説明

平膜孔拡散分離方法およびその装置

【課題】
温和な条件下で物質を分離精製する方法として、分子および粒子の拡散を利用した膜分離方法およびそれを可能にする取り扱いが簡便で組み立て再利用が可能な装置を提供する。

【解決手段】分子および粒子の拡散速度の差を主に利用した物質の分離方法において、複数枚積層された多層構造を持つ多孔性平膜を、角隅に4つの孔をもつ平板支持体あるいは支持枠で挟み、支持体と平膜、あるいは平膜と平膜の間に形成される深さが0.1mm乃至10mmの流路を、原液および拡散液を平膜平面に対し平行に流すことで、指定された膜間差圧下で分離対象物質を原液から拡散液へ選択的に移動させ分離する。該方法を実現する分離装置は、複数枚積層された平膜、1乃至2種類の平板支持体あるいは支持枠、該平膜へ付加される圧力側と該支持体あるいは支持枠の間に挿入される膜支持体で構成され、場合により原液および拡散液の流れを形成させる部品を加えた部材で構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】

本発明は温和な条件下で行う、分子および粒子の拡散の速度差を主に利用した物質の孔拡散による分離法、および該分離法に膜間差圧によるろ過を併用した孔拡散ろ過による分離法に関する。詳しくは複数枚積層した多層構造を持つ多孔性平膜中の孔を介した物質の拡散現象を利用した物質分離精製方法であり、特定の粒径を持つ分子あるいは粒子、たとえば有用な高分子、生理活性物質の分離精製および、有害性微粒子、感染性微生物等の高度な除去を実現する方法、およびその分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】

平膜を利用した分離技術および分離装置としては主なものとして逆浸透膜を使用したろ過分離技術および限外ろ過膜を使用したろ過膜モジュールがある。たとえば平板型のろ過膜モジュールとしては膜を硬質の支持体に設置し、ろ過液を集水する流路を持った次のような装置がある。特開平11-216341平板型膜モジュール、および特開平10-180052 膜分離装置。また、流路を支持体に組み合わせ、トンネル状に連結させたものとしては次のような装置がある。特開2007-268388 膜カートリッジおよび浸漬型膜分離装置、および特開平07-096148 分離膜装置。これらは流路を流れる溶液に圧力をかけてろ過する、いわゆる加圧式ろ過膜モジュールである。
【0003】

平膜を用い、かつ分子および粒子の拡散の速度差を主に利用した物質の分離技術に関しては次のような方法および装置がある。特開2008-260001大きさが15nm以下の微粒子の膜隔離膜除去および膜濃縮方法、および特開2005-349268多孔性平膜の拡散現象を利用した物質分離精製方法。
【0004】

拡散とは分子および粒子のブラウン運動や濃度勾配を駆動力とした物質移動を意味し、孔拡散とは多孔膜中の孔を介した拡散が主である拡散を意味する。従来の膜中での物質の拡散は膜を構成する素材の基質部を介した拡散で、一般に溶解拡散と定義されている拡散である。孔拡散と溶解拡散との区別は拡散の見掛けの活性化エネルギーを測定すればよい。前者の拡散の場合、該エネルギーは0〜4kcal/mol、後者は8〜50kcal/molの値を示す。また孔拡散ろ過とは、孔拡散による分離行程において膜間差圧が生じるように溶液に静圧をかけ、大きな目詰まりが生じないように孔拡散とろ過を組み合わせた分離法である。孔拡散が実現するには孔の大きさが分子径の5倍以上であることが必要である。
【0005】

従来から利用されている拡散は、膜の素材である高分子基質内に物質が溶解し、溶解後膜中を拡散するいわゆる溶解拡散機構での移動である。この機構での拡散係数は約10-10cm2/秒である。そのため産業的には利用しにくいほど遅い速度である。これに対して孔拡散では拡散係数は約10-6cm2/秒であり、濾過速度のほぼ1/10であり、産業的に利用可能な値となる。
【0006】

定常孔拡散法とは膜中の孔を介した拡散において、膜表面と膜裏面との物質の濃度の差が時間的にほぼ一定に保たれる拡散を意味する。従来より透析等で利用される拡散ではこの濃度差の時間変化が起こり拡散速度は経時的に減少し定常状態は達成できない。定常状態を保つためには、原液および拡散液を平膜平面に沿って平行に、かつ一定速度で流す必要がある。この際、濾過による物質移動を起こりにくくするために、流す方向は両者同一方向の設定することが望ましい。被拡散液の膜表面におけるひずみ速度は1秒-1以上であれば膜表面における物質の堆積を防止できる。ひずみ速度の極端な増加は被拡散液中の生理活性物質の不活化をもたらすのでひずみ速度は被拡散液の組成に依存した最適値が存在する。定常孔拡散は孔拡散法の典型的な特性を知るために不可欠な条件ではあるが、実用的な孔拡散法では必ずしも定常的である必要はない。
【0007】

なお小さな駒形支持体に膜を組み合わせたろ過モジュールとしては、特開平01-107804がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】

【特許文献1】特開2008-260001大きさが15nm以下の微粒子の膜隔離膜除去および膜濃縮方法
【特許文献2】特開2005-349268多孔性平膜の拡散現象を利用した物質分離精製方法
【特許文献3】特開2007-268388 膜カートリッジおよび浸漬型膜分離装置 クボタ
【特許文献4】特開平11-216341平板型膜モジュール ユアサ
【特許文献5】特開平10-180052 膜分離装置 イナックス
【特許文献6】特開平07-096148 分離膜装置 ダウケミカル
【特許文献7】特開平01-107804フィルターカードリッジ 富士フィルム
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
平膜による分離は一般にろ過によって実施される。濾過速度は膜間差圧と正の相関性があるため膜間差圧を大きくしてろ過分離が行われる。しかし膜間差圧を高めると膜表面に次第に分離対象物質が堆積し、目詰まりが起り、濾過速度の減少と回収率の低下が起きる。さらに分離すべき分子の大きさが小さくなると、平膜の平均孔径は小さくなり、それに伴ってろ過速度、濾過量が小さくなる課題があった。
【0010】
こうした加圧によるろ過分離の場合、大きな膜間差圧に耐えるために中空糸膜にするかあるいは平膜の場合には支持体を用いることが多い。平膜の場合、高い内圧に耐えるため、支持体は頑強でなければならず、その構造も複雑になるという課題があった。例えば特開2007-268388公報「膜カートリッジおよび浸漬型膜分離装置」では流路としてトンネル構造を支持体に設けているが、支持体を厚くすることで該トンネル構造を可能にしている。また、特開平07-096148公報「分離膜装置」では円筒型にすることである程度の小型化を達成しているが、構造が複雑で分解できない課題が残っている。特開平01-107804公報「フィルターカードリッジ」においても加圧に耐えるために複雑な形状となっている。
【0011】
支持体のサイズを大きくした場合は、内圧による影響から支持体に加わるひずみも大きくなり、工業的規模ではほとんど用いられていなかった。また流量を確保するためにも加圧エネルギーが必要で、内圧を分散させ、流れを円滑に行うためには流路の深さを十分にとる必要があり、これらの結果、処理容量に比較して装置が大きくなってしまう課題があった。
【0012】
大きな加圧力を前提とした分離装置の場合、平膜を挟んだ支持体からの液漏れも大きな課題であり、支持体の形状が複雑にならざるをえなかった。そのため装置は、それぞれの部材が接着あるいは一体化されている、もしくは簡単に分解することのできない複雑な形状になっており、運搬、設置、支持体や液流入出口コネクタの洗浄、消耗部品や平膜の取替えが容易ではなく、サニタリー性の確保が困難であった。例えば、特開平11-216341公報「平板型膜モジュール」は加圧による液漏れを防ぐために樹脂で硬い支持体を固めている。また、特開平10-180052 公報「膜分離装置」では、流路用部品は組み立て式であるが、平膜と支持体はやはり接着されている。
そのため食品分野では平膜を利用した分離装置の実用化は不可能と考えられた。
【0013】
大きな加圧力をかけるためには、流路もある程度深くする必要があった。流路を小さくすると入口付近での圧力損失が大きく、出口付近における圧力が小さくなるためである。しかし平膜への接触機会を増やす観点からは、できるだけ流路は浅くしなければならず、こうした構造的課題も抱えていた。
【0014】
平膜の場合、処理面積の確保が困難である課題も有している。処理量を大きくするためには平膜を積層させて使用する以外にないが、従来、平膜状のモジュールでは装置の単位容積当たりに得られる膜面積が少なく、その構造が複雑な支持体を必要とするという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0015】
分離用平膜に生じる目詰まりを解決するため、孔拡散法あるいは孔拡散ろ過法を採用する。この孔拡散あるいは孔拡散ろ過は次のような特徴を持つ。すなわち(1)平膜の目詰まりが起こりにくい,(2)拡散速度の差に基づき孔径より小さな物質の分離精製が可能,(3)孔内での体積流がないことによる分離処理中での力学的孔破壊がない,(4)ろ過で中心となるふるい効果がほぼそのまま起こる、(5)湿潤状態で膨張する。以上のような特徴を保持しつつ、拡散のもつ欠点すなわち物質移動速度が遅い、及び拡散液中の物質濃度が低い欠点も解消できる。従来から利用されている拡散は、膜の素材である高分子基質内に物質が溶解し、溶解後膜中を拡散するいわゆる溶解拡散機構での移動である。この機構での拡散係数は約10-10 cm2/秒である。そのため産業的には利用しにくいほど遅い速度である。これに対して孔拡散では拡散係数は約10-6 cm2/秒であり、これはろ過速度のほぼ1/10であり、産業的に利用可能な値となる。
【0016】
上記孔拡散法あるいは孔拡散ろ過法を採用することで、大きな加圧が不要となり、減圧下、あるいは低圧下で分離を行うことができる。そのため、膜の支持体は必要以上に頑強である必要はなく、また場合によっては平膜平面自体を支える支持体は一切不要となり、たとえば膜の周辺を支えるだけの額縁状の支持枠だけでもよい。また支持体あるいは支持枠の形状も必要以上に複雑にする必要はなく、1乃至2種類の単純な構造にすることができる。
【0017】
また、大きな加圧エネルギーが不要となることから、流路も浅くすることができるようになる。流路を浅くできることで、溶液の平膜への接触機会も増え、従来のような流路の深い分離装置に比べ、分離効率が向上する。
【0018】
接着による装置の組み立てや一体化も不要となり、支持体あるいは支持枠と膜は、Oリングなどで挟むことで装置とすることができる。従って、支持体の分解、洗浄、平膜の交換が簡便に行うことができる。また最も液漏れが心配される流路部分については、流路形成用部品を別途設計することで問題を解決することができる。
【0019】
湿潤状態時に平膜が膨張する特性を生かし、従来と同じ支持体面積で、120%以上の処理面積を持つことができる手法を提案する。すなわち、立体形状の膜支持体を使用し、膨張時にはその膜支持体に沿って膜が膨張し、その結果生じる隙間が流路となる。本発明ではこの問題点を克服するため、多孔性平膜が湿潤状態で膨張する特性を生かし、波型など立体形状の膜支持体に沿って膨張させることで、処理面積を最大20%増やすことができることを発見した。
【0020】
流体を流路に対し均一に流す簡便な手法も提案する。すなわち平板支持体あるいは支持枠の流路端部に、流路へ均等に溶液を流すためのスリットを設けることで、装置を複雑にすることなく、かつ溶液の出入り口を増やすこともなく、流路へ均一に溶液を流すことが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明を採用することにより、有用な高分子、生理活性物質、有害性微粒子、感染性微生物等を分離、除去あるいは精製することが可能となる。熱的、力学的、化学的に不安定な物質の分離精製には膜分離が最適であると考えられていたが、工業的には膜分離には前述のような多くの障害がある。本発明では拡散の持つ最大の欠点であった分離速度の小さい点を改善し、孔拡散を利用することにより、広い分子量範囲(粒子径範囲)での分離回収が可能となる。かつ、複雑になりがちであった分離装置も、孔拡散法あるいは孔拡散ろ過法に適した、かつ単純で操作が簡便な装置を発明することで、膜の再生が容易であり、目詰まりがなく繰り返し使用できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】平板支持体、多孔性平膜、膜支持体の組み立て模式図
【図2】平板支持体を積層した際の断面図
【図3】多孔性平膜を挟んだ支持枠と、膜支持体の組み立て模式図
【図4】流路形成部品拡大図と、流路形成用部品を組み込む平板支持体拡大図
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明で使用する平膜は、孔拡散あるいは孔拡散ろ過分離が可能な孔特性を持つ分離膜のことであって、平均孔径5nm以上1.5μm以下、望ましくは平均孔径10nm〜200nmで、空孔率40%以上90%以下、膜厚1μm以上1mm未満の親水性高分子である再生セルロース膜で、膜の再生の容易さと、目詰まりの起こりにくさが特徴である。平均孔径が2nm未満であれば溶解・拡散機構による寄与が大きく、拡散係数が小さくなりすぎる。空孔率の上限は90%以下であり、これを超えると膜の力学的性質の低下が著しく、ピンホールなど欠陥の発生確率も高くなる。膜厚は望ましくは30μm以上で、膜厚を厚くすることで膜の強度、取り扱いやすさが増し、ピンホールの発生が減少する点から微生物除去にも効果的である。
【0024】
平均孔径は「粘度・膜厚・濾過速度/膜間差圧・空孔率」の平方根で与えられる。ここで濾過速度は一平方メートル当りの純水の濾過速度でml/minの単位で測定され、膜厚はミクロン単位、粘度はセンチポイズ、膜間差圧はmmHg単位で、空孔率は無次元単位である。この際の平均孔径はnm単位となる。空孔率は「1−膜の密度/素材高分子の密度」で与えられる。膜の密度は「膜の重量/膜の面積*膜の厚さ」で算出される。素材高分子の密度は空孔率0%の時の膜の密度で、これはすでに文献で与えられている。多層構造膜とは膜の断面方向から電子顕微鏡で観察すると10〜1000nmの厚さの層が認められ、膜の表面からの観察では網目状または粒子間の隙間が孔として、また粒子相互は融着した様子が観察される膜である
【0025】
多層構造を持つ多孔性平膜とは、フィールドエミッション型走査型電子顕微鏡によって膜中に孔の存在が認められる膜で平均孔径2nm以上、空孔率が40%以上で、200乃至500層以上に積層された膜を意味する。
【0026】
原液とは分離対象分子あるいは粒子を含む溶液であり、拡散液とは、該分離対象分子あるいは粒子を拡散させる溶液のことである。
【0027】
本発明で使用する平膜は新水性素材で製膜法として湿式または乾式のミクロ相分離法で作製される。例えば銅安法再生セルロース平膜は親水性素材として最適であるが膜厚を100μm以上にまた平均孔径を100nm以上にするのが難しい。該膜の製法は特公昭62−044019号及び特公昭62−044017号と特公昭62−044018号に与えられている。再生セルロース製の平膜の製法として多孔性アセテート膜を作成しこれを0.1規定の苛性ソーダでケン化処理することによって作製できる。アセテート膜の製法は上出健二,真鍋征一,松井敏彦,坂本富男,梶田修司,高分子論文集,34巻3号205頁〜216頁(1977年)に与えられている。この方法により0.01〜数ミクロンの平均孔径を持つ多孔性膜が得られ、膜厚は20〜数mmまで可能である。
【0028】
得られた多孔性平膜1を図1および図3に示すような平板支持体2、支持枠3で挟み、固定する。該平膜は複数の多層構造膜を重ね合わせた膜がピンホール発生を防止するためには望ましい。
【0029】
平板支持体2あるいは支持枠3は、角隅に4つの孔を持ち、それぞれ原液および拡散液の出入り口となる。それぞれの場所は特定されるべきものではないが、平板支持体2のように、望ましくは流路10に向かって右下が原液入口4、左上が原液出口5、左下が拡散液入口6、右上が拡散液出口7となる。こうすることで溶液は対角線上に流れ、膜との接触時間を長時間保持することができる。
【0030】
また、一方で、溶液入口から横方向に流れ形成スリット14を設置した場合は、支持枠3のように、流路10に向かって左下が原液入口4、左上が原液出口5、右下が拡散液入口6、右上が拡散液出口7となる。この場合は、1種類の支持枠あるいは平板支持体のみでモジュールを組み立てることができる。
【0031】
それぞれの孔4,5,6,7は、層によって流路10につながる小さな流路を有し、平板支持体2あるいは支持枠3を積層した場合に、連結されたトンネル孔9を形成する。孔4,5,6,7の周りには、トンネル孔9を形成した際の液漏れを防ぐためOリング12が設置される。
【0032】
平板支持体2の表面には流路10が彫りこまれており、流れを形成するためのスリットを設ける。流路の深さは0.1mm乃至10.0mmであり、望ましくは0.5mm乃至5.0mmとする。
【0033】
平板支持体2の場合は図2のように二つの平板支持体で多孔性平膜1を挟み、固定する。支持枠3は二つのパーツ、支持枠3(a)と支持枠3(b)で挟み、固定する。固定する際には、接着してもよいし、接着しなくてもよい。望ましくは接着せずに、Oリング12で挟み、固定する。接着しない場合は積層した平板支持体あるいは支持枠を両側からバインダー器具13等で挟み、固定する。接着しない方が分解、洗浄、平膜の交換などが簡便に行うことができる。
【0034】
支持枠3を積層する際には、同じ種類の支持枠を180度回転させて積層することで、原液と拡散液の出入り口を交互に配することができる。従って支持枠3は1種類のみで良い。場合によりバインダー器具13を用意して、積層した支持枠3を挟み、固定する。
【0035】
平板支持体2で多孔性平膜1を挟む際に、図2のように膜支持体8を平膜の両側、あるいは片側に配置し、同時に挟む。これは平板支持体2と多孔性平膜1との間に形成される流路深さが著しく小さくなることを防ぐためのものである。
【0036】
膜支持体8は、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタラート、ナイロン、フッ素系樹脂などの樹脂製か、あるいは金属製の織物、編物あるいは不織布などが使用される。
【0037】
支持枠3の場合は、多孔性平膜1を挟んだ支持枠3を積層する際に、膜支持体8のみを挟む。この場合、膜支持体8が立体形状を有することで、多孔性平膜1が湿潤状態で膨張する際に立体形状に沿って膨張し、自ら流路を形成する。
【0038】
孔4,5,6,7は使用する材料によっては加工が難しく、場合により小さなパーツに分離する必要が生じる。そのため図4に示すような流路形成用部品11を作成することを提案する。流路形成用部品11はその形状を特定されるものではないが、望ましくは図4に示すような円形で、Oリング12を設置でき、流路10に通ずる小さな流路を形成できるものである。これにより、平板支持体あるいは支持枠のコストを低減でき、また、たとえばあらかじめ膜を流路形成用部品11に強固に接着することで、より確実に局所的な液漏れを防ぐことができ、かつ組み立てが容易になる。
【0039】
以上のような特徴を有する平板支持体2あるいは支持枠3で、多孔性平膜1および膜支持体8を、望ましくは接着せずに挟み、それぞれの溶液出入り口孔4,5,6,7に溶液を供給、排出するためのホースをつなぎ、原液および拡散液を流通させる。この際の溶液にかける圧力は特定されるものではないが、望ましくは原液側に大気圧以上を、拡散液側に大気圧以上をかけ、膜間差圧を生じさせて、孔拡散分離、あるいは孔拡散ろ過分離を行う。
【0040】
分離を行った後は、装置をオートクレーブ処理などで滅菌処理したり、装置内に蒸気を通して滅菌したり、あるいは乾燥空気を通し、膜を乾燥させることができる。
【0041】
積層した平板支持体2あるいは支持枠3は分解して、洗浄、膜交換などを行うことができる。特に支持枠3は分解後、平膜3を挟んだまま個別に乾燥させることができる。
【0042】
以上の手順で組み立てた分離装置に、原液と拡散液との静圧の差が該平膜の平均孔径によって指定される圧力以下となるように液を供給する。該静圧の差△Pは数式(1)で与えられる。「 △P≦kdDη/r2 」(1)ここでdは膜厚、Dは微粒子の拡散係数、ηは分離対象とする液体の粘度rは平均孔径、kは膜の孔構造を反映した定数で非多層構造膜では4000、多層構造膜では2×10である。
【実施例1】
【0043】
ミクロ相分離法によって平均孔径10nm、空孔率62%、膜厚160ミクロンのアセテート膜(酢化度54.2%)を作製し、これを30℃の0.1N苛性ソーダ水溶液に48時間浸漬して再生セルロース多孔性膜を得た(平均孔径23nm,空孔率83%,膜厚58ミクロン)。
【0044】
この多孔性平膜1と、ポリプロピレン製膜支持体8を、平板支持体2で挟み、6層の積層型分離装置を作製した。
【0045】
原液としてアルブミンを含む溶液を使用し、拡散液としてRO水を使用し、該分離装置の透過性能試験を行った。分離装置内に1時間原液および拡散液を循環させ、1時間後に拡散液出口から排出された拡散液のアルブミン濃度を測定した。アルブミン濃度分析は、吸光度測定により行い、濃度は初期濃度の9割以上であった。
【0046】
また原液に水酸化鉄コロイド溶液(コロイド粒径20nm)を使用し、拡散液としてRO水を使用して、除去性能試験を行った。分離装置内に1時間原液および拡散液を循環させ、1時間後に拡散液出口から排出された拡散液の水酸化鉄コロイド濃度を測定した。水酸化鉄コロイド濃度分析は、KSCN法により鉄(III)イオンの濃度を測定することによって行った。測定の結果、除去率は対数除去率で3.5であった。残存する水酸化鉄コロイド粒子は還元剤により系外へ除去した。
【0047】
一連の試験の結果、液漏れは一切発生しなかった。試験後、オートクレーブによる滅菌処理の後、エタノールで水を置換し、乾燥空気を装置内に吹き込み、装置を乾燥させて、試験を終了した。
【実施例2】
【0048】
ミクロ相分離法によって平均孔径10nm、空孔率62%、膜厚160ミクロンのアセテート膜(酢化度54.2%)を作製し、これを30℃の0.1N苛性ソーダ水溶液に48時間浸漬して再生セルロース多孔性膜を得た(平均孔径23nm,空孔率83%,膜厚58ミクロン)。
【0049】
この多孔性平膜1を、支持枠3(a)および(b)で挟んだ後、複数の支持枠3でポリプロピレン製膜支持体8を挟み、6層の積層型分離装置を作製した。
【0050】
原液としてアルブミンを含む溶液を使用し、拡散液としてRO水を使用し、該分離装置の透過性能試験を行った。分離装置内に1時間原液および拡散液を循環させ、1時間後に拡散液出口から排出された拡散液のアルブミン濃度を測定した。アルブミン濃度分析は、吸光度測定により行い、濃度は初期濃度の9割以上であった。
【0051】
また原液に水酸化鉄コロイド溶液(コロイド粒径20nm)を使用し、拡散液としてRO水を使用して、透過性能試験を行った。分離装置内に1時間原液および拡散液を循環させ、1時間後に拡散液出口から排出された拡散液の水酸化鉄コロイド濃度を測定した。水酸化鉄コロイド濃度分析は、KSCN法により鉄(III)イオンの濃度を測定することによって行った。測定の結果、除去率は対数除去率で3.5であった。残存する水酸化鉄コロイド粒子は還元剤により系外へ除去した。
【0052】
一連の試験の結果、液漏れは一切発生しなかった。試験後、装置を分解し、多孔性平膜1を挟んだままの支持枠3をオートクレーブにより滅菌処理の後、エタノールで水を置換し、その後支持枠3を乾燥機内で乾燥させて、試験を終了した。
【産業上の利用可能性】
【0053】
温和な条件下で分離、精製が求められる産業(例、製薬産業、食品産業)、特にタンパク質などの生理活性を持つ物質の分離、精製に本発明は利用できる。また、コロイド系を取り扱う工業においてコロイド粒子を含めて特定の微粒子を精製、分離する方法として工業的プロセスに組み込むことが出来る。また医療用、環境用として、ウイルスや細菌、重金属類などの有害物質、有害性微粒子の除去にも用いられる。
【符号の説明】
【0054】
1,多孔性平膜
2,平板支持体
3,支持枠
4,原液入口
5,原液出口
6,拡散液入口
7,拡散液出口
8,膜支持体
9,トンネル孔
10,流路
11,流路形成用部品
12,Oリング
13,バインダー器具
14,流れ形成スリット


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚積層された多層構造を持つ多孔性平膜を用い、分子および粒子の拡散速度の差を主に利用した孔拡散法あるいは孔拡散ろ過法で物質を分離する方法において、原液および拡散液それぞれの出入り口を少なくとも合計して4個有する平板支持体あるいは支持枠で該平膜を挟み、各液が多孔性平膜を挟んで膜平面に対し平行に流れ、かつ原液と拡散液との静圧の差が該平膜の平均孔径によって指定される圧力以下であることを特徴とする分離方法、および該方法を実現する装置として、該平膜、原液および拡散液の出入り口となる4個以上の孔と流路を持つ複数枚の平板支持体あるいは支持枠、膜支持体で構成され、原液の流れる該出入り口孔は平板支持体あるいは支持枠の流路の片側にのみ連結し、かつ拡散液の出入り口孔は該平板支持体の流路の他方側のみに連結していることを特徴とする分離装置。

【請求項2】
請求項1において、平板支持体あるいは支持枠を積層した場合、請求項1に記載の出入り口孔が連結され膜平面に対し直交するトンネル孔を形成し原液および拡散液が別々の層に流れ、かつ平板支持体と平膜、あるいは平膜と平膜の間に形成される流路の深さが0.1mm乃至10mmとなることを特徴とする分離方法、およびそうした流通を実現するための各液室へ通じるトンネル孔を有する平板支持体あるいは支持枠で構成される分離装置。

【請求項3】
請求項1,2において、再生セルロース製の多孔質平膜の平均孔径が5nm以上1500nm以下であり、また膜支持体が樹脂製あるいは金属製の織物か編物や不織布、あるいは再生セルロース製不織布であり、原液が通る流路の静圧が大気圧以上になるように、また拡散液が通る流路の静圧が大気圧以下になるように液を流し、膜間差圧を利用して物質を孔拡散分離することを特徴とする分離方法およびその装置。

【請求項4】
請求項1,2,3において、請求項2に記載の流通を実現するため、平板支持体あるいは支持枠を積層した場合に形成されるトンネル孔から各流路へ通じる小さな流路を有する下記の流路形成用部品を用いることを特徴とする分離方法およびその装置。
流路形成用部品とは、請求項1に記載の平板支持体あるいは支持枠が有する出入り口孔に取り付ける小さな部品であり、各液室へ通じる小さな流路を有する。

【請求項5】
請求項1,2,3において、該膜支持体が波型等の立体形状を有し、再生セルロース製の多孔質平膜が湿潤状態となった際に該立体形状に沿って膨張し、自ら流路を形成することを特徴とする分離方法および分離装置。

【請求項6】
請求項1,2,3,4,5において、請求項2に記載の流通を実現するため、平板支持体あるいは支持枠に、請求項1に記載の液出入り口孔から流出入する液体を液室内で均等に分離するためにスリットを形成することを特徴とする分離方法および分離装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−269258(P2010−269258A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−123868(P2009−123868)
【出願日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(307002932)株式会社セパシグマ (23)
【Fターム(参考)】