説明

平面アンテナ装置

【課題】平面アンテナのアンテナ面積の拡大を抑制しながら放射効率ηを向上させる。
【解決手段】GND導体5は、誘電体基板100の一面に配置された導体パターンによって形成され、開口部2及び3が設けられている。また、伝送線路4も導体パターンによって誘電体基板100上に形成されている。伝送線路4は、開口部2を囲む周囲導体11〜12並びに開口部3を囲む周囲導体13〜14に信号を供給する。また、開口部2及び3は、伝送線路4を軸として線対称に配置されている。さらに、開口部2及び3の開口面積は、伝送線路4から供給されて周囲導体11〜14を流れるループ電流によって、開口部2及び周囲導体11〜12を含む領域が磁界放射型の第1のループ放射素子として動作し、開口部3及び周囲導体13〜14を含む領域が磁界放射型の第2のループ放射素子として動作するよう決定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信に利用可能な平面アンテナ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信装置において、アプリケーションの多様化に伴い、無線通信装置の小型化、高性能化、高効率化が求められている。無線通信装置の大きさはアンテナの大きさに大きく依存している。中でも、誘電体基板上にレイアウトパタンとして配置できる小型の平面アンテナに関して更なる放射効率向上の必要性が高まっている。
【0003】
特許文献1は、非共振型の平面スロットダイポールアンテナ装置を開示している。このアンテナ装置の構成及び特性について以下に説明する。図11は、特許文献1に示されたアンテナ装置の構成を示す平面図である。図12は、図11に示したアンテナ装置のアンテナ部101を抜き出して示した平面図である。図11に示すアンテナ装置は、アンテナ部101及び整合部106を含む。整合部106は、アンテナ部101と図示しない外部回路(信号源)との間のインピーダンス整合を行う。
【0004】
スロットダイポールアンテナとしてのアンテナ部101は、誘電体基板上に形成された導体105に開口部(スロット)102及び103を設けることで形成されている。つまり、図11及び12に示す開口部102及び103には、下層の誘電体基板が露出している。図11及び12の例では、アンテナ部101は、コプレーナ導波路(CPW:Coplanar Waveguide)を介して整合部106に接続されている。微小な非共振型アンテナであるから、図11及び12において、アンテナ長Lは波長λに比べてはるかに小さい(つまりL<<λ)。特許文献1には、電磁界シミュレーションによるアンテナ部101のインピーダンスZaの解析結果が示されている。これによると、アンテナ部101の放射抵抗RaおよびリアクタンスXaの傾きは無線信号の中心周波数(例えば5.0GHz)付近で一定となる。よって、このアンテナ部101の等価回路は、図13に示すように、放射抵抗RaとリアクタンスXaの直列回路で表すことができる。
【0005】
整合部106は、伝送線路104とインバータ107を有する。伝送線路104は、2本の並行する信号線である。これらの信号線は一端がアンテナ部101と接続され、他端はインバータ107を介して外部回路(信号源)に接続される。整合部106は、式(1)の設計公式に基づいて求められる伝送線路104の特性インピーダンスZ1及び電気長θを用いて設計される。
【数1】

式(1)において、Qe1は共振器の外部Q(外部回路との結合量)である。関数Sinc(θ)は、sinθ/θである。式(1)に示した設計公式は、整合回路付きアンテナ等価回路とフィルタ理論に基づく回路が等価となる条件に基づいて導出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第06/126320号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示されたアンテナ装置は、小型の無線通信装置に搭載される場合に、アンテナ部101の放射効率を高めることが困難であるという問題がある。その理由を以下に説明する。アンテナへの入射電力をP[W]、アンテナの放射電力をP[W]、アンテナの放射抵抗をRa[Ω]、損失抵抗をR[Ω]とすると、一般的に、放射効率ηは式(2)で示される。
【数2】

【0008】
図12に示したアンテナ部101、つまり非共振型の平面スロットダイポールアンテナの放射抵抗Ra[Ω]は、式(3)で表わされる。
【数3】

式(3)において、L[μm]はアンテナ長であり、λ[μm]は無線信号の波長である。つまり、図12に示した非共振型の平面スロットダイポールアンテナの放射抵抗はアンテナ長Lに依存する。
【0009】
スロットダイポールアンテナの特性は、理想的には、スロットの周囲に配置される周囲導体(図11及び12の例えば周囲導体111〜114)を無限大として考えられるものである。このため、無線通信装置の小型化のために、限られた面積内に図11の平面アンテナ装置を配置する場合を想定すると、アンテナ長Lを伸ばすことが面積制約上容易でない。このため、式(3)に示した放射抵抗Raを高めることが難しく、放射抵抗Raに依存する放射効率ηを向上させることも難しい。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様にかかる平面アンテナ装置は、誘電体基板、接地導体、及び伝送線路を含む。前記接地導体は、前記誘電体基板の一面に配置された導体パターンによって形成され、第1及び第2の開口部が設けられている。また、前記伝送線路も前記導体パターンによって形成されている。前記伝送線路は、前記第1の開口部を囲む第1の周囲導体及び前記第2の開口部を囲む第2の周囲導体に信号を供給する。また、前記第1及び第2の開口部は、前記伝送線路を軸として線対称に配置されている。さらに、前記第1及び第2の開口部の開口面積は、前記伝送線路から供給されて前記第1及び第2の周囲導体を流れるループ電流によって、前記第1の開口部及び前記第1の周囲導体を含む領域が磁界放射型の第1のループ放射素子として動作し、前記第2の開口部及び前記第2の周囲導体を含む領域が磁界放射型の第2のループ放射素子として動作するよう決定されている。
【0011】
上述した本発明の一態様によれば、第1及び第2の開口部の面積を拡大することで、図11に示した電界放射型のスロットダイポールアンテナ特性を持つアンテナ装置とは対照的に、磁界放射型のループアンテナ特性を得ることができる。なお、ループアンテナの放射効率ηは、ループ面積、すなわち第1及び第2の開口部の開口面積に依存する。上記の本発明の一態様にかかる平面アンテナ装置は、アンテナ面積の拡大を抑制しながら第1及び第2の開口部を拡大することが容易であるため、放射効率ηの向上が容易になる。
【発明の効果】
【0012】
上述した本発明の一態様によれば、アンテナ面積の拡大を抑制しながら放射効率ηを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態に係るアンテナ装置の構成例を示す平面図である。
【図2】図1に示したアンテナ装置の一部(アンテナ部1)を示す平明図である。
【図3】シミュレーションを行った平面アンテナ装置の平面図である。
【図4】比較例に係る平面アンテナ装置の電界分布のシミュレーション結果を示す図である。
【図5】比較例に係る平面アンテナ装置の電流分布のシミュレーション結果を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る平面アンテナ装置の電界分布のシミュレーション結果を示す図である。
【図7】本発明の実施の形態に係る平面アンテナ装置の電流分布のシミュレーション結果を示す図である。
【図8】本発明の実施の形態にかかるアンテナ装置の構成例を示す平面図である。
【図9】図1に示したアンテナ部1を流れる電流及び磁界の様子を示す平明図である。
【図10】図1に示したアンテナ部1に生じる磁界及び磁束密度を示す概念図である。
【図11】背景技術に係るアンテナ装置の平面図である。
【図12】図11に示したアンテナ装置の一部(アンテナ部101)を示す平明図である。
【図13】図12のアンテナ部101の等価回路を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下では、本発明を適用した具体的な実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。各図面において、同一要素には同一の符号が付されており、説明の明確化のため、必要に応じて重複説明は省略される。
【0015】
<発明の実施の形態1>
図1は、本発明の実施の形態に係る平面アンテナ装置の構成例を示す平面図である。図1のアンテナ装置の概略構成は、図11及び12に示した平面アンテナ装置と同様である。すなわち、アンテナ部1は、誘電体基板100上に配置された導体パターンによって形成されているGND導体5に、開口部(スロット)2及び3を設けることで形成されている。図1に示す開口部2及び3には、下層の誘電体基板が露出している。開口部2及び3は、伝送線路4を軸として線対称となるように設けられている。アンテナ部1は、伝送線路4及び図示しないインピーダンス整合回路を介して外部回路(信号源)に接続される。図1の例では、伝送線路4はコプレーナ導波路である。インピーダンス整合回路(不図示)は、図11に示したインバータ107等と同様とすればよい。
【0016】
しかしながら、図1及び2に示す本実施の形態にかかる平面アンテナ装置は、開口部2及び3の詳細な配置、形状、及び開口面積が図11に示したものとは異なる。つまり、本実施の形態では、所望の無線周波数において表皮効果の影響(表面深さの不足よる電流減少)を受けない程度までアンテナ部1の周囲導体(導体11〜14)の幅を狭め、これに伴って開口部2及び3の開口面積を拡大している。このような形状を採用したことによって、本実施の形態に係るアンテナ部1の放射特性は、微小ダイポールアンテナの放射特性(つまり電界放射型)ではなく、微小ループアンテナの放射特性(つまり磁界放射型)が支配的となる。この放射特性は、開口部2の周囲導体11及び12を流れるループ電流(第一ループ)と、開口部3の周囲導体13〜14を流れるループ電流(第二ループ)によってもたらされると考えられる。つまり、開口部2とその周囲導体11〜12を含む領域は第1のループ放射素子として動作し、開口部3とその周囲導体13〜14を含む領域は第2のループ放射素子として動作する。
【0017】
微小ループアンテナの場合、周囲導体11〜14の幅は、ループ電流の流れを阻害しない程度とすればよい。つまり、微小ループアンテナの場合は、微小スロットダイポールアンテナとは異なり、周囲導体11〜14の幅を必要以上に確保する必要がない。また、微小ループアンテナの放射抵抗は、開口面積(電流ループで囲まれた面積)に比例する。したがって、本実施の形態にかかるアンテナ装置によれば、周囲導体11〜14の幅を削って、代わりに開口部2及び3を拡大することで、平面アンテナの面積拡大を抑えながら放射効率を向上することができる。このため、本実施の形態にかかるアンテナ装置は、無線通信装置の小型化に好適である。
【0018】
以下では、アンテナ部1の磁界放射の様子について説明する。図2は、アンテナ部1を流れるループ電流とループ電流によって作られる磁界を示している。アンテナ部1には伝送線路4から往路電流C1が供給される。往路電流C1は、開口部2の周囲導体11及び12(第一ループ)を流れる復路電流C2と、開口部3の周囲導体13及び14(第二ループ)を流れる復路電流C3に分かれる。第一ループへ流れる復路電流C2によって、第一ループでの復路磁界M2が発生する。同様に、第二ループへ流れる復路電流C3によって、第二ループでの復路磁界M3が発生する。復路磁界M2及び¥M3並びに往路磁界M1によって、アンテナ部1において磁束が局在化し、強い電磁波が空間に放射される。
【0019】
また、図1及び2に示したように、伝送線路4を軸に開口部2及び3を線対称に配置するレイアウトを採用したことによって、高周波電流の性質から復路電流C2及びC3はGND導体5へ向かう最短経路で導体端に沿って流れる。これにより、往路電流C1と逆向きの電流C2及びC3が流れることで伝送線路4内での磁界の広がりが抑制され、アンテナ部1の電波放射の乱れが抑制される。
【0020】
以下では、本実施の形態にかかるループアンテナ特性を示す平面アンテナ装置の電界分布及び電流分布のシミュレーション結果について説明する。また、比較例として、図11に示したダイポールアンテナ特性を示す平面アンテナ装置の電界分布及び電流分布のシミュレーション結果についても説明する。図3(a)及び(b)は、シミュレーションを行った平面アンテナ装置の平面図である。図3(a)は図11に示したダイポールアンテナ特性の平面アンテナ装置を示しており、図3(b)はループアンテナ特性を示す本実施の形態に係る平面アンテナ装置を示している。図3(b)に示したアンテナ装置は、図3(a)に比べて周囲導体11〜14の面積が削減され、開口部2及び3が拡大されている。インバータ7は、インバータ107と同様の構成とすればよい。
【0021】
図4は、図3(a)に示した比較例の平面アンテナ装置の電界(絶対値)の分布を示している。また、図5は、図3(a)に示した比較例の平面アンテナ装置の電流分布のシミュレーション結果である。図4からは、点線の楕円で囲んでいるように、スロット(開口部)102及び103それぞれの長辺に沿って大きな電界が発生していることが分かる。なお、各スロットの2つの長辺の間では接地電位(GND)を中心に正負が反転している。図5からは、スロット102及び103の周囲に沿って電流が流れることが分かるが、図5のスロット102及び103の周囲の電流経路の幅は約100μmである。
【0022】
これに対して、図6は、図3(b)に示した本実施の形態に係る平面アンテナ装置の電界(絶対値)の分布を示している。また、図7は、図3(b)に示した本実施の形態に係る平面アンテナ装置の電流分布のシミュレーション結果である。図6からは、点線の楕円で囲んでいるように、スロット(開口部)2及び3の長辺(特に図の上側の長辺)に沿って発生する電界が図4に比べて弱いことが分かる。つまり、図6では、スロットダイポールアンテナで現れる電界分布が存在していない。また、図7からは、スロット2及び3の周囲に沿って周囲導体11〜14を電流が流れる。図7のスロット2及び3の周囲の電流経路の幅は約200μmであり、図5のそれに比べて約2倍に拡大している。このことから、図3(b)のアンテナ装置は、磁界を主体としたループアンテナの放射特性を持つと考えられる。
【0023】
図4〜7に示したシミュレーション結果から次のことを結論できる。すなわち、図3(b)のアンテナ装置のように開口部2及び3の面積を拡大することで、スロットダイポールアンテナ動作からループアンテナ動作に変化する。
【0024】
続いて以下では、本実施の形態に係る平面アンテナ装置の放射効率の観点からみた利点について説明する。式(3)に示したように、平面スロットダイポールアンテナの放射抵抗Raはアンテナ長Lに依存する。しかし、図11のアンテナ部101の周囲導体の面積を確保する必要から、アンテナ長Lを十分に長くすることができなかった。これに対して、図1に示すアンテナ部1のレイアウトでは、周囲導体11〜14の面積を削減し、開口部2及び3の面積拡大を図っているため、図1のアンテナ長L1及びアンテナ幅W1は、図11のアンテナ長L及びアンテナ幅Wよりそれぞれ長くすることができる。
【0025】
また、アンテナ部1の放射特性は、放射抵抗が開口面積に比例し、かつ無限導体を必要としないループアンテナに近い特性となる。開口部2(第一ループ)及び開口部3(第二ループ)の開口面積を共にA、開口部(ループ)の数を2個とすると、ループアンテナとみなしたアンテナ部1の放射抵抗Rは、式(4)で示すことができる。つまり、アンテナ部1の放射抵抗Rは、第一及び第二ループ各々の開口面積Aに比例する。
【数4】

【0026】
次に、図1のループアンテナ長L1を、図11のアンテナ長Lと等しいと仮定した場合、図11のアンテナ部101の放射抵抗Raと図1のアンテナ部1の放射抵抗Rの比は式(5)で示される。
【数5】

【0027】
式(5)から、放射抵抗Rが放射抵抗Raを上回るためのアンテナ幅W1の条件は、式(6)のように表わすことができる。
【数6】

式(5)では、図1のアンテナ長L1が図11のアンテナ長Lと等しいと仮定した。しかしながら、上述のように、本実施の形態では周囲導体12及び14の幅を削減できるため、図1のアンテナ長L1は図11のアンテナ長Lより長くすることができる。よって、図1のアンテナ幅W1が少なくとも式(6)に示した条件を満たすことで、本実施の形態に係るアンテナ部1の放射抵抗Rは、図11のアンテナ部101の放射抵抗Rより大きくなる。
【0028】
<発明の実施の形態2>
図8は、本発明の実施の形態に係る平面アンテナ装置の構成例を示す平面図である。図8のアンテナ装置の概略構成は、図11及び12に示した平面アンテナ装置と同様である。すなわち、アンテナ部21は、誘電体基板200上に配置された導体パターンによって形成されているGND導体36に、開口部(スロット)25及び26を設けることで形成されている。図8に示す開口部25及び26には、下層の誘電体基板200が露出している。開口部25及び26は、伝送線路23を軸として線対称となるように設けられている。図8の例では、伝送線路23はコプレーナ導波路である。アンテナ部21は、整合部22を介して外部回路(信号源)に接続される。
【0029】
しかしながら、図8に示す本実施の形態にかかる平面アンテナ装置は、開口部25及び26の詳細な配置、形状、及び開口面積が図11に示したものとは異なる。つまり、本実施の形態では、所望の無線周波数において表皮効果の影響(表面深さの不足よる電流減少)を受けない程度までアンテナ部21の周囲導体(導体31〜34)の幅を狭め、これに伴って開口部25及び26の開口面積を拡大している。このような形状を採用したことによって、本実施の形態に係るアンテナ部21の放射特性は、微小ダイポールアンテナの放射特性(つまり電界放射型)ではなく、微小ループアンテナの放射特性(つまり磁界放射型)が支配的となる。この放射特性は、開口部25の周囲導体31及び32を流れるループ電流(第一ループ)と、開口部26の周囲導体33〜34を流れるループ電流(第二ループ)によってもたらされると考えられる。
【0030】
さらに、図8の平面アンテナ装置は、コプレーナ導波路としての伝送線路23の周囲領域(図8中の領域A)の導体を取り去り、細長いオープンスタブ35をGND導体36から開口部25及び26内に張り出させた形状を有している。オープンスタブ35は、所望の無線信号波長の4分の1(λ/4)を基準に、開口部25及び26の周囲長に応じて短縮された長さに調整される。オープンスタブ35を設けることで、開口部25とスタブ35によって形成されるループアンテナの形状を四角形に近づけることができる。これにより、開口部25及び26の開口面積がさらに拡大されている。開口部26とスタブ35によって形成されるもう1つのループアンテナについても同様である。
【0031】
また、オープンスタブ35の長さを適宜変更することによって、ループアンテナの電気長を容易に調整でき、所望周波数(共振周波数)に整合させることが容易になる。つまり、オープンスタブ35は、後述する復路電流C5及びC6の帰路としての役割と、ループアンテナの電気長を所望周波数に整合させる役割とを併せ持っている。オープンスタブの長さによってループアンテナの電気長を調整可能であるため、例えば、設計期間の短縮などの利点が得られる。
【0032】
以下では、アンテナ部21の磁界放射の様子について説明する。図9は、整合部22を介して信号線24からアンテナ部21に信号が供給された場合に、アンテナ部21を流れるループ電流とループ電流によって作られる磁界を示している。アンテナ部21への信号供給に伴って、伝送線路23に往路電流C1が発生する。往路電流C1は往路磁界M1を発生する。往路電流C1は、開口部25の周囲導体31及び32(第一ループ)を流れる復路電流C2と、開口部26の周囲導体33及び34(第二ループ)を流れる復路電流C3に分かれる。第一ループを流れる復路電流C2によって、第一ループでの復路磁界M2が発生する。同様に、第二ループを流れる復路電流C3によって、第二ループでの復路磁界M3が発生する。復路磁界M2及びM3並びに往路磁界M1によって、アンテナ部21で伝送線路23を含まない領域(開口部25及び26の線路23と対向していない領域)において磁束が局在化し、強い電磁波が空間に放射される。
【0033】
整合部22の位置では、第一ループでの復路磁界M2と第二ループでの復路磁界M3によって磁界は相殺される。つまり、開口部25及び26が伝送線路23を軸に線対称に配置されたレイアウトによって、アンテナ部21から整合部22に及ぶ磁界の影響が軽減される。ここで、整合部22での電磁界の漏れを軽減する為に伝送線路23が用いられている。つまり、高周波電流の性質から復路電流C2及びC3はGND導体36へ向かう最短経路で導体端に沿って流れる。このため、往路電流C1と逆向きの主たる復路電流C5及びC6がスタブ35の表面を流れることになる。よって、伝送線路23内での磁界M4の広がりが抑制され、アンテナ部21の電波放射の乱れが抑制される。
【0034】
帯域設計を行う場合を除いて、伝送線路23の特性インピーダンスは重要ではなく、電気長θが重要である。この為、伝送線路23、つまりコプレーナ導波路としてのGND導体(スタブ)35の幅は、伝送線路23でのGND導体間隔L3の2倍の幅を必要としない。よって、整合部22の必要面積を縮小できる。スタブ35の幅の削減により面積縮小できた整合部22をアンテナ部21の中へ配置することによって、開口部25に沿った第一ループ及び開口部26に沿った第二ループによって形成される2つのループアンテナの周囲長をλ/2に近づけ、かつ開口面積を広げることができる。これにより、より強い共振が得られ、往路電流C1、第一ループでの復路電流C2、第二ループでの復路電流C3が増加する。
【0035】
なお、オープンスタブ35の幅は、表皮効果の影響(表面深さの不足よる電流減少)を受けないことが条件となる。開口部25及び26内にオープンスタブ35を配置している為、伝送線路23で発生する電磁界は周囲へ影響を与えない。また、第一及び第二ループからの磁界は、これら2つのループの中間位置で磁束密度が最も弱い。このため、これら2つのループの中間位置に伝送線路23を配置しても、伝送線路23とアンテナは互いの動作を阻害しない。伝送線路23が第一及び第二のループによって挟まれる形状となるが、これら2つのループには、図8における第一ループでの復路電流C2及び第二ループでの復路電流C3で示される向きと大きさが実質的に等しい電流が流れる。
【0036】
図10(a)は、図8におけるアンテナ部21の磁界の向きを示す図である。第一ループでの復路電流C2による磁界及びその向きと、第二ループでの復路電流C3による磁界及びその向きを表している。2つの復路電流C2及びC2による磁界が交差する部分、すなわち第一及び第二ループの磁界が重なる部分では、磁界の向きが異なるために磁界が打ち消される。
【0037】
図10(b)は、図8における伝送線路23の部分の磁束密度を示す図である。図中の楕円40に囲まれた範囲が伝送線路23の位置に相当する。伝送線路23の位置では、第一及び第二ループからの磁界が打ち消される事によって磁束密度が小さくなる。つまり、伝送線路23への影響は低減される。一方、第一ループでの復路電流C2及び第二ループでの復路電流C3の向きと伝送線路23を流れる往路電流C1の向きが異なっていることで、2つのループと伝送線路23の中間位置では磁束密度が増加し、空間への磁界の放射を増加させ、ループアンテナ特性は良好なものとなる。つまり、伝送線路23(2つのスタブ35)を開口部25及び26の中に設けたことによる磁界放射特性への弊害は無い。
【0038】
続いて以下では、本実施の形態に係る平面アンテナ装置の放射効率の観点からみた利点について説明する。本実施の形態に係るアンテナ部21の放射抵抗Rが、図11のアンテナ部101の放射抵抗Rより大きくなることは、発明の実施の形態1に係るアンテナ部1と同様に説明できる。すなわち、式(3)に示したように、平面スロットダイポールアンテナの放射抵抗Raはアンテナ長Lに依存する。しかし、図11のアンテナ部101の周囲導体の面積を確保する必要から、アンテナ長Lを十分に長くすることができなかった。これに対して、図8に示すアンテナ部21のレイアウトでは、周囲導体31〜34の面積を削減し、開口部25及び26の面積拡大を図っているため、図8のアンテナ長L2及びアンテナ幅W2は、図11のアンテナ長L及びアンテナ幅Wよりそれぞれ長くすることができる。
【0039】
また、アンテナ部21の放射特性は、放射抵抗が開口面積に比例し、かつ無限導体を必要としないループアンテナに近い特性となる。開口部25(第一ループ)及び開口部26(第二ループ)の開口面積を共にA、開口部(ループ)の数を2個とすると、ループアンテナとみなしたアンテナ部21の放射抵抗Rは、上述した式(4)と同様に、式(7)で示すことができる。つまり、アンテナ部21の放射抵抗Rは、第一及び第二ループ各々の開口面積Aに比例する。
【数7】

【0040】
次に、図8のループアンテナ長L2を、図11のアンテナ長Lと等しいと仮定した場合、図11のアンテナ部101の放射抵抗Raと図8のアンテナ部21の放射抵抗Rの比は式(8)で示される。
【数8】

【0041】
式(8)から、放射抵抗Rが放射抵抗Raを上回るためのアンテナ幅W2の条件は、式(9)のように表わすことができる。
【数9】

式(8)では、図8のアンテナ長L2が図11のアンテナ長Lと等しいと仮定した。しかしながら、上述のように、本実施の形態では周囲導体32及び34の幅を削減できるため、図8のアンテナ長L2は図11のアンテナ長Lより長くすることができる。よって、発明の実施の形態1で説明した図1のアンテナ部1と同様に、図8のアンテナ幅W2が少なくとも式(9)に示した条件を満たすことで、本実施の形態に係るアンテナ部21の放射抵抗Rは、図11のアンテナ部101の放射抵抗Rより大きくなる。さらに、図8の構成では、伝送線路23の周囲(図8の領域A)の導体を廃して開口部25及び26の幅W2も拡大している。このため、アンテナ部21の放射抵抗Rをさらに増大できる。
【0042】
また、ループアンテナの共振周波数を所望の周波数に近づける為には、第一ループ及び第二ループの周囲長をそれぞれλ/2に近づける必要がある。式(10)は図11のアンテナ部101に設けられたスロット102及び103の周囲長を表す式である。
【数10】

【0043】
図11のアンテナ装置と同一面積を維持したままで、スロット102及び103それぞれの周囲長をλ/2に近づける為には、図11における伝送線路104の周囲導体面積を取り去り、削減した周囲導体の周囲長をスロット102及び103の周囲長に加えるとよい。つまり、本実施の形態にかかるアンテナ装置(図8)のアンテナ部21の形状を採用するとよい。オープンスタブ35を含む伝送線路23の長さは、所望の無線信号波長の4分の1(λ/4)を基準に、アンテナ部21の周囲長及びアンテナ幅W2等から決定される短縮係数αを基準値に乗ずることによって、アンテナの共振をとる様に決定すればよい。図8の開口部(スロット)25及び26各々の周囲長は、アンテナ長L2、アンテナ幅W2、アンテナ周囲長の一部W4、及び短縮係数αを用いて式(11)及び(12)で表わすことができる。式(10)と式(12)を比較した場合、式(10)よりも式(12)のほうがスロット周囲長を延ばすことができ、スロット周囲長をλ/2に近づけることが容易になる。よって、共振により、いっそう大きい電流をアンテナ部21へ流すことができる。
【数11】

【数12】

【0044】
図8において、伝送線路23の特性インピーダンスは、GND導体36を無限平面導体とした前提で設計すればよい。しかしながら、実際は、GND導体36は有限の導体であるため、理論値からのずれを考慮することが好ましい。よって、例えば、オープンスタブ35の幅は、伝送線路23でのGND導体間隔L3の2倍以上とすればよい。特性インピーダンスの考慮を必要としない場合は、伝送線路23長さW3のみが重要となるので、オープンスタブ35の幅を、表皮効果の影響を受けない幅までさらに削減するとよい。
【0045】
さらに、本発明は上述した実施の形態のみに限定されるものではなく、既に述べた本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能であることは勿論である。
【0046】
上述した発明の実施の形態2の一部又は全体は、例えば、以下の付記1〜4のようにも記載され得る。
(付記1)
誘電体基板と、
前記誘電体基板の一面に配置された導体パターンによって形成され、第1及び第2の開口部が設けられた接地導体と、
前記導体パターンによって形成され、前記第1及び第2の開口部の間に延在して配置されるとともに、前記第1及び第2の開口部を囲む周囲導体に信号を供給するコプレーナ導波路と、
を備え、
前記第1及び第2の開口部は、前記コプレーナ導波路を軸として線対称に配置されている、平面アンテナ装置。
【0047】
(付記2)
前記コプレーナ導波路は、
外部回路に結合される中心導体と、
前記接地導体から延び、前記中心導体の両側に前記中心導体と並行に配置された第1及び第2のオープンスタブと、
を備える、付記1に記載の平面アンテナ装置。
【0048】
(付記3)
前記コプレーナ導波路から供給されて前記周囲導体を流れるループ電流によって、磁界放射型のループアンテナとして動作することを特徴とする、付記1又は2に記載の平面アンテナ装置。
【0049】
(付記4)
前記周囲導体の幅は、前記信号の中心周波数において、表皮深さの不足により前記ループ電流の流れを妨げることがないよう決定されている、付記1〜3のいずれか1項に記載の平面アンテナ装置。
【符号の説明】
【0050】
1 アンテナ部
2 開口部(第一ループ)
3 開口部(第二ループ)
4 伝送線路(コプレーナ導波路)
5 GND導体
7 インバータ
11〜14 周囲導体
21 アンテナ部
22 整合部
23 伝送線路(コプレーナ導波路)
24 信号線
25 開口部(第一ループ)
26 開口部(第二ループ)
27 インバータ
31〜34 周囲導体
35 伝送線路として寄与するGND導体(オープンスタブ)
36 GND導体
100 誘電体基板
200 誘電体基板
C1 往路電流
C2 第一ループでの復路電流
C3 第二ループでの復路電流
C4 復路電流
C5 復路電流
M1 往路磁界
M2 第一ループでの復路磁界
M3 第二ループでの復路磁界
M4 伝送線路内に生じる磁界
L1 アンテナ長
L2 アンテナ長
L3 伝送線路内でのGND導体間隔
W1 アンテナ幅
W2 アンテナ幅
W3 伝送線路長
W4 アンテナ周囲長の一部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体基板と、
前記誘電体基板の一面に配置された導体パターンによって形成され、第1及び第2の開口部が設けられた接地導体と、
前記導体パターンによって形成され、前記第1の開口部を囲む第1の周囲導体及び前記第2の開口部を囲む第2の周囲導体に信号を供給する伝送線路と、
を備え、
前記第1及び第2の開口部は、前記伝送線路を軸として線対称に配置され、
前記第1及び第2の開口部の開口面積は、前記伝送線路から供給されて前記第1及び第2の周囲導体を流れるループ電流によって、前記第1の開口部及び前記第1の周囲導体を含む領域が磁界放射型の第1のループ放射素子として動作し、前記第2の開口部及び前記第2の周囲導体を含む領域が磁界放射型の第2のループ放射素子として動作するよう決定されている、
平面アンテナ装置。
【請求項2】
前記伝送線路はコプレーナ導波路である、請求項1に記載の平面アンテナ装置。
【請求項3】
前記コプレーナ導波路は、前記第1及び第2の開口部の間に延在して配置されている、請求項2に記載の平面アンテナ装置。
【請求項4】
前記コプレーナ導波路は、
外部回路に結合される中心導体と、
前記接地導体から延び、前記中心導体の両側に前記中心導体と並行に配置された第1及び第2のオープンスタブと、
を備える、請求項3に記載の平面アンテナ装置。
【請求項5】
前記第1及び第2の周囲導体の幅は、前記信号の中心周波数において、表皮深さの不足により前記ループ電流の流れを妨げることがないよう決定されている、請求項1〜4のいずれか1項に記載の平面アンテナ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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