説明

幹細胞の作製と維持

本発明は、細胞をALK5阻害因子の存在下で培養することによる多能性細胞の作製および維持を提供する。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
発明の背景
1981年以降、マウスからは胚性幹細胞(ESC)が樹立されているが、それらに対応する物を、ラットを含む他のさまざまな哺乳動物から得ようとする試みは、成功していない。最近、多能性幹細胞がマウス及びラットの着床後卵筒期エピブラストから誘導された(Brons et al., Nature 448, 191-195 (2007);Tesar et al., Nature 448, 196-199 (2007))。これらの新規幹細胞はエピブラスト幹細胞(EpiSC)と名付けられた。EpiSCは、コロニーの形態および多様性を維持するための培養/シグナリング要件が、ヒト胚性幹細胞(hESC)によく一致するようであるが、マウスES細胞(mESC)とは、表現型およびシグナリング応答に一連の著しい相違を示す。
【0002】
白血病抑制因子(Leukemia inhibitory factor:LIF)は、JAK-STAT3経路を介して血清の存在下でmESCの多能性を維持するのに不可欠である(Niwa et al., Genes Dev 12, 2048-2060 (1998))。しかし、無血清培地では、分化抑制(Id)タンパク質発現を誘導すること(Ying et al., Cell 115, 281-292 (2003))およびERK活性化を阻害すること(Qi et al., Proc Natl Acad Sci USA 101, 6027-6032 (2005))によってmESC自己複製を持続させるために、LIFと共にBMP4も要求される。mESCとは対照的に、LIFは、長期自己複製に典型的には塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)/アクチビンAを要求するEpiSC/hESCを、サポートすることができない。未分化hESCは、bFGFシグナリングにより、高レベルのERK基礎活性を示す(Dvorak et al., Stem Cells 23, 1200-1211 (2005))。BMP4も、EpiSC/hESC自己複製をサポートせず、むしろ栄養芽層または原始内胚葉に分化するようにEpiSC/hESCを誘導する(Brons et al., Nature 448, 191-195 (2007);Tesar et al., Nature 448, 196-199 (2007);Xu et al., Nat Biotechnol 20, 1261-1264 (2002))。bFGFだけでなく、アクチビンA/Nodalシグナリングも、hESC/EpiSCの未分化状態をサポートすることが示されているが(Brons et al., Nature 448, 191-195 (2007);Sato et al., Dev Biol 260, 404-413 (2003);Tesar et al., Nature 448, 196-199 (2007))、これはmESCにとっては必須でない。これらの結果は、EpiSCとhESCとが本質的に類似しているという見解を強く裏付けており、mESCとEpiSC/hESCとが、2つの別個の多能性状態、すなわちそれぞれ、着床前内部細胞塊(ICM)に相当するmESC様状態と、その後のエピブラスト細胞に相当するEpiSC様状態とを表すという、魅力的な仮説を提起する。
【0003】
mESCは、通常は、フィーダー層に基づく細胞培養条件を使って、一定のマウス系統から誘導することができる(Martin, G.R., Proc Natl Acad Sci USA 78, 7634-7638 (1981))。しかし、類似する条件下でラットからオーセンティックな(authentic)ES細胞を誘導することは困難であることがわかっている。ラットESC様細胞の樹立は報告されているが(Demers et al., Cloning Stem Cells 9, 512-522 (2007);Ruhnke et al., Stem Cells 21, 428-436 (2003);Schulze et al., Methods Mol Biol 329, 45-58 (2006);Ueda et al., PLoS ONE 3, e2800 (2008))、これらの細胞は安定に維持することができないか、真のインビボ多能性を欠いていた(例えば奇形腫を形成することができないか、キメリズムへの寄与がほとんど/全くない)。同様に、(インビトロ)多能性ラットEpiSCも誘導されているが、ラットとマウスのEpiSCはどちらも、着床前胚中に再び組み込まれてキメラに寄与する能力を、ほとんどまたは全く示さない(Brons et al., Nature 448, 191-195 (2007);Tesar et al., Nature 448, 196-199 (2007))。
【0004】
最近、所定の遺伝子形質導入によってマウス体細胞とヒト体細胞の両方から作製される誘導多能性幹細胞(iPSC)が、極めて大きな関心を集めている(Dimos et al., Science 321, 1218-1221 (2008);Han, J.およびSidhu, K.S. Curr Stem Cell Res Ther 3, 66-74 (2008);Takahashi et al., Cell 131, 861-872 (2007);Takahashi, K.およびYamanaka, S., Cell 126, 663-676 (2006);Yu et al., Science 318, 1917-1920 (2007))。
【発明の概要】
【0005】
発明の簡単な概要
本発明は、少なくとも1回の細胞分裂にわたって多能性細胞を培養する方法を提供する。いくつかの態様において、本方法は、細胞の多能性を維持しつつ、少なくとも1回の細胞分裂を可能にするように、十分な量の
a. ALK5阻害因子(または他のTGFβ/アクチビン経路阻害因子)、および
b. MEK阻害因子、Erk阻害因子、p38阻害因子、およびFGF受容体阻害因子のうちの1つまたは複数から選択される第2の化合物;および
c. 十分な時間にわたる十分な栄養素
の存在下で、多能性動物細胞を培養する工程を含む。
【0006】
いくつかの態様では、培養工程は、さらに、一定量のGSK3β阻害因子の存在下で細胞を培養することを含む。いくつかの態様では、GSK3β阻害因子はCHIR99021である。
【0007】
いくつかの態様では、第2の化合物はMEK阻害因子である。いくつかの態様では、MEK阻害因子はPD0325901である。
【0008】
いくつかの態様では、第2の化合物はErk阻害因子である。
【0009】
いくつかの態様では、培養工程は白血病阻害因子(Leukemia inhibiting factor:LIF)のさらなる存在下で行われる。
【0010】
いくつかの態様では、ALK5阻害因子はA-83-01である。いくつかの態様では、ALK5阻害因子はSB431542である。
【0011】
いくつかの態様では、多能性細胞は、細胞の多能性を維持しつつ、少なくとも5回の細胞分裂にわたって培養される。
【0012】
いくつかの態様において、本方法はさらに、異種核酸を多能性細胞中に導入する工程、およびその結果生じた細胞を、多能性を維持しつつ少なくとも1回のさらなる細胞分裂を可能にするように培養する工程を含む。いくつかの態様では、異種核酸は、動物細胞中に導入され、次に多能性が誘導され、かつ次に培養工程に供される。
【0013】
いくつかの態様では、細胞はラット細胞またはヒト細胞である。いくつかの態様では、細胞は、霊長類、ヒツジ、ウシ、ネコ、イヌ、またはブタの細胞である。
【0014】
いくつかの態様では、多能性細胞は胚性幹細胞である。いくつかの態様では、多能性細胞は誘導多能性幹細胞である。
【0015】
いくつかの態様では、細胞は非ヒト動物細胞であり、本方法はさらに、多能性細胞を、その細胞と同じ動物種に由来する胚盤胞中に導入する工程、およびその胎盤胞を同じ種の動物の子宮中に導入する工程を含む。いくつかの態様において、本方法は、多能性細胞に由来する核酸の存在に基づいて、その動物のキメラ子孫を選択する工程を含む。
【0016】
本発明は、多能性哺乳動物細胞の培養物も提供する。いくつかの態様では、培養物は、細胞の多能性を維持しつつ、少なくとも1回の細胞分裂を可能にするように、十分な量の
a. ALK5阻害因子(または他のTGFβ/アクチビン経路阻害因子)、および
b. MEK阻害因子、Erk阻害因子、p38阻害因子、およびFGF受容体阻害因子のうちの1つまたは複数から選択される第2の化合物
を含む。
【0017】
いくつかの態様では、培養物はさらにLIFを含む。
【0018】
いくつかの態様では、培養物はさらに、一定量のGSK3β阻害因子を含む。いくつかの態様では、GSK3β阻害因子はCHIR99021である。
【0019】
いくつかの態様では、第2の化合物はMEK阻害因子である。いくつかの態様では、MEK阻害因子はPD0325901である。
【0020】
いくつかの態様では、第2の化合物はErk阻害因子である。いくつかの態様では、ALK5阻害因子はA-83-01である。いくつかの態様では、ALK5阻害因子はSB431542である。
【0021】
いくつかの態様では、細胞はラット細胞またはヒト細胞である。いくつかの態様では、細胞は、霊長類、ヒツジ、ウシ、ネコ、イヌ、またはブタの細胞である。いくつかの態様では、細胞は誘導多能性幹細胞または胚性幹細胞である。
【0022】
本発明は細胞培養培地も提供する。いくつかの態様において、本培地は、多能性細胞を本培地中で培養した場合に、細胞の多能性を維持しつつ、少なくとも1回の細胞分裂を可能にするように、十分な量の
a. ALK5阻害因子(または他のTGFβ/アクチビン経路阻害因子)、および
b. MEK阻害因子、Erk阻害因子、p38阻害因子、およびFGF受容体阻害因子のうちの1つまたは複数から選択される第2の化合物
を含む。
【0023】
いくつかの態様では、培地はさらにLIFを含む。
【0024】
いくつかの態様では、培地はさらに、一定量のGSK3β阻害因子を含む。いくつかの態様では、GSK3β阻害因子はCHIR99021である。
【0025】
いくつかの態様では、第2の化合物はMEK阻害因子である。いくつかの態様では、MEK阻害因子はPD0325901である。
【0026】
いくつかの態様では、第2の化合物はErk阻害因子である。いくつかの態様では、ALK5阻害因子はA-83-01である。いくつかの態様では、ALK5阻害因子はSB431542である。
【0027】
いくつかの態様では、培地が包装済み封止容器に入っている。いくつかの態様では、培地は、DMEMを含むか、またはヒト、ラット、マウスまたは他の動物細胞を成長させるのに適合した他の培地を含む。
【0028】
本発明は、白血病抑制因子(LIF)および骨形成タンパク質(BMP)の存在下で、またはTGFβおよびアクチビンシグナリング経路の阻害下、MAPKシグナリング経路の阻害下、および任意で、FGF経路の阻害下で、複製し、かつ多能性を維持している、単離された多能性動物細胞も提供する。いくつかの態様では、単離された多能性動物細胞はマウス胚性幹細胞(mESC)ではない。いくつかの態様では、細胞はヒト細胞である。いくつかの態様では、細胞はヒト胚性幹細胞である。いくつかの態様では、細胞はヒトiPS細胞である。いくつかの態様では、細胞はラット細胞である。いくつかの態様では、細胞はラット胚性幹細胞である。いくつかの態様では、細胞はラットiPS細胞である。いくつかの態様では、細胞はALK5およびMEKの阻害下で多能性を維持している。いくつかの態様では、細胞は、異種発現カセット(例えば、限定するわけではないが、選択可能マーカーまたは検出可能マーカー(例えばアルカリホスファターゼ)をコードする発現カセット)を含む。
【0029】
本発明の単離された多能性細胞は、従来通りに培養されたhESC、エピブラスト幹細胞、およびヒト誘導多能性細胞と比較して、より高レベルのE-カドヘリンを発現する。例えば、単離された多能性動物細胞は、従来通りに培養されたhESC、EpiSC、およびヒト誘導多能性細胞と比較して、2倍高いレベルのE-カドヘリンを発現する。いくつかの態様では、単離された多能性動物細胞は、従来通りに培養されたhESC、エピブラスト幹細胞、およびヒト誘導多能性細胞と比較して、Gbx2、Dppa3、Klf4、およびRexlを含むマーカーを、より高レベルに発現する。
【0030】
いくつかの態様では、本発明の単離された多能性細胞は、ALK5阻害因子の存在下、ならびにMEK阻害因子、Erk阻害因子、p38阻害因子、およびFGF受容体阻害因子から選択される第2の化合物の存在下で培養される。いくつかの態様において、本発明の単離された多能性細胞は、ALK5阻害因子の存在下、ならびにMEK阻害因子、Erk阻害因子、p38阻害因子、およびFGF受容体阻害因子のうちの1つまたは複数から選択される第2の化合物の存在下で細胞を培養することによって得られるか、またはそうすることによって得ることができる。例えば、本発明の単離された多能性細胞は、従来通りに培養されたhESC、EpiSC、ラットESC、または霊長類ESCを培養することによって得られるか、またはそうすることによって得ることができる。
【0031】
本発明は、不完全多能性哺乳動物細胞(partially pluripotent mammalian cell)の多能性を、より完全に多能性である細胞(more fully pluripotent cell)にまで向上させる方法も提供する。いくつかの態様において、本方法は、
(a) 不完全多能性細胞を、ヒストンデアセチラーゼ阻害因子、ヒストンH3K4脱メチル化の阻害因子またはH3K4メチル化の活性化因子から選択されるエピジェネティック修飾因子(epigenetic modifier)と接触させる工程;
(b) 工程(a)の後に、細胞を、(i)ALK5阻害因子、(ii)MEK阻害因子、Erk阻害因子、またはp38阻害因子、および(iii)FGF受容体阻害因子のうちの2つまたはそれ以上と共に、エピジェネティック修飾因子の非存在下で培養する工程であり、それにより、前記不完全多能性哺乳動物細胞と比較して、より完全に多能性である細胞を作製する、工程
を含む。
【0032】
いくつかの態様において、本方法はさらに、
(c) 工程(b)の後の不完全多能性哺乳動物細胞を、(i)ALK5阻害因子、(ii)MEK阻害因子、Erk阻害因子、またはp38阻害因子、および(iii)FGF受容体阻害因子、および(iv)GSK3阻害因子と共に培養する工程
を含む。
【0033】
いくつかの態様では、培養工程(a)および/または(b)および/または(c)は、さらに、不完全多能性哺乳動物細胞を白血病抑制因子(LIF)の存在下で培養することを含む。
【0034】
いくつかの態様では、不完全多能性細胞はエピブラスト幹細胞である。
【0035】
いくつかの態様では、不完全多能性細胞は、Oct4、Nanog、SSEA-1、およびREX-1からなる群より選択される少なくとも1つのマーカーを発現せず、より完全に多能性である細胞は、それらのマーカーの1つまたは複数または全てを発現する。
【0036】
いくつかの態様では、不完全多能性細胞はALP-1を発現せず、より完全に多能性である細胞はALP-1を発現する。
【0037】
いくつかの態様では、エピジェネティック修飾因子はバルプロ酸またはパルネート(parnate)である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】レトロウイルスによるOct4、Sox2およびKlf4の形質導入後に、mESC様riPSCをラットWB-F344細胞から生成し、それを、LIF、0.5μM PD0325901、0.5μM A-83-01および3μM CHIR99021の組合せの下で、捕捉/維持することができた。形質導入の10日後にESC様コロニーが観察されたが(A)、従来のmESC培養条件では、それを維持することができなかった(B)。0.5μM PD0325901および3μM CHIR99021の存在下では、riPSCを培養下で短期間維持することができるが、甚だしい自発的分化を示す(C)。0.5μM PD0325901、3μM CHIR99021、および0.5μM A-83-01の組合せにより、riPSCは長期間かつ均質に自己複製し(D)、培養下でmESC様のドーム状コロニーを形成することができる(E)。免疫細胞化学により、riPSCは典型的なmESCマーカー、例えばOct4(F)、Sox2(G)、SSEA-1(H、緑色)およびNanog(H、赤色)を、発現することが明らかになった。4つのクローンriPSC株のRT-PCR分析により、内在性の典型的多能性マーカーの発現が確認されたが(I)、ウイルスによって形質導入された遺伝子は、大半が発現停止されていた。riPSCクローンのOct4プロモーターは脱メチル化パターンを示し、親WB-F344細胞のそれとは異なっている(J)。
【図2】riPSCはインビトロおよびインビボで多能性の発生能を有する。免疫染色により、riPSCは、インビトロで内胚葉(アルブミンおよびPdx1)(AおよびB)、神経外胚葉(βIII-チューブリン、Tuj1)(C)および中胚葉(Brachyury)(D)誘導体に分化し得ることが示された。また、riPSCはSCIDマウス中で奇形腫を形成することもでき、それは、3つの胚葉の全てからなっていた(E〜H)。また、Brown-Norwayラット胚盤胞への注入後に、WB F344バックグラウンドを持つriPSCは、キメララットを作出することができた(I)。相対倍率:A〜E(100×)、F〜HおよびJ〜Q(200×)。
【図3】新規「mESC様」hiPSCの作製。IMR90ヒト線維芽細胞に、レンチウイルスによって、Oct4、Sox2、Nanog、およびLin28を形質導入した。形質導入の3週間後にhiPSCコロニーが観察され(A)、形質導入の4週間後にそれらをピックアップした。これは、hLIF、0.5μM PD0325901、0.5μM A-83-01、および3μM CHIR99021のカクテルの下で、安定に維持された。このhiPSCはmESCに似たドーム状コロニーを形成した(B)。そのような条件下において、hiPSCは、ALP(C)および他の典型的多能性マーカー(D〜I)に関して陽性だった。4つのクローンhiPSC株のRT-PCR分析によって内在性多能性遺伝子の発現が確認されたが(J)、ウイルスによって形質導入された遺伝子は、大半が発現停止されていた。hiPSCクローンのOct4プロモーターは、従来通りに培養されたヒトES細胞と類似する脱メチル化パターンを示したが、親IMR90線維芽細胞のそれとは異なっている(K)。hiPSCの核型分析を示す(L)。
【図4】免疫染色により、hiPSCは、インビトロで内胚葉(アルブミン)(A)、神経外胚葉(βIII-チューブリン、Tuj1)(B)および中胚葉(Brachyury)(C)誘導体へと、効果的に分化し得ることが示された。SCIDマウスへの移植後に、hiPSCは奇形腫を形成することができ、それは、神経上皮様構造(外胚葉)(D)、管様構造(内胚葉)(D)、軟骨様構造(中胚葉)(E)を含む3つの胚葉の全てからなっていた。相対倍率:A(100×)、B〜E(200×)。
【図5】培養下のriPSCの多能性の維持に、異なる小分子の組合せが及ぼす効果。riPSCをトリプシン処理して単一細胞とし、1ウェルあたり103細胞の密度で6穴プレートに播種し、異なる阻害因子の組合せで処理した。5日後に、riPSCコロニーを可視化するために、ALP染色を行った(A)。各条件についてALP陽性コロニーを10個のランダムな40×視野から計数し、相対的コロニー数をBにまとめた。
【図6】EpiSCはmESC成長条件下で分化し、ICM/mESC様状態には容易に転換しない。(A)マウスESC R1は、LIFを補足した従来のmESC成長培地ではコンパクトなドーム状コロニーとして成長し、そのコロニーは陽性ALP活性を示した(左上)。EpiSCは、bFGFを補足した従来のhESC培養培地では大きくて扁平なコロニーとして成長し、そのコロニーは陰性ALP活性を示した(右上)。EpiSCは、LIFを補足した従来のmESC成長培地では分化した(左下)。また、EpiSCは、LIFと、0.5μM MEK阻害因子PD0325901、0.1μM FGFR阻害因子PD173074および3μM GSK3阻害因子CHIR99021とを補足した従来のmESC成長培地(m/MFGi)では分化した(右下)。(B)転換細胞の作製に関する図解。EpiSCをトリプシン処理して単一細胞とし、それを、表示の化学化合物を補足したmESC自己複製条件下で、フィーダー細胞上にプレーティングして約4日間培養することにより、転換を誘導し、その後、さらに4日間の選択を行った。次に、培養物を再プレーティングし、新たに2週間にわたってさらに選択および増殖させて、その間に、安定なクローンをピックした。(C)選択的ALK4/5/7阻害因子A-83-01(0.5μM)によるTGFβシグナリングの阻害は、ALPを発現する、よりコンパクトなドーム状コロニーを形成するように、EpiSCを誘導した。(D)これらのコロニーは、LIFと、0.5μM A-83-01、0.5μM PD0325901、0.1μM PD173074および3μM CHIR99021とを補足したmESC成長培地(mAMFGi)中で、さらに安定に増殖させることができた。(E)LSD阻害因子パルネートは、ALPを発現する、よりコンパクトなドーム状コロニーを形成するように、EpiSCを誘導した。これらのコロニーは、mMFGiまたは(F)mAMFGi条件下で、さらに安定に増殖させることができた。mESC様ドーム状コロニーおよび陽性ALP活性に注目されたい。スケールバー、50μm。
【図7】EpiSCは、パルネートならびにALK4/5/7、MEK、FGFRおよびGSK3の阻害因子で処理することにより、ICM/mESC様状態に転換する。(A)3タイプの化合物処理細胞からのキメリズムの生成効率。(B)パルネート/mAMFGi条件によってEpiSCから転換された安定なmESC様細胞は、凝集胚を偽妊娠マウス中に移植した後の成体マウスにおけるキメリズムに寄与した。アグーチ毛色はパルネート/mAMFGi細胞から生じたものである。(C)複数の成体組織におけるGFP組込みの存在に関するPCR遺伝子型同定。(D)E13.5胚を、GFPで標識されたパルネート/mAMFGi細胞からの寄与について、蛍光によって調べたところ、胚の複数の組織にGFP陽性細胞が観察された(さらに高倍率の写真を図10Aに示す)。(E)生殖腺中のGFP/SSEA-1二重陽性細胞をFACSによって単離し、生殖細胞系マーカーについてリアルタイムPCRで調べた。その結果、パルネート/mAMFGi細胞が寄与する生殖細胞系譜における生殖細胞系マーカーBlimp1およびStellaの特異的発現が実証された。バー:±STDV。
【図8】転換パルネート/mAMFGi細胞の分子特徴決定。(A)免疫細胞化学は、パルネート/mAMFGi細胞における多能性マーカー、Oct4(緑色)、Nanog(赤色)、およびSSEA-1(赤色)の均質な発現を示した。(B)mESC、EpiSC、およびパルネート/mAMFGi細胞における特異的ICMマーカー遺伝子(Rex-1、Pecam1、Dax1、Dppa5、Esrrb、Fgf4、およびFbxo15)、生殖細胞系コンピテンス(germline competence)関連マーカー遺伝子(StellaおよびStra8)、およびエピブラスト遺伝子(fgf5)の発現を、半定量RT-PCRによって分析した。GADPHを対照として使用した。(C)mESC、EpiSC、およびパルネート/mAMFGi細胞のトランスクリプトーム分析により、パルネート/mAMFGi細胞はEpiSCよりmESCにはるかに似ていることが示された。3つの細胞タイプの全てについて、2つの生物学的レプリケート(biological replicate)を使用した。(D)バイサルファイト・ゲノム・シークエンシング(bisulfite genomic sequencing)によるStellaおよびFgf4プロモーターのメチル化分析。白丸と黒丸はそれぞれ非メチル化およびメチル化CpGを示す。(E)さまざまな細胞中のstella遺伝子座における表示したヒストン修飾のChIP-QPCR分析。フィーダーフリー培養EpiSC、R1-mESC、およびパルネート/mAMFGi細胞から、表示した抗体を使ってゲノムDNAを免疫沈降させた後、Stellaをコードする内在性ゲノム遺伝子座に特異的なプライマーセットを使ってQ-PCR分析を行った。ヒストン修飾のレベルをインプットのパーセンテージとして表した。IgGを抗体なしの対照とした。
【図9】転換パルネート/mAMFGi細胞の機能的特徴決定。(A)パルネート/mAMFGi細胞はmESCと類似する成長速度を持つ。R1-mESCおよびパルネート/mAMFGi細胞を3日ごとに継代し、24時間ごとに細胞数を計数した。(B)パルネート/mAMFGi細胞は、インビトロで、特徴的なニューロン細胞(βIII-チューブリンおよびMAP2ab陽性)、心筋細胞(心筋トロポニンおよびMHC陽性)、および内胚葉細胞(Sox17またはアルブミン陽性)を含む3つの胚葉の細胞に、効果的に分化することができる。核をDAPIで染色した。(D)BMP4は、EpiSC、mESC、およびパルネート/mAMFGi細胞における中胚葉マーカー(Brachyury)、栄養芽層マーカー(Cdx2)、および原始内胚葉マーカー(Gata6)発現の誘導に関して、示差的効果を持つ。(E)単層および既知組成(chemically defined)条件下での定方向段階的(directed step-wise)心筋細胞分化により、パルネート/mAMFGi細胞はR1-mESCと類似する分化応答を持ち、EpiSCとは異なることが実証された。細胞をCT3染色と拍動表現型とで特徴づけた。
【図10】パルネート/mAMFGi細胞はキメラマウスに効率よく寄与した。(A)キメラ胚からの組織。パルネート/mAMFGi細胞に起因するGFP陽性細胞は、生殖腺、脳、心臓、腸、肺、および腎臓に観察された。(B)キメラ成体マウスのGFP遺伝子型同定。5匹のマウスをランダムに選び、5つの異なる組織、すなわち心臓、肺、肝臓、脳、および脾臓におけるGFP組込みを、ゲノムPCRによって分析した。2匹の成体マウスでは5つの組織の全てにおいて、また3匹のマウスでは4つの組織において、GFP組込みが陽性に検出されたことから、パルネート/mAMFGi細胞はインビボで3つの胚葉(中胚葉、内胚葉および外胚葉)に寄与し得ることが確認された。
【図11】フィーダー細胞培養条件下またはフィーダーフリー培養条件下における転換パルネート/mAMFGi細胞における多能性マーカーの均質な発現。(A)パルネート/mAMFGi細胞をGFPで標識し、フィーダー上で増殖させた。免疫染色結果は、GFPならびに多能性マーカーOct4(赤色)、Nanog(赤色)、およびSSEA-1(赤色)の均質な発現を示した。(B)未分化Oct4陽性コロニーは、単一のOG2-ES細胞からと同じぐらい効率よく、単一のパルネート/mAMFGi細胞から発生した。コロニーを、単一細胞播種後、フィーダーフリーおよびN2B27既知組成条件下で、数継代にわたって増殖させた。スケールバー、50μm。(C)LIFの非存在下で、パルネート/mAMFGi細胞は分化し、Oct4発現を失った。パルネート/mAMFGi細胞を、単一細胞播種後、フィーダーフリーおよびN2B27既知組成条件下で増殖させた。成長因子の補足を表示した。
【図12】STELLAの発現は、転換パルネート/mAMFGi細胞およびR1-mESC細胞では検出されたが、EpiSCでは検出されなかった。免疫染色結果はSTELLAの発現およびDAPIを示した。
【発明を実施するための形態】
【0039】
定義
「多能性の」または「多能性」という用語は、3つの胚葉(内胚葉、中胚葉、および外胚葉)の全てに由来する細胞系譜に関連する特徴を集団として示す細胞タイプへの分化を適当な条件下で起こすことができる子孫を生じる能力を有する細胞を指す。多能性幹細胞は、出生前、出生後または成体動物の多くのまたは全ての組織に寄与することができる。ある細胞集団の多能性を確証するには、当技術分野で受け入れられている標準的試験(例えば8〜12週齢のSCIDマウスにおいて奇形腫を形成する能力)を使用することができるが、多能性細胞の検出には、さまざまな多能性幹細胞特徴の同定も使用することができる。細胞の多能性は、胚本来のあらゆる細胞を形成することができる完全多能性細胞、例えば胚性幹細胞およびiPSCから、3つの胚葉の全ての細胞を形成することができるが完全多能性細胞の特徴(例えば生殖細胞系伝達(germline transmission)または生物体全体を生成する能力など)の全てを示すわけではないことがある不十分または不完全多能性細胞にまでまたがる、連続したつながりである。特定の態様では、細胞の多能性が、不十分にまたは不完全に多能性である細胞から、より多能性である細胞へと、または一定の態様では、完全多能性細胞へと向上する。多能性は、例えば奇形腫形成、生殖細胞系伝達、および四倍体胚補完によって評価することができる。いくつかの態様では、本明細書において項を改めて議論する多能性遺伝子または多能性マーカーの発現を使って細胞の多能性を評価することができる。
【0040】
「多能性幹細胞特徴」とは、多能性幹細胞を他の細胞と区別する細胞の特徴を指す。3つの胚葉(内胚葉、中胚葉、および外胚葉)の全てに由来する細胞系譜に関連する特徴を集団として示す細胞タイプへの分化を適当な条件下で起こすことができる子孫を生じる能力は、多能性幹細胞特徴である。分子マーカーの一定の組合せの発現または非発現も、多能性幹細胞特徴である。例えばヒト多能性幹細胞は、次の非限定的リストに挙げるマーカーの少なくとも一部(任意で全部)を発現する:SSEA-3、SSEA-4、TRA-1-60、TRA-1-81、TRA-2-49/6E、ALP、Sox2、E-カドヘリン、UTF-1、Oct4、Rex1、およびNanog。多能性幹細胞に関連する細胞形態も多能性幹細胞特徴である。
【0041】
「ライブラリー」という用語は、当技術分野におけるその一般的用法に従って、分子の集合体(これは、個々のメンバーを同定することができるような形で組織化および/またはカタログ化されていてもよい)を表すために使用される。ライブラリーには、コンビナトリアル化合物ライブラリー、天然物ライブラリー、およびペプチドライブラリーを含めることができるが、これらに限定されるわけではない。
【0042】
「組換え」ポリヌクレオチドは、その自然状態にはないポリヌクレオチドである。例えば、そのポリヌクレオチドは、自然界には見いだされないヌクレオチド配列を含むか、またはそのポリヌクレオチドは、それが天然に見いだされる状況ではない状況下にあって、例えば通例、自然界ではそのポリヌクレオチドの近傍にあるヌクレオチド配列から離れているか、通例、そのポリヌクレオチドの近傍にはないヌクレオチド配列に近接(またはそのような配列と隣接)している。例えば問題の配列は、ベクター中にクローニングするか、それ以外の方法で1つまたは複数の追加核酸と組み換えることができる。
【0043】
「発現カセット」とは、タンパク質をコードする配列に機能的に連結されたプロモーターまたは他の調節配列を含むポリヌクレオチドを指す。
【0044】
「プロモーター」および「発現制御配列」という用語は、本明細書においては、核酸の転写を指示する一連の核酸制御配列を指すために使用される。本明細書にいうプロモーターは、転写開始部位の近くにある必須核酸配列、例えばポリメラーゼII型プロモーターの場合であれば、TATA要素を含む。プロモーターは、遠位エンハンサーまたはリプレッサー要素を含んでもよく、それらは、転写開始部位から数千塩基対も離れて位置する場合もある。プロモーターには、構成的プロモーターと誘導性プロモーターが含まれる。「構成的」プロモーターは、大半の環境条件下および発生条件下において活性なプロモーターである。「誘導性」プロモーターは、環境調節下または発生調節下において活性なプロモーターである。「機能的に連結された」という用語は、核酸発現制御配列(例えばプロモーター、または一連の転写因子結合部位)と第2の核酸配列との間の機能的連結であって、発現制御配列が第2の配列に対応する核酸の転写を指示するものを指す。
【0045】
本明細書にいう「異種配列」または「異種核酸」とは、その特定宿主細胞にとって外来である供給源に由来するものであるか、または、それが同じ供給源に由来する場合には、その元来の形態から修飾されているものである。したがって、ある細胞中の異種発現カセットは、例えば染色体DNAではなく発現ベクターのヌクレオチド配列に連結されていたり、異種プロモーターに連結されていたり、レポーター遺伝子に連結されていたりすることなどにより、その特定宿主細胞にとって内在性ではない発現カセットである。
【0046】
「作用物質」または「試験化合物」という用語は、本明細書に記載するスクリーニングアッセイにおいて有用な任意の化合物を指す。作用物質は、例えば有機化合物、ポリペプチド(例えばペプチドまたは抗体)、核酸(例えば、二本鎖または一本鎖のDNA、RNA、オリゴヌクレオチド、アンチセンスRNA、低分子阻害(small inhibitory)RNA、マイクロRNA、リボザイムなど)、オリゴ糖、脂質などであることができる。通常、本スクリーニング方法において使用される作用物質は、10,000ダルトン未満、例えば8000、6000、4000、2000ダルトン未満、例えば50〜1500、500〜1500、200〜2000、500〜5000ダルトンの分子量を持つ。試験化合物は、十分な多様性の幅を与える試験化合物のライブラリー、例えばコンビナトリアルライブラリーまたはランダム化ライブラリー(randomized library)などの形態をとることができる。試験化合物は、融合パートナー、例えばターゲティング化合物、レスキュー化合物、二量体化化合物、安定化化合物、アドレス可能化合物、および他の機能的部分などに連結されていてもよい。通例、有用な性質を持つ新規化学物質は、何らかの望ましい性質または活性(例えば本明細書に記載するような一定の条件下で多能性を誘導する能力)を持つ試験化合物(これを「リード化合物」と呼ぶ)を同定し、そのリード化合物の変異体を作り出し、それら変異体化合物の性質および活性を評価することによって創製される。多くの場合、そのような分析には、ハイスループットスクリーニング(HTS)法が使用される。
【0047】
「核酸」および「ポリヌクレオチド」という用語は、デオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチド、およびそれらの一本鎖型または二本鎖型のポリマーを指すために、本明細書においては可換的に使用される。この用語は、合成物、天然物、および非天然物であって、基準核酸と類似する結合特性を有し、基準ヌクレオチドと類似する方法で代謝される、公知のヌクレオチド類似体または修飾バックボーン残基もしくは修飾バックボーン結合を含有する核酸を包含する。そのような類似体の例には、ホスホロチオエート、ホスホルアミデート、メチルホスホネート、キラル-メチルホスホネート、2-O-メチルリボヌクレオチド、ペプチド核酸(PNA)などが含まれるが、これらに限定されるわけではない。
【0048】
別段の表示がない限り、ある特定の核酸配列は、明示した配列だけでなく、保存的に修飾されたその変異体(例えば縮重コドン置換)および相補配列も包含する。具体的には、縮重コドン置換は、1つまたは複数の選択された(または全ての)コドンの3番目の位置が混合塩基および/またはデオキシイノシン残基で置換された配列を作製することによって達成することができる(Batzer et al., Nucleic Acid Res. 19:5081 (1991);Ohtsuka et al., J. Biol. Chem. 260:2605-2608 (1985);Rossolini et al., Mol.Cell. Probes 8:91-98 (1994))。
【0049】
発現または活性の「阻害因子」、「活性化因子」および「調整因子(modulator)」という用語は、それぞれ、記載のターゲットタンパク質(またはそれをコードするポリヌクレオチド)の発現または活性に関するインビトロおよびインビボアッセイを使って同定される阻害分子、活性化分子、または調整分子、例えばリガンド、アゴニスト、アンタゴニスト、ならびにそれらのホモログおよびミメティックなどを指すために使用される。「調整因子」という用語は、阻害因子および活性化因子を包含する。阻害因子は、例えば発現を阻害するか、結合するか、刺激またはプロテアーゼ阻害因子活性を部分的にまたは完全に遮断するか、活性化を減少させるか、防止するか、遅延するか、不活化するか、除感する(desensitize)か、または記載のターゲットタンパク質の活性をダウンレギュレートする作用物質、例えばアンタゴニストである。活性化因子は、例えば記載のターゲットタンパク質の発現を誘導または活性化するか、結合するか、刺激するか、増加させるか、開く(open)か、活性化するか、助長する(facilitate)するか、活性化またはプロテアーゼ阻害因子活性を強化するか、増感する(sensitize)か、または記載のターゲットタンパク質(もしくはそれをコードするポリヌクレオチド)の活性をアップレギュレートする作用物質、例えばアゴニストである。調整因子には、天然および合成のリガンド、アンタゴニストおよびアゴニスト(例えばアゴニストまたはアンタゴニストとして機能する小化学分子、抗体など)が含まれる。阻害因子および活性化因子に関するそのようなアッセイには、例えば推定上の調整因子化合物を、記載のターゲットタンパク質を発現する細胞に適用し、次に、上述したような、記載のターゲットタンパク質活性に対する機能的効果を決定することなどが含まれる。潜在的活性化因子、阻害因子、または調整因子で処理された記載のターゲットタンパク質を含む試料またはアッセイを、阻害因子、活性化因子、または調整因子を含まない対照試料と比較して、効果の程度を調べる。対照試料(調整因子で処理されていないもの)に100%という相対活性値を割り当てる。記載のターゲットタンパク質の阻害は、対照と比較した活性値が約80%、任意で50%または25、10%、5%もしくは1%である場合に達成される。記載のターゲットタンパク質の活性化は、対照と比較して活性値が110%、任意で150%、任意で200、300%、400%、500%、または1000〜3000%もしくはそれ以上である場合に達成される。
【0050】
「Octポリペプチド」とは、オクタマー(Octamer)転写因子ファミリーの天然のメンバー、または最も近い関連天然ファミリーメンバーと比較して類似する転写因子活性(少なくとも50%、80%、または90%以内の活性)を維持しているその変異体、または天然ファミリーメンバーの少なくともDNA結合ドメインを含み、さらに転写活性化ドメインを含むことができるポリペプチドのいずれかを指す。例示的なOctポリペプチドには、Oct-1、Oct-2、Oct-3/4、Oct-6、Oct-7、Oct-8、Oct-9、およびOct-11などがあり、例えばOct3/4(本明細書では「Oct4」という)は、POUドメイン(Pit-1、Oct-1、Oct-2、およびuric-86の間で保存されている150アミノ酸の配列)を含有する。Ryan, A.K.およびRosenfeld, M.G. Genes Dev. 11, 1207-1225 (1997)を参照されたい。いくつかの態様において、変異体は、天然のOctポリペプチドファミリーメンバーと比較して、例えば上に列挙したもの、またはGenBankアクセッション番号NP_002692.2(ヒトOct4)もしくはNP_038661.1(マウスOct4)に掲載されているものと比較して、その配列全体にわたって少なくとも85%、90%、または95%のアミノ酸配列同一性を持つ。Octポリペプチド(例えばOct3/4)は、ヒト、マウス、ラット、ウシ、ブタ、または他の動物に由来し得る。一般的には、操作される細胞の種と同じ種のタンパク質が使用されると考えられる。
【0051】
「Klfポリペプチド」とは、ショウジョウバエ(Drosophila)胚パターン調節因子クルッペル(Krueppel)と類似するアミノ酸配列を含有するジンクフィンガータンパク質であるクルッペル様因子ファミリーの天然のメンバー(Klf)、または最も近い関連天然ファミリーメンバーと比較して類似する転写因子活性(少なくとも50%、80%、または90%以内の活性)を維持している天然メンバーの変異体、または天然ファミリーメンバーの少なくともDNA結合ドメインを含み、さらに転写活性化ドメインを含むことができるポリペプチドのいずれかを指す。Dang, D.T., Pevsner, J.およびYang, V.W., Cell Biol. 32, 1103-1121 (2000)を参照されたい。例示的なKlfファミリーメンバーには、Klf1、Klf2、Klf3、Klf-4、Klf5、Klf6、Klf7、Klf8、Klf9、Klf10、Klf11、Klf12、Klf13、Klf14、Klf15、Klf16、およびKlf17がある。Klf2およびKlf-4は、マウスにおいてiPS細胞を生成させる能力を有する因子であることが見いだされた。関連遺伝子Klf1およびKlf5も同様であったが、その効率は低かった。Nakagawa, et al, Nature Biotechnology 26:101-106 (2007)を参照されたい。いくつかの態様において、変異体は、天然のKlfポリペプチドファミリーメンバーと比較して、例えば上に列挙したもの、またはGenBankアクセッション番号CAX16088(マウスKlf4)もしくはCAX14962(ヒトKlf4)に掲載されているものと比較して、その配列全体にわたって少なくとも85%、90%、または95%のアミノ酸配列同一性を持つ。Klfポリペプチド(例えばKlf1、Klf4、およびKlf5)は、ヒト、マウス、ラット、ウシ、ブタ、または他の動物に由来し得る。一般的には、操作される細胞の種と同じ種のタンパク質が使用されると考えられる。本明細書においてKlfポリペプチドを記載する範囲に限って言えば、それをエストロゲン関連受容体ベータ(Essrb)ポリペプチドと置き換えることができる。したがって、本明細書に記載する各Klfポリペプチド態様については、Klf4ポリペプチドの代わりにEssrbを用いた対応する態様も同様に記載されているものとする。
【0052】
「Mycポリペプチド」とは、Mycファミリーの天然のメンバー(例えばAdhikary, S.およびEilers, M. Nat. Rev. Mol. Cell Biol. 6:635-645 (2005)を参照されたい)、または最も近い関連天然ファミリーメンバーと比較して類似する転写因子活性(少なくとも50%、80%、または90%以内の活性)を維持しているその変異体、または天然ファミリーメンバーの少なくともDNA結合ドメインを含み、さらに転写活性化ドメインを含むことができるポリペプチドのいずれかを指す。例示的なMycポリペプチドには、例えばc-Myc、N-MycおよびL-Mycなどがある。いくつかの態様において、変異体は、天然のMycポリペプチドファミリーメンバーと比較して、例えば上に列挙したもの、またはGenBankアクセッション番号CAA25015(ヒトMyc)に掲載されているものと比較して、その配列全体にわたって少なくとも85%、90%、または95%のアミノ酸配列同一性を持つ。Mycポリペプチド(例えばc-Myc)は、ヒト、マウス、ラット、ウシ、ブタ、または他の動物に由来し得る。一般的には、操作される細胞の種と同じ種のタンパク質が使用されると考えられる。
【0053】
「Soxポリペプチド」とは、高移動度群(high-mobility group;HMG)ドメインの存在を特徴とするSRY関連HMGボックス(Sox)転写因子の天然のメンバー、または最も近い関連天然ファミリーメンバーと比較して類似する転写因子活性(少なくとも50%、80%、または90%以内の活性)を維持しているその変異体、または天然ファミリーメンバーの少なくともDNA結合ドメインを含み、さらに転写活性化ドメインを含むことができるポリペプチドのいずれかを指す。例えばDang, D.T., et al., Int. J. Biochem. Cell Biol. 32:1103-1121 (2000)を参照されたい。例示的なSoxポリペプチドには、例えばSox1、Sox-2、Sox3、Sox4、Sox5、Sox6、Sox7、Sox8、Sox9、Sox10、Sox11、Sox12、Sox13、Sox14、Sox15、Sox17、Sox18、Sox-21、およびSox30などがある。Sox1は、Sox2と類似する効率でiPS細胞を与えることが示されている。また、遺伝子Sox3、Sox15、およびSox18もiPS細胞を生成させることが示されているが、その効率はSox2よりいくらか低い。Nakagawa, et al., Nature Biotechnology 26:101-106 (2007)を参照されたい。いくつかの態様において、変異体は、天然のSoxポリペプチドファミリーメンバーと比較して、例えば上に列挙したもの、またはGenBankアクセッション番号CAA83435(ヒトSox2)に掲載されているものと比較して、その配列全体にわたって少なくとも85%、90%、または95%のアミノ酸配列同一性を持つ。Soxポリペプチド(例えばSox1、Sox2、Sox3、Sox15、またはSox18)は、ヒト、マウス、ラット、ウシ、ブタ、または他の動物に由来し得る。一般的には、操作される細胞の種と同じ種のタンパク質が使用されると考えられる。
【0054】
発明の詳細な説明
I.序論
本発明は、ALK5阻害因子が細胞における多能性の維持と、任意で誘導とを、著しく改善するという驚くべき知見を根拠としている。ALK5の阻害因子とMAPK阻害因子(例えばMEK阻害因子、Erk阻害因子またはp38阻害因子)との組合せ、またはALK5阻害因子とFGF経路阻害因子(例えばFGF受容体阻害因子)との組合せは、以下を可能にする:
以前(例えば米国特許第5,843号;同第6,200,806号;および同第7,029,913号に)記載された従来のヒト胚性幹細胞または誘導多能性幹細胞とは著しく異なり、mESC特徴により類似している、以下に定義づける新しい機能的性質を持つ細胞の、多能性の維持;および
例えば多能性を維持するための既知の方法(例えばGSK3およびMEK阻害因子が関わるもの-WO2008/015418参照)と比較して、著しく改善された効率および細胞の安定性。
実際、ALK5の阻害因子が多能性の維持を改善するのに有効であるというのは、驚くべきことである。なぜなら、一つには、今まで当技術分野では、多能性を刺激するためにTGFβ経路をアンタゴナイズするのではなく、アゴナイズすることに、重点が置かれてきたからである。例えばWO2008/056173を参照されたい。
【0055】
本発明は、一つには、ALK5阻害因子(または他のTGFβ/アクチビン経路阻害因子)およびMAPK阻害因子またはFGFシグナリング経路阻害因子を含み、任意で、既に多能性であるか、前記阻害因子の存在下で多能性が誘導されるべき、または多能性が誘導された、哺乳動物細胞を含む、細胞培養物を提供する。任意で、細胞培養物は、GSK3β阻害因子および/または白血病抑制因子(LIF)も含むことができる。他の培地成分および条件は、当技術分野において一般に公知のとおりであることができ、例えば基礎培地成分、ビタミン類、ミネラル類などを含むことができる。
【0056】
細胞を多能性状態に維持することができれば、そうでなければ不可能であったであろう数多くの方法で、そのような細胞を研究し、使用することが可能になる。例えば、多くの多能性幹細胞は、培養下では迅速に分化するか死ぬので、一定の期間にわたって、または複数の細胞継代(例えば細胞分裂)にわたって、多能性を維持することが必要であるか、好都合であるスクリーニングアッセイ、遺伝子工学、および他の用途には対応することができない。本発明によればそのような課題を回避することが可能になる。
【0057】
II.培養物
哺乳動物細胞の多能性を誘導または維持するために、ALK5阻害因子(または他のTGFβ/アクチビン経路阻害因子)を、任意でMAPK(例えばMEKまたはErkまたはp38阻害因子)またはFGFシグナリング経路阻害因子(例えばFGF受容体阻害因子)と共に含む、細胞培養物が提供される。いくつかの態様では、そのような阻害因子と一緒に培養された細胞が、実施例に記載する特徴、例えば限定するわけではないが、培養下でドーム状コロニーを形成すること、ESCマーカー(例えばOct4、Sox2、およびNanog)の発現、Oct4プロモーターがほぼ完全に脱メチル化されていること、Rex-1およびALP(例えば着床後段階のエピブラストおよびEpiSCには存在しないESCおよび初期エピブラストのマーカー)を発現すること、インビトロで内胚葉、神経外胚葉、および中胚葉に分化する能力、ならびにインビボ多能性特徴、例えば(例えばSCIDマウスにおいて)奇形腫を形成する能力、および非ヒト細胞の場合は、胚盤胞に注入し、受容子宮内に移植した時に、キメラ子孫を形成する能力などを持つ。その上、いくつかの態様では、培養下の細胞が、そのような特徴を、複数の細胞継代、例えば少なくとも1、2、3、4、5、7、10、20、30継代、またはそれ以上にわたり、同じ培養条件下で持ち続ける。
【0058】
細胞培養物は、任意で、GSk3β阻害因子およびLIFの一方または両方も含むことができる。実施例で説明するとおり、LIFの存在は、一部の態様において、多能性細胞の長期維持(例えば10継代を超える維持)を改善することができるので、多能性の長期維持を可能にするように、十分な量のLIFを培養物中に含めることができる。さらに、LIFと共に、またはLIFなしで、十分な量のGSK3β阻害因子も含めることができる。いくつかの態様では、GSK3β阻害因子の量が、培養の効率、すなわち形成される陽性多能性コロニーの数を改善するのに十分な量である。
【0059】
各阻害因子の量は変動してよく、厳密な培養条件、使用する具体的阻害因子、および培養される細胞のタイプに依存して、最適な利益が得られるように決定することができる。いくつかの態様では、本発明の培養物が、0.05〜10μM、例えば0.1〜1μM、例えば0.5μMのALK5阻害因子(例えばA-83-01、および0.1〜20μM、例えば2〜10μMのSB431542)を含む。本発明者らは、TGF-βRIキナーゼ阻害因子II[2-(3-(6-メチルピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-4-イル)-1,5-ナフチリジン]を本明細書に記載するALK5阻害因子として、例えば約1.5μMの濃度で使用できることを見いだした。したがって、いくつかの態様において、本発明の培養物は、0.05〜20μM、例えば0.1〜10μMの、TGF-βRIキナーゼ阻害因子IIを含む。いくつかの態様において、本発明の培養物は、10nM〜5μM、例えば50nM〜1μMのFGF経路阻害因子(例えばPD173074)を含む。いくつかの態様において、本発明の培養物は、0.05〜50μM、例えば0.1〜5μM、例えば0.5μMのMEK阻害因子(例えばPD0325901)を含む。いくつかの態様において、本発明の培養物は、0.05〜20μM、例えば0.5〜5μM、例えば3μMのGSK3β阻害因子(例えばCHIR99021)を含む。
【0060】
TGFβ受容体(例えばALK5)阻害因子には、TGFβ受容体(例えばALK5)に対する抗体、TGFβ受容体(例えばALK5)のドミナントネガティブ変異体、およびTGFβ受容体(例えばALK5)を標的とするアンチセンス核酸を含めることができる。例示的なTGFβ受容体/ALK5阻害因子には、SB431542(例えばInman, et al., Molecular Pharmacology 62(1):65-74 (2002)参照)、A-83-01、これは3-(6-メチル-2-ピリジニル)-N-フェニル-4-(4-キノリニル)-1H-ピラゾール-1-カルボチオアミドとしても知られている(例えばTojo, et al., Cancer Science 96(11):791-800 (2005)参照。例えばToicris Biosciencesから市販されている);TGF-βRIキナーゼ阻害因子II[2-(3-(6-メチルピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-4-イル)-1,5-ナフチリジン];2-(3-(6-メチルピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-4-イル)-1,5-ナフチリジン、Wnt3a/BIO(例えば、参照により本明細書に組み入れられるDalton, et al., WO2008/094597を参照されたい)、BMP4(Dalton, 前掲参照)、GW788388(-{4-[3-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-4-イル]ピリジン-2-イル}-N-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イル)ベンズアミド)(例えばGellibert, et al., Journal of Medicinal Chemistry 49(7):2210-2221 (2006)参照)、SM16(例えばSuzuki, et al., Cancer Research 67(5):2351-2359 (2007)参照)、IN-1130(3-((5-(6-メチルピリジン-2-イル)-4-(キノキサリン-6-イル)-1H-イミダゾール-2-イル)メチル)ベンズアミド)(例えばKim, et al., Xenobiotica 38(3):325-339 (2008)参照)、GW6604(2-フェニル-4-(3-ピリジン-2-イル-1H-ピラゾール-4-イル)ピリジン)(例えばde Gouville, et al., Drug News Perspective 19(2):85-90 (2006)参照)、SB-505124(2-(5-ベンゾ[1,3]ジオキソール-5-イル-2-tert-ブチル-3H-イミダゾール-4-イル)-6-メチルピリジン塩酸塩)(例えばDaCosta, et al., Molecular Pharmacology 65(3):744-752 (2004)参照)およびピリミジン誘導体(例えば、参照により本明細書に組み入れられるStiefl, et al., WO2008/006583に列挙されているもの)などがあるが、これらに限定されるわけではない。本発明の範囲を限定するつもりはないが、ALK5阻害因子は間葉から上皮への転換/移行(MET)過程に影響を及ぼすと考えられる。TGFβ/アクチビン経路は上皮から間葉への移行(EMT)を駆動する経路である。したがって、TGFβ/アクチビン経路を阻害することで、MET(すなわち再プログラミング)過程を容易にすることができる。
【0061】
ALK5を阻害することの効果を示す本明細書に記載のデータを考慮すると、TGFβ/アクチビン経路の阻害は同様の効果を持つであろうと考えられる。したがって、TGFβ/アクチビン経路の任意の阻害因子(例えば上流または下流阻害因子)を、本明細書の各段落に記載するALK5阻害因子と組み合わせて、またはそれらALK5阻害因子の代わりに、使用することができる。例示的なTGFβ/アクチビン経路阻害因子には、TGFβ受容体阻害因子、SMAD2/3リン酸化の阻害因子、SMAD2/3とSMAD4の相互作用の阻害因子、ならびにSMAD6およびSMAD7の活性化因子/アゴニストなどがあるが、これらに限定されるわけではない。さらにまた、後述のカテゴリー化は単に体系化のために過ぎず、化合物は経路内の1つまたは複数の点に影響を及ぼすことができ、それゆえに化合物が、定義されたカテゴリーの2つ以上において機能し得ることは、当業者にはわかると考えられる。
【0062】
TGFβ受容体阻害因子には、TGFβ受容体に対する抗体、TGFβ受容体のドミナントネガティブ変異体およびTGFβ受容体を標的とするアンチセンス核酸を含めることができる。阻害因子の具体例には、SU5416;2-(5-ベンゾ[1,3]ジオキソール-5-イル-2-tert-ブチル-3H-イミダゾール-4-イル)-6-メチルピリジン塩酸塩(SB-505124);ラーデリムマブ(lerdelimumb)(CAT-152);メテリムマブ(metelimumab)(CAT-192);GC-1008;ID11;AP-12009;AP-11014;LY550410;LY580276;LY364947;LY2109761;SB-505124;SB-431542;SD-208;SM16;NPC-30345;Ki26894;SB-203580;SD-093;グリベック(Gleevec);3,5,7,2',4'-ペンタヒドロキシフラボン(モリン);アクチビン-M108A;P144;可溶性TBR2-Fc;およびTGFβ受容体を標的とするアンチセンストランスフェクト腫瘍細胞などがあるが、これらに限定されるわけではない(例えばWrzesinski, et al., Clinical Cancer Research 13(18):5262-5270 (2007);Kaminska, et al., Acta Biochimica Polonica 52(2):329-337 (2005);およびChang, et al., Frontiers in Bioscience 12:4393-4401 (2007)を参照されたい)。
【0063】
SMAD2/3リン酸化の阻害因子には、SMAD2またはSMAD3に対する抗体、SMAD2またはSMAD3のドミナントネガティブ変異体、およびSMAD2またはSMAD3を標的とするアンチセンス核酸を含めることができる。阻害因子の具体例には、PD169316;SB203580;SB-431542;LY364947;A77-01;および3,5,7,2',4'-ペンタヒドロキシフラボン(モリン)などがある(例えばWrzesinski, 前掲;Kaminska, 前掲;Shimanuki, et al., Oncogene 26:3311-3320 (2007);および参照により本明細書に組み入れられるKataoka, et al., EP1992360を参照されたい)。
【0064】
SMAD2/3とsmad4の相互作用の阻害因子には、SMAD2、SMAD3および/またはsmad4に対する抗体、SMAD2、SMAD3および/またはsmad4のドミナントネガティブ変異体、ならびにSMAD2、SMAD3および/またはsmad4を標的とするアンチセンス核酸を含めることができる。SMAD2/3とSMAD4の相互作用の阻害因子の具体例には、Trx-SARA、Trx-xFoxH1bおよびTrx-Lef1などがあるが、これらに限定されるわけではない(例えばCui, et al., Oncogene 24:3864-3874 (2005)およびZhao, et al., Molecular Biology of the Cell, 17:3819-3831 (2006)を参照されたい)。
【0065】
MEKの阻害因子には、MEKに対する抗体、MEKのドミナントネガティブ変異体、およびMEKを標的とするアンチセンス核酸を含めることができる。MEK阻害因子の具体例には、PD0325901(例えばRinehart, et al., Journal of Clinical Oncology 22:4456-4462 (2004)参照)、PD98059(例えばCell Signaling Technologyから入手可能)、U0126(例えばCell Signaling Technologyから入手可能)、SL327(例えばSigma-Aldrichから入手可能)、ARRY-162(例えばArray Biopharmaから入手可能)、PD184161(例えばKlein, et al., Neoplasia 8:1-8 (2006)参照)、PD184352(CI-1040)(例えばMattingly, et al., The Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics 316:456-465 (2006)参照)、スニチニブ(例えば、参照により本明細書に組み入れられるVoss, et al., US2008004287)、ソラフェニブ(Voss, 前掲参照)、バンデタニブ(Voss, 前掲参照)、パゾパニブ(例えばVoss, 前掲参照)、アキシチニブ(Voss, 前掲参照)およびPTK787(Voss, 前掲参照)などがあるが、これらに限定されるわけではない。
【0066】
現在、いくつかのMEK阻害因子が臨床試験評価を受けている。CI-1040はがんに関して第I相および第II相臨床試験で評価された(例えばRinehart, et al., Journal of Clinical Oncology 22(22):4456-4462 (2004)参照)。臨床試験で評価されている他のMEK阻害因子には、PD184352(例えばEnglish, et al., Trends in Pharmaceutical Sciences 23(1):40-45 (2002)参照)、BAY43-9006(例えばChow, et al., Cytometry (Communications in Clinical Cytometry) 46:72-78 (2001)参照)、PD-325901(PD0325901とも)、GSK1120212、ARRY-438162、RDEA119、AZD6244(ARRY-142886またはARRY-886とも)、RO5126766、XL518およびAZD8330(ARRY-704とも)などがある(例えばワールド・ワイド・ウェブ上のclinicaltrials.govでNational Institutes of Healthから得られる情報ならびにワールド・ワイド・ウェブ上のcancer.gov/clinicaltrialsでNation Cancer Instituteから得られる情報を参照されたい)。
【0067】
p38(CSBP、mHOG1、RKおよびSAPK2とも呼ばれている)阻害因子には、p38に対する抗体、p38のドミナントネガティブ変異体、およびp38を標的とするアンチセンス核酸を含めることができる。阻害因子の具体例には、SB203580(4-(4-フルオロフェニル)-2-(4-メチルスルフィニルフェニル)-5-(4-ピリジル)1H-イミダゾール);SB202190(4-(4-フルオロフェニル)-2-(4-ヒドロキシフェニル)-5(4-ピリジル)-1H-イミダゾール);SB220025;N-(3-tert-ブチル-1-メチル-5-ピラゾリル)-N'-(4-(4-ピリジニルメチル)フェニル)尿素;RPR200765A;UX-745;UX-702;UX-850;SCIO-469;RWJ-67657(RW Johnson Pharmaceutical Research Institute);RDP-58(SangStat Medical Corp.;Genzyme Corp.が買収);Scios-323(SCIO 323;Scios Inc.);Scios-469(SCIO-469;Scios Inc.);MKK3/MKK6阻害因子(Signal Research Division);p38/MEK調整因子(Signal Research Division);SB-210313類似体;SB-238039;HEP-689(SB235699);SB-239063;SB-239065;SB-242235(SmithKline Beecham Pharmaceuticals);VX-702およびVX-745(Vertex Pharmaceuticals Inc.);AMG-548(Amgen Inc.);Astex p38キナーゼ阻害因子(Astex Technology Ltd.);RPR-200765類似体(Aventis SA);Bayer p38キナーゼ阻害因子(Bayer Corp.);BIRB-796(Boehringer Ingelheim Pharmaceuticals Inc.);Celltech p38 MAPキナーゼ阻害因子(Celltech Group plc.);FR-167653(Fujisawa Pharmaceutical Co. Ltd.);SB-681323およびSB-281832(GlaxoSmithKline plc);LEO Pharmaceuticals MAPキナーゼ阻害因子(LEO Pharma A/S);Merck Co. p38 MAPキナーゼ阻害因子(Merck research Laboratories);SC-040およびSC-XX906(Monsanto Co.);アデノシンA3アンタゴニスト(Novartis AG);p38 MAPキナーゼ阻害因子(Novartis Pharma AG);CNI-1493(Picower Institute for Medical Research);RPR-200765A(Rhone-Poulenc Rorer Ltd.);およびRoche p38 MAPキナーゼ阻害因子(例えばRO3201195およびRO4402257;Roche Bioscience)などがあるが、これらに限定されるわけではない。例えばRoux, et al., Microbiology and Molecular Biology Reviews 68(2):320-344 (2004);Engelman, et al., Journal of Biological Chemistry 273(48):32111-32120 (1998);Jackson, et al., Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics 284(2):687-692 (1998);Kramer, et al., Journal of Biological Chemistry 271(44):27723-27729 (1996);およびMenko, et al., US20080193504を参照されたい。
【0068】
p38のさらなる阻害因子には、1,5-ジアリール置換ピラゾールおよび置換ピラゾール化合物(US6509361およびUS6335336);置換ピリジル化合物(US20030139462);キナゾリン誘導体(US6541477、US6184226、US6509363およびUS6635644);アリール尿素およびヘテロアリール類似体(US6344476);複素環式尿素(WO1999/32110);他の尿素化合物(WO1999/32463、WO1998/52558、WO1999/00357およびWO1999/58502);ならびに置換イミダゾール化合物および置換トリアゾール化合物(US6560871およびUS6599910)などもあるが、これらに限定されるわけではない。
【0069】
Erkの阻害因子には、Erkに対する抗体、Erkのドミナントネガティブ変異体、およびErkを標的とするアンチセンス核酸を含めることができる。Erk阻害因子の具体例には、PD98059(例えばZhu, et al., Oncogene 23:4984-4992 (2004)参照)、U0126(Zhu, 前掲参照)、FR180204(例えばOhori, Drug News Perspective 21(5):245-250 (2008)参照)、スニチニブ(例えば、参照により本明細書に組み入れられるMa, et al., US2008004287を参照されたい)、ソラフェニブ(Ma, 前掲参照)、バンデタニブ(Ma, 前掲参照)、パゾパニブ(Ma, 前掲参照)、アキシチニブ(Ma, 前掲参照)およびPTK787(Ma, 前掲参照)などがあるが、これらに限定されるわけではない。Erk阻害因子には、Erkだけを阻害する分子、または第2のターゲットも同様に阻害する分子を含めることができる。例えば、いくつかの態様では、Erk阻害因子は、

[式中、
R1は、水素、C1-6アルキル、C2-6アルケニル、C6-10アリール-C0-4アルキル、C5-10ヘテロアリール-0-4アルキル、C3-10シクロアルキル-C0-4アルキルおよびC3-10ヘテロシクロアルキル-C0-4アルキルから選択される;ここで、R1の任意のアルキルまたはアルケニルは、ハロ、ヒドロキシ、C1-6アルキルおよび-NR2R3から独立して選択される1〜3個の基で置換されてもよく;R1の任意のアリール、ヘテロアリール、シクロアルキルまたはヘテロシクロアルキルは、ハロ、ヒドロキシ、シアノ、C1-6アルキル、C1-6アルコキシ、C2-6アルケニル、ハロ置換アルキル、ハロ置換アルコキシ、-XNR2R3、-XOXNR2R3、-XNR2S(O)0-2R3、-XC(O)NR2R3、-XNR2C(O)XOR2、-XNR2C(O)NR2R3、-XNR2XNR2R3、-XC(O)NR2XNR2R3、-XNR2XOR2、-XOR2、-XNR2C(=NR2)NR2R3、-XS(O)0-2R4、-XNR2C(O)R2、-XNR2C(O)XNR2R3、-XNR2C(O)R4、-XC(O)R4、-XR4、-XC(O)OR3および-XS(O)0-2NR2R3から選択される1〜3個の基で置換されてもよい;ここで、Xは結合またはC1-4アルキレンであり;R2およびR3は、水素、C1-6アルキルおよびC3-12シクロアルキルから独立して選択される;また、R4は、C1-6アルキル、-XNR2R3、-XNR2XNR2R2、XNR2XOR2および-XOR2から選択される1〜3個の基で置換されてもよいC3-10ヘテロシクロアルキルであり;ここで、X、R2およびR3は上述のとおりである]
およびそのN-オキシド誘導体、プロドラッグ誘導体、保護誘導体、個々の異性体および異性体の混合物;ならびにそのような化合物の薬学的に許容される塩および溶媒和物(例えば水和物)であるか、またはその他、WO06/135824に記載されているとおりである。
【0070】
FGFシグナリング経路の阻害因子には、FGF受容体阻害因子が含まれるが、それに限定されるわけではない。FGF受容体(FGFR)阻害因子には、FGFRに対する抗体、FGFRのドミナントネガティブ変異体、およびFGFRを標的とするアンチセンス核酸を含めることができる。FGFR阻害因子の具体例には、SU6668(例えばKlenke, BMC Cancer 7:49 (2007)参照)、SU5402(3-[3-(2-カルボキシエチル)-4-メチルピロール-2-メチリデニル]-2-インドリノン)およびPD173074(例えばBansal, et al., J. Neuro. Res. 74(4):486-493 (2003)参照)などがあるが、これらに限定されるわけではない。
【0071】
GSK3の阻害因子には、GSK3に対する抗体、GSK3のドミナントネガティブ変異体、およびGSK3を標的とするアンチセンス核酸を含めることができる。GSK3阻害因子の具体例には、CHIR99021、CHIR98014、AR-A014418(例えばGould et al., The International Journal of Neuropsychopharmacology 7:387-390 (2004)参照)、CT99021(例えばWagman, Current Pharmaceutical Design 10:1105-1137 (2004)参照)、CT20026(Wagman, 前掲参照)、SB216763(例えばMartin, et al., Nature Immunology 6:777-784 (2005)参照)、AR-A014418(例えばNoble, et al., PNAS 102:6990-6995 (2005)参照)、リチウム(例えばGould, et al., Pharmacological Research 48:49-53 (2003)参照)、SB415286(例えばFrame, et al., Biochemical Journal 359:1-16 (2001)参照)およびTDZD-8(例えばChin, et al., Molecular Brain Research, 137(1-2):193-201 (2005)参照)などがあるが、これらに限定されるわけではない。Calbiochemから入手することができるさらなる例示的GSK3阻害因子(例えば、参照により本明細書に組み入れられるDalton, et al., WO2008/094597を参照されたい)には、BIO(2'Z,3'£)-6-ブロモインジルビン-3'-オキシム(GSK3阻害因子IX);BIO-アセトキシム(2'Z,3'E)-6-ブロモインジルビン-3'-アセトキシム(GSK3阻害因子X);(5-メチル-1H-ピラゾール-3-イル)-(2-フェニルキナゾリン-4-イル)アミン(GSK3阻害因子XIII);ピリドカルバゾール-シクロペンタジエニルルテニウム錯体(GSK3阻害因子XV);TDZD-8、4-ベンジル-2-メチル-1,2,4-チアジアゾリジン-3,5-ジオン(GSK3ベータ阻害因子I);2-チオ(3-ヨードベンジル)-5-(1-ピリジル)-[1,3,4]-オキサジアゾール(GSK3ベータ阻害因子II);OTDZT、2,4-ジベンジル-5-オキソチアジアゾリジン-3-チオン(GSK3ベータ阻害因子III);アルファ-4-ジブロモアセトフェノン(GSK3ベータ阻害因子VII);AR-AO14418、N-(4-メトキシベンジル)-N'-(5-ニトロ-1,3-チアゾール-2-イル)尿素(GSK-3ベータ阻害因子VIII);3-(1-(3-ヒドロキシプロピル)-1H-ピロロ[2,3-b]ピリジン-3-イル]-4-ピラジン-2-イル-ピロール-2,5-ジオン(GSK-3ベータ阻害因子XI);TWS1 19、ピロロピリミジン化合物(GSK3ベータ阻害因子XII);L803、H-KEAPPAPPQSpP-NH2またはそのミリストイル化型(GSK3ベータ阻害因子XIII);2-クロロ-1-(4,5-ジブロモ-チオフェン-2-イル)-エタノン(GSK3ベータ阻害因子VI);AR-AO144-18;SB216763;およびSB415286などがあるが、これらに限定されるわけではない。阻害因子と相互作用するGSK3bの残基は同定されている。例えばBertrand et al., J Mol Biol. 333(2):393-407 (2003)を参照されたい。
【0072】
本明細書においてある特定遺伝子産物の阻害因子を記載する場合、その阻害因子はその遺伝子産物をコードする遺伝子を標的とするsiRNAで置き換えることができると理解すべきである。例えば本発明では、ALK5阻害因子の代わりに、ALK5の発現を阻害するsiRNAを使用することも考えられる。同様に、MEK阻害因子、Erk阻害因子、p38阻害因子、FGF受容体阻害因子、およびGSK3β阻害因子を、それぞれ、MEK siRNA、Erk siRNA、p38 siRNA、FGF受容体siRNAおよびGSK3β siRNAで置き換えることができる。さらに、阻害抗体(例えばヒト化抗体またはキメラ抗体)を、ALK5、MEK、Erk、p38、FGF受容体、およびGSK3βの阻害因子として使用することができる。
【0073】
いくつかの態様では、細胞を、まず最初にエピジェネティック修飾因子と共に培養し、次にその修飾因子を欠くが、本明細書に記載する阻害因子(例えばAKL5阻害因子、MEK阻害因子、Erk阻害因子、p38阻害因子、FGF受容体阻害因子、およびGSK3β阻害因子、白血病阻害因子(LIF)など)を含む培養工程を行う。例示的なエピジェネティック調整因子には、ヒストンH3K4脱メチル化の阻害因子またはH3K4メチル化の活性化因子が含まれる。例示的なエピジェネティック修飾因子には、例えばヒストンデメチラーゼ阻害因子、例えばLSD1阻害因子(例えばパルネート)またはMAO阻害因子が含まれる。
【0074】
「ヒストンデアセチラーゼ阻害因子」、「ヒストンデアセチラーゼの阻害因子」および「HDAC阻害因子」という用語は、ヒストンデアセチラーゼと相互作用してその酵素活性を阻害する能力を持つ化合物を指す。「ヒストンデアセチラーゼ酵素活性を阻害する」とは、ヒストンからアセチル基を除去するというヒストンデアセチラーゼの能力を低下させることを意味する。いくつかの態様では、そのようなヒストンデアセチラーゼ活性の低下が、少なくとも約50%、より好ましくは少なくとも約75%、さらに好ましくは少なくとも約90%である。他の好ましい態様では、ヒストンデアセチラーゼ活性を、少なくとも95%低下させ、より好ましくは少なくとも99%低下させる。
【0075】
代表的なHDAC阻害因子には、例えば酪酸、MS-27-275、SAHA、トリコスタチンA、アピシジン、オキサンフラチン(oxanflatin)、FK228、およびトラポキシンなどがある。これらの阻害因子は、その構造に基づいて、短鎖脂肪酸(ブチレート類およびバルプロ酸)、ヒドロキサム酸類(トリコスタチンAおよびSAHA)、環状テトラペプチド類(デプシペプチド)、ベンズアミド類(MS-27-275)、およびエポキシド含有作用物質(トラポキシン)などといった、いくつかのクラスに分類することができる。HDACを不可逆的にアルキル化する能力を持つエポキシ基を有するトラポキシンを除けば、これらの大半は、HDACを可逆的に阻害する。可逆的阻害因子は一般に、HDAC結合ポケットの底に位置する活性亜鉛中心と相互作用する-SHや-OHなどの求核末端を含有する長い脂肪族テールを持つ。他のHDAC阻害因子が列挙した構造の修飾に基づいて出現しつつある。新しい作用物質の大半は、トリコスタチンA(TSA)のアミド類似体およびチオ/リンベースのSAHAを含むヒドロキサム酸の誘導体である。MS-27-275構造中のアミド結合をスルホンアミドで置き換えることにより、強力なHDAC阻害因子の新しいクラスが発見されることになった。臨床試験に入った有望なHDAC阻害因子には、ヒドロキサム酸誘導体LAQ824、酪酸誘導体Titan、バルプロ酸、MS-27-275、SAHA、およびデプシペプチドFK228がある。
【0076】
ヒストンデメチラーゼ阻害因子には、リジン特異的デメチラーゼI(LSD1;リジン特異的ヒストンデメチラーゼ、BHC1 10およびKIAA0601とも呼ばれている)に対する阻害因子が含まれる。国際特許出願WO2006/071608は、真核生物ヒストンデメチラーゼ活性をモニタリングするための方法、メチル化ヒストン活性化遺伝子(methylated histone-activated gene)をアップレギュレートおよびダウンレギュレートするための方法、およびヒストンデメチラーゼのタンパク質レベルまたは活性を調整することによって疾患(例えばがんなどの過剰増殖性疾患)を処置または予防するための方法を対象とする。遺伝子調節の重要性およびLSD1を阻害または調整することによって遺伝子調節に影響を与え得ることを考慮すると、この酵素の阻害因子は重要な治療可能性を持ち得る;Bi, X. et al., Bioorg. Med. Chem. Lett. 16:3229-3232 (2006)ならびに国際特許出願WO2007/021839およびWO2008/127734には、LSD1の阻害因子として有用な一定の化合物が記載されている。
【0077】
本発明は、細胞の多能性を維持するための培養培地も提供する。本細胞培養培地は、細胞を含まなくてもよい。本培養培地は、たとえ細胞を伴っても、上述の培養培地内容物を含むことができる。そのような培地は、本明細書に記載する細胞を培養するのに有用である。
【0078】
本明細書に項を改めて記載するように、培養物中の細胞は、胚性幹細胞(例えばヒト胚性幹細胞(hESC)、霊長類胚性幹細胞、ラット胚性幹細胞、または他の動物に由来する胚性幹細胞、任意で非マウス胚性幹細胞)から選択することができる。あるいは、細胞には誘導多能性幹細胞(iPSC)が含まれる。いくつかの態様では、iPSCが、ヒト、霊長類、ラット、もしくはマウス、または非マウス動物に由来する。iPSCは、非多能性細胞から作製されたばかりで、まだ新たな細胞分裂を起こしていないものであってもよいし、あるいは、細胞は、iPSCとして既に1、2、3、4、5、7、10、20回またはそれ以上の細胞分裂または継代にわたって維持されたものであってもよい。言い換えると、細胞培養物は、以前に(例えば1週間、1ヶ月、またはそれ以上前に)作出されたiPSCを含有することができる。本明細書に記載する小分子の組合せの利点の一つは、再プログラミングにおけるそれらの使用に加えて、それとは別に、それらにより、所望の多能性を、無限と思われる期間にわたって維持することが可能になることである。
【0079】
本発明は、本明細書に記載する1つまたは複数の阻害因子と混合された多能性細胞を提供する。いくつかの態様では、化合物は、多能性を誘導するのに十分な濃度または多能性の誘導効率を改善するのに十分な濃度で、混合物中に存在する。例えば、いくつかの態様では、化合物が、少なくとも0.1nM、例えば少なくとも1、10、100、1000、10000、または100000nM、例えば0.1nM〜100000nM、例えば1nM〜10000nM、例えば10nM〜10000nM、0.01μM〜5μM、0.1μM〜5μMの濃度で存在する。例えばA-83-01は、約0.1μM〜約0.5μM、例えば0.25μM〜約0.5μMの濃度で使用することができる。いくつかの態様では、A-83-01の濃度が0.25μMである。いくつかの態様では、A-83-01の濃度が0.5μMである。CHIR99021は、約3μMの濃度で使用することができる。PD325901は約0.5μMの濃度で使用することができる。PD173074は、約0.1μMの濃度で使用することができる。いくつかの態様では、混合物が合成容器(例えば試験管、ペトリ皿など)に入っている。したがっていくつかの態様では、細胞が(動物の一部ではない)単離された細胞である。いくつかの態様では、細胞を動物(ヒトまたは非ヒト)から単離し、容器に入れ、本明細書に記載する1つまたは複数の化合物と接触させる。次に細胞を培養し、任意で、特定の細胞タイプまたは細胞系譜になるように細胞を刺激した後、任意で、同じ動物または異なる動物中に挿入し戻すことができる。
【0080】
いくつかの態様では、細胞が、Octポリペプチド、Mycポリペプチド、SoxポリペプチドおよびKlfポリペプチドの少なくとも1つまたは複数の異種発現のための発現カセットを含む。いくつかの態様では、細胞が、Oct、Myc、SoxまたはKlfポリペプチドのいずれかを発現するための発現カセットを含まない。そのような発現カセットを持つまたは持たない細胞は、例えば本明細書に記載するスクリーニング方法などに役立つ。
【0081】
III.細胞
細胞は、本発明の阻害因子と初めて接触する前に多能性であってもよいし、細胞を本発明の阻害因子の1つまたは複数と接触させた後に、(例えば適当な転写因子の導入によって、および/または多能性を誘導するための適当な小分子との接触によって)多能性が誘導されてもよい。
【0082】
本発明の方法では任意の動物細胞を使用することができる。したがって、例えばいくつかの態様では、細胞が哺乳動物細胞である。例示的な哺乳動物細胞には、限定するわけではないが、ヒト細胞または非ヒト細胞があり、これには、ラット、マウス(例えばSCIDマウスまたは他のマウス)、ブタ、ウシ、ヒツジ、イヌ、ネコ、および霊長類(例えばアカゲザル、チンパンジーなど)が含まれるが、これらに限定されるわけではない。
【0083】
本発明の方法に従って使用される多能性細胞は、天然の幹細胞であるか、誘導多能性細胞であり得る。例示的な天然の幹細胞には例えば胚性幹細胞が含まれる。胚性幹細胞を単離する方法は周知である。例えばMatsui et al., Cell 70:841, 1992;Thomson et al., 米国特許第5,843,780号;Thomson et al., Science 282:114, 1998;Shamblott et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95:13726, 1998;Shamblott et al., 米国特許第6,090,622号;Reubinoff et al., Nat. Biotech. 18:399, 2000;PCT WO00/27995、Iannaccone et al., Dev. Biol. 163:288, 1994;Loring et al., PCT WO99/27076、Pain et al., Development 122:2339, 1996;米国特許第5,340,740号;米国特許第5,656,479号、Wheeler et al., Reprod. Fertil. Dev. 6:563, 1994;Shim et al., Biol. Reprod. 57:1089, 1997を参照されたい。いくつかの態様では、幹細胞が、胚盤胞に由来し(例えば胚盤胞から取得され)、次にそれが、少なくともALK5阻害因子およびErkまたはMEK阻害因子の存在下で、任意で本明細書に記載する他の阻害因子と共に、培養される。
【0084】
細胞の多能性を誘導するための方法は、現在では、いくつも報告されている。多能性は、例えば転写因子の導入によって、あるいは一定の転写因子の発現を誘導または模倣することによって、誘導することができる。いくつかの態様では、以下に挙げる転写因子の1つまたは複数が、内在的にまたは組換え的に(例えば1つまたは複数の転写因子を発現する異種発現カセットの導入などによって)発現される。多能性を誘導するための例示的な技術には、Oct3/4、Sox2、c-Myc、およびKlf4(例えばTakahashi, Cell 131(5):861-872 (2007);Cell Stem Cell 2, 10-12 (2008)参照)の少なくとも1つを発現させるための少なくとも1つまたは複数の発現カセットを、任意で、1つまたは複数の小分子(例えばH3K9メチル化、例えばG9aヒストンメチルトランスフェラーゼ、を阻害するBIX01294などの作用物質が挙げられるが、それに限定されるわけではない)と共に、導入することなどがあるが、これらに限定されるわけではない。例えばKubicek et al., Mol. Cell 473-481 (2007)を参照されたい。
【0085】
本発明の多能性細胞は、いくつかの基準によって特徴づけることができる。本明細書に記載する遺伝子発現、メチル化、ならびにインビトロおよびインビボ特徴に加えて、本発明の多能性細胞は、白血病抑制因子(LIF)および骨形成タンパク質(BMP)の存在下で、あるいは、TGFβおよびアクチビンシグナリング経路の阻害下、MAPKシグナリング経路の阻害下、ならびに任意で、FGF経路の阻害下で、少なくとも1回(例えば1、2、3、4、5、10、20回など)の細胞分裂の間、多能性を維持すると考えられる。例えば、本明細書に記載するとおり、ALK5阻害因子およびMEK阻害因子と接触させた動物細胞(例えばヒト細胞およびラット細胞)は、複数回の分裂にわたって多能性が維持された。さらに、本明細書に記載するとおり、TGFβおよびアクチビンシグナリング経路(例えばTGFβシグナリング)の阻害は、MEK、FGFRおよびGSK3の阻害と併用することで、強い再プログラミング活性を持ち、mESC様状態へのEpiSCの部分的転換を促進することができる。これに対し、従来の条件下で培養された従来のhESC、エピブラスト幹細胞(EpiSC)およびヒト誘導多能性細胞は、ALK5の阻害因子と接触させると分化する。例えばSaha, et al., Biophys. J. 94:4123-4133 (2008)を参照されたい。従来の培養条件下で培養された従来のhESC、EpiSCおよびヒト誘導多能性細胞は自己複製に関してMAPK、FGF、およびTGFβ/アクチビン/Nodal経路活性に依存するらしく、MEK、FGFRおよび/またはALK4/5/7阻害因子で処理すると、迅速に分化すると報告されている(Brons et al., Nature 448, 191-195, 2007;Li et al., Differentiation 75, 299-307, 2007;Peerani et al., EMBO J 26, 4744-4755, 2007;Tesar et al., Nature 448, 196-199, 2007)。また、本発明者らは、本発明の細胞(例えば実施例で述べるように培養されたヒト細胞またはラット細胞)が、FGFシグナリング経路の阻害因子(例えばPD173074)の存在下で、多能性を維持する(すなわち分化しない)ことを見いだした。これに対し、従来の条件下で培養されたhESC、EpiSCおよびヒト誘導多能性細胞は、PD173074と接触させると分化する。注目すべきことに、mESCはPD173074と接触させても分化しない。したがって本発明の細胞(例えば本明細書に記載するように培養されたもの)は、従来通りに培養されたhESC、EpiSC、およびヒト誘導多能性細胞よりもmESCに、より近い状態にある。本発明の細胞が、mESCと同様に、よりコンパクトでドーム状のコロニー形態を持つのに対し、従来通りに培養されたhESC、EpiSC、およびヒト誘導多能性細胞は扁平なコロニー形態を持つ。本発明の細胞は、mESCのように、インビトロで全ての細胞タイプを生じ、胚盤胞に戻した時にインビボで生殖細胞系を含む動物全体に寄与する能力を持つ。これに対し、従来通りに培養されたhESC、EpiSC、およびヒト誘導多能性細胞は、内部細胞塊(ICM)に組み入れられてキメリズムに寄与する能力を持たない。本明細書に記載の方法を使って、ラットおよびヒトの他にも、類似する特徴を持つ他の動物細胞を作製できることは、理解されると考えられる。例示的なさらなる動物細胞には、例えばイヌ、ネコ、ブタ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、サルおよびチンパンジーが含まれる。
【0086】
一定のマーカーは、本発明の細胞を、従来通りに培養されたhESC、EpiSC、およびヒト誘導多能性細胞と区別するのに役立つ。例えば、Stra8、Dppa3、Gbx2、Pecam1、およびKlf4は、本発明のヒト細胞においては、従来通りに培養されたhESC、epiSC、およびヒト誘導多能性細胞におけるその発現レベルよりも高いレベルで発現する。これに対し、多くの系譜特異的遺伝子、例えばFoxa2、Otx2、Lefty1、Gata6、Sox17、Cer1は、epiSCおよび従来のヒトES細胞において、本発明の細胞におけるそのレベルよりも高レベルに発現する。従来通りに培養されたヒトiPSCまたはESC細胞は、MEK、FGFRおよび/またはALK4/5/7阻害因子で処理すると分化する(Brons et al., Nature 448, 191-195, 2007;Li et al., Differentiation 75, 299-307, 2007;Peerani et al., EMBO J 26, 4744-4755, 2007;Tesar et al., Nature 448, 196-199, 2007)。
【0087】
特に、Gbx2、Dppa3およびKlf4は、本発明の多能性動物細胞を特徴づけるのに有用なマーカーである。これらのマーカーは本発明の多能性細胞中で高度に発現する。例えば、いくつかの態様において、本発明の細胞は、これらのマーカーを、従来通りに培養されたhESC、EpiSC、およびヒト誘導多能性細胞、例えばHues9細胞(hES施設、Harvard University、http://mcb.harvard.edu/melton/hues/)におけるそれらのレベルの少なくとも2倍のレベルで発現する。いくつかの態様では、本発明の多能性細胞におけるこれらのマーカーの発現レベルが、少なくとも2倍、2.5倍、3倍、4倍、5倍またはそれ以上である。他の有用なマーカーにはICMマーカーRex1が含まれる。
【0088】
いくつかの態様では、Gbx2が、本発明の多能性細胞においては、Hues9細胞におけるレベルの少なくとも5倍のレベルで発現する。いくつかの態様では、Klf4が、本発明の多能性細胞においては、Hues9細胞におけるレベルの少なくとも2.5倍のレベルで発現する。いくつかの態様では、Dppa3が、本発明の多能性細胞においては、Hues9細胞におけるレベルの少なくとも2倍のレベルで発現する。
【0089】
本発明の多能性細胞に関する別の有用なマーカーはE-カドヘリンである。本発明の範囲を限定するつもりはないが、E-カドヘリンは本発明の細胞の多能性において、ある役割を果たすと考えられる。いくつかの態様では、E-カドヘリンが、本発明の多能性細胞においては、Hues9細胞におけるレベルの2倍のレベルで発現する。
【0090】
本発明の細胞の特徴決定には、他の典型的多能性マーカー、例えばOct4、Sox2、Nanog、SSEA-1、SSEA-3、SSEA4、TRA-1-61、TRA-1-81、およびアルカリホスファターゼ(ALP)を使用することができる。これらの典型的多能性マーカー、またはそれらのサブセットは、本発明の多能性細胞を、従来通りに培養されたhESC、EpiSC、およびヒト誘導多能性細胞と区別するのに役立ち得る。
【0091】
本発明の細胞を特徴づけるには、当技術分野において公知の方法を使用することができる。遺伝子発現レベルは、例えばリアルタイムPCRまたはリアルタイムRT-PCR(例えばmRNAを検出するため)によって、および/またはウェスタンブロットもしくは他のタンパク質検出技法によって、検出することができる。
【0092】
本発明の多能性細胞は、BMP処理に応答して、中胚葉系譜に向かって分化する。これに対し、従来通りに培養されたhESC、EpiSC、およびヒト誘導多能性細胞は、栄養芽層または原始内胚葉細胞を生成する(Brons et al., Nature 448, 191-195, 2007;D'Amour et al., Nat Biotechnol 23, 1534-1541, 2005;Xu et al., Nat Biotechnol 20, 1261-1264, 2002)。
【0093】
IV.形質転換
(例えばiPSCを作製するためまたは所望のタンパク質もしくは核酸を発現させるために)形質転換細胞が望まれる場合、本発明の阻害因子(例えばALK5阻害因子、MAPK阻害因子、FGF経路阻害因子、および任意でGSK3β阻害因子)と接触させる細胞は、接触の前に形質転換されてもよいし、かつ/または接触後に形質転換されてもよい。例えば、本発明の利点の一つは、複数の細胞継代を通した多能性細胞の維持が可能になり、したがって、細胞の多能性特徴を維持したまま、操作し、それに続いて子孫を選択することが可能になる点である。これは、トランスジェニック動物の作製(本明細書に記載するような配列特異的組換え事象によるノックアウト動物の作製を含む)には、とりわけ有用である。
【0094】
本発明は、組換え遺伝学の分野におけるルーチン技法に依拠する。本発明において役立つ一般方法を開示している基本的教科書には、Sambrook et al. "Molecular Cloning, A Laboratory Manual"(第3版、2001);Kriegler "Gene Transfer and Expression: A Laboratory Manual" (1990);および"Current Protocols in Molecular Biology" (Ausubel et al.編、1994)などがある。
【0095】
あるタンパク質の陽性発現が望まれるいくつかの態様では、細胞の種と発現させようとするタンパク質の種とが同じである。例えば、マウス細胞を使用するのであれば、マウスオルソログを細胞中に導入する。ヒト細胞を使用するのであれば、ヒトオルソログを細胞中に導入する。
【0096】
1細胞中で2つまたはそれ以上のタンパク質を発現させるべき場合、1つまたは複数の発現カセットを使用できることは、理解されると考えられる。例えば、1つの発現カセットが複数のポリペプチドを発現すべき場合は、ポリシストロン性発現カセットを使用することができる。
【0097】
A.プラスミドベクター
一定の態様では、宿主細胞を形質転換するために、プラスミドベクターを使用することが考えられる。一般に、レプリコンと宿主細胞に適合する種に由来する制御配列とを含有するプラスミドベクターが、これらの宿主に関連して使用される。ベクターは、複製部位、および形質転換細胞の表現型選択をもたらすことができるマーキング配列を持つことができる。
【0098】
B.ウイルスベクター
受容体介在性エンドサイトーシスによって細胞に感染または侵入し、宿主細胞ゲノム中に組み込まれてウイルス遺伝子を安定に効率よく発現するという、一定のウイルスの能力は、それらを、細胞(例えば哺乳動物細胞)中に外来核酸を導入するための魅力的な候補にしてきた。本発明の核酸を送達するために使用し得るウイルスベクターの非限定的な例を以下に記載する。
【0099】
i.アデノウイルスベクター
核酸を送達するための、ある特定の方法では、アデノウイルス発現ベクターを使用する。アデノウイルスベクターはゲノムDNAへの組込み能力が低いことが知られているが、この性質は、これらのベクターによって得られる遺伝子導入効率の高さによって埋め合わされる。「アデノウイルス発現ベクター」は、(a)コンストラクトのパッケージングをサポートし、(b)そこにクローニングされている組織特異的または細胞特異的コンストラクトを最終的に発現させるのに十分な、アデノウイルス配列を含有するコンストラクトを包含するものとする。〜36kbの線状二本鎖DNAウイルスであるアデノウイルスの遺伝子構成の知識から、アデノウイルスDNAの大きな断片を7kbまでの外来配列で置換することが可能である(Grunhaus et al., Seminar in Virology, 200(2):535-546, 1992)。
【0100】
ii.AAVベクター
核酸は、アデノウイルス支援トランスフェクション(adenovirus assisted transfection)を使って細胞中に導入することができる。アデノウイルス共役系(adenovirus coupled system)を用いる細胞系では、増加したトランスフェクション効率が報告されている(KelleherおよびVos, Biotechniques, 17(6):1110-7, 1994;Cotten et al., Proc Natl Acad Sci USA, 89(13):6094-6098, 1992;Curiel, Nat Immun, 13(2-3):141-64, 1994)。アデノ随伴ウイルス(AAV)は魅力的なベクター系である。というのも、これは組込み頻度が高く、非分裂細胞に感染することができるため、例えば組織培養において(Muzyczka, Curr Top Microbiol Immunol, 158:97-129, 1992)、またはインビボで、哺乳動物細胞中に遺伝子を送達するのに役立つからである。rAAVベクターの作製と使用に関する詳細は、米国特許第5,139,941号および同第4,797,368号に記載されており、これらの特許はそれぞれ参照により本明細書に組み入れられる。
【0101】
iii.レトロウイルスベクター
レトロウイルスは、その遺伝子を宿主ゲノムに組み込む能力、大量の外来遺伝物質を運搬する能力、幅広い種および細胞タイプに感染する能力、ならびに特殊な細胞系においてパッケージングされる能力を持つことから、遺伝子送達ベクターとして有望である(Miller et al., Am. J. Clin. Oncol., 15(3):216-221, 1992)。
【0102】
レトロウイルスベクターを構築するには、核酸(例えば関心対象の遺伝子をコードするもの)を一定のウイルス配列の代わりにウイルスゲノム中に挿入して、複製欠損性のウイルスを作出する。ウイルス粒子を生産するために、gag、pol、およびenv遺伝子を含有するがLTRとパッケージング成分は持たないパッケージング細胞株を構築する(Mann et al., Cell, 33:153-159, 1983)。レトロウイルスLTRおよびパッケージング配列と一緒にcDNAを含有する組換えプラスミドを、特殊な細胞株に(例えばリン酸カルシウム沈殿法などによって)導入すると、そのパッケージング配列は、組換えプラスミドのRNA転写産物がウイルス粒子中にパッケージングされることを可能にし、次に、そのウイルス粒子が培養培地中に分泌される(NicolasおよびRubinstein著、"Vectors: A survey of molecular cloning vectors and their uses"(RodriguezおよびDenhardt編、ストーンハム:Butterworth)の494〜513頁(1988);Temin著、"Gene Transfer"(Kucherlapati編、ニューヨーク:Plenum Press)の149〜188頁(1986);Mann et al., Cell, 33:153-159, 1983)。次に、組換えレトロウイルスを含有する培地を収集し、任意で濃縮し、遺伝子導入に使用する。レトロウイルスベクターは、幅広くさまざまな細胞タイプに感染することができる。ただし、組込みと安定な発現は、通例、宿主細胞の分裂を必要とする(Paskind et al., Virology, 67:242-248, 1975)。
【0103】
レンチウイルスは、一般的なレトロウイルス遺伝子gag、pol、およびenvに加えて、調節機能または構造機能を持つ他の遺伝子も含有する、複雑なレトロウイルスである。レンチウイルスベクターは当技術分野において周知である(例えばNaldini et al., Science, 272(5259):263-267, 1996;Zufferey et al., Nat Biotechnol, 15(9):871-875, 1997;Blomer et al., J Virol., 71(9):6641-6649, 1997;米国特許第6,013,516号および同第5,994,136号を参照されたい)。レンチウイルスの例には、ヒト免疫不全ウイルス:HIV-1、HIV-2、およびサル免疫不全ウイルス、すなわちSIVなどがある。レンチウイルスベクターは、HIVビルレンス遺伝子を何重にも弱毒化することによって作製されており、例えば遺伝子env、vif、vpr、vpuおよびnefを欠失させると、ベクターが生物学的に安全になる。
【0104】
組換えレンチウイルスベクターは、非分裂細胞に感染する能力を持ち、インビボおよびエクスビボでの遺伝子導入および核酸配列の発現に使用することができる。例えば、非分裂細胞に感染する能力を持つ組換えレンチウイルス(この場合、適切な宿主細胞が、パッケージング機能、すなわちgag、polおよびenv、ならびにrevおよびtatを保有する2つまたはそれ以上のベクターでトランスフェクトされる)は、参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,994,136号に記載されている。特定の細胞タイプの受容体にターゲティングするための抗体または特定リガンドとエンベロープタンパク質とを連結することにより、組換えウイルスをターゲティングすることができる。例えば、関心対象の配列(調節領域を含むもの)を、特異的ターゲット細胞上の受容体のリガンドをコードする別の遺伝子と共にウイルスベクター中に挿入すれば、そのベクターはターゲット特異的になる。
【0105】
iv.修飾ウイルスを使った送達
送達すべき核酸は、特異的結合リガンドを発現するように操作された感染性ウイルス内に収容することができる。したがってウイルス粒子はターゲット細胞のコグネイト受容体に特異的に結合し、内容物を細胞に送達すると考えられる。レトロウイルスベクターの特異的ターゲティングを可能にするために設計された新規アプローチが、ウイルスエンベロープへのラクトース残基の化学的付加によるレトロウイルスの化学修飾に基づいて開発された。この修飾は、シアロ糖タンパク質受容体を介した肝細胞の特異的感染を可能にすることができる。
【0106】
組換えレトロウイルスをターゲティングするための別のアプローチが設計され、このアプローチでは、レトロウイルスエンベロープタンパク質および特異的細胞受容体に対するビオチン化抗体が使用された。抗体はストレプトアビジンを使ってビオチン成分に結合された(Roux et al., Proc. Nat'l Acad. Sci. USA, 86:9079-9083, 1989)。主要組織適合遺伝子複合体クラスIおよびクラスII抗原に対する抗体を使って、インビトロで、これらの表面抗原を有するさまざまなヒト細胞の、エコトロピックウイルスによる感染が示された(Roux et al., 1989)。
【0107】
C.ベクター送達および細胞形質転換
本発明と共に使用される細胞、組織または生物を形質転換するための核酸送達の適切な方法には、本明細書に記載するように、または当業者には公知であるだろうように、核酸(例えばDNA)を細胞、組織または生物中に導入することができる事実上任意の方法が包含されると考えられる。そのような方法には、DNAの直接送達、例えば、任意でFugene6(Roche)またはLipofectamine(Invitrogen)を用いる、エクスビボトランスフェクションによるもの(Wilson et al., Science, 244:1344-1346, 1989、NabelおよびBaltimore, Nature 326:711-713, 1987)、マイクロインジェクション(HarlandおよびWeintraub, J. Cell Biol., 101:1094-1099, 1985;参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,789,215号)を含む、注入によるもの(米国特許第5,994,624号、同第5,981,274号、同第5,945,100号、同第5,780,448号、同第5,736,524号、同第5,702,932号、同第5,656,610号、同第5,589,466号および同第5,580,859号、それぞれ参照により本明細書に組み入れられる);エレクトロポレーションによるもの(参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,384,253号;Tur-Kaspa et al., Mol. Cell Biol., 6:716-718, 1986;Potter et al., Proc. Nat'l Acad. Sci. USA, 81:7161-7165, 1984);リン酸カルシウム沈殿法によるもの(GrahamおよびVan Der Eb, Virology, 52:456-467, 1973;ChenおよびOkayama, Mol. Cell Biol., 7(8):2745-2752, 1987;Rippe et al., Mol. Cell Biol., 10:689-695, 1990);DEAE-デキストランを使用し、次にポリエチレングリコールを使用するもの(Gopal, Mol. Cell Biol., 5:1188-1190, 1985);直接超音波負荷法(direct sonic loading)によるもの(Fechheimer et al., Proc. Nat'l Acad. Sci. USA, 84:8463-8467, 1987);リポソーム媒介トランスフェクションによるもの(NicolauおよびSene, Biochim. Biophys. Acta, 721:185-190, 1982;Fraley et al., Proc. Nat'l Acad. Sci. USA, 76:3348-3352, 1979;Nicolau et al., Methods Enzymol., 149:157-176, 1987;Wong et al., Gene, 10:87-94, 1980;Kaneda et al., Science, 243:375-378, 1989;Kato et al., J Biol. Chem., 266:3361-3364, 1991)および受容体媒介トランスフェクションによるもの(WuおよびWu, Biochemistry, 27:887-892, 1988;WuおよびWu, J. Biol. Chem., 262:4429-4432, 1987)(各文献は参照により本明細書に組み入れられる)ならびにそのような方法の任意の組合せなどがあるが、これらに限定されるわけではない。
【0108】
V.細胞の培養
多能性細胞、例えば胚性幹細胞、および多能性を持つように誘導された細胞、または多能性を持つように誘導されるべき細胞は、当技術分野において公知である任意の方法に従って培養することができる。本明細書において述べるように、いくつかの態様では、多能性細胞が、ALK5阻害因子およびMEKまたはErk阻害因子の1つと共に、任意でGSK3β阻害因子および/またはLIFと共に、培養される。培養培地は、当技術分野において公知である培養培地の他の任意の成分を含むことができる。いくつかの態様では、培養培地が、細胞生存のための基礎培地成分(例えばビタミン類およびミネラル類、任意で、等張条件下にあるもの)を含む。例示的な基礎培地は、DMEMまたはその変形、例えばDMEM Knockoutである。さらに培養物にはKnock-out血清代替添加物(KSP)を補足することができる。本発明の培養物は、1つまたは複数の炭素源を含むことができる。いくつかの態様では、培養物が、L-アナリル(analyl)-L-グルタミンを含む。培養物は血清を含むこともできるし、無血清であることもできる。
【0109】
いくつかの態様では、細胞をフィーダー細胞と接触させて培養する。例示的なフィーダー細胞には、線維芽細胞、例えばマウス胚性線維芽細胞(MEF)、またはX線不活化CF1フィーダー細胞などがあるが、これらに限定されるわけではない。フィーダー細胞上で細胞を培養する方法は当技術分野において公知である。
【0110】
いくつかの態様では、細胞がフィーダー細胞の非存在下で培養される。細胞は、例えば固形培養表面(例えば培養プレート)に、例えば分子テザー(molecular tether)を介して、直接付着させることができる。本発明者らは、多能性の誘導が行われる細胞の培養では、細胞を固形培養表面に直接付着させた場合の方が、フィーダー細胞上で培養することの他は同じように処理した細胞の効率と比較して、多能性の誘導効率がはるかに大きい(すなわちより多くの細胞が多能性を獲得する)ことを見いだした。限定するわけではないが、例示的な分子テザーには、マトリゲル、細胞外マトリックス(ECM)、ECM類似体、ラミニン、フィブロネクチン、またはコラーゲンなどがある。しかし、これが非限定的なリストであり、細胞を固形表面に付着させるために他の分子も使用できることは、当業者にはわかると考えられる。固形表面にテザーを最初に取り付けるための方法は当技術分野において公知である。
【0111】
VI.多能性細胞の用途
本発明は、幹細胞技術(限定するわけではないが、予防的用途または治療的用途を含む)のさらなる研究および開発を可能にする。例えばいくつかの態様では、本発明の細胞(本発明の阻害因子下で培養された多能性細胞、またはそのような細胞に由来し、所望の細胞運命に沿って分化するように誘導された細胞)が、それを必要とする個体(限定するわけではないが、臓器、組織、または細胞タイプの再生を必要とする個体を含む)に導入される。いくつかの態様では、細胞が、最初は、ある個体からの生検材料中に得られ、本明細書に記載するように多能性が誘導され、任意で(例えば特定の所望する前駆細胞に)分化するように誘導され、次に、その個体中に移植し戻される。いくつかの態様では、個体中に細胞を導入する前に、その細胞が遺伝子改変される。
【0112】
いくつかの態様では、本発明の方法に従って作製された多能性細胞が、次に、例えば造血(幹/前駆)細胞、神経(幹/前駆)細胞(および任意で、より分化した細胞、例えばサブタイプ特異的ニューロン、乏突起膠細胞など)、膵臓細胞(例えば内分泌前駆細胞または膵臓ホルモン発現細胞)、肝細胞、心血管(幹/前駆)細胞(例えば心筋細胞、内皮細胞、平滑筋細胞)、網膜細胞などを形成するように誘導される。
【0113】
所望の細胞タイプへの多能性幹細胞の分化を誘導するための方法は種々知られている。さまざまな細胞運命への幹細胞の分化を誘導するための方法を記載している最近の特許公報の非限定的なリストを、以下に挙げる:米国特許出願公開第2007/0281355号;同第2007/0269412号;同第2007/0264709号;同第2007/0259423号;同第2007/0254359号;同第2007/0196919号;同第2007/0172946号;同第2007/0141703号;同第2007/0134215号。
【0114】
特定の損傷組織に、または多能性細胞が利益を生じるであろう他の組織に、本発明の多能性細胞を導入し、任意でターゲティングすることにより、さまざまな疾患を改善することができる。組織損傷に起因する疾患の例には、神経変性疾患、脳梗塞、閉塞性血管疾患、心筋梗塞、心不全、慢性閉塞性肺疾患、肺気腫、気管支炎、間質性肺疾患、喘息、B型肝炎(肝損傷)、C型肝炎(肝損傷)、アルコール性肝炎(肝損傷)、肝硬変(肝損傷)、肝機能不全(肝損傷)、膵炎、真性糖尿病、クローン病、炎症性大腸炎、IgA糸球体腎炎、糸球体腎炎、腎機能不全、褥瘡、熱傷、縫合傷、裂傷、切創、咬創、皮膚炎、瘢痕ケロイド、ケロイド、糖尿病性潰瘍、動脈潰瘍および静脈性潰瘍などがあるが、これらに限定されるわけではない。
【0115】
いくつかの態様では、本発明の阻害因子と共にインキュベートされた多能性細胞から、トランスジェニック動物(例えば非ヒト動物)が作製される。そのような細胞は、トランスジェニック細胞、ノックアウト株(例えば部位特異的組換えによって選択可能マーカーを導入する1つまたは複数の遺伝子ノックアウトを含むもの)であることができる。本明細書に記載する阻害因子と共にインキュベートされた多能性細胞を適合動物に由来する胚盤胞中に導入してから、動物の受容性子宮(receptive uterus)中に導入し、その結果生じた子孫を、多能性細胞由来の細胞について(例えば選択可能マーカーまたは毛皮色などの他の表現型特徴によって)選択することができる。キメラ子孫を同定し、多能性細胞から子孫に特徴(例えばトランスジーン)を伝達する系統を樹立することができる。ホモ接合型の動物系統は、同胞(sibling)動物を交配することによって樹立することができる。
【0116】
本発明は、本方法による任意のタイプのトランスジェニック動物の作製を提供する。例示的な動物には、非ヒト哺乳動物および非ヒト霊長類が含まれる。例示的な動物には、例えばマウス(SCIDマウスを含む)、ラット、イヌ、ネコ、ブタ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、サルおよびチンパンジーなどがある。
【0117】
本発明の阻害因子と共に細胞を培養し、よって細胞の多能性を維持することは、好都合なことに、細胞表現型、薬物応答に関するスクリーニングを可能にし、化合物または他の作用物質(例えばタンパク質、核酸、または抗体)のライブラリーを、多能性細胞の表現型を調整する能力または所望の細胞応答を誘導する能力についてスクリーニングすることも可能にする。ライブラリースクリーニングは、本質的に任意の所望する表現型に影響を及ぼすライブラリーメンバーの能力についてスクリーニングするために設計することができる。例示的な表現型には、例えば、関心対象の追加化合物または薬物などの存在下での、細胞の分化、アポトーシスまたは他の細胞死、細胞の生存、死、または他の表現型を含めることができる。
【0118】
ライブラリー中の作用物質は、任意の小化学化合物または生物学的実体、例えばタンパク質、糖、核酸または脂質であることができる。通例、試験作用物質は、小化学分子およびペプチドであると考えられる。本発明のアッセイでは本質的に任意の化学化合物を潜在的作用物質として使用することができるが、ほとんどの場合、水溶液または有機(特にDMSOベースの)溶液に溶解することができる化合物が使用される。アッセイは、アッセイ工程を自動化すると共に、典型的には(例えばロボットアッセイにおけるマイクロタイタープレートでのマイクロタイターフォーマットで)並行して行われるアッセイに、任意の便利な供給源から得られる化合物を供給することによって、大きな化合物ライブラリーをスクリーニングするように設計される。化学化合物の供給業者が、例えばSigma(ミズーリ州セントルイス)、Aldrich(ミズーリ州セントルイス)、Sigma-Aldrich(ミズーリ州セントルイス)、Fluka Chemika-Biochemica Analytika(スイス・ブックス)など、数多く存在することは理解されると考えられる。
【0119】
コンビナトリアル化合物ライブラリーは、試薬などのいくつかの化学的「ビルディングブロック」を組み合わせることで化学合成または生物学的合成によって作成される、多様な化学化合物の集合体である。例えば、ポリペプチドライブラリーなどのリニア(linear)コンビナトリアル化合物ライブラリーは、一組の化学的ビルディングブロック(アミノ酸)を所与の化合物長(すなわちポリペプチド化合物中のアミノ酸の数)について考え得る全ての方法で組み合わせることによって形成される。化学的ビルディングブロックのそのようなコンビナトリアルな混合によって、何百万もの化学化合物を合成することができる。
【0120】
コンビナトリアル化合物ライブラリーの作成とスクリーニングは当業者には周知である。そのようなコンビナトリアル化合物ライブラリーには、例えばペプチドライブラリーが含まれるが、それに限定されるわけではない(例えば米国特許第5,010,175号、Furka, Int. J. Pept. Prot. Res. 37:487-493 (1991)およびHoughton et al., Nature 354:84-88 (1991)参照)。化学的多様性ライブラリーを作成するために他の化学も使用することができる。そのような化学には、ペプトイド(例えばPCT公開番号WO91/19735)、コードされたペプチド(encoded peptide)(例えばPCT公開WO93/20242)、ランダムバイオオリゴマー(例えばPCT公開番号WO92/00091)、ベンゾジアゼピン類(例えば米国特許第5,288,514号)、ヒダントイン類、ベンゾジアゼピン類およびジペプチド類などのダイバーソマー(diversomer)(Hobbs et al., Proc. Nat. Acad. Sci. USA 90:6909-6913 (1993))、ビニローグポリペプチド(vinylogous polypeptide)(Hagihara et al., J. Amer. Chem. Soc. 114:6568 (1992))、グルコース骨格(glucose scaffolding)を持つ非ペプチドペプチドミメティック(Hirschmann et al., J. Amer. Chem. Soc. 114:9217-9218 (1992))、小化合物ライブラリーのアナロガス有機合成(analogous organic syntheses)(Chen, et al., J. Amer. Chem. Soc. 116:2661 (1994))、オリゴカルバメート(Cho et al., Science 261:1303 (1993))、および/またはペプチジルホスホネート(Campbell et al., J. Org. Chem. 59:658 (1994))、核酸ライブラリー(Ausubel, BergerおよびSambrook、全て前掲、参照)、ペプチド核酸ライブラリー(例えば米国特許第5,539,083号参照)、抗体ライブラリー(例えばVaughn et al., Nature Biotechnology, 14(3):309-314 (1996)およびPCT/US96/10287参照)、糖質ライブラリー(例えばLiang et al., Science, 274:1520-1522 (1996)および米国特許第5,593,853号参照)、小有機分子ライブラリー(例えばベンゾジアゼピン類、Baum C&EN, Jan 18, p.33 (1993);イソプレノイド類、米国特許第5,569,588号;チアゾリジノン類およびメタチアザノン類、米国特許第5,549,974号;ピロリジン類、米国特許第5,525,735号および同第5,519,134号;モルホリノ化合物、米国特許第5,506,337号;ベンゾジアゼピン類、第5,288,514号などを参照されたい)などがあるが、これらに限定されるわけではない。
【0121】
コンビナトリアルライブラリーを作成するための装置は市販されている(例えば、Advanced Chem Tech(ケンタッキー州ルイビル)の357MPS、390MPS、Rainin(マサチューセッツ州ウォーバーン)のSymphony、Applied Biosystems(カリフォルニア州フォスターシティ)の433A、Millipore(マサチューセッツ州ベッドフォード)の9050 Plusを参照されたい)。また、コンビナトリアルライブラリーそのものも数多く市販されている(例えばComGenex(ニュージャージー州プリンストン)、Tripos, Inc.(ミズーリ州セントルイス)、3D Pharmaceuticals(ペンシルベニア州エクストン)、Martek Biosciences(メリーランド州コロンビア)などを参照されたい)。
【実施例】
【0122】
概要:
本発明者らは、LIFとALK5阻害因子、GSK3阻害因子、およびMEK阻害因子のカクテルとによって均質に維持することができる新規ラットiPSC(riPSC)の樹立に成功したことを、ここに報告する。riPSCは、マウスESCと共通する特徴を有し、最も重要なことには、キメラに大きく寄与をすることができる。本発明者らは、「マウスESC様」の特徴を持ち、驚いたことにMEK阻害因子およびALK5阻害因子の存在下で培養下に維持することができる、新規ヒトiPSC(hiPSC)も作製した。本発明者らの実験は、オーセンティックな胚性幹細胞をまだ入手することができないラットまたは他の種から、再プログラミングによって多能性幹細胞を作製するための枠組みを提供することになると、本発明者らは考える。
【0123】
実施例1
この実施例ではラット多能性細胞の作製と維持を実証する。
【0124】
Oct4/Klf4/Sox2ウイルス形質導入および化合物カクテルによるWB-F344細胞からの新規riPSCの作製
二倍体ラット肝臓前駆細胞株であるWB-F344(Grisham et al., Proc Soc Exp Biol Med 204, 270-279 (1993))に、レトロウイルスによってOct4、Sox2およびKlf4を形質導入した後、従来のmESC培地中のMEFフィーダー細胞上に分割した。コンパクトなアルカリホスファターゼ(ALP)陽性ESC様コロニーが形質導入の10日後に観察された(効率は約0.4%である)(図1A)。しかし、そのESC様コロニーをピックアップして同じ培地で二次培養したところ、それらは迅速に分化して、ESCの形態を失ったことから(図1B)、従来のmESC培地条件はriPSCの多能性を維持するには十分でないことが示唆された。小分子は重要な分化誘導経路を阻害することができるという考えの下、本発明者らおよび他の研究者らはこれまでに、よりロバストな方法でmESC自己複製をサポートするための小分子を同定し、使用してきた(Schugar et al., Gene Ther 15, 126-135 (2008);Xu et al., Nat Biotechnol 20, 1261-1264 (2002))。そのような化学的戦略およびmESCとEpiSC/hESCの自己複製を維持するためのシグナリングの相違に基づいて、本発明者らは、MEK阻害因子PD0325901、ALK5(TGFβシグナリングの主要I型受容体)阻害因子A-83-01、GSK3β阻害因子CHIR99021、およびFGFR阻害因子PD173074を選択し、異なる小分子の組合せがriPSCの多能性の維持に及ぼす効果を調べた。0.5μM PD0325901と3μM CHIR99021の組合せを使用すると、riPSCは培養下で短期間維持することができるが、甚だしい自発的分化を示す(図1C)。この条件下で成長させた細胞は、連続継代後は、ゆっくり増殖するようになり、分化した細胞の増殖ゆえに、培養物が劣化した。最近の研究により、CHIR99021およびFGFR阻害因子PD173074と組み合わされたPD0325901は、mESCの多能性をLIF非依存的に維持できることが実証された(Ying et al., Cell 115, 281-292 (2003))。しかし、PD0325901とCHIR99021の組合せと同様に、培地にPD173074(0.1μM)を含めることが、さらなる利益を示すことはなかった。アクチビンA/NodalシグナリングはhESCおよびEpiSCの未分化状態を維持するために重要であるが、mESC自己複製にとっては必須でないので、次に、本発明者らは、PD0325901、CHIR99021およびTGF-β阻害因子A-83-01の組合せが、riPSCの分化を抑制し、自己複製を促進することができるかどうかを調べた。興味深いことに、0.5μM PD0325901、3μM CHIR99021および0.5μM A-83-01の組合せでは、riPSCが、より均質な集団として成長し、自発的分化は実質上阻害された(図1D)。そのような条件下では、PD0325901およびCHIR99021の組合せと比較して、クローン増殖効率も有意に増加した(図5)。さらにまた、LIF自体はriPSC自己複製を持続させるのに十分でなかったものの、LIFの非存在下では極めて小さなALP陽性コロニーしか観察されず、長期間維持することもできなかった(図5)。その上、riPSCの長期自己複製にはユニークな化学的阻害因子カクテルが必要だった。riPSCは、LIF、PD0325901、A-83-01、およびCHIR99021の存在下で、30継代を超える期間、明白な分化または増殖の減少を伴わずに培養されたが、化学的阻害因子を培地から除去した後は1継代以内にESCの形態を失って分化する。この条件下においてriPSCは、培養下で典型的なドーム状コロニーを形成する点で、従来のmESCに類似していた(図1E)。免疫細胞化学により、riPSCは、Oct4(図1F)、Sox2(図1G)、SSEA-1(図1H、緑色)、Nanog(図1H、赤色)などの典型的なmESCマーカーを発現するが、SSEA3、SSEA4およびTRA-1-81などのhESCマーカーについては陰性であることが明らかになった。ラット遺伝子プライマーを使った4つのクローンriPSC株のRT-PCR分析により、内在性ラットOct4、Sox2、Nanog、Klf4、Rex-1、TDGF2、FGF4およびErasの発現が確認された(図1I)。トランスジーンに対する特異的プライマーを使用したところ、形質導入されたマウスOct4、Sox2およびKlf4遺伝子はおおむね発現停止されていることが、RT-PCR分析によって明らかになった(図1I)。ラットOct4プロモーターのメチル化状態の分析により、riPSCとWB-F344細胞の間で示差的メチル化が示された。riPSCクローンはほとんど完全な脱メチル化パターンを示し、親WB-F344細胞のそれとは異なっている(図1J)。注目すべきことに、riPSCはmESCと共通する分子特徴を持ち、特にRex-1およびALP(着床後段階のエピブラストおよびEpiSCには存在しないESCおよび初期エピブラストのマーカー)を発現する。
【0125】
インビトロおよびインビボで多能性幹細胞である、riPSC
riPSCの発生能を調べるために、インビトロ分化アッセイを行った。免疫染色により、riPSCは、標準的な胚様体分化法の下で、内胚葉(アルブミンおよびPdx1)(図2A、2B)、神経外胚葉(βIII-チューブリン、Tuj1)(図2C)および中胚葉(brachyury)(図2D)誘導体に分化し得ることが示された。次に、本発明者らはriPSCのインビボ発生能を調べた。重症複合免疫不全(SCID)マウスへの移植後に、riPSCは、神経上皮様構造(外胚葉)、気道上皮(内胚葉)、軟骨様構造(中胚葉)および平滑筋(中胚葉)を含む3つの胚葉の全てからなる奇形腫を形成した(図2E〜2H)。最も注目すべきことに、Brown-Norwayラット(黒毛)胚盤胞(n=18)への注入後に、3匹のラットが生まれ、その全てが甚だしい毛色キメリズムを示した(図2I)。しかし生殖細胞系伝達はまだ検出されていない。総合すると、上記の結果から、ラットEpiSCとは異なる本発明者らのriPSCは、多能性mESC様ラット幹細胞株と定義された。
【0126】
実施例2
この実施例では、マウス胎性幹細胞と類似する状態にあるヒト多能性細胞を誘導し、それを維持するための培養培地を実証する。
【0127】
mESCとは対照的に、従来のhESCおよびEpiSCの自己複製を維持するには、bFGFおよびTGFβ/アクチビン/Nodalシグナリングが不可欠である。TGFβ/アクチビン/NodalまたはFGFRシグナルのどちらか一方の阻害は、従来のhESC培養条件下では、hESCおよびEpiSCの劇的で迅速な分化を引き起こす。最近、bFGF培養条件下でOct4、Sox2、c-MycおよびKlf4またはOct4、Sox2、NanogおよびLin28のどちらか一方を発現させることにより、線維芽細胞からヒト誘導多能性幹細胞(hiPSC)が作製された(Dimos et al., Science 321, 1218-1221 (2008);Lowry et al., Proc Natl Acad Sci USA 105, 2883-2888 (2008);Nakagawa et al., Nat Biotechnol 26, 101-106 (2008);Takahashi et al, Cell 131, 861-872 (2007);Yu et al., Science 318, 1917-1920 (2007))。そのようなhiPSCは、自己複製に関するシグナリング要件および細胞形態が、従来のhESCおよびEpiSCによく似ている。ラットでの研究に基づいて、本発明者らは、ヒト多能性幹細胞に関して、mESC様の多様性状態を捕捉し、維持することができるかどうかを探究した。注目すべきことに、本発明者らは、hLIFを含有するmESC培地におけるOct4、Sox2、Nanog、およびLin28のウイルス発現によって、従来の条件下におけるもの(Yu et al., Science 318, 1917-1920 (2007))と同じようなタイミングおよび効率で(図3A、平均で1×105個の形質導入細胞から15〜20個のiPS細胞コロニー)、IMR90ヒト線維芽細胞からhiPSCを効果的に作製し、次に、ALK5、GSK3およびMEK阻害因子の化合物カクテルを添加することによって、それを選択し、増殖させることができることを見いだした。そのようなhiPSCは、hLIFとPD0325901、A-83-01およびCHIR99021の化合物カクテルとの下で、長期間(>20継代)にわたり均質に自己複製する(図3B)。従来のhESCとは対照的に、これらのhiPSCは、mESCに似たALP陽性のドーム状コロニーを形成し(図3C)、MEK阻害因子およびALK5阻害因子に対して耐性であったのに対し、従来のhESC株H1は同じ条件下で迅速に分化した。これらのhiPSCは、Oct4、Sox2、Nanog、TRA-1-81、SSEA3およびSSEA-4などの典型的多能性マーカーを、均質に発現する(図3D〜3I)。そのような条件下にある4つのクローンhiPSC株のRT-PCR分析により、内在性ヒトOct4、Sox2、Nanog、Rex-1、TDGF2およびFGF4の発現が確認された(図3J)。トランスジーンに対する特異的プライマーを使用したところ、形質導入されたOct4、Sox2およびNanog遺伝子はおおむね発現停止されていることが、RT-PCR分析によって明らかになった(図3J)。その上、これらのhiPSCは、Oct4プロモーター上で、H1ヒトESCとは類似し、親IMR90線維芽細胞とは異なる、DNAメチル化パターンを示した(図3K)。riPSCと同様に、hiPSCのドーム状のコロニー形態と長期インビトロ自己複製とを維持するには、阻害因子カクテルが必要だった。阻害因子カクテルの除去は、細胞が1継代以内にコロニー継代を失う原因になった。培地からhLIFを除去しても、細胞に対する即座の/劇的な影響は見られなかった。しかし、hLIFはhiPSCの長期培養にとって有用であると思われる。化学的阻害因子を含有するがhLIFを含有しない培地中で培養すると、hiPSC培養物は徐々に劣化し、10継代を超えて均質に継代することができなかった。とはいえ、上述の新規hiPSCの自己複製における正確なシグナリング機序は、今後決定する必要がある。
【0128】
重要なことに、上述の新規hiPSCは、インビトロで、内胚葉(アルブミン)(図4A)、神経外胚葉(βIII-チューブリン、Tuj1)(図4B)および中胚葉(brachyury)(図4C)誘導体に分化し得ることが、免疫細胞化学によって確認された。さらにまた、SCIDマウスへの移植後に、上述のhiPSCは、神経上皮様構造(外胚葉)(図4D)、上皮管構造(内胚葉)(図4D)、および軟骨様構造(中胚葉)(図4E)を含む3つの胚葉の全てからなる奇形腫を形成した。総合すると、上記の結果から、mESC様のヒト多能性細胞を捕捉して、それを長期間維持できることが示唆された。
【0129】
考察
1981年以降、マウスからは胚性幹細胞が樹立されているが(Martin, G.R., Proc Natl Acad Sci USA 78, 7634-7638 (1981))、それらに対応するものをラットなどの他の動物から得ようとする試みは、完全には成功していない(Demers et al., Cloning Stem Cells 9, 512-522 (2007);Ruhnke et al., Stem Cells 21, 428-436 (2003), 2003;Schulze et al., Methods Mol Biol 329, 45-58 (2006);Ueda et al.「Establishment of rat embryonic stem cells and making of chimera rats」PLoS ONE 3, e2800 (2008))。遺伝子再プログラミングと化学的アプローチとを併用することにより、本発明者らは、コロニー形態および培養要件/シグナリング応答に関して従来のmESCの重要な特徴を有する、新規mESC様ラットおよびヒト多能性幹細胞を作製することができた。小分子のユニークなカクテルの下で、本発明者らの安定なriPSCは、インビボでキメリズムに大きく寄与する能力を有していた。ラットは、生理学的研究および行動学的研究に、より適しており、多重遺伝子性ヒト疾患の優れたモデルである。しかし、インビボで多能性を有するラット幹細胞を入手することができないため、この貴重なモデルの活用は妨げられていた。本発明者らによるラット多能性細胞の樹立および適当な化合物カクテルを使った戦略は、生物医学研究者にとって、標的遺伝子破壊(gene-targeted)ラットを作製する道を開くと考えられる。本発明者らのhiPSCは、よりロバストに成長し、従来のmESCに類似しかつ従来のhESCとは異なる新規な多能性状態を表すようである。
【0130】
総合すると、上述の知見は、化学的アプローチのユニークな利点を際立たせ、ラット細胞およびヒト細胞のmESC様多能性状態を維持するためにTGF-β経路を阻害することの重要性を正確に指摘するものである。本発明者らの研究は、全体として、再プログラミングによって多能性幹細胞を作製するための、またはラットから、もしくは胚性幹細胞をまだ入手することができない他の種から、初期ICM段階のESCを得るための枠組みを提供する。
【0131】
実験手順
細胞培養およびウイルス形質導入:University of North CarolinaのWilliam B. Coleman教授のご厚意によって分譲された二倍体ラットWB-F344細胞(Grisham et al., Proc Soc Exp Biol Med 204, 270-279 (1993))を、継代第7代において、マウスOct4、Klf4およびSox2用のpMXsベースのレトロウイルス(Addgene)により、記載のとおり(Takahashi, K.およびYamanaka, S., Cell 126, 663-676 (2006))、形質導入した。24時間後に、1×105個の形質導入WB-F344細胞を、100mmディッシュ中のX線不活化CF1 MEF上に播種し、mESC成長培地:Knockout(商標)DMEM、20%Knockout血清代替添加物、1%Glutamax、1%非必須アミノ酸、1%ペニシリン/ストレプトマイシン、0.1mM β-メルカプトエタノールおよび103U/ml mLIF(Millipore)と共に培養した。10日後に、mESC成長培地中のMEFフィーダー細胞上で増殖させるために、riPSCコロニーをピックアップし、MEK阻害因子PD0325901(Stemgent、0.5μM)、ALK5阻害因子A-83-01(Tocris Bioscience、0.5μM)、およびGSK3β阻害因子CHIR99021(Stemgent、3μM)で処理した。
【0132】
ヒト線維芽細胞IMR90(ATCC番号CCL-186)を培養し、ヒトOct4、Sox2、NanogおよびLin28用のpSin-EF2-Puroベースのレンチウイルス(Addgene)により、記載のとおり(Yu et al., Science 318, 1917-1920 (2007))、形質導入した。24時間後に、1×105個の形質導入IMR-90細胞を、100mmディッシュ中のX線不活化CF1 MEFフィーダー細胞上に播種した。24時間後に、培地を、103U/ml hLIF(Millipore)を補足したmESC培地に変えた。3週間後に、hiPSCコロニーが観察され、それを感染後4週目に、MEK阻害因子PD0325901(0.5μM)、ALK5阻害因子A-83-01(0.25μM)、およびGSK3β阻害因子CHIR99021(3μM)を含有する同じ培地中のフィーダー細胞上で増殖させるためにピックアップした。
【0133】
胚盤胞注入:性交後4.5日のBrown-Norway(BN)雌の子宮から胚盤胞を回収した。胚盤胞を鉱油下の1滴のHEPESに入れた。マイクロインジェクションピペットを使って8〜15個のriPSCを胚盤胞腔に注入した。注入後、胚盤胞を偽妊娠受容雌に移した。全ての動物処置はNational Institute of Healthのガイドラインに従って行った。
【0134】
補足データ
補足データには、補足的実験手順、表1つおよび図1つが含まれる。
【0135】
補足実験手順
インビトロでのiPSCの分化:riPSCまたはhiPSCのインビトロ分化は、標準的胚様体分化法によって行った。riPSCまたはhiPSCを0.05%トリプシン-EDTAで解離し、超低接着100mmディッシュ中、10%FBSを補足したDMEM培地で培養して、胚様体(EB)を形成させた。培地を1日おきに交換した。1週間後にEBを収集し、10%FBSを含むDMEM培地に入れて、マトリゲル被覆6穴プレートに移した。3〜7日後に、免疫細胞化学分析のために細胞を固定した。細胞培養製品は、特に言及した場合を除いて全て、Invitrogen/Gibco BRLから入手した。
【0136】
細胞化学および免疫蛍光アッセイ:アルカリホスファターゼ染色は、Alkaline Phosphatase Detection Kit(Millipore)を使用し、製造者のプロトコールに従って行った。免疫蛍光アッセイのために、細胞を4%パラホルムアルデヒド中で10分間固定し、0.1% Triton X-100(Sigma-Aldrich)を含有するPBSで3回洗浄した。次に、固定された細胞を、ブロッキングバッファー、PBS(Invitrogen/Gibco BRL)中の0.1% Triton X-100および10%正常ロバ血清(Jackson ImmunoResearch Laboratories Inc)において、室温(RT)で30分間インキュベートした。次に細胞を一次抗体と共にブロッキングバッファー中、4℃で終夜インキュベートした。翌日、細胞をPBSで洗浄し、0.1% Triton X-100を含有するPBSにおいて、二次抗体と共に、室温で1時間インキュベートした。マウス抗Oct4抗体(1:250)(Santa Cruz Biotechnology)、ウサギ抗Sox2抗体(1:2000)(Chemicon)、マウス抗SSEA1抗体(1:250)(Santa Cruz Biotechnology)、ウサギ抗Nanog抗体(1:500)(Abcam)、ラット抗SSEA3抗体(1:1000)(Chemicon)、マウス抗SSEA4抗体(1:1000)(Chemicon)、マウス抗TRA-1-81抗体(1:1000)(Chemicon)、ウサギ抗Pdx1(1:1500)(C. Wright博士(Vanderbilt University、テネシー州)から譲渡されたもの)、マウス抗βIII-チューブリン(Tuj1)抗体(1:1000)(Covance Research Products)、ウサギ抗アルブミン抗体(1:1000)(DAKO)を、一次抗体として使用した。二次抗体はAlexa Fluor 486/555ロバ抗マウス、抗ラット、抗ヤギまたは抗ウサギIgG(1:500)(Invitrogen)とした。核はDAPI(Sigma-Aldrich)染色によって可視化した。ニコンのエクリプスTE2000-U顕微鏡を使って画像をキャプチャした。
【0137】
RT-PCR分析:RNeasy Plus Mini KitとQIAshredder(Qiagene)とを併用して、RNAをriPSCおよびhiPSCから抽出した。逆転写は、iScript(商標)cDNA Synthesis Kit(BioRad)を使って、1μgのRNAで行った。特異的遺伝子の増幅は、表1に示すプライマーを使って行った。PCR条件は、95℃で5分、94℃で30秒、アニーリング温度で30秒、および72℃で30秒、25〜35サイクル、次に72℃で10分間とした。バイサルファイトシークエンシング法を使ったOct4プロモーターメチル化研究のために、Non Organic DNA Isolation Kit(Millipore)を使って、WB-F344細胞、riPSC、IMR90、およびhiPSCからDNAを単離した。次に、それらのDNAをEZ DNA Methylation-Gold Kit(Zymo Research Corp.、カリフォルニア州オレンジ)で処理した。次に、処理したDNAを、関心対象の配列を増幅するためのテンプレートとして使用した。Oct4プロモーターフラグメント増幅のために使用したプライマーを表1に示す。得られたフラグメントを、TOPO TA Cloning Kit for sequencing(Invitrogen)を使ってクローニングし、シークエンシングした。
【0138】
奇形腫形成:連続継代したriPSCまたはhiPSCを、0.05%トリプシン-EDTAを使って収集した。3百万〜5百万個の細胞をSCIDマウス(n=3)の腎被膜下に注入した。4〜5週間後に、全てのマウスが奇形腫を発生させた。その奇形腫を取り出して、組織学的に分析した。
【0139】
(表1)PCR用プライマー情報の一覧

【0140】
実施例3:ラット胚性幹細胞の誘導
胚盤胞からラットES細胞を誘導するために、透明帯除去ラット胚盤胞(E4.5)を、20%Knock-out血清代替添加物(KSR)、1%非必須アミノ酸、1000U/mlマウスLIF、1%Glutmax、3μM CHIR99021、0.5μM PD0325901、0.25μM A-83-01(または2μM SB431542)を補足したKnock-out DMEM培地と共に、X線不活化CF1フィーダー細胞上に播種した。3〜5日後に、ICM由来細胞塊を、アキュターゼ(Accutase)によって解離し、新しいフィーダー上に移した。典型的ES細胞形態を持つコロニーをピックアップし、アキュターゼで解離してから、新しいフィーダー上に播種した。樹立されたラットES細胞を上記の培地で培養し、約3日ごとに継代した(1:6)。ラットES細胞とriPSCはどちらも、長期自己複製には、LIFおよび阻害因子カクテル(CHIR99021、PD0325901、A-83-01)の存在を要求する。ラットES細胞およびriPSCは、例えばOct4、Sox2、NanogおよびSSEA-1などのマウスES細胞の多能性マーカーを発現するが、従来通りに培養されたヒトES細胞によって発現されたSSEA-3、SSEA-4、TRA-1-61およびTRA-1-81などのマーカーは発現しない。ラットES細胞とriPSCはどちらも、マウスEpiSCでは発現されないICMマーカーRex-1およびALPを発現する。
【0141】
実施例4:ヒトおよびサル胚性幹細胞の誘導
ヒトおよびサルES細胞をマウスES細胞様(初期ICM)多能性状態に転換するために、20% Knock-out血清代替添加物(KSR)、1%非必須アミノ酸、1% Glutmax、10ng/ml bFGFを補足したDMEM/F-12培地で、ヒトES細胞(Hues9)およびサルES細胞(R366.4)を培養した。細胞が50%コンフルエントに達した時に、培地を、2μMリジン特異的デメチラーゼ1阻害因子(パルネート)を補足したAdvance DMEM/F-12、1×N2、1×B27、1% Glutmax、50μg/ml BSA培地に切り換えた。3日後に、10μg/mlヒトLiF、3μM CHIR99021、0.5μM PD0325901、および2μM SB431542を含有するがパルネートは含有しない同じ培地で、細胞を培養した。甚だしい分化にもかかわらず、コンパクトなマウスES細胞様コロニーが、約1週間の処置後に、目に見えるようになった。転換されたヒト/サルES細胞を上記の培地で培養し、約4〜5日ごとに継代(1:6)した。細胞は、Oct4、Sox2、Nanog、SSEA-3、SSEA-4、TRA-1-61、TRA-1-81などの多能性マーカーを発現し、ICMマーカーRex-1およびALPも発現する。
【0142】
実施例5:小分子によるエピブラスト幹細胞の胚性幹細胞への転換
従来のマウス胚性幹細胞(ESC)は、着床前胚盤胞の内部細胞塊(ICM)の多能性細胞に由来し、それに相当する。それらは、無限に自己複製することができ、インビトロで全ての細胞タイプを生じる能力を持ち、最も重要なことには、胚盤胞に戻した時に、インビボで、生殖細胞系を含む動物全体に寄与する能力を持つ。最近になって、着床後段階のエピブラストから、エピブラスト幹細胞(EpiSC)と呼ばれる異なるタイプの多能性細胞が得られた(Brons et al., Nature 448, 191-195, 2007;Tesar et al., Nature 448, 196-199, 2007)。EpiSCは、長期間、自己複製することができ、インビトロで多能性であると共に、奇形腫アッセイにおいてインビボでも多能性であると思われるが、mESCとは対照的に、ICMに組み入れられてキメリズムに寄与する能力を持たないことから、EpiSCはICM由来のESCよりも進んだ/後期の発生段階の多能性に由来し、それに相当することが確認され、それらを「再プログラム」してICM段階の多能性細胞に戻すことは、インビボ環境下でさえ、できないことが示唆される。従来のヒトESCは、胚盤胞を使って得られたものではあるが、いくつかの遺伝子発現、コロニー形態(すなわち扁平なコロニー)ならびに自己複製および分化におけるシグナリング応答を含む数多くの特徴に関して、EpiSCに極めて密接に対応すると思われる。EpiSC/hESCは、(よりコンパクトでドーム状のコロニー形態を持つ)mESCとは、機能的および機構的に、他にも多くの点で異なる。例えば、mESCは、白血病抑制因子(LIF)および骨形成タンパク質(BMP)の下(Ying et al., Cell 115, 281-292, 2003)またはMEKおよび/もしくはFGFRの阻害下(Ying et al., Nature 453, 519-523, 2008)で自己複製するが、EpiSC/hESCは、自己複製に関してMAPK、FGF、およびTGFβ/アクチビン/Nodal経路活性に依存するようであり、MEK、FGFRおよび/またはALK4/5/7阻害因子で処理すると迅速に分化する(Brons et al., Nature 448, 191-195, 2007;Li et al., Differentiation 75, 299-307, 2007;Peerani et al., EMBO J 26, 4744-4755, 2007;Tesar et al., Nature 448, 196-199, 2007)。また、所定の分化条件下で、mESCはBMP処理に応答して中胚葉系譜に分化するが、EpiSC/hESCは栄養芽層または原始内胚葉細胞を生じる(Brons et al., Nature 448, 191-195, 2007;D'Amour et al., Nat Biotechnol 23, 1534-1541, 2005;Xu et al., Nat Biotechnol 20, 1261-1264, 2002)。これらの観察は、EpiSCとhESCとが本質的に類似しているという概念を強く裏付けており、mESCとEpiSC/hESCは2つの別個の多様性状態、すなわち着床前胚盤胞のICMを表すmESC様状態と、着床後のエピブラストを表すEpiSC様状態とを表すので、エピブラスト状態(従来のhESCを含む)を、ICM状態に転換し戻すことができるかどうかという、魅力的な仮説を提起する。mESCまたはmEpiSCからのキメリズムに寄与する能力には明確な相違があるので(これは、EpiSCからmESCへの機能的変換の決定的確認になるだろう)、マウス系は、そのような興味をそそる過程を研究するための理想的なプラットフォームになり、おそらくは新しいタイプのICM/mESC様ヒト多能性細胞を従来のhESCから作製するための基礎を提供する。
【0143】
EpiSCは、Oct4、Sox2およびNanogを含むマスター(master)多能性遺伝子を発現する。Oct4、Sox2およびKlf4の過剰発現は、生殖細胞系コンピテント多能性細胞になるためのマウス体細胞の再プログラミングを誘導することが示されている(Nakagawa et al., Nat Biotechnol 26, 101-106, 2008)。また、発現する多能性遺伝子の数が少ない(例えばNanog発現を欠く)生殖細胞系幹細胞が、培養下でmESC様細胞に転換し得ることも示されている(Chambers et al., Nature 450, 1230-1234, 2007;Kanatsu-Shinohara et al., Cell 119, 1001-1012, 2004)。さらにまた、最近(FAB-SCと呼ばれる)非多能性細胞タイプが未分化胚芽細胞から誘導され、単にLIFおよびBMP条件下で、多能性mESC様細胞を生成することが示された(Chou et al., Cell 135, 449-461, 2008)。その上、最近の研究により、mESCコロニー内の細胞の亜集団がいくつかの重要な転写因子(例えばNanog、Rex1、およびStella)の動的発現を示し、そのことが、それらを異なる状態間(例えばESC様表現型とエピブラスト様表現型の間)で絶えず変動させていることが示唆された(Chambers et al., Nature 450, 1230-1234, 2007;Hayashi et al., Cell Stem Cell 3, 391-401, 2008;Singh et al., Stem Cells 25, 2534-2542, 2007;Toyooka et al., Development 135, 909-918, 2008)。これらの研究から、ICM-mESCより「安定性」の低い多能性状態で存在するEpiSCは、インビトロで培養変動下に「自発的に」mESC状態へと後ろ向きに移行する能力を持つかもしれないという可能性が生じる。この仮説を検証するために、mESCの自己複製を促進するがEpiSCの分化を誘導する条件下では、EpiSCコロニー内の「転換」mESC様細胞が捕捉/選択され増殖するであろうという考えに基づいて、EpiSCをトリプシン処理して単一細胞とし、それをmESC自己複製条件下にプレーティングした。本発明者らは、従来のmESC成長条件下でフィーダー細胞と共に、LIFを補足して培養した場合、継代第1代ではEpiSCが分化し(例えばコロニー外への細胞伸展/移動)、数継代にわたってコロニーを同定できないことを見いだした(図6A)。EpiSCからmESCへの「自発的」転換は極めて非効率的であるかもしれないことを考えると、(例えばより明確な表現型弁別を達成し、分化したEpiSCの過剰増殖を最小限に抑えるなどして)EpiSCからそれら「希少な」転換mESC様細胞を選択/捕捉し増殖させるには、より強くよりストリンジェントな示差的自己複製促進および分化誘導条件が要求されるのかもしれない。FGFおよびMAPKシグナリング経路との関連におけるmESCとEpiSCの間の示差的シグナリング応答(自己複製対分化)ならびにMEK-ERKシグナリングの阻害がより初期の状態への細胞の再プログラミングを促進するという観察に基づいて(Chen et al., Proc Natl Acad Sci USA 104, 10482-10487, 2007;Shi et al., Cell Stem Cell 2, 525-528, 2008;Silva et al., PLoS Biol 6, e253, 2008)、本発明者らは、次に、通常のmESC自己複製条件下で、EpiSCを、FGFR阻害因子PD173074(0.1μM)とMEK阻害因子PD0325901(0.5μM)の組合せで処理した。mESCのロバストなクローン成長を促進し分化細胞の成長を阻害するこの2PD/LIF条件下で、本発明者らは、EpiSCの加速された分化と、細胞培養全体の成長の減少とを観察した。2PD/LIF培地中で培養し続けると、細胞の大半は死に、連続継代中にmESC様コロニーが同定されることはなかった。同様に、mESC成長/生存を改善するために2PD/LIF条件にCHIR99021(3μM)を加えても、EpiSCからmESC様状態への転換は促進も捕捉もされなかった(図6A)。これらの結果から、EpiSCは、mESC自己複製を促進する条件下で容易にはESC様状態へと自発的に転換しない「安定な」多能性状態に相当することが示唆された。これは、EpiSCからmESC様状態への転換が、Klf4の過剰発現と、MEKおよびGSK3の化学的阻害因子の使用との併用によってのみ達成されることが示された、より最近の研究とも合致している(Guo et al., Development 136, 1063-1069, 2009)。
【0144】
TGFβ/アクチビン/Nodal活性は、マウス胚発生時に、時期および空間によって、動的に調節され、着床時にはエピブラスト中の初期前駆細胞の運命を制御するために要求される(Mesnard et al., Development 133, 2497-2505, 2006)。FGFおよびTGFβ/アクチビン/Nodal経路活性を要求するEpiSCの誘導から、TGFβ/アクチビン/NodalはEpiSCに抗分化シグナルを提供することが示唆される(Brons et al., Nature 448, 191-195, 2007;Tesar et al., Nature 448, 196-199, 2007)。また、一細胞期の胚ではE-カドヘリンが発現し、シグナリングによるE-カドヘリンのダウンレギュレーションが胚盤胞の着床を助長することが報告された(Li et al., J Biol Chem 277, 46447-46455, 2002)。その上、TGFβ/アクチビン/Nodal活性は、原腸形成時にE-カドヘリンをダウンレギュレートすることによって上皮間葉移行(EMT)も促進する(DerynckおよびAkhurst, Nat Cell Biol 9, 1000-1004, 2007;Gadue et al., Proc Natl Acad Sci USA 103, 16806-16811, 2006;Sirard et al., Genes Dev 12, 107-119, 1998)。これらの研究に基づいて、本発明者らは、TGFβ/アクチビン/Nodalシグナリングの阻害は、間葉上皮移行(MET)の過程を促進し、その結果、EpiSCからmESC様状態への転換を促進するかもしれないという仮説を立てた。A-83-01は、BMP受容体に対して交差阻害効果を持たない選択的ALK4/5/7阻害因子である(Tojo et al., Cancer Sci 96, 791-800, 2005)。以前の報文と合致して、0.5μM A-83-01によるTGFβ/アクチビン/Nodalシグナリングの遮断は、bFGFを補足したEpiSC/hESC培養条件下で、EpiSCの迅速な分化を誘導した。これとは著しく対照的に、LIFを補足したmESC培養条件下では、A-83-01が、よりコンパクトなドーム状のコロニーであって、mESCコロニー形態に似ていて、しかもALP(mESCでは高度に発現するが、EpiSCでは発現しない多能性マーカー)を発現するものを形成するように、EpiSCの集団全体を誘導した(図6C)。広く使用されている別の特異的ALK4/5/7阻害因子SB431542は、EpiSCに対して類似する効果を持つ。A-83-01処理コロニーを選択のために2PD/LIF条件に曝露したところ、コロニーの50%超が自己複製し、ALP活性を維持することができたことから、細胞がmESCの性質をいくらか獲得したことが示唆された。これらのドーム状ALP陽性コロニーは、ALK5、MEK、FGFRおよびGSK3の阻害因子を補足したmESC成長培地(mAMFGi条件と呼ぶ)中で、さらに維持し、増殖させた。これらの細胞は、mAMFGi条件下で長期間自己複製することができ、見分けがつかないmESCコロニー形態を持ち(図6D)、Oct4、Nanog、SSEA-1などの多能性マーカーを発現すると共に、ICMマーカーRex-1を回復する。しかし、これらの細胞を、レンチウイルスにより、構成的に活性なGFPで標識して、桑実胚と凝集させた場合、得られた胚をマウスに移植しても、キメラ動物は得られなかった(図7A)。これらの結果により、TGFβシグナリングの阻害と、MEK、FGFRおよびGSK3の阻害との併用は、強い再プログラミング活性を持ち、mESC様状態へのEpiSCの部分的転換を促進できることが示された。
【0145】
アセチル化やメチル化などのヒストン修飾は、遺伝子調節に重要な役割を果たすことが確証されている。StellaはmESCの生殖細胞系へのコンピテンス(competence to germline)にとって重要な遺伝子であり、EpiSCおよびmESC内のエピブラスト様細胞では転写的にサイレントであることが示されている。その上、ヒストン修飾はmESCにおけるStella発現を調節する(Hayashi et al., Cell Stem Cell 3, 391-401, 2008;Tesar et al., Nature 448, 196-199, 2007)。本発明者らは、真のインビボ多能性を担う発現停止された遺伝子座の抑制解除は、mESC様状態へのエピジェネティック制限/閾をEpiSCが克服するのを助長するだろうという仮説を立てた。そこで本発明者らは、モノメチル化およびジメチル化ヒストンH3K4を特異的に脱メチル化するヒストンデメチラーゼLSD1を阻害することによって全体的なH3K4メチル化を増加させることが示されている小分子パルネートを選択した(Lee et al., Chem Biol 13, 563-567, 2006)。注目すべきことに、2μMパルネート処理の4日後には、EpiSCの70〜80%までが、mESC成長条件下で、小さくてコンパクトなコロニーを形成した。次に、パルネート処理細胞を2PD/LIFで選択したところ、細胞のおよそ20%が、ドーム状のALP陽性コロニーとして、この選択に耐えて生き残った。それらのコロニーを、MEK、FGFRおよびGSK3の阻害因子(mMGFi条件と呼ぶ)またはmAMFGi条件で、さらに増殖させた。どちらの条件も、mESCと形態上見分けが付かない安定な細胞培養物(8ヶ月にわたって>80継代)をもたらした(図6E、F)。次に、本発明者らは、桑実胚凝集および得られた胚の移植により、インビボで、GFP標識パルネート/mMFGi細胞およびパルネート/mAMFGi細胞を調べた。注目すべきことに、本発明者らは、パルネート/mAMFGi細胞から(生まれた仔9匹のうち)7匹の成体キメラを得たことが、毛色と、複数の成体組織におけるGFP組込みの存在に関するPCR遺伝子型同定とによって決定された(図7A、B、C)。一貫して、パルネート/mAMFGi細胞凝集桑実胚の移植から得られたE13.5胚の複数の組織(すなわち生殖腺を含む3つの胚葉)に、広範なGFP陽性細胞が観察された(図7A、D、10A)。パルネート/mAMFGi細胞からの生殖細胞系寄与を調べるために、GFP/SSEA-1二重陽性細胞を生殖腺からFACSによって単離し、それらが生殖細胞系マーカーBlimp1およびStellaを発現することを、リアルタイムPCRで確認した(図7E)。これらのデータは、EpiSCから転換されたパルネート/mAMFGi細胞が真のインビボ多能性を回復することを示唆する。対照的に、パルネート/mMFGi細胞凝集桑実胚の移植から回収されたE13.5胚では、卵黄嚢にしか、GFP陽性細胞が見いだされなかった(図7A)。
【0146】
そこでパルネート/mAMFGi細胞をさらに特徴づけた。免疫細胞化学により、長期増殖パルネート/mAMFGi細胞において、Oct4、Nanog、SSEA1、およびSTELLAを含む多能性関連マーカーの均質な発現が確認された(図8A、11A、12)。また、半定量RT-PCR分析により、パルネート/mAMFGi細胞において、Rex1、Pecam1、Stella、Stra8、Dax1、Fbxo15、Esrrb、およびFgf4を含む特異的ICMおよび生殖細胞系コンピテンスマーカー(mESCでは発現するが、EpiSCには存在しないもの)の遺伝子発現の復活が実証された(図8B)。対照的に、Fgf5およびBrachyury(T)などといった、エピブラストおよび初期胚葉に関連する遺伝子の転写産物は、パルネート/mAMFGi細胞では減少するか、検出不可能だった(図8B、9C)。さらにまた、以前の報文と合致して、転換パルネート/mAMFGi細胞はmESCにはるかに似ていて(ピアソン相関値:0.87)、元のEpiSCの方がmESCからは遠いこと(ピアソン相関値:0.74)が、マイクロアレイによるトランスクリプトーム分析で実証された(図8C)。転換に関連する特異的なエピジェネティック変化をさらに分析するために、本発明者らは、その発現がICMの性質と密接に関連するStellaおよびFgf4のプロモーターDNAメチル化(Hayashi et al., Cell Stem Cell 3, 391-401, 2008;Imamura et al., BMC Dev Biol 6, 34, 2006)を、バイサルファイト・ゲノム・シークエンシング法で調べた。StellaおよびFgf4のプロモーター領域はパルネート/mAMFGi細胞およびmESCではおおむね非メチル化状態にあるが、EpiSCでは高度にメチル化されていることが明らかになった(図8D)。mESC様状態に限定されるStellaのエピジェネティック状態をさらに調べるために、本発明者らは、EpiSC、転換パルネート/mAMFGi細胞、およびmESCにおけるそのプロモーター領域のChIP-QPCR分析を行った。本発明者らは、パルネート/mAMFGi細胞におけるStellaのH3K4およびH3K27メチル化パターンはmESCにおいて観察されるものと類似しているが、EpiSCにおけるものとは異なることを見いだし、転換パルネート/mAMFGi細胞におけるStellaのエピジェネティック状態がmESC様状態に切り替わったことを確認した(図8E)。
【0147】
パルネート/mAMFGi細胞を、そのインビトロでの機能的性質についても調べた。この細胞はmESCと類似する成長速度を持つことがわかった(図9A)。パルネート/mAMFGi細胞を懸濁状態で胚様体を経て分化させたところ、それらは、免疫細胞化学によって示されるとおり、特徴的なニューロン細胞(βIII-チューブリンおよびMAP2ab陽性)、拍動心筋細胞(心筋トロポニンおよびMHC陽性)、および内胚葉細胞(Sox17またはアルブミン陽性)(図9B)など、3つの一次胚葉において細胞誘導体を効果的に生成することができた。mESCとEpiSC/hESCは、自己複製および分化におけるシグナリングインプット(例えば成長因子)に対して異なる応答を持つので、mESC分化用に開発されて効果的に機能する条件は、EpiSC/hESCの対応する分化の誘導には、多くの場合、不十分であると考えられる。EpiSC/hESCをmESC様状態に転換することの利点の一つは、分化条件を、mESC研究からEpiSC/hESC研究へと、より容易に変換し得ることである。BMP4処理に対する示差的応答は、mESCとEpiSCとを識別するための機能的アッセイになる。以前の研究と合致して(BeddingtonおよびRobertson, Development 105, 733-737, 1989;CzyzおよびWobus, Differentiation 68, 167-174, 2001;Qi et al., Proc Natl Acad Sci USA 101, 6027-6032, 2004;Winnier et al., Genes Dev 9, 2105-2116, 1995))、本発明者らは、パルネート/mAMFGi細胞を、BMP4で処理するとmESCと同様に中胚葉特異的マーカー遺伝子Brachyury(T)を発現するように誘導されるが、同じ条件下で、EpiSCのように栄養外胚葉を生じることはなく(栄養芽層マーカーCdx2の誘導なし)、原始内胚葉細胞(Gata6)を生じることもないことを見いだしたことから、mESCに類似するパルネート/mAMFGi細胞のインビトロ分化潜在能/応答が示唆された(図9C)。これをさらに実証するために、本発明者らは、単層既知組成定方向段階的心臓分化過程において、EpiSC、転換パルネート/mAMFGi細胞、およびmESCを試み、比較した。中胚葉分化の初期過程においてBMP活性が不可欠な役割を果たすこの多段階過程において、パルネート/mAMFGi細胞はmESCと同じぐらい効率よく拍動心筋細胞に分化するが、同じ条件下でのEpiSCの分化は、適当な心臓マーカーを発現する細胞または特徴的な拍動表現型を持つ細胞をほとんど生成しないことを、本発明者らは見いだし(図9D)、ここでも、パルネート/mAMFGi細胞は機能的にmESCに似ていることが確認された。その上、単一細胞生存アッセイでも、フィーダーフリーのN2/B27既知組成条件において、パルネート/mAMFGi細胞はmESCと同じぐらい効率よくOct4陽性コロニーとしてクローン増殖するのに対し、EpiSCは同じ条件下で単一細胞からあまり生き残らないことが実証された(図11B)。これらのデータにより、エピジェネティック修飾およびmESCまたはEpiSCによって要求される示差的シグナリング経路を標的とする薬理学的操作によって、EpiSCをmESC様状態に機能的に転換させ得ることがさらに実証された。
【0148】
本発明者らの研究と並行して、EpiSC細胞は、再プログラミング遺伝子(すなわちKlf4)の過剰発現と化学化合物との併用によってmESC様状態に転換すると、最近報告されている(Guo et al., Development 136, 1063-1069, 2009)。本研究において、本発明者らは、安定なEpiSCを、発生上、より初期の多能性状態であるmESC様に、いかなる遺伝子操作も伴わずに転換するための、既知組成処理を考案した。従来のmESCのコロニー内にはエピブラスト様細胞が存在していて、相互に移行していること(Hayashi et al., Cell Stem Cell 3, 391-401, 2008)、mESCとEpiSCはOct4、Sox2およびNanogを含むかなりの多能性転写因子セットを共有していること、そして培養下ではmESCの方が安定であることを示す証拠を与える研究があるにも関わらず、本研究において、本発明者らは、EpiSCが従来のmESC培養条件下で迅速に分化することと、「自発的に」転換したmESCを、連続継代中に、集団またはクローンレベルで、容易に同定し、単離することはできないこととを見いだした。注目すべきことに、本発明者らは、小分子阻害因子によるTGFβ経路の遮断またはH3K4デメチラーゼLSD1の阻害が、多少のICM特異的遺伝子発現の活性化を伴って、mESC様表現型へのEpiSCの劇的な形態変化を誘導することを見いだした。ただし、キメラ寄与へのコンピテンスを持つmESC様状態へのEpiSCの完全な転換は、LSD1、ALK5、MEK、FGFR、およびGSK3の阻害因子の組合せを使った場合にのみ、容易に生じさせることができる。これらの観察は、シグナリングと直接的エピジェネティック調整との相乗作用による、発生的に後のステージのEpiSCからICMステージのmESCへの再プログラミングの強力かつ直接的な誘導を強調している。これは、再プログラミングの促進および真の多能性の維持におけるTGFβ経路阻害の重要な役割も際立たせ、キメリズムコンピテントラット多能性細胞の作製に関する本発明者らの最近の研究をさらに裏付けている(Li et al., Cell Stem Cell 4, 16-19, 2009)。全体として、本発明者らの研究は、いかなる遺伝子操作も行わずに、2つの多能性状態を区別するシグナリング経路とエピジェネティックターゲットの厳密な薬理学的制御を同時に行うことによって、多能性が制限されたEpiSCをmESC様状態に容易に転換することができるという概念を証明するデモンストレーションになり、その機序をさらに研究するための便利な実験系を提供する。そのような方法と概念は、新しいタイプのmESC様ヒト多能性細胞を作製するための手段にもなり得る。
【0149】
実験手順
細胞培養:マウスEpiSC株はPaul Tesar博士(Case Western Reserve University)から分譲されたものである。EpiSC(EpiSC-5株、雄)は、以前記述されたように10ng/ml bFGFを補足したヒトESC培地中の照射CF1 MEF上で維持した(Tesar et al., Nature 448, 196-199, 2007)。EpiSCを1mg/ml IV型コラゲナーゼ(Invitrogen)で3〜4日ごとに継代した。R1 mESCは、20%KSR(Invitrogen)、0.1mM 2-ME(Sigma-Aldrich)、2mM L-グルタミン(Invitrogen)、0.1mM NEAA(Invitrogen)、および103単位/mlの組換えマウス白血病抑制因子(LIF)(ESGRO、Millipore)を補足したKnockout DMEM(Invitrogen)からなる従来のmESC成長培地を使って照射CF1 MEF上で培養した。mESCおよび転換細胞は、0.05%トリプシン/EDTAを使って、単細胞懸濁液として、3日ごとに継代し、通常の培養については、1cm2あたり1.0×104細胞の密度で播種した。フィーダーフリー培養の場合は、1×N2(Invitrogen)、1×B27(Invitrogen)、0.1mM 2-ME、2mM L-グルタミン、0.1mM NEAA、50μg/ml BSAフラクションV(GIBCO)、103単位/ml LIFおよび10ng/ml BMP4(R&D)を補足したKnockout DMEMからなる既知組成培地中、ゼラチン被覆組織培養皿上で、細胞を成長させる。成長曲線実験のために、ゼラチン被覆12穴プレート中、フィーダーフィリー条件下で、細胞を培養した。二つ一組にした細胞試料を、各ウェルに1×105細胞の密度でプレーティングした。各時点(24時間間隔)について、二つ一組のウェルの細胞をトリプシン処理し、血球計を使って計数した。これらのカウント数を平均し、プロットした。ALK阻害因子A-83-01、SB431542、MEK阻害因子PD0325901、GSK3阻害因子CHIR99021、およびFGF受容体阻害因子PD173074はStemgent Inc.から購入した。パルネートはSigmaから購入した(P8511)。
【0150】
半定量RT-PCRおよびリアルタイムPCR:RNeasy plus mini kit(Qiagen)を使って全RNAを抽出し、iScript cDNA Synthesis Kit(Bio-Rad)で、オリゴdTプライマーを使って、製造者の説明に従って逆転写した。PCR産物を(1.5%)アガロースゲル上で分割し、臭化エチジウム染色によって可視化した。Bio-Rad Gel document systemを使って画像を撮影した。IQ SYBR Green(Bio-Rad)を用いるBio-RadリアルタイムPCR検出システムでの二つ一組の定量PCRのそれぞれに、希釈したcDNAを使用した。使用したプライマーを補足表(Supplemental Table)2に列挙する。
【0151】
バイサルファイトシークエンシング解析:Non Organic DNA Isolation Kit(Millipore)を使って、R1 mESC、EpiSC、およびパルネート/mAMFGi細胞から、DNAを単離した。次にそのDNAを、バイサルファイトシークエンシング用に、EZ DNA Methylation-Gold Kit(Zymo Research Corp., カリフォルニア州オレンジ)で処理した。次に、処理したDNAを使って、関心対象の配列を増幅した。プロモーターフラグメント増幅に使用したプライマーは、以前に公表されており(Hayashi et al., Cell Stem Cell 3, 391-401, 2008;Imamura et al., BMC Dev Biol 6, 34, 2006)、補足表2に列挙する。得られたフラグメントをTOPO TA Cloning Kit for sequencing(Invitrogen)を使ってクローニングし、配列決定した。
【0152】
フローサイトメトリーおよび細胞選別:接着細胞をPBS中で2回洗浄した後、Cell Dissociation Buffer(Invitrogen)中、37℃で20分間インキュベートした。細胞を解離し、PBS+3%正常ヤギ血清(ブロッキングバッファー)に再懸濁した。細胞を抗体、抗SSEA1(1:50、Santa Cruz)と共に、4℃で40分間インキュベートした後、対応する二次抗体と共にインキュベートし、次いで洗浄工程を行った。FACSAriaセルソーターおよびFACSDivaソフトウェア(BD Biosciences)を使って、細胞を分析し、選別した。488nmレーザーを励起に使って、GFPチャネルにおける蛍光強度に従ってGFP陽性度を決定した。SSEA-1陽性度は赤色チャネルにおける蛍光に従って決定した。
【0153】
インビトロ分化:パルネート/mAMFGi細胞をトリプシン処理して単一細胞とし、懸濁培養して、低接着プレート(Corning)中、10%FBSを補足したDMEM培地で、胚様体/EBを形成させた。1日おきに培地を新しくし、EBを懸濁状態で6日間成長させた。次にEBを0.1%ゼラチン被覆プレートに再プレーティングした。さまざまな時点(3日から16日まで)で、表示した抗体による代表的系譜特異的マーカーの免疫染色を行うことにより、自発的分化を調べた。定方向心臓分化のために、細胞をマトリゲル被覆プレートに2×104個/cm2の密度でプレーティングした。プレーティングの24時間後に、細胞を既知組成培地(CDM)[RPMI1640、0.5×N2、1×B27(ビタミンAを含まない)、0.5×Glutamax、0.55mMβ-メルカプトエタノール、および1×非必須アミノ酸からなるもの]に切り換え、3μM BIO(Calbiochem)および20ng/ml BMP-4(R&D)で5日間処理する。次に培地を、100ng/ml Dkk-1を含有するCDMに変え、細胞をさらに5日間培養する。11日目に、細胞を短時間トリプシン処理/剥離(0.05%トリプシン)し、追加の成長因子を含まないCDMに入れて、ゼラチン被覆6穴プレートに再プレーティングし、さらに4〜6日間培養すると、その時点で、心臓コロニーの大半に拍動表現型が現れる。
【0154】
特徴決定アッセイ:ALP染色はAlkaline Phosphatase Detection Kit(Chemicon)を製造者の説明どおりに使って行った。免疫細胞化学は標準的プロトコールを使って行った。簡単に述べると、細胞を4%パラホルムアルデヒド(Sigma-Aldrich)中で固定し、PBSで3回洗浄した後、0.3% Triton X-100(Sigma-Aldrich)および5%正常ロバ血清(Jackson Immuno Research)を含有するPBS中、室温で1時間インキュベートした。次に、細胞を一次抗体と共に4℃で終夜インキュベートした:アルブミン(Abcam、AB19188、1:200);Brachyury(Santa Cruz、C-19、1:200);心筋トロポニンt抗体(CT3)(Developmental Studies Hybridoma Bank、1:700);MAP2ab(Abcam、ab5392、1:1000);MF20(Developmental Studies Hybridoma Bank、1:200);Nanog(Abcam、ab21603、1:500);Oct4(Santa Cruz、sc-5279、1:100);Sox17(R&D systems、AF1924、1:300);SSEA1(Santa Cruz、sc-21702、1:100);Stella(Millipore、MAB4388、1:200);Tuj-1(Covance、MMS-435P、1:1000)。PBSで3回洗浄した後、細胞を適当なAlexa Fluorコンジュゲート二次抗体(Invitrogen)と共に室温で2時間インキュベートした。核はDAPI(Sigma)染色によって検出した。画像をZeiss HXP120によってキャプチャした。
【0155】
キメラ形成:転換細胞をレンチウイルスを使ってGFPで安定にマーキングした。細胞を8細胞期マウス胚と凝集させた後、2.5dpc偽妊娠CD1マウスの子宮に移植した。
【0156】
マイクロアレイ解析:マウスES細胞、EpiSC細胞およびパルネート/mAMFGi細胞の網羅的遺伝子発現を調べるためのマイクロアレイハイブリダイゼーションには、Illumina Sentrix BeadChip Array MouseRef-8 v2(Illumina、米国カリフォルニア州)を使用した。ビオチン-16-UTP-標識cRNAを、500ngの全RNAから、Illumina TotalPrep RNA増幅キット(Ambion AMIL 1791、米国カリフォルニア州フォスターシティ)を使って合成した。Illumina BeadStation 500X System Manual(Illumina、米国カリフォルニア州サンディエゴ)に従い、供給された試薬およびGE Healthcareストレプトアビジン-Cy3染色溶液を使って、750ngの標識増幅cRNAを含有するハイブリダイゼーション混合物を調製した。Illumina Array MouseRef-8 v2へのハイブリダイゼーションは、BeadChip Hyb Wheelにおいて、55℃で18時間行った。Illumina BeadArray Readerを使ってアレイをスキャンした。全ての試料を2つの生物学的レプリケートで調製した。マイクロアレイデータの処理および解析は、Illumina BeadStudioソフトウェアで行った。R1-mESC細胞マイクロアレイデータは、本発明者らの以前の研究のGEO DataSet(GSM402334およびGSM402335)から得た。全ての生データは、バックグラウンドを差し引き、ランク不変(rank invariant)オプションを使って、全体を規格化した。本発明者らは、パルネート/mAMFGiおよびEpiSCのマイクロアレイデータをGEO DataSetsに登録し、アクセッション番号を取得した(R1マウスES細胞についてはGSM402334およびGSM402335;パルネート/mAMFGiおよびEpiSCについてはGSE17664)。
【0157】
クロマチン免疫沈降物のリアルタイムPCR(ChIP-qPCR):ChIPは市販のMagna ChIP(商標)Gキット(カタログ番号17-611、Millipore)を使って行った。簡単に述べると、フィーダーフリー培養した1×106個の細胞を1%ホルムアルデヒドで固定し、溶解し、超音波処理して、ヌクレオソームと結合した200〜500bpのDNAフラグメントを得た。超音波処理した溶解物を、磁気ビーズとコンジュゲートした二次抗体と前もって反応させておいた抗トリメチルヒストンH3リジン4(Millipore、カタログ番号17-614、3μl/反応)または抗トリメチルヒストンH3リジン27(Millipore、カタログ番号17-622、4μg/反応)を使って、免疫沈降した。各抗体と共に24時間インキュベートした後、免疫沈降物を回収し、プロテイナーゼKと共にインキュベートすることにより、含まれているDNAフラグメントを精製した。DNAフラグメントをリアルタイムPCR反応に供した。抗体と共にインキュベートする前の全細胞溶解物をインプットとして使用した。全溶解物および免疫沈降物から得られるDNAフラグメント1μlをリアルタイムPCR反応に供した。正常ウサギIgGによる免疫沈降物を陰性対照試料としたが、検出可能なバックグラウンドは認められなかった。プライマー配列を表2に列挙する。
【0158】
(表2)PCRに使用したプライマー

【0159】
実施例6:複製し、多能性を維持する、多能性動物細胞の特徴決定
新しく作製されたhiPSCを特徴づけるために、リアルタイムPCRを利用して、hiPSCの遺伝子発現を解析した。ヒトES細胞株Hues9(hES施設、Harvard University、http://mcb.harvard.edu/melton/hues/)を対照として使用した。リアルタイムPCR分析により、Hues9細胞と比較して、本発明のhiPSCは、Gbx2(5倍)、Dppa3(2倍)およびKlf4(2.5倍)などといった一定の遺伝子を、より高いレベルで発現することがわかる。これらのマーカーは、マウスES細胞でも高度に発現するが、マウスEpiSCでは高度に発現しないことがわかる。リアルタイムPCRアッセイに使用したプライマーは、

である。
【0160】
ウェスタンブロット分析を使って、本発明者らは、hiPSCにおけるE-カドヘリンの発現も分析した。hiPSCにおけるE-カドヘリンの発現は、Hues9ヒトES細胞のそれの2倍である。
【0161】
上記の実施例は本発明を例証するために記載したものであり、本発明の範囲を限定しようとするものではない。本発明の他の変形は当業者には明白であるだろうし、本願の特許請求の範囲に包含される。本明細書において言及した刊行物、データベース、Genbank配列、特許、および特許出願は全て、参照により本明細書に組み入れられる。
【図1A】

【図1B】

【図1C】

【図1D】

【図1E】

【図1F】

【図1G】

【図1H】

【図1I】

【図1J】

【図1K】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1回の細胞分裂にわたって多能性細胞を培養する方法であって、
細胞の多能性を維持しつつ、少なくとも1回の細胞分裂を可能にするように、十分な量の
a. ALK5阻害因子、および
b. MEK阻害因子、Erk阻害因子、p38阻害因子、およびFGF受容体阻害因子のうちの1つまたは複数から選択される第2の化合物;および
c. 十分な時間にわたる十分な栄養素
の存在下で、多能性動物細胞を培養する工程
を含む、前記方法。
【請求項2】
培養工程が、一定量のGSK3β阻害因子の存在下で細胞を培養することをさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
GSK3β阻害因子がCHIR99021である、請求項2記載の方法。
【請求項4】
培養工程が、一定量の白血病抑制因子(LIF)の存在下で細胞を培養することをさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項5】
第2の化合物がMEK阻害因子である、請求項1記載の方法。
【請求項6】
MEK阻害因子がPD0325901である、請求項5記載の方法。
【請求項7】
第2の化合物がErk阻害因子である、請求項1記載の方法。
【請求項8】
培養工程がさらなるLIFの存在下で行われる、請求項1記載の方法。
【請求項9】
ALK5阻害因子がA-83-01である、請求項1記載の方法。
【請求項10】
ALK5阻害因子がSB431542である、請求項1記載の方法。
【請求項11】
多能性細胞が、細胞の多能性を維持しつつ、少なくとも5回の細胞分裂にわたって培養される、請求項1記載の方法。
【請求項12】
異種核酸を多能性細胞中に導入する工程、およびその結果生じた細胞を、多能性を維持しつつ少なくとも1回のさらなる細胞分裂を可能にするように培養する工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項13】
異種核酸が、動物細胞中に導入され、次に多能性が誘導され、かつ次に培養工程に供される、請求項12記載の方法。
【請求項14】
細胞がラット細胞またはヒト細胞である、請求項1記載の方法。
【請求項15】
細胞が、霊長類、ヒツジ、ウシ、ネコ、イヌ、またはブタの細胞である、請求項1記載の方法。
【請求項16】
多能性細胞が胚性幹細胞である、請求項1記載の方法。
【請求項17】
多能性細胞が誘導多能性幹細胞である、請求項1記載の方法。
【請求項18】
多能性細胞を、該細胞と同じ動物種に由来する胚盤胞中に導入する工程、および該胚盤胞を同じ種の動物の子宮中に導入する工程をさらに含む方法であって、該細胞が非ヒト動物細胞である、請求項1記載の方法。
【請求項19】
多能性細胞由来の核酸の存在に基づいて動物のキメラ子孫を選択する、請求項18記載の方法。
【請求項20】
細胞の多能性を維持しつつ、少なくとも1回の細胞分裂を可能にするように、十分な量の
a. ALK5阻害因子、および
b. MEK阻害因子、Erk阻害因子、p38阻害因子、およびFGF受容体阻害因子のうちの1つまたは複数から選択される第2の化合物
を含む、多能性哺乳動物細胞の培養物。
【請求項21】
白血病抑制因子(LIF)をさらに含む、請求項20記載の培養物。
【請求項22】
一定量のGSK3β阻害因子をさらに含む、請求項20記載の培養物。
【請求項23】
GSK3β阻害因子がCHIR99021である、請求項22記載の培養物。
【請求項24】
第2の化合物がMEK阻害因子である、請求項20記載の培養物。
【請求項25】
MEK阻害因子がPD0325901である、請求項24記載の培養物。
【請求項26】
第2の化合物がErk阻害因子である、請求項20記載の培養物。
【請求項27】
ALK5阻害因子がA-83-01である、請求項20記載の培養物。
【請求項28】
ALK5阻害因子がSB431542である、請求項20記載の培養物。
【請求項29】
細胞がヒト細胞またはラット細胞である、請求項20記載の培養物。
【請求項30】
細胞が胚性幹細胞である、請求項20記載の培養物。
【請求項31】
細胞培養培地であって、
多能性細胞を該培地中で培養した場合に、細胞の多能性を維持しつつ、少なくとも1回の細胞分裂を可能にするように、十分な量の
a. ALK5阻害因子、および
b. MEK阻害因子、Erk阻害因子、p38阻害因子、およびFGF受容体阻害因子のうちの1つまたは複数から選択される第2の化合物
を含む、前記細胞培養培地。
【請求項32】
白血病抑制因子(LIF)をさらに含む、請求項31記載の培地。
【請求項33】
一定量のGSK3β阻害因子をさらに含む、請求項31記載の培地。
【請求項34】
GSK3β阻害因子がCHIR99021である、請求項33記載の培地。
【請求項35】
第2の化合物がMEK阻害因子である、請求項31記載の培地。
【請求項36】
MEK阻害因子がPD0325901である、請求項35記載の培地。
【請求項37】
第2の化合物がErk阻害因子である、請求項31記載の培地。
【請求項38】
ALK5阻害因子がA-83-01である、請求項31記載の培地。
【請求項39】
ALK5阻害因子がSB431542である、請求項31記載の培地。
【請求項40】
培地が包装済み封止容器に入っている、請求項31記載の培地。
【請求項41】
(1)白血病抑制因子(LIF)および骨形成タンパク質(BMP)の存在下で、または
(2)TGFβおよびアクチビンシグナリング経路の阻害下、MAPKシグナリング経路の阻害下、および任意で、FGF経路の阻害下で、
複製し、かつ多能性を維持している、単離された多能性動物細胞であって、
ただし、マウス胚性幹細胞(mESC)ではない、前記単離された多能性動物細胞。
【請求項42】
ヒト細胞である、請求項41記載の単離された細胞。
【請求項43】
ヒト胚性幹細胞である、請求項42記載の単離された細胞。
【請求項44】
ラット細胞である、請求項41記載の単離された細胞。
【請求項45】
ラット胚性幹細胞である、請求項44記載の単離された細胞。
【請求項46】
ALK5およびMEKの阻害下で多能性を維持する、請求項41記載の単離された細胞。
【請求項47】
従来通りに培養されたhESC、エピブラスト幹細胞、およびヒト誘導多能性細胞と比較して、より高レベルのE-カドヘリンを発現する、請求項41記載の単離された多能性動物細胞。
【請求項48】
従来通りに培養されたhESC、EpiSC、およびヒト誘導多能性細胞と比較して、2倍高いレベルのE-カドヘリンを発現する、請求項47記載の単離された多能性動物細胞。
【請求項49】
従来通りに培養されたhESC、エピブラスト幹細胞、およびヒト誘導多能性細胞と比較して、Gbx2、Dppa3、Klf4、およびRex1を含むマーカーを、より高レベルに発現する、請求項41記載の単離された多能性動物細胞。
【請求項50】
a. ALK5阻害因子、
b. MEK阻害因子、Erk阻害因子、p38阻害因子、GSK3阻害因子、およびFGF受容体阻害因子のうちの1つまたは複数から選択される第2の化合物
の存在下で培養される、請求項41記載の単離された細胞。
【請求項51】
不完全多能性哺乳動物細胞(partially pluripotent mammalian cell)の多能性を、より完全に多能性である細胞(more fully pluripotent cell)にまで向上させる方法であって、
(a) 不完全多能性細胞を、ヒストンデアセチラーゼ阻害因子、ヒストンH3K4脱メチル化の阻害因子またはH3K4メチル化の活性化因子から選択されるエピジェネティック修飾因子と接触させる工程;
(b) 工程(a)の後に、細胞を、(i)ALK5阻害因子、(ii)MEK阻害因子、Erk阻害因子、またはp38阻害因子、および(iii)FGF受容体阻害因子のうちの2つまたはそれ以上と共に、エピジェネティック修飾因子の非存在下で培養する工程であり、それにより、前記不完全多能性哺乳動物細胞と比較して、より完全に多能性である細胞を作製する、工程
を含む、前記方法。
【請求項52】
(c) 工程(b)の後の不完全多能性哺乳動物細胞を、(i)ALK5阻害因子、(ii)MEK阻害因子、Erk阻害因子、またはp38阻害因子、および(iii)FGF受容体阻害因子、および(iv)GSK3阻害因子と共に培養する工程
をさらに含む、請求項51記載の方法。
【請求項53】
培養工程(a)および/または(b)および/または(c)が、不完全多能性哺乳動物細胞を白血病抑制因子(LIF)の存在下で培養することをさらに含む、請求項51または52記載の方法。
【請求項54】
不完全多能性細胞がエピブラスト幹細胞である、請求項51記載の方法。
【請求項55】
不完全多能性細胞が、Oct4、Nanog、およびREX-1からなる群より選択される少なくとも1つのマーカーを発現せず、より完全に多能性である細胞が該マーカーの1つまたは複数または全てを発現する、請求項51記載の方法。
【請求項56】
不完全多能性細胞がALP-1を発現せず、より完全に多能性である細胞がALP-1を発現する、請求項51記載の方法。
【請求項57】
エピジェネティック修飾因子がバルプロ酸またはパルネート(parnate)である、請求項51記載の方法。

【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図3E】
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【図3F】
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【図3G】
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【図3H】
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【図3I】
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【図3J】
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【図3K】
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【図3L】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図7D】
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【図7E】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図8D】
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【図8E】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2012−511935(P2012−511935A)
【公表日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−542403(P2011−542403)
【出願日】平成21年12月16日(2009.12.16)
【国際出願番号】PCT/US2009/068274
【国際公開番号】WO2010/077955
【国際公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【出願人】(399038620)ザ スクリプス リサーチ インスティチュート (51)
【Fターム(参考)】