説明

平版印刷版用アルミニウム合金板およびその製造方法

【課題】 粗面化処理後の外観の均一性および耐汚れ性に優れ、かつ耐熱軟化性に優れた平版印刷版用アルミニウム合金板を提供する。
【解決手段】 Fe0.1〜0.5%、Si0.01〜0.20%、Cu0.005〜0.07%、Mg0.10〜0.25%、Ti0.003〜0.03%、Zr0.0005%以上0.004%未満を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、単体Si量が0.02%以下でかつ圧延方向に直角な方向の結晶粒の平均長さが100μm以下で、さらに製品板での熱処理前後の耐力差が、熱処理前と500℃×10分の加熱後との耐力差の1/2になる熱処理温度が240℃以上である平版印刷版用アルミニウム合金板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、粗面化処理したアルミニウム合金板表面に陽極酸化処理を施し、さらに感光性物質を塗布して形成される平版印刷版に使用されるアルミニウム合金板に関するものであり、より詳しくは粗面化処理後の外観の均一性および非画像部の耐インク汚れ性に優れ、しかも耐熱軟化性に優れた平版印刷版用アルミニウム合金板およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に平版印刷版としては、アルミニウムもしくはアルミニウム合金の表面に粗面化処理、陽極酸化皮膜処理などの表面処理を施してなる支持体上に感光性物質を塗布して用いるのが通常である。このような平版印刷版のうちで通常広く用いられているのは、予め支持体上に感光性物質を塗布しておき、直ちに焼き付けられる状態になっている、いわゆるPS版である。
【0003】
このような平版印刷版を実際に印刷版として使用するにあたっては、画像露光、現像、水洗、ラッカー盛り等の製版処理を施す。ここで、現像処理による未溶解の感光層は画像部を形成し、感光層が除去されてその下のアルマイト層が露出した部分は親水性のため水受容部となり、非画像部を形成する。このようにして作られた印刷版は、印刷機の回転する円筒形版胴に巻付けて、湿し水の存在下でインキを画像部上に付着させ、ゴムブランケットに転写して、紙面に印刷することになる。
【0004】
従来このような用途のアルミニウムおよびアルミニウム合金(以下総称してアルミニウム合金とする)としては、JIS1050、JIS1100、JIS3003等が主として用いられる。通常これらのアルミニウム合金板は、表面を機械的方法、化学的方法および電気化学的方法のいずれか一つ、あるいは二つ以上を組合せた工程による粗面化方法により粗面化し、その後好ましくは陽極酸化処理を施して使用される。
【0005】
ところで近年は、耐刷性の向上を目的とし、平版印刷版を通常の方法で露光、現像処理した後に、高温で加熱処理(バーニング処理)することによって画像部を強化することが広く行なわれている。バーニング処理は、通常、加熱温度200〜290℃、加熱時間3〜9分の条件で行なうが、このようなバーニング処理時にアルミニウム合金板の強度が低下することがないように、耐熱軟化性(耐バーニング性)が優れていることが望まれている。
【0006】
また印刷版については、より鮮明に印刷し得ることが要求されるとともに、同じ印刷版を用いてより多くの部数の印刷が可能となることが強く要望されており、そのために、印刷中に非画像部にインク汚れが生じないことが特に重要となっている。
【0007】
これらの要求を満たすための方策としては、既に、熱間圧延における各種温度および熱間圧延後の平均冷却速度を規定する事によって、粗面化処理後の外観均一性、耐熱軟化性を解決する提案がなされている(例えば特許文献1参照)。
【0008】
また一方、準安定相であるAlFe系金属間化合物粒子の分布を調整することにより、粗面化処理後の外観均一性を解決する提案もなされている(例えば特許文献2参照)。
【0009】
さらに、各種元素の添加量を調整したアルミニウム合金材に対して特定の熱間圧延条件を適用して結晶粒径を制御することにより、粗面化処理後の外観均一性、耐熱軟化性、反復曲げ疲労強さを解決する提案もなされている(例えば特許文献3参照)。
【0010】
そのほか、各種元素の添加量を調整することにより、粗面化処理面後の外観均一性、耐熱軟化性を解決する提案もなされている(例えば特許文献4参照)。
【0011】
また、準安定層の金属間化合物粒子を調整して粗面化均一性を解決した例もある(例えば特許文献5参照)。
【特許文献1】特開平10−306355号公報
【特許文献2】特開2002−088434号公報
【特許文献3】特開2004−250794号公報
【特許文献4】特開2005−015912号公報
【特許文献5】特開2005−002429号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前述のような従来の各種の提案のうち、特許文献1に示される提案においては、熱間圧延での各温度の制御だけでは、充分な耐熱軟化性を得ることは困難であり、また平均冷却速度の制御だけでは結晶粒を微細にすることが困難であって、粗面化処理後の外観均一性も充分とはいえないことが判明している。
【0013】
また特許文献2に示される提案の場合、準安定相粒子の制御のみでは、必ずしも粗面化処理後の外観均一性が良好とはいえず、更なる改善が必要であると言わざるを得ない。
【0014】
さらに、特許文献3に示される提案の場合、板表面上に熱間圧延上がりで再結晶していない領域が存在し、この場合、粗面化処理面にストリークが発生して、外観の均一性に劣る問題がある。
【0015】
そしてまた特許文献4に示される提案の場合、アルミニウム合金のMn含有量が多いことから、Al−Mn系の粗大化合物が発生し易く、この場合Al−Mn系粗大化合物の大きな脱落跡が生じて、粗面化処理後の外観均一性が劣ってしまう問題がある。
【0016】
また特許文献5に示される提案では、合金の成分組成を調整すると同時に、準安定相の金属間化合物粒子の制御を、鋳塊に対する均熱工程を行なわないかまたは均熱工程を550℃以下の低温で行なうことによって実施しているが、この方法では、Feの固溶量が不充分となって、この発明で規定する熱処理前後の耐力差条件を満たすことができず、耐熱軟化性が不充分となってしまう。すなわち、ある温度で熱処理を行なったときの熱処理前後の耐力差が、500℃で加熱したときの加熱前後の耐力差の1/2以上となるような熱処理温度が熱処理温度が240℃以上とはならず、そのためバーニング処理時における強度低下が大きくなり、充分な耐熱軟化性を確保し得なかったのが実情である。
【0017】
この発明は以上の事情を背景としてなされたもので、粗面化処理後の外観の均一性や非画像部の耐インク汚れ性など、通常の平版印刷版に求められる性能を損なうことなく、耐熱軟化性が良好で、バーニング処理により強度が低下するおそれが少ない平版印刷版用アルミニウム合金板を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者は、上述のような課題を解決するべく、鋭意研究を重ねた結果、Zr等の微量の添加元素の含有量を厳密に調整することによって、前述の課題を解決し得ることを見出し、このような知見に基づきこの発明を完成するに至った。
【0019】
すなわち請求項1の発明の平版印刷版用アルミニウム合金板は、Fe0.1〜0.5%、Si0.01〜0.20%、Cu0.005〜0.07%、Mg0.10〜0.25%、Ti0.003〜0.03%、Zr0.0005%以上、0.004%未満を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物よりなるアルミニウム合金板であって、かつその板における単体Si量が0.02%以下であり、また圧延方向に対し直角な方向の結晶粒の平均長さが100μm以下であり、しかもその板を500℃で10分間加熱したときの加熱前の耐力値YSOと加熱後の耐力値YSAとの差をΔYSA(=YSO−YSA)とするとともに、その板にある温度で10分間保持する熱処理を行なったときの熱処理前の耐力値YSOと熱処理後の耐力値YSBとの差をΔYSB(=YSO−YSB)として、前記(1)式が満たされる熱処理温度が240℃以上であることを特徴とするものである。
【0020】
また請求項2の発明の平版印刷版用アルミニウム合金板は、Fe0.1〜0.5%、Si0.01〜0.20%、Cu0.005〜0.07%、Mg0.10〜0.25%、Ti0.003〜0.03%、Zr0.0005%以上、0.004%未満、Mn0.001〜0.01%、Zn0.001〜0.01%を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物よりなるアルミニウム合金板であって、かつその板における単体Si量が0.02%以下であり、また圧延方向に対し直角な方向の結晶粒の平均長さが100μm以下であり、しかもその板を500℃で10分間加熱したときの加熱前の耐力値YSOと加熱後の耐力値YSAとの差をΔYSA(=YSO−YSA)とするとともに、その板にある温度で10分間保持する熱処理を行なったときの熱処理前の耐力値YSOと熱処理後の耐力値YSBとの差をΔYSB(=YSO−YSB)として、前記(1)式が満たされる熱処理温度が240℃以上であることを特徴とするものである。
【0021】
一方請求項3の発明の平版印刷版用アルミニウム合金板の製造方法は、Fe0.1〜0.5%、Si0.01〜0.20%、Cu0.005〜0.07%、Mg0.10〜0.25%、Ti0.003〜0.03%、Zr0.0005%以上、0.004%未満を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物よりなるアルミニウム合金を素材とし、鋳塊に対して熱間圧延を施すにあたり、最終圧延パスにおける圧下量が3mm以上、熱間圧延上り温度が280〜360℃の範囲内、熱間圧延上り板厚が1.0〜4.0mmの範囲内となるように制御し、得られた熱延板に対し、その後中間焼鈍を施すことなく製品板厚まで冷間圧延して、圧延方向に対し直角な方向の結晶粒の平均長さが100μm以下でかつ単体Si量が0.02%以下であり、しかも500℃で10分間加熱したときの加熱前の耐力値YSOと加熱後の耐力値YSAとの差をΔYSA(=YSO−YSA)とするとともに、その板にある温度で10分間保持する熱処理を行なったときの熱処理前の耐力値YSOと熱処理後の耐力値YSBとの差をΔYSB(=YSO−YSB)として、前記(1)式が満たされる熱処理温度が240℃以上であることを特徴とするものである。
【0022】
また請求項4の発明の平版印刷版用アルミニウム合金板の製造方法は、Fe0.1〜0.5%、Si0.01〜0.20%、Cu0.005〜0.07%、Mg0.10〜0.25%、Ti0.003〜0.03%、Zr0.0005%以上、0.004%未満、Mn0.001〜0.01%、Zn0.001〜0.01%を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物よりなるアルミニウム合金を素材とし、鋳塊に対して熱間圧延を施すにあたり、最終圧延パスにおける圧下量が3mm以上、熱間圧延上り温度が280〜360℃の範囲内、熱間圧延上り板厚が1.0〜4.0mmの範囲内となるように制御し、得られた熱延板に対し、その後中間焼鈍を施すことなく製品板厚まで冷間圧延して、圧延方向に対し直角な方向の結晶粒の平均長さが100μm以下でかつ単体Si量が0.02%以下であり、しかも500℃で10分間加熱したときの加熱前の耐力値YSOと加熱後の耐力値YSAとの差をΔYSA(=YSO−YSA)とするとともに、その板にある温度で10分間保持する熱処理を行なったときの熱処理前の耐力値YSOと熱処理後の耐力値YSBとの差をΔYSB(=YSO−YSB)として、前記(1)式が満たされる熱処理温度が240℃以上であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0023】
請求項1および請求項2の発明の平版印刷版用アルミニウム合金板は、粗面化処理後の外観の均一性が優れると同時に、非画像部の耐インク汚れ性にも優れ、しかもそればかりでなく、耐熱軟化性に優れていて、バーニング処理による強度の低下が少なく、したがって平版印刷版支持体として極めて良好な性能、商品価値を有している。
【0024】
また請求項3、請求項4の発明の製造方法によれば、上述のような優れた性能、商品価値を有する平版印刷版用アルミニウム合金板を確実かつ安定して得ることができ、またそればかりでなく、熱間圧延後の中間焼鈍を省略することにより、工程数減少、省エネルギにより低コスト化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、この発明について、詳細に説明する。
【0026】
先ずこの発明で用いるアルミニウム合金の成分組成限定理由について説明する。
【0027】
Fe:0.1〜0.5%
Fe量が0.1%未満では、再結晶時の結晶粒径が粗大となって粗面化処理により生成されるピットが不均一となって、粗面化処理後の外観に面質ムラが発生し、外観が不均一となる。一方Fe量が0.5%を越えれば、Al−Fe系、Al−Fe−Si系の粗大化合物が多量に生成されて、粗面化処理後のピットが不均一となり、前記同様に粗面化処理後の外観不均一が生じる。そのためFe量は0.1〜0.5%の範囲とした。なおより好ましくは、Fe量は0.12〜0.29%の範囲内とする。
【0028】
Si:0.01〜0.20%
Si量が0.01%未満では、粗面化処理後のピットが不均一となることから、粗面化処理後に面質ムラが発生し、外観が不均一となる。またSi量が0.20%を越えれば、Al−Fe−Si系の粗大化合物が多量に生成されて、粗面化処理後のピットが不均一となり、粗面化処理後に面質ムラが生じ、外観が不均一となり、さらには、後述する単体Siの析出が生じやすくなるため、非画像部のインク汚れも生じやすくなる。そのためSi量は0.01〜0.20%の範囲内とした。なお好ましくはSi量は0.03〜0.15%の範囲内とする。
【0029】
Cu:0.005〜0.07%
Cuは電解グレーニング性に大きな影響を及ぼす元素である。Cu量が0.005%未満では、粗面化処理後のピットが不均一になり、前記同様に外観不均一となる。一方Cu量が0.07%を越えても粗面化処理後のピットが不均一となり、また粗面化処理後の色調が黒味を帯びすぎて商品価値を損なう。そのためCu量は0.005〜0.07%の範囲内とした。なお、好ましくはCu量は0.005〜0.05%の範囲内とする。
【0030】
Mg:0.10〜0.25%
Mgは再結晶化を促進するとともに、大部分がアルミニウムに固溶して耐熱軟化性を向上させる元素である。またMgは、Mg2Siとして析出するため、単体Si量を減少させる作用も果たす。Mg量が0.10%未満では、これらの効果が充分に得られず、一方Mg量が0.25%を越えれば、粗面化処理後のピットが不均一になり、外観も不均一となる。
【0031】
Zr:0.0005%以上、0.004%未満
Zrは、電解粗面化処理時におけるカソード溶解効率を良好にし、粗面化処理により形成されるエッチピットの微妙な形状差に起因する粗面化面の縞模様の発生を抑制する効果がある。Zr量が0.0005%未満では、この効果を充分に得ることが困難である。一方Zr量が0.004%以上となれば、鋳造および圧延の過程でAl3Zrとして析出するため、ストリークの原因となる。ストリークが発生すれば、粗面化処理後のピットが不均一になり、外観の均一性を損なう。そこでZr量は0.0005%以上、0.004%未満の範囲内とした。なおより好ましいZr量は0.001〜0.003%の範囲内である。
【0032】
Ti:0.003〜0.03%
Tiは電解グレーニング性に大きな影響を及ぼし、またアルミニウム合金鋳塊の組織状態にも大きな影響を及ぼす元素である。Ti量が0.003%未満では、粗面化処理後のピットが不均一になり、また鋳塊の結晶粒が微細化されずに粗大な結晶粒組織になるため、マクロ組織に圧延方向に沿う帯状の筋が発生して、粗面化処理後にも帯状の筋が残存し、平版印刷版用支持体として好ましくなくなる。一方Ti量が0.03%を越えれば、上記効果が飽和するばかりでなく、粗大なAl−Ti系化合物が形成されてその化合物が圧延板に筋状に分布し、その結果陽極酸化皮膜に欠陥が生じ、感光層の欠陥となって、きれいな印刷が困難となる。そのためTi量は0.003〜0.03%の範囲内とした。なおより好ましいTi量は0.005〜0.03%の範囲内である。
【0033】
なおまた、一般にアルミニウム合金板においては、鋳塊結晶組織を微細化して圧延板のキメ、ストリークを防止するため、Tiを微量のBと組合せて添加することがあり、この発明の平版印刷版用アルミニウム合金においても、Tiとともに微量のBを添加することは許容される。但しB量が1ppm未満では、上記の効果が得られず、一方B量が50ppmを越えればBの添加効果が飽和するばかりでなく、粗大なTiB2粒子による線状欠陥が生じやすくなるから、Bを添加する場合のB添加量は、1〜50ppmの範囲内とすることが好ましい。
【0034】
以上の各元素のほかは、基本的にはAlおよび不可避的不純物とすれば良いが、請求項2の発明の平版印刷版用アルミニウム合金板の場合は、前記各元素のほか、さらにMn、Znを含有するものとする。これらの添加理由は次の通りである。
【0035】
Mn:0.001〜0.01%
Mnは電解粗面を均一化する効果があり、この効果を充分に得るためには、0.001%以上のMnを添加する必要がある。一方、Mn量が0.01%を越えれば、Al−Fe−Mn系あるいはAl−Fe−Mn−Si系の粗大化合物が多量に生成されて、粗面化処理後のピットが不均一となる。そのため、Mn量の範囲は0.001〜0.01%とした。
【0036】
Zn:0.001〜0.01%
Znはそのほとんどがアルミニウムマトリックス中に固溶し、アルミニウムマトリックスと金属間化合物との間の電位差を調整し、電解粗面を均一化する効果を示す。Zn量が0.001%未満では、このような電位差調整効果が得られない。一方Zn量が0.01%を越えれば、電解粗面化時に全面溶解面が発生し、不均一な電解粗面が形成される。そのためZn量は0.001〜0.01%の範囲内とした。
【0037】
なお請求項1の発明の平版印刷版用アルミニウム合金板においては、その成分元素としてMn、Znを規定していないが、請求項1の発明の平版印刷版用アルミニウム合金板でも、請求項2で規定するMn量(0.001〜0.01%)、Zn量(0.001〜0.01%)より少ない量のMn、Znを不純物として含有することが許容されることはもちろんである。
【0038】
この発明の平版印刷版用アルミニウム合金板においては、以上のような各成分元素のほか、不可避的不純物を含むのが通常であるが、この不可避的不純物としては、JIS1050相当の不純物量(その他合計で0.05%以下)程度であれば、平版印刷版用アルミニウム合金板としてその特性を損なうことはない。
【0039】
さらにこの発明の平版印刷版用アルミニウム合金板においては、製品板中に含まれる単体Si量が0.02%以下である必要がある。すなわち単体Siは、陽極酸化処理後に陽極酸化皮膜中に残存して皮膜欠陥を形成し、この欠陥が印刷中に非画像部の汚れ発生の起点となり、耐汚れ性を劣化させる原因となる。そのため単体Si量を0.02%以下に規制する必要がある。
【0040】
そしてまたこの発明の平版印刷版用アルミニウム合金板においては、その結晶粒径条件として、表面における圧延方向に対し直角な方向の結晶粒の平均長さが100μm以下の範囲内である必要がある。圧延方向に直角な方向の結晶粒の平均長さが100μmより大きければ、粗面化処理後に面質ムラが発生して、その外観が不均一となる。このような結晶粒径の制御は、後述する熱間圧延条件を制御することにより実施することができる。
【0041】
またこの発明の平版印刷版用アルミニウム合金板においては、その耐熱軟化特性の指標として、500℃で10分間加熱したときの加熱前後の耐力差を基準(基準耐力差)とし、ある温度で10分間熱処理したときの熱処理前後の耐力差が、前述の基準耐力値の1/2となる熱処理温度が240℃以上であることを規定している。すなわち、板を500℃で10分間加熱したときの加熱前の耐力値YSOと加熱後の耐力値YSAとの差(基準耐力差)をΔYSA(=YSO−YSA)とするとともに、その板にある温度で10分間保持する熱処理を行なったときの熱処理前の耐力値YSOと熱処理後の耐力値YSBとの差をΔYSB(=YSO−YSB)として、次の(1)式
ΔYSB≧ΔYSA×1/2 ・・・(1)
が満たされる熱処理温度が240℃以上であることが必要であり、このような条件を満足することにより、バーニング処理を施しても強度低下を実質的に支障ない程度に抑制することが可能となる。上記の式を満たす熱処理温度が240℃未満では、バーニング処理時における強度低下が大きくなり、充分な耐熱軟化特性を有しているとは言えなくなるのである。
【0042】
ここで、前記(1)式を満たす熱処理温度が240℃以上となるように制御することは、マトリックス中に大部分が固溶して耐熱軟化特性を向上させる機能を果たすMg量の範囲を適切に調整し、併せて後述する熱間圧延条件を適切に制御することにより、FeやMgの固溶量を極力減少させないようにすることにより、達成可能である。
【0043】
次にこの発明の製造方法について説明する。
【0044】
まず前述のような成分組成範囲内に調整されたアルミニウム合金溶湯を、DC鋳造法等の常法に従い鋳造し、得られた鋳塊に対して必要に応じて均質化処理を施し、後述するような条件に従って熱間圧延し、その後中間焼鈍を施すことなく、冷間圧延を施して所要の板厚の製品板とする。ここで、均質化処理の条件は、金属間化合物を安定相にするとともに、Fe固溶量を増やし、これにより加熱前後の耐力低下を抑制して、耐熱軟化特性を向上させるため、550℃を越え600℃以下の範囲内の温度で1時間以上(通常は10時間以内)の保持とすることが好ましい。
【0045】
熱間圧延は、その開始温度については、後述するような熱間圧延上り温度が確保できる温度であれば特に限定されないが、通常は400〜550℃とすれば良い。熱間圧延開始後の熱間圧延条件については、上り温度を280〜360℃の範囲内、最終パスでの圧下量を3mm以上、上り板厚を1.0〜4.0mmの範囲内とする必要がある。これらの条件を定めた理由は次の通りである。
【0046】
熱間圧延上り温度:280〜360℃
熱間圧延上り温度が280℃より低温になれば、熱延板断面で再結晶せずに未再結晶組織が残存して、素板強度が高くなり過ぎる。またこの場合、熱延板表面にも未再結晶部分が残存してしまって、粗面化処理後の外観としてストリークスが発生し、外観不均一となるおそれがあり、さらにはFeやMgの析出量が多くなり、その結果としてFeやMgの固溶量も低下し、耐熱軟化性も低下してしまう。一方、熱間圧延上り温度が360℃を越える高温になれば、再結晶粒が粗大化して、この場合も粗面化処理後の外観が不均一になる。したがって適切に再結晶を生起させて外観不均一の発生を防止するとともに適切な強度を得るためには、熱間圧延上り温度を280〜360℃の範囲とする必要がある。なお熱間圧延上り温度は、上記範囲内でも特に290〜350℃の範囲内が好ましい。
【0047】
熱間圧延上り板厚:1.0〜4.0mm
熱間圧延を施して得られた熱延板に対して冷間圧延を施して所定の製品板厚とする際に、熱延板の板厚(熱間圧延上り板厚)が1.0mmより小さい場合、冷間圧延での加工硬化による素板強度の上昇が充分に得られず、強度不足が生じるとともに、所定の耐熱軟化性を得られなくなる。一方熱間圧延上り板厚が4.0mmより大きければ、冷間圧延により所定の製品板厚とする際に、冷間加工による加工硬化によって素板強度が高くなり過ぎてしまい、その場合円筒形版胴に巻き付ける際にアルミニウム合金が切れてしまうおそれがある。
【0048】
熱間圧延での最終圧延パスの圧下量:3mm以上
最終パスの圧下量が3mm未満では、充分な歪を与えることができず、そのため熱間圧延上がりで再結晶させることが困難となり、熱延板表面に未再結晶組織が残存してしまって、粗面化処理後の外観が不均一になる。またこの場合、たとえ再結晶したとしても、粗大な結晶粒が発生して、同様に粗面化処理後の外観が不均一になる。なお熱間圧延最終パスの圧下量の上限は特に限定しないが、10mm以下とすることが好ましい。
【0049】
熱間圧延後は、常法に従ってコイル状に巻取り、その後、焼鈍を施すことなく冷間圧延によって所要の製品板厚に仕上げれば良い。ここで、熱間圧延を行なってコイルに巻上げた状態では、前述のように熱延板の自己保有熱による自己焼鈍によって再結晶が生起されるため、改めて再結晶のための焼鈍を行なう必要がない。また冷間圧延の条件は特に限定されるものではなく、必要な製品板強度や板厚に応じて定めれば良く、通常は圧延率60〜98%で施せば良い。
【0050】
このようにして得られた平版印刷版用アルミニウム合金板(製品板)を実際に平版印刷版支持体とするためには、粗面化等のための表面処理を施す。この表面処理方法は、特に限定されるものではなく、常法に従えば良いが、代表的な表面処理方法について以下に説明する。
【0051】
粗面化のための表面処理方法としては、塩酸または硝酸電解液中で電気化学的に砂目立てする電気化学的粗面化処理方法、およびアルミニウム表面を金属ワイヤーでひっかくワイヤーブラシグレイン法、研磨球と研磨剤でアルミニウム表面を砂目立てするボールグレイン法、ナイロンブラシと研磨剤で表面を粗面化するブラシグレイン法のような機械的粗面化法などを用いることができ、上記いずれの粗面化方法は、単独あるいは組み合わせて用いることもできる。
【0052】
このように粗面化処理したアルミニウム合金板に対しては、さらに粗面化の第2段階として、酸またはアルカリにより化学的にエッチングするのが通常である。酸をエッチング剤として用いる場合は、微細構造を破棄するのに長時間を要するため、工業的に不利となるが、アルカリをエッチング剤として用いることにより改善できる。エッチングのためのアルカリ剤としては、苛性ソーダ、炭酸ソーダ、アルミン酸ソーダ、メタケイ酸ソーダ、リン酸ソーダ、水酸化カリウム、水酸化リチウム等を用いることができ、またその濃度と温度の好ましい範囲はそれぞれ1〜50%、20〜100℃であり、エッチング時のAlの溶解量が5〜20g/m2となるような条件を選択することが好ましい。
【0053】
エッチング後には、表面に残留する汚れ(スマット)を除去するために酸洗浄を行なうのが通常である。酸洗浄に用いる酸としては硝酸、硫酸、リン酸、クロム酸、フッ酸およびホウフッ化水素酸などがある。特に電気化学的粗面化処理後のスマット除去には、好ましくは特開昭53−12739号公報に記載されているような50〜90℃の温度の15〜65重量%の硝酸と接触させる方法、及び特公昭48−28123号公報に記載されているアルカリエッチングする方法がある。
【0054】
以上のようにして処理されたアルミニウム合金板は、平版印刷版用支持体として使用することができるが、通常はさらに陽極酸化処理、苛性処理等の処理を施すことが望ましい。陽極酸化処理は、この分野で従来より行われている方法で行うことができる。具体的には、硫酸、リン酸、クロム酸、シュウ酸、スルファミン酸、ベンゼンスルフォン酸等あるいはこれらの2種以上を組み合わせた水溶液または非水溶液中で、アルミニウム合金板に直流または交流を流すことにより表面に陽極酸化皮膜を形成することができる。陽極酸化の条件は、使用される電解液によって種々変化するから一概には決められないが、一般には、電解液濃度1〜80%、液温5〜70℃、電流密度0.5〜60A/dm2、電圧1〜100V、電解時間10〜100秒の範囲とすることが適当である。
【0055】
以上のようにして得られた平版印刷版用アルミニウム合金板支持体をPS版に仕上げるにあたっては、常法に従って感光層、または中間層と感光層を塗布して乾燥させればよい。
【実施例】
【0056】
表1のNo.1〜No.18に示す各成分組成の合金について、DC鋳造法により厚さ600mmの鋳塊とし、No.17、No.18以外のNo.1〜No.16については、560℃で3時間保持の均質化処理を施した後、450℃で熱間圧延を開始し、表2に示す熱間圧延条件で圧延し、その後中間焼鈍を行なわずに、冷間圧延により最終板厚の0.3mmまで圧延し、製品板(平版印刷版用アルミニウム合金板)とした。また合金No.17については均質化処理を行なわず、また合金No.18については均質化処理を450℃×3時間の条件で行ない、それ以外の条件は上記と同様に処理した。さらに製品板については、熱処理前後の耐力差が前記式(1)を満たす熱処理温度を、次の方法にて測定した。
(1)製品板をJIS5号試験片に加工した後、熱処理なしの試験片、および200℃から500℃まで10℃ごとの各温度に硝石炉にて10分保持する熱処理を施した試験片を用いて、それぞれ引張り試験を行なった。
(2)熱処理なしで測定した耐力の値(YSO)と、500℃×10分の熱処理後に測定した耐力値(YSA)との差をΔYSA(=YSO−YSA)とした。
(3)熱処理なしで測定した耐力値(YSO)と、200〜450℃の範囲内の10℃ごとのそれぞれの温度で10分保持する熱処理後に測定した耐力値(YSB)との差をΔYSB(=YSO−YSB)とした。
(4)ΔYSBとΔYSAと比較し、ΔYSB≧ΔYSA/2となるときの温度を調べた。その温度が(1)式を満たす熱処理温度となる。
【0057】
また製品板について、単体Si量を、特開昭60−82642号公報記載の分析方法にて測定した。
【0058】
さらに、製品板表面において圧延方向に対し直角な方向の結晶粒の平均長さを次のようにして調べた。すなわち、板表面をバーカー法によりエッチングした後、偏光下で顕微鏡観察して25倍写真を撮影し、交線法により求めた。
【0059】
これらの値を表2に示す。
【0060】
さらに前述のようにして得られた各製品板(平版印刷版用アルミニウム合金板)について、アルカリエッチング及びデスマット処理を施した後、極性が交互に交換する電解波形を持つ電源を用いて、1%硝酸中で陽極時電気量が150C/dm2となる電解エッチングにより電解粗面化を行った。これを硫酸浴中にて洗浄した後、以下の(1)〜(3)の要領でストリークス発生の有無、外観の均一性、および耐熱軟化性を評価し、表3中に示した。
(1)ストリークス発生の有無
粗面化処理後の外観について目視で観察し、ストリークスの発生が認められないものを○、発生が確認されるものを×とした。
(2)外観の均一性
粗面化処理後の外観について、製品板コイルの全長にわたって目視により観察し、製品板コイルの全長にわたって粗面が均一なものを○、粗面均一性が劣るものを×とした。
(3)耐熱軟化性
製品板について、前記(1)式を満たす熱処理温度が240℃以上のものを○、240℃未満のものを×とした。
【0061】
さらに、前述のようにして電解粗面化処理を施した後、液温25℃の25%硫酸電解浴にて、電流密度1.5A/dm2の条件で陽極酸化処理を行い、膜厚0.5μmの陽極酸化皮膜を生成させた。陽極酸化処理後の皮膜表面に次のような組成の感光層を、乾燥時の塗布量が2.5g/m2となるように設けた。
【0062】
感光層の組成:
ナフトキノン−1・2−ジアド−5−スルホニルクロライドとピロガロール、アセトン樹脂とのエステル化合物・・・0.75g
クレゾールノホラック樹脂・・・2.00g
オイルブルー#603(オリエント化学製)・・・0.04g
エチレンジクロライド・・・16g
2−メトキシエチルアセテート・・・12g
【0063】
このようにして感光層を形成した平版印刷版について、3kwのメタルハライドランプで1mの距離から60秒画像露光し、ついでSiO2/Na2Oのモル比が1.2でSiO2含有量が1.5%の珪酸ナトリウム水溶液で現像処理し、水洗乾燥後、オフセット輪転機を用いて20万部の印刷試験を行ない、耐汚れ性(非画像部のインク汚れ性)を、次のように評価して、表3中に示した。すなわち、印刷機にて20万部印刷後、非画像部の汚れを調べ、汚れがなく良好なものを○、若干汚れがあったものを△、汚れが多発したものを×とした。
【0064】
【表1】

【0065】
【表2】

【0066】
【表3】

【0067】
表3に示すように、この発明の範囲内のNo.1〜No.7の例では、いずれもストリークの発生がなく、粗面の均一性が良好で、また耐汚れ性、耐熱軟化性にも優れていることが判明した。
【0068】
一方、No.8〜No.18の比較例では、いずれか一つ以上の性能が劣っていた。
【0069】
すなわち、No.8の例では、熱間圧延上り温度が低いため、板表面に加工組織が残存しストリークが発生し、またMgの含有量が多いこともあって、粗面化面の均一性が劣ってしまった。
【0070】
またNo.9の例では、Fe含有量が少なく、かつ熱間圧延上り温度が高めに外れるとともに、熱間圧延最終パス圧下量が小さいため、再結晶粒が粒成長して粒径が大きくなり、さらにZr含有量が少ないため、粗面化処理面に縞模様が発生し、粗面化面の均一性が劣ってしまった。
【0071】
さらにNo.10の例では、Si含有量が多くかつMg含有量が少ないため、単体Siが多量に析出して、耐汚れ性が劣るとともに、Al−Fe−Si系の粗大な金属間化合物が生成され、粗面化面の均一性が劣ってしまった。またMg含有量が少ないため、耐熱軟化性が劣ってしまった。
【0072】
またNo.11の例では、Fe含有量多くてSi含有量が少なく、かつ熱間圧延最終パスでの圧下量が少なかったため、充分な歪が与えられず、その結果結晶粒が粗大となって、粗面化面の均一性が劣ってしまった。また熱間圧延上り板厚が薄いため、充分な耐熱軟化性が得られなかった。
【0073】
No.12の例では、CuおよびMnの含有量が多いため、粗面化面の均一性が劣った。また、熱間圧延上り板厚が厚いために冷間圧延で結晶粒が延ばされてストリークが発生した。加えてMg含有量が多いため、素板強度が高くなり過ぎて、円筒形版胴に巻き付けた際に板が切れてしまった。
【0074】
No.13の例では、Cu添加量が少なくTi含有量が多いため、粗面化面の均一性が劣った。また熱間圧延上り温度が低いため、板表面に加工組織が残存して、ストリークスが発生した。
【0075】
No.14の例では、Mg含有量が少ないため、単体Siが多量に析出し、その結果耐汚れ性が劣るとともに、耐熱軟化性も劣った。またZr含有量が多いため、Al3Zrが析出して、ストリークが発生した。さらにZn含有量が多いため、電解粗面化処理時に全面溶解が生じてしまって、粗面化面の均一性が劣ってしまった。
【0076】
No.15の例では、Si含有量が多いため、単体Siが多量に析出し、その結果耐汚れ性が劣ってしまった。またZr含有量が多いためにAl3Zrが析出したことと、Ti含有量が少なくて鋳塊組織を充分に微細化することができずにフェザー組織が残存したこととが相俟って、ストリークが発生した。またFe含有量が少ないために再結晶粒径が大きくなったことと、Si含有量が多くてAl−Fe−Si系の粗大な金属間化合物が生成されたこととが相俟って、粗面化面の均一性が劣ってしまった。なおMn含有量が多いことにより電解粗面化処理時に全面溶解が起こったことも、粗面化面の均一性が劣る原因であった。
【0077】
No.16の例では、Si含有量が多いために単体Siが多量に析出し、その結果耐汚れ性が劣った。またZr含有量が多くてAl3Zrが析出したため、ストリークが発生した。さらに熱間圧延上り温度が高めに外れたため、再結晶粒が粒成長して結晶粒径が大きくなり、そのため粗面化面の均一性が劣った。
【0078】
No.17の例では、Cu含有量が少なく、Ti含有量が多いため、粗面化面の均一性に劣り、また熱間圧延上り温度が低いため、板表面に加工組織が存在して、ストリークが発生した。
【0079】
No.18の例でも、Cu含有量が少なく、Ti含有量が多いため、粗面化面の均一性に劣り、さらに均質化処理温度が低いため、Fe固溶量が少なくなり、その結果耐熱軟化性が劣ってしまった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe0.1〜0.5%(mass%、以下同じ)、Si0.01〜0.20%、Cu0.005〜0.07%、Mg0.10〜0.25%、Ti0.003〜0.03%、Zr0.0005%以上、0.004%未満を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物よりなるアルミニウム合金板であって、かつその板における単体Si量が0.02%以下であり、また圧延方向に対し直角な方向の結晶粒の平均長さが100μm以下であり、しかもその板を500℃で10分間加熱したときの加熱前の耐力値YSOと加熱後の耐力値YSAとの差をΔYSA(=YSO−YSA)とするとともに、その板にある温度で10分間保持する熱処理を行なったときの熱処理前の耐力値YSOと熱処理後の耐力値YSBとの差をΔYSB(=YSO−YSB)として、下記(1)式が満たされる熱処理温度が240℃以上であることを特徴とする、平版印刷版用アルミニウム合金板。
ΔYSB≧ΔYSA×1/2 ・・・(1)
【請求項2】
Fe0.1〜0.5%、Si0.01〜0.20%、Cu0.005〜0.07%、Mg0.10〜0.25%、Ti0.003〜0.03%、Zr0.0005%以上、0.004%未満、Mn0.001〜0.01%、Zn0.001〜0.01%を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物よりなるアルミニウム合金板であって、かつその板における単体Si量が0.02%以下であり、また圧延方向に対し直角な方向の結晶粒の平均長さが100μm以下であり、しかもその板を500℃で10分間加熱したときの加熱前の耐力値YSOと加熱後の耐力値YSAとの差をΔYSA(=YSO−YSA)とするとともに、その板にある温度で10分間保持する熱処理を行なったときの熱処理前の耐力値YSOと熱処理後の耐力値YSBとの差をΔYSB(=YSO−YSB)として、下記(1)式が満たされる熱処理温度が240℃以上であることを特徴とする、平版印刷版用アルミニウム合金板。
ΔYSB≧ΔYSA×1/2 ・・・(1)
【請求項3】
Fe0.1〜0.5%、Si0.01〜0.20%、Cu0.005〜0.07%、Mg0.10〜0.25%、Ti0.003〜0.03%、Zr0.0005%以上、0.004%未満を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物よりなるアルミニウム合金を素材とし、鋳塊に対して熱間圧延を施すにあたり、最終圧延パスにおける圧下量が3mm以上、熱間圧延上り温度が280〜360℃の範囲内、熱間圧延上り板厚が1.0〜4.0mmの範囲内となるように制御し、得られた熱延板に対し、その後中間焼鈍を施すことなく製品板厚まで冷間圧延して、圧延方向に対し直角な方向の結晶粒の平均長さが100μm以下でかつ単体Si量が0.02%以下であり、しかも500℃で10分間加熱したときの加熱前の耐力値YSOと加熱後の耐力値YSAとの差をΔYSA(=YSO−YSA)とするとともに、その板にある温度で10分間保持する熱処理を行なったときの熱処理前の耐力値YSOと熱処理後の耐力値YSBとの差をΔYSB(=YSO−YSB)として、下記(1)式が満たされる熱処理温度が240℃以上であることを特徴とする、平版印刷版用アルミニウム合金板の製造方法。
ΔYSB≧ΔYSA×1/2 ・・・(1)
【請求項4】
Fe0.1〜0.5%、Si0.01〜0.20%、Cu0.005〜0.07%、Mg0.10〜0.25%、Ti0.003〜0.03%、Zr0.0005%以上、0.004%未満、Mn0.001〜0.01%、Zn0.001〜0.01%を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物よりなるアルミニウム合金を素材とし、鋳塊に対して熱間圧延を施すにあたり、最終圧延パスにおける圧下量が3mm以上、熱間圧延上り温度が280〜360℃の範囲内、熱間圧延上り板厚が1.0〜4.0mmの範囲内となるように制御し、得られた熱延板に対し、その後中間焼鈍を施すことなく製品板厚まで冷間圧延して、圧延方向に対し直角な方向の結晶粒の平均長さが100μm以下でかつ単体Si量が0.02%以下であり、しかも500℃で10分間加熱したときの加熱前の耐力値YSOと加熱後の耐力値YSAとの差をΔYSA(=YSO−YSA)とするとともに、その板にある温度で10分間保持する熱処理を行なったときの熱処理前の耐力値YSOと熱処理後の耐力値YSBとの差をΔYSB(=YSO−YSB)として、下記(1)式が満たされる熱処理温度が240℃以上であることを特徴とする、平版印刷版用アルミニウム合金板の製造方法。
ΔYSB≧ΔYSA×1/2 ・・・(1)

【公開番号】特開2009−30129(P2009−30129A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−196879(P2007−196879)
【出願日】平成19年7月30日(2007.7.30)
【出願人】(000107538)古河スカイ株式会社 (572)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】