説明

幼畜用代用乳組成物

【課題】 植物性油脂を使用し、温水で溶解する際に難溶性の凝集物が哺乳器具に付着せず、器具洗浄が容易となる、溶解性の非常に優れた幼畜用代用乳組成物を得ることを目的とした。
【解決手段】 ヨウ素価が55.0〜67.0であるパーム油を50%以上含有する植物性油脂、或いはヤシ油、パーム核油、あるいはそれらの混合油脂の含量が50%以上である植物性混合油脂、又はパーム油の分画混合油脂を50%以上含有し、かつパーム核油、ヤシ油、あるいはそれらの混合油脂を50%以下含有する植物性混合油脂であり、パーム核油、ヤシ油、あるいはそれらの混合油脂の含量をA%としたとき、パーム油の分画混合油脂のヨウ素価が(55.0−0.05A)〜55.0となるような植物性混合油脂を使用してなる幼畜用代用乳組成物である。水に難溶性の凝集物が器具に付着せず、器具洗浄が容易であり、溶解性にも優れる。
【添付図】 なし。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この方法は、幼畜のための代用乳組成物の製造方法に関する。さらに詳しくは、子牛、子豚、小羊、その他の幼動物に給与される代用乳組成物に関するものであり、温水で溶解する際に難溶性の凝集物が器具に付着せず、器具洗浄が容易となる、溶解性の非常に優れた幼畜用のための代用乳組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
子牛、子豚、子山羊等の幼畜類の生産やその他の幼動物の飼育に当っては、母乳の代替に人工的に造られた代用乳組成物を給与して飼育することが広く行われている。
この代用乳組成物は、脱脂粉乳、乾燥ホエー、ホエー蛋白質濃縮物(WPC)等の乳成分を主原料とし、これに油脂類、糖類、穀類、ミネラル、ビタミン、抗生物質などを配合した粉末或いは顆粒状の固形物であり、実際に使用する際には、水又は温水に溶解或いは乳化分散させて給与されている。
【0003】
この代用乳組成物は、油脂原料として30〜80%の油脂を脱脂粉乳、ホエー類、カゼイン、必要によりデキストリンやコーンシロップなどの糖質基材、乳化剤及びその他の助剤、及び安定剤などでコーティングした粉末油脂を混合する、或いは油脂以外の原料に液体油脂や乳化油脂を噴霧して製造されている。
【0004】
このような代用乳組成物に求められる品質特性は、サラサラして流動性に優れ、保存時に固結しない、また温水に速やかに溶解することなどが挙げられるが、加えて重要なことは、代用乳組成物を温水に溶解した後の代用乳溶液が安定であり、哺乳器具に油脂などの汚れが付着しないことである。
【0005】
しかし、従来の代用乳組成物は、液体油脂を噴霧して製造されるものの場合、水や温水に溶解したときしばしば油脂が分離したり、難溶性の浮遊物を生じることが有る。また、粉末油脂を使用して製造される代用乳組成物の場合でも、近年使用が拡大している自動哺乳機に付属するミキサーや、大型農場で代用乳を大量溶解するために用いられる大型の電動ミキサーなどを用いて強い攪拌力で溶解しようとすると、油脂が析出して難溶性の凝集物を生じ、バケツや自動哺乳機または哺乳ビンなどに付着して洗浄を著しく困難にさせる。これらの現象は、植物性油脂を使用した場合に顕著であり、特に外気温度が高い春から夏に製造あるいは保管した代用乳組成物で顕著に現れる。
【0006】
このような代用乳組成物の物性上の問題に関しては、従来から様々な方法で解決が図られてきた。例えば、特許文献1(特開2005−218307)では、エステル交換した植物油脂を用いて抗固結性と溶解性ともに良好な代用乳製造方法を提案している。しかし、この文献で述べられているのはあくまで代用乳組成物の温水に対する分散溶解性であり、代用乳組成物を強攪拌した際の油脂汚れや凝集物防止についてはあまり対策がとられておらず、解決策は提示されていないのが現状である。
【特許文献1】特開2005−218307
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、植物性油脂を使用し、抗固結性や流動性が優れるとともに、温水で溶解する際に難溶性の凝集物が器具に付着せず、器具洗浄が容易となる、溶解性の非常に優れた幼畜用代用乳組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討の結果、油脂成分として、(イ)ヨウ素価が55.0〜67.0であるパーム油を50%以上用いた植物性混合油脂、(ロ)ヤシ油、パーム核油、あるいはそれらの混合油脂の含量が50%以上である植物性混合油脂又は(ハ)パーム油の分画混合油脂を50%以上含有し、かつパーム核油、ヤシ油、あるいはそれらの混合油脂を50%以下含有する植物性混合油脂であり、パーム核油、ヤシ油、あるいはそれらの混合油脂の含量をA%としたとき、パーム油の分画混合油脂のヨウ素価が(55.0−0.05A)〜55.0となるような植物性混合油脂の何れか1種を含有してなる幼畜用代用乳組成物が、抗固結性や流動性が優れるとともに、温水で溶解する際に難溶性の凝集物が器具に付着せず、器具洗浄が容易となる、溶解性の非常に優れた幼畜用代用乳組成物であることを見出し、これらの知見に基づいて本発明を完成した。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、植物性油脂を使用し、溶解時に強攪拌しても難溶性の凝集物が析出せず、しかも温水で溶解する際に難溶性の凝集物が哺乳器具に付着しないので、器具洗浄が容易となる、溶解性の非常に優れた幼畜用代用乳組成物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本願の発明は、油脂成分として、(イ)ヨウ素価が55.0〜67.0であるパーム油を50%以上用いた植物性混合油脂、(ロ)ヤシ油、パーム核油、あるいはそれらの混合油脂の含量が50%以上である植物性混合油脂又は(ハ)パーム油の分画混合油脂を50%以上含有し、かつパーム核油、ヤシ油、あるいはそれらの混合油脂を50%以下含有する植物性混合油脂であり、パーム核油、ヤシ油、あるいはそれらの混合油脂の含量をA%としたとき、パーム油の分画混合油脂のヨウ素価が(55.0−0.05A)〜55.0となるような植物性混合油脂の何れか1種を含有してなる幼畜用代用乳組成物である。
【0011】
本発明に於いては、パーム油から植物油脂中のトリパルミトイルグリセロール(PPP)を多く含む高融点のステアリン分画を除いた低融点分画油脂、特に、ヨウ素価が55.0〜67.0となるようなパーム油の低融点分画混合油脂を使用した植物性混合油脂から調製した幼畜用代用乳が、溶解時に強攪拌しても難溶性の凝集物が析出せず、しかも温水で溶解する際に難溶性の凝集物が哺乳器具に付着せず、器具洗浄が容易となる、溶解性の非常に優れている。
【0012】
又、使用するパーム分画油のヨウ素価が55.0以下であっても、その量が全体の油脂量に対して十分に少なければ溶解時の凝集物発生を防止することが可能である。特に、もともとトリパルミトイルグリセロール含量が非常に低いパーム核油やヤシ油を50%以下使用してパーム分画油を薄めた植物性油脂の場合、パーム核油やヤシ油の混合比率をA%とすれば、ヨウ素価が(55.0−0.05×A)〜55.0であるようなパーム分画油脂であれば凝集物の発生は起こらない。また、パーム核油やヤシ油を50%以上使用してパーム分画油脂を薄めてしまえば、そのパーム分画油のヨウ素価に関わらず溶解後の凝集物は発生しない。
【0013】
本発明における幼畜用代用乳組成物は粉末油脂を10〜60%、好ましくは30〜60%含み且つその粉末油脂の成分の内植物性油脂を30〜80%含むものが有利に用いられる。
本発明における植物性油脂としては、ヨウ素価が55.0〜67.0のパーム分画油脂を50%以上使用することが望ましい。このパーム分画油脂を得る方法は、原料のパーム油から一般的な方法で分別処理を受けた分画油、あるいは精製パーム油そのものを単独または2種以上混合すればよい。パーム油以外に使用する植物油脂としては、大豆油、菜種油、サフラワー油、ひまわり油、米油、コーンオイル、綿実油、カカオ脂、パーム核油、ヤシ油、それらの分画油等の油脂原料の内の1種又は2種以上であればよいが、幼畜用代用乳組成物として栄養成分や価格を考慮すると、この目的のためには、パーム核油、ヤシ油、およびそれらの分画油を適宜選択することが有利である。
【0014】
さらに、使用するパーム分画油脂のヨウ素価が55.0以下である場合は、トリパルミトイルグリセロール含量の低いパーム核油やヤシ油を加えてパーム分画油脂を希釈するとよい。例えばパーム核油やヤシ油、あるいはその混合油脂を50%以下使用する場合は、その全体の油脂に対する混合比率をA%とすれば、ヨウ素価が(55.0−0.05×A)〜55.0であるようなパーム分画油脂を選択すればよい。また、パーム分画油脂のヨウ素価に関わらず、パーム核油やヤシ油が50%以上含まれる植物性混合油脂であれば、溶解後の凝集物は発生せず、好適に用いることができる。
【0015】
また、パーム油とパーム油以外の油脂をあらかじめ混合してから分別処理を行う場合でも、その混合分画油脂について、ヨウ素価が55.0〜67.0であるパーム油の分画を50%以上含有するか、あるいはパーム核油かヤシ油を50%以上含有する、あるいはパーム核油やヤシ油が50%以下であっても、その含有量をA%としたときにパーム分画油脂のヨウ素価が(55.0−0.05A)〜55.0となるような油脂構成であると見なせるものが望ましい。
【0016】
本発明において用いられる粉末油脂は、これまでに説明した植物性混合油脂を90%以上含有した油脂を用いて、一般に通常の方法によって製造されたものが用いられる。例えば、脱脂粉乳、ホエー、カゼイン、糖類、多糖類(デキストリン、ガム類)、及び乳化剤を水に溶解し、その後乳化剤を溶解した植物性油脂を混合、乳化し、次いでホモジナイザーによって均質化処理し、これを噴霧乾燥して粉末化調製されたものである。又、上記組成の植物性油脂を通常の方法で代用乳原料に噴霧造粒し、顆粒状を呈するものであってもよい。
【0017】
本発明の幼畜用代用乳組成物はその他に、幼畜用代用乳に通常用いられる代用乳用原料として脱脂粉乳、ホエー蛋白質濃縮物(WPC)、乾燥ホエー、糖質、ミネラル、ビタミン類及び賦形材、乳化剤等が用いられ、その使用量も通常のものと変わりはない。
【実施例】
【0018】
以下、本発明の幼畜用代用乳組成物を実施例を用いて更に詳細に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
実施例1
表1に各実施例および比較例の植物性混合油脂の混合比率およびヨウ素価を示す。また、表2に粉末油脂配合を、表3に代用乳配合を示す。
【0019】
【表1】

【0020】
【表2】

【0021】
実施例1の植物性混合油脂の混合比率は、ヨウ素価52.5である精製パーム油(ニチユソリューション(株))が30重量%、ヨウ素価56.3であるパームオレイン油(ニチユソリューション(株))が70重量%とした。また、粉末油脂配合は、表2に示すとおり、乳化剤は粗レシチン(ADM社製)、ソルビタン脂肪酸エステル(第一工業製薬(株))およびポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(第一工業製薬(株))を用意した。また粉末油脂のコーティング基剤として脱脂粉乳(雪印乳業(株))を使用した。
【0022】
上記の植物性混合油脂を粉末油脂重量に対して48.5重量%用意し、60℃に加熱した後、レシチン1.0重量%、ソルビタン脂肪酸エステル0.5重量%、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル0.1重量%を加熱した植物性混合油脂に加え、よく混和し、レシチンと乳化剤を含む油脂混合物を調製した。
一方、上記の脱脂粉乳50重量部を60℃の温水100重量部に混合溶解し、さらに上に調製した60℃の植物性混合油脂組成物を加え、60℃に保持しながらモーター攪拌機にて均一になるまで混合し、O/W混合乳化溶液を調製した。
【0023】
得られた混合乳化溶液を高圧ホモジナイザー15MR−8TA(APV GAULIN Inc)によって200kg/cm2の圧力をかけ、均質化処理(ホモジナイズ)を行った。この均質化処理した混合乳化液の脂肪球の球径を光学顕微鏡を用いて測定したところ、1μm〜5μmと非常に小さく、均質化処理によって乳化液中の脂肪球が微細化されたことが確認された。
均質化処理した混合乳化液は、ニロ社製(デンマーク)スプレードライヤーモバイル・マイナー(NiroCo.Ltd.Mobile Minor)を用いて180℃の熱風にて噴霧乾燥処理を行った。
噴霧乾燥後に得られた粉体はバットに薄く広げ、室温で一晩放冷し、粗蛋白質含有率が15.5%、脂肪含有率が49%である粉末油脂組成物を製造した。
【0024】
上記方法によって得られた粉末油脂組成物を用いて、表3に示す代用乳組成物配合を用意した。
【0025】
【表3】

【0026】
表3に示した各原料を万能混合機にて均一になるまで十分混合し、粗蛋白質含有率25%、脂肪含有率21%の混合粉末を調製した。
調製した混合粉末6kgを、流動層造粒機(MGD−0.5、株式会社大川原製作所製)に投入し、90℃の熱風で混合粉末を流動させながら、常温(約25℃)の水を50g/秒の噴霧速度で噴霧し造粒を行った。噴霧した水の総量は450g、すなわち混合粉末の重量に対して7.5%となるまで噴霧した。水噴霧終了後、10分間追加乾燥した後流動層から排出した。
得られた造粒物はバットに薄く広げ、4℃の冷蔵庫にて1時間冷却した後、目開き1.4mmのふるいにて篩分し、篩下したものを代用乳組成物とした。代用乳組成物の外観性状はサラサラした顆粒状を呈していた。
【0027】
この代用乳組成物65gを、溶解性評価のために温度変化による劣化処理を行った。プログラム付き恒温槽に試作した代用乳組成物65gを入れ、35度で3時間加熱、次いで5℃で3時間冷却するサイクルを8回繰り返した後、サンプルを取り出した。
劣化処理を行った代用乳組成物は、自動哺乳機(型式TAP5−SA2−30−P、株式会社ロールクリエート)で溶解性の評価を行った。まず自動哺乳機の溶解ポットに43℃の温水500mlを入れ、次に劣化処理を行った代用乳組成物65gをその中に投じ、ミキサーを回転させて2分間強攪拌し代用乳を溶解した。攪拌した後、溶解した代用乳溶液を目開き0.5mmのふるいに空けて残渣を確認したところ、図1に示す如く、ふるい上に凝集物などは一切確認されず、また溶解ポットへの油脂汚れの付着もなかった。
【0028】
実施例2
実施例2の植物性混合油脂の混合比率は、実施例1で用いたものと同様の精製パーム油が18重量%、同じくパームオレイン油が42重量%、および精製パーム核油(ニチユソリューション株式会社)を40%とした。この植物性混合油脂を用いて、実施例1と同様の配合比率、方法にて粉末油脂および代用乳組成物を試作した。
この代用乳組成物を実施例1と同様の方法で温度差をかけて劣化処理した後、自動哺乳機で強攪拌したところ、実施例1と同様、図1に示す如く、ふるい上に凝集物などは一切確認されず、また溶解ポットへの油脂汚れの付着もなかった。
【0029】
実施例3
実施例3の植物性混合油脂の混合比率は、実施例1で用いたものと同様の精製パーム油を20%、またヨウ素価67.0のパーム低融点分画油であるパームエース10(不二製油(株))を80%使用した。この植物性混合油脂を用いて、実施例1と同様の配合比率、方法にて粉末油脂および代用乳組成物を試作した。
この代用乳組成物を実施例1と同様の方法で温度差をかけて劣化処理した後、自動哺乳機で強攪拌したところ、実施例1と同様、図1に示した如く、ふるい上に凝集物などは一切確認されず、また溶解ポットへの油脂汚れの付着もなかった。
【0030】
実施例1〜3の結果から、パーム油、パームオレイン、パームエース10などを混合したパーム分画油脂の構成をヨウ素価が55.0以上に調整した植物性混合油脂を50%以上使用すれば、凝集物やポットへの汚れつきを起こすことなく、溶解性の非常に優れた代用乳組成物となることがわかる。また、この時、パーム分画油脂以外の油脂、例えば実施例2のようにパーム核油(ヨウ素価18.6)を混合した場合から分かるように、パーム分画油脂以外の油脂のヨウ素価が非常に低いために植物性混合油脂全体のヨウ素価が55.0を下回ることもある。しかし、本実施例は植物性混合油脂全体のヨウ素価に関わらず、パーム分画油脂のヨウ素価が55.0以上となるものを使用することで、図1に示した如く、凝集物の発生のない代用乳組成物が得られることを示している。
【0031】
実施例4
実施例4の植物性混合油脂の混合比率は、実施例1で用いたものと同様の精製パーム油を40%、また精製ヤシ油(不二製油(株))を60%使用した。この植物性混合油脂を用いて、実施例1と同様の配合比率、方法にて粉末油脂および代用乳組成物を試作した。
この代用乳組成物を実施例1と同様の方法で温度差をかけて劣化処理した後、自動哺乳機で強攪拌したところ、実施例1と同様、図1に示した如く、ふるい上に凝集物などは一切確認されず、また溶解ポットへの油脂汚れの付着もなかった。
【0032】
実施例5
実施例5の植物性混合油脂の混合比率は、実施例1で用いたものと同様の精製パーム油を30%、また実施例2で使用したものと同様の精製パーム核油を70%使用した。この植物性混合油脂を用いて、実施例1と同様の配合比率、方法にて粉末油脂および代用乳組成物を試作した。
この代用乳組成物を実施例1と同様の方法で温度差をかけて劣化処理した後、自動哺乳機で強攪拌したところ、実施例1と同様、図1に示した如く、ふるい上に凝集物などは一切確認されず、また溶解ポットへの油脂汚れの付着もなかった。
【0033】
実施例6
実施例6の植物性混合油脂の混合比率は、実施例1で用いたものと同様の精製パーム油を42%、パームオレイン油を28%、また実施例4で使用したものと同様の精製ヤシ油を30%使用した。この植物性混合油脂を用いて、実施例1と同様の配合比率、方法にて粉末油脂および代用乳組成物を試作した。
この代用乳組成物を実施例1と同様の方法で温度差をかけて劣化処理した後、自動哺乳機で強攪拌したところ、実施例1と同様、図1に示した如く、ふるい上に凝集物などは一切確認されず、また溶解ポットへの油脂汚れの付着もなかった。
実施例4、5の結果から、ヨウ素価が55.0を下回るパーム分画油脂を使用した場合でも、パーム核油やヤシ油などを50%以上使用し、パーム分画油脂を十分希釈すれば、溶解時に凝集物の付着などは生ぜず、自動哺乳機の溶解ポットを油脂で汚すことはないことがわかる。
【0034】
また、実施例6では、ヤシ油の使用比率を30%としたが、この場合凝集物発生を起こさないパーム分画油脂のヨウ素価は、発明者らの提案する式から計算すると、
55.0−0.05×30=53.5 〜 55.0
の範囲内にあることが条件となる。一方精製パーム油とパームオレインの混合比率から計算したパーム分画油脂としてのヨウ素価は54.0となり、実際に凝集物発生も起こらなかった。このようにヤシ油などのパーム分画油以外の油脂含量が50%以下であっても、パーム分画油脂のヨウ素価が発明者らの提案する数式上の範囲にあれば、代用乳溶解時に凝集物の発生は起こらないのである。
【0035】
比較例1
比較例1の植物性混合油脂の混合比率は、実施例1で用いたものと同様の精製パーム油を100%使用した。この植物性混合油脂を用いて、実施例1と同様の配合比率、方法にて粉末油脂および代用乳組成物を試作した。
この代用乳組成物を実施例1と同様の方法で温度差をかけて劣化処理した後、自動哺乳機で強攪拌したところ、図2に示すようにふるい上に白色の凝集物が大量に回収された。成分を分析した結果、90%が油脂であり、上昇融点は50℃であった。またガスクロマトグラフィーでトリグリセリドを分析した結果、ほとんどのトリグリセリド組成に原料油脂との違いはなかったものの、トリパルミトイルグリセロール(PPP)を示すC48のピークが原料油脂の約3倍と突出していることがわかった。このため、凝集物は、トリパルミトイルグリセロールを主体とする高融点のトリグリセリドが凝集し、代用乳溶解液中に析出したものであると推定された。
【0036】
比較例2
比較例2の植物性混合油脂の混合比率は、実施例1で用いたものと同様の精製パーム油が40重量%、およびパームオレインを60%とした。この植物性混合油脂を用いて、実施例1と同様の配合比率、方法にて粉末油脂および代用乳組成物を試作した。
【0037】
この代用乳組成物を実施例1と同様の方法で温度差をかけて劣化処理した後、自動哺乳機で強攪拌したところ、図2に示すように、ふるい上に大きさ約3〜10mmの白色凝集物の粒が多数残った。また自動哺乳機の溶解ポット壁面やミキサー部分にも多数の凝集物が付着していた。
【0038】
実施例1と比較例1、2を比較すると、実施例1で使用したパーム分画油脂のヨウ素価が55.2であったのに対し、比較例1のパーム油のヨウ素価が52.5であり、また比較例2で使用したパーム分画油脂のヨウ素価は54.8であった。このように、パーム分画油脂のヨウ素価が55.0を下回ると、凝集物が発生することがわかった。
【0039】
比較例3
比較例3の植物性混合油脂の混合比率は、実施例1で用いたものと同様の精製パーム油が55%、パームオレイン油を5%、および実施例2で使用したものと同様の精製パーム核油を40%とした。この植物性混合油脂を用いて、実施例1と同様の配合比率、方法にて粉末油脂および代用乳組成物を試作した。
この代用乳組成物を実施例1と同様の方法で温度差をかけて劣化処理した後、自動哺乳機で強攪拌したところ、比較例1、2と同様、図2に示すようにふるい上に少量の白色凝集物が認められた。また自動哺乳機の溶解ポット壁面やミキサー部分にもわずかに凝集物が付着していた。
【0040】
比較例3では、精製パーム油とパームオレイン油の混合比率から、そのパーム分画油としてのヨウ素価は52.8と計算される。一方、実施例5で示したように、パーム核油の使用比率は40%であるので、この場合凝集物発生を起こさないパーム分画油脂のヨウ素価は、発明者らの提案する式から計算すると、
55.0−0.05×40=53.0 〜 55.0
の範囲内にあることが望ましいが、比較例3のパーム分画油脂のヨウ素価はこの範囲を逸脱している。そのため、実際に代用乳溶解後に凝集物が発生し、溶解ポットを汚す結果となってしまったのである。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明による各生産物のろ過試験結果を示す図である。
【図2】比較例の各生産物のろ過試験結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂成分として、(イ)ヨウ素価が55.0〜67.0であるパーム油を50%以上用いた植物性混合油脂、(ロ)ヤシ油、パーム核油、あるいはそれらの混合油脂の含量が50%以上である植物性混合油脂又は(ハ)パーム油の分画混合油脂を50%以上含有し、かつパーム核油、ヤシ油、あるいはそれらの混合油脂を50%以下含有する植物性混合油脂であり、パーム核油、ヤシ油、あるいはそれらの混合油脂の含量をA%としたとき、パーム油の分画混合油脂のヨウ素価が(55.0−0.05A)〜55.0となるような植物性混合油脂の何れか1種を含有してなる幼畜用代用乳組成物。
【請求項2】
油脂成分として、(イ)ヨウ素価が55.0〜67.0であるパーム油を50%以上用いた植物性混合油脂、(ロ)ヤシ油、パーム核油、あるいはそれらの混合油脂の含量が50%以上である植物性混合油脂又は(ハ)パーム油の分画混合油脂を50%以上含有し、かつパーム核油、ヤシ油、あるいはそれらの混合油脂を50%以下含有する植物性混合油脂であり、パーム核油、ヤシ油、あるいはそれらの混合油脂の含量をA%としたとき、パーム油の分画混合油脂のヨウ素価が(55.0−0.05A)〜55.0となるような植物性混合油脂の何れか1種を90%以上含有してなる請求項1に記載の幼畜用代用乳組成物。
【請求項3】
温水で溶解する際に難溶性の凝集物が器具に付着せず、器具洗浄が容易であり、溶解性にも優れた請求項1又は2に記載の幼畜用代用乳組成物。
【請求項4】
粉末状又は顆粒状の油脂を30%〜80%含む請求項1、2、3又は4に記載の幼畜用代用乳組成物。
【請求項5】
請求項1、2、3に記載の油脂を30〜80%含有し、噴霧乾燥法を用いて製造された粉末油脂を含有することを特徴とする幼畜用代用乳組成物。
【請求項6】
粉末油脂の添加量が、幼畜用代用乳組成物の30%〜60%である請求項4に記載の幼畜用代用乳組成物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2007−159522(P2007−159522A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−362916(P2005−362916)
【出願日】平成17年12月16日(2005.12.16)
【出願人】(000201641)全国農業協同組合連合会 (69)
【出願人】(591220746)株式会社科学飼料研究所 (11)
【Fターム(参考)】