説明

幹細胞からニューロンを生成する方法および幹細胞を培養するための培地

【課題】 幹細胞からニューロンを生成する方法に関する。
【解決手段】 本発明は、培地中ニューロンを培養し、結果として得られた混合物中幹細胞を培養することを含む、幹細胞からニューロンを生成する方法に関する。本発明はさらに、基礎培地中ニューロンを培養することにより調製される幹細胞を培養するための培地に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は幹細胞からニューロンを生成する方法および幹細胞を培養するための培地に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの臨床上一般的な慢性神経変性疾患、例えば、パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン病、および筋萎縮性側索硬化症は、中枢神経系(CNS)におけるニューロンの変性および死の結果起こる。ニューロンは、上皮細胞および肝細胞と違って、迅速に再生できない。CNS中には実際、通常の条件下またはニューロンが損傷を受けた場合のいずれかに複製し、分化できる幹細胞が存在するが、その複製は非常に遅く、ニューロンの分化の割合は非常に低い。CNSにおける幹細胞のほとんどは、分化して神経膠細胞になり、従って神経変性疾患を救済できない。
【0003】
神経変性疾患の治療を行う目的でニューロン移植が取り上げられている。研究者らはインビトロおよびインビボの両方において様々な幹細胞からニューロンを生成しようと試みてきた。幹細胞は、自己再生、多能性、増殖、長命および分化をはじめとするある特徴を有すると考えられる。胎児、臍帯血および骨髄は、臨床的用途のためのヒト幹細胞の一般的供給源である。胎児において、中枢神経系の病的変化の治療に利用できる幹細胞は、主に胚盤胞の胚性幹細胞および神経幹細胞であった(非特許文献1)。研究者らは、脊髄損傷を修復するために胚性幹細胞(非特許文献2)または神経幹細胞(非特許文献3)を移植した後、これらの細胞は主に分化して星状膠細胞および乏希突起神経膠細胞になり、ごくわずかの細胞しかニューロン細胞にならないことを明らかにしている。回復が困難であること、移植後の生存率が低いこと、および神経細胞への変化率が非常に低いことに加え、胎児組織の移植は、人道的、法律および倫理的観点における論議によっても阻まれている。
【0004】
臍帯血の造血幹細胞を直接移植することにより、損傷を受けた神経細胞を修復することはまだ研究されていない。しかしながら、インビトロモデルは、0.001%のβ−メルカプトエタノール(BME)中で培養された臍帯血の造血幹細胞を神経細胞の前駆体に変換し、次いでこれらの細胞の10%をさらに神経細胞および神経膠細胞に分化させることができること示している(非特許文献4および5)。臍帯血幹細胞のニューロン細胞への変換率は比較的低いので、臍帯血の研究および適用は主に血液疾患に絞られていた。
【0005】
骨髄は、赤血球、血小板、単球、顆粒球、およびリンパ球の原種の継続した供給源を提供する造血幹細胞を含む。さらに、骨髄は非造血組織の幹細胞の基準を満たす細胞も含む。成人骨髄から得られる造血幹細胞は、マウスの脳において小神経膠細胞および大神経膠細胞の両方に分化することができると報告されている(非特許文献6)。骨髄間質から得られる非造血幹細胞は、骨髄間質細胞(BMSC)または骨髄間葉細胞と呼ばれる。BMSCはインビトロにおいて分化して、骨原性、軟骨原性、脂肪生成、筋原性およびその他の系統になることができる(非特許文献7および8)。最近、BMSC(非特許文献9および10)はインビボで分化してニューロンになることができると報告されている。
【0006】
多能性細胞からニューロンを生成する前記の方法は全て1つの共通の問題を有する。すなわち、多能性幹細胞のほとんどは分化してニューロンではなく膠細胞(星状細胞、乏突起神経膠細胞など)になる。BMSCのインビトロ培養についてのみ、BMEが神経分化に対して重大な影響を及ぼすことが観察され、これは培養されたBMSCの約80%をニューロンに分化させる(非特許文献11)。しかしながら、BMEはタンパク質に対して有毒であり、従って人間の身体における使用に適さない(非特許文献12)。従って、幹細胞をニューロンに変換する有効な方法が依然として必要とされている。
【0007】
【非特許文献1】R.L. Rietze et al., 2001, Nature 412: 736-739
【非特許文献2】J.W. McDonald et al., 1999, Nature Medicine 5: 1410-1412
【非特許文献3】Q.L. Cao et al., 2001, Experimental Neurology 167: 48-58
【非特許文献4】J. R. Sanchez-Ramos et al., 2001, Experimental Neurology 171: 109-115
【非特許文献5】Y. Ha et al., 2001, Neuroreport 12(16): 3523-3527
【非特許文献6】M. A. Eglitis et al., 1997, Proc. Natl. Acad. Sci. 94: 4080-4085
【非特許文献7】M.F. Pittenger et al., 1999, Science 284: 143-147
【非特許文献8】B. E. Petersen et al., 1999, Science 284: 1168- 1170
【非特許文献9】S. A. Azizi et al., 1998, Proc. Natl. Acad. Sci. 95: 3908-3913
【非特許文献10】G. C. Kopen et al., 1999, Proc. Natl. Acad. Sci. 96: 10711-10716
【非特許文献11】D. Woodbury et al., 2000, Journal of Neuroscience Research 61: 364-370
【非特許文献12】K. White et al., 1973, Journal of Pharmaceutical Sciences 62: 237-241
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は幹細胞からニューロンを生成する方法であって、ニューロンを培地中で培養し、結果として得られる混合物中で幹細胞を培養することを含む方法を提供する。
本発明はさらに、幹細胞を培養するための培地であって、基礎培地中でニューロンを培養することにより調製される培地をも提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
驚くべきことに、ニューロンを基礎培養培地にて6〜9日間培養することにより調製される培地において培養された幹細胞は、高い割合で(87%)機能的有糸核分裂後のニューロンに分化できることが見いだされた。
特定の理論に限定されることを望まないが、何らかの物質が、培養されたニューロンから放出され、それが、幹細胞が分化してニューロンになるための最適の条件を提供するものと考えられる。
本発明において使用される「幹細胞」なる用語は任意の未分化の多能性または多型潜在性哺乳動物細胞を意味し、例えば胚性幹(ES)細胞、胚性生殖(EG)細胞、胚性腫瘍(EC)細胞、骨髄間質細胞(BMSC)、骨髄造血細胞、臍帯血細胞および臍間葉細胞を包含するが、これらに限定されない。臍間葉細胞を除く前記幹細胞はすべて、分化してニューロンおよび/または神経膠細胞になれることが報告されている。しかしながら、本発明の培養法により、臍間葉細胞さえも高い割合で機能的ニューロンに分化できる。
【0010】
従って、任意の哺乳動物幹細胞が本発明の方法における使用に適している。好ましくは、間葉細胞、例えば、BMSCまたは臍間葉細胞が用いられる。
本発明の培地を調製するために用いられるニューロンは、哺乳動物の末梢神経系と中枢神経系の両方から得ることができる。好ましくは、ニューロンはCNS由来のものであり、さらに好ましくは脳由来であり、最も好ましくは海馬由来である。
ニューロンを任意の慣用の培地中で培養して、本発明の培地を得ることができる。本発明の基礎培地として使用するのに好適な培地は、ウシ胎仔血清(FBS−DMEM)で補足されたDulbeccoの修飾イーグル培地を包含するが、これらに限定されない。
本発明において用いられる基礎培地には、細胞培養に一般的に用いられる他の添加物を添加することができる。
【0011】
本発明では、ニューロンを基礎培地中、通常の方法で3ないし6日間、好ましくは5日間培養する。結果として得られる混合物を、幹細胞を培養するために直接用いることができる。
本発明では、幹細胞を本発明の培地中、通常の方法で、6ないし12日間培養し、次いで成熟ニューロンを収穫する。好ましくは、ニューロンは培養の第9日目に収穫される。
培養されたニューロンを除去した後、本発明の培地を等分して、さらに使用するために貯蔵することができる。
【0012】
次の分析は、本発明の方法により調製されるニューロンを特徴づけるために行われる。
NF免疫細胞化学
神経フィラメント(NF)はニューロンにおける主要な細胞骨格であり、これはニューロンの樹状突起の大きさ、外観および直径を調節する。後期発生段階のニューロンまたは成熟ニューロンのみがNFを発現する。NFの免疫染色は後期のニューロンを認識するために利用される。
NeuN免疫細胞化学
ニューロン特異性核タンパク質(NeuN)は脊椎動物の中枢神経系においてニューロンの核中に存在する特定のタンパク質である。NeuNはインビトロでDNAと結合する。NeuNはニューロンの発生中にNFよりも早期に出現することが知られている。従って、NeuNの免疫染色は、変換の早期段階のニューロンを識別するために利用される。
【0013】
GluR5、GluR6、GluR7およびKA2のウェスタンブロッティング
グルタメートは哺乳動物CNSにおける主な興奮性神経伝達物質である。ほとんどのニューロンは興奮シグナルを受容するためにグルタメートレセプターを有する。主に2種のグルタメートレセプターのグループ:イオノトロピータイプとメタボトロピータイプがある。イオノトロピータイプレセプターは、その異なる選択的作用物質により、さらに:NMDA(N−メチル−D−アスパルテート)レセプター、AMPA(α−アミノ−3−ヒドロキシ−5−メチル−4−イソキサゾールプロピオン酸)レセプター、およびKA(カイネート)レセプターに分類できる。KAレセプターはサブユニットGluR5、GluR6、GluR7、KA1およびKA2から形成される。従って、GluR5、GluR6、GluR7およびKA2のウェスタンブロッティングは機能的タンパク質を合成するためのニューロンの能力を確認するために利用される。
【0014】
Ca2+結合タンパク質免疫細胞化学
Ca2+は細胞のシグナル変換経路において重要な役割を果たす。しかしながら、たいていのCa2+は細胞において単独で作用せず、Ca2+結合タンパク質により結合されて作用する。Ca2+結合タンパク質は、細胞中のCa2+の濃度を緩衝し、さらにCa2+の活性を調節する。CNS中には多くのCa2+結合タンパク質が存在し、最も広い分布を有するものは、パルブアルブミン(PV)、カルビンジン−D28K(CB)およびカルレチニンである。PVおよびCBは両方ともEFハンドタイプのCa2+結合タンパク質ファミリーに属する。胚の神経系の発生中、PVおよびCBはニューロンにより特異的に発現されるCa2+結合タンパク質と考えられる。従って、PVおよびCBの免疫染色は、機能的タンパク質を合成するためのニューロンの能力を確認するために利用される。
【0015】
BrdUおよびDAPI二重標識
DAPI(4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール二塩酸塩)は細胞および核膜を自由に横切り、核中のDNAと結合できる蛍光色素であり、通常、細胞の数を定量化するために用いられる。さらに、複製中、細胞は、染色体のさらなる組を合成することを必要とし、チミジンの類似体である添加されたBrdU(ブロモデオキシウリジン)を合成された染色体中に組み入れる。従って、BrdU取り込みの観察は細胞の複製を確認するために利用される。BrdUおよびDAPI二重標識はニューロンの複製を確認できる。
【0016】
BrdUおよびNF二重標識
前記のように、NFの免疫染色はニューロンを確認するために利用され、BrdU標識は細胞の複製を確認するために利用される。NFおよびBrdU二重標識はニューロンの複製能力を確認できる。
GAD免疫細胞化学
神経伝達物質の一つであるGABAのグルタミン酸からの合成は、酵素グルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD)により触媒される。従って、GADの免疫染色は神経伝達物質GABAを合成するためのニューロンの能力を確認するために利用される。
本発明の方法から生成されるニューロンは、神経変成疾患、例えばパーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン病、および筋萎縮性側策硬化症または発作および外傷から誘発されるニューロンの死の治療において用いることができる。
本発明はさらに、以下の実施例により説明されるが、この実施例は本発明の範囲に対する制限と見なすべきではない。
【実施例1】
【0017】
ヒト臍間葉細胞の調製
分娩を取り扱う診療所、Tsai産科クリニック(72, Sec. 1, Shi Pai Rd., Beitou, Taipei)からヒト臍帯を入手した。無菌操作により臍帯を採取し、HBSS(Biochrom L201−10)中4℃で24時間以下保存した。
臍帯をまず衛生化のために30秒間75%エタノール中に浸漬した。衛生化された臍帯を、無菌層流中、無Ca2+/Mg2+緩衝液(CMF、Gibco14185−052)中に入れ、オートクレーブ滅菌された道具で縦に切断し、これから血管および間葉組織(ホウォートンゼリー)を除去した。間葉組織をさいの目に切って約0.5cmの立方体にし、250xgで5分間遠心分離にかけた。上清を除去し、適当な量の無血清DMEM(Gibco12100−046)を添加し、250xgで5分間遠心分離にかけることにより沈殿(間葉組織)を2回洗浄した。間葉組織をコラゲナーゼで37℃で14〜18時間処理し、洗浄し、次いで37℃で30分間撹拌下、2.5%トリプシン(Gibco15090−046)で処理した。FBS(Hyclone SH30071.03)を間葉組織に添加して、トリプシンの活性を失活させた。この時点で、間葉組織は間葉細胞になった。
間葉細胞を10%FBS−DMEMで処理して分散させ、計数した。間葉細胞はこれで培養に直接用いることができる。
【実施例2】
【0018】
ニューロン−培養FBS−DMEMの調製
ニューロン培養FBS−DMEMの調製に用いられるニューロンを、7日令のスプラグ・ドーリーラット(the Animal Center of National Yang-Ming University, Taipei, Taiwan, ROC)の脳から入手した。
24mlの10%FBS−DMEMを含有する50mlの遠心管を、その後の操作の前に37℃のインキュベーター中に入れた。
i.p.注射により0.3mlの10%塩化物水和物をラットに投与した。3〜4分後、全身麻酔されたラットの全身を75%エタノールで消毒した。無菌層流中、ラットの脳を除去し、CMF中に入れた。脳を900rpmで5分間遠心分離にかけた。上清を除去し、10%FBS−DMEMを沈殿(脳組織)に添加した。脳組織を15回ピペットで移して単一細胞中に分散させた。細胞分散液を前記のようにして調製した50mlの遠心管に添加し、内部でFBS−DMEMとよく混合した。混合物を24ウェルプレートのポリ−L−リシンでコートされたウェル中に添加し、37℃のインキュベーター中で培養した。次の日、Aracを培養物に最終濃度2μMまで添加した。
培養の第5日に培地を除去して、臍間葉細胞の培養に使用した。
【実施例3】
【0019】
臍間葉細胞のニューロンへの変換
実施例1において得られた臍間葉細胞を、実施例2において調製されたニューロン培養FBS−DMEM中またはFBS−DMEM中(対照)、37℃のインキュベーター中、で培養した。培養された細胞を第3日、6日、9日および12日に採取した。
図1(A)に示すように、FBS−DMEM中6日間(対照)の臍間葉細胞培養物の形態は紡錘形を示し、増殖のために互いに密接に結合していた。ニューロン培養FBS−DMEM中6日間培養された臍間葉細胞は、細胞体退縮、プロセス加工、および細胞クラスターを含むニューロン表現型を示した(図1B)。
【実施例4】
【0020】
分析
実施例3において採取した細胞を以下の分析に供して、その結果を以下に記載する:
(I)NF免疫染色
カバーガラス上で6日間成長する細胞を、0.1Mリン酸塩緩衝液(0.1M PBS、pH7.4)で5分間2回洗浄し;定着液(0.1M PBS中4%パラホルムアルデヒド)で20分間固定し;0.1M PBSで5分間3回洗浄し;次いでブロッキング溶液(0.05%Triton X−100、5%正常ヤギ血清および3%ウシ血清アルブミン)で30分間処理して、特異性抗体−抗原結合を防止した。
処置された細胞を次いで第一の抗体(ウサギ抗神経フィラメント200ポリクローナルIgG、1:250希釈、Chemicon AB1982)と4℃で少なくとも12〜18時間反応させ;0.1M PBSで5分間3回洗浄し;第二の抗体(ビオチン接合ヤギ抗ウサギIgG、1:1000希釈、Sigma b−8895)と室温で1時間反応させ;再び0.1M PBSで5分間3回洗浄し;アビジン−ビオチニル化ホースラディッシュペルオキシダーゼ複合体(ABC KIT、Vectorlabs PK−4000)と室温で1時間反応させ;0.1M PBSで5分間3回洗浄し;次いで3,3’−ジアミノベンジジン(5mg DAB、10mlの50mM Tris緩衝液中3.5μlの30%H)で発色させた。
【0021】
得られたサンプルを、50%、70%、80%、90%、95%および100%の濃度が段々に増加するエタノール、ならびにキシレンで脱水した(それぞれ5分間)。カバーガラスをスライド上にパーマウントで密封し、光学顕微鏡(Olympus BH−2)下で観察した。
図2(A)に示すように、ニューロン培養FBS−DMEM中で6日間培養された臍間葉細胞はNFを発現し、このことは、これらがニューロンに変換されたことを示唆する。
ニューロン培養FBS−DMEMでの処理後の様々な時間で、NFを発現する臍間葉細胞の割合を測定した。図3に示すように、59.4%の臍間葉細胞が処理後第3日にNFを発現し、NFを発現する細胞の割合は処理後第6日に最大の87.4%に達した。この割合は時間とともに増大も、減少もしなかった(n=3、ワンウェイANOVA、続いてLSD試験;p<0.01)。
【0022】
(II)NeuN免疫染色:
カバーガラス上6日間成長する細胞を0.1Mリン酸塩緩衝液(0.1M PBS、pH7.4)で5分間2回洗浄し;定着液(0.1M PBS中4%パラホルムアルデヒド)で20分間固定し;0.1M PBSで5分間3回洗浄し;次いでブロッキング溶液(0.05%Triton X−100、5%正常ヤギ血清および3%ウシ血清アルブミン)で30分間処理して、非特異性抗体−抗原結合を防止した。
処理された細胞を第一の抗体(マウス抗ニューロン核モノクローナルIgG、1:100希釈、Chemicon MAB377)と4℃で少なくとも36時間から42時間反応させ;0.1M PBSで5分間3回洗浄し;第二の抗体(ビオチン−接合ヤギ抗マウスIgG、1:250希釈、Chemicon AP124B)と室温で1時間反応させ;0.1M PBSで5分間3回洗浄し;アビジン−ビオチニル化ホースラディッシュペルオキシダーゼ複合体(ABC KIT、Vectorlabs PK−4000)と室温で1時間反応させ;0.1M PBSで5分間3回洗浄し;3,3’−ジアミノベンジジン(5mg DAB、10mlの50mM Tris緩衝液中3.5μlの30%H)で発色させた。
得られたサンプルを、50%、70%、80%、90%、95%および100%の濃度が段々に増加するエタノール、ならびにキシレンで脱水した(それぞれ5分間)。カバーガラスをスライド上にパーマウントで密封し、光学顕微鏡(Olympus BH−2)下で観察した。
図2(B)に示すように、ニューロン培養FBS−DMEM中で6日間培養された臍間葉細胞はNFを発現し、このことは、これらがニューロンに変換されたことを示唆する。
【0023】
(III)GluR5、GluR6、GluR7およびKA2のウェスタンブロッティング
(a)細胞膜の調製
異なる時間、ニューロン培養FBS−DMEMで処理された臍間葉細胞および7日令ラットの脳から細胞膜を調製した。培養された細胞を0.1Mリン酸塩緩衝液で3分間2回洗浄した。Tris−HCl緩衝液(50mM、pH7.4)を細胞に4℃で添加し、細胞を培養皿からスクレーパーで削りとった。削り取られた細胞を15mlテフロンガラスホモジナイザー中に入れ、20回粉砕して均質化し、次いで30000gで30分間、4℃で遠心分離にかけた。ほとんど細胞膜である得られたペレットを再び粉砕し、適当な体積のTris−HCl緩衝液中に溶解させ、後に使用するために−20℃の冷蔵庫中に保存した。
(b)タンパク質濃度の決定
ウェスタンブロッティング分析において使用するために、前記で得られた各サンプル中のタンパク質の濃度を、595nmでの吸収を測定することにより決定した。タンパク質濃度の測定は、Bradford法に基づいて行った(MM. Bradford, 1976, Analytical Biochemistry 72: 248-254.)。
【0024】
(c)電気泳動
サンプル中のタンパク質を20%SDS−PAGEにより分離した。ゲル中の分離されたタンパク質を次いでウェスタンブロッティング分析を行うためにPVDF紙(NEW、NEF1002)上に移した。
(d)ウェスタンブロッティング
タンパク質を含有するPVDF紙をTBS溶液(50mM Tris−HCl中0.9%NaCl、pH7.4)で30分間2回洗浄した。TBS緩衝液中に溶解させた5%スキムミルク粉末を用いて60分間ブロッキングを行った。次いで、PVDF紙をブロッキング溶液(0.05%Triton−X100、5%正常ヤギ血清および3%BSA)中に60分間浸漬し、TBS緩衝液で洗浄し、第一の抗体(ウサギ抗KA2ポリクローナルIgG、1:1800希釈、UPSTATE06−315;ヤギ抗GluR5ポリクローナルIgG、1:30希釈、Santa Cruz sc−7617;ヤギ抗GluR6ポリクローナルIgG、1:30希釈、Santa Cruz sc−7618:ヤギ抗GluR7ポリクローナルIgG、1:30希釈、Santa Cruz sc−7620;およびウサギ抗グルタメートデカルボキシラーゼポリクローナルIgG、1:1500希釈、Chemicon AB108)と4℃で12〜18時間反応させた。
【0025】
反応が完了した後、PVDF紙をTTBS(0.05%TBS中Tween−20)で30分間2回洗浄し、ブロッキング溶液中に60分間浸漬し、次いで第二の抗体(GluR5/6/7については、ビオチン−抗ヤギ/ヒツジIgG、1:200希釈、Sigma B−3148;およびKAR2/GADについてはビオチン−抗ウサギIgG、1:250希釈、Chemicon AP187B)と室温で1時間反応させた。反応したPVDF紙をTTBSで30分間2回洗浄し、アビジン−ビオチニル化−ホースラディッシュペルオキシダーゼ複合体(ABC KIT、Vectorlabs PK−4000)と室温で1時間反応させ、再びTTBSで30分間2回洗浄し、最後にDAB(5mg DAB、10mlのTris−HCl中3.5μlの30%H、pH7.4)で発色させた。
図4に示されるように、カイニン酸レセプター(kainate receptor)サブユニットは、ニューロン培養FBS−DMEMの処理前の臍間葉細胞において発現されなかった。ニューロン培養FBS−DMEMでの処理の6日目に、GluR6、GluR7およびKA2を包含するカイニン酸レセプターサブユニットは少量で発現され、GluR5、GluR6、GluR7およびKA2は12日目に著しく発現された。
【0026】
(IV)パルブアルブミン(PV)およびカルビンジン−D28K(CB)免疫染色:
カバーガラス上で6日間成長する細胞を0.1Mリン酸塩緩衝液(0.1M PBS、pH7.4)で5分間2回洗浄し;定着液(0.1M PBS中2%パラホルムアルデヒドおよび7.5%ピリン酸)で20分間固定し;0.1M PBSで5分間3回洗浄し;ブロッキング溶液(0.05%Triton X−100、5%正常ヤギ血清および3%ウシ血清アルブミン)で30分間処理して、非特異性抗体−抗原結合を防止した。
処理された細胞を次いで第一の抗体(ヤギ抗パルブアルブミンポリクローナルIgG、1:40希釈、Santa Cruz sc−7449;およびヤギ抗カルビンジンポリクローナルIgG、1:40希釈、Santa Cruz sc−7691)と4℃で少なくとも12から18時間反応させ;0.1M PBSで5分間3回洗浄し;第二の抗体(ビオチン−接合マウス抗ヤギ/ヒツジモノクローナルIgG,1:250希釈、Sigma B3148)と室温で1時間反応させ;再び0.1M PBSで5分間3回洗浄し;アビジン−ビオチニル化−ホースラディッシュペルオキシダーゼ複合体(ABC KIT、Vectorlabs PK−4000)と室温で1時間反応させ;0.1M PBSで5分間3回洗浄し、3,3’−ジアミノベンジジン(5mg DAB、10mlの50mM Tris緩衝液中3.5μlの30%H)で発色させた。
【0027】
得られたサンプルを、50%、70%、80%、90%、95%および100%の濃度が段々に増加するエタノール、ならびにキシレンで脱水した(それぞれ5分間)。カバーガラスをスライド上にパーマウントで密封し、光学顕微鏡(Olympus BH−2)下で観察した。
図5に示すように、ニューロン培養FBS−DMEM中で9日間培養された臍間葉細胞は、パルブアルブミン(図5A)およびカルビンジン−D28K(図5B)の両方を発現し、このことは2つのCa2+結合タンパク質を合成できるニューロンに変換されたことを示唆する。
【0028】
(V)GAD免疫染色およびウェスタンブロッティング:
カバーガラス上6日間成長する細胞を0.1Mリン酸塩緩衝液(0.1M PBS、pH7.4)で5分間2回洗浄し;定着液(0.1M PBS中2%パラホルムアルデヒドおよび7.5%ピリン酸)で20分間固定し;0.1M PBSで5分間3回洗浄し;ブロッキング溶液(0.05%Triton X−100、5%正常ヤギ血清および3%ウシ血清アルブミン)で30分間処理して、非特異性抗体−抗原結合を防止した。
処理された細胞を次に第一の抗体(ウサギ抗グルタメートデカルボキシラーゼポリクローナルIgG、1:1500希釈、Chemicon AB108)と4℃で少なくとも12から18時間反応させ;0.1M PBSで5分間3回洗浄し;第二の抗体(ビオチン−接合ヤギ抗ウサギIgG、1:300希釈、Sigma b−8895)と室温で1時間反応させ;再び0.1M PBSで5分間3回洗浄し;アビジン−ビオチニル化ホースラディッシュペルオキシダーゼ複合体(ABC KIT、Vectorlabs PK−4000)と室温で1時間反応させ;0.1M PBSで5分間3回洗浄し;3,3’−ジアミノベンジジン(5mg DAB、10μlの50mMのTris緩衝液中3.5μlの30%H)で発色させた。
【0029】
得られたサンプルを、50%、70%、80%、90%、95%および100%の濃度が段々に増加するエタノール、ならびにキシレンで脱水した(それぞれ5分間)。カバーガラスをスライド上にパーマウントで密封し、光学顕微鏡(Olympus BH−2)下で観察した。
図6(A)に示すように、ニューロン培養FBS−DMEM中で6日間培養された臍間葉細胞はGADを発現し、このことは、これらが神経伝達物質GABAを合成できるニューロンに変換されたことを示唆する。図6(B)に示すように、臍間葉細胞のGADを発現する能力は、処理後6日目に誘発され、GAD発現レベルは第12日に著しく増大した。
(III)、(IV)および(V)の結果は、本発明の方法により誘導されるニューロンは機能的であり、ニューロンに特徴的なタンパク質および神経伝達物質を合成できることを証明する。
【0030】
(VI)DAPI染色
処理後、細胞を0.1Mリン酸塩緩衝液で2回、それぞれ5分間洗浄し、次いで50μg/mlのDAPIで30分間染色した。細胞を次いでTris緩衝液(Tris−HCl 50mM pH=7.3)でよく洗浄し、マウンティング培地(Tris:グリセロール=1:1)で取り付け、蛍光顕微鏡下で細胞を観察し、計数した。
図7(A)は、細胞密度を示す顕微鏡写真である。処理後0、第3日、6日および9日の細胞数を測定するためにDAPI標識(青)を行った。図7(B)はニューロン培養FBS−DMEM中での処理の様々な時間の後の臍間葉細胞の細胞密度を示す。様々な処理後の時点で、細胞密度における変化を測定するためにDAPI染色を行った。結果は、処理後第9日の細胞密度は第3日よりも著しく高いことを示した(n=3、ワンウェイANOVA続いてLSD試験;P<0.01)。
(VII)BrdUおよびDAPI二重染色
カバーガラス上で成長する細胞により、最終濃度50μMのBrdU(Sigma B−5002、50mMストック溶液として調製)が得られ、24時間さらに成長させた。細胞を0.1Mリン酸塩緩衝液(0.1M PBS、pH7.4)で5分間2回洗浄し;定着液(50mMグリシン緩衝液中70%エタノール、pH2.0)で−20℃で30分間固定し;0.1M PBSで5分間3回洗浄し;ブロッキング溶液(0.05%Triton X−100、5%正常ヤギ血清および3%ウシ血清アルブミン)で30分間処理して、特異性抗体−抗原結合を防止した。
【0031】
処理された細胞を次いで第一の抗体(マウス抗BrdUモノクローナルIgG、Chemicon MAB3222、66mM Tris緩衝液中0.66mM CaClおよび1mMβ−メルカプトエタノールで1:100希釈)と4℃で少なくとも36〜42時間反応させ;0.1M PBSで5分間3回洗浄し;第二の抗体(フルオレセイン接合ヤギ抗マウスIgG、1:50希釈、Chemicon AP124F)および1mg/mlのDAPI(Sigma D9542)と室温で1時間反応させ;再び0.1M PBSで5分間3回洗浄した。カバーガラスをスライド上にマウンティング培地(Vector H−1000)で取り付け、マニキュア液で密封し、蛍光顕微鏡(Olympus BX50)下で観察した。単位面積内の合計細胞数およびBrdU標識された細胞数を計数する。
【0032】
(VIII)BrdUおよびNF二重染色
カバーガラス上で成長する細胞により、最終濃度50μMのBrdU(Sigma B−5002、50mMストック溶液として調製)が得られ、24時間さらに成長させた。細胞を0.1Mリン酸塩緩衝液(0.1M PBS、pH7.4)で5分間2回洗浄し;定着液(50mMグリシン緩衝液中70%エタノール、pH2.0)で−20℃で30分間固定し;0.1M PBSで5分間3回洗浄し;ブロッキング溶液(0.05%Triton X−100、5%正常ヤギ血清および3%ウシ血清アルブミン)で30分間処理して、特異性抗体−抗原結合を防止した。
【0033】
処理された細胞を次いで第一の抗体(マウス抗BrdUモノクローナルIgG、Chemicon MAB3222、66mM Tris緩衝液中0.66mM CaClおよび1mMβ−メルカプトエタノールで1:100希釈)と4℃で少なくとも12〜18時間反応させ;もう一つの第一の抗体(ウサギ抗神経フィラメントポリクローナルIgG、1:250希釈、Chemicon AB1982)と4℃で少なくとも12〜18時間反応させ;0.1M PBSで5分間3回洗浄し;第二の抗体(フルオレセイン接合ヤギ抗マウスIgG、1:50希釈、Chemicon AP124F;およびローダミン接合ヤギ抗ウサギIgG、1:50希釈、Chemicon AP132R)と室温で1時間反応させ;再び0.1M PBSで5分間3回洗浄した。カバーガラスをスライド上にマウンティング培地(Vector H−1000)で取り付け、マニキュア液で密封し、蛍光顕微鏡(Olympus BX50)下で観察した。
【0034】
図8は、ニューロン培養10%FBS−DMEMで3日間処理された臍間葉細胞の増殖分析の結果を示す(A〜F)。DAPIで標識された細胞のほとんど(Aにおいて青色)はBrdU陽性であった(Bにおいて緑色)。(C)は(C)と(D)の結果を合わせたものである。処理後第3日に、これらの細胞は、NFを発現する細胞(Dにおいて赤色)にすでに分化しているが、依然としてBrdUで標識された(Eにおいて緑色)。(F)は(D)と(E)の結果を合わせたものである。ニューロン培養10%FBS−DMEMで処理した後第9日の細胞はその増殖能力を失った(G〜L)。DAPIで標識された細胞はすべて(Gにおいて青色)BrdU陰性であった(Hにおいて緑色)。(I)は(G)と(H)の結果を合わせたものである。処理後第9日に、NFを発現する細胞(Jにおいて赤色)に分化したこれらの細胞は、ほとんどBrdUで標識されなかった(Kにおいて緑色)。(L)は(J)および(K)の結果を合わせたものである。要約すると、細胞のほとんどはニューロンに変換され、第9日に増殖を停止し、このことは第9日のニューロンは有糸核分裂後の段階に入ったことを示唆する。
(VII)および(VIII)の結果は、ニューロン培養FBS−DMEMと共に培養された臍間葉細胞は増殖し、分化して、ニューロンになることができることを示す。
【0035】
前記載事項から、当業者らは、本発明の本質的特徴を容易に理解することができ、その精神および範囲から逸脱することなく本発明を様々に変更および修飾し、様々な用途および条件に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】(A)FBS−DMEM(対照)および(B)ニューロン培養培地において6日間培養した臍間葉細胞の形態を示す。
【図2】ニューロン培養培地において6日間培養した臍間葉細胞の(A)NFおよび(B)NeuN免疫染色を示す。
【図3】ニューロン培養培地での処理後様々な時間における、NFを発現する臍間葉細胞の割合を示す。
【図4】ニューロン培養培地中にて培養した臍間葉細胞の、GluR5、GluR6、GluR7およびKA2についてのウェスタンブロッティングの結果を示す。
【図5】ニューロン培養培地中で9日間培養した臍間葉細胞の(A)パルブアルブミン(PV)および(B)カルビンジン−D28K(CB)についての免疫染色を示す。
【図6】ニューロン培養培地において6日間培養された臍間葉細胞のGADについての(A)免疫染色および(B)ウェスタンブロッティングを示す。
【図7】図7(A)は、処理後0、3、6、および9日にニューロン培養培地により誘発された臍間葉細胞の変更された細胞密度を示し(スケールバー:100μm);図7(B)は、DAPI染色を用いて、ニューロン培養培地で処理された臍間葉細胞の定量的細胞密度を示す。
【図8】ニューロン培養培地中で3日(3D)および9日(9D)間培養された臍間葉細胞のDAPI+BrdU二重染色およびNF+BrdU二重染色を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養培地においてヒトを除く動物の海馬細胞(ニューロンを含む)を培養し、該海馬細胞の培養液から取り出した培地中で幹細胞を培養することを特徴とする、幹細胞からニューロンを生成させる方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−207245(P2010−207245A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−126003(P2010−126003)
【出願日】平成22年6月1日(2010.6.1)
【分割の表示】特願2003−419691(P2003−419691)の分割
【原出願日】平成15年12月17日(2003.12.17)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(503464169)
【出願人】(506090428)
【Fターム(参考)】