説明

座標入力システム

【課題】 従来の座標入力パネルにおいては、長方形を除く多角形の座標入力領域入力パネルに対して、簡易な式で正確な指示座標を計算したり、凹部を持つ多角形の座標入力領域入力パネルに対して指示座標を計算したりすることができなかった。
【解決手段】 単連結である面抵抗体の周囲又は内部に、各辺が直線である多角形(長方形を除く)の抵抗性周囲電極を設け、多角形の各頂点に検出電極もしくは駆動電極を設定することによって、簡単な積和計算の組み合わせを用いて指示位置の座標を計算することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、指または座標指示器により指示した位置を検出する座標入力システム、特に長方形(正方形を含む)以外の多角形形状をした座標入力領域を有する座標入力システムに関する。
【背景技術】
【0002】
図10は従来の長方形(正方形を含む)の座標入力領域を有する座標入力システムの入力パネルであり、均一な面抵抗体1に、面抵抗体1を取り囲む抵抗性周囲電極2を配設しており、4頂点に検出電極3、4、5、及び6を備えている。該検出電極3、4、5、及び6は、前記抵抗性周囲電極2と電気的に接続されている。
上記座標入力システムの座標検出方法として、入力パネルが受信側であるような、座標指示器(以下入力ペンとする)から信号を発信し、静電容量結合もしくは直接の接触を介して、面抵抗体1が、入力ペンから発信された信号を受信する方法、更には面抵抗体全体を電圧振動させて、指又は導電物で指示した点の位置を入力パネル側で検出する方法、及び、信号伝達の方向がこれと逆であって、入力パネルが発信側であるような、面抵抗体1の各部を信号駆動し、入力ペンで受信する方法がある。
入力パネルが受信側である場合は、面抵抗体1の一点に出入りする電流の、4頂点(3、4、5、及び6)へ配分される電流値を計測するものが知られている(特開2000−132319号公報(特許文献1)参照)。一方、入力パネルが発信側である場合は、面抵抗体1に、検出電極3、4、5、及び6を通じて外部から電位勾配を与え、入力ペンによって指示座標点の電圧レベルを検出するものが知られている。指や入力ペンで指示した位置の座標は、面抵抗体1に出入りする電流の4頂点への配分値、もしくは4頂点を駆動した際に入力ペンで計測した電圧を用いて、計算される。
【0003】
長方形以外の多角形の座標入力領域を有する座標入力システムの入力パネルについては、特開2005−128819号(特許文献2)に、4の倍数の辺を有する多角形のパネルにおいて、入力座標を算出できるタッチパネルが開示されている。しかし、特許文献2は、位置座標を、予め設定してある計測値と位置座標との関係を表した相関テーブルに基づいて算出するものであり、指の指示位置を離散的に求めるものである。従って、パネル上で指を滑らせるような操作をするには不向きである。また、分解能及び精度を上げるにはより多くのメモリを必要とする上に、同じ理由でパネルを大型化するのにも向かない。更に、そもそもパネル形状に関して、4の倍数の辺を有するという制限がある。
【0004】
また、特許3821002号(特許文献3)に、座標入力領域外周部に設置された2つの電極間で計測した電圧から指示位置を計算するタッチパネル装置が開示されている。座標入力領域が三角形である場合は隣り合う辺を2つの電極とし、座標入力領域が四角形以上の多角形の場合は、3つ以上の座標軸を設定して、座標軸の両端に位置する座標入力領域外周部に設置された2つの電極を用いることでその座標軸における座標を計算できるとしている。しかし、これら2つの電極は、必ずしも正対する辺に設けられた電極同士である必要はないものの、正対する辺同士を選ぶことが望ましいとあり、長方形以外の多角形の場合、常に正確な座標を得られるとは期待できない。特に、例えば略Cの字型のような形状の多角形の座標入力領域を想定した場合、正対に近い関係の2つの電極を選択できない座標軸が存在するが、そのような場合の座標軸の設定方法及び座標計算方法は開示されていない。更に、特に長方形以外の多角形の場合、それぞれの座標軸に関して求めた値を(x,y)座標に変換するには、座標軸に直交する直線を求めたり、直線同士の交点を求めたりしなくてはならず、計算が煩雑となる。
【0005】
【特許文献1】特開2000−132319号
【特許文献2】特開2005−128819号
【特許文献3】特許3821002号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこのような点を考慮してなされたものであり、単連結で各辺が直線であるような多角形の座標入力領域であれば、形状や辺の数に関する制限は一切なく、簡単な数式によって指や入力ペンの指示位置の座標を計算することができ、また座標入力領域が大きくなっても、頂点の数が変わらなければ座標計算にかかる時間が変わらないような計算方式を持つ座標入力システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、単連結である面抵抗体の周囲又は内部に、各辺が直線であるN角形(長方形を除く)の抵抗性周囲電極を、全ての辺が面抵抗体と電気的に接触する様に設けると共に、該抵抗性周囲電極の内部を座標入力領域とする座標入力システムであって、前記座標入力領域を指又は信号発信機能を持つ座標指示器で指示したときに、前記抵抗性周囲電極のN個の頂点に流れる電流を計測する電流計測手段と、前記N個の頂点に流れる電流値から前記指又は座標指示器で指示した前記座標入力領域の位置を計算する座標計算手段とを持ち、該座標計算手段は、前記N角形の座標入力領域上の直交座標系(x,y)において、前記指又は信号発生機能を持つ座標指示器で指示した座標(X,Y)を、前記N角形の抵抗性周囲電極のN個の頂点の座標(x,y)(j=1,...,N)、前記N個の頂点に流れる電流値i(j=1,...,N)を用いて、数式1によって計算することを特徴とする座標入力システムを第1の要旨とし、単連結である面抵抗体の周囲又は内部に、各辺が直線であるN角形(長方形を除く)の抵抗性周囲電極を設けると共に、該抵抗性周囲電極の内部を座標入力領域とする座標入力システムであって、前記座標入力領域を座標指示器で指示したときに、前記抵抗性周囲電極のN個の頂点のうち任意の1個の頂点を駆動し残りの(N−1)個の頂点を接地した際の座標指示器の位置の電圧を計測する電圧計測手段と、前記N個の頂点のうち任意の1個の頂点を順次駆動したときに計測した電圧から前記座標指示器で指示した前記面抵抗体の位置を計算する座標計算手段とを持ち、該座標計算手段は、前記N角形の座標入力領域上の直交座標系(x,y)において、前記座標指示器で指示した座標(X,Y)を、前記N角形の抵抗性周囲電極のN個の頂点の座標(x,y)(j=1,...,N)、前記N個の頂点のうち任意の1個の頂点jを順次駆動した際に計測した電圧値v(j=1,...,N)を用いて、数式2によって計算することを特徴とする座標入力システムを第2の要旨とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る座標入力システムにおいては、単連結である面抵抗体の周囲又は内部に、各辺が直線であるような多角形の抵抗性周囲電極を設け、各頂点に検出電極もしくは駆動電極を設けることによって、簡単な計算式で、抵抗性周囲電極内部の座標入力領域における入力ペンや指の指示位置の座標を計算することができる。凸多角形に限らず、凹部を持つ多角形でも構わないため、任意の多角形形状の座標入力領域を1つの入力パネルで実現することができ、携帯電話などの電子機器の入力部を変わった形状にしたり、長方形でないテーブルの天板を入力座標領域にするなど、座標入力システムの応用範囲を広げることができる。
【0009】
座標入力領域が大きくなっても、頂点の数が同じならば、駆動及び検出回路、また座標計算のためのソフトウエアの規模や計算時間は変わらないため、大型化に際しても容易に対応することができる。
【0010】
また、座標計算が基本的に積和計算の組み合わせであり、複雑な演算が不要であるため、資源の少ない低速なプロセッサを使っても実用的に座標計算を行うことができる。一方で、頂点の数が多い、複雑な形状をした座標入力領域に対して、高速に座標計算をする必要がある場合には、例えば、DSP(Digital Signal Processor)のような、積和演算機能を持つハードウエアと相性のよい計算方式になっているため、より簡易なプログラムによって高速に座標を計算させるようにすることも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、添付図面に従って、本発明に係る座標入力システムの好ましい実施の形態について詳説する。
<第1の実施の形態>
図1は、第1の実施の形態になる座標入力システムの一例を示す構成図であり、入力パネルが受信側である場合である。指11が入力パネル12の座標入力領域13内で指示した位置(X,Y座標)を検出する座標入力システムの構成図である。面抵抗体14は、透明なガラス、樹脂、または不透明な絶縁基材の片面に塗布、蒸着等により均一に形成したものである。面抵抗体14の表面は、指11が面抵抗体14に直接触れない様に絶縁処理することによって、指11と面抵抗体14との静電容量結合による信号伝達をさせるようにしてもよいし、絶縁処理せず、指11と面抵抗体14の直接的な電気的接触による信号伝達をさせるようにしてもよい。ここでは、面抵抗体14の表面に絶縁処理をした場合を説明する。均一な面抵抗体14の周囲又は内部に、各辺が直線であるN角形の抵抗性周囲電極15を密着配設し、抵抗性周囲電極15の内部を座標入力領域13とする(図1には5角形の例を示す)。抵抗性周囲電極15上において、多角形の座標入力領域13の各頂点に当たる位置を検出電極16〜20とし、そこにそれぞれ1本ずつ引き出し線21〜25を接続する。引き出し線21〜25を、アナログ信号処理部26内の振動電圧印加回路27に接続する。
【0012】
座標を検出する際、AC信号源としての振動電圧発生器28は、振動電圧印加回路27に振動電圧を与え、振動電圧印加回路27は、対応する検出電極16〜20を、低インピーダンスで電圧振動させ、且つ、アナログマルチプレクサ29に検出電極から流入した電流を出力する。簡単な例としては、トランジスタのベースをAC信号で振動させ、エミッタを検出電極と接続して、コレクタから電流出力するものがある。
【0013】
AC信号源としての振動電圧発生器28によって、面抵抗体14は、全面が電圧振動する。人体は、従来から知られているように、AC信号に対して接地効果を持っており、人体の指11が面抵抗体14に接触または近接すると、静電容量結合により、指先を通して面抵抗体14との間にAC信号電流が流れる。検出電極16〜20は、アナログマルチプレクサ29を通してA/Dコンバータ(アナログ/デジタル変換器)29に接続しており、各検出電極に流れる電流に比例した電圧がA/Dコンバータ30に印加されるため、指先から面抵抗体14を通して流れ、検出電極16〜20へ配分される電流値を、電圧値としてデジタル値で得ることができる。CPU31は、アナログマルチプレクサ29を順番に切り替え(図示せず)、A/Dコンバータ30が出力するデジタル値を入力し、後述するような方法で、指11や入力ペンの指示位置の座標を計算する。CPU31は計算した座標を出力し、座標は後段の装置によって利用される。
また、入力ペンから信号を発信する場合も、同様にして計測することが可能である。
【0014】
面抵抗体14は、不透明なカーボン膜または透明なITO(インジウム錫酸化物)膜、NESA(酸化錫)膜、等を、基材上に均一に成膜したものであり、面抵抗値は約1KΩ/□程度が好ましい。
単連結である面抵抗体の周囲又は内部に、各辺が直線であるN角形(長方形を除く)の抵抗性周囲電極を、全ての辺が面抵抗体と電気的に接触する様に設ける。ここで単連結とは、面抵抗体14は内部に孤立した穴が存在しないような形状であり、ひとつながりになっていることを意味するものである。ただし、蒸着等成膜方法によって面抵抗体14上に生じるピンホール程度の大きさの穴のような、面抵抗体14内部の電流の巨視的な流れを阻害しないものであれば、あっても何ら問題にならない。また、受傷などによってより大きな穴が生じた場合は、少なくともその穴の周りで、穴の大きさに応じて座標が歪むものの、穴から離れるほど指11や入力ペンの指示位置の座標計算に及ぼす影響は小さくなるため、穴が小さければ、実用上の問題は生じない。
【0015】
面抵抗体14を取り囲む抵抗性周囲電極15は、カーボン、銀カーボン、又は銀等を密着配設したものであり、例えば、銀インクをスクリーン印刷する等の手法で作成する。抵抗性周囲電極15は、各辺毎に長さ当たりの抵抗値を一定にすることが好ましい。また、抵抗性周囲電極15の抵抗値は低い方がよく、面抵抗体14の面抵抗値を1KΩ/□程度とした場合は、抵抗性周囲電極15の隣り合う頂点間の抵抗値を、20〜200Ω程度にするのが好ましい。
【0016】
抵抗性周囲電極15は、印刷等の手法で形成するうえ、検出電極16〜20に引き出し線21〜25を接続する必要があるため、有限の幅を持つ。このとき、少なくとも抵抗性周囲電極15と面抵抗体14の境界線においては、抵抗性周囲電極15と面抵抗体14が電気的に接触している必要がある。通常、面抵抗体14を成膜した上から抵抗性周囲電極15を形成するが、面抵抗体14が抵抗性周囲電極15の外側にはみ出ていても構わない。その際も、座標入力領域13は、抵抗性周囲電極15の内部である。
【0017】
また、後述する座標計算に用いる抵抗性周囲電極15のN個の頂点の座標(x,y)(j=1,...,N)は、幅を持っている抵抗性周囲電極15と面抵抗体14の境界線が形成するN角形の頂点の座標を使用する。抵抗性周囲電極15上の検出電極16〜20について、引き出し線21〜25を接続している位置が、抵抗性周囲電極15と面抵抗体14の境界線から多少離れていても、抵抗性周囲電極15の抵抗が面抵抗体14の抵抗に比べて低いため、境界線における値を計測するのと同等になる。
【0018】
抵抗性周囲電極15及び面抵抗体14の形状は、基材に収まるものであればよく、必ずしも抵抗性周囲電極15及び面抵抗体14と基材の形状を略一致させる必要はないが、抵抗性周囲電極15及び面抵抗体14と基材の形状を同じようにした方が、座標入力システムを何らかの製品に組み込む際に、組み込む製品のデザイン上の自由度が大きくなるため好ましい。
【0019】
次に、指11や入力ペンの指示位置の座標を計算する方法について説明する。一般的に、関数f(x)のn次モーメントは、x×f(x)を、xの全領域で積分することによって得ることができる。1次モーメントを0次モーメントで除することによって、関数f(x)の重心位置を得ることができる。このことは、関数が2次元(f(x,y))であっても同じように適用可能であり、x×y×f(x)を、xとyの全領域で積分したものが(n+m)次モーメントになる。また関数が離散的な場合には、積分を和に変えればよい。ここで、指11や入力ペンの指示位置から面抵抗体14に流れ込む電流が、検出電極16〜20へ配分される配分のされ方、つまり検出電極16〜20へ配分される電流値の計測値を、検出電極16〜20の座標において定義されるような、離散的な2次元の関数であると想定する。この関数のモーメントを、検出電極16〜20の座標と、各検出電極における計測値を使って、離散的な場合のモーメント計算によって求め、1次モーメントと0次モーメントを用いて重心を計算することにより、指11や入力ペンの指示位置の座標を得ることができる。
【0020】
具体的には、面抵抗体14(ここでは一般的に表現してN角形とする)上の直交座標系(x,y)において、指11で指示した座標を(X,Y)、面抵抗体14のN個の頂点の座標を(x,y)(j=1,...,N)、N個の頂点に流れる電流値をi(j=1,...,N)とすると、指11で指示した座標(X,Y)は、次の数式1によって計算することができる。数式1を用いた座標の計算方法の例示による説明を、図2に示す。
【0021】
【数3】

【0022】
単連結で、直線で構成された多角形であれば、どんな形状の座標入力領域に対しても、数式1によって、指や入力ペンの指示位置の座標を得ることができる。
尚、数式1は、長方形の座標入力領域に対して適用すると、既知の座標計算式と同一のものになる。このことは、数式1が、長方形(正方形を含む)のような、特に計算しやすい形状であった場合に従来から知られていた座標計算式を、任意の多角形に一般化したものであることを示している。
【0023】
<第2の実施の形態>
図3は、第2の実施の形態になる座標入力システムの一例を示す構成図であり、入力パネルが発信側である場合である。第1の実施の形態と同じ箇所については、説明を適宜省略する。座標指示器(入力ペン)32が入力パネル33の座標入力領域34内で指示した位置(X,Y座標)を検出する座標入力システムの構成図である。均一な面抵抗体35の周囲又は内部に、各辺が直線であるN角形の抵抗性周囲電極36を密着配設し、抵抗性周囲電極36の内部を座標入力領域34とする(図3には、凹部を持つ6角形の例を示す)。ここでも第1の実施の形態と同様、面抵抗体14の表面に絶縁処理をした場合を説明する。抵抗性周囲電極36上の、多角形の座標入力領域34の各頂点に当たる位置を駆動電極37〜42とし、そこにそれぞれ1本ずつ引き出し線43〜48を接続する。引き出し線43〜48を、それぞれスイッチ49〜54に接続する。
【0024】
座標を検出するには、信号発生器55によって面抵抗体35にAC電位勾配を与える。電位勾配の与え方は、まず駆動電極37〜42のうちから1つの駆動電極37を選択し、引き出し線43を通じて接続されているスイッチ49を信号発生器55の出力側に接続して、残りの駆動電極38〜42に接続されているスイッチ50〜54を接地側に接続する。このとき、面抵抗体35の、入力ペン32の先端に近い位置のAC信号レベルは、静電容量結合を介して入力ペン32に伝達され、更にケーブル56を通じてアナログ信号処理部57に伝達される。アナログ信号処理部57は、図示しないが、増幅器、帯域通過フィルタ、AC/DC変換器(AM検波器)等を含み、入力したAC信号レベルに比例したDC信号レベルを出力する。A/Dコンバータ58、CPU59は、図1のものと同様であるが、CPU59は、スイッチ49〜54の接続を、任意の組み合わせに設定する機能を有する(図示せず)。
【0025】
CPU59は、A/Dコンバータ58が出力したDC信号レベルのデータを読み取ると、次に、駆動電極37〜42のうちから、次の駆動電極38を選択し、対応するスイッチ50のみを信号発生器55の出力側に接続し、残りの駆動電極37及び39〜42に対応するスイッチ49及び51〜54を接地側に接続して、同様にアナログ信号処理部57で処理し、A/Dコンバータ58が出力したデータをCPU59が読み取る。
この操作を駆動電極の数だけ繰り返し、それらのデータを基にして、後述するような方法で、入力ペン32の指示位置の座標を計算する。
【0026】
入力ペン32の指示位置の座標を計算するには、面抵抗体35(ここでは一般的に表現してN角形とする)上の直交座標系(x,y)において、入力ペン32で指示した座標を(X,Y)、面抵抗体35のN個の頂点の座標を(x,y)(j=1,...,N)、N個の頂点をそれぞれ駆動した際に計測した電圧値をv(j=1,...,N)とすると、入力ペン32で指示した座標(X,Y)は、次の数式2によって計算することができる。
【0027】
【数4】

【実施例】
【0028】
以下、実施例及び比較例により、本発明を説明する。本発明は、以下の実施例に限定されるものでなく、本発明の技術範囲において、種々の変形例を含むものである。
【0029】
(実施例1)
本実施例は、第1の実施の形態に対応するものである。入力パネル12の座標入力領域13の形状は、図4に示すように、隣り合う頂点が凸と凹の関係であるような、手裏剣型とした。多角形としては、凹部を持つ8角形になる。面抵抗体14は、四角いガラス基材の上に、8角形の形状にNESA(酸化錫)膜を形成した。抵抗性周囲電極15は、銀カーボンインクのスクリーン印刷によって手裏剣型に形成し、面抵抗体部13をガラス系コーティング剤で絶縁処理した。抵抗性周囲電極15の8つの頂点に引き出し線を接続し、図1に示した構成図のように作成したハードウエアに接続した。ただし、振動電圧印加回路27は8個使用し、8個の入力を処理できるアナログマルチプレクサ29を使用して、CPU31が入力チャネルを切り替えられるようにした。CPU31から出力される座標データを、シリアル通信によってパソコンに取り込むようにした。
【0030】
指11の指示位置を計算することができるか評価するため、一定間隔でしるしを入れた紙をガラス基材の下に敷き、しるしのうち、面抵抗体14の内部にあるものの上を指11で順番に指示して、座標データをパソコンに記録するという試験を行った。概念図を図4に示す。
結果を図5に示す。分かりやすいように、得られた座標を縦横の格子で接続して描いた。
【0031】
(実施例2)
本実施例は、実施例1のハードウエアとソフトウエアを使用し、入力パネル12を変更したものである。座標入力領域13の形状は、図6に示すように、略C字型の8角形とした。入力パネルの作成方法は実施例1と同様である。
実施例1と同様に試験した結果を、図6に示す。
【0032】
(実施例3)
本実施例は、第2の実施の形態に対応するものである。入力パネル33として、実施例1で作成した、座標入力領域34が手裏剣型の凹部を持つ8角形である入力パネルを使用した。抵抗性周囲電極36の8つの頂点に接続した引き出し線を、図3に示した構成図のように作成したハードウエアに接続した。ただし、スイッチは8個使用し、CPU59は8個のスイッチの接続を、任意の組み合わせに設定できるようにした。また、実施例1と同様に、CPU59から出力される座標データを、シリアル通信によってパソコンに取り込むようにした。
【0033】
入力ペン32の指示位置を計算することができるか評価するため、一定間隔でしるしを入れた紙をガラス基材の下に敷き、しるしのうち、面抵抗体35の内部にあるものの上を入力ペン32で順番に指示して、座標データをパソコンに記録するという試験を行った。
結果を図7に示す。
【0034】
(比較例1)
特許3821002号(特許文献3)に基づいて、座標を計算するには、「必ずしも正対する辺に設けられた電極同士を選択する必要はないが、正対する辺同士を選ぶことが望ましい」ような、略正対する2つの辺を選択して、2つの辺の間を結ぶ座標軸を設定する必要がある。実施例1の構成では、抵抗性周囲電極15のうちから多角形を構成する辺のうち2つを選択することになる。実施例1の構成では、座標軸を自動的に切り替える機能がないので2次元座標を直接計算することはできないが、2つの辺を選択すれば、それぞれの辺の両端にある検出電極、合計4つの検出電極のみを有効とするために、8つの検出電極のうち、選択した辺の両端にない4つの検出電極の引き出し線の接続を外し、選択した2つの辺のそれぞれ両端にある検出電極の計測値を辺ごとに合計することによって、選択した2つの辺の間の座標を計算することができるはずである。従って、手動で引き出し線を接続したり外したりして座標軸を設定し、座標軸ごとに座標値を求めることによって、相当する機能を実現することができるはずである。
【0035】
しかし、そもそも、実施例1や実施例2におけるような、凹部を持つ多角形に対しては、どの2つの辺を選択すべきか、決定することができない。なぜなら、2次元の座標を決定するためには、少なくとも2つの座標軸を設定することが必要だが、実施例1及び実施例2における座標入力領域の形状では、設定した座標軸の範囲外であるような座標が必ず存在してしまうからである。すべての領域をカバーできるように座標軸を多数設定した場合には、有効な座標軸を知るために、範囲外であるような座標軸をどのように除外したらよいか、特許3821002号(特許文献3)には開示されておらず、明確でない。従って、2つの辺を選択して座標軸を設定し、座標を計算する方法では、実施例1や実施例2のような凹部を持つ多角形の形状をした座標入力領域に対して、座標を計算することができない。
【0036】
結果として、実施例1〜3に示した構成においては、指又は入力ペンで指示した位置の座標を求めることができたのに対して、比較例1では、同じ座標入力領域に対して座標を求めることができなかった。従って、本発明に係る座標入力システムが、単連結で各辺が直線であるような多角形の座標入力領域について、座標入力領域の形状によらず、指や入力ペンの指示位置を正確に計算できることが確認された。
【0037】
(実施例4)
本実施例は、第1の実施の形態に対応するものである。座標入力領域13の形状は、図1に示すように、正5角形とした。入力パネルの作成方法は実施例1と同様である。ハードウエアは実施例1と同じものを使用したが、ソフトウエアを変更し、CPU31からは、座標データを出力するのではなく、検出電極16〜20の電流値を計測した値を出力し、パソコンに取り込むようにした。そして、座標の計算をパソコン上で行った。
【0038】
指11の指示位置を計算することができるか評価するため、一定間隔でしるしを入れた紙をガラス基材の下に敷き、しるしのうち、面抵抗体14の内部にあるものの上を指11で順番に指示して、計測データをパソコンに取り込んで座標を計算し、記録するという試験を行った。
結果を図8に示す。
【0039】
(比較例2)
実施例4と同じ構成を用い、特許3821002号(特許文献3)に基づいて、座標を計算するように、手順とソフトウエアを変更した。2つの座標軸として、正5角形の左上の辺と右下の辺を選択し、両辺をつなぐ軸、及び、正5角形の右上の辺と左下の辺を選択し、両辺をつなぐ軸、を設定した。ハードウエアが専用でないため、前者の軸を計測するときは正5角形の左下の頂点にある検出電極の引き出し線の接続を外し、後者の軸を計測するときは正5角形の右下の頂点にある検出電極の引き出し線の接続を外す必要がある。そのようにして計測した数値をパソコンに取り込み、座標の計算をパソコン上で行うようにした。
座標の計算は、次のようにして行った。例えば、正5角形の左上の辺と右下の辺を選択したときは、左上の辺の中点と、右下の辺の中点とを結ぶ線上で、計測データから求めた座標を計算した。次に、計算結果の座標を通り、左上の辺の中点と、右下の辺の中点とを結ぶ線と直交する直線を求めた。この直線と、正5角形の右上の辺と左下の辺を選択して同様に計算した結果得られた直線との交点を求め、その交点の座標を指示位置とした。
【0040】
実施例4と同様に、指11の指示位置を計算することができるか評価するため、一定間隔でしるしを入れた紙をガラス基材の下に敷き、まず正5角形の左下の頂点にある検出電極の引き出し線の接続を外して、しるしのうち、面抵抗体14の内部にあるものの上を指11で順番に指示して、計測データをパソコンに取り込んだ。次に、正5角形の右下の頂点にある検出電極の接続を外して、同様に指11で順番にしるしを指示し、計測データをパソコンに取り込んだ。そして、両者のデータを合わせて座標を計算し、記録するという試験を行った。一か所の座標を計算するのに2回指示しているため、指11の置き方によって誤差が生じることが考えられるが、ここでは細かい精度は問題にしない。
結果を図9に示す。
【0041】
結果として、実施例4に示した構成においては、指又は入力ペンで指示した位置の座標をほぼ正確に求めることができたのに対して、比較例2では、座標が大きく歪んだ。
実施例4と比較例2について、パソコン上でそれぞれ座標を計算するのに必要な演算回数をプログラムから推定すると、比較例2の方が、計算手順が複雑であるため、演算回数が多かった。比較例2において、座標が歪んでいる原因の一つは、例えば、正5角形の左上の辺と右下の辺を選択したときに、二つの辺が互いに平行ではないにもかかわらず、指示位置の座標が、その座標軸において求めた座標を通り、辺の中点同士を結んだ直線と直交する直線上にあると想定したことにあると考えられる。二つの辺が互いに平行でないことを考慮して、求める直線の傾きを調整すれば、最終的に求める指示位置の座標がより正確になる可能性があるが、特許3821002号(特許文献3)にはその点は開示されていない。また、座標軸の数を更に増加させることによっても、座標がより正確になる可能性がある。しかし、これらの手法を実装すると、計算量が更に大きく増大すると見込まれる。従って、本発明に係る座標入力システムが、簡単な計算式によって指や入力ペンの指示位置を計算できることが確認された。

【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】第1の実施の形態になる座標入力システムの一例を示す構成図
【図2】座標の計算方法を例示する図
【図3】第2の実施の形態になる座標入力システムの一例を示す構成図
【図4】第1の実施の形態になる、手裏剣型8角形座標入力領域を持つ入力パネルの試験位置を示す図
【図5】第1の実施の形態になる、手裏剣型8角形座標入力領域を持つ入力パネルの試験結果を示す図
【図6】第1の実施の形態になる、略C字型8角形座標入力領域を持つ入力パネルの試験結果を示す図
【図7】第2の実施の形態になる、手裏剣型8角形座標入力領域を持つ入力パネルの試験結果を示す図
【図8】第1の実施の形態になる、正5角形パネルの試験結果を示す図
【図9】比較例による、正5角形パネルの試験結果を示す図
【図10】従来の正方形の入力パネル
【符号の説明】
【0043】
1 面抵抗体
2 抵抗性周囲電極
3、4、5、6 検出電極
11 指
12 入力パネル
13 座標入力領域
14 面抵抗体
15 抵抗性周囲電極
16、17、18、19、20 検出電極
21、22、23、24、25 引き出し線
26 アナログ信号処理部
27 振動電圧印加回路
28 振動電圧発生器
29 アナログマルチプレクサ
30 A/Dコンバータ
31 CPU
32 座標指示器(入力ペン)
33 入力パネル
34 座標入力領域
35 面抵抗体
36 抵抗性周囲電極
37、38、39、40、41、42 駆動電極
43、44、45、46、47、48 引き出し線
49、50、51、52、53、54 スイッチ
55 信号発生器
56 ケーブル
57 アナログ信号処理部
58 A/Dコンバータ
59 CPU


【特許請求の範囲】
【請求項1】
単連結である面抵抗体の周囲又は内部に、各辺が直線であるN角形(長方形を除く)の抵抗性周囲電極を、全ての辺が面抵抗体と電気的に接触する様に設けると共に、該抵抗性周囲電極の内部を座標入力領域とする座標入力システムであって、前記座標入力領域を指又は信号発信機能を持つ座標指示器で指示したときに、前記抵抗性周囲電極のN個の頂点に流れる電流を計測する電流計測手段と、前記N個の頂点に流れる電流値から前記指又は座標指示器で指示した前記座標入力領域の位置を計算する座標計算手段とを持ち、該座標計算手段は、前記N角形の座標入力領域上の直交座標系(x,y)において、前記指又は信号発生機能を持つ座標指示器で指示した座標(X,Y)を、前記N角形の抵抗性周囲電極のN個の頂点の座標(x,y)(j=1,...,N)、前記N個の頂点に流れる電流値i(j=1,...,N)を用いて、次の数式1によって計算することを特徴とする座標入力システム。
【数1】

【請求項2】
単連結である面抵抗体の周囲又は内部に、各辺が直線であるN角形(長方形を除く)の抵抗性周囲電極を設けると共に、該抵抗性周囲電極の内部を座標入力領域とする座標入力システムであって、前記座標入力領域を座標指示器で指示したときに、前記抵抗性周囲電極のN個の頂点のうち任意の1個の頂点を駆動し残りの(N−1)個の頂点を接地した際の座標指示器の位置の電圧を計測する電圧計測手段と、前記N個の頂点のうち任意の1個の頂点を順次駆動したときに計測した電圧から前記座標指示器で指示した前記面抵抗体の位置を計算する座標計算手段とを持ち、該座標計算手段は、前記N角形の座標入力領域上の直交座標系(x,y)において、前記座標指示器で指示した座標(X,Y)を、前記N角形の抵抗性周囲電極のN個の頂点の座標(x,y)(j=1,...,N)、前記N個の頂点のうち任意の1個の頂点jを順次駆動した際に計測した電圧値v(j=1,...,N)を用いて、次の数式2によって計算することを特徴とする座標入力システム。
【数2】


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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