪断加工部10において、ウエブ12を押圧すると共に剪断し、剪断後に再度ウエブ12の端部を押圧することで、ウエブ12の端部に所望のダレを形成することができる。このダレの形成によって、ウエブ12の表面12Aの端部側にはクラックが生じることとなる。
【0082】
このように、ウエブ12の表面にクラックを発生させることで、ガム引きの際、該クラック内にフィニッシャーを入り込ませることができ、親水性を向上させることができることとなる。このため、シリケートを用いなくても、ウエブ12の親水性を向上させ、インクを付き難くすることができる。
【0083】
また、ウエブ12のダレによって生じる裏面のバリを少なくすることで(後述する)、例えば露光機内でPS版30を搬送する場合にPS版30が蛇行したり、バリが欠落してゴミとなってしまったりすることがなく、PS版30は取り扱いに優れる。
【0084】
しかも、本実施形態の剪断加工部10では、剪断ローラ24の上刃48と、押圧ローラ22とを軸方向に固定して一体で回転させることで、上刃48の剪断部分と押圧ローラ22の押圧部分(傾斜部70)をウエブ12に対して接近又は離間させている。
【0085】
このため、ウエブ12に対する上刃48及び押圧ローラ22の相対位置がずれることがなく、剪断位置と傾斜面74の位置とがずれることもない。従って、高い位置精度で、PS版30の端部に傾斜面74を形成させることができる。
【0086】
加えて、押圧ローラ22を上刃48、50と一体的に設けており、ウエブ12に傾斜面74を形成するための部材を別途設ける必要がない。このため、剪断加工部10の構造が簡単になり、加工ライン90も短くできる。
【実施例1】
【0087】
図3及び図5(A)、(B)に示す剪断加工部10の剪断部92に配置された押圧ローラ22の外周面に設けた傾斜部70の傾斜角θ1を約83〜87°とし、押圧部94に配置された上ローラ120、122の外周面に設けた傾斜部132を、ウエブ12の表面12Aに対して水平方向約5μm当たり垂直方向へ約3μm変形する形状としている。
【0088】
傾斜部70及び傾斜部132で複数回に渡ってそれぞれウエブ12の端部を押圧することで、インク汚れを生じさせるような大きなクラック96を生じさせることなく、ウエブ12の表面に所定量のクラック96を生じさせることができる。
【0089】
具体的には、ウエブ12のエッジ部P(図7(A)参照)から約20μm内に、ウエブ12の表面12Aに対して水平方向約5μm当たり垂直方向へ約3μm変形する傾斜部132によって、最終的にウエブ12の端部を押圧することで、図6(A)、(B)に示すように、ウエブ12の表面12Aのエッジ部Pから約150μmまでの測定領域に発生するクラック96の面積が、該測定領域の全面積の約7〜30%となる(なお、図6(B)はクラック96の面積が15%の状態を示している)。
【0090】
仮に、上ローラ120、122の傾斜部132によって形成される傾斜面146が、ウエブ12の表面12Aに対して水平方向約5μm当たり垂直方向へ約3μm未満の変形量を有する形状とした場合、ウエブ12の端部には、さらになだらかな斜面が形成されることとなり、ダレの量も小さくなるので、該ダレの形成によって生じるクラック96は、該測定領域の全面積の約6%未満となる(なお、図6(C)はクラック面積が3.5%の状態を示している)。
【0091】
ウエブ12にシリケートを用いない場合、ウエブ12の端部の親水性が損なわれ、ウエブ12の端部汚れを悪化させるという弊害が生じるが、ウエブ12の表面にクラック96を発生させることで、ガム引きの際、該クラック96内にフィニッシャーを入り込ませることができ、親水性を向上させることができる。
【0092】
このため、シリケートを用いなくても、ウエブ12の親水性を向上させ、インクを付き難くすることができることとなるが、図6(C)に示すように、クラック96の量が少ないと、ウエブ12の端部の親水性を向上させることはできず、図7(A)、(B)に示すように、ウエブ12の端部には、インク汚れが発生(黒丸)してしまう。
【0093】
以上のことから、ウエブ12の表面12Aのエッジ部Pから約150μmまでの測定領域において、親水性を向上させるに十分なクラック96の面積は、該測定領域の全面積の約7%以上が望ましい。
【0094】
一方、ウエブ12の表面にあまりにも多数のクラック96が発生すると、印刷物にインク汚れ等が生じてしまうおそれもあるが、測定領域全体の面積に対するクラック96の面積を約30%までとすることで、クラック96によるインク汚れの問題も生じない。
【0095】
また、図4(A)、(B)に示すように、剪断部92の上刃48、50と下刃54、56の水平方向のクリアランスt1をウエブ12の板厚t2の約10〜30%としている。
【0096】
剪断部92の上刃48、50と下刃54、56の水平方向のクリアランスt1をウエブ12の板厚t2の約10%以上とすることで、ウエブ12の剪断時において、端部を丸くだらすことができる。また、該クリアランスt1を板厚t2の約30%以下とすることで、ウエブ12の裏面12Bにウエブ12の搬送等に支障を来すような大きなバリが生じないようにすることができる。
【0097】
さらに、図示はしないが、ウエブ12を合紙18と共に剪断するようにしている。合紙18と共にウエブ12を剪断することで、上刃48、50の刃先の切れを悪くして、ウエブ12の端部を丸くだらして剪断することができる。
【実施例2】
【0098】
図8に示すように、成形工具98、100によって、ウエブ12の端部を塑性変形させる。ここで、成形工具98の先端角度θを約83〜87°とし、成形工具100の先端部100Aを水平方向約5μm当たり垂直方向へ約3〜10μm変形する傾斜面としている。
【0099】
図8(A)、(B)に示すように、成形工具98でウエブ12の端部を押圧し、塑性変形させた後、図8(C)、(D)に示すように、成形工具100でウエブ12の端部を押圧して、塑性変形させる。
【0100】
これにより、ウエブ12の端部において、なだらかな傾斜面を形成させることができる。第2実施例では、成形工具98、100で塑性変形を行うことで、剪断部92で用いられるカッターやスリッタと比較して、さらに加工精度を上げることができる。
【0101】
なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。ウエブ12の端部にダレを形成させ、クラック96が生じるようにできれば良いため、例えば、図3に示す剪断加工部10において、ウエブ12の搬送方向(矢印F方向)の上流側を剪断部92としたが、下流側を剪断部としても良い。これにより、上ローラ120、122側に剪断ローラ24が設けられることとなる。
【0102】
また、剪断加工部10において、押圧ローラ22に剪断ローラ24を一体に設け、搬送されるウエブ12を塑性変形させると共に、剪断を行うようにしたが、塑性加工と剪断加工とを分けても良い。
【0103】
つまり、ウエブ12を剪断した後、ウエブ12の端部を塑性変形させても良い。この場合、剪断と同時にウエブ12の端部を塑性変形させる場合と比較して、ウエブ12の端部を精度良く変形させることができる。但し、この場合、ウエブ12の搬送方向に沿って配置されるロールの数が増えるため、加工ラインが長くなってしまう。
【0104】
さらに、剪断加工部10において、剪断部92の上刃48、50と下刃54、56の水平方向のクリアランスt1をウエブ12の板厚t2の約10〜30%とし、押圧ローラ22の傾斜部70の傾斜角θ1を約83〜87°とすると共に、上ローラ120、122の傾斜部132を、ウエブ12の表面12Aに対して水平方向約5μm当たり垂直方向へ約3μm変形する形状としたが、必ずしもこれらの要件を全て満たす必要はない。
【0105】
例えば、剪断部92の上刃48、50と下刃54、56の水平方向のクリアランスt1をウエブ12の板厚t2の約10〜30%とするだけでも、ウエブ12の端部の親水性を向上させ、ウエブ12の端部のインク汚れを防止する効果を得ることができる。
【0106】
一方、ウエブ12に対して上刃48、50と押圧ローラ22を一体で接近又は離間させることが可能であれば、シャフト78は必ずしも幅方向(シャフト78の軸方向)に分割されている必要はなく、上刃48、50と押圧ローラ22とで共通して1本のシャフト78を設けてもよい。一般的には、図2に示すように、シャフト78を分割した方が、上刃48、50及び押圧ローラ22の条件の設定が容易になる。同様に、シャフト80を1本としてもよい。
【0107】
また、本発明の平版印刷版を加工する加工装置の例としては、上記各実施形態として挙げたPS版30の加工ライン90を構成する剪断加工部10のみならず、平版印刷版を加工するあらゆる装置に適用可能である。例えば、ウエブ12を幅方向に沿って切断する走間カッタ28(図1参照)に適用してもよい。
【0108】
この場合には一例として、幅方向全体に渡って剪断ローラ24の上刃48又は上刃50及び下刃54、56と同一の断面形状を有する剪断刃と、押圧ローラ22と同一の断面形状を有する押圧部材とを設け、これらの剪断刃と押圧部材とが一体でウエブ12に対して接離するように構成すればよい。
【0109】
また、上記各実施形態の剪断加工部10では、ウエブ12が常に平面状に搬送される構成のものを例として挙げたが、これらの実施形態において、例えば下刃54、56及び受けローラ40に対して緩やかに巻きつけるようにして、ウエブ12が搬送方向に沿って湾曲して搬送されるようになっていてもよい。
【0110】
これにより、ウエブ12と下刃54、56及び受けローラ40との接触面積が増大し、これらの間の摩擦力が大きくなるので、搬送時のウエブ12の蛇行やブレを防止し、ウエブ12を安定して搬送することが可能となる。
【0111】
また、ウエブ12の搬送速度と同じ移動速度で移動しながら、ウエブ12を保持するベルトや、フィンガー、リングスペーサ等の保持部材をこの加工ライン90に設け、これによってウエブ12をさらに安定的に搬送してもよい。
【0112】
さらに、加工ラインとしても、上記したような、感光層が塗布されてコイル状に巻き取られたウエブを順次巻き出して加工する加工ラインだけでなく、感光層が塗布された後、巻き取ることなく連続して加工する加工ラインや、加工後にコイル状に巻き取る加工ライン等、種々の工程を組み入れた加工ラインに、また、マスターシートに切断後、最終出荷形態の寸法となるようシート状に剪断する加工に、本発明の平版印刷版を加工する加工装置及び加工方法を適用することができる。
【0113】
ウエブ12の搬送形態としても、必ずしも感光層17を上にして搬送する加工ラインだけでなく、感光層17を下にして搬送する加工ラインや、さらにはウエブ12をその幅方向が上下方向となるように縦位置で搬送する加工ライン等でもよく、要するにウエブ12の搬送形態は特に限定されない。
【0114】
加えて、本発明の平版印刷版を加工する加工装置及び加工方法を、表面処理前のアルミコイルに適用してもよい。また、本発明のPS版30の製版前後に不感化処理を施してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】本発明の実施の形態に係る平版印刷版の加工ラインを示す概略図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る平版印刷版を剪断する剪断部を示す正面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る平版印刷版を剪断押圧する剪断加工部を示す斜視図である。
【図4】(A)、(B)は、本発明の実施の形態に係る平版印刷版を剪断する剪断部の上刃と下刃の位置関係を示す説明図である。
【図5】(A)は、本発明の実施の形態に係る平版印刷版を剪断している状態を示し、(B)は平版印刷版を押圧している状態を示す断面図である。
【図6】(A)は、本発明の実施の形態に係る平版印刷版を示す断面図であり、(B)、(C)は、平版印刷版の端部に生じたクラックを示す拡大図である。
【図7】(A)は、本発明の実施の形態に係る平版印刷版を示す断面図であり、(B)は、平版印刷版のエッジ部の形状と平版印刷版の端部汚れとの関係を示す説明図である。
【図8】(A)〜(D)は、本発明の実施の形態に係る平版印刷版の端部を成形工具によって塑性変形させている状態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0116】
10 剪断加工部
12 ウエブ(平版印刷版)
22 押圧ローラ(第1成形工具)
24 剪断ローラ(加工工具)
48 上刃
50 上刃
54 下刃
56 下刃
96 クラック
98 成形工具(第1成形工具)
100 成形工具(第2成形工具)
120 上ローラ(第2成形工具)
122 上ローラ(第2成形工具)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平版印刷版の表面のエッジ先端部から約150μmまでの測定領域に発生するクラックの面積が、前記測定領域の全面積の約7〜30%であることを特徴とする平版印刷版。
【請求項2】
前記エッジ先端部側のダレが、前記エッジ先端部から約20μm内で、水平方向約5μm当たり垂直方向へ約3〜10μm変形していることを特徴とする請求項1に記載の平版印刷版。
【請求項3】
平版印刷版のエッジ部を加工する平版印刷版の加工方法であって、
先端角度θが約83〜87度の第1成形工具で前記エッジ部を塑性変形させた後、前記エッジ先端部の形状を水平方向約5μm当たり垂直方向へ約3〜10μmに変形させる第2成形工具でエッジ部を塑性変形させることを特徴とする平版印刷版の加工方法。
【請求項4】
平版印刷版のエッジ部を加工する平版印刷版の加工方法であって、
請求項1又は2に記載の平版印刷版のエッジ部を加工した加工工具がカッタ又はスリッタであり、上刃と下刃の水平方向のクリアランスが板厚の約10〜30%であることを特徴とする平版印刷版の加工方法。
【請求項5】
前記上刃先の先端角度が約80〜95度であり、平版印刷版を合紙とともに切断することを特徴とする請求項4に記載の平版印刷版の加工方法。
【請求項6】
平版印刷版のエッジ部を加工する平版印刷版の加工方法であって、
前記平版印刷版の切断後に、成形部材で前記エッジ部を押圧し、請求項1又は2に記載の平版印刷版に加工することを特徴とする平版印刷版の加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−51764(P2006−51764A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−236495(P2004−236495)
【出願日】平成16年8月16日(2004.8.16)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】