説明

床材の施工構造、床材の除去方法及び床材の更新方法

【課題】繰り返し更新する床材を容易に除去することができるようにする。
【解決手段】床材1は、少なくとも、最上層に配置される表面平滑な樹脂化粧シート2と、樹脂化粧シート2の下側に配置される基材3とが積層されてなり、可撓性を有する。複数枚の床材1が、床材1の層間剥離強度よりも弱い接着剥離強度の施工用接着剤により、互いに隣り合うように連続して床下地に貼着されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、床材の施工構造、この床材の除去方法及び更新方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、木質資源の枯渇の問題から、合板に替わる材料として、中比重木質繊維板(MDF)、高比重木質繊維板(HDF)等を壁材や収納ボックス等の面材、床材等に用いることが提案されている。その中で、特に床材については、水に濡れたり、物を載置したりするため、耐水性や耐荷重性等の様々な性能が要求される。
【0003】
そして、特許文献1から3に示すように、木質資源の省資源のため床材の薄物化が進んでいることや、気密性や耐震性の観点から合板捨て貼り工法が主流となってきていることからも、3.0mm〜6.0mmの薄い厚さの床材も提案されている。
【0004】
一方、床材を張り替えて更新することを考慮し、特許文献4に示すような特殊な実形状を利用した置敷施工にしたり、特許文献5に示すように、縦方向の分断線を設けた床材を用いたりすることが提案されている。
【0005】
さらに、特許文献6では、再剥離可能な施工用接着剤を用いることで床材の更新に配慮した工法が開示されている。この施工用接着剤にはイソシアネート化合物に中空フィラーが充填されており、施工時のずらし作業性を維持しつつ、更新時に床材を破壊することのないように、施工用接着剤を除去しようとしている。
【特許文献1】特開平9−72075号公報
【特許文献2】特開2003−300203号公報
【特許文献3】特開2005−113570号公報
【特許文献4】特開平8−270193号公報
【特許文献5】実開平5−30335号公報
【特許文献6】特開平2004−30788号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、床材の貼着には、接着剤の他に、ビールアップボンドといわれる粘着材や両面テープによる施工も知られているが、これらを用いると、乾湿の影響等による床材の伸縮や反りの影響で目隙や段差が生じてしまうという問題がある。
【0007】
また、上記特許文献6のような施工用接着剤は、従来の高強度の接着剤に比べると接着強さは低いが、マンション等で使用するような厚み6mm程度の薄い床材を除去するときには、その一部を剥がし、床材と床下地との間に「皮スキ」のような薄い金属へらを差し込んで衝撃を与え、界面破壊を起こさせることで床材を除去する必要があり、床材の除去が容易であるとは言い難い。そこで、中空フィラーの含有量を上げて接着強さをこれより低くすると、床材に連続的に作用する荷重により、接着剤が破壊してしまう。
【0008】
本発明の目的とするところは、更新する床材を容易に除去することができるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
具体的には、第1の発明に係る床材の施工構造は、少なくとも、最上層に配置される表面平滑な樹脂化粧シートと、該樹脂化粧シートの下側に配置される基材とが積層されてなる可撓性の複数枚の床材が、該床材の層間剥離強度よりも弱い接着剥離強度の施工用接着剤により、互いに隣り合うように連続して床下地に貼着されている。
【0010】
上記の構成によると、床材を更新するために除去する際、床材を層間剥離させずに、撓ませながら床下地から施工用接着剤を破壊する。この床材を除去した床下地に新たな施工用接着剤を塗布し、新たな床材を床下地に直接貼着して更新する。
【0011】
第2の発明に係る床材の施工構造は、第1の発明に係る床材の施工構造において、上記施工用接着剤は弾性接着剤である。
【0012】
上記の構成によると、床材は、上に人が乗って荷重が作用するたびに変形し、この荷重は、長期にわたって連続的に作用する。一般的な接着剤は、脆く硬い性質の硬化物となり、連続的な床材の変形により壊れやすく、壊れにくくするために強度を高くするには接着剥離強度を強める必要がある。一方、施工用接着剤を弾性接着剤とすると、接着剥離強度を弱くしても脆く硬い性質の硬化物とならず、連続的な床材の変形により壊れてしまわない。また、床材を除去する際に、床材と床下地との間に衝撃力を加えなくても床材を撓ませながら引っ張ることで施工用接着剤が破壊する。
【0013】
第3の発明に係る床材の施工構造は、第1又は2の発明に係る床材の施工構造において、上記床材は、上記基材の下側に積層される樹脂マットをさらに有し、上記基材が木質基材である。
【0014】
上記の構成によると、床材は、樹脂化粧シート、木質基材及び樹脂マットが順に積層されて構成されていてもよく、樹脂マットにより木質基材の裏面から防湿性が担保され、基材として木質基材を使用した場合でも、湿気の影響による床材の変形が抑えられる。
【0015】
第4の発明に係る床材の施工構造は、第3の発明に係る床材の施工構造において、上記木質基材は、比重が0.4以上でかつ1.0以下であるとともに厚みが2.0mm以上でかつ3.0mm以下である可撓性を有する木質繊維板で構成され、上記樹脂マットは、無機フィラーが、塩化ビニル系樹脂100重量部に対して100重量部以上でかつ1000重量部以下の割合で添加されてなり、その比重が1.4以上でかつ2.0以下であるとともに厚みが上記木質繊維板の厚みと同じとなるように形成され、上記床材の四周端面には、該床材を厚み方向に3等分した中央部に雄実及び雌実を有する本実加工が施され、上記雄実の上部は、上面が俯角15度以上でかつ30度以下である傾斜面に形成された上記木質基材で構成される一方、雄実の下部は、下面が上記上面の俯角よりも10度以上小さい角度の仰角である傾斜面に形成された上記樹脂マットで構成されており、隣り合う床材は、表面が互いに面一となるように一方の床材の雌実に他方の床材の雄実が嵌合されて結合されている。
【0016】
上記の構成によると、同じ厚みの木質繊維板と樹脂マットとを合わせたものを厚み方向に3等分した真ん中部分に本実加工が施される。また、雄実の上面の俯角が下面の仰角よりも小さいので、雄実における樹脂マットの割合が木質繊維板よりも多く、施工時の嵌合のために必要な雄実の強度と、床材除去時に雌実を破壊せずに嵌合を外すことができる程度の雄実及び雌実の硬さとが確保される。
【0017】
そして、木質繊維板が可撓性を有し、床材の厚みが薄いので、床材の除去時に床材が撓んで本実加工の嵌合が外れる。
【0018】
また、樹脂マットが木質繊維板と同じ厚みでかつ比重が1.4〜2.0であるので、なじみ性のよい床材となる。これとともに、塩化ビニル系樹脂1000重量部に対する無機フィラーの割合を100重量部以上にすることにより樹脂マットの成形後の寸法変化が小さくなり、1000重量部以下にすることにより樹脂マットの成形が容易となる。
【0019】
第5の発明に係る床材の施工構造は、第1から第4のいずれか1つの発明に係る床材の施工構造において、上記木質基材を構成する木質繊維板は乾式成形により形成され、上記雄実の基部上側の木質基材には、該雄実の突出方向と反対側に向かって凹陥するように切り欠きが下面を雄実の上面に連続させるように形成されている。
【0020】
上記の構成によると、床材を除去する際に、床材を撓ませるように引っ張ると、雄実の切り欠きから木質繊維板が上下に分割されてより大きく床材が変形し、本実加工の嵌合が外れる。また、木質繊維板が乾式成形により成形されているため上下方向に分割しやすい。
【0021】
第6の発明に係る床材の除去方法は、第1から第5のいずれか1つの発明に係る床材の施工構造における複数枚の床材のうちの任意の床材を除去する除去方法であって、上記任意の床材の表面に床材除去具の吸盤を吸着させた状態で、該任意の床材に隣り合う床材を押さえながら該床材除去具を引っ張ることで、上記任意の床材を撓ませつつ、上記施工用接着剤を破壊させて床下地から剥ぎ取る。
【0022】
上記の構成によると、床材を更新するために除去する際、床材の表面の表面平滑な樹脂化粧シートに床材除去具の吸盤を吸着させて床材除去具を引っ張ると、床材が層間剥離せずに撓みながら、施工用接着剤が破壊して床材が床下地から剥離する。
【0023】
第7の発明に係る床材の更新方法は、第5の発明に係る床材の施工構造における複数枚の床材のうちの任意の床材を除去する除去方法であって、上記任意の床材の表面に床材除去具の吸盤を吸着させた状態で、該任意の床材に隣り合う床材を押さえながら該床材除去具を引っ張ることで、上記任意の床材を撓ませかつ該床材の切り欠きから木質基材を上下に部分的に分割させつつ、上記施工用接着剤を破壊させて床下地から剥ぎ取る。
【0024】
上記の構成によると、床材を更新するために除去する際、床材除去具により床材を引っ張ると、雄実の基部上部の切り欠きから木質繊維板が上下に分割されて床材が大きく変形し、かつ木質繊維板が乾式成形により成形されているため分割しやすく、本実加工の嵌合が外れやすくなる。
【0025】
第8の発明に係る床材の更新方法は、第1から第5のいずれか1つの発明に係る床材の施工構造における複数枚の床材のうちの任意の床材を更新する更新方法であって、上記任意の床材の表面に床材除去具の吸盤を吸着させた状態で、該任意の床材に隣り合う床材を押さえながら床材除去具を引っ張ることで、上記任意の床材を撓ませつつ、上記施工用接着剤を破壊させて床下地から剥ぎ取り、上記任意の床材が除去された露出床下地から施工用接着剤を除去して、該露出床下地に新たな施工用接着剤を塗布した後、上記露出床下地に新たな更新用床材を上から押圧して貼着する。
【0026】
上記の構成によると、床材除去具により任意の床材を除去した後、同じ形状の新しい更新用床材を貼着することで、任意の床材を更新する。
【0027】
第9の発明に係る床材の更新方法は、第4又は第5の発明に係る床材の施工構造における複数枚の床材のうちの任意の床材を更新する更新方法であって、上記任意の床材の表面に床材除去具の吸盤を吸着させた状態で、該任意の床材に隣り合う床材を押さえながら床材除去具を引っ張ることで、上記任意の床材を撓ませつつ、上記施工用接着剤を破壊させて床下地から剥ぎ取り、上記任意の床材が除去された露出床下地から施工用接着剤を除去して、該露出床下地に新たな施工用接着剤を塗布した後、新たな更新用床材の雌実の下側部分を除去し、該更新用床材の雄実を露出床下地に隣り合う床材の雌実と嵌合させながら該更新用床材を上から押圧して床下地に貼着する。
【0028】
上記の構成によると、新たな更新用床材を床下地に貼着するとき、雌実の下側部分を除去しているので、更新用床材の雄実を隣り合う床材の雌実と嵌合させて更新用床材を上から押圧すると、隣り合う床材の雄実の上から更新用床材の雌実の上側部分が当接して床材が床下地に貼着される。
【発明の効果】
【0029】
上記第1の発明によれば、施工用接着剤の接着剥離強度を床材の層間剥離強度よりも弱くしているので、床材を更新するために除去する際、床材が層間剥離せずに、施工用接着剤が破壊するので容易に床下地から床材を除去することができる。
【0030】
そして、この床材を除去した床下地に新たな床材を直接貼着して更新するので、繰り返し更新しても何度でも容易に床材を除去することができる。
【0031】
上記第2の発明によれば、施工用接着剤を弾性接着剤としているので、接着剥離強度を弱くしても施工用接着剤が脆く硬い性質の硬化物とならず、床材の上に人が乗って荷重が連続的に作用して変形しても、施工用接着剤が壊れない。また、床材を除去する際に、床材と床下地との間に衝撃を加えなくても、床材を引っ張ることで施工用接着剤を破壊させることができる。
【0032】
上記第3の発明によれば、床材を樹脂化粧シート、木質基材及び樹脂マットを順に積層して構成し、樹脂マットにより木質基材の裏面から防湿性を担保することで、基材として木質基材を使用した場合にも、湿気の影響による床材の変形を抑えることができる。
【0033】
上記第4の発明によれば、雄実の上面の俯角を下面の仰角よりも小さくして、雄実における樹脂マットの割合を木質繊維板よりも多くしているので、施工時の嵌合のために必要な雄実の強度と、床材除去時に雌実を破壊せずに嵌合を外すことができる程度の雄実及び雌実の硬さとを確保することができる。
【0034】
また、木質繊維板が可撓性を有しかつ床材の厚みが薄いので、床材が撓みやすく、本実加工の嵌合を容易に外すことができ、床材の除去をより容易に行うことができる。
【0035】
また、樹脂マットが木質繊維板と同じ厚みでかつ比重が1.4〜2.0であるので、なじみ性のよい床材にすることができる。
【0036】
また、塩化ビニル系樹脂に対する無機フィラーの割合を調整しているので、樹脂マットの成形後の寸法変化を小さくすることができるとともに、樹脂マットの成形を容易にすることができる。
【0037】
上記第5の発明によれば、雄実の基部上部に切り欠きが形成されているので、床材を除去する際に、床材を撓ませるように引っ張ると、この切り欠きから木質繊維板が上下に分割されて大きく床材が変形し、本実加工の嵌合を容易に外すことができるので、床材の除去をより容易に行うことができる。
【0038】
また、木質繊維板が乾式成形により成形されているため、上記切り欠きから木質繊維板が分割しやすく、床材の除去をより一層容易に行うことができる。
【0039】
上記第6の発明によれば、床材の層間剥離強度よりも弱い接着剥離強度の施工用接着剤を用いているので、床材を更新するために除去する際、床材は層間剥離せずに、床下地から施工用接着剤が破壊するので容易に床材を除去することができる。
【0040】
また、床材の最上層に配置される樹脂化粧シートが表面平滑であるため、床材除去具の吸盤をしっかりと床材の表面に吸着させることができる。
【0041】
上記第7の発明によれば、雄実の基部上部に切り欠きを形成しているので、床材除去具により床材を引っ張ると、雄実上部の切り欠きから木質繊維板が上下に分割されて床材が大きく変形し、本実加工の嵌合を容易に外すことができるので、床材の除去をより一層容易に行うことができる。
【0042】
上記第8の発明によれば、床材除去具により任意の床材を除去した後、新しい更新用床材を貼着することで、全ての床材を更新せずに、隣り合う床材を傷つけることなく任意の床材のみを容易に更新することができる。
【0043】
上記第9の発明によれば、更新用床材の雌実の下側部分を除去しているので、床材を更新する際に、更新用床材の雄実を隣り合う床材の雌実に嵌合させつつ、更新用床材を上から押圧するだけで床下地に貼着することができ、床材の更新を容易に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎない。
【0045】
図1及び図2に示すように、本発明の実施形態に係る床材1は、樹脂化粧シート2と、基材3と、樹脂マット4とがそれぞれ順番に積層されて一体的に構成されている。この床材1は、複数枚が互いに隣り合うように連続し、施工用接着剤により床下地に貼着されている。
【0046】
上記床材1は、少なくとも樹脂化粧シート2と基材3とで構成されていればよく、適度な可撓性と表面平滑性とを有していればよい。この床材1は、マンション等、一定期間ごとに張り替える更新が予想される場所で使用される。
【0047】
上記床材1は矩形形状であり、幅方向及び長手方向の長さが100mm以上が好ましいが、大きさは特に限定されない。例えば、幅方向の長さが100mmであり、かつ長手方向の長さが900mm〜1800mmである長方形状か、幅方向及び長手方向の長さがそれぞれ300mm〜450mmである正方形状であってもよい。
【0048】
上記樹脂化粧シート2、基材3等の各構成要素を接着する接着剤は、一般的な貼着作業に使用されるものでよい。例えば、尿素メラミン系接着剤、酢酸ビニル系接着剤、ビニルウレタン系接着剤、エポキシ系接着剤、ウレタン系接着剤、PURホットメルト接着剤等を使用することができる。
【0049】
(樹脂化粧シート)
上記樹脂化粧シート2は表面平滑なものであればよく、例えば、樹脂含浸紙、オレフィン系樹脂シート、ポリエチレンテレフタレート樹脂シート等、またはこれらのシートを複合したもの、さらには、これらのシートの表面に塗装加工を施したシート状物を使用することができる。また、上記床材1に基材3として後述する木質繊維板を用いる場合には、基材3が湿気の影響を受けないように、防湿性があり、かつ強度に優れたシートを用いることが好ましい。
【0050】
本発明の床材1は、吸盤を有する床材除去具を用いて床下地から剥がし取るようになっているので、樹脂化粧シート2は、床材除去具の吸盤が吸着できるような表面平滑性を有していればよい。
【0051】
(基材)
上記基材3は、一般に床材に使用される可撓性を有する材料であればよく、例えば、合成樹脂系や木質系の木質基材が使用できる。
【0052】
合成樹脂系の基材3としては、塩化ビニル系樹脂、合成ゴム系樹脂、オレフィン系樹脂、これらの樹脂に充填材を混練したもの等が好適に使用される。充填材としては、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化アルミ等の高比重無機充填剤や木粉が好適である。
【0053】
木質基材としては、合板やパーティクルボード等を使用可能であるが、床材1の強度及び可撓性を考慮した場合、木質繊維板を用いることが好ましい。木質繊維板は、比重が0.4以上でかつ1.0以下であることが好ましく、さらには、乾式成形された中比重木質繊維板(MDF)がより好ましい。この乾式成形により成形したMDFは、湿式抄造により成形した低比重繊維板(インシュレーションボード)や高比重木質繊維板(HDF)に比べて基材3の分割が発生しやすくなる。また、木質繊維板は、厚みが2.0mm以上でかつ3.0mm以下であるものが好ましい。厚みが2.0mm未満であれば、床材に使用した際に、表面側からの衝撃による凹み量が大きくなってしまい、厚みが3.0mmよりも大きいものであれば、床材1の可撓性が劣ってしまうので好ましくない。
【0054】
上記基材3が可撓性を有するためには、一般的に、裏面に一定間隔で溝加工が施される。しかし、この溝加工が施されると、基材3に湿気が導入されて、床材1の変形の原因となる。また、基材3に溝加工が施されると、床材1の表面側から溝部分が見えてしまい意匠的に好ましくない。さらに、床材1の幅方向及び長手方向両方の可撓性を得るために両方向に溝加工を施すと、より意匠的に好ましくない。さらに、床材1には、連続的な荷重や瞬間的な衝撃荷重などが作用するため強度が求められている。このため、本発明の床材1では、溝加工を施さなくても幅方向及び長手方向にそれぞれ可撓性を有する基材3を用いている。
【0055】
(樹脂マット)
上記樹脂マット4は、上記基材3として木質基材を使用する場合に特に必要であり、裏面からの湿気の影響を受けない防湿効果のあるもので、かつ施工用接着剤との接着強度が担保できるものであればよい。例えば、塩化ビニル系樹脂、ウレタン系樹脂、ラテックス系樹脂、ポリエステル系樹脂等、また、これらの樹脂の変性物、あるいは各種再生プラスチック等を使用することができる。この樹脂マット4は、使用する施工用接着剤の接着適正を考慮して、その組み合わせにより選択して使用する。接着性と品質安定性の観点からは、塩化ビニル樹脂系樹脂マットが好適に用いられる。
【0056】
また、所望の接着強度及び防湿性を確保するために、樹脂マットの表裏面に接着前処理が行われているものも用いることができる。この接着前処理が行われる樹脂マットとしては、例えば、ポリサンド紙、両面シーラー処理された樹脂マット等が用いられる。ポリサンド紙は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル等の10μm〜150μm程度の薄いシートの表裏面に紙を熱溶着させたものである。
【0057】
本発明の実施形態に係る樹脂マット4としては、比重1.4以上でかつ2.0以下となるように無機フィラーが充填され、基材3としての木質基材の厚みと略同じ厚みの塩化ビニル樹脂系樹脂マットが用いられる。これにより、なじみ性のよい床材1を提供することができる。この塩化ビニル樹脂系樹脂マットは、例えば、塩化ビニル樹脂100重量に対して、100〜1000重量%程度の割合で無機フィラーが充填され、混練された後、カレンダー押出成形法によりシート成形される。充填される無機フィラーの量が少ないと成形後のシートの温度変化による寸法変化が大きくなり、多すぎるとシートの成形が困難になる。さらに、この樹脂マットは、床材1を剥がし取るために、容易に変形又は破断するように設計されることが好ましい。無機フィラーは、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、シリカ、アルミナ、カーボンブラック、金属粉、金属酸化物等が使用される。
【0058】
なお、この樹脂マット4は、基材3として木質基板を使用しない場合には、使用しなくてもよい。ただし、基材3として木質基材を使用する場合には、基材3に湿気が導入されることにより床材1が変形することを防止するために、防湿効果のある樹脂マット4を用いる。
【0059】
そして、上記床材1の四周端面には、床材1を厚み方向に3等分した中央部の上記基材3及び樹脂マット4の部分に雄実6及び雌実7を有する本実加工が施されている。すなわち、床材1の対向する幅方向端面に雄実6及び雌実7がそれぞれ形成され、対向する長手方向端面にも雄実6及び雌実7がそれぞれ形成されている。そして、隣り合う床材1の対向する端面に、雄実6及び雌実7が対向するように各床材1が配置され、表面が互いに面一となるように、隣り合う床材1の一方の床材1の雌実7に他方の床材の雄実6が嵌合され、床材1が床下地に敷き詰められている。
【0060】
具体的には、基材3の下面8から基材3の厚み方向3分の1の位置と、樹脂マット4の上面9から樹脂マット4の厚み方向3分の1の位置との間に亘って本実加工が施され、同じ厚みの基材3と樹脂マット4とを合わせたものの厚み方向に3等分(L1=L2=L3)した中央部(L2)に本実加工が施されている。そして、雄実6の上部は基材3(木質基材)で構成され、上面の傾斜面6aが、俯角r1が15度以上でかつ30度以下となるように形成されている。一方、雄実6の下部は樹脂マット4で構成され、下面の傾斜面6bが、上面の傾斜面6aの俯角r1よりも10度以上小さい角度の仰角r2に形成されている。
【0061】
例えば、図1の実施例1に示すように、俯角r1=15°のとき仰角r2=5°とし、図2の実施例2に示すように、俯角r1=30°のとき仰角r2=15°となるように雄実6を形成すればよい。このように、上面の傾斜面6aの俯角r1が下面の傾斜面6bの仰角r2よりも10度以上大きい角度に形成されているので、雄実6は基材3(木質基材)の割合が樹脂マットよりも少なくなるように構成されている。
【0062】
なお、床材1に基材3として木質基材を用いない場合や樹脂マット4を用いない場合には、この本実加工を施さなくてもよい。
【0063】
そして、雄実6の基部上側の基材3(木質基材)には、雄実6の突出方向と反対側に向かって凹陥するように切り欠き10が下面を雄実6の上面に連続させるように形成されている。この切り欠き10は、深さが0.1mm以上でかつ0.5mmとなるように形成されている。なお、この切り欠き10は必ずしも形成しなくてもよいが、床材1を除去する際、この切り欠き10から基部3(木質基材)を上下に部分的に分割させ、床材1を大きく変形させることで、本実加工の嵌合を外し、床材1を容易に除去することができるようになっている。
【0064】
(施工用接着剤)
上記床材1を床下地に貼着するための施工用接着剤は、床材1の各構成要素2〜4の層間剥離強度よりも弱い接着剥離強度を有する弾性接着剤である。この弾性接着剤は、例えば、硬化物がゴム状弾性を有する特殊シリコン樹脂や変性シリコン樹脂等を有する。また、この弾性接着剤が、ゴム弾性を有するとともに所望の接着強度を有するために、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂等を追加配合してもよい。弾性接着剤は、例えば、ウレタン系接着剤、エポキシ系接着剤等が配合されたシリコン系接着剤や、これらの変性物等を使用することができる。そして、この施工用接着剤が、一般的な接着剤のような高強度の接着剥離強度よりも弱い接着剥離強度となるように、無機フィラー等を充填して接着剥離強度を調整することが好ましい。この施工用接着剤の主成分100重量に対して、50〜1000重量%程度のフィラーを添加し、このフィラーの一部を中空の無機フィラーに置き換えてもよい。
【0065】
床材1は、その上に人が乗るので、連続的な荷重が長期にわたって作用し、この荷重が作用するたびに床材1は変形する。接着剥離強度を弱くした施工用接着剤にウレタン系接着剤やエポキシ系接着剤を用いると、硬く脆い性質の硬化物となるため、床材1を長期に使用した場合、連続的に変形すると、施工用接着剤がこわれてしまう虞がある。本発明のように可撓性を有している床材1に用いる施工用接着剤は、フィラーを充填することにより、各構成要素2〜4の層間剥離強度よりも弱い接着剥離強度を有するように調整し、かつゴム弾性を有する弾性接着剤とすることが最も好ましい。
【0066】
(除去方法)
次に、複数枚の床材1のうち任意の床材1を除去する方法について説明する。上記床材1を除去するために用いる床材除去具は、例えば、ガラスの施工や移動に用いるような吸盤を2つ有するものである。この床材除去具の吸盤を任意の床材1の中央部に吸着させる。
【0067】
そして、任意の床材1の雌実7側を持ち上げるようにして隣り合う床材1を押さえながら床材除去具を引っ張ることで、任意の床材1を長手方向及び幅方向に撓ませ、かつ床材1の雄実6の切り欠き10から基材3(木質基材)を上下に部分的に分割させ、床材1を大きく変形させて任意の床材1の雌実7と隣り合う床材1の雄実6との嵌合を外す。そうして、施工用接着剤を破壊させて床下地から剥ぎ取る。最後に、任意の床材1の雄実6と隣り合う床材1の雌実7との嵌合が外れるように任意の床材1を横にずらして除去する。
【0068】
また、床材1に本実加工が施されていない場合や、切り欠き10が形成されていない場合も同様に、任意の床材1に床材除去具の吸盤を吸着させて引っ張り、任意の床材1を撓ませつつ施工用接着剤を破壊させて床下地から剥ぎ取って除去する。
【0069】
(更新方法)
次に、上記除去方法により任意の床材1を除去した後、新たな床材1を床下地に貼着して更新する方法について説明する。
【0070】
まず、任意の床材1が除去された露出床下地から施工用接着剤をスクレパーなどを用いて除去し、露出床下地に新たな施工用接着剤を塗布する。施工用接着剤は、露出床下地全面に塗布してもよいし、長手方向又は幅方向に線状に塗布してもよい。そして、更新用床材1の幅方向及び長手方向両方の雌実7の下側部分を除去する。
【0071】
次に、更新用床材1の雄実6の角部を露出床下地に挿入し、露出床下地に隣り合う床材1の雌実と嵌合させ、先に長手方向の雄実6を隣り合う床材の長手方向の雌実7に嵌合させる。その後、更新用床材1の幅方向の雄実6を隣り合う床材の雌実7に嵌合させ、隣り合う床材1の表面が互いに面一となるように、更新用床材1を上から十分に押圧して床下地に貼着する。
【0072】
また、床材1に本実加工が施されていない場合は任意の床材1を除去し、露出床下地に新たな施工用接着剤を塗布した後、新たな更新用床材1を露出床下地に位置合わせして上から押圧して貼着する。
【0073】
(実施形態の効果)
したがって、本実施形態の床材の施工構造においては、施工用接着剤の接着剥離強度を床材1の層間剥離強度よりも弱くしているので、床材1を更新するために除去する際、床材1が層間剥離せずに、施工用接着剤が破壊するので床下地上に床材の破片を残すことなく容易に床下地から床材1を除去することができる。
【0074】
また、施工用接着剤は、接着力が弱いため、容易に床下地から除去することができる。
【0075】
そして、この床材1を除去した床下地に新たな更新用床材1を直接貼着して更新するので、繰り返し更新しても容易に床材1を除去することができる。
【0076】
また、床材1を樹脂化粧シート2、基材3(木質基材)及び樹脂マット4を順に積層して構成し、樹脂マット4により基材3の裏面から防湿性を担保することで、基材3として木質基材を使用したことによる湿気の影響を抑えることができる。
【0077】
また、同じ厚みの基材3(木質繊維板)と樹脂マット4とを合わせたものの厚み方向に3等分した中央部L2に本実加工を施しているので、傾斜する実を有し、かつ薄い床材1を安定して生産することができる。
【0078】
また、雄実6の上面6aの俯角r1を下面6bの仰角r2よりも小さくして、雄実6における樹脂マット4の割合を基材3よりも多くしているので、施工時の嵌合のために必要な雄実6の強度と、床材1除去時に雌実7を破壊せずに嵌合を外すことができる程度の雄実6及び雌実7の硬さとを確保することができる。
【0079】
また、基材3(木質繊維板)が可撓性を有しかつ床材1の厚みが薄いので、床材1が撓みやすく、本実加工の嵌合を容易に外すことができ、床材1の除去をより一層容易に行うことができる。
【0080】
また、樹脂マット4が基材3(木質繊維板)と同じ厚みでかつ比重が1.4以上でかつ2.0以下であるので、なじみ性のよい床材1にすることができる。
【0081】
また、樹脂マット4には塩化ビニル系樹脂に対する無機フィラーの割合を調整して添加しているので、樹脂マット4の成形後の寸法変化を小さくすることができるとともに、樹脂マット4の成形を容易にすることができる。
【0082】
また、雄実6の基部上部に切り欠き10が形成されているので、床材1を除去する際に、床材1を撓ませるように引っ張ると、この切り欠き10から基材3(木質繊維板)が上下に分割されて大きく床材1が変形し、本実加工の嵌合を容易に外すことができるので、床材1の除去をより容易に行うことができる。
【0083】
また、基材3としての木質繊維板が乾式成形により成形されているため、切り欠き10から木質繊維板が分割しやすく、床材1の除去をより一層容易に行うことができる。
【0084】
また、施工用接着剤を弾性接着剤としているので、接着剥離強度を弱くしても施工用接着剤が脆く硬い性質の硬化物とならず、床材1の上に人が乗って荷重が連続的に作用して床材1が変形しても、施工用接着剤が壊れない。また、床材1を除去する際に、床材1と床下地との間に衝撃を加えなくても施工用接着剤を破壊させて床材1を除去することができる。
【0085】
また、床材1の最上層に配置される樹脂化粧シート2が表面平滑であるため、床材除去具の吸盤をしっかりと床材1の表面に吸着させることができ、容易に床材1を除去することができる。
【0086】
また、更新用床材1の雌実7の下側部分を除去するので、床材1を更新する際に、更新用床材1の雄実6を隣り合う床材1の雌実7に嵌合させつつ、更新用床材1を上から押圧するだけで床下地に貼着することができ、床材1の更新を容易に行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0087】
以上説明したように、本発明は、床材の施工構造、床材の除去方法及び更新方法について有用である。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明の実施形態に係る床材の実施例1を示す断面図である。
【図2】実施例2を示す断面図である。
【符号の説明】
【0089】
1 床材
2 樹脂化粧シート
3 基材
4 樹脂マット
6 雄実
6a 上面の傾斜面
6b 下面の傾斜面
7 雌実
10 切り欠き

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、最上層に配置される表面平滑な樹脂化粧シートと、該樹脂化粧シートの下側に配置される基材とが積層されてなる可撓性の複数枚の床材が、該床材の層間剥離強度よりも弱い接着剥離強度の施工用接着剤により、互いに隣り合うように連続して床下地に貼着されていることを特徴とする床材の施工構造。
【請求項2】
請求項1の床材の施工構造において、
上記施工用接着剤は弾性接着剤であることを特徴とする床材の施工構造。
【請求項3】
請求項1又は2の床材の施工構造において、
上記床材は、上記基材の下側に積層される樹脂マットをさらに有し、
上記基材が木質基材であることを特徴とする床材の施工構造。
【請求項4】
請求項3の床材の施工構造において、
上記木質基材は、比重が0.4以上でかつ1.0以下であるとともに厚みが2.0mm以上でかつ3.0mm以下である可撓性を有する木質繊維板で構成され、
上記樹脂マットは、無機フィラーが、塩化ビニル系樹脂100重量部に対して100重量部以上でかつ1000重量部以下の割合で添加されてなり、その比重が1.4以上でかつ2.0以下であるとともに厚みが上記木質繊維板の厚みと同じとなるように形成され、
上記床材の四周端面には、該床材を厚み方向に3等分した中央部に雄実及び雌実を有する本実加工が施され、
上記雄実の上部は、上面が俯角15度以上でかつ30度以下である傾斜面に形成された上記木質基材で構成される一方、雄実の下部は、下面が上記上面の俯角よりも10度以上小さい角度の仰角である傾斜面に形成された上記樹脂マットで構成されており、
隣り合う床材は、表面が互いに面一となるように一方の床材の雌実に他方の床材の雄実が嵌合されて結合されていることを特徴とする床材の施工構造。
【請求項5】
請求項4の床材の施工構造において、
上記木質基材を構成する木質繊維板は乾式成形により形成され、
上記雄実の基部上側の木質基材には、該雄実の突出方向と反対側に向かって凹陥するように切り欠きが下面を雄実の上面に連続させるように形成されていることを特徴とする床材の施工構造。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1つの床材の施工構造における複数枚の床材のうちの任意の床材を除去する除去方法であって、
上記任意の床材の表面に床材除去具の吸盤を吸着させた状態で、該任意の床材に隣り合う床材を押さえながら床材除去具を引っ張ることで、上記任意の床材を撓ませつつ、上記施工用接着剤を破壊させて床下地から剥ぎ取ることを特徴とする床材の除去方法。
【請求項7】
請求項5の床材の施工構造における複数枚の床材のうちの任意の床材を除去する除去方法であって、
上記任意の床材の表面に床材除去具の吸盤を吸着させた状態で、該任意の床材に隣り合う床材を押さえながら床材除去具を引っ張ることで、上記任意の床材を撓ませかつ該床材の切り欠きから木質基材を上下に部分的に分割させつつ、上記施工用接着剤を破壊させて床下地から剥ぎ取ることを特徴とする床材の除去方法。
【請求項8】
請求項1から5のいずれか1つの床材の施工構造における複数枚の床材のうちの任意の床材を更新する更新方法であって、
上記任意の床材の表面に床材除去具の吸盤を吸着させた状態で、該任意の床材に隣り合う床材を押さえながら床材除去具を引っ張ることで、上記任意の床材を撓ませつつ、上記施工用接着剤を破壊させて床下地から剥ぎ取り、
上記任意の床材が除去された露出床下地から施工用接着剤を除去して、該露出床下地に新たな施工用接着剤を塗布した後、
上記露出床下地に新たな更新用床材を上から押圧して貼着することを特徴とする床材の更新方法。
【請求項9】
請求項4又は5の床材の施工構造における複数枚の床材のうちの任意の床材を更新する更新方法であって、
上記任意の床材の表面に床材除去具の吸盤を吸着させた状態で、該任意の床材に隣り合う床材を押さえながら床材除去具を引っ張ることで、上記任意の床材を撓ませつつ、上記施工用接着剤を破壊させて床下地から剥ぎ取り、
上記任意の床材が除去された露出床下地から施工用接着剤を除去して、該露出床下地に新たな施工用接着剤を塗布した後、
新たな更新用床材の雌実の下側部分を除去し、該更新用床材の雄実を露出床下地に隣り合う床材の雌実と嵌合させながら該更新用床材を上から押圧して床下地に貼着することを特徴とする床材の更新方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−24408(P2009−24408A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−189080(P2007−189080)
【出願日】平成19年7月20日(2007.7.20)
【出願人】(000204985)大建工業株式会社 (419)
【Fターム(参考)】