説明

平衡反応の収率を増加させるための方法およびシステム

【課題】少なくとも一部にはその甘味特性ゆえ、モナチンの経済的な供給元を手にすることが望ましい。したがって、モナチンの合成経路など、生物学的多段階経路を含めた合成経路の効率を増大させる必要性が継続して存在する。
【解決手段】多段階平衡経路におけるモナチンの生成を増加させる方法およびシステムが記載される。いくつかの実施態様において、方法は1以上の反応物および1以上の酵素と共にリアクターにアラニンを加えて、モナチンおよび1以上の中間体を含む混合物を生成することを含む。アラニン添加の結果、より安定でない中間体の濃度の減少およびモナチンの濃度の増加を生じさせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2006年5月24日付けで出願した米国仮特許出願シリアル番号60/803,105の利益を主張する2007年5月23日付けで出願した米国出願第11/752,492号(ここに出典明示して本明細書の一部とみなす)の一部継続出願である。
【0002】
本発明は、平衡反応を含む多段階経路の所望の生成物の生成を増加させるための方法およびシステムに指向される。いくつかの実施形態において、所望の生成物は高強度甘味料モナチンである。
【背景技術】
【0003】
モナチンは、化学式:
【0004】
【化1】

【0005】
を有する高強度甘味料である。
【0006】
様々な命名法ゆえに、モナチンは、2−ヒドロキシ−2−(インドール−3−イルメチル)−4−アミノグルタル酸;4−アミノ−2−ヒドロキシ−2−(1H−インドール−3−イルメチル)ペンタン二酸;4−ヒドロキシ−4−(3−インドリルメチル)グルタミン酸;および3−(1−アミノ−1,3−ジカルボキシ−3−ヒドロキシ−ブト−4−イル)インドールを含めた多数の別の化学名でも知られている。
【0007】
モナチンは、4つの可能な立体異性配置に導く2つの不斉中心を含む。すなわち、R,R配置(「R,R立体異性体」または「R,Rモナチン」);S,S配置(「S,S立体異性体」または「S,Sモナチン」);R,S配置(「R,S立体異性体」または「R,Sモナチン」)、およびS,R配置(「S,R立体異性体」または「S,Rモナチン」)である。
【0008】
WO2003/091396 A2(ここに出典明示して本明細書の一部とみなす)は、とりわけ、モナチンの生体内(in vivo)および生体外(in vitro)での生成のためのポリペプチド、経路、および微生物を開示している。WO2003/091396 A2(例えば、図1〜3および11〜13を参照)および米国特許出願公開第2005/282260号は、ポリペプチド(タンパク質)または酵素での生物学的変換を含む多段階の経路によるトリプトファンからのモナチンの生成を記載している。記載された1つの経路は、生物学的に、例えば酵素を用いて、トリプトファンをインドール−3−ピルビン酸(「I−3−P」)に変換し(反応(1))、インドール−3−ピルビン酸を2−ヒドロキシ2−(インドール−3−イルメチル)−4−ケトグルタル酸(モナチン前駆体、「MP」)に変換し(反応(2))、次いでMPをモナチンに変換すること(反応(3))を含む。
【0009】
モナチンのある種の異性体形態は、南アフリカのトランスバ−ル(Transvaal)地方に生育する植物Sclerochiton ilicifoliusの根皮に見出すことができる。しかしながら、乾燥した根皮に存在するモナチンの濃度は、その酸形態のインドールとして表すと、約0.007質量%であることが判明している。米国特許第4,975,298号を参照されたし。この植物においてモナチンが生成される正確な方法は、現在のところ知られていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
少なくとも一部にはその甘味特性ゆえ、モナチンの経済的な供給元を手にすることが望ましい。したがって、モナチンの合成経路など、上述の生物学的多段階経路を含めた合成経路の効率を増大させる必要性が継続して存在する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
生物学的合成経路によって所望の最終生成物を合成するための方法およびシステムが提供される。一実施形態によれば、少なくとも1つの経路中間体の形態で捕捉される炭素であって、通常であれば合成経路の終わりにおいて失われてしまう炭素が、そのような炭素を所望の最終生成物に変換するように元の経路を変更することによって救出され、所望の最終生成物に変換される。当業者であれば、用語「炭素」が、本明細書において該当する化合物の略記として使用されていることを理解するであろう。すなわち、「炭素が所望の生成物に変換される」と述べた場合、その炭素含有化合物が所望の生成物に変換されるということを意味する。
【0012】
所望の生成物を生成するために一連の反応が行われる場合に、望ましくない副反応(そのいくらかは不可逆的であり得、その他は可逆的であり得る)も生じ得る。副反応が不可逆的または実質的に不可逆的である場合、それらの副反応に利用された炭素は、所望の経路へと回収することが不可能である。換言すると、不可逆的な副反応が抑制されない場合、それらは最終的に所望の反応の速度を上回りかねない。したがって、より変動性の中間体または副産物を安定化して分解を防止できる。かくして、本発明の一実施形態においては、変動性または不安定な中間体および副生成物が、より安定な成分への変換によって安定化される。不安定な中間体を生成物またはより安定な化合物に変換する結果、炭素のさらなる維持をもたらすことができ、生成物の収率を改善することができる。例えば、望ましくない副生成物の平衡量を元の反応物に加えることで、正味の結果は、望ましくない副反応が順方向に進まないことである。
【0013】
本発明のいくつかの実施態様において、本明細書に記載された方法およびシステムは、多段階平衡経路において生成されるモナチン量を増加させ、さらなる実施態様において、1以上の不安定な中間体の量は減少する。本発明のいくつかの実施態様において、モナチンの増加および中間体の減少の双方を生じる。モナチンを精製し、反応混合物において他の成分からモナチンを分離する特定の方法は、本願明細書に記載された本発明の範囲内にはない。
【0014】
特定の実施形態においては、トリプトファンをインドール−3−ピルビン酸(「I−3−P」)に変換し、I−3−Pをピルビン酸と反応させてα−ケト酸モナチン(「MP」)を形成し、次いでMPを反応させてモナチンを形成することによって、モナチンはトリプトファンから生成され、ここに、各反応は1以上の酵素によって促進される。生成物の形成経路に沿った反応に加えて、競合反応も生じ得る。例えば、上記のモナチン生成プロセスにおいて、ピルビン酸がそれ自体と反応して4−ヒドロキシ−4−メチル−2−オキソグルタル酸(「HMO」)を形成し得、さらにHMOがトリプトファンをI−3−Pに変換する酵素と同じ酵素によって4−ヒドロキシ−4−メチルグルタミン酸(「HMG」)に変換され得る。
【0015】
一実施形態においては、より安定でない化合物が、より安定な化合物に変換される。「より安定でない」および「より安定な」は、化合物の分解の可能性を示している。モナチンが例えばトリプトファンから生成されるいくつかの実施形態においては、アルファ−ケト酸中間体が、対応するアミノ酸に変換される。モナチンが上述の経路によって生成される特定の実施形態においては、より安定でない化合物のより安定な化合物への変換は、最初にモナチン生成反応が平衡までの進行するのを可能にし、次にモナチン生成経路に関与する酵素を除去し、次いでMPの変換およびトリプトファンの変換を促進する1以上の酵素をさらなるアラニンと共に再添加することによって、達成することができる。適切な酵素の選択的な添加ならびにアラニン負荷が、より安定でないMPが追加のより安定なモナチンを形成することを可能にし、より安定でないI−3−Pがより安定なトリプトファンに変換されることを可能にする。
【0016】
もう一つの実施態様において、モナチンは、反応物がリアクターに加えられるのとほぼ同時にアラニンを加えることにより、多段階平衡経路を介して生成される。酵素を除去および/または不活性化する工程が除かれる。多段階平衡経路における反応の初めのアラニンの添加の結果、モナチン量が増加し、ならびにより安定でない中間体I−3−PおよびMPが減少する。もう一つの実施態様において、反応物がリアクターに加えられた後であるが、リアクター中で平衡に達する前の時点で、アラニンをリアクターに加え得る。さらなる実施態様において、リアクター中で初期の平衡に達した後、アラニンがリアクターに加えられ、反応は、最終平衡に達することを可能とされる。
【0017】
一実施形態において、本発明の方法は、いくつかの段階にて進行する。第1の段階において、合成経路は、その経路において初期の基質Xを1以上の中間体(Y1〜Yn)に変換することを含む(中間体Y1が中間体Y2に変換され、中間体Y2が中間体Y3に変換され、以下同様にして、最後の中間体である中間体Ynが生成される)。次いで、中間体Ynが、生成物Zに変換される。XのY1〜Ynへの変換およびその後のZへの変換は、通常は少なくとも部分的に同時に、ただ1つの混合物または組成物において生じることができる。第2の段階では、第1の段階の開始後の所望の時点において、第1の段階における酵素的または化学的反応(すなわち、XをY1に変換し、Y1をY2に変換し、Y2をY3に変換し、以下同様にして最終的にY(n−1)をYnに変換し、次いでYnをZに変換する反応)を促進した分子的実体のうちの少なくとも1つまたはすべてが、反応混合物から除去され、あるいは他の方法で抑制、分解、または不活化され、あるいは機能できなくされる。第3の段階においては、段階2の後の混合物に依然として存在している少なくとも1つの中間体Yが、中間体Ynの生成物Zへの変換を促進することができる分子的実体を添加または再添加することによって、生成物Zに変換される。
【0018】
さらなる実施形態においては、第3の段階において、中間体Ynが生成物Zに変換される。
さらなる実施形態においては、生成物Zがモナチンである合成経路が提供される。
さらなる実施形態においては、経路の反応の促進を担う分子的実体のすべてが、段階3の前に反応混合物から除去される。
さらなる実施形態においては、除去されるべき中間体段階の反応(例えば、Yn−1をYnに変換する反応)を促進した分子的実体のみが、反応混合物から除去され、あるいは他の方法で抑制、分解、または不活化される。
【0019】
さらなる実施形態においては、経路内の1以上の反応を促進することができる1を超える分子的実体が、段階3において混合物に再び加えられる。
ある種の実施形態においては、本明細書に提示される方法を使用することで、多段階平衡プロセスの生成物の総量、または力価を、平衡プロセスのみに比べて改善することができる。例えば、生成物の濃度または力価について、1.7倍の改善が可能であり、特定の場合には、濃度または力価について、2倍の改善が可能である。所与の基質からの生成物のモル収率(生成された生成物のモル数を、供給した基質の初期のモル数で割ったもの)について、1.7倍の改善が可能であり、特定の場合には、2倍の改善が可能である。全体としての炭素収率(生成物に含まれる炭素の量を、供給した基質に含まれていた炭素の量で割ったもの)も、平衡プロセスのみに比べて改善することができる。
【0020】
本発明は、本発明の方法を利用するモナチンの生成のためのシステム、ならびにそのような生成のための装置をさらに具現化する。いくつかの実施形態においては、多段階の経路にてモナチンを形成するための方法が、1以上の反応物および1以上の促進剤を含む第1の組成物について、モナチンおよびモナチン生成経路の1以上の中間体を形成すべく反応できるようにすることを含む。第1の組成物が、指定の期間にわたって(例えば、平衡に達するまで)反応可能にされる。指定の期間の後に、促進剤のうちの1以上が除去、抑制、不活化、または分解され、その後にモナチン生成の反応段階に関与する促進剤を組成物へと加え、あるいはモナチン生成の反応段階に関与する促進剤の抑制を解き、あるいはナチン生成の反応段階に関与する促進剤を再び活性化することによって、経路におけるモナチンの生成を増大させる。いくつかの実施形態においては、適切な促進剤を追加し、適切な促進剤の抑制を解き、あるいは適切な促進剤を再活性化する他に、モナチン生成段階をモナチンの生成に向かって駆動することに関与する追加の化合物が、組成物に加えられる。
【0021】
いくつかの実施形態においては、モナチンの生成方法が、少なくとも2つ、または少なくとも3つの反応段階を有する経路にてモナチンを生成することを含んでおり、その反応段階のうちの1つがモナチンを生成し、反応段階のうちの別の1つが、モナチン生成の反応段階に利用することができるモナチン経路の中間体の量を制限している。このモナチンの生成方法は、経路のうちの少なくとも上記の制限的な段階を所望の期間の後で(例えば、経路が平衡に達した後で)弱め(compromise)、その後にモナチン生成段階をモナチンの生成に向かって駆動するために、例えば促進剤または反応物あるいは両者を再び経路へと負荷することを含む。「反応を弱める」とは、反応を乱して生じることができないようにするか、あるいは反応効率を低下させることを意味する。
【0022】
この概要は、添付の特許請求の範囲の技術的範囲に対して限定として機能するものでは決してない。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、モナチンの生成を例示するプロセスフロー図である。
【図2】図2は、モナチンの生成を例示するシステムの概略のブロック図である。
【図3】図3は、モナチンの生成についてのもう一つのシステムの概略のブロック図である。
【図4】図4は、アミノトランスフェラーゼ(配列番号:4)をコードする核酸配列(配列番号:3)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本明細書に用いた「・・・を含む(including)」は、「・・・を含む(comprising)」を意味し、「含む(includes)」は、文脈から明らかでない限り、「・・・を含むが・・・だけに限られない」を意味する。本明細書に用いた「例えば」または「など」という表現は、非限定的であって、「例えば・・・であるが、・・・に限られない」および「・・・などであるが、・・・に限られない」を意味する。さらに、単数形の表現は、文脈から明らかでない限り、対象物が複数である場合を含む。例えば、「酵素を含む(comprising an enzyme)」とは、1以上の酵素を含むという意味である。用語「約(about)」は、測定において生じる実験誤差の範囲を包含する。特に述べられていない限り、すべての測定の数は、たとえ用語「約」が明示的に使用されていない場合でも、その数の前に「約」という用語を冠していると見なされる。
【0025】
本明細書に用いた用語「モナチン」は、特に示されていない限りは、モナチンの特定の立体異性体形態に限られない。
【0026】
「モナチン」のアッセイは、モナチンの存在について組成物をアッセイすることを包含する。特に示されていない限りは、モナチン組成物中のモナチンは、特定の立体異性体形態に限定されない。したがって、「モナチン」を含む組成物は、特に示されていない限りは、例えばモナチンの4つの立体異性体のすべてを含む組成物、モナチンの立体異性体の任意の組み合わせを含む組成物(例えば、モナチンのR,RおよびS,S立体異性体のみを含む組成物)、およびモナチンのただ1つの異性体形態のみを含む組成物など、モナチンの4つの立体異性体のいずれかまたはすべてを含む組成物を含み、包含する。
【0027】
本願明細書および特許請求の範囲において化学名(例えば、「モナチン」または「モナチン前駆体」)が特定される場合、特にそのようでないと示されない限り、用語「および/またはその(それらの)塩」が含まれていると理解すべきである。例えば、「インドール−3−ピルビン酸がモナチン前駆体に変換される」なる語句は、「インドール−3−ピルビン酸および/またはその塩が、モナチン前駆体および/またはその塩に変換される」と理解しなければならない。当業者であれば、種々の典型的な反応条件のもとで、モナチン合成反応において、名前を挙げた反応物、基質、中間体、および生成物を含めた名前を挙げた化合物の塩が実際に存在し、あるいは存在し得ると理解するであろう。
【0028】
用語「ポリペプチド」および「タンパク質」は、入換え可能に使用される。用語「ポリペプチド」は、文脈から明らかでない限り、単一のポリペプチド鎖に限られず、鎖のマルチマー(例えば、同種または異種のダイマー、トリマー、テトラマー、など)を含む(このような多量体形態が、ポリペプチドの関与する反応を促進する(例えば、触媒する)ために必要である場合)。
【0029】
「生物学的変換」は、化合物(基質)の異なる化合物(生成物)への変換であって、例えばポリペプチドおよび以下の段落に記載される他の促進剤によって促進される変換である。生物学的変換は、酵素が1以上の基質の1以上の生成物への変換を促進する(触媒する)酵素反応を含む。「生物学的合成」または「生合成」は、少なくとも1つの生物学的変換が関与する合成である。
【0030】
本明細書における説明では、生物学的合成経路(例えば、モナチン合成のための典型的な合成経路)において反応を促進するために使用することができるポリペプチドの例として、酵素を挙げる。しかしながら、触媒抗体ならびに例えば触媒RNAまたはリボザイムなどといったRNA成分を有する促進剤など、他の分子的実体も、所望の反応を実行するための促進剤として使用可能であることを、理解すべきである。アルドラ−ゼ活性を有する触媒抗体が、商業的に入手可能である(アルドラ−ゼ抗体38C2、Aldrich社カタログ番号47,995−0および48,157−2)。アルドラ−ゼ活性を有する触媒抗体の調製は、Wagner, J.ら, Science 15: 1797−1800 (1995)およびZhong, G.ら,Angew Chem. Int. Ed. Engl. 16: 3738−3741 (1999)に記載されており、トランスアミナ−ゼ活性を有する触媒抗体が、Gramatikova, S. I.ら, J. Biol. Chem. 271: 30583−30586 (1996)に記載されている。さらに、反応を触媒するための触媒抗体の使用が、米国特許第6,846,654号において検討されている。
【0031】
多段階の経路は、後続の反応が先行する反応の少なくとも1つの生成物を利用するように互いに結び付けられた一連の反応である。例えば、そのような経路においては、第1の反応の基質が1以上の生成物に変換され、それら生成物のうちの少なくとも1つを、第2の反応のための基質として利用することができる。次いで、第2の反応が1以上の生成物を生成し、それら生成物のうちの少なくとも1つを、第3の反応のための基質として利用することができ、以下同様である。多段階の経路においては、反応のうちの1つ、いくつか、またはすべてを、酵素的に触媒でき、あるいは触媒抗体または触媒RNAなどの分子的実体によって促進することができる。経路内の反応のうちの1つ、いくつか、またはすべては、可逆的であってもよい。生物学的合成は、酵素的に触媒され、あるいは触媒抗体または触媒RNAなどの分子的実体によって促進される少なくとも1つの反応段階を含む合成である。多段階の平衡経路は、経路における反応(すなわち、段階)のうちの少なくとも1つが平衡または可逆反応である多段階の経路である。
【0032】
本発明の実施形態によれば、モナチンの合成経路などの合成経路における反応のうちの1以上が、そのような合成経路が生成物(典型的には、生成物モナチン)の合成を開始させた後で改変される。経路は、促進剤のうちの少なくとも1つを取り除き、あるいは他の方法で経路を弱める(例えば、促進剤の機能を妨げ、あるいは自身の機能を実行しようとする促進剤の能力を減じる)ことによって、改変または「破壊」される。例えば、経路を、経路内の特定の中間反応を促進する酵素を除去、抑制、または破壊することによって改変または「破壊」される。また、経路の改変は、本来は可逆的であった反応が不可逆反応になるように、あるいはそのような反応の平衡を、好ましくは元の経路の再現につながらないような方法で、所望の生成物の合成、例えば、モナチンの合成に向かって、例えば、右側に少なくともシフトさせるように、反応条件を変更することを含むことができる。本明細書の実施例から理解できるとおり、元の経路の再現(または、元の経路の再生などといった同様の用語)は、元の経路のすべての段階の再活性化を意味する。
【0033】
一実施形態においては、改変により、供給される基質が経路の最初の反応のための基質だけである場合には、所望の最終生成物(例えば、モナチン)を合成する能力が大幅に減少し、あるいはもはや合成することができない経路がもたらされる。改変は、好ましくは、経路全体による最終生成物の合成を検出可能に減少させ、あるいは停止させる。改変が生成物の合成が開始された後に生じるため、経路の改変後に、元の反応が行われた混合物が、改変された、好ましくは機能しない反応の生成物を含めた、その経路の改変の時点での混合物に存在する経路の種々の中間体生成物をある量で含む。
【0034】
本発明の一実施形態によれば、少なくとも1つの中間体生成物が捕捉され、そのような中間体生成物の所望の最終生成物(例えば、モナチン)または所望の最終生成物の前駆体(例えば、モナチン前駆体(MP))への変換を促進する1以上の適切な促進剤(例えば、1以上の酵素)を反応混合物へと再び追加する(ただし、このような促進剤は、元の経路を生成することがなく、あるいは元の経路を再生することがない条件下で追加される)ことによって、所望の最終生成物(例えば、モナチン)に変換される。一実施形態においては、不活化された反応の生成物が、この中間生成物の最終生成物(モナチンなど)への変換を促進するための成分を混合物へと再び追加する前に、当該生成物を生成した促進剤(例えば、酵素)から分離される。少なくとも生成物を生成する工程(典型的には、多段階経路の最終段階)を促進することができる酵素が、第2の混合物へと追加または再導入される。さらなる実施形態においては、生成物の生成工程を生成物の生成にとって有利にする他の成分(例えば、反応物)が、第2の混合物へと追加される。
【0035】
本発明の実施形態に例示されるように、所望の最終生成物(モナチンなど)の生成のための反応物質が、第1の混合物を形成すべく集められる。これらの反応物質は、適切な基質、共同因子、酵素、バッファ成分、などを含み、通常は、所望の最終生成物の生物学的合成(ここでは、モナチンの合成によって例示される)のための経路の反応に必要なすべての成分を含む。はじめに、少なくとも経路の第1の酵素のための基質が存在するが、所望であれば、他の中間基質を提供することができる。
【0036】
この例示の実施形態においては、最終生成物(例えばモナチンなど、経路による生成が所望される最終生成物)の生成が、所望の時間にわたってこの経路によって進行可能にされる。最終生成物(例えば、モナチン)を、生成時にこの混合物から取り出すことができ、あるいは最終生成物を、例えば平衡に達するまで第1の混合物中に蓄積させてもよい。所望の時点において、上述の経路による最終生成物の合成を改変し、あるいは完全に停止させるために、特定の反応のうちの1以上について、酵素または促進剤のうちの1以上を抑制または他の方法で不活化し、あるいは取り除くことによって、上述の経路による最終生成物の合成が弱められる。除去、不活化、または抑制は、この1以上の促進剤の除去、不活化、または抑制ゆえに、元の経路による最終生成物の合成がもはや進行できず、あるいは比較的遅い速度でしか進行できないようなものである。除去、抑制、または不活化された促進剤によって行われる反応を、弱められたということができる。反応を弱める例として、これに限られるわけではないが、反応を促進する酵素を反応混合物から除去(あるいは、分離(この用語は、本明細書において除去と入換え可能に使用される))ことが挙げられる。反応を弱める別の例として、これに限られるわけではないが、酵素の作用に必要な補助因子を反応混合物から除去することが挙げられる。マグネシウムまたはリン酸補助因子を有する酵素を利用する経路においてモナチンが生成される一実施形態においては、例えば脱塩カラムを使用してマグネシウムまたはリン酸を除去することによって酵素を不活化することで、反応を弱めることができる。
【0037】
経路において中間化合物を生成する任意の反応を、弱める対象とすることができる。一実施形態においては、経路において中間体を生成する可逆反応が、弱めらる。一実施形態においては、少なくとも最低または低い平衡定数(例えば、1以下)を有する反応が、弱められる。一実施形態においては、弱められる反応が、少なくとも経路における最後から2番目の反応であるが、経路において1以上の中間生成物をもたらすことができる反応のうちの任意の1つ、任意の組、またはすべてを、改変または弱めることができる。いくつかの実施形態においては、反応が、不安定な中間体の濃度を減少させる方法で実行される。例えば、特定のモナチン生成経路においては、アルファ−カルボニルカルボン酸2−ヒドロキシ 2−(インドール−3−イルメチル)−4−ケトグルタル酸を生成する反応が、この中間体の濃度を減少させるべく妨害される。特定のモナチン生成経路においては、反応が、アミノ供与体を高濃度で反応へと加えることによって、アルファ−カルボニルカルボン酸インドール−3−ピルビン酸、4−ヒドロキシ−4−メチル−2−オキソグルタル酸(「HMO」)、2−ヒドロキシ−2−(インドール−3イルメチル)−4−ケトグルタル酸をこれらの対応するアミノ酸に変換するような方法で実行される。
【0038】
所望の反応(例えば、所望の中間反応)を改変または弱めるために、1以上の促進剤(例えば、経路内の可逆的な中間反応を触媒する1以上の酵素)を、組成物から除去でき、あるいは抑制することができる。その結果、とりわけ経路の中間体を含むが、この中間体の最終生成物(例えば、モナチン)への変換を触媒するために必要な酵素を含まない組成物がもたらされる。
【0039】
所望の反応を弱めた後に(例えば、反応の促進剤を除去、抑制、または不活化した後に)、混合物に、反応の中間体のうちの1以上を最終生成物(例えば、モナチン)に変換する成分を補うことができる。この追加の成分は、初期の経路が単純に元の有効な形で再生されることがないよう、組成物が中間反応が弱められた状態(すなわち、中間反応が欠けており、抑制され、あるいは不活化されている状態)を保つような成分である。欠けている促進剤の生成物(例えば、欠けている酵素の生成物)であった中間体の最終生成物または最終生成物の前駆体への変換を促進する「破壊された」経路の反応を再確立することによって、あるいはその中間段階またはその下流で捕捉される炭素を、最終生成物へと回収することができる。そのような変換は、元の経路のうちの当該中間生成物から最終生成物までの部分を再確立でき、あるいは中間生成物から最終生成物への別の反応経路を確立することができる。このようにして、所望の最終生成物(例えば、モナチン)の合成が、より効率的になり、経路における中間体の喪失または無駄が少なくなる。
【0040】
中間体の最終生成物への変換の後で生じる反応混合物を、好適な任意の所望の目的のために、直接的に使用することができる。あるいは、最終生成物(例えば、モナチン)を含む組成物または調合物(液体または固体)を、最終生成物またはそのような最終生成物(例えば、モナチン)を含む組成物を、この技術分野において公知の方法を使用して所望のとおりに第1および/または第2の反応混合物から抽出、精製、または単離することによって、さらに処理することができる。
【0041】
本明細書での検討においては、3つの段階について述べるが、他の段階の追加を排除するものではなく、あくまで3つの段階は、本発明の方法の時間的側面についての検討を容易にするためのツ−ルにすぎない。
【0042】
したがって、一実施形態においては、本発明を、いくつかの段階にて進行する化合物(例えば、モナチン)の合成の経路として記載することができる。第1の段階において、経路は、その経路において、初期の基質Xを1以上の中間体(Y1〜Yn)に変換することを含む(中間体Y1が中間体Y2に変換され、中間体Y2が中間体Y3に変換され、以下同様にして、最後の中間体である中間体Ynが生成される)。次いで、中間体Ynが、生成物Z(例えば、モナチン)に変換される。XのY1〜Ynへの変換およびその後のZへの変換は、通常は少なくとも部分的に同時に、ただ1つの混合物または組成物において生じることができる。第2の段階では、第1の段階の開始後の所望の時点において、第1の段階における酵素的または化学的反応(すなわち、XをY1に変換し、Y1をY2に変換し、Y2をY3に変換し、以下同様にして最終的にY(n−1)をYnに変換し、次いでYnをZに変換する反応)を実行または促進した分子的実体が、機能できなくなるように、あるいは機能が大幅に衰えるように、反応混合物から除去され、あるいは他の方法で抑制、分解、または不活化され、あるいは他の方法で弱められる。第3の段階においては、段階2の後の混合物に依然として存在している1以上の中間体(例えば、中間体Yn)が、Ynの生成物(例えば、モナチン)への変換または生成物(例えば、モナチン)に変換することができる中間体への変換を促進することができる1以上の分子的実体を添加または再添加することによって、生成物(例えば、モナチン)または生成物に変換することができる中間体に変換される。
【0043】
上述されるように、例えば、モナチンが多段階の生合成反応にてトリプトファンから生成される特定の実施形態において、プロセスは、MPの蓄積を目標とすることができる。一実施形態においては、これを、I−3−PからMPを形成する反応を、例えば経路内の他の反応を促進する酵素を除去(抑制または不活化)することによって、あるいはすべての酵素を除去、抑制、または不活化した後でI−3−PのMPへの変換を促進する酵素を再添加、有効化、または再活性化することによって単離し、MP形成反応に反応基質のうちの1つを負荷することによって達成できる。一実施形態においては、得られたMPが、反応混合物から精製される。
【0044】
このように、一実施形態においては、最終生成物(例えば、モナチン)の合成が、3つの段階にて生じる。第1の段階において、合成経路のためのすべての成分が単一の混合物中に存在し、最終生成物(例えば、モナチン)の形成が可能にされる。第2の段階において、代謝産物(例えば、モナチンおよびモナチン合成経路における化学的中間体)のすべてまたは一部が、促進剤すなわち経路内の種々の反応を促進または触媒したペプチドまたは酵素などのより大きな巨大分子から分離され、あるいは他の方法でこれらの巨大分子の1つまたはすべての活性が弱められ、そのような1つまたはすべての促進剤の機能が妨げられる。第3の段階において、新たな促進剤または元の促進剤の一部(例えば、経路の酵素の一部)であって、合成経路のうちの特定の所望の反応のみを促進できる少なくとも1つの促進剤を含む促進剤が、代謝産物の混合物へと添加または再添加される。この新たな促進剤または促進剤の一部は、好ましくは、最終生成物(例えば、モナチンそのもの)の合成を促進する少なくとも1つの促進剤(例えば、酵素)を含む。しかしながら、この新たな促進剤または促進剤の一部は、最終生成物(例えば、モナチン)の合成経路の少なくとも1つの先行の工程を促進する促進剤のうちの1以上を欠いている。このように、先行の促進剤の不在において、中間体として混合物中に存在していた炭素を利用して、そのような炭素を最終生成物(例えば、モナチン)に変換できる新たな促進剤(例えば、経路における最終の酵素)を添加または再添加することで、経路の変換の全体としての収率を増加させる。
【0045】
いくつかの実施形態において、本発明の方法は、可逆的な経路を利用するモナチン合成経路などの合成経路にとってきわめて有用である。そのような可逆的な経路は、生成物の形成のために意図された炭素が、逆反応へと転用される空転サイクルを生じる可能性がある。したがって、可逆反応が使用される場合、基質の生成物への変換を完了へと駆動するよりはむしろ、生成物の或る量が、基質へと再変換される可能性がある。
【0046】
いくつかの実施形態において、本発明の方法は、通常であれば他の反応成分とともに廃棄され、あるいはリサイクルの試みにおいて分解される前駆体を、段階3において最終生成物(例えば、モナチン)に変換することによって、このような炭素の損失を最小限にする。きわめて好ましい実施形態においては、最終生成物の中間前駆体の最終生成物への変換を触媒できる(例えば、モナチン前駆体をモナチンに変換する)酵素が、段階3において添加される。
【0047】
他の実施形態においては、経路の中間体のいずれかを最終生成物(例えば、モナチン)に変換し、あるいは最終生成物(例えば、モナチン)に導くが元の経路を再生成することがない経路に変換する酵素を、段階3において添加することができる。したがって、例えば、中間体Y1を経路内のブロックをバイパスする下流の中間体に変換し、あるいは中間体を最終生成物へと(例えば、MPをモナチンへと)変換するが、Y1のY2への変換は許さない酵素を加えることができる。
【0048】
最終反応の最終生成物の合成の方向への駆動をさらに助けるために、最終の促進剤(最終の酵素など)を加えるときに、1以上の補基質または共同因子を加えることができる。また、同じ分類の別の酵素または別の分類の酵素など、1以上の促進剤(1以上の酵素など)を、所望のとおり段階1および/または段階3の各反応を促進、すなわち触媒するために使用することができる。同じ反応を促進する複数の促進剤(例えば、複数の酵素)を、別個に加えることができ、あるいは例えば所望の促進剤また酵素のすべてまたは一部を含む「ブレンド」(例えば、「酵素ブレンド」)またはセットとして、まとめて加えることができる。
【0049】
本発明の経路において反応を促進する酵素などの促進剤は、反応混合物と共に溶液中にあってよい。溶液中の酵素などのタンパク質促進剤を、少なくとも反応混合物からの分離が所望される反応混合物中のタンパク質と同じ大きさの分子量を有する物質を保持する一方で、より低分子量の物質(とりわけ、経路における基質、生成物、および中間体)の通過を許容する膜を使用し、ろ過(とくには、限外ろ過)によって経路の混合物から容易に取り除くことができる。
【0050】
また、タンパク質促進剤(例えば、溶液中の酵素)を、より低分子量の反応混合物中の基質、生成物、および中間体から、クロマトグラフィー、例えばカラム・クロマトグラフィー、例えばサイズ排除クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、または親和性クロマトグラフィー(そのようなタンパク質またはすべての促進剤を混合物から取り除くべく、親和剤が所望のとおりに酵素などの促進剤のうちの1以上に選択的に結合する)によって、容易に分離することも可能である。
【0051】
あるいは、1以上の酵素などの1以上の促進剤を、所望のとおりに固体支持体へと結合させることができる。固体支持体上に備えられた促進剤を、経路混合物から、例えば固体支持体を混合物の残りの部分から分離することによって容易に取り除くことができる。例えば、実施例10、13、および16を参照されたし。
【0052】
あるいは、1以上の酵素などの1以上の促進剤を、例えば促進剤(例えば、酵素)を保持する一方で基質、中間体および最終生成物などといった小さな分子量の分子ならびに他の反応成分の自由な流れを許す半透膜中に収容して、収容された方法でもたらすことが可能である。例えば膜によって収容された方法でもたらされる促進剤(例えば、酵素)を、経路混合物から、例えば膜を混合物の残りの部分から取り去ることによって容易に取り除くことができる。
【0053】
一実施形態においては、段階3において欠落または大幅に抑制されるべき経路内の中間段階を触媒する促進剤(とくには、酵素)のみが、段階1において上述のような結合または収容された方法でもたらされる。
【0054】
他の例では、段階3において欠落または大幅に抑制されるべき経路内の中間段階を触媒する促進剤(とくには、酵素)を、融合タンパク質としてもたらすことができる。融合タンパク質においては、融合パートナーが、段階3における中間体Ynの最終生成物(例えば、モナチン)への変換の防止または大幅な抑制という結果を達成する方法で、融合タンパク質を除去、不活化、または抑制できるようにする特性を付与している。例えば、融合パートナーが、融合パートナーと融合パートナーが親和性を示す物質との間の親和反応に依存する手順によって、融合タンパク質を除去する能力を付与することができる。
【0055】
さらに、経路において、弱められるべき1以上の反応を、そのような反応を促進する促進剤(例えば、酵素)を選択的に抑制することによって弱めることが可能である。抑制は、可逆的または不可逆的であってよい。好ましくは、抑制剤が、所望の反応条件において、抑制に関与する剤が存在する促進剤(または、酵素)のうちの1以上をやはり存在しうる他の促進剤(または、酵素)よりも優先して抑制するという意味で、選択的抑制剤である。さらに、抑制剤は、例えば特定の波長の光による抑制剤の劣化または不活化によって、あるいは例えば透析またはろ過(限外ろ過など)による抑制剤の除去などといった抑制剤の物理的な除去によって、反応混合物から除去することができる抑制剤であってよい。例えば、II型のアルドラ−ゼを、例えばEDTA(エチレンジアミン四酢酸)などの金属キレ−ト剤によって抑制することができる。
【0056】
他の実施態様において、モナチンは、一つのリアクターを用いて、アラニンをリアクターに加えて、多段階平衡経路において生成される。いくつかの実施態様において、反応物がリアクターに加えられるのとほぼ同時に、アラニンを加える。他の実施態様において、反応物が加えられた後の時点でアラニンを加える。いくらかの実施態様において、アラニンの添加は、生成されるモナチン量を増加させるおよび/またはより安定でない中間体I−3−PおよびMPの量を減少させる。
【0057】
本発明の一実施形態の例では、生物学的変換を使用するモナチンの合成のための1つの経路が、少なくとも下記の3つの可逆的平衡反応を含む経路によって例示される。
【0058】
【化2】

【0059】
式中、トリプトファン反応は、例えば出発の反応物としてL−トリプトファンを使用することが望まれる場合に、さらなる酵素ラセマーゼを任意で含むことができるが、最終的には、R,Rモナチンを生成するためにD−トリプトファン(ラセマーゼを使用してL−トリプトファンから生成される)を使用することができる。
【0060】
この経路では、反応(1)において、トリプトファンおよびピルビン酸が、可逆反応で、酵素によってインドール−3−ピルビン酸(I−3−P)およびアラニンに変換される。上記例示のとおり、酵素(ここでは、アミノトランスフェラ−ゼ)が、この反応を促進(触媒)するために使用される。反応(1)において、トリプトファンがアミノ基を(ピルビン酸に)提供し、I−3−Pとなる。反応(1)において、アミノ基の受容体がピルビン酸であり、次いでアミノトランスフェラ−ゼの作用の結果としてアラニンになる。反応(1)において好ましいアミノ基受容体が、ピルビン酸であり、反応(3)において好ましいアミノ基供与体が、アラニンである。反応(1)におけるインドール−3−ピルビン酸の形成を、アミノ基受容体として別のα−ケト酸(オキサロ酢酸およびα−ケト−グルタル酸など)を利用する酵素によって行うことも可能である。同様に、MPからのモナチンの形成(反応3)を、アミノ基供与体としてアラニン以外のアミノ酸を利用する酵素によって行うことが可能である。それらとして、これらに限られるわけではないが、アスパラギン酸、グルタミン酸、およびトリプトファンが挙げられる。
【0061】
反応(1)に関して有用な酵素のうちのいくつかは、反応(3)に関しても有用である。上記例示の反応においては、これらの反応(1)および(3)の両者について有用であるとして、アミノトランスフェラ−ゼが挙げられている。反応(2)、すなわちアルドラ−ゼの介在によってMPを形成するインドール−3−ピルビン酸の反応の平衡定数は、1未満であり、すなわちアルドラ−ゼ反応が、モナチンへのアルファ−ケト前駆体(すなわち、MP)を生成する付加反応よりもむしろ、インドール−3−ピルビン酸およびピルビン酸を生成する開裂反応を助ける。アミノトランスフェラ−ゼの介在によってインドール−3−ピルビン酸を形成するトリプトファンの反応(反応(1))およびアミノトランスフェラ−ゼの介在によってモナチンを形成するMPの反応(反応(3))の平衡定数は、それぞれほぼ1であると考えられる。したがって、生成されるモナチン量を増し、モナチン生成の経済性を向上させるために、モナチンを形成するための反応に関与する、1以上の生成物を除去すること、および/または基質の量を増やすことが、望ましいと考えられる。例えば、モナチンが形成されたときにモナチンを取り出すことで、アルドラ−ゼおよびアミノトランスフェラ−ゼ反応が平衡を達成した場合よりも多くのモナチンの形成が可能になり、さらには/あるいは、例えば、反応(1)または反応(3)のための1つの基質の量を増すことで、反応(1)または反応(3)の第2の基質の変換を増すことができる。
【0062】
いくつかの実施形態において、本発明は、平衡プロセスにおいて生成物濃度(または、力価)を、例えば平衡量の1.2倍、1.3倍、1.4倍、1.5倍、1.6倍、1.7倍、1.8倍、1.9倍、または2倍まで向上させる新規な手法を提供する。いくつかの実施形態においては、これを、多段階経路の反応のうちの1以上を所望の方向に駆動することによって、達成することができる。いくつかの例では、反応が、より多くの生成物を蓄積する方向へと駆動され、別の例では、より多くの基質を蓄積する方向へと駆動される。本発明の一実施形態によれば、反応材料が、第1の混合物を形成すべく集められる。上記反応(1)において、これらの反応物は、第1の反応について上記されたトリプトファン(L−トリプトファン、D−トリプトファン、またはこれらの組み合わせであってよい)、ピルビン酸、アミノトランスフェラ−ゼ、および例えばトリプトファンがL−トリプトファンである場合に任意でラセマーゼ(ただし、D−トリプトファンの使用が望ましい)、ならびに反応(2)について上記されたアルドラ−ゼを含む。反応(1)において形成されるアラニン(L−アラニン、D−アラニン、またはこれらの組み合わせであってよい)が、反応(2)において形成されるMPと反応し、反応(3)にてモナチンおよびピルビン酸を生み出すことができる。上記経路において、反応3を、第1の反応をもたらす同じアミノトランスフェラ−ゼによって触媒することができる。混合物を、平衡状態へと到達させることができ、この状態において、平衡量のモナチンが、第1の混合物に含まれた状態で形成される。この混合物からモナチンを取り去ることが可能であるが、この段階においてモナチンを単純に第1の混合物中に残すことができれば、より効率的であることができ、本来であれば利用可能な反応物の喪失または無駄が少なくなる。本発明のこの実施形態によれば、第1の混合物のすべてまたは少なくとも一部が、滞留物(retentate)および透過物(permeate)を生成すべく限外ろ過される。限外ろ過のプロセスにおいてフィルタ−のしきい値分子量を適切に選択することで、第1の混合物の他の構成要素に比べて比較的分子量が大きい酵素、アミノトランスフェラ−ゼ、およびアルドラ−ゼは、フィルタ−を通過することができず、すなわちフィルタ−膜によって拒絶され、したがって滞留物中に残って滞留物を形成する。例えばトリプトファン、ピルビン酸、アラニン、MP、およびI−3−Pなどの残りの構成成分は、フィルタ−を通過することができる分子量を有しており、透過物を形成する。
【0063】
次いで、一実施形態においては、アミノトランスフェラ−ゼおよび任意でラセマーゼ(この場合には、アラニン・ラセマーゼ)が、アラニン量が増えている限外ろ過の透過物へと加えられ、第2の混合物が生成される。例えば、D−トリプトファンが出発材料である場合、および過剰量のD−アラニン(L−アラニンとL−アラニンのD−アラニンへの変換を促進するアラニン・ラセマーゼとを添加することによって得ることができる)が望まれる場合、アラニン・ラセマーゼを使用することが望ましい可能性がある。アラニンは、過剰であるように添加されるべきであり、あるいは少なくとも制限的でないように添加されるべきである。好ましくは、アラニンが、少なくともトランスフェラ−ゼが所望の条件のもとで最大速度(Vmax)またはその付近で作用できる濃度とされる。酵素のKmを用いて、アラニン濃度が酵素を飽和させていることを保証するために必要なアラニンの濃度を評価し得る。この実施形態においては、酵素であるアミノトランスフェラ−ゼが、反応(1)および反応(3)を触媒する。しかしながら、アルドラ−ゼまたは同等の促進剤が存在しない場合、反応(2)が感知可能な速度で生じることが不可能であり、あるいは少なくとも反応の速度が低下する。さらに、過剰量のアラニンは、反応(3)をより多くのモナチンを生成する好ましい方向に駆動する。さらに、アラニンの濃度が高くなることで、反応(1)が、トリプトファンおよびピルビン酸を生成する逆方向に駆動される。これは、一部には、I−3−Pがきわめて不安定な反応物であって、分解して汚染反応生成物となる可能性があるため、有用である。MPも、混合物において比較的不安定な構成要素である。正味の結果は、反応(3)がモナチンの生成に向かって正方向に駆動されること、反応(1)が最初の反応物であるトリプトファンの生成へと逆方向に駆動されること、および反応(2)が選択的に抑制される(そうでない場合、全体の反応手順が逆方向に進行できてしまい、不都合にもMPがI−3−Pおよびピルビン酸に変換されかねない)ことである。次いで、モナチンを、精製プロセスによって第2の混合物から取り出すことができる。
【0064】
さらなる好ましい手順においては、アミノトランスフェラ−ゼおよびアルドラ−ゼ酵素を含む滞留物を、第1の混合物へとリサイクルすることができ、あるいは「新しい」第1の混合物の反応が行われる容器または行われている容器へとリサイクルすることができる。これにより、全体としてのプロセスの効率が向上し、所与のモナチン生産量あたりのこれらの酵素の使用量が少なくなる。
【0065】
本発明の一実施形態によれば、トリプトファンからのインドール−3−ピルビン酸の生成、インドール−3−ピルビン酸からの2−ヒドロキシ2−(インドール−3イルメチル)−4−ケトグルタル酸(「モナチン前駆体」または「MP」)の生成、およびMPからのモナチンの生成を含むモナチン生成のためのプロセスが提供される。例えば、L−トリプトファン(S−トリプトファンとも呼ばれる)が基質である場合、インドール−3−ピルビン酸を生成するための反応を、S−アミノ酸の基質選択性を有する酵素によって促進することができる。モナチンの2Sアイソマーが望まれる場合には、MPのS−アイソマーを形成するためのインドール−3−ピルビン酸のピルビン酸との反応を、S−選択アルドラ−ゼ活性を有する酵素によって促進することができる。同様に、モナチンの4Sアイソマーが望まれる場合には、モナチンを生成するためのMPの反応を、L−アミノ酸基質について選択性を有する酵素によって促進することができる。同様に、他の異性体生成物を、異なる基質選択性を有する酵素を使用して、区別して生成することができる。例えば、いくつかの場合には、モナチンの2Rまたは4Rアイソマーが好ましい生成物であり、R−基質について基質立体選択性を有する酵素を使用することで、好ましい生成物の形成を促進することができる。用語「立体選択性」は、酵素が、1つの立体異性体について、より高い選択性またはより大きな活性あるいは両方を有することを意味する。1つの立体異性体について他の立体異性体に比べて限られた活性を有する立体選択性酵素を使用することができる。「限られた」活性は、例えば実験によって判断されたときに最小限または知覚できない活性を意味する。
【0066】
これまでの段落で述べた反応などの一連の反応に関して、本発明は、各段階を積極的に行うことを必要とせず、各段階を間接的に行うことができれば充分である。換言すると、例えば、トリプトファンからのインドール−3−ピルビン酸の生成、インドール−3−ピルビン酸からの2−ヒドロキシ2−(インドール−3−イルメチル)−4−ケトグルタル酸(「モナチン前駆体」または「MP」)の生成、およびMPからのモナチンの生成を含んでおり、各反応が適切な酵素によって促進されるモナチン生成のためのプロセスを、トリプトファンを酵素に組み合わせ、上記の反応が生じることができるように条件を設定することによって、行うことができる。そのような場合、トリプトファンがインドール−3−ピルビン酸を生成すべく反応でき、トリプトファンの反応から生成されたインドール−3−ピルビン酸が、MPを形成すべく反応でき、インドール−3−ピルビン酸の反応から生成されたMPが、モナチンを形成すべく反応させることができる。また、プロセスを、例えば、トリプトファンを生成できる化合物を、トリプトファンの生成が生じるために適した条件のもとで供給し、この化合物を上述の一連の反応を促進できる酵素に、そのような反応が生じるために適していると考えられる条件のもとで組み合わせることによって、行うことも可能である。例えば、大量のL−トリプトファン(または、D−トリプトファン)を天然に生成する微生物を、トリプトファンの供給源として提供することが可能である。例えば、D−トリプトファンを、L−トリプトファンと、幅広い特異性のアミノ酸ラセマーゼ活性またはトリプトファン・ラセマーゼ活性を有する酵素と、L−トリプトファンのD−トリプトファンへの変換が生じるために好適であると考えられる条件と、を用意することによって、供給することが可能である。
【0067】
ある種の実施形態においては、特定の置換(permutation)を、モナチン(例えば、R,Rモナチン)の生成をより経済的にするように設計することができる。例えば、D−トリプトファンあるいはLおよびD−トリプトファンの組み合わせと対照的に、L−トリプトファンが、出発材料として機能することができる。トリプトファンの特定の形態の選択は、モナチン組成物中の最終的なモナチン化合物のキラリティーに影響しない(トリプトファンの反応によって、キラリティーを持たないインドール−3−ピルビン酸が形成されるため)が、少なくともL−トリプトファンがD−トリプトファンよりも現時点においては安価であってより容易に入手できるため、出発材料としてL−トリプトファンを使用することが好まれる場合があり得る。
【0068】
他の実施形態において、本発明は、L−トリプトファンからのD−トリプトファンの生成、D−トリプトファンからのインドール−3−ピルビン酸の生成、インドール−3−ピルビン酸からのR−MPの生成、およびR−MPからのR,R−モナチンの生成を含むモナチン生成のためのプロセスを提供する。L−トリプトファンからのD−トリプトファンの生成を、トリプトファン・ラセマーゼおよびその機能的同等物によって促進することができる。同様に、インドール−3−ピルビン酸を形成するためのD−トリプトファンの反応、およびモナチンを形成するためのMPの反応を、この同じ酵素によって促進することができる。インドール−3−ピルビン酸の反応を、R−特異のアルドラ−ゼ活性を有する酵素によって促進でき、結果としてR−MPが形成される。インドール−3−ピルビン酸を形成するためのD−トリプトファンの反応、およびR,R−モナチンを形成するためのR−MPの反応を、この同じ酵素によって促進することができる。
【0069】
いくつかの実施形態においては、L−トリプトファンからのインドール−3−ピルビン酸の生成、インドール−3−ピルビン酸からの2−ヒドロキシ2−(インドール−3−イルメチル)−4−ケトグルタル酸(「モナチン前駆体」または「MP」)の生成、およびMPからのモナチンの生成を含むモナチン生成のためのプロセスが提供される。インドール−3−ピルビン酸を生成するためのL−トリプトファンの反応が、R−MPまたはR,R−モナチンあるいは両者よりも、基質としてのL−トリプトファンについてより大きな特異性またはより大きな活性あるいは両方を有する酵素によって促進される。MPまたはモナチンについてよりも、基質としてのL−トリプトファンについてより大きな活性および/またはより大きな特異性を有する酵素の例として、これらに限られるわけではないが、L−トリプトファン・アミノトランスフェラ−ゼ、L−芳香族アミノトランスフェラ−ゼ、L−アスパラギン酸アミノトランスフェラ−ゼ、およびL−アミノ酸オキシダ−ゼが挙げられる。特定の実施形態によれば、インドール−3−ピルビン酸の反応が、R−特異のアルドラ−ゼ活性を有する酵素によって促進され、結果としてR−MPが生成される。いくつかの実施形態によれば、D−アミノ酸に特異なアミノトランスフェラ−ゼ(D−アミノトランスフェラ−ゼと呼ばれる)も、インドール−3−ピルビン酸についてよりも、基質としてのR−MPについて、より大きな特異性またはより大きな活性あるいは両方を有する。他のある種の実施形態においては、D−アミノトランスフェラ−ゼが、基質としてのインドール−3−ピルビン酸について限られた活性を有する。
【0070】
ある種の実施形態によれば、ある異性体形態から別の異性体形態へのL−トリプトファンのアミノ基転移反応の副生成物として形成される(あるいは、トリプトファン反応の副生成物である別のアミノ酸から形成される)アミノ酸のエピマー化を促進することができるラセマーゼ酵素を提供する。そのような酵素の非限定の例として、L−グルタミン酸のD−グルタミン酸への変換を促進できるグルタミン酸ラセマーゼ(EC 5.1.1.3)または機能的同等物、L−アスパラギン酸をD−アスパラギン酸に変換するアスパラギン酸ラセマーゼ(EC 5.1.1.13)または機能的同等物、あるいはL−アラニンをD−アラニンに変換するアラニン・ラセマーゼ(EC 5.1.1.1)または機能的同等物が挙げられる。
【0071】
他の実施形態においては、モナチンを生成するためのプロセスであって、L−トリプトファンがインドール−3−ピルビン酸に変換されるときにα−ケト酸基質がL−アミノ酸を形成し、インドール−3−ピルビン酸がMP(R−MPおよびL−MPの両方を含むことができるが、好ましくはR−MPだけを含み、あるいは専らR−MPを含む)を形成すべく反応し、R−MPがR,R−モナチンに変換されるときにL−アミノ酸がα−ケト酸基質を再生(「リサイクル」とも称される)すべく反応するプロセスが提供される。R,R−モナチンを形成するためのR−MPおよびL−アミノ酸の反応は、立体反転(stereoinverting)のアミノトランスフェラ−ゼによって促進される。この方法で、L−トリプトファン・アミノトランスフェラ−ゼ反応のL−アミノ酸生成物を、MPのモナチンへのアミノ基転移のための基質として使用することができ、MP−モナチン反応へと結び付けられた反応の生成物(すなわち、オキサロ酢酸、ピルビン酸、および/またはα−KG)を、L−トリプトファンからインドール−3−ピルビン酸への反応に結び付けられた反応のための出発材料として使用することができる。使用可能な立体反転アミノトランスフェラ−ゼの非限定の例として、D−フェニルグリシン・アミノトランスフェラ−ゼ(EC 2.6.1.72、D−4−ヒドロキシフェニルグリシン・アミノトランスフェラ−ゼとしても知られる)、D−メチオニン・アミノトランスフェラ−ゼ(EC 2.6.1. 41、D−met−アミノトランスフェラ−ゼおよびD−メチオニン−ピルビン酸・アミノトランスフェラ−ゼとしても知られる)、およびこれらの同族体から導出される変種が挙げられる。
【0072】
ある種の実施形態においては、モナチンを生成するための全体としての経路が、インドール−3−ピルビン酸を形成するためのトリプトファンの反応、MPを生成するためのインドール−3−ピルビン酸の反応、およびR,Rモナチンを含むモナチンを生成するためのMPの反応を含むことができる。しかしながら、当業者に明らかであるとおり、本明細書の開示の全体的な範囲から外れることなく、この経路に対して様々な置換を行うことが可能である。
【0073】
そのような1つの実施形態においては、モナチンのR,R形態の生成をモナチンのS,S、R,S、およびS,R形態と引き換えにして増加させるため、経路に対して置換を行うことができる。特に、L−トリプトファン反応において利用されるアミノトランスフェラ−ゼ酵素が、この反応について、MPおよび4Sモナチンの反応に比べてより大きな活性および/または特異性を有し、あるいはオキシダ−ゼが、L−トリプトファンについて、4Rモナチンについてよりも大きな活性および/または特異性を有し、インドール−3−ピルビン酸の反応を促進する酵素が、R−特異的アルドラ−ゼであり、MPの反応を促進する酵素が、広い特異性のD−酵素であり、好ましくはMPのRアイソマーにおいてより効率的に機能するように展開している。次いで、ある種の場合には、インドール−3−ピルビン酸を、L−トリプトファンから直接的にではなく、間接的に生成することができる。より具体的には、L−トリプトファンがD−トリプトファンに変換され、次いでD−トリプトファンがインドール−3−ピルビン酸に変換される。
【0074】
特定の実施形態においては、L−トリプトファンが、トリプトファン・ラセマーゼを使用してD−トリプトファンに変換される。次いで、D−トリプトファンが、広い特異性のD−アミノトランスフェラ−ゼを介してピルビン酸と反応し、インドール−3−ピルビン酸およびD−アラニンが生成される。次いで、インドール−3−ピルビン酸がR−特異のアルドラ−ゼおよびピルビン酸と反応し、R−α−ケト酸モナチン(R−MP)が形成される。次いで、R−MPが広い特異性のD−アミノトランスフェラ−ゼおよびD−アラニンと反応し、R,Rモナチンおよびピルビン酸が生成される。
【0075】
L−トリプトファンのD−トリプトファンへの変換を、トリプトファン・ラセマーゼまたはその機能的同等物によって促進することができる。トリプトファン・ラセマーゼ活性を有する酵素の典型的な種類として、シュ−ドモナス(Pseudomonas)およびアエロモナス(Aeromonas)属からの広域活性ラセマーゼ(Broad Activity Racemases)が挙げられる(Kino, K.ら, AppliedMicrobiology and Biotechnology (2007), 73(6), 1299−1305; Inagaki, K.ら, Agricultural and Biological Chemistry (1987), 51(1), 173−80)。ラセマーゼ、アルドラ−ゼ、およびアミノトランスフェラ−ゼのさらなる例については、例えば2007年3月6日付で出願された米国特許出願第11/714,279号を参照されたし。
【0076】
上述の経路は、R,Rモナチンが所望の生成物である場合にも、インドール−3−ピルビン酸を生成する反応において生成物としてのモナチンを生成する反応と同じ酵素を使用することができるなど、いくつかの利益を有することができる。例えば、いくつかの場合に、L−アミノトランスフェラ−ゼ(または、適切なL−酵素)が、インドール−3−ピルビン酸を生成する反応を促進できるが、D−アミノトランスフェラ−ゼは、モナチンを生成する反応を促進する。対照的に、インドール−3−ピルビン酸を生成する反応を促進する特定のD−アミノトランスフェラ−ゼは、モナチンを生成する反応も促進できる。結果として、広い特異性のD−アミノトランスフェラ−ゼは、インドール−3−ピルビン酸を形成する反応においてモナチンを形成する反応と同じ酵素を使用することが望まれる場合に好ましい。ある種の場合に、R−MPに比べてインドール−3−ピルビン酸に限られた活性および/または特異性を有するD−アミノトランスフェラ−ゼが選択される場合に、モナチンの生成をさらに効率的にすることができる。
【0077】
上記経路のさらなる利益は、インドール−3−ピルビン酸を生成する反応に結び付けられた反応のアミノ酸生成物を、モナチンを生成する反応に結び付けられた反応において基質として使用できる点にある。例えば、L−トリプトファンがインドール−3−ピルビン酸を生成すべく反応すると同時に、オキサロ酢酸、α−ケトグルタル酸、および/またはピルビン酸が、L−アミノ酸を生成すべく反応し、モナチンを形成するためのR−MPの反応が、基質としてD−アミノ酸を利用する反応に組み合わせられる場合、インドール−3−ピルビン酸を形成する反応のL−アミノ酸が、上述の条件のもとでは、R−MP反応に結び付けられた反応において使用するためにリサイクルされることがない。対照的に、インドール−3−ピルビン酸を形成するためのD−トリプトファンの反応が、D−アミノ酸生成物を形成する反応に結び付けられる場合、D−アミノ酸を、R−MP反応に結び付けられた反応において使用するためにリサイクルすることができる。これにより、第1の段階において化学量論的でない量のアミノ受容体を使用することができ、第3の段階のために必要なアミノ供与体が、第1の段階において生成される。特定の実施形態においては、D−アミノ酸が、D−アラニンである。
【0078】
当業者であれば、本明細書の開示から、種々の経路においてR,Rモナチンの収率を向上させるために本発明をどのように実施できるのかを、理解できるであろう。例えば、本明細書の開示から、本発明の実施形態が、R,Rモナチンの生成に適用されるとおり、反応物および促進剤からなる第1の混合物をR,Rモナチンの生成を可能にする適切な条件下で供給すること;ならびに第1の反応が例えば平衡に達するまで所望の時間にわたって進んだ後で、少なくともモナチンを直接的に生成する経路内の段階(通常は、経路の最終段階)と競合する反応を促進する酵素を除去し、あるいは少なくとも不安定な中間体の濃度の減少をもたらす反応を乱す方法で酵素を除去し、あるいはすべての酵素を除去すること;を含んでおり、その後に経路のモナチン生成段階(通常は、経路の最終段階)において機能する少なくとも1つの酵素を追加し、さらに任意で他の成分(この成分の濃度が高くなることが、モナチン生成段階の平衡をモナチンの生成に向かって移動させるうえで役に立つ成分)を追加して、モナチンまたはR,Rモナチンの生成を増加させること;を含むことを、当業者であれば理解できるであろう。例えば、実施例9および14を参照されたし。
【0079】
そのような1つの実施形態においては、L−トリプトファンが、トリプトファン・ラセマーゼを使用してD−トリプトファンに変換される。次いで、D−トリプトファンが、広い特異性のD−アミノトランスフェラ−ゼを介してピルビン酸と反応し、インドール−3−ピルビン酸およびD−アラニンが生成される。次いで、インドール−3−ピルビン酸がR−特異のアルドラ−ゼおよびピルビン酸と反応し、R−α−ケト酸モナチン(R−MP)が形成される。次いで、R−MPが広い特異性のD−アミノトランスフェラ−ゼおよびD−アラニンと反応し、R,Rモナチンおよびピルビン酸が生成される。R,Rモナチンの生成を増すために、R,Rモナチンの生成と競合する反応を抑制し、あるいは減速させるために、酵素のうちの1以上(例えば、R−特異のアルドラ−ゼ)が反応から除去される。特定の実施形態においては、残りの反応混合物に、モナチンの生成を担う酵素(例えば、D−アミノトランスフェラ−ゼ)が補われ、特定の場合には、アミノ供与体(例えば、D−アラニン)も追加される。
【0080】
プロセスフロー図が図1に示されており、典型的なシステムのブロック図が図2に示されている。図2は、モナチン生成のための経路を示しているが、経路を実行するためのいかなる方法またはシステムへの限定も意図していない。例えば、生体外で実行される場合、経路のいずれの反応も、生きている全細胞の内部で行われることはない。あるいは、これらの方法を、生体外および生体内の方法の組み合わせを利用して実行することも可能である。例えば、反応(1)においてトリプトファンの脱アミノ化によって生成されるアミノ酸を、MPからモナチンを生成するために反応(3)において利用することができ、したがって、実行者が積極的に供給する必要がない。さらに、実務において、経路が将来的に進行できるために充分な成分または成分の供給源ならびに反応条件が用意され、あるいは存在するのであれば、実行者が上記成分(例えば、反応物および酵素)のそれぞれを積極的に供給する必要はない。例えば、L−トリプトファンを出発材料として使用する経路の実施は、L−トリプトファンが供給される実施形態だけでなく、L−トリプトファンを生成できる化合物が、そのような化合物からのL−トリプトファンの生成が生じるために適した条件下で、そのような化合物をL−トリプトファンに変換するための反応または一連の反応を促進できる酵素と組み合わて供給される実施形態も含むと考えられる。したがって、例えば、上記反応(1)、(2)、および(3)によって代表される実施形態において、反応混合物は、3つの反応の反応物および生成物のみを積極的に含む必要はない。1つのピルビン酸分子の第2のピルビン酸分子とのアルドラ−ゼ触媒による付加など、二次反応および/または副生成物がさらに存在してもよい(4−ヒドロキシ−4−メチル−2−オキソグルタル酸、または「HMO」)。HMOは、アミノ基転移反応を受けて4−ヒドロキシ−4−メチルグルタミン酸(「HMG」)を生成することもできる。HMGを、あるいはモナチンを生成するための反応に利用できるであろうピルビン酸およびアミノ基のさらなる喪失を防止するために、反応混合物1へとリサイクルすることができる。
【0081】
ここで図1を参照すると、ブロック1に示されているとおり、少なくとも1つの反応物および少なくとも1つの酵素が、第1の反応容器へと加えられる。図2を、図1に概説されるプロセスを実行するための典型的なシステムとして参照することができる。図2に典型的に示されているとおり、アミノトランスフェラ−ゼ酵素が、サブシステム10において生成および精製され、あるいは他の方法で供給される。アルドラ−ゼ酵素が、サブシステム12において生成および精製され、あるいは他の方法で供給される。これらの触媒を、導管16、18によって第1の反応容器14へと運ぶことができる。別法として、必要な酵素を、ただ1つの供給源から導入でき、ただ1つの導管によって第1の反応容器へと送ることができる。起点材料としてのL−トリプトファン(あるいは、D−トリプトファンまたはL−およびD−トリプトファンの混合物)を、トリプトファン供給源20から導管22を通って第1の反応容器14へと運ぶことができ、起点材料としてのピルビン酸を、ピルビン酸供給源24から導管26を通って第1の反応容器14へと運ぶことができる。所望であれば、起点材料としてのL−アラニン(あるいは、D−アラニンまたはL−およびD−アラニンの混合物)を、L−アラニン供給源46から導管59を通って第1の反応容器14へと運ぶことができる。他の導管28、30を、さらなる反応物または組成物を第1の反応容器14へと運ぶために利用することができる。図1のブロック2に示されているとおり、少なくとも1つの反応物および少なくとも1つの酵素が、第1の反応混合物を形成すべく反応する。
【0082】
図1のブロック3に示されるとおり、第1の反応混合物中に存在する少なくとも1つの酵素が、所定の時間の後に不活化される。酵素の不活化は、酵素の抑制または第1の反応混合物からの酵素の除去/分離を含むことができる。図2が、酵素が限外ろ過によって第1の反応混合物から分離される典型的なシステムを示している。このシステムにおいては限外ろ過が使用されているが、例えば固定化された酵素など、当業者に公知の他の分離システムおよびプロセスも、酵素を第1の反応混合物から除去/分離するために利用することが可能である。第1の反応容器14が、導管34を介して限外ろ過システム32へと接続されている。平衡反応(1)、(2)、および(3)の構成要素を含む第1の反応混合物を、所望の時点で、導管34を介して限外ろ過システム32へと運ぶことができる。限外ろ過システムが、第1の反応混合物を、より大きな分子量の酵素アミノトランスフェラ−ゼおよびアルドラ−ゼを含む滞留物と、第1の反応混合物の残りの構成要素を含む透過物とに分離する。酵素を、直接的または間接的に、導管36を介して第1の反応容器へとリサイクルすることができる。酵素を、例えば、互いに分離してリサイクルすることができ、あるいは他の方法で適切な量にて別個に使用することができる。透過物を、導管38を通って第2の反応容器40へと運ぶことができる。
【0083】
ブロック4に示されているとおり、少なくとも1つの酵素の不活化の後に、この不活化混合物が、第2の反応容器へと送られる。ブロック5および6に示されるとおり、追加の酵素も第2の反応容器へと加えられ、構成要素が反応して、第2の反応混合物が形成される。図2に例示されているように、透過物として第2の反応容器40へと運ばれる構成要素は、トリプトファン、ピルビン酸、アラニン、MP、I−3−P、およびモナチンを含む。入り口導管42、44が、追加の試薬または試薬量を第2の反応容器40へと運ぶ。これらの追加の試薬は、例えば、入り口導管42へと接続されたアラニン供給源46からのアラニン、ならびに入り口導管44へと接続されたアミノトランスフェラ−ゼ供給源48からのアミノトランスフェラ−ゼまたは他の酵素を含むことができる。第2の反応容器40内に存在する反応物が、第2の反応混合物を形成し、平衡反応(1)および(3)に関与する反応物であるが、アルドラ−ゼ酵素が存在していないため平衡反応(2)には関与しない。第2の反応混合物は、第1の反応混合物中のモナチン濃度に比べ、モナチンが富化されている。
【0084】
引き続いて、第2の反応混合物が、ブロック7に示されているとおり、所望の生成物であるモナチンを取り出すために精製される。図2に例示されているとおり、第2の反応混合物を、導管50を通ってモナチン精製サブシステム52へと運ぶことができる。他の構成要素が、精製システムにおいて反応精製混合物を形成するために、例えば導管57を介して精製システムへと加えられる。モナチン精製およびリサイクル・サブシステムは知られており、米国特許出願第11/752,492号に記載されている。
【0085】
図2に示されているようなブロック図を、任意の酵素または酵素の組み合わせ、あるいは基質または基質の組み合わせで置き換えるように、必要に応じて変更することができる。例えば、サブシステム10によって供給される例示のトランスフェラ−ゼ酵素およびサブシステム12によって供給される例示のアルドラ−ゼ酵素を、合成経路の1以上の反応を促進するために有用な任意の酵素または組み合わせによって置き換えることができる。同様の方法で、L−トリプトファン供給源20およびピルビン酸供給源24が、サブシステム10および/または12に用意される酵素にとって適切な基質を供給することができる。例えば、「L−トリプトファン」は、「D−トリプトファン」またはD−トリプトファン供給源、あるいはL−およびD−トリプトファンの混合物であってよい。他の例として、「L−アラニン」は、「D−アラニン」、またはL−およびD−アラニンの混合物、あるいは種々のモナチン生成経路にとって適切な他のアミノ酸であってよい。
【0086】
図2において、システムは第1の反応容器14および第2の反応容器40を含む。限外ろ過システム32は、第1および第2の反応容器14および40の間にあり、第2の反応容器に次いで供給される第1の反応混合物からアルドラーゼ酵素を分離するように、部分的に機能する。図3は、図2のシステムに対する代替物を示す。図3は、モナチンを生成するためのシステム100のブロック図であり、反応容器114を含むが、第2の反応容器およびその間に位置した限外ろ過システムを除外する。
【0087】
図3のシステム100は、アミノトランスフェラーゼ酵素を生成および精製するためのサブシステム110、およびアルドラーゼ酵素を生成および精製するためのサブシステム112を含む。酵素は導管116および118を通って反応容器114に供給される。図2に同様に示されるように、トリプトファン供給源120、ピルビン酸供給源124およびアラニン供給源146は、各々、導管122、126および159を通って反応容器114に伝達できる。図3に特に示されなかったが、図2に示されるように、さらなる反応物または成分が反応容器114に加え得ることが認識される。
【0088】
図3において、トリプトファン供給源120はD-トリプトファンとして示され、アラニン供給源146はD-アラニンとして示されている。前記に開示されるように、L-トリプトファンおよびL-アラニンまたはそのラセミ混合物は代替的に用い得る。D-トリプトファンおよびD-アラニンは、モナチンの他の立体異性体を超えてR,R形態のモナチンの生成を増加させるためにいくつかの実施態様において好ましいかもしれない。
【0089】
前記のように、モナチンの生成は、モナチン合成用の経路の3つの可逆的な平衡反応のうちの1または2を駆動するのを助けることにより増加させ得る。より詳細には、前記のように、反応 (3)はモナチンの生成に向けて前方に駆動され、反応 (1)は、トリプトファンの生成に後方へ駆動される。加えて、反応 (2)は抑制し得る。これは、反応 (2)に用いたアルドラーゼ酵素を除去し、次いで第2の反応容器にさらなる量のアラニンを導入することにより達成し得る。
【0090】
図3に示されるシステムにおいて、モナチンは、単一リアクター (容器114)を用いて生成し、アルドラーゼ酵素の除去または不活性化の段階は必要としない。反応物 (すなわち、トリプトファン120およびピルビン酸124)と一緒の反応容器114へのアラニンの添加の結果、より安定でない中間体インドール−3−ピルビン酸 (I−3−P)およびMPのより安定な成分により高度に変換される。より詳しくは、リアクターにアラニンを加えることは、より安定なモナチンへの不安定なMPの前方反応を駆動し、トリプトファンへの不安定なI−3−Pの後方反応を駆動する。この結果は、アラニンが反応容器114も加えられない場合に生成されたモナチン量と比較した、生成されたモナチン量における増加、ならびにより安定でない中間体I−3−PおよびMPの量の低減である。
【0091】
不安定な中間体の減少の結果として、I−3−PおよびMPならびに/または望ましくない副作用のより少ない分解がある。この結果、トリプトファンおよび/またはモナチンの収率がより高くなる。少なくとも1つの可逆的な平衡反応を駆動するためのアラニンのリアクターへの添加の本明細書に記載した方法おシステムは、従前のサイクルからのリサイクルされた成分を用いて試行される一連のモナチン生成サイクルにおける一工程として用いる場合に有益であり得る。
【0092】
アラニンは、トリプトファンおよびピルビン酸が加えられるのと同時に反応容器114に本質的に加え得る。別法として、アラニンは、反応物が加えられた後の時間のいくらかの時点で加えることもでき;しかしながら、反応混合物が平衡に達し、不安定な成分が分解しておりおよび/または副反応が反応混合物中で生じる前にアラニンを加えることが好ましいかもしれない。
【0093】
トリプトファンおよびピルビン酸が反応容器114に加えられる場合、アラニンは、アラニンが反応容器114に加えられるかどうかにかかわらず、経時的に反応混合物に蓄積するであろう。蓄積されたアラニンは、I−3−Pおよびアラニンを形成するトリプトファンおよびピルビン酸の可逆反応に起因する。さらに、MPおよびアラニンの可逆反応はモナチンおよびピルビン酸を生じさせる。したがって、アラニンが反応容器114に加えられなくても、一旦多段階平衡経路反応が始まれば、アラニンは反応混合物中に存在するであろう。本願明細書に記載された方法およびシステムは、より安定でないMPから離れて反応 (3)を前方に駆動し、より安定でないI−3−Pから離れて、トリプトファンへ戻る反応 (1)を駆動することにより、反応混合物中のモナチンの生成を増加させるために、前記に記載した経路に当然に起因するものを超えたアラニンの添加を含む。
【0094】
以下の実施例20において示されるように、アラニンの出発濃度の増加の結果、モナチンおよびトリプトファンの濃度が増大し、I−3−PおよびMPの濃度が減少する。しかしながら、初期のアラニンおよびトリプトファン濃度が十分に高いならば、平衡トリプトファン濃度はトリプトファンの溶解限度を超えたままであり、一部分のトリプトファンは不溶性のままである。一旦そのレベルに到達すれば、モナチン濃度は、アラニン量の増加と一緒でさえ、かなりには増加し得ない。いくつかの実施態様において、システム100は、トリプトファン濃度にその溶解限度を超えて上昇させずに、モナチン生成が最大化されるような十分な量のアラニンを加えるように最適化される。
【0095】
図3に示されるように、容器114からの反応混合物は、所与の時間後に導管164を通って除去し得る。いくつかの実施態様において、時間は、反応容器114において平衡に達するために必要とされた時間である。得られた反応混合物は、モナチン、MP、I−3−P、アラニン、トリプトファンおよびピルビン酸、ならびに反応混合物に生じる副反応に起因するHMGおよびHMOを含む。この時点において、モナチンおよびトリプトファンは精製のために利用可能である。反応混合物を精製する方法、およびリアクターに戻す成分をリサイクルする方法は、米国特許出願第11/752,492号に開示されている。
【0096】
図3のシステム100は、システム100が単に1つの反応容器を必要とし、限外ろ過システムがアルドラーゼ酵素を不活性化する必要性を除去するので、図2のシステムと比較してデザインにおいてより単純である。システム100は、反応試行の始まりにてまたはその付近にてさらなるアラニンを反応混合物に導入することによりモナチンおよび全体的な炭素収率における増加を促進する。前記のように、アラニンは反応物 (すなわち、トリプトファンおよびピルビン酸)が加えられるのと同じ時間に反応容器114に加えることができ;あるいは、アラニンは後の時点で加え得る。所与の量のアラニンを一度に全てを本質的に加え得る、またはアラニンは、所与の速度および間隔で反応容器114に加え得る。
【0097】
いくつかの実施態様において、アラニンは、アラニンが加えられない場合に生成されるモナチン量に比較して、生成されたモナチン量を増加させるのに十分な量で容器114に加えられる。反応容器114に加えられたアラニン量は、部分的に、加えられたトリプトファンおよび/またはピルビン酸の量に依存し得る。いくつかの実施態様において、約50〜200 mMのトリプトファンおよび約100〜400mMのピルビン酸が、反応容器114に加えられ;約50〜1500mMのアラニンを反応容器114に加え得る。いくつかの実施態様において、約100〜800mMのアラニンは容器114に加え得る。いくつかの実施態様において、約100および500mMのアラニンを加え得る。いくつかの実施態様において、モナチン生成を最大化し、I−3−PおよびMPのレベルを減少させるために、リアクターに加えるアラニン量 (モルベースで)は、リアクターに加えたトリプトファン量に少なくともほぼ等しい。いくつかの実施態様において、アラニン量は、トリプトファン量の大きさの少なくとも2倍である。
【0098】
トリプトファンをインドール−3−ピルビン酸に変換する(反応1)ために本発明の方法において有用な酵素の例として、酵素クラス(EC)2.6.1.27、1.4.1.19、1.4.99.1、2.6.1.28、1.4.3.2、1.4.3.3、2.6.1.5、2.6.1.−,2.6.1.1、2.6.1.21、および3.5.1.−の構成員が挙げられる。これらのクラスは、L−トリプトファンおよびα−KG(すなわち、α−ケトグルタル酸(2−オキソグルタル酸とも呼ばれる))をインドール−3−ピルビン酸およびL−グルタミン酸などのアミノ酸に変換するトリプトファン・アミノトランスフェラ−ゼ(例えば、実施例7を参照);D−トリプトファンおよび2−オキソ酸をインドール−3−ピルビン酸およびアミノ酸に変換するD−トリプトファン・アミノトランスフェラ−ゼ;L−トリプトファンおよびNAD(P)をインドール−3−ピルビン酸およびNH3ならびにNAD(P)Hに変換するトリプトファン・デヒドロゲナ−ゼ;D−アミノ酸およびFADをインドール−3−ピルビン酸およびNH3ならびにFADH2に変換するD−アミノ酸デヒドロゲナ−ゼ;L−トリプトファンおよびフェニルピルビン酸をインドール−3−ピルビン酸およびL−フェニルアラニンに変換するトリプトファン−フェニルピルビン酸・トランスアミナ−ゼ;L−アミノ酸およびH2OならびにO2を2−オキソ酸およびNH3ならびにH2O2に変換するL−アミノ酸オキシダ−ゼ;D−アミノ酸およびH2OならびにO2を2−オキソ酸およびNH3ならびにH2O2に変換するD−アミノ酸オキシダ−ゼ;およびトリプトファンおよびH2OならびにO2をインドール−3−ピルビン酸およびNH3ならびにH2O2に変換するトリプトファン・オキシダ−ゼ;などのポリペプチドを含む。さらに、これらのクラスは、チロシン(芳香族)アミノトランスフェラ−ゼ、アスパラギン酸アミノトランスフェラ−ゼ、D−アミノ酸(または、D−アラニン)アミノトランスフェラ−ゼ、および複数のアミノトランスフェラ−ゼ活性(その一部が、トリプトファンおよび2−オキソ酸をインドール−3−ピルビン酸およびアミノ酸に変換できる)を有する広い(複数基質の)アミノトランスフェラ−ゼを含む。さらに、これらのクラスは、水の存在においてトリプトファンをインドール−3−ピルビン酸およびアンモニウムに変換できるフェニルアラニン・デアミラ−ゼを含む。
【0099】
インドール−3−ピルビン酸をMPに変換する(反応2)ために本発明の方法において有用な酵素の例として、酵素クラス4.1.3.−、4.1.3.16、4.1.3.17、および4.1.2.−の構成員が挙げられる。これらのクラスは、2つのカルボン酸基質の凝縮を触媒するアルドラ−ゼ(例えば、実施例8、11、および12を参照)などの炭素−炭素シンタ−ゼ/リア−ゼを含む。ポリペプチド・クラスEC 4.1.3.−が、オキソ酸基質(インドール−3−ピルビン酸など)を求電子剤として利用して炭素−炭素結合を形成するシンタ−ゼ/リア−ゼである一方で、EC 4.1.2.−は、アルデヒド基質(ベンズアルデヒドなど)を求電子剤として利用して炭素−炭素結合を形成するシンタ−ゼ/リア−ゼである。例えば、KHG[2−ケト−4−ヒドロキシグルタル酸]アルドラ−ゼ(EC 4.1.3.16)およびProAアルドラ−ゼ(EC 4.1.3.17)が、インドール−3−ピルビン酸およびピルビン酸をMPに変換することが知られている。ProAアルドラ−ゼを、Comamonas testosteroniから由来した4−ヒドロキシ−4−メチル−2−オキソグルタル酸(HMG)アルドラ−ゼのみを指すものと考えることができるが、本明細書においては、用語ProAアルドラ−ゼは、そのようでないと述べられない限りは、4−ヒドロキシ−4−メチル−2−オキソグルタル酸アルドラ−ゼ活性を有する任意のポリペプチドを意味して使用される。Proアルドラ−ゼの適切な例として、Comamonas testosteroni ProA(ここに出典明示して本明細書の一部とみなす米国特許出願公開第2005/0282260号の配列番号65(核酸配列)および同じく米国特許出願公開第2005/0282号の配列番号66(アミノ酸配列)に関係している)およびSinorhizobiumMeliloti(HMGアルドラ−ゼ)ProA(NCBI Accession No.: CAC46344)、あるいはComamonas testosteroni ProA(米国特許出願公開第2005/0282260号の配列番号65(核酸配列)および米国特許出願公開第2005/0282260号の配列番号66(アミノ酸配列)に関係している)および/またはSinorhizobium Meliloti(HMGアルドラ−ゼ)ProA(NCBI Accession No.: CAC46344)への相同性を呈する酵素、ならびに/あるいは配列番号1(核酸配列)または配列番号2(アミノ酸配列)によってコードされたアルドラ−ゼ、ならびに/あるいは実施例8に記載のアルドラ−ゼが挙げられる。例えば、適切な酵素は、Comamonas testosteroni ProA(米国特許出願公開第2005/0282260号の配列番号66)および/またはSinorhizobium Meliloti ProA(NCBI Accession No.: CAC46344)および/または配列番号2および/または実施例8に記載のアルドラ−ゼに対し、少なくとも約40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、および/または99%のアミノ酸配列の同一性を有することができる。MPを、アルド−ル縮合などの化学反応を使用して生成することも可能である。
【0100】
MPをモナチンに変換(反応3)するために本発明の方法において有用な酵素の例として、以下の酵素クラス、すなわちトリプトファン・アミノトランスフェラ−ゼ(2.6.1.27)、トリプトファン・デヒドロゲナ−ゼ(1.4.1.19)、D−アミノ酸デヒドロゲナ−ゼ(1.4.99.1)、グルタミン酸デヒドロゲナ−ゼ(1.4.1.2−4)、フェニルアラニン・デヒドロゲナ−ゼ(EC 1.4.1.20)、トリプトファン−フェニルピルビン酸トランスアミナ−ゼ(2.6.1.28)の構成員が挙げられ、あるいはアスパラギン酸アミノトランスフェラ−ゼ(EC 2.6.1.1)、チロシン(芳香族)アミノトランスフェラ−ゼ(2.6.1.5)、D−トリプトファン・アミノトランスフェラ−ゼ、またはD−アラニン(D−アスパラギン酸またはD−アミノ酸としても知られる)アミノトランスフェラ−ゼ(2.6.1.21)など、アミノトランスフェラ−ゼ属(2.6.1.−)のより一般的な構成員が挙げられる(WO 03/091396 A2の図2を参照)。この反応を、化学反応を使用して実行することも可能である。ケト酸(MP)のアミノ化が、アンモニアおよびシアノ水素化ホウ素ナトリウムの還元的アミノ化によって実行される。WO 2003/091396 A2の図11〜13が、MPのモナチンへの変換に使用することができ、インドール−3−ピルビン酸またはトリプトファンからのモナチンの収率の向上をもたらすことができるさらなるポリペプチドを示している。
【0101】
本明細書においては、多段階の平衡反応において、生成物の全体としての収率を、平衡プロセスのみによって得られる収率を超えて向上させるための方法が提供される。特定の実施形態においては、そのような方法が、平衡反応の成分(例えば、反応物および促進剤)についてある期間にわたる進行(例えば、平衡に達するまで)を許すことを含むことができる。この期間の後に、反応を、1以上の促進剤(例えば、酵素)の除去によって改変することができる。そのような促進剤として、生成物の生成と競合する反応を促進する促進剤を挙げることができる。例えば、そのような競合的な反応として、平衡プロセス内の任意の逆反応を挙げることができる。特定の場合には、競合的な反応のみが改変される一方で、他の場合には、反応のすべてが改変または破壊される。これらの反応が改変または破壊されたあとで、生成物を直接的に生成する反応が、生成物の生成を担う促進剤を添加することによって再開され、例えば、通常は多段階経路の最終段階に関与する促進剤が混合物へと再び導入され、経路の最終段階が再開される。
【0102】
他の実施態様において、多段階平衡経路で生成されたモナチン量を増加させる方法およびシステムは、反応物と同時にリアクターにアラニンを加えることを含み、酵素の不活性化を除外する。アラニンの添加は、MPのモナチンへの平衡反応を前方に駆動し、I−3−Pのトリプトファンへの平衡反応を後方に駆動し、より安定でない中間体I−3−PおよびMPの量の低下を生じる。この結果は、アラニンが加えられなかったならば生成されたモナチン量と比較した、モナチン量の増加である。加えて、より安定でない中間体の濃度の低減により、システムにおける全体的な炭素収率はより高い。かくして、本願明細書に記載されたいくつかの実施態様は、1以上の酵素の除去あるいは不活性化を含まない。
【0103】
当業者であれば、本明細書の開示を検討することで、同様の経路および酵素をモナチン誘導体の生成に使用できることから、本明細書に記載の方法をモナチンの誘導体の生成に適合させることができることを、理解できるであろう。例えば、そのような誘導体として、ここでの言及によってその全体が本明細書に取り入れられたものとされる2006年10月20日付の米国特許出願第11/584,016号に記載の誘導体を挙げることができる。この誘導体は、以下の構造
【0104】
【化3】

【0105】
を有することができ、式中、Ra、Rb、Rc、Rd、およびReはそれぞれ、水素原子、ヒドロキシル基、C1〜C3のアルキル基、C1〜C3のアルコキシ基、アミノ基、あるいはヨウ素原子、臭素原子、塩素原子、またはフッ素原子などのハロゲン原子から選択される任意の置換基を独立に表わしている。しかしながら、Ra、Rb、Rc、Rd、およびReのすべてが同時に水素となることはできない。あるいは、RbおよびRcならびに/あるいはRdおよびReが一緒に、C1〜C4のアルキレン基をそれぞれ形成してもよい。
【0106】
本明細書に記載の本発明の方法のためのシステムは、自動化または半自動化が可能である。さらに、いくつかの実施態様において、本発明は、本明細書に記載のとおりのモナチンの生成方法または生成システムを利用する装置、ならびにそのような装置を使用するための方法を提供する。そのような装置は、第1の反応容器、分離容器、および第2の反応容器を含む。第1の反応容器は、第1の反応容器に存在すべき混合物の構成要素(1以上の酵素、および/または1以上の基質、あるいは他の成分)を供給することができる1以上の供給部または導管を有することができる。分離容器は、第1の反応混合物を、所望の酵素、タンパク質、または促進剤を保持しつつ、第1の反応容器から第2の反応容器への所望の成分の移送を可能にする方法で収容する。第2の反応容器も、タンパク質/酵素または成分の追加のための1以上の供給部または導管を有することができ、第2の反応混合物の特定の成分の第1の反応容器へのリサイクルを容易にし、所望の最終生成物の収集を容易にするための1以上の出口をさらに有することができる。
【0107】
分離容器は、第1の反応容器の一部であってよく、あるいは第2の反応容器の一部であってよく、あるいは第1および第2の反応容器とは別個独立の分離容器であってよい。
【0108】
他の実施態様において、装置は第1の反応容器を含むが、分離容器および第2の反応容器を必要としない。
【0109】
さらに装置は、容器への構成成分の送入または容器からの構成成分の送出のための制御部と、温度、pH、および他の物理的な反応条件を調節するための制御部と、装置全体の1以上の様相を制御するためのコンピュ−タとを備えることができる。
【0110】
本発明のいくつかのプロセスを、以下の実施例において説明する。本明細書に多数の実施形態が開示されているが、本発明のさらに別の実施形態が、本明細書の全体を検討することによって、当業者に明らかになるであろう。本明細書の記載から理解されるとおり、本発明の様々な側面についての変更が、いずれも本発明の技術的思想および技術的範囲から離れることなく可能である。したがって、図面および明細書の全体は、あくまで例示として理解すべきであり、本発明を限定するものとして理解すべきではない。
【実施例1】
【0111】
流加発酵でのHIS6−HEXaspCアミノトランスフェラ−ゼの生成
材料
微生物培養基の成分を、Difco、Fisher Scientific、またはVWRからのものとし、他の試薬は、分析グレ−ドまたは市販の最高グレ−ドのものとした。発酵をNew Brunswick Scientific (Edison, NJ) BioFlo 3000(登録商標)発酵槽にて行った。JLA−16.250またはJA−25.50ロ−タを備えるBeckman (Fullerton, CA) Avanti(登録商標)J−25I遠心分離器を使用して、遠心分離を実行した。
【0112】
コ−ド配列に6つの変更を含むE. coli aspCアミノトランスフェラ−ゼの誘導体をコードしている遺伝子(HEXaspC)のクロ−ニングが、ここに出典明示して本明細書の一部とみなす米国特許出願公開第2005/0282260に記載されている。この酵素は、OnufferおよびKirschらによって最初に記載された(Protein Science 4: 1750−1757 (1995))。アミノ酸変化が、元の酵素よりも広い基質特異性を有し、芳香族アミノ酸についてより高い活性を示す酵素をもたらしている。
【0113】
アミノ末端HIS6−生成タグを保持するアミノトランスフェラ−ゼHEXaspCを、2.5−L規模の培養槽において、高い細胞密度および所望のタンパク質の高い発現レベルを達成する流加プロセスにて生成した。E.coli株BL21(DE3)::HEXaspCpET30(Xa/LIC)の培養の手順および結果は、以下のとおりである。新たな培養皿(0.05mg/mLのカナマイシンを有するLB寒天)から出発し、細胞を、0.05mg/mLのカナマイシンを有する5mLのLuria−Bertani培養液(LB)において、37℃および225rpmで6〜8時間にわたって培養した。1mLの培養物を、同じ培地の2つの100−mLのアリコ−トへと移し、細胞を、37℃および225rpmで一晩(16〜18時間)にわたって培養した。(1リットルにつき)2.0g/Lの(NH4)2SO4、8.0g/LのK2HPO4、2.0g/LのNaCl、1.0g/Lのクエン酸ナトリウム・2H2O、1.0g/LのMgSO4・7H2O、0.025g/LのCaCl2・2H2O、0.05g/LのFeSO4・7H2O、0.4mL/LのNeidhardt微量栄養素、2.0g/Lのグルコ−ス、および0.5mg/mLのカナマイシンを含む2.5リットルの培地を有する培養槽に、一晩の培養物を5%(v/v)で接種した。接種の2時間後に、指数関数的グルコ−ス供給を、60%(w/v)のグルコ−ス溶液を使用して開始した。供給は、0.15h−1の指数関数的速度での微生物の培養をサポ−トするために必要な速度で行った。二酸化炭素発生速度(CER)が100mモル/L/hという値に達したとき(接種の約20時間後、15〜16g DCW/Lの細胞バイオマスに相当)、遺伝子の発現を、2g/Lのラクト−ス(20%の溶液として供給)のボ−ラス添加によって誘導した。供給を、60%(w/v)のグルコ−スから50%(w/v)のグルコ−ス+10%(w/v)のラクト−スへと変化させる一方で、供給速度は、誘導の時点の速度に固定した。「50%(w/v)のグルコ−ス+10%(w/v)のラクト−ス」の供給を、6時間にわたって維持した。発酵の終わりにおいて、細胞の濃度は31gDCW/Lであり、Bio−Rad (Hercules, CA) Experion(商標)システムのソフトウェアから計算される推定の酵素発現レベルは、全タンパク質の38%であった(下記を参照)。細胞を、10分間にわたる5000〜7000xgの遠心分離によって収穫し、-80℃で湿潤細胞ペ−ストとして冷凍した。
【実施例2】
【0114】
HIS6−HEXaspCアミノトランスフェラ−ゼの精製
細胞を、Microfluidics (Newton,MA) ホモジナイザ−を使用して破壊した。タンパク質の発現を、Bio−Rad (Hercules, CA) Experion(商標)Pro260システム、またはMini PROTEAN(登録商標)3 cell 装置を流れるBio−Rad 4〜15% SDS−ポリアクリルアミド勾配ゲルを使用して分析した。タンパク質を、Bio−Rad Bio−Safe(商標) G−250 Coomassie stainを使用してゲルにおいて視覚化し、水で脱染した。HIS6−タグの酵素を、GE Healthcare (Piscataway, NJ) Chelating Sepharose(商標)Fast Flow樹脂にて精製した。GE Healthcare PD10カラムを、タンパク質溶液のバッファの交換に使用した。タンパク質溶液を、Millipore/Amicon (Billerica,MA) Centricon(登録商標) Plus−70 遠心分離フィルタ−装置(MWCO(分子量しきい値)10kDa)によって濃縮した。タンパク質濃度を、ウシ血清アルブミンを標準とし、Pierce (Rockford, IL) BCA(商標)アッセイ・キットを使用して決定した。遠心分離を、JLA−16.250またはJA−25.50ロ−タを備えるBeckman (Fullerton, CA) Avanti(登録商標)J−25I遠心分離器を使用して実行した。すべての試薬は、分析グレ−ドまたは市販の最高グレ−ドのものとした。
【0115】
HIS6−HEXaspCアミノトランスフェラ−ゼを含む無細胞抽出物を作成するために、細胞を100mMのリン酸カリウム(pH 7.8、0.05mMのピリドキサル・リン酸(PLP)を含む)の3〜4容に懸濁させ、懸濁液の温度を15℃未満に保ちつつ、Microfluidicsホモジナイザ−を使用(20,000psiで3回の通過)して破壊した。以後のすべての精製工程は、4℃で実行した。細胞抽出物を15,000xgで20分間にわたって遠心分離し、細胞残屑を除去した。無細胞抽出物の20〜25mLのアリコ−トを、前もって100mMのリン酸カリウム(200mMの塩化ナトリウムおよび0.05mMのPLPを含む)で平衡させたChelating Sepharose(商標) Fast Flow樹脂(ニッケル(II)型)の45mLのカラムに加えた。樹脂のニッケル形を生成するために、樹脂を200mMのニッケル(II)硫酸六水和物(150mL)で洗浄し、次いで蒸留水(150mL)で洗浄した。試料の装填後に、25mMのイミダゾ−ルを含む150mLの平衡バッファ、50mMのイミダゾ−ルを含む150mLの平衡バッファ、および500mMのイミダゾ−ルを含む150mLの平衡バッファで、カラムの洗浄/溶出を行った。HIS6−HEXaspCタンパク質が、最後の洗浄において溶出した。500mMのイミダゾ−ルでの洗浄物を、Centricon(登録商標) Plus−70遠心分離フィルタ−装置(MWCO 10kDa)によって、製造者の指示に従って15〜20mLへと濃縮した。イミダゾ−ルおよび塩化ナトリウムを、前もって100mMのリン酸カリウム(pH 7.8、0.05mMのPLPを含む)で平衡させた使い捨てのPD10カラム(カラム当たり2.5mLの試料)に通すことによって除去した。生成済みのアミノトランスフェラ−ゼが、同じバッファのカラムにつき3.5mLで溶出された。それぞれの部分のタンパク質濃度を、Pierce BCA(商標)アッセイ・キットを使用して割り出した。それぞれの部分の純度および無細胞抽出物部分の発現のレベルを、Experion(商標)microcapillary chip systemを使用して割り出し、あるいは4〜15%の勾配ゲルでSDS−PAGEによって割り出した。典型的には、この手順は、Experion(商標)ソフトウェアでの判定にて85〜90%の純度である〜150mgの酵素を(600〜700mgの総タンパク質から)もたらす。精製後の酵素のアリコ−ト(1〜5mL)を、使用まで-80℃で保管した。
【実施例3】
【0116】
Comamonas testosteroni proAアルドラ−ゼの発現および精製
材料
細胞の培養および遺伝子の導入を、Overnight Express(商標)System II (EMD Biosciences/Novagen; Madison, WI)を使用して行った。他のすべての材料は、HIS6−HEXaspCアミノトランスフェラ−ゼの精製に使用したものと同じである。
【0117】
C. testosteroni proAアルドラ−ゼの誘導体をコードしている遺伝子のクロ−ニングは、米国特許出願公開第2004/0063175号に記載されている。
アミノ末端HIS6−精製タグを有するproAアルドラ−ゼを、振盪フラスコに0.05mg/mLのカナマイシンを含むOvernight Express(商標) System II (溶液1〜6)を使用して生成した。この発現システムは、細胞の培養を監視する必要なく、IPTG−誘導可能な系の発現を誘導する。BL21(DE3)::C. testosteroni proA pET30(Xa/LIC)の液体培養物またはプレ−トからの培地のアリコ−ト(200mL)を(1Lのフラスコに)接種した後で、培養物を225rpmで振盪させつつ一晩にわたって30℃でインキュベ−トした。OD600が6という最小値に達したときに、細胞を上述のとおり遠心分離によって収穫した。
【0118】
発現したproAアルドラ−ゼを有する細胞抽出物を、100mMのリン酸カリウム(pH 7.8、200mMのNaClを含む)を懸濁バッファとして使用して上述のとおりに作成した。いくつかの場合には、4mMのMgCl2もバッファに加えた。4つのフラスコの細胞から作成された細胞抽出物を、前もって100mMのリン酸カリウム(pH 7.8、200mMのNaClを含む)で平衡させた45mLのChelating Sepharos(商標) Fast Flow 樹脂(ニッケル(II)形)カラムに装填し、タンパク質を上述のとおり精製した。タンパク質は、平衡バッファに500mMのイミダゾ−ルを含む留分に溶出した。この留分を上述のとおりに濃縮し、イミダゾ−ルを、100mMのリン酸カリウム(pH 7.8、200mMの塩化ナトリウムおよび4mMのMgCl2を有している)で平衡させたPD10カラムに通すことによって除去した。それぞれの留分のタンパク質濃度を、Pierce BCA(商標)アッセイを使用して割り出した。それぞれの留分の純度および無細胞抽出物留分の発現のレベルを、BioRad Experion(商標)microcapillary chip systemを使用して割り出し、あるいは4〜15%の勾配ゲルでSDS−PAGEによって割り出した。典型的には、この手順は、Experion(商標)ソフトウェアでの判定にて85〜90%の純度である200mg超の酵素をもたらす。精製後の酵素のアリコ−ト(1〜5mL)を、使用まで-80℃で保管した。
【実施例4】
【0119】
トリプトファンおよびピルビン酸からのS,S−モナチンの小規模な生体触媒生成
材料
すべての試薬は、分析グレ−ドまたは市販の最高グレ−ドのものとした。S,S−モナチンの形成を触媒するために使用される酵素を、実施例2および3に記載のとおりに精製した。
【0120】
方法および結果
L−トリプトファンおよびピルビン酸からS,S−モナチンを生体触媒によって生成するために、小規模な手順を開発した。酵素反応を、15mLのねじ口プラスチック管にて実行した。リン酸カリウム中の50mMのL−トリプトファン、200mMのピルビン酸、4mMのMgCl2、0.05mMのPLPの溶液(pH 7.8)を、標準的な手順において使用し、この溶液を収容してなる管を、穏やかに混合しつつ室温でインキュベ−トした。反応を開始させるために、酵素溶液を、精製Comamonas testosteroni proAアルドラ−ゼについて0.05g/LおよびHIS6−HEXaspCアミノトランスフェラ−ゼについて0.5g/Lの濃度まで加えた(10mLの最終的な体積)。最終的なリン酸カリウムの濃度は、酵素溶液からのバッファの寄与を含め、25mMであった。界面活性剤であるTween 80(登録商標)およびTriton(登録商標)X−100(0.01〜1%)の添加によって、酵素の沈殿を最小限にした。反応は、酵素の追加後に速やかに進行し、時間とともに速度が低下した。3〜5時間において、50mMのL−トリプトファンの第2のアリコ−トを追加し、反応を24時間まで続けた。反応の進行を、L−トリプトファン、L−アラニン、モナチン、モナチン前駆体(2−ヒドロキシ−2−(1H−インドール−3−イルメチル)−4−オキソ−ペンタン二酸)、およびピルビン酸の濃度を測定することによって見守った。モナチン、トリプトファン、およびアラニンの濃度は、実施例6に記載の蛍光ポスト・カラム誘導体化手順を使用して測定した。モナチン前駆体およびピルビン酸の分析方法は、実施例6に記載されている。10mL規模の実験からの典型的な結果が、表1に示されている。
【0121】
【表1】

【実施例5】
【0122】
生体触媒によるトリプトファンおよびピルビン酸からのS,S−モナチンのベンチ規模の改善された生成
材料
すべての試薬は、分析グレ−ドまたは市販の最高グレ−ドのものとした。S,S−モナチンの形成を触媒するために使用される酵素を、実施例2および3に記載のとおりに生成した。ベンチ規模の生体触媒反応を、INFORS (Bottmingen, Switzerland)という0.7Lのバイオリアクターにて行った。タンパク質を、YM10膜を備えるAmicon (Millipore; Billerica,MA)限外ろ過攪拌セル(Model 8200)を使用し、あるいはMillipore Pellicon(登録商標)50cm2 限外ろ過カ−トリッジ(MWCO 10,000)を使用して反応混合物から除去した。
【0123】
方法および結果
ベンチ規模の生体触媒反応を、0.7Lのリアクターにおいて温度、pH、および攪拌を制御しつつ行った。チッ素雰囲気で反応を行うことによって、酸素触媒による中間体(インドール−3−ピルビン酸)の分解を最小限にした。
【0124】
混合物1(第1の反応混合物):リン酸カリウム中の50mMのL−トリプトファン、200mMのピルビン酸、4mMのMgCl2、および0.05mMのPLPの溶液(pH 7.8、300mL)を、リアクター内に用意し、温度を30℃に、攪拌速度を250rpmに制御した。反応溶液の酸素濃度を最小限にするために、チッ素をリアクターの上部空間に供給し、あるいは液体内へとスパ−ジした。反応の経過におけるpHを監視したところ、7.5〜7.8の範囲であった。いくつかの実験においては、界面活性剤Tween(登録商標)80を、酵素の沈殿を最小限にするために加えた。反応を開始させるために、酵素溶液を、精製Comamonas testosteroni proAアルドラ−ゼについて0.05g/LおよびHIS6−HEXaspCアミノトランスフェラ−ゼについて0.5g/Lの濃度まで加えた。最終的なリン酸カリウムの濃度は、酵素溶液からのバッファの寄与を含め、25mMであった。3〜5時間において、50mMのL−トリプトファンの第2のアリコ−トをリアクターへと加えた。反応の進行を、L−トリプトファン、L−アラニン、モナチン、モナチン前駆体(2−ヒドロキシ−2−(1H−インドール−3−イルメチル)−4−オキソ−ペンタン二酸)、およびピルビン酸の濃度を測定することによって見守った。トリプトファン、モナチン、およびアラニンについては、蛍光ポスト・カラム誘導体化法を使用した。インドール−3−ピルビン酸の濃度は、ヒ酸−ホウ酸分光光度法を使用して分析した。この方法は、定量的ではないが、インドール−3−ピルビン酸の喪失または形成の定性的監視を可能にする。すべての分析方法は、実施例6に記載されている。
【0125】
限外ろ過:一晩(18〜24時間)のインキュベ−ションの後に、タンパク質を限外ろ過によって反応混合物から除去した。反応混合物を、嫌気的に限外ろ過攪拌セルへと移し、タンパク質が除かれた溶液を、前もって酸素をチッ素でパ−ジした閉ボトルに集めた。限外ろ過の工程の間、ボトル内にチッ素のブランケットを維持した。次いで、タンパク質が除かれた反応溶液のアリコ−ト(200mL)を、0.7Lの発酵槽へと嫌気的に移した。あるいは、反応混合物をカ−トリッジを通って再循環させ、透過物をチッ素でパ−ジした0.7Lの第2の閉じたリアクターに集めることによって、反応混合物からタンパク質を除くために、Pellicon(登録商標)限外ろ過カ−トリッジを使用した。
【0126】
混合物2(第2の反応混合物):タンパク質を除いた溶液に、過剰なL−アラニン(L−アラニンの初期の濃度を、下記の表2に示されるとおり0.5Mまたは1.5Mにする)および0.5g/Lの精製HIS6−HEXaspCアミノトランスフェラ−ゼを加えた。温度を30℃に、pHを7.5〜7.8の間に、攪拌速度を250rpmに保った。嫌気環境を維持するために、チッ素を上部空間に連続的に供給した。反応の進行を、L−トリプトファン、L−アラニン、モナチン、モナチン前駆体(2−ヒドロキシ−2−(1H−インドール−3−イルメチル)−4−オキソ−ペンタン二酸)、およびピルビン酸の濃度を測定することによって見守った。インドール−3−ピルビン酸の喪失を、実施例6に記載のとおりヒ酸−ホウ酸分光光度法を使用して分析した。典型的な反応の結果が、表2に示されている。
【0127】
【表2】

【0128】
表2の結果は、タンパク質を取り除いた反応混合物1へと過剰なアミノ基供与体(L−アラニン)およびアミノトランスフェラ−ゼ酵素を加えた場合に、S,S−モナチンの形成を、最大で1.7倍まで向上させることが可能であることを示している。反応1の混合物に存在するモナチン前駆体の多くが、このような条件下においてアミノ化されてモナチンを形成する一方で、インドール−3−ピルビン酸は、より安定なトリプトファンに変換されている(表2にトリプトファン濃度の増加によって示されているとおり)。反応1について小規模と比べたベンチ規模におけるモナチンの力価の増加は、少なくとも部分的には、反応混合物からの酸素の排除および反応温度の上昇に起因している。界面活性剤の添加は、小規模およびベンチ規模の両プロセスにおいてタンパク質の沈殿を最小限にするが、界面活性剤が存在するとき、小規模のプロセスにおいて見られたような生成物濃度の大きな増加は、より大きな反応においては存在しなかった。
【実施例6】
【0129】
モナチン、モナチン前駆体、トリプトファン、アラニン、ピルビン酸、HMO、HMG、およびインドール−3−ピルビン酸の検出
モナチンおよびトリプトファンのLC/MS/MS多重反応モニタリング(MRM)分析
生化学的反応から由来するモナチンおよびトリプトファンの混合物の分析を、Waters 2795液体クロマトグラフを備え、Waters 996フォトダイオ−ド・アレイ(PDA)吸光度モニターをクロマトグラフとMicromass(登録商標)Quattro Ultima(登録商標)三連四重極質量分析計との間に直列に備えているWaters/Micromass(登録商標)液体クロマトグラフィー−タンデム質量分析(LC/MS/MS)計を使用して実行した。LC分離を、40℃でXterraMS C8逆相クロマトグラフィーカラム(2.1mm x 250mm)を使用して行った。LC移動相は、A)(i)0.05%(v/v)のトリフルオロ酢酸、または(ii)0.3%のギ酸および10mMのギ酸アンモニウムを含む水、ならびにB)(i)0.05%(v/v)のトリフルオロ酢酸、または(ii)0.3%のギ酸および10mMのギ酸アンモニウムを含むメタノ−ルで構成されていた。
【0130】
LC移動相が、A)0.05%(v/v)のトリフルオロ酢酸を含む水、およびB) 0.05%(v/v)のトリフルオロ酢酸を含むメタノ−ルで構成されている場合、勾配溶出は、実行の間に2分間の再平衡期間を挟み、5% Bから35% Bまで線形(0〜4分)、35% Bから60% Bまで線形(4〜6.5分)、60% Bから90% Bまで線形(6.5〜7分)、90% Bにおいてアイソクラチック(7〜11分)、90% Bから95% Bまで線形(11〜12分)、95% Bから5% Bまで線形(12〜13分)であった。流量は0.25mL/分であり、PDA吸光度を200nm〜400nmまで監視した。ESI−MSのすべてのパラメ−タを、分析対象のプロトン化分子イオン([M + H]+)の生成および特徴的な断片イオンの生成にもとづいて最適化および選択した。以下の機器パラメ−タを、モナチンおよびトリプトファンのLC/MS/MS多重反応モニタリング(MRM)分析に使用した。すなわち、キャピラリ−:3.5kV;コ−ン:40V;ヘックス(Hex)1:20V;開口部:0V;ヘックス(Hex)2:0V;ソ−ス温度:100℃;脱溶媒温度:350℃;脱溶媒ガス:500L/h;コ−ンガス:50L/h;低質量分解能(Q1):12.0;高質量分解能(Q1):12.0;イオンエネルギー:0.2;入口:50V;衝突エネルギー:8;出口:1V;低質量分解能(Q2):15;高質量分解能(Q2):15;イオンエネルギー(Q2):3.5;増倍管:650。5つのモナチン特有の親−娘のMRMトランジッションを使用して、生体内反応におけるモナチンが特定的に検出される。監視されるトランジッションは、293.1〜158.3、293.1〜168.2、293.1〜211.2、293.1〜230.2、および293.1〜257.2である。トリプトファンは、204.7〜146.4のMRMトランジッションによって監視される。モナチンおよびトリプトファンの内部基準定量化のために、それぞれの分析対象のd5−トリプトファンおよびd5−モナチンに対する4つの異なる比を含む4つの較正基準が分析される。これらのデ−タに線形最小二乗分析が加えられ、モナチンおよびトリプトファンの較正曲線が形成される。それぞれの試料に、固定量のd5−トリプトファンおよびd5−モナチン(d5−モナチンは、WO 2003/091396 A2からの方法によってd5−トリプトファンから合成される)が加えられ、応答の比(モナチン/d5−モナチン;トリプトファン/d5−トリプトファン)が、混合物中のそれぞれの分析対象の量を計算すべく、上述の較正曲線とともに使用される。
【0131】
LC移動相が、A)0.3%のギ酸および10mMのギ酸アンモニウムを含む水、およびB)0.3%のギ酸および10mMのギ酸アンモニウムを含むメタノ−ルで構成されている場合、勾配溶出は、実行の間に4分間の再平衡期間を挟み、5% Bから45% Bまで線形(0〜8.5分)、45% Bから90% Bまで線形(8.5〜9分)、90% Bから90% Bまでアイソクラチック(9〜12.5分)、95% Bから5% Bまで線形(12.5〜13分)であった。流量は0.27mL/分であり、PDA吸光度を210nm〜400nmまで監視した。ESI−MSのすべてのパラメ−タを、分析対象のプロトン化分子イオン([M + H]+)の生成および特徴的な断片イオンの生成にもとづいて最適化および選択した。この第2の移動相について使用した機器パラメ−タは、上述と同じである。4つのモナチン特有の親−娘のMRMトランジッションおよび1つのトリプトファン特有の親−娘のトランジッションを使用して、生体内および生体外反応におけるモナチンおよびトリプトファンが特定的に検出される。監視されるトランジッションは、293.1〜158.0、293.1〜168.0、293.1〜211.5、および293.1〜257.0である。トリプトファンは、205.2〜146.1のMRMトランジッションによって監視される。モナチンおよびトリプトファンの内部基準定量化のために、それぞれの分析対象のd5−トリプトファンおよびd5−モナチンに対する4つの異なる比を含む4つの較正基準が分析される。これらのデ−タに線形最小二乗分析が加えられ、モナチンおよびトリプトファンの較正曲線が形成される。それぞれの試料に、固定量のd5−トリプトファンおよびd5−モナチン(d5−モナチンは、WO 2003/091396 A2からの方法によってd5−トリプトファンから合成される)が加えられ、応答の比(モナチン/d5−モナチン;トリプトファン/d5−トリプトファン)が、混合物中のそれぞれの分析対象の量を計算すべく、上述の較正曲線とともに使用される。d5−トリプトファンおよびd5−モナチンについて監視される親−娘のマス・トランジッションは、それぞれ210.2〜151.1および298.1〜172.0である。
【0132】
モナチンのキラルLC/MS/MS(MRM)測定
生化学的反応におけるモナチンの立体異性体分布の割り出しを、1−フルオロ−2−4−ジニトロフェニル−5−L−アラニンアミド(FDAA)での誘導体化およびその後の逆相LC/MS/MSMRM測定によって行なった。
【0133】
FDAAによるモナチンの誘導体化
50μLの試料またはスタンダ−ドに、200μLの1%FDAAアセトン溶液を添加した。40μLの1.0M重炭酸ナトリウムを加え、混合物を、ときおり混合しつつ40℃で1時間にわたってインキュベ−トした。試料を取り出して冷却し、2.0MのHCl(20μL)で中和した(バッファされた生物学的混合物の中和を達成するためには、より多くのHClを要するであろう)。脱気の完了後に、試料はLC/MS/MSによる分析が可能になった。
【0134】
モナチンの立体異性体分布を割り出すためのLC/MS/MS多重反応モニタリング
上述のLC/MS/MS機器を使用して分析を行なった。モナチン(とくには、FDAA−モナチン)の4種類の立体異性体のすべてを分離することができるLC分離をPhenomenexLuna(登録商標)C18逆相クロマトグラフィーカラム(2.0 x 250mm(3μm))を用いて40℃にて行なった。LC移動相は、A)0.05%(質量/体積)の酢酸アンモニウムを含む水、およびB)アセトニトリルで構成した。溶出は、実行の間に8分間の再平衡化時間を挟み、13% Bでアイソクラチック(0〜2分)、13% Bから30% Bまで線形(2〜15分)、30% Bから80% Bまで線形(15〜16分)、80% Bにおいてアイソクラチック(16〜21分)、および80% Bから13% Bまで線形(21〜22分)であった。流速は0.23mL/分であり、PDA吸光度を200nm〜400nmまで監視した。ESI−MSのすべてのパラメ−タを、FDAA−モナチンのプロトン化分子イオン([M−H]−)の生成および特徴的な断片イオンの生成にもとづいて最適化および選択した。
【0135】
以下の機器パラメ−タを、陰イオンESI/MSモ−ドでのモナチンのLC/MS分析に使用した。すなわち、キャピラリ−:2.0kV;コ−ン:25V;Hex 1:10V;開口部:0V;Hex 2:0V;ソ−ス温度:100℃;脱溶媒温度:350℃;脱溶媒ガス:500L/h;コ−ンガス:50L/h;低質量分解能(Q1):12.0;高質量分解能(Q1):12.0;イオンエネルギー:0.2;入口:−5V;衝突エネルギー:20;出口:1V;低質量分解能(Q2):12;高質量分解能(Q2):12;イオンエネルギー(Q2):3.0;増倍管:650。3つのFDAA−モナチン特有の親−娘のトランジッションを使用して、生体外および生体内反応におけるFDAA−モナチンを特定的に検出した。トランジッションは、543.6〜268.2、543.6〜499.2、および543.6〜525.2であった。FDAA−モナチンの立体異性体の同定を、精製モナチン立体異性体と比べたクロマトグラフィーの保持時間、および質量スペクトルデ−タにもとづいて行った。
【0136】
トリプトファン、モナチン、アラニン、およびHMGを含むアミノ酸の液体クロマトグラフィー−ポスト・カラム蛍光検出
トリプトファン、モナチン、およびアラニンのための手順
生化学的反応においてアミノ酸を測定するために、ポスト−カラム蛍光検出を備える液体クロマトグラフィーを、Waters 474走査型蛍光検出器に組み合わせられたWaters 2690LC systemまたは同等物、およびWatersのポスト−カラム反応モジュ−ルにて実行した(LC/OPA法)。LC分離を、相互作用ナトリウム(Interaction−Sodium)が装填されたイオン交換カラムにおいて60℃で行った。移動相Aは、Pickering Na 328バッファ(PickeringLaboratories, Inc.; Mountain View, CA)とした。移動相Bは、Pickering Na 740バッファとした。勾配溶出は、実行の間に20分間の再平衡期間を挟み、0% Bから100% Bまで〜20分であり、100% Bにおいてアイソクラチック(20〜30分)および100% Bから0% Bまで線形(30〜31分)であった。移動相の流量は、0.5mL/分であった。OPAポスト−カラム誘導体化溶液の流量は、0.5mL/分であった。蛍光検出器の設定は、EX 338nmおよびEm 425nmであった。分析のための内部基準として、ノルロイシンを使用した。アミノ酸の同定を、精製済みの基準についてのクロマトグラフィー保持時間デ−タにもとづいて行った。
【0137】
HMGのための手順
生化学的反応からの試料を、充てん材料としてのC18および溶離剤としての0.6%酢酸を含む固相抽出(SPE)カ−トリッジによって清浄化した。次いで、SPEからの留分を既知の体積まで集め、HPLCポスト−カラムOフタルアルデヒド(OPA)誘導体化を使用して蛍光検出器によって分析した。クロマトグラフィー分離を、Waters 2695液体クロマトグラフィーシステムおよび直列な2つのPhenomenex AquaC18カラム(5μmの粒子を有する2.1mm x 250mmのカラムおよび3μmの粒子を有する2.1mm x 150mmのカラム)を使用して可能にした。カラムの温度を40℃とし、カラムのアイソクラチックな流速を、0.18mL/分とした。移動相は、0.6%の酢酸である。OPAポスト−カラム誘導体化および検出のシステムは、Waters Reagent Manager(RMA)、反応コイル・チャンバ、反応コイル・チャンバのための温度制御モジュ−ル、およびWaters 2847蛍光検出器で較正されている。OPA流量を0.16mL/分とし、反応コイル・チャンバを80℃とした。蛍光検出器を、348nmの励起波長および450nmの放射波長に設定した。信号の利得および減衰などといった検出器の感度を制御する他のパラメ−タは、実験の必要に合わせた。HMGの定量化を、グルタミン酸のモル応答にもとづいて行った。
【0138】
LC−UV/Visによるモナチン(2−ヒドロキシ−2−(1H−インドール−3−イルメチル)−4−アミノグルタル酸)およびトリプトファンの検出
液体クロマトグラフィー分離を、Waters 2690液体クロマトグラフィーシステムおよび2.1mm x 150mmのAgilent Eclipse XDB−C18 5.0μm逆相クロマトグラフィーカラムを使用し、0.22mL/分の流量および以下の勾配条件で行った。
【0139】
【表3】

【0140】
移動相Aは、10mMのギ酸アンモニウムを有する0.3%(v/v)のギ酸であり、移動相Bは、50/50 (v/v)のメタノ−ル/アセトニトリル中の10mMのギ酸アンモニウムを有する0.3%(v/v)のギ酸である。カラムの温度は、40℃とした。検出を、280nmで動作しているWaters 996 フォトダイオ−ド・アレイ(PDA)を使用して行った。典型的には、10〜500ppmの較正範囲を使用した。
【0141】
LC/MSによるモナチン前駆体(2−ヒドロキシ−2−(1H−インドール−3−イルメチル)−4−オキソ−ペンタン二酸)の検出
液体クロマトグラフィー分離を、Waters 2690液体クロマトグラフィーシステムおよび2.1mm x 50mmのAgilent Eclipse XDB−C18 1.8μm逆相クロマトグラフィーカラムを使用し、2.5mL/分の流量および以下の勾配条件で行った。
【0142】
【表4】

【0143】
移動相Aは、10mMのギ酸アンモニウムを有する0.3%(v/v)のギ酸であり、移動相Bは、50:50のメタノ−ル/アセトニトリル中の10mMのギ酸アンモニウムを有する0.3%のギ酸である。カラムの温度は、40℃であった。
【0144】
負エレクトロスプレイ・イオン化モ−ド(−ESI)にて動作するMicromass ZQ四重極質量分析計のパラメ−タを、以下のように設定した。すなわち、キャピラリ−:2.2kV;コ−ン:35V;抽出器:4V;RFレンズ:1V;ソ−ス温度:120℃;脱溶媒温度:380℃;脱溶媒ガス:600L/h;コ−ンガス:オフ;低質量分解能:15.0;高質量分解能:15.0;イオンエネルギー:0.2;増倍管:650。単一のイオンモニタリングMS実験装置を、m/z 290.3、210.3、184.3、および208.4の選択的な検出を可能にするように設定した。m/z 208.4が、内部基準d5−トリプトファンの脱プロトン化分子[M−H]イオンである。
【0145】
LC/MS/MSによるモナチン前駆体の検出
LC分離を、Waters HPLC液体クロマトグラフィーシステムおよび2.1mm x 50mmのAgilent Eclipse XDB−C18 1.8μm逆相クロマトグラフィーカラムを使用し、0.25mL/分の流量および以下の勾配条件で行った。
【0146】
【表5】

【0147】
移動相Aは、10mMのギ酸アンモニウムを有する0.3%(v/v)のギ酸であり、Bは、50:50のメタノ−ル/アセトニトリル中の10mMのギ酸アンモニウムを有する0.3%のギ酸である。カラムの温度は、40℃であった。
【0148】
負エレクトロスプレイ・イオン化モ−ド(−ESI)にて動作するLC/MS/MS多重反応モニタリング(MRM)実験のためのWaters Premier XE三連四重極質量分析計のパラメ−タを、以下のように設定した。すなわち、キャピラリ−:3.0kV;コ−ン:25V;抽出器:3V;RFレンズ:0V;ソ−ス温度:120℃;脱溶媒温度:350℃;脱溶媒ガス:650L/h;コ−ンガス:47L/hr;低質量分解能(Q1):13.5;高質量分解能(Q1):13.5;イオンエネルギー(Q1):0.5V;入口:1V;衝突エネルギー:18V;出口 1:19;低質量分解能(Q2):15;高質量分解能(Q2):15;イオンエネルギー(Q2):2.0;増倍管:650。4つの親−娘のMRMトランジッションを監視して、モナチン前駆体(MP)およびd5−モナチン前駆体(d5−MP)を選択的に検出した。d5−MPを内部基準(I.S.)として使用した。4つのMRMトランジッションは、290.1〜184.1、290.1〜210.1、290.1〜228.1、および295.1〜189.1である。これらのトランジッションのうちの2つ、すなわちMPについての290.1〜184.1およびd5−MPについての295.1〜189.1を、較正曲線の生成および定量化の目的のために使用した。290.1〜210.1および290.1〜228.1のトランジッションを、MPの定性的な二次確認として使用した。
【0149】
屈折率の検出によるHPLCでのピルビン酸の測定
ピルビン酸およびα−ケトグルタル酸などの他の有機酸を、屈折率検出器を備える高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)システムを使用して測定した。システムを、Waters 2690およびWaters 2414屈折率検出器で較正した。
【0150】
いくつかの場合において、化合物の分離を、Aminex(登録商標)HPX−87H(300 x 7.8mmのイオン交換カラム)を使用して、35〜60℃で定組成溶離によって行った。溶離液を、水中の0.01Nの硫酸とし、流量を0.5−0.6mL/分とした。分析対象の試料を、酸が解離していない形態であることを保証するため、移動相に溶出させた。試料を、0.2μmのフィルタ−でのろ過の後に分析した。注入体積は10μLであった。良好な線形性を有する基準曲線が、それぞれの酸について、0.6〜5g/Lの間のピルビン酸濃度について作成された。
【0151】
下流のプロセスを説明する実施例において、クロマトグラフィー分離を、Waters 2690液体クロマトグラフィーシステムおよび2つのRestek Aqueous Allure−C18 5.0μm逆相クロマトグラフィーカラム(4.6mm x 250mm)を使用して、0.8mL/分の流量で行った。移動相は、50mMリン酸バッファ(リン酸にてpH 2.5)とし、アイソクラチックな条件のもとで流した。これらのカラムを、50℃の温度に保持した。RI検出器を、32の感度設定にて50℃で動作させた。500〜2500ppmの基準曲線を使用した。
【0152】
四ホウ酸ナトリウムを使用したインドール−3−ピルビン酸の検出
この手順は、インドール−3−ピルビン酸のエノ−ル型のホウ酸複合体を測定する。
標準液またはインドール−3−ピルビン酸を含む反応混合物試料(0.005mL)を、96穴のマイクロ力価プレ−トにおいて、0.5mMのEDTAおよび0.5mMのヒ酸ナトリウムを含む50mMの四ホウ酸ナトリウム(pH 8.5、0.2mL)へと加えた。次いで、マイクロ力価プレ−トを30℃でインキュベ−トし、327nmにおける吸光度を測定した。生成される色が安定でないため、すべての測定を、インドール−3−ピルビン酸溶液の添加の正確に30分後に行った。100%のエタノ−ルに溶解させた0〜10mMのインドール−3−ピルビン酸を、標準曲線のために使用した。これらの溶液を、アッセイの間、−20℃で保存した。
【0153】
ヒドロキシアミン誘導体化法およびUPLC/MSを使用するHMO分析
HMO分析を、最初にアリコ−トをあらかじめ希釈した生化学的反応の試料から取り出し、次いで超音波室温水槽において25分にわたってp−ニトロベンジル・ヒドロキシルアミン(NBHA)塩酸塩(ピリジンにおいて作成)を使用することによって誘導体化することによって実行した。誘導体化プロセスの完了後に、反応混合物を既知の体積まで水でさらに希釈し、超性能液体クロマトグラフィー質量分析(UPLC/MS)を加えた。UPLC/MSシステムには、260nm〜499nmの波長領域を監視するように設定されたフォトダイオ−ド・アレイ(PDA)検出器が含まれている。LC分離を、上述のWatersUPLCシステムおよび2.1mm x 100mmのAgilent Eclipse XDB−C18 1.8μm逆相クロマトグラフィーカラムを使用し、0.24mL/分の流量に設定し、以下の勾配条件を採用して行った。
【0154】
【表6】

【0155】
*移動相Aは、10mMのギ酸アンモニウムを有する0.3%(v/v)のギ酸であり、Bは、50:50のMeOH/アセトニトリル中の10mMのギ酸アンモニウムを有する0.3%のギ酸である。カラムの温度は45℃とした。
【0156】
負エレクトロスプレイ・イオン化モ−ド(−ESI)にて動作するLC/MS走査モ−ド実験のためのWaters Premier XE三連四重極質量分析計のパラメ−タを、以下のように設定した。すなわち、キャピラリ−:3.0kV;コ−ン:25V;抽出器:3V;RFレンズ:0V;ソ−ス温度:120℃;脱溶媒温度:350℃;脱溶媒ガス:650L/h;コ−ンガス:47L/hr;低質量分解能(Q1):13.5;高質量分解能(Q1):13.5;イオンエネルギー(Q1):0.5V;入口:30V;衝突エネルギー:3V;出口 1:30;低質量分解能(Q2):15;高質量分解能(Q2):15;イオンエネルギー(Q2):2.0;増倍管:650。120M/z〜1000M/zのマス走査範囲のMS法を、HMO−NBHAおよび2−オキソグルタミン−NBHA誘導体の定性的同定のために使用した。HMO−NBHAの定量化を、275nm の波長で測定される2−オキソグルタミン−NBHA誘導体のモル応答にもとづいて行った。
【実施例7】
【0157】
B. sphaericus D−アラニン・アミノトランスフェラ−ゼの発現および精製
細胞の培養および遺伝子の導入を、Overnight Express System II(EMD Biosciences/Novagen; Madison, WI)を使用して行った。他のすべての材料は、HIS6−HEXaspCアミノトランスフェラ−ゼの精製に使用したものと同じである。
B. sphaericus D−アラニン・アミノトランスフェラ−ゼをコードしている遺伝子のクロ−ニングは、ここに出典明示して本明細書の一部とみなす米国特許出願公開第2006/0252135号の実施例20に記載されている。
【0158】
アミノ末端HIS6−精製タグを有するB. sphaericus D−アラニン・アミノトランスフェラ−ゼを、振盪フラスコに50 μg/mLのカナマイシンを含むOvernight Express System II (溶液1〜6)を使用して生成した。この発現システムは、細胞の培養を監視する必要なく、IPTG−誘導可能な系の発現を誘導する。BL21(DE3):: B. sphaericus dat pET30aの液体培養物またはグリセロ−ル・ストックからの培地のアリコ−ト(200mL)を(1Lのフラスコに)接種した後で、培養物を225rpmで振盪させつつ一晩にわたって30℃でインキュベ−トした。OD600が6を超えたときに、細胞を、JS−16.25ロ−タを備えるBeckman (Fullerton, CA) J25II遠心分離器における10分間にわたる10,000rpmでの遠心分離によって収穫した。細胞ペレットを低温バッファで1回洗浄し、細胞を再び遠心分離した。洗浄後の細胞ペレットを収穫して速やかに使用し、あるいは精製に必要とされるまで−80℃で冷凍した。B. sphaericus HIS6−D−アラニン・アミノトランスフェラ−ゼ(HIS6−BsphDAT)タンパク質を含む無細胞抽出物を作成するため、細胞を50mMのリン酸カリウム(pH 7.8、0.5μmのPLPを含む)の3〜4容に懸濁させ、懸濁液の温度を15℃未満に保ちつつ、Microfluidics (Newton,MA)のホモジナイザ−を使用(20,000 psiで3回の通過)して破壊した。あるいは、細胞抽出物を、1μL/mLの BenzonaseR Nuclease (EMD Bioscience)、5μL/mLのProtease Inhibitor Cocktail Set II (EMD Bioscience)、および0.33μL/mL rLysozyme(商標)(EMD Bioscience)を含むNovagen BugBuster (primary amine−free) Extraction Reagent (EMD Bioscience; Madison, WI)を使用し、製造者の指定に従って作成した。いずれの場合も、JS−25ロ−タを備えるBeckman J25II遠心分離器において30分間にわたる15,000rpmでの遠心分離によって細胞残屑を除去し、無細胞抽出物を生成した。HIS6−標識タンパク質の以後のすべての精製工程は、4℃で実行した。600mLのOvernight Express II培養物からの無細胞抽出物を、前もって200mMの塩化ナトリウムおよび50μmのPLPを含む100mMのリン酸カリウム(pH 7.8)で平衡させたGE Healthcare (Piscataway, NJ) Chelating Sepharose(商標) Fast Flow樹脂(ニッケル(II)型)を含む2つの40〜45mLのカラムに加えた。試料の装填後に、3〜5容の平衡バッファ、25mMのイミダゾ−ルを含む3〜5容の平衡バッファ、50〜100mMのイミダゾ−ルを含む3〜5容の平衡バッファ、および500mMのイミダゾ−ルを含む3〜5容の平衡バッファで順にカラムの洗浄/溶出を行った。HIS6−BsphDATが、最後の洗浄において溶出した。500mMのイミダゾ−ルでの洗浄物を、Amicon (Billerica,MA) Centricon−70またはUltra−15遠心分離フィルタ−装置(MWCO 10 kDa)で濃縮した。イミダゾ−ルおよび塩化ナトリウムを、前もって50μmのPLPを含む100mMのリン酸カリウム(pH 7.8)で平衡させた使い捨てのGE Healthcare PD10脱塩カラムに通すことによって除去した。脱塩後の溶液のタンパク質濃度を、Pierce BCAアッセイ・キット(Rockford, IL)を使用して測定した。それぞれの留分の純度および無細胞抽出物留分の発現のレベルを、Bio Rad (Hercules, CA) Experion Pro260Microcapillary chip systemを使用して測定し、あるいは4〜15%の勾配ゲルでSDS−PAGEによって測定した。典型的には、この手順は、Experionソフトウェアでの判定にて約90%の純度である300mg超の酵素を(600mLのOvernight Express II培養物から)もたらす。精製後の酵素のアリコ−ト(1〜5mL)を、使用まで-80℃で保存した。
【実施例8】
【0159】
アルドラ−ゼの発現および精製
材料
細胞の培養および遺伝子の導入を、Overnight Express System II(EMD Biosciences/Novagen; Madison, WI)を使用して行った。他のすべての材料は、HIS6−HEXaspCアミノトランスフェラ−ゼの精製において使用したものと同じである。
【0160】
アルドラ−ゼをコードしている遺伝子のクロ−ニングが、ここに出典明示してその全てを本明細書の一部とみなす米国特許出願公開第2006/0252135号の実施例3に記載されている(本明細書のアルドラ−ゼは、この参考文献の配列番号:22に関連する)。
【0161】
アミノ末端HIS6−精製タグを有するアルドラ−ゼを、振盪フラスコに50μg/mLのカナマイシンを含むOvernight Express System II (溶液1〜6)を使用して生成した。この発現システムは、細胞の培養を監視する必要なく、IPTG−誘導可能な系の発現を誘導する。構築体の液体培養物またはグリセロ−ル・ストックからの培地のアリコ−ト(200mL)を(1Lのフラスコに)接種した後で、培養物を225rpmで振盪させつつ一晩にわたって30℃でインキュベ−トした。OD600が6を超えたときに、細胞を、JS−16.25ロ−タを備えるBeckman (Fullerton, CA) J25II遠心分離器における10分間にわたる10,000rpmでの遠心分離によって収穫した。細胞ペレットを低温バッファで1回洗浄し、細胞を再び遠心分離した。洗浄後の細胞ペレットを収穫して速やかに使用し、あるいは精製に必要とされるまで−80℃で冷凍した。HIS6−標識アルドラ−ゼを含む無細胞抽出物を、1μL/mLの BenzonaseR Nuclease (EMD Bioscience)、5μL/mLのProtease Inhibitor Cocktail Set II (EMD Bioscience)、および0.33μL/mL rLysozyme(商標)(EMD Bioscience)を含むNovagen BugBuster (primary amine−free) Extraction Reagent (EMD Bioscience; Madison, WI)を使用し、製造者の指定に従って作成した。JS−25ロ−タを備えるBeckman J25II遠心分離器において30分間にわたる15,000rpmでの遠心分離によって細胞残屑を除去し、無細胞抽出物を生成した。HIS6−標識タンパク質の以後のすべての精製工程は、4℃で実行した。800mLのOvernight Express II培養物からの無細胞抽出物を、前もって200mMの塩化ナトリウムを含む100mMのリン酸カリウム(pH 7.8)で平衡させたGE Healthcare (Piscataway, NJ) Chelating Sepharose(商標)Fast Flow樹脂(ニッケル(II)型)のカラムに加えた。試料の装填後に、3〜5容の平衡バッファ、25mMのイミダゾ−ルを含む3〜5容の平衡バッファ、50〜100mMのイミダゾ−ルを含む3〜5容の平衡バッファ、および500mMのイミダゾ−ルを含む3〜5容の平衡バッファで順にカラムの洗浄/溶出を行った。HIS6−タグを有するアルドラ−ゼが、最後の洗浄において溶出した。500mMのイミダゾ−ルでの洗浄物を、Amicon (Billerica,MA) Centricon−70またはUltra−15遠心分離フィルタ−装置(MWCO 10 kDa)で濃縮した。イミダゾ−ルおよび塩化ナトリウムを、前もって200mMの塩化ナトリウムおよび4mMのMgCl2を含む100mMのリン酸カリウム(pH 7.8)で平衡させた使い捨てのGE Healthcare PD10脱塩カラムに通すことによって除去した。脱塩後の溶液のタンパク質濃度を、Pierce BCAアッセイ・キット(Rockford, IL)を使用して測定した。それぞれの留分の純度および無細胞抽出物留分の発現のレベルを、Bio Rad (Hercules, CA) Experion Pro260Microcapillary chip systemを使用して測定し、あるいは4〜15%の勾配ゲルでSDS−PAGEによって測定した。典型的には、この精製手順は、Experionソフトウェアでの判定にて85〜90%の純度である18〜20mg超の酵素を(800mLのOvernight Express II培養物から)もたらす。精製後の酵素のアリコ−ト(1mL)を、使用まで−80℃で保存した。
【実施例9】
【0162】
2つの反応段階を使用するD−トリプトファンおよびピルビン酸からのR,R−モナチンの小規模な生体触媒生成
材料
すべての試薬は、分析グレ−ドまたは市販の最高グレ−ドのものとした。R,R−モナチンの形成を触媒するために使用されるB. sphaericus HIS6−標識D−アラニン・アミノトランスフェラ−ゼおよびHIS6−標識アルドラ−ゼを、実施例7および8に記載のとおりに精製した。
【0163】
方法および結果
D−トリプトファンおよびピルビン酸からR,R−モナチンを生体触媒によって生成するための小規模な手順であって、反応混合物から酸素を排除することによって中間体であるインドール−3−ピルビン酸の酸素触媒による分解を最小限にする手順を開発した。酵素反応を、ストッパおよびアルミニウム・シールを有する10−mLのガラス血清ボトルにおいて実行した。
【0164】
反応1:200mMのピルビン酸ナトリウム、4mMのMgCl2、および50μmのPLPのリン酸カリウム溶液(pH 7.8)を、100mLの血清ボトルに作成した。ボトルにストッパを取り付け、シールを行い、次いで液体を数分間にわたってチッ素でパ−ジした。この溶液のアリコ−トを、固体D−トリプトファンを含む10−mLの血清ボトルへと嫌気的に移した。これらの10−mLのボトルをストッパおよびアルミニウム・シールで前もって閉じ、次いでチッ素でパ−ジした。酵素溶液を、精製HIS6−標識アルドラ−ゼについて0.05 g/LおよびHIS6−D−アラニン・アミノトランスフェラ−ゼについて0.5 g/Lの濃度まで加えた(7mLの最終的な体積)。最終的なリン酸カリウムの濃度は、酵素溶液からのバッファの寄与を含め、25mMであった。D−トリプトファンの最終濃度は、100mMであった。反応ボトルを、穏やかに混合しつつ室温でインキュベ−トし、酵素の添加の5時間および20時間後にサンプリングを行った。界面活性剤Tween−80の酵素安定化効果を、この界面活性剤を0.1%および0.01%で反応混合物の一部へと加えることによって測定した。反応の進行を、D−トリプトファン、D−アラニン、R,R−モナチン、R−モナチン前駆体(2−ヒドロキシ−2−(1H−インドール−3−イルメチル)−4−オキソ−ペンタン二酸)、およびピルビン酸を測定することによって見守った。トリプトファン、アラニン、およびモナチンの濃度を、蛍光ポスト・カラム誘導体化法を使用して測定した。すべての分析方法は、実施例6に記載されている。
一晩のインキュベ−ションの後で、Amicon Ultra−15遠心分離フィルタ−装置(MWCO 10 kDa)を使用した限外ろ過によって、タンパク質を反応混合物から除去した。
【0165】
反応2:タンパク質を除いた溶液を、固体D−アラニンを含む10−mLの血清ボトルへと加えた。これらの10−mLのボトルは、前もってストッパおよびアルミニウム・シールで閉じて、チッ素でパ−ジしておいた。次いで、反応を開始させるため、HIS6− D−アラニン・アミノトランスフェラ−ゼを0.5mg/mLの最終濃度で加えた(最終的な体積は5mL)。D−アラニンの最終的な濃度は、1500mMであった。反応ボトルを、穏やかに混合しつつ室温でインキュベ−トし、酵素の添加の4時間および20時間後にサンプリングを行った。反応の進行を、D−トリプトファン、D−アラニン、R,R−モナチン、R−モナチン前駆体(2−ヒドロキシ−2−(1H−インドール−3−イルメチル)−4−オキソ−ペンタン二酸)、およびピルビン酸を測定することによって見守った。トリプトファン、アラニン、およびモナチンの濃度を、蛍光ポスト・カラム誘導体化法を使用して測定した。ピルビン酸の濃度は、LC−RI法および分離のためのAminex(登録商標)カラムを使用して測定した。すべての分析方法は、実施例6に記載されている。
【0166】
【表7】

【実施例10】
【0167】
B. sphaericus D−アラニン・アミノトランスフェラ−ゼの固定
Bacillus sphaericus D−アラニン・アミノトランスフェラ−ゼを、実施例7に記載のようにHIS6−標識タンパク質として精製した。
酵素を、Mateoら(2002)の手順に従ってEupergit(登録商標)C250L樹脂ビーズに固定した。48mgの精製済み酵素(9.3mg/mLで5.2mL)に、0.5Mの最終濃度および7.8のpHまでリン酸カリウムを加え、0.05mMの最終濃度までピリドキサル・リン酸(PLP)を加えた。得られた溶液を、Sigma−Alrich (St.Louis,MO)から購入した0.4gのEupergit(登録商標)C250L樹脂と混合した。酵素−樹脂の懸濁を、穏やかに混合しつつ一晩のあいだ室温でインキュベ−トした。樹脂ビーズを、5分間にわたる4000xgの遠心分離によって酵素溶液から分離した。浮遊物を取り除き、樹脂を0.05mMのPLPを含むpH 7.8の3 x 5mLの100mMリン酸カリウムで洗浄した。洗浄の間に、混合物を5分間にわたって4000xgで遠心分離した。樹脂へと結合したタンパク質の量を、各洗浄においてタンパク質の量を測定し、合計を固定されるべきタンパク質の元の量から引き去ることによって割り出した。タンパク質の濃度を、ウシ血清アルブミンを標準としてPierce(Rockford, IL)BCA(商標)タンパク質アッセイ・キットを使用して測定した。固定されて洗浄された酵素ビーズを、0.05mMのPLPを含む3mLの100mMリン酸カリウム(pH 7.8)に最終的に懸濁させた。固定された酵素ビーズの未反応のエポキシ基を、穏やかに混合しつつ室温で1.4Mのグリシンでインキュべ−ションすることによってブロックした。24時間後に、ビーズを0.05mMのPLPを含む4 x 10mLの50mM EPPS(pH 8.4)で洗浄して余分なグリシンを取り除き、最後に、0.05mMのPLPを含む5mLの50mM EPPS(pH 8.4)に再懸濁させた。固定された酵素の最終の濃度は、1gの樹脂ビーズにつき66mgのタンパク質であった。
【0168】
参考文献:Mateo, C., Abain, O., Fernandez−Lorente, G., Pedroche, J., Fernandez−Lafuente, R., Guisan, J.M., Tam, A., and Daminati,M., Biotechnology Progress 18(3): 629−634 (2002).
【実施例11】
【0169】
配列番号:2のアルドラ−ゼをコードする配列番号:1のアルドラ−ゼ遺伝子のクロ−ニング
配列番号:2のアルドラ−ゼをコードしている遺伝子(この遺伝子のDNA配列が、配列番号:1として示されている)を、酵素の精製を可能にするためのN−末端His−タグを備えるpET28b発現ベクター(EMD Biosciences/Novagen,Madison, WI)へとサブクローニングした。また、この遺伝子を、pET30a(タグなし)へもクローニングした。
【0170】
クロ−ニングに使用したプライマを以下に示す。
5'−ATAAGACATATGCCTATCGTTGTTACGAAG−3'(NdeI 制限酵素認識部位)(配列番号:5)、および
5'−ATAAGAGGATCCTTATTCCTCGGGCAGCCGCTC−3'(BamHI制限酵素認識部位)(配列番号:6)。
【0171】
配列番号:1を含むクローンを、Diversa Corporation, San Diego, CAから受け取り、PCRのテンプレ−トとして使用した。しかしながら、配列番号:1を、当業者に公知の他の方法によって再現することも可能である。例えば、配列番号:1を、アセンブリPCR法を利用して再現することができる。配列番号:1をPCRによって増幅し、制限酵素NdeIおよびBIによって消化し、アガロ−ス・ゲルから精製した(QIAquick(登録商標)Gel extraction Kit(Qiagen, Valencia, CA))。消化物を、NdeIおよびBamHIで消化したpET28b(EMD Biosciences/NovagenMadison, WI)およびpET30aへと連結し、ゲルを精製した。連結を、TOP10 E. coli細胞へと形質転換した(Invitrogen, Carlsbad, CA)。コロニ−からのプラスミドDNAを、アガロ−ス・ゲルの電気泳動を使用したサイズ比較によって、インサ−トの存在について分析した。予測されたサイズのインサ−トを有する単離体を、DNA配列分析(Agencourt, Beverly,MA)のために供した。
【0172】
配列番号:2のアルドラ−ゼをコードする遺伝子配列番号:1のDNA配列が、以下に示されている。
atgcctatcg ttgttacgaa gatcgaccga cccagcgcgg cggacgtcga aaggatcgcc gcctatggtg
tcgcgacctt gcatgaagcg caaggacgaa ccgggttgat ggcgtccaat atgcgcccaa tctatcgccc
tgcgcacatt gccgggcccg cggtgacctg ccttgtggcg cctggcgaca attggatgat ccatgtcgcc
gtcgaacagt gccagccggg agatgtcctg gtcgtggtac cgaccagccc ctgcgaagac ggctatttcg
gcgatctgct ggcgacctcg ctgcggtcgc gcggggtcaa aggtctgatc atcgaggccg gcgtacgcga
tatcgcgaca ttgaccgaga tgaaattccc ggtctggtcc aaggcggtgt tcgcgcaagg aacggtcaag
gagaccatcg ccagcgtcaa tgtgcccctc gtctgcgcgg gcgcccgcat cgtgccgggc gatctgatcg
ttgccgacga cgacggggtc gtcgtgattc caagacgttc cgttccggcg gtcctttcca gcgccgaggc
ccgcgaagag aaggaagccc gcaaccgcgc ccgcttcgaa gctggcgagc tgggcctcga cgtctacaac
atgcgccagc gcctggccga caagggcttg cgctatgtcg agcggctgcc cgaggaatag (配列番号:1)。
【0173】
配列番号:2のアルドラ−ゼのタンパク質配列は、以下のとおりである。
Met Pro Ile Val Val Thr Lys Ile Asp Arg Pro Ser Ala Ala Asp Val Glu ArgIle Ala Ala Tyr Gly Val Ala Thr Leu His Glu Ala Gln Gly Arg Thr Gly LeuMet Ala Ser Asn Met Arg Pro Ile Tyr Arg Pro Ala His Ile Ala Gly Pro AlaVal Thr CysLeu Val Ala Pro Gly Asp Asn Trp Met Ile His Val Ala Val Glu Gln Cys Gln Pro Gly Asp Val Leu Val Val Val Pro Thr Ser Pro Cys Glu AspGly Tyr Phe Gly Asp Leu Leu Ala Thr Ser Leu Arg Ser Arg Gly Val Lys GlyLeu Ile Ile Glu Ala Gly Val Arg Asp Ile Ala Thr Leu Thr Glu Met Lys PhePro Val Trp Ser Lys Ala Val Phe Ala Gln Gly Thr Val Lys Glu Thr Ile AlaSer Val Asn Val Pro Leu Val Cys Ala Gly Ala Arg Ile Val Pro Gly Asp LeuIle Val Ala Asp Asp Asp Gly Val Val Val Ile Pro Arg Arg Ser Val Pro AlaVal Leu Ser Ser Ala Glu Ala Arg Glu Glu Lys Glu Ala Arg Asn Arg Ala ArgPhe Glu Ala Gly Glu Leu Gly Leu Asp Val Tyr Asn Met Arg Gln Arg Leu AlaAsp Lys Gly Leu Arg Tyr Val Glu Arg Leu Pro Glu Glu (配列番号:2)。
【実施例12】
【0174】
配列番号:2のアルドラ−ゼの精製
細胞の培養および遺伝子の導入を、Overnight Express System II(EMD Biosciences/Novagen; Madison, WI)を使用して実行した。他のすべての材料は、HIS6−HEXaspCアミノトランスフェラ−ゼの精製において使用したものと同じである。
配列番号:2のアルドラ−ゼをコ−ドする遺伝子のクロ−ニングは、実施例11に記載されている。
【0175】
アミノ末端HIS6−精製タグを有する配列番号:2のアルドラ−ゼを、振盪フラスコに50μg/mLのカナマイシンを含むOvernight Express System II (溶液1〜6)を使用して生成した。pET28b構築体の液体培養物またはグリセロ−ル・ストックからの培地のアリコ−ト(200mL)を(1Lのフラスコに)接種した後で、培養物を225rpmで振盪させつつ一晩にわたって30℃でインキュベ−トした。OD600が6を超えたときに、細胞を、JS−16.25ロ−タを備えるBeckman (Fullerton, CA) J25II遠心分離器における10分間にわたる10,000rpmでの遠心分離によって収穫した。細胞ペレットを低温バッファで1回洗浄し、細胞を再び遠心分離した。洗浄後の細胞ペレットを収穫して速やかに使用し、あるいは精製に必要とされるまで−80℃で冷凍した。HIS6−標識配列番号:2のアルドラ−ゼを含む無細胞抽出物を、1μL/mLのBenzonase(登録商標)Nuclease(EMD Bioscience)、5μL/mLのProtease Inhibitor Cocktail Set II (EMD Bioscience)、および0.33μL/mL rLysozyme(商標)(EMD Bioscience)を含むNovagen BugBuster (primary amine−free) Extraction Reagent (EMD Bioscience; Madison, WI)を使用し、製造者の指定に従って作成した。細胞残屑を、JS−25ロ−タを備えるBeckman J25II遠心分離器において30分間にわたる15,000rpmでの遠心分離によって除去し、無細胞抽出物を生成した。HIS6−標識タンパク質の以後のすべての精製工程は、4℃で実行した。2 x 200mLのOvernight Express II培養物からの無細胞抽出物を、前もって200mMの塩化ナトリウムを含む100mMのリン酸カリウム(pH 7.8)で平衡させたGE Healthcare (Piscataway, NJ) Chelating Sepharose(商標) Fast Flow樹脂(ニッケル(II)型)のカラムに加えた。試料の装填後に、25mMのイミダゾ−ルを含む3〜5容の平衡バッファ、50〜100mMのイミダゾ−ルを含む3〜5容の平衡バッファ、および500mMのイミダゾ−ルを含む3〜5容の平衡バッファで順にカラムの洗浄/溶出を行った。HIS6−タグ付けされた配列番号:2のアルドラ−ゼが、最後の洗浄において溶出した。500mMのイミダゾ−ルでの洗浄物を、Amicon(Billerica,MA)Centricon−70またはUltra−15遠心分離フィルタ−装置(MWCO 10 kDa)で濃縮した。イミダゾ−ルおよび塩化ナトリウムを、前もって100mMのリン酸カリウム(pH 7.8)で平衡させた使い捨てのGE Healthcare PD10脱塩カラムに通すことによって除去した。酵素は、4mMのMgCl2、200mMのNaCl、および/または0.01%のTween−80が溶出バッファへと加えられた場合、脱塩工程の後で可溶性(タンパク質溶液の混濁によって判断)が低くなった。脱塩後の溶液のタンパク質濃度を、Pierce BCAアッセイ・キット(Rockford, IL)を使用して測定した。それぞれの留分の純度および無細胞抽出物留分の発現のレベルを、Bio Rad(Hercules, CA) Experion Pro260Microcapillary chip systemを使用して測定し、あるいは4〜15%の勾配ゲルでSDS−PAGEによって測定した。典型的には、この精製手順は、Experionソフトウェアでの判定にて85〜90%の純度である50〜80mgの酵素を(400mLのOvernight Express II培養物から)もたらす。精製後の酵素のアリコ−ト(1mL)を、使用まで−80℃で保存した。
【実施例13】
【0176】
配列番号:2のアルドラ−ゼの固定
配列番号:2のアルドラ−ゼを、実施例12に記載のようにHIS6−標識タンパク質として精製した。
酵素を、Mateoら(2002)の手順に従ってEupergit(登録商標)C樹脂ビーズに固定した。20.4mgの精製済み酵素(1.45mg/mLで14.1mL)に、0.5Mの最終濃度および7.8のpHならびに1mMのMgCl2の最終濃度までリン酸カリウムを加えた。得られた溶液を、Sigma−Alrich (St.Louis,MO)から購入した0.2gのEupergit(登録商標)C250L樹脂と混合した。酵素−樹脂の懸濁を、穏やかに混合しつつ一晩のあいだ室温でインキュベ−トした。樹脂ビーズを、5分間にわたる4000xgの遠心分離によって酵素溶液から分離した。浮遊物を取り除き、樹脂を1mMのMgCl2を含む3x5mLの100mMリン酸カリウム(pH 7.8)で洗浄した。洗浄の間に、混合物を5分間にわたって4000xgで遠心分離した。樹脂へと結合したタンパク質の量を、実施例10に記載したBacillus sphaericusからのアミノトランスフェラ−ゼの固定について説明したように測定した。固定されて洗浄された酵素ビーズを、1mMのMgCl2を含む3mLの100mMリン酸カリウム(pH 7.8)に最終的に懸濁させた。固定された酵素ビーズの未反応のエポキシ基を、穏やかに混合しつつ室温で1.4Mのグリシンでインキュべ−ションすることによってブロックした。24時間後に、ビーズを1mMのMgCl2を含む4x10mLの50mM EPPS(pH 8.4)で洗浄して余分なグリシンを取り除き、最後に、1mMのMgCl2を含む5mLの50mM EPPS(pH 8.4)に再懸濁させた。固定された酵素の最終の濃度は、1gの樹脂ビーズにつき90mgのタンパク質であった。
【実施例14】
【0177】
精製タグなしでクローニングされた配列番号:2のアルドラ−ゼの発現
配列番号:1の遺伝子を、標準的な分子生物学の手順を使用して、NgoMIV制限酵素認識部位およびベ−タ・ラクタマーゼ遺伝子(bla)の容易な除去のために追加された第2のpsiI制限酵素認識部位に挿入されたE. coli MetE遺伝子およびプロモ−タを含むpET23dベクター(Novagen,Madison, WI)の誘導体へとサブクローニングした。myo−イノシト−ル・オキシゲナ−ゼ遺伝子のためのインサ−トを含むこのベクターの構成が、PCT WO 2006/066072の実施例2および20に記載されている。このアルドラ−ゼ・インサ−トを、DNA配列決定(Agencourt Bioscience Corporation; Beverly,MA)によって確認し、正しいインサ−ト配列を有するプラスミドを、E. coli発現ホストBW30384(DE3)ΔompTΔmetEに変換した。この発現ホストの構成および変換手順も、PCT WO 2006/066072に記載されている(実施例21および22)。アルドラ−ゼ遺伝子を、3Lの培養槽においてラクト−スでの誘導によって発現させた。誘導の手順は、実施例1に記載されている。アルドラ−ゼを含む無細胞抽出物を作成するために、細胞を、1mMのMgCl2を含む3〜4容の100mMリン酸カリウム(pH 7.8)に懸濁させ、次いで実施例2に記載のとおりに破壊した。細胞残屑を、4℃での30分間にわたる20,000〜25,000xgでの遠心分離によって除去した。無細胞抽出物中の可溶性タンパク質を、Bio−RadLaboratories Experion(商標)Automated Electrophoresis Station (Bio−Rad, Hercules, CA)に分離し、Experionソフトウェアを使用し、あるいは4〜15%の勾配ゲルを使用するSDSポリアクリルアミド・ゲル電気泳動によって、パ−セント可溶性タンパク質発現について分析した。
【実施例15】
【0178】
2つの反応段階を使用するD−トリプトファンおよびピルビン酸からのR,R−モナチンの小さな発酵槽での生体触媒生成
材料
すべての試薬は、分析グレ−ドまたは市販の最高グレ−ドのものとした。R,R−モナチンの生体触媒生成に使用されるD−アラニン・アミノトランスフェラ−ゼを、Biocatalytics, Inc.(Pasadena, CA)(カタログ番号AT−103)から購入する一方で、生成に使用される配列番号:2のアルドラ−ゼを、実施例14に記載のとおりに作成した。
【0179】
方法および結果
2段階の反応を、0.7LのINFORS(Bottmingen, Switzerland)バイオリアクターにおいて250mLで実行した。反応を、チッ素の上部空間のもとでpH 8.4および25℃に維持した。
混合物1(第1の反応混合物):25mMのEPPS(pH 8.4)、1mMのMgCl2、5mMのリン酸カリウム、および50μMのピリドキサル・リン酸(PLP)の溶液を、発酵槽内に用意した。この液体を、200mMのピルビン酸ナトリウムおよび100mMのD−トリプトファンの固体としての添加に先立ち、数分間にわたってチッ素でスパ−ジした。基質の追加後かつ酵素の添加の前に、pHを水酸化ナトリウムによって8.4へと調節した。D−アラニン・アミノトランスフェラ−ゼを、2mg/mLの最終濃度まで固体として添加し、アルドラ−ゼを、0.01mg/mLの最終濃度まで無細胞抽出物として添加した(酵素および基質の添加ごの最終的な体積は250mL)。反応混合物を、チッ素の上部空間のもとで250rpmで攪拌しつつ25℃でインキュベ−トした。反応の進行を、D−トリプトファン、D−アラニン、R,R−モナチン、R−モナチン前駆体(2−ヒドロキシ−2−(1H−インドール−3−イルメチル)−4−オキソ−ペンタン二酸)、およびピルビン酸を測定することによって見守った。トリプトファンおよびアラニンの濃度を、蛍光ポスト・カラム誘導体化法を使用して測定した。モナチンを、LC/MS/MS法を使用して定量化した。すべての分析方法は、実施例6に記載されている。
【0180】
限外ろ過:一晩のインキュベ−ションの後に、Millipore Pellicon(登録商標)50cm2限外ろ過カ−トリッジ(MWCO 10,000)(GE Healthcare, Piscataway, NJ)を使用した限外ろ過によって、タンパク質を反応混合物から除去した。プロセスにおいては、元の発酵槽および透過物を受け取る第2の発酵槽にチッ素雰囲気を維持することによって、酸素を排除した。
【0181】
混合物2(第2の反応混合物):タンパク質を除いた溶液(ほぼ230mL)に、D−アラニンを1Mの最終濃度まで加え、D−アラニン・アミノトランスフェラ−ゼを2mg/mLの最終濃度まで加えた。反応を、チッ素の上部空間のもとで250rpmで攪拌しつつ25℃でインキュベ−トした。反応の進行を、混合物1について上述したとおりに見守った。
【0182】
【表8】

【0183】
結果は、この2段階のプロセスが、250mLの規模で実行された場合にモナチンの力価を2倍を超えて向上させることを示している。
【実施例16】
【0184】
2つの反応段階および固定された酵素を使用するD−トリプトファンおよびピルビン酸からのR,R−モナチンの小規模な生体触媒生成
【0185】
材料
R,R−モナチンの形成を触媒するために使用B. sphaericus HIS6−標識D−アラニン・アミノトランスフェラ−ゼおよびHIS6−標識配列番号:2のアルドラ−ゼを、実施例10および13に記載のとおり固定した。反応中間体の酸素触媒による分解を最小限にするために、反応を、97〜98%のチッ素および2−3%の酸素からなる雰囲気のCoy嫌気チャンバにおいて準備および実行した。
【0186】
方法および結果
反応1: 50mMのEPPS(pH 8.4)中の100mMのピルビン酸ナトリウム、1mMのMgCl2、および50μMのPLPの溶液を、脱気H2Oを使用してCoy嫌気チャンバに用意した。この溶液に、固体D−トリプトファンを50mMの最終濃度まで加えた。固定した酵素の溶液を、固定された配列番号:2のアルドラ−ゼについて0.05 g/Lかつ固定されたアミノトランスフェラ−ゼについて2 g/Lで反応へと加えた(最終的な体積4mL)。反応混合物を、穏やかに混合しつつ室温でインキュベ−トした。反応の進行を、D−トリプトファン、D−アラニン、R,R−モナチン、R−モナチン前駆体(2−ヒドロキシ−2−(1H−インドール−3−イルメチル)−4−オキソ−ペンタン二酸)、およびピルビン酸の濃度を測定することによって見守った。すべての分析方法は、実施例6に記載されている。モナチンについては、LC/MS/MS法を利用した。トリプトファンおよびアラニンについては、蛍光ポスト−カラム誘導体化法を利用した。ピルビン酸の分析には、Aminex(登録商標)カラムを分離のために使用した。
【0187】
一晩のインキュベ−ションの後で、固定されている酵素を、0.45ミクロンのシリンジ・フィルタ−によるろ過によって、反応混合物から除去した。
反応2:ろ過後の材料に、固体のD−アラニンを1Mの最終濃度まで加え、固定したアミノトランスフェラ−ゼを2 g/Lタンパク質の濃度へと加えた(最終的な体積は5.1mL)。この反応混合物を、穏やかに混合しつつ室温でインキュベ−トした。反応の進行を、HPLCおよび/またはLC−MS分析によって、D−トリプトファン、D−アラニン、R,R−モナチン、R−モナチン前駆体(2−ヒドロキシ−2−(1H−インドール−3−イルメチル)−4−オキソ−ペンタン二酸)、およびピルビン酸を測定することによって見守った。
【0188】
【表9】

【0189】
結果は、2段階の反応プロセスが使用された場合に、モナチンの力価の2倍の増加を示している。余分なD−アラニンが追加されること、および第2の段階においてD−アミノトランスフェラ−ゼ酵素のみが存在することで、約5.3mMのモナチン前駆体がモナチンに変換され、約28mMのインドール−3−ピルビン酸が、トリプトファンに変換された。
【実施例17】
【0190】
別法の発現宿主における配列番号:2のアルドラーゼの発現
実施例14に記載したpMET1dベクターにサブクローニングした配列番号:1の遺伝子を、Bio-Rad Gene Pulser IIシステム (カタログ番号165-2111)でE.coli細胞についての標準的Bio-Radエレクトロポレーションプロトコールを用いて、B834(DE3)エレクトロコンピテント細胞に形質転換した。形質転換細胞は37℃で1時間0.5 mLのSOC培地に回収し、メチオニンを含有しない最少培地プレートに蒔いた。そのプレートを37℃で一晩培養した。
【0191】
新たな培養皿 (Neidhardt+15のアミノ酸、メチオニン無し)から出発して、細胞を6〜8時間30℃および225rpmにて15のアミノ酸を補足した5 mL のNeidhardt培地中で増殖させた。1 mLの培養物は、各々、2つの5g/Lのグルコースを補足した125-mLの生産培地のアリコートに移した。フラスコを、30℃および225rpmで一晩 (16〜18時間)増殖させた。発酵槽を、(1リットル当たり)2.0 g/L (NH4)2SO4; 8.0 g/L K2HPO4; 2.0 g/L NaCl; 1.0 g/L Na3クエン酸・2H2O; 1.0 g/L MgSO4・7H2O; 0.025 g/L CaCl2・2H2O; 0.05 g/L FeSO4・7H2O; 0.4ml/LのNeidhardt微量養素、および2.0g/L グルコースを含有する2.5リットルの生産培地で充填した。発酵槽は、5 〜10%v/v (体積当たりの体積)の一晩の培養で接種した。接種の3時間後に、指数関数的なグルコース供給を60% w/v (体積当たりの重量)グルコース溶液を用いて設定した。供給は、0.15時間-1の指数関数的速度で微生物増殖を支持するために必要とされた速度で供給した。二酸化炭素発生速度 (CER)は、100 ミリモル/L/時間の値 (接種後約21時間、15〜16gのDCW/Lの細胞バイオマスに対応する)に達した場合に、遺伝子発現は、2g/Lのラクトース (20%溶液として供給)のボーラス添加で誘導した。供給は60% w/vグルコースから50% w/vグルコース+10% w/vラクトースに変更したが、誘導時間に供給速度を固定した。「50% w/vグルコース+10% w/vラクトース」供給を6時間維持した。発酵の終わりに、細胞を10分間の5000〜7000xgの遠心分離により収穫し、-80℃で湿潤細胞ペーストとして凍結した。
【0192】
アルドラーゼを含有する無細胞抽出物を調製するために、細胞を、pH 7.8の1mM MgCl2を含有する3〜4容の50mMまたは100mMリン酸カリウムに懸濁し、次いで実施例2に記載したように破壊させた。細胞残屑を4℃で30分間20,000〜25,000xgの遠心分離により除去した。無細胞抽出物中の可溶性タンパク質は、Bio-Rad Laboratories Experion (商標) Automated Electrophoresis Station (Bio-Rad, Hercules, CA)上で分離し、Experion Software version 1.1.98.0を用いてまたは4〜15%の勾配ゲルを用いるSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動によりパーセント可溶性蛋白質発現を分析した。
【実施例18】
【0193】
別法のD-アミノトランスフェラーゼのクローニングおよび発現
配列番号:3にリストした核酸配列を有し、配列番号:4にリストした配列番号:を有するポリペプチドをコードするD-アミノトランスフェラーゼ遺伝子をNde I / Xho I制限部位を用いてC末端His-タグでpMet1aベクターにクローニングした。前記の実施例17に記載した手順に従い、bla遺伝子を除去し、構築体を引き続いてB834(DE3)発現宿主に形質転換した (配列番号:3および配列番号:4の配列については図4を参照)。
【0194】
配列番号:4のD-アミノトランスフェラーゼを実施例17に記載したプロトコールにより2.5Lのスケールで発酵槽中で生成した。
【0195】
配列番号:4のD-アミノトランスフェラーゼを含有する無細胞抽出物を調製するために、細胞を0.05mMピリドキサル-5-ホスフェート (PLP)を含有するpH 7.8の50 mMまたは100mMリン酸カリウムの3〜4容に懸濁し、次いで、実施例2に記載したように破壊した。細胞残屑を4℃で30分間20,000〜25,000xgの遠心分離により除去した。無細胞抽出物中の可溶性タンパク質をBio-Rad Laboratories Experion (商標)Automated Electrophoresis Station (Bio-Rad, Hercules, CA)で分離し、Experion Software version 1.1.98.0を用いるか、または4〜15%勾配ゲルを用いるSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動によりパーセント可溶性タンパク質を分析した。
【実施例19】
【0196】
モナチン、MP、トリプトファン、アラニンおよびHMGの検出
以下の分析方法を別法としてまたは前記の実施例6に記載した方法に加えて用いる得る。
【0197】
モナチンおよびトリプトファンのUPLC/UV分析
生化学反応に由来するモナチンおよびトリプトファンについての混合物の分析をWaters Acquity Photo-Diode Array (PDA)吸光度モニターを含むWaters Acquity UPLC装置を用いて行った。UPLC分離は、23℃でAgilent XDB C8 1.8um 2.1x100mmカラム (パーツ番号928700-906)を用いて行った。UPLC移動相は、A)0.1%ギ酸を含有する水 B)0.1%ギ酸を含有するアセトニトリルから成った。
【0198】
勾配溶出は、0〜4分間の5% Bから40% Bまで線形、4〜4.2分間の40% Bから90% Bまで線形、4.2〜5.2分間の90% Bから90% Bまでアイソクラチック、5.2〜5.3分間の90% Bから5% Bまで線形であり、試行間の1.2分間の再平衡時間であった。流速は0.5 mL/分であり、PDA吸光度は280nmでモニターした。
【0199】
試料濃度は、既知濃度に対する280nmでのピーク面積の線形最小二乗法較正から計算され、最小決定係数は99.9%である。
【0200】
O-(4-ニトロベンジル)ヒドロキシルアミン塩酸塩 (NBHA)でのモナチン中間体(インドール-3-ピルビン酸、ヒドロキシメチルオキシグルタル酸、モナチン前駆体およびピルビン酸)の誘導体化
【0201】
モナチン生成のプロセスにおいて、様々な中間体化合物を生成し利用する。これらの化合物は、インドール-3-ピルビン酸、ヒドロキシメチルオキシグルタル酸、モナチン前駆体およびピルビン酸を含む。これらの化合物上のケトン官能基は、O-(4-ニトロベンジル)ヒドロキシルアミン塩酸塩(NBHA)で誘導体化できる。
【0202】
20μLの試料または標準に、琥珀色のバイアル中の140μLのNBHA(ピリジン中の40mg/mL)を添加する。試料を時々混合する加熱存在下で15分間超音波処理する。水中の35%アセトニトリルにおける1:3希釈を行う。
【0203】
モナチン中間体(インドール-3-ピルビン酸、ヒドロキシメチルオキシグルタル酸、モナチン前駆体およびピルビン酸)のUPLC/UV分析
Waters Acquity Photo-Diode Array (PDA)吸光度モニターを含むWaters Acquity UPLC装置を中間体化合物の分析に用いる。UPLC分離は、50℃でのWaters Acquity HSS T3 1.8mm 1x150mmカラムを用いて行った。UPLC移動相は、A)0.3%ギ酸および10mMギ酸アンモニウムを含有する水およびB)0.3%ギ酸および10mMギ酸アンモニウムを含有する50/50アセトニトリル/メタノールから成った。
【0204】
勾配溶出は、0〜1.5分間の5% Bから40% Bまで線形、1.5〜4.5分間の40% Bから50% Bまで線形、4.5〜7.5分間の50% Bから90% Bまで線形、7.5〜10.5分間の90% Bから95% Bまで線形であり、試行間の再平衡時間は3分間であった。流速は、0〜7.5分間で0.15 mL/分、7.5〜10.5分間で0.18 mL/分、10.5〜11分間で0.19 mL/分および11〜13.5分間で0.15 mL/分であった。PDA吸光度は270nmでモニターした。
【0205】
試料濃度は、既知濃度に対する270nmでのピーク面積の線形最小二乗法較正から計算され、最小決定係数は99.9%である。
【実施例20】
【0206】
単一バイオリアクターを用いるD-トリプトファンおよびピルビン酸からのR,R-モナチンの生体触媒生成
単一ポット反応を0.7LのINFORS (Bottmingen, Switzerland)バイオリアクター中の300 mLで行った。その反応は窒素ヘッドスペース下でpH 7.8および25℃に維持した。
【0207】
5mMリン酸カリウム(pH 7.8)、1mM MgCl2、0.01%(v/v)のTween 80および0.05mMピリドキサル-5-ホスフェート(PLP)の溶液を、脱気した液体を用いてバイオリアクター中で調製した。その溶液に数分間窒素を散布した後、固体として200mMピルビン酸ナトリウムおよび130mM D-トリプトファンを添加した。
【0208】
その反応を6回試行して、リアクターに添加したアラニンのレベルを変更した。D-アラニンは、0、100、200、400、600および800mMに等しい濃度でリアクターに固体として加えた。pHを水酸化ナトリウムで7.8に調整した後、酵素を添加した。実施例18に記載したD-アラニンアミノトランスフェラーゼを0.2g/Lの最終濃度まで細胞抽出液として加え、実施例17に記載したアルドラーゼを0.02g/Lの最終濃度まで細胞抽出液として加えた。その反応は窒素ヘッドスペース下で250rpmで撹拌して25℃で培養した。上記の実施例19に記載した分析手法を用いて、トリプトファン、インドール−3−ピルビン酸(I−3−P)、モナチン先駆物質(MP)およびモナチンを測定することにより、反応の進行を追跡した。
【0209】
【表10】

【0210】
24時間の反応時間後に得られた表6における結果は、リアクターにD-アラニンを添加することにより、反応全体の平衡をシフトさせ、その結果、不安定な中間体のモナチン前駆体(MP)およびインドール−3−ピルビン酸(I−3−P)の濃度を低下しつつ、モナチンの濃度を増加させることを示す。100 mMのアラニンがリアクターに加えられる場合、アラニンをリアクターに添加しない場合に生成されたモナチン量に比較して、生成されたモナチン量におけるかなりの増加がある。
【0211】
200および400 mMのアラニン添加レベルでは、100 mMのアラニンと比較して、反応混合物中でより高レベルのモナチンさえ観察した。生成したモナチンの最高濃度は、400 mMのアラニンがリアクターに添加された場合であった。600 mMおよび800 mMの添加レベルでは、生成したモナチン量は、本質的に400 mMと同じであるか、または400 mMよりも最小に低くかった。これは、部分的には、トリプトファンの制限された溶解度のためと考えられる。表6に示したように、400 mMを超えるアラニン濃度では、得られたトリプトファン濃度は、60mMより大きく、それは、反応混合液中のトリプトファンの溶解限度であるか、またはその溶解限度を超える。しかしながら、たとえモナチン生成が400 mMを超えるアラニン濃度で増加しなかったとしても、表6は、I−3−PおよびMPの濃度がアラニン濃度の増加の関数として減少し続けることを示している。I−3−PおよびMPの濃度のこの減少の結果、反応混合物中のより高い全体の炭素収率を生じる。
【0212】
記載された発明へのさらなる変更は、本発明の精神および範囲から逸脱せずに、当業者に明らかであろう。例えば、特定の酵素および成分の選択は本願明細書に特定されたものの中で変更できる。特定量の反応物および反応時間は全体のプロセス効率を改善するように変更できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリプトファンがインドール−3−ピルビン酸に変換され、インドール−3−ピルビン酸が2-ヒドロキシ2-(インドール-3-イルメチル)-4-ケトグルタル酸(MP)に変換され、次いでMPがモナチンに変換される多段階平衡経路を介してモナチンを生成するために、
トリプトファンおよびピルビン酸をリアクターに加え;
少なくとも1つの酵素をリアクターに加えて、多段階平衡経路における少なくとも1つの反応を促進し;次いで
アラニンをリアクターに加えることを含み、
ここに、混合物はモナチンおよび1以上の中間体を含むリアクターにおいて形成されることを特徴とするモナチンの生成方法。
【請求項2】
約50〜約200mMのトリプトファンをリアクターに加え、約50〜約1500mMのアラニンをリアクターに加えることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
約100〜約400mMのピルビン酸をリアクターに加えることを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項4】
約100〜約500mMのアラニンをリアクターに加えることを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項5】
リアクターに加えたモル量のアラニンが、リアクターに加えたモル量のトリプトファンに等しいかまたはそれより大きいことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項6】
少なくとも1つの酵素が、アミノトランスフェラーゼ、ラセマーゼおよびアルドラーゼよりなる群から選択されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項7】
アラニンをリアクターに加えることが、増加したモナチン量を有する混合物を生じさせることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項8】
アラニンをリアクターに加えることが、少なくとも1つのモナチンおよびトリプトファンよりも安定でない少なくとも1つの中間体の減少した量を有する混合物を生じさせる請求項1記載の方法。
【請求項9】
アラニンが、トリプトファンおよびピルビン酸がリアクターに加えられるほぼ等しい時点で、リアクターに加えられることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項10】
リアクターへのトリプトファンおよびピルビン酸の添加後であって、多段階平衡経路が平衡に達するために必要な時間前の時点に、アラニンがリアクターに加えられることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項11】
さらに、多段階経路が平衡に達した後にリアクターから混合物を取り出すことを特徴とする請求項1記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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