説明

床用伸縮継手装置

【課題】 建物の地震による近接・離反する方向の相対変位と、近接・離反する方向に同一平面上で直交する方向の相対変位を吸収でき、かつ隣接する2つの建物側の床面と面一な段差のない床面を有する床用伸縮継手装置を提供する。
【解決手段】 対向部34aに支持板23と第1支持手段24とを介して取付けられ、上端が建物29a側の床面36aと面一な固定床体21と、対向部34bに水平軸線Cを有するヒンジ部材26と第2支持手段27とを介して取付けられ、先端部が支持板23に摺動自在に支持され、かつ上端が床面36aと面一な建物29b側の床面36bと面一な可動床体22とを備え、両床体21,22の先端側の櫛歯部25A,25Bを互いに齟齬して差し込んで建物29a,29bの近接・離反方向の相対変位を吸収し、第1,第2支持手段24,27により前記近接・離反方向に同一平面上で直交する方向の相対変位を吸収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、隣接する2つの建物の空隙を塞いだ状態で、地震などによる各建物の相対変位を許容することができる床用伸縮継手装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図10,図11は、従来の技術の床用伸縮継手装置1を示す鉛直断面図であり、この従来の技術は、たとえば特許文献1に記載されている。すなわち、床用伸縮継手装置1は、空隙である目地部2を介して建てられた左右の建物3,3の床面6,6に連続する目地部2側の対向部に凹部7が形成され、各凹部7には、チャンネル状の下地レール9がアンカーボルト8によって固定される。チャンネル状の下地レール9における壁面3a,3b側の目地部2は端部目地プレート10によって覆われ、端部目地プレート10は、回動可能でかつ前後方向にスライド移動可能に中央枢支ピン11で枢支されるとともに、端部目地プレート用中央維持リンク装置12によって支持される。チャンネル状の下地レール9における壁面3a,3b側の目地部2を除く他の目地部2を覆うように、端部目地プレート10に目地プレート13が重ね合わされる。目地プレート13は、中央枢支ピン14で枢支されるとともに、2個以上の目地プレート用中央維持リンク装置15によって支持される。目地プレート13および端部目地プレート10の両側部は、チャンネル状の下地レ9に皿ビス16によって固定されたカバープレート17によって覆われる。
【0003】
前記構成の床用伸縮継手装置1は、各建物3,3が地震などによって近接および離反する方向に相対変位を生じたとき、端部目地プレート10は、端部目地プレート用中央維持リンク装置12により目地部2の中央に維持された状態でチャンネル状の下地レール9上をスライド移動し、目地プレート13は、2個以上の目地プレート用中央維持リンク装置15により目地部2の中央に維持された状態でチャンネル状の下地レール9上をスライド移動することによって、各建物3,3の前記近接および離反する方向の相対変位を吸収する。
【0004】
一方、各建物3,3が地震などによって前後方向の相対変位を生じたとき、その相対変位量が小さい時には、端部目地プレート10が壁面3a,3bの押圧力によって中央枢支ピン11を中心に回動して、前後方向の小さい相対変位量を吸収する。また、前後方向の相対変位量が大きい時には、端部目地プレート10が壁面3a,3bの押圧力によって中央枢支ピン11を中心に回動するとともに、目地プレート13は目地プレート用中央維持リンク装置15によって前後方向にスライド移動して、前後方向の大きい相対変位量を吸収する。
【0005】
【特許文献1】特開2000−129803号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、前記特許文献1に記載されている従来の技術の床用伸縮継手装置1では、カバープレート17と目地プレート13とに、カバープレート17の板厚に相当する段差が形成されているので、床用伸縮継手装置1の床面は左右の建物3,3の床面6と面一ではない。
【0007】
このように、床用伸縮継手装置1の床面は左右の建物3,3の床面6と面一ではなく、カバープレート17の板厚に相当する小さい段差を有していても、空隙である目地部2を介して建てられた左右の建物3,3が商用多目的ビルや学校などの高層建築物であれば、床用伸縮継手装置1の通行者に幼児や歩行困難な老人が含まれる割合は極めて低い。そのため、さほど大きな問題が生じることはない。しかし、前記左右の建物3,3が病院や病院付属の養護老人施設などの高層建築物であれば、床用伸縮継手装置1の段差が、たとえ前記板厚に相当する小さいものであっても影響度はきわめて大きい。
【0008】
たとえば、病院において、集中治療室(ICU)での集中治療後の患者を寝たままで搬送台車により一般病棟へ搬送する時や、比較的重篤な入院患者を寝たままで搬送台車により病室とX線、CT、MRIなどの各検査室との間を往復させる時などに床用伸縮継手装置1を通行すると、前記小さい段差によって生じる振動が患者に大きい苦痛を与える。したがって、床用伸縮継手装置1の通行時には搬送台車の移動速度を極力抑えて、段差によって生じる振動を軽減する行動が看護者に要求される。また、給食の際に配膳室から各病室に移動する配膳車が床用伸縮継手装置1を通行すると、前記小さい段差によって生じる振動により重湯,みそ汁,スープ類などの液状食物が零れるおそれを有しているので、床用伸縮継手装置1の通行時には配膳車の移動速度を極力抑えて、段差によって生じる振動を軽減する行動が配膳担当者に要求される。さらに、絶対安静が必要であるため、未だ寝たままの入院患者の病室に搬入・搬出されるたとえば移動式X線検査装置を含む各種移動式医療検査装置が床用伸縮継手装置1を通行すると、前記小さい段差によって生じる振動が各種移動式医療検査装置に悪影響をおよぼすので、床用伸縮継手装置1の通行時には各種移動式医療検査装置の移動速度を極力抑えて、段差によって生じる振動を軽減する行動が検査技師に要求される。
【0009】
一方、幼児や老人あるいは歩行困難な患者が床用伸縮継手装置1を通行する際には、前記小さい段差によってつまずき転倒するおそれもある。
【0010】
他方、従来の技術の床用伸縮継手装置1の構成部材である目地プレート13とカバープレート17では、それぞれの断面係数が小さく、荷重によって大きい曲げ応力が発生するので耐荷重強度が小さい。耐荷重強度が小さくても、通行人は勿論のこと搬送台車のような軽荷重物の通行には問題が生じることはない。しかし、配膳車や各種移動式医療検査装置のような重荷重物の通行を許容するためには、目地プレート13およびカバープレート17の肉厚を相当厚く設定しなければならず、肉厚を厚く設定すると床用伸縮継手装置1の重量が増大して、現場での据付作業が困難になるばかりか、床用伸縮継手装置1のコストアップを招くなどの問題が発生する。
【0011】
本発明は、このような問題を解決するものであって、その目的とするところは、各建物の地震などによる近接および離反する方向の相対変位と、前記近接および離反する方向に同一平面上で直交する方向の相対変位を吸収できるものでありながら、隣接する2つの建物側の床面と面一な段差のない床面を有する床用伸縮継手装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、隣接する2つの建物の相互に対向する対向部の一方の対向部に支持板と第1支持手段とを介して取付けられて他方の建物に向けて水平にのびるとともに、上端が一方の建物側の床面と面一な固定床体と、
前記相互に対向する対向部の他方の対向部に水平軸線を有するヒンジ部材と第2支持手段とを介して基端部側が取付けられて一方の建物に向けて水平にのびるとともに、先端部が前記支持板に摺動自在に支持され、上端が前記一方の建物側の床面と面一な他方の建物側の床面と面一であり、かつ前記ヒンジ部材の水平軸線まわりに回動自在な可動床体とを備え、
固定床体と可動床体それぞれの先端側には、各建物の近接および離反する方向に同一平面上で直交する方向で互いに齟齬して差し込まれて各建物の近接および離反する方向に摺動自在な櫛歯部が形成され、
可動床体の櫛歯部には、上端から下端にかけて先端から基端部方向に斜め下向きにのびる傾斜面が形成され、
固定床体の櫛歯部には、前記傾斜面の摺動乗り上げを許容する乗り上げ案内面が設けられ、
前記第1支持手段と第2支持手段の少なくとも一方の支持手段は、該少なくとも一方の支持手段が対応する一方の対向部と他方の対向部のいずれかに固定されて前記直交する方向へ水平に延在するレールと、このレールに前記直交する方向に移動自在に嵌合される摺動体とを備えている
ことを特徴とする床用伸縮継手装置である。
【0013】
これによれば、固定床体の上端と可動床体の上端とが面一で、かつ各上端が一方の建物側の床面および他方の建物側の床面と面一な床用伸縮継手装置、つまり、隣接する2つの建物側の床面と面一な段差のない床面を有する床用伸縮継手装置を実現できる。
【0014】
また、各建物が地震などによって近接および離反する方向に小さく相対変位しても、固定床体と可動床体それぞれの先端側には、各建物の近接および離反する方向に同一平面上で直交する方向で互いに齟齬して差し込まれて各建物の近接および離反する方向に摺動自在な櫛歯部が形成されていることによって、前記小さい相対変位を吸収するとともに、夏期における各建物および固定床体と可動床体の熱膨張を吸収して、床用伸縮継手装置の変形を防止する。
【0015】
さらに、各建物が地震などによって近接する方向に大く相対変位した場合には、相対変位の初期段階で可動床体の櫛歯部に形成されている下向きの傾斜面が固定床体の櫛歯部の乗り上げ案内面に当接する。この状態から各建物の近接する方向への相対変位が継続すると、可動床体はヒンジ部材の水平軸線まわりで上向きに回動しながら、その斜め下向きの傾斜面が固定床体側の乗り上げ案内面に乗り上がるので、各建物の近接する方向への大きい相対変位を吸収して床用伸縮継手装置の変形を防止する。また、各建物の離反する方向への大きい相対変位は、固定床体と可動床体それぞれの先端側に形成されている櫛歯部同士の摺動によって吸収できる。
【0016】
また、各建物が地震などによって前記直交する方向に相対変位した場合は、この相対変位に追従して、第1支持手段と第2支持手段の少なくとも一方の支持手段のレールと摺動体とに前記直交する方向への相対変位が生じるとによって、各建物の前記直交する方向への相対変位を吸収して、床用伸縮継手装置の変形を防止する。
【0017】
本発明の床用伸縮継手装置は、前記固定床体と可動床体が、各建物の近接および離反する方向に前記直交する方向の間隔をあけて櫛歯状に配置されるとともに、断面係数を大きく設定した複数の床板の枠組み構造体からなることを特徴としている。これによると、軽量化した床用伸縮継手装置でありながら荷重によって発生する曲げ応力を小さく抑制して耐荷重強度を増大することができるので、重荷重物の通行を許容できるとともに、軽量化された枠組み構造体からなることにより、現場での据付作業が容易になるばかりか、床用伸縮継手装置のコスト削減を実現できる。
【0018】
本発明の床用伸縮継手装置は、前記固定床体と可動床体それぞれの断面係数を小さく設定した床板によって構成していることを特徴としている。これによると、荷重によって発生する曲げ応力を小さく抑制して、耐荷重強度を増大することが期待できないので、重荷重物の通行は許容できないものの、軽量化により現場での据付作業が容易で、コストを削減した軽荷重用の床用伸縮継手装置を実現できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、各建物の地震などによる近接および離反する方向の相対変位と、直交する方向の相対変位を吸収できるものでありながら、隣接する2つの建物側の床面と面一な段差のない床面を有する床用伸縮継手装置を実現することができる。したがって、病院において、搬送台車,配膳車,各種移動式医療検査装置などが通行する際に、それらの移動速度を極力抑えて、段差によって生じる振動を軽減する行動が不要になり、通常の移動速度で床用伸縮継手装置を通行しても、振動によって患者に苦痛を与えたり、液状食物が零れたり、あるいは各種移動式医療検査装置に悪影響がおよぶような不都合は全く発生しなくなる。しかも、幼児や老人あるいは歩行困難な患者が床用伸縮継手装置を通行しても、段差によってつまずき転倒する事態が生じることはない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明に係る床用伸縮継手装置の好ましい第1実施形態を図面に基づいて説明する。図1は床用伸縮継手装置の第1実施形態を示す平面図、図2は図1の切断面線II−IIから見た床用伸縮継手装置の鉛直断面図である。
【0021】
図1,図2において、床用伸縮継手装置20は、固定床体21と、可動床体22と、支持板23と、第1支持手段24と、固定床体21の先端側に形成される櫛歯部25Aおよび可動床体22の先端側に形成される櫛歯部25Bと、水平軸線Cを有するヒンジ部材26と、第2支持手段27とを備える。
【0022】
固定床体21は、断面積が等しい矩形断面の複数の床板21aを、空隙である目地部28を介して建てられた左右の建物29a,29bの近接および離反する方向(図1,図2の矢印X1,X2方向)に直交する幅方向(図1の矢印Y方向,図2において紙面に垂直方向)の間隔w1(4mm〜6mm)をあけて櫛歯状に配置するとともに、矩形断面の長辺を鉛直方向に指向することで断面係数を大きく設定した各床板21aの枠組み構造体からなり、各床板21aの基端部(図1,図2の左端部)は、固定床体21の幅方向(図1の矢印Y方向)に延在する基部枠板21bに溶接によって固定され、基部枠板21bに長手方向(図1矢印X2方向)の間隔をあけて基部枠板21bに平行に配置して各床板21aの長辺に溶接によって固定した複数の間隔保持部材21cによって、前記間隔w1が保持されている。また、基部枠板21bの幅方向両端部から各床板21aに平行で、かつ幅方向の両端部に位置している床板21a’に前記間隔w1をあけて一対の側部枠板21dが延在している。
【0023】
固定床体21における各床板21a,21a’の下端は、支持板23上にたとえばT形スミ肉溶接によって固定支持される。また、各床板21a,21a’における幅方向中央部の1つの床板21aの基端部側は間隔保持部材21cの位置で切断して隣接する一対の床板21aとの間に空所30を形成し、この空所30内で支持板23上に押さえ板31を重ねて、ビス32により押さえ板31を支持板23上に固定するとともに、断面略門形のカバー33を空所30にはめ込んでビス32を隠蔽している。
【0024】
固定床体21は、隣接する2つの建物29a,29bの相互に対向する対向部34a,34bにおける一方の対向部34aの平坦な取付面35aに支持板23と第1支持手段24とを介して取付けられ、これによって他方の建物29bに向かって水平にのびるとともに、その上端が一方の建物29a側の床面36aと面一に設定される。また、前記一対の側部枠板21dの外面は一方の建物29aに当接している。
【0025】
第1支持手段24は、アルミニウム合金の押し出し形材からなり、第1のレール37と第1摺動体38とを備える。第1のレール37は、断面略L字状のもので、一方の建物29aにおける対向部34aの取付面35aにアンカー39によって固定されたウエブ37aと、ウエブ37aの一端部から床面36aと面一なレベルまで鉛直に立ち上がる一方の長寸リブ37bと、ウエブ37aの他端部側から支持板23の下面まで鉛直に立ち上がって支持板23を支える他方の短寸リブ37cを有し、ウエブ37aの両端部と長寸リブ37bおよび短寸リブ37cそれぞれの下端部とのコーナ部には、互いに対向する一対の案内溝37dを設けてある。
【0026】
第1摺動体38は、断面逆チャネル状のもので、支持板23を載置してビス50により固定したウエブ38aと、ウエブ38aの両端部から鉛直下向きにのびて互いに対向する一対のリブ38bおよび各リブ38bの下端部から互いに離反する方向へ水平にのびる一対の摺動片38cとを有し、一対の摺動片38cが前記一対の案内溝37dに摺動自在に嵌合される。
【0027】
可動床体22は、断面積が固定床体21の各床板21a,21a’に等しい矩形断面の複数の床板22aを、空隙である目地部28を介して建てられた左右の建物29a,29bの近接および離反する方向(図1,図2の矢印X1,X2方向)に直交する幅方向(図1の矢印Y方向,図2において紙面に垂直方向)の間隔w1(4mm〜6mm)をあけて櫛歯状に配置するとともに、矩形断面の長辺を鉛直方向に指向することで断面係数を大きく設定した各床板22aの枠組み構造体からなり、各床板22aの基端部(図1,図2の右端部)は、可動床体22の幅方向(図1の矢印Y方向)に延在する基部枠板22bに溶接によって固定され、基部枠板22bに長手方向(図1矢印X2方向)の間隔をあけて基部枠板22bに平行に配置して各床板22aの長辺に溶接によって固定した複数の間隔保持部材22cと、この複数の間隔保持部材22cに長手方向の間隔をあけて間隔保持部材22cに平行に配置して各床板22aの長辺に溶接によって固定した複数の間隔保持部材22dとによって、前記間隔w1が保持されている。また、基部枠板22bの幅方向両端部から各床板22aに平行で、かつ幅方向の両端部に位置している床板22a’に間隔w1をあけて一対の側部枠板22eが延在している。
【0028】
可動床体22における各床板22a,22a’の下端は、ヒンジ部材26における可動部26aの上面に支持されるとともに、基部枠板22bはビス40によって可動部26aの先端に上向きに屈曲して連設した止め片26bに固定される。
【0029】
可動床体22は、隣接する2つの建物29a,29bの相互に対向する対向部34a,34bにおける他方の対向部34bの平坦な取付面35bにヒンジ部材26と第2支持手段27とを介して取付けられ、これによって、一方の建物29aに向かって水平にのびて、各床板22a,22a’の上端が一方の建物29a側の床面36aと面一な他方の建物29b側の床面36bと面一に設定されるとともに、可動床体22の先端側に形成される櫛歯部25Bと、固定床体21の先端側に形成される櫛歯部25Aとは、各建物29a,29bの近接および離反する方向(図1,図2の矢印X1,X2方向)に同一平面上で直交する方向(図1の矢印Y方向)で互いに齟齬して摺動自在に差し込まれ、櫛歯部25Bの下面は支持板23に摺動自在に支持される。また、可動床体22の櫛歯部25Bの先端部には、つまり、可動床体22の各床板21a,21a’の先端部には、上端から下端にかけて基端部方向(図2の右方向)に斜め下向きにのびる傾斜面41が形成されている。さらに、前記一対の側部枠板22eの外面は、建物29bに対して直交する方向(図1の矢印Y方向)の相対変位許容空間49を隔てて対向している。
【0030】
第2支持手段27は、アルミニウム合金の押し出し形材からなり、第2のレール42と第2摺動体43とを備える。第2のレール42は、断面略L字状のもので、他方の建物29bにおける対向部34bの取付面35bにアンカー39によって固定されたウエブ42aと、ウエブ42aの一端部から床面36bと略面一なレベルまで鉛直に立ち上がる一方の長寸リブ42bと、ウエブ42aの他端部側から可動床体22の下面近くまで鉛直に立ち上がる他方の短寸リブ42cを有し、ウエブ42aの両端部と長寸リブ42bおよび短寸リブ42cそれぞれの下端部とのコーナ部には、互いに対向する一対の案内溝42dを設けてある。
【0031】
第2摺動体43は、断面逆チャネル状のもので、ビス44によってヒンジ部材26における固定部26cを載置して固定したウエブ43aと、ウエブ43aの両端部から鉛直下向きにのびて互いに対向する一対のリブ43bおよび各リブ43bの下端部から互いに離反する方向へ水平にのびる一対の摺動片43cとを有し、一対の摺動片43cが前記一対の案内溝42dに摺動自在に嵌合される。
【0032】
一方、固定床体21における各床板21a,21a’の基部側の間には、間隔保持部材21cに固着した案内板45が臨んでおり、各案内板45の先端部(図2の右端部)における上側コーナ部を斜めに切欠して、可動床体22の各床板21a,21a’の先端部に形成した傾斜面41の摺動乗り上げを許容する乗り上げ傾斜案内面45aを設けてある。なお、前記説明した第1実施形態における床用伸縮継手装置20では、たとえば、その幅方向両側(図1の矢印Y方向両側)に平行に近接して、目地部28を跨いで左右の建物29a,29bの床面36a,36bに架設される周知の側壁用伸縮継手装置(図示省略)が設置されて、通行者の安全を確保する。図2において符号46は、加硫ゴム製または合成樹脂製の止水補助シートを示し、矢印X2方向の両端部が第1支持手段24の第1のレール37における他方の短寸リブ37cの下端部に設け嵌合溝47aと、第2支持手段27の第2のレール42における他方の短寸リブ42cの下端部に設け嵌合溝47bとに振り分けて弾性嵌合することで脱落不能に取付けてある。また、符号48は見切材を示す。
【0033】
前記構成の床用伸縮継手装置20によれば、固定床体21の上端と可動床体22の上端とが面一で、かつ各上端が一方の建物29a側の床面36aおよび他方の建物29b側の床面36bと面一な床用伸縮継手装置20、つまり、隣接する2つの建物29a,29b側の床面36a,36bと面一な段差のない上端(床面)を有する床用伸縮継手装置20を実現できる。
【0034】
このような段差のない床用伸縮継手装置20が実現されることで、病院において、搬送台車,配膳車,各種移動式医療検査装置などが通行する際に、それらの移動速度を極力抑えて、段差によって生じる振動を軽減する行動が不要になり、通常の移動速度で床用伸縮継手装置20を通行しても、振動によって患者に苦痛を与えたり、液状食物が零れたり、あるいは各種移動式医療検査装置に悪影響がおよぶような不都合は全く発生しなくなる。しかも、幼児や老人あるいは歩行困難な患者が床用伸縮継手装置20を通行しても、段差によってつまずき転倒する事態が生じることはない。なお、固定床体21の各床板21aの間隔w1および可動床体22の各床板22aの間隔w1を、それぞれ4mm〜6mmの小さい値に設定しているので、接地面積が最も小さいハイヒールのかかとでも間隔w1内に食い込むことなく床用伸縮継手装置20を容易に通行できる。
【0035】
また、各建物29a,29bが地震などによって近接および離反する方向(図1,図2の矢印X1,X2方向)に小さく相対変位しても、固定床体21と可動床体22それぞれの先端側には、各建物29a,29bの近接および離反する方向に同一平面上で直交する方向(図1の矢印Y方向)で互いに齟齬して差し込まれて各建物29a,29bの近接および離反する方向に摺動自在な櫛歯部25A,25Bが形成されていることによって、図3,図4のように小さい相対変位を吸収することができるとともに、夏期における各建物29a,29bおよび固定床体21と可動床体22の熱膨張を吸収して、床用伸縮継手装置20の変形を防止する。
【0036】
さらに、各建物29a,29bが地震などによって近接する方向(図1,図2の矢印X1方向)に大く相対変位した場合、相対変位の初期段階では、図5のように、可動床体22における各床板22a,22a’の先端部に形成した傾斜面41が固定床体21側の各案内板45の乗り上げ傾斜案内面45aに当接する。この状態から各建物29a,29bの近接する方向への相対変位が継続すると、図6のように、可動床体22はヒンジ部材26の水平軸線Cまわりで上向きに回動しながら、その斜め下向きの傾斜面41が固定床体21側の案内板45の乗り上げ傾斜案内面45aに乗り上がるので、各建物29a,29bの近接する方向への大きい相対変位を吸収して床用伸縮継手装置20の変形を防止する。また、各建物29a,29bの離反する方向(図1,図2の矢印X2方向)への大きい相対変位は、固定床体21と可動床体22それぞれの先端側に形成されている櫛歯部25A,25B同士の相対移動によって図7のように吸収できる。
【0037】
各建物29a,29bが地震などによって近接および離反する方向(図1,図2の矢印X1,X2方向)に同一平面上で直交する方向(図1の矢印Y方向)に相対変位した場合は、この相対変位に追従して、第2支持手段27の第2のレール42と第2摺動体43とに前記直交する方向(図1の矢印Y方向)への相対変位が生じ、第2のレール42の相対変位は、相対変位許容空間49によって許容されることで、各建物29a,29bの前記直交する方向(図1の矢印Y方向)への相対変位を吸収して、床用伸縮継手装置20の変形を防止する。
【0038】
前記第1実施形態の床用伸縮継手装置20は、固定床体21と可動床体22が、各建物29a,29bの近接および離反する方向(図1,図2の矢印X1,X2方向)に同一平面上で直交する方向(図1の矢印Y方向)の間隔をあけて櫛歯状に配置されるとともに、断面係数を大きく設定した複数の床板21a,22aの枠組み構造体からなるので、軽量化した床用伸縮継手装置20でありながら荷重によって発生する曲げ応力を小さく抑制して耐荷重強度を増大することができる。そのため、移動式X線検査装置を含む各種移動式医療検査装置のような重荷重物の通行を許容できる。しかも、軽量化された枠組み構造体からなることにより、現場での据付作業が容易になるばかりか、床用伸縮継手装置20のコスト削減を実現できる。
【0039】
つぎに、本発明に係る床用伸縮継手装置20の第2実施形態について説明する。図8は床用伸縮継手装置20の第2実施形態を示す平面図、図9は図8の切断面線IX−IXから見た床用伸縮継手装置20の鉛直断面図である。なお、前記第1実施形態の床用伸縮継手装置20と異なる構造は固定床体21と可動床体22のみであり、その他の構造は前記第1実施形態と同一もしくは相当するので、前記第1実施形態と同一もしくは相当部分には、同一符号を付して重複する構造および作用の説明は省略する。
【0040】
図8,図9において、床用伸縮継手装置20の固定床体21と可動床体22は、それぞれ矩形断面の短辺を鉛直方向に指向することで断面係数を小さく設定した床板21A,22Aによって構成されている。そして、プレス加工によって固定床体21の先端側に櫛歯部25Aを形成するとともに、可動床体22の先端側に櫛歯部25Bを形成して、可動床体22の櫛歯部25Bと固定床体21の櫛歯部25Aとは、各建物29a,29bの近接および離反する方向(図1,図2の矢印X1,X2方向)に同一平面上で直交する方向(図1の矢印Y方向)で互いに齟齬して摺動自在に差し込んである。また、可動床体22の櫛歯部25Bの先端部と基端部には、上端から下端にかけて基端部方向(図2の右方向)に斜め下向きにのびる傾斜面41が形成されており、固定床体21の櫛歯部25Aの先端部と基端部には、櫛歯部25Bの傾斜面41の摺動乗り上げを許容する上向きの乗り上げ傾斜案内面45aを設けてある。
【0041】
このように構成された第2実施形態の床用伸縮継手装置20は、図1〜図9で説明した第1実施形態の床用伸縮継手装置20のように、荷重によって発生する曲げ応力を小さく抑制して、耐荷重強度を増大することが期待できないので、移動式X線検査装置を含む各種移動式医療検査装置のような重荷重物の通行は許容できないものの、その他は、第1実施形態と同様の作用・効果を奏することができるとともに、軽量化により現場での据付作業が容易で、コストを削減した軽荷重用の床用伸縮継手装置20を実現できる。
【0042】
なお、図1,図2の第1実施形態の床用伸縮継手装置20において、各案内板45の使用を省略し、各間隔保持部材21cの上端コーナ部に面取り51を施し、この面取り51に、可動床体22側の傾斜面41の摺動乗り上げを許容する乗り上げ傾斜案内面としての機能をもたせるようにしてもよい。
【0043】
前記第1,第2実施形態で説明した構成において、第1摺動体38を摺動不能に第1のレール37に取付けてもよい。また、第1実施形態において固定床体21の一対の側部枠板21dの外面を建物29aに対して直交する方向の相対変位許容空間(図示省略)を隔てて対向させ、可動床体22の一対の側部枠板22eの外面を建物29bに当接させても、第2実施形態において固定床体21の幅方向両端(矢印Y方向の両端)を建物29aに対して直交する方向の相対変位許容空間(図示省略)を隔てて対向させ、可動床体22のの幅方向両端(矢印Y方向の両端)を建物29bに当接させてもよい。さらに、第1実施形態において、固定床体21の一対の側部枠板21dの外面を建物29aに対して直交する方向の相対変位許容空間(図示省略)を隔てて対向させるとともに、可動床体22の一対の側部枠板22eの外面を前記のように建物29bに対して直交する方向の相対移動許容空間49を隔てて対向させた構成であってもよい。また、第2実施形態において、固定床体21の幅方向両端(矢印Y方向の両端)を建物29aに対して直交する方向の相対変位許容空間(図示省略)を隔てて対向させるとともに、可動床体22の幅方向両端(矢印Y方向の両端)を前記のように建物29bに対して直交する方向の相対移動許容空間49を隔てて対向させた構成であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】床用伸縮継手装置の第1実施形態を示す平面図である。
【図2】図1の切断面線II−IIから見た鉛直断面図である。
【図3】各建物が小さい相対変位で近接した状態を示す鉛直断面図である。
【図4】各建物が小さい相対変位で離反した状態を示す鉛直断面図である。
【図5】各建物が大きい相対変位で近接する際の初期段階を示す鉛直断面図である。
【図6】各建物が大きい相対変位で近接した状態を示す鉛直断面図である。
【図7】各建物が大きい相対変位で離反した状態を示す鉛直断面図である。
【図8】床用伸縮継手装置の第2実施形態を示す平面図である。
【図9】図8の切断面線IX−IXから見た鉛直断面図である。
【図10】従来例の平面図である。
【図11】図10の切断面線XI−XIから見た鉛直断面図である。
【符号の説明】
【0045】
20 床用伸縮継手装置
21 固定床体
21a 断面係数を大きく設定した複数の床板
21A 断面係数を小さく設定した床板
22 可動床体
22a 断面係数を大きく設定した複数の床板
22A 断面係数を小さく設定した床板
23 支持板
24 第1支持手段
25A 固定床体側の櫛歯部
25B 可動床体側の櫛歯部
26 ヒンジ部材
29a 一方の建物
29b 他方の建物
34a 一方の対向部
34b 他方の対向部
36a 一方の建物側の床面
36b 他方の建物側の床面
37 第1のレール
38 第1摺動体
41 傾斜面
42 第2のレール
43 第2摺動体
45 案内板
45a 乗り上げ案内面
46 止水補助シート
C ヒンジ部材の水平軸線
w1 間隔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
隣接する2つの建物の相互に対向する対向部の一方の対向部に支持板と第1支持手段とを介して取付けられて他方の建物に向けて水平にのびるとともに、上端が一方の建物側の床面と面一な固定床体と、
前記相互に対向する対向部の他方の対向部に水平軸線を有するヒンジ部材と第2支持手段とを介して基端部側が取付けられて一方の建物に向けて水平にのびるとともに、先端部が前記支持板に摺動自在に支持され、上端が前記一方の建物側の床面と面一な他方の建物側の床面と面一であり、かつ前記ヒンジ部材の水平軸線まわりに回動自在な可動床体とを備え、
固定床体と可動床体それぞれの先端側には、各建物の近接および離反する方向に同一平面上で直交する方向で互いに齟齬して差し込まれて各建物の近接および離反する方向に摺動自在な櫛歯部が形成され、
可動床体の櫛歯部には、上端から下端にかけて先端から基端部方向に斜め下向きにのびる傾斜面が形成され、
固定床体の櫛歯部には、前記傾斜面の摺動乗り上げを許容する乗り上げ案内面が設けられ、
前記第1支持手段と第2支持手段の少なくとも一方の支持手段は、該少なくとも一方の支持手段が対応する一方の対向部と他方の対向部のいずれかに固定されて前記直交する方向へ水平に延在するレールと、このレールに前記直交する方向に移動自在に嵌合される摺動体とを備えていることを特徴とする床用伸縮継手装置。
【請求項2】
請求項1に記載の床用伸縮継手装置において、
前記固定床体と可動床体は、各建物の近接および離反する方向に前記直交する方向の間隔をあけて櫛歯状に配置されるとともに、断面係数を大きく設定した複数の床板の枠組み構造体からなることを特徴とする床用伸縮継手装置。
【請求項3】
請求項1に記載の床用伸縮継手装置において、
前記固定床体と可動床体は、断面係数を小さく設定した床板によって構成されていることを特徴とする床用伸縮継手装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−303687(P2008−303687A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−154146(P2007−154146)
【出願日】平成19年6月11日(2007.6.11)
【出願人】(000004732)株式会社日本アルミ (64)
【Fターム(参考)】