説明

座標入力装置

【課題】検出領域を分割せずに、短時間に低消費電力で検出してもノイズの影響を抑えることのできる複数座標同時検出可能な抵抗方式のデジタル式の座標入力装置を提供する。
【解決手段】タッチパネル101上の検出領域102における1つの次元に対応する複数の駆動電極103と、他の1つの次元に対応する検出電極104と、駆動電極103と検出電極104とを一定の間隔で離間させるスペーサと、駆動電極103の少なくとも二つ以上の電極に電圧を同時に印加するマルチライン駆動手段151と、検出電極104からの電流を駆動電極103への駆動に同期して測定する電流測定手段152と、電流測定手段152で測定した電流値から検出領域102での指示座標を求める線形演算手段132及び座標演算手段140と、全体の動作を管理する制御手段111とにより構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2次元座標に対応して配置された複数の電極の各交点の抵抗値の変化により、人の指やペンなどによる物体の押し圧力や位置などの指示を検出する座標入力装置に関する。
【背景技術】
【0002】
人の指などの位置を入力する座標入力装置には、静電容量方式、抵抗方式、表面弾性波方式、赤外線方式などが用いられている。
【0003】
この中で、本発明の座標入力装置およびその方法で用いる抵抗方式は、大別して、アナログ式とデジタル式が実用化されている。アナログ式とは、各1枚の抵抗膜からなる上シートと下シートを離間して配置し、指示座標位置で一方のシートに印加された基準電圧を抵抗膜で分圧することにより、他方のシートの抵抗膜に伝達される電圧から2次元の座標位置を検出する構成をとる。このため、複数の座標を同時に指示することができない。
【0004】
一方、本発明の座標入力装置およびその方法で用いるデジタル式とは、アナログ式のタッチパネルにおける上下シートを、上下シート間で互いに直交するように複数の短冊状の電極に分割し、一方のシートを構成する電極に対して順次電圧を印加しながら、他方のシートを構成する電極に伝達される電圧を検出することにより、指示座標を得るものである。このため、複数の座標を同時に指示するとこができる。
【0005】
このような従来の座標入力装置の一例について、図9を基に説明する。
【0006】
従来の座標入力装置において、タッチパネル101には、複数の駆動電極103と複数の検出電極104が互いに離間して直交する方向に配置されている。
【0007】
複数の駆動電極103は、線順次駆動手段121から順次1つの電極毎に選択され、選択された電極のみに電圧を印加し、その他の選択されていない電極の電圧はオフ状態である高インピーダンスにされる。
【0008】
各々の駆動電極103に第一の電圧を印加している間に、各々の検出電極104に伝達される電圧を電圧測定手段122で測定する。検出電極104は、抵抗を介してグランド等の第二の電圧に接続されている。従って、対応する駆動電極103と検出電極104との交点の座標が指示されていない場合には、第二の電圧が検出され、指示されると第一の電圧に近づくように変化する。この電圧の変化により、各交点の押し圧力の強さを検出し、座標演算手段140で各交点の押し圧力を加重平均して指示座標を検出していた(例えば、特許文献1参照。)。
【0009】
図10は、従来の座標入力装置の駆動と電流測定のタイミングを示したものである。横軸は共通の時間軸で、駆動波形1〜6は各駆動電極に印加される電圧波形であり、斜め線によるハッチングはオフ状態でインピーダンスが高く、座標が指示されていても測定する電圧に影響のほとんどないことを示す。電流測定は、各駆動波形が時分割して印加されている間に全ての検出電極に伝達される電圧を測定していた。ここで、駆動波形が変化してから電圧測定を開始するまでに遅れ時間があるのは、駆動電極及び検出電極の分布定数による伝達の遅れに対応するためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特表2007−527061号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
以上に示した従来の座標入力装置では、検出電極の受けるノイズの影響を相対的に小さくするために、電圧の測定回数を多くする必要があった。このため、検出に余分な時間やそのための消費電力を費やすことが課題となっていた。
【0012】
また、検出速度を早くするには、検出領域を分割して同時に検出する必要があったが、配線が煩雑になることが課題となっていた。
【0013】
そこで本発明では、これらの課題を解決するために以下の装置及び方法を提供する。同時に複数の駆動電極に電圧を印加することにより、検出領域を分割せずに、短時間に低消費電力で検出してもノイズの影響を抑えることのできる複数座標同時検出可能な抵抗方式のデジタル式の座標入力装置である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上記課題を解決するために、以下の手段を用いて座標入力装置を提供する。
【0015】
第1の手段として、タッチパネル上の検出領域における1つの次元に対応する複数の駆動電極と、他の1つの次元に対応する検出電極と、駆動電極と検出電極とを一定の間隔で離間させるスペーサと、駆動電極の少なくとも二つ以上の電極に電圧を同時に印加するマルチライン駆動手段と、検出電極からの電流を駆動電極への駆動に同期して測定する電流測定手段と、電流測定手段で測定した電流値を駆動電極と検出電極の各交点の抵抗値に対応した値に変換し検出領域での指示座標を求める演算手段と、マルチライン駆動手段と電流測定手段と演算手段の状態及び工程を管理する制御手段とにより構成する。
【0016】
第2の手段として、上記第1の手段において、検出電極のシート抵抗値は駆動電極のシート抵抗値より小さくする。
【0017】
第3の手段として、上記第1または2の手段において、検出電極の両端から配線を接続する。
【0018】
第4の手段として、上記第1ないし3の手段において、検出電極の長さは駆動電極より短くする。
【0019】
第5の手段として、上記第1ないし4の手段において、駆動電極の各々には、直列に抵抗を付加する。
【0020】
第6の手段として、上記第5の手段において、抵抗の値は、駆動電極により異なること。
【0021】
第7の手段として、上記第1ないし6の手段において、検出電極は、電流測定手段により仮想接地する。
【0022】
第8の手段として、上記第1ないし7の手段において、線形演算手段は、マルチライン駆動手段での駆動を示す符号行列の転置行列と電流測定手段で測定した検出電流行列を掛けることにより各交点の交点導通行列を求める。
【0023】
第9の手段として、上記第1ないし7の手段において、線形演算手段は、マルチライン駆動手段での駆動を示す符号行列の逆行列と電流測定手段で測定した検出電流行列を掛けることにより各交点の交点導通行列を求める。
【0024】
第10の手段として、上記第1ないし7の手段において、マルチライン駆動手段での駆動を示す符号行列が、擬似ランダム列の循環シフト系列である。
【0025】
第11の手段として、上記第1ないし7の手段において、マルチライン駆動手段での駆動を示す符号行列が、アダマール行列もしくはアダマール行列の部分行列もしくはアダマール行列の部分行列の逆行列であることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載の座標入力装置。
【0026】
第12の手段として、上記第11の手段において、線形演算手段が、高速アダマール変換を用いる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、同時に複数の駆動電極に電圧を印加することにより、高速で動作しても安定した指示座標を検出することが出来る座標入力装置及びその方法を実現することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係る座標入力装置の好適な一実施例を示すブロック図
【図2】本発明に係るマルチライン駆動手段の一実施例を示すブロック図
【図3】本発明に係る電流測定手段の一実施例を示すブロック図
【図4】本発明に係る座標入力方法の好適な一実施例を示す工程フロー図
【図5】本発明に係る符号駆動測定工程の一例を示すタイミング図
【図6】本発明に係るタッチパネルの断面構成図
【図7】本発明に係る座標入力装置の他の実施例を示すブロック図
【図8】本発明を用いる情報機器の例を示す図
【図9】従来の座標入力装置のブロック図
【図10】従来の座標入力装置の動作を示すタイミング図
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して詳細に説明する。
【実施例】
【0030】
本発明の好適な実施例を、図1を基に説明する。
【0031】
本発明による座標入力装置は、タッチパネル101上の検出領域102における1つの次元に対応する複数の駆動電極103と、他の1つの次元に対応する検出電極104と、駆動電極103と検出電極104とを一定の間隔で離間させるスペーサと、駆動電極103の少なくとも二つ以上の電極に電圧を同時に印加するマルチライン駆動手段151と、検出電極104からの電流を駆動電極103への駆動に同期して測定する電流測定手段152と、電流測定手段152で測定した電流値から検出領域102での指示座標を求める線形演算手段132及び座標演算手段140と、全体の動作を管理する制御手段111とにより構成する。
【0032】
また、本発明による座標入力方法は、マルチライン駆動手段により複数の駆動電極にそれぞれ異なる時系列符号による電圧を同時に印加しつつ電流測定手段で検出電極からの電流を測定する符号駆動測定工程と、符号駆動測定で得られた測定値を線形演算手段で線形演算することにより各交点の抵抗値に対応した値に変換する線形演算工程と、線形演算工程の出力あるいはその推移から検出領域への指示を求める座標演算工程とにより動作させた。
【0033】
本発明の特徴を、従来例との違いを基にして説明する。
【0034】
(1)駆動手段(駆動測定工程)の相違。従来の線順次駆動手段から本発明のマルチライン駆動手段へ置き換えた。従来、選択的に1つの電極ごと(線順次)に電圧を印加することで駆動していたが、本発明では複数の駆動電極に同時に電圧を印加するという相違点がある。そのため、駆動測定工程においては、従来の線順次駆動する工程から、複数の電極に同時にそれぞれ異なる符号による電圧を印加する駆動測定工程へと置き換えた点が異なる。
【0035】
(2)電極の相違。複数の駆動電極に同時に電圧を印加するため、駆動電極間の干渉を軽減するために、検出電極のインピーダンスを相対的に小さくした点が異なる。
【0036】
(3)測定手段の相違。従来、検出電極は抵抗負荷への電圧を電圧測定手段で測定していた。これに対して、本発明では、検出のインピーダンスをなるべく下げるために、検出電極を仮想接地し、検出電極に流れ込む電流を電流測定手段で測定するようにした。
【0037】
(4)線形演算手段(工程)の相違。従来の線順次駆動では不要であったが、検出電極に流れ込む電流の測定値から駆動電極と検出電極の各交点の抵抗値に対応した値に変換するために、線形演算手段(工程)を追加した。
【0038】
本実施例においては、説明の便宜上時空間の3つの変数n、m、t及び定数N、M、Tを用いる。各々のうちの2つは検出する2次元座標に対応したもので、残りの1つは時間に対応したものである。
【0039】
2次元座標の一方に対応するものとして、駆動電極は対応する座標値が1からNまでの自然数で表される位置ごとに存在し、ある駆動電極は添え字nによって区別されるものとする。もう一方の座標に対応するものとして、同様に検出電極は対応する座標値が1からMまでの自然数で表される位置ごとに存在し、ある検出電極は添え字mによって区別されるものとする。
【0040】
さらに、時間軸に対応するものとして、符号駆動測定工程は1からTまでの自然数で表される複数の期間に時分割され、ある期間は添え字tによって区別されるものとする。但し、期間tは一意的なものではなく、符号駆動測定工程が実行されるごとに存在し、繰り返されるもののである。
【0041】
また、本実施例においては、説明の便宜上、行列表記を用いる。行列の表記方法については、一般的なものと同様に、横方向の要素の並びを行、縦方向の要素の並びを列とし、例えば行列Mの1から始まる上からの行番号i、左からの列番号jに対応する要素をM(i、j)と表すものとする。
【0042】
本実施例で用いる行列を以下に示す。
【0043】
符号行列C(t、n)は、Codeの頭文字で、期間tに駆動電極nに印加する電圧に対応する。例えば、2回目の期間で3番目の駆動電極に印加する電圧は、C(2、3)に対応する。仮に、従来の線順次駆動を符号行列C(t、n)で表すと、単位行列が対応する。
【0044】
検出電流行列D(t、m)は、DetectおよびDigitalの頭文字で、期間tに検出電極に検出電極mに流れ込んだ電流の測定値に対応する値をアナログデジタル変換したものである。
【0045】
交点導通行列N(n、m)は、Nodeの頭文字で、駆動電極nと検出電極mの交点の抵抗値に対応した値である。
【0046】
なお、これらの行列およびこれらの行列を用いた演算については、例えば行と列を入換えた転置行列を用いても、同様に表現することができる。
【0047】
これより本発明による座標入力装置およびその方法について、構成する各手段および各工程を詳細に説明する。
【0048】
タッチパネル101には、例えば図中縦方向の座標に対応する駆動電極103と横方向の座標に対応する検出電極104を互いに直交して配置した。しかし、駆動電極と検出電極の配置はこの限りでなく、斜交座標や角度と原点からの距離からなる円座標など2次元座標に対応するものであればどのように配置しても良い。
【0049】
検出パネルの断面構造の一例を、図6を基に説明する。上シート611の紙面下側に検出電極104が設けられており、下シート621の紙面上側には駆動電極103が設けられている。この逆に、上シート611に駆動電極を設けて下シート621に検出電極を設けるようにしても良い。これらの電極は導電性であり、駆動電極103と検出電極104の交点では微小なスペーサ632により両電極が離間されており、圧力が加えられると両電極が接触して導通するように構成されている。
【0050】
タッチパネルをディスプレイ上に配置するなど、タッチパネルを透明にする場合には、上シート、下シートは透明な樹脂やガラスなどのフィルムであり、駆動電極及び検出電極はITOなどによる透明な電極である。
【0051】
スペーサ632による隙間の代わりに加圧導電性のシートなどを挟むように構成するなど、指示圧力により駆動電極103と検出電極104の交点の抵抗値が変化するようなものであれば、どのように構成しても良い。
【0052】
マルチライン駆動手段151は、複数の駆動電極103に同時に印加する異なる符号を示す符号行列C(t、n)により、各駆動電極を駆動する。マルチライン駆動手段151は、例えば図2に示すように、符号行列参照手段211と、トライステートバッファー221と、抵抗231とにより構成した。
【0053】
符号行列参照手段は、制御手段から期間tを入力し、対応する符号行列C(t、n)を参照して、n番目の駆動電極を駆動するトライステートバッファーの入力端子と制御端子に信号を出力する。
【0054】
この例では、符号行列C(t、n)の各要素を、1か0か−1のいずれかにして、+1の場合には正論理レベルを出力し、−1の場合には負論理レベルを出力し、0の場合にはハイインピーダンスになるようにした。こうして、単一電源で駆動することができる。このような符号行列C(t、n)には、例えば、アダマール行列や、擬似乱数の遅延系列などを用いることが出来る。
【0055】
符号行列参照手段211は、回路構成により実現することもできるが、プロセッサのプログラムやテーブル等により実現しても良い。また、符号行列C(t、n)は、動的に変化するようにしても良い。
【0056】
各トライステートバッファー221の出力に付けられている抵抗231は、駆動電極103のインピーダンスを高くするため、あるいは検出電極104の配線抵抗の影響を軽減するために必要に応じて設ける。
【0057】
各駆動電極103に印加された時系列な符号を示す電圧は、ペンや指などにより駆動電極103が検出電極104と接触することにより導通して検出電極104に伝達される。但し、同時に駆動されている複数の駆動電極103とある検出電極104との複数の交点で同時に接触して導通する場合には、駆動電極103からの符号が他の駆動電極103に吸収されて検出電極104に流れ込む信号が減衰してしまう。この課題を解決するためには、検出電極104のインピーダンスを駆動電極103のインピーダンスより充分小さくすることが望ましく、本発明では、以下の改善を施した。
【0058】
(1)検出電極のインピーダンスを小さくするために、従来検出電極の抵抗負荷に生じる電圧を測定していたが、検出電極を仮想接地して流れ込む電流を測定するようにした。
【0059】
(2)駆動電極自体の抵抗値に対する検出電極自体の抵抗値の比率を小さくする。このため、ある実施例では検出領域の長辺方向の長さと短辺方向の長さの比率が4:3の場合には、駆動電極の長さと検出電極の長さも略4:3で検出電極の長さが短くなるようにした。このように、検出領域が長方形の場合には、検出電極の長さを駆動電極の長さより短かい方に対応させることにより駆動電極自体の抵抗値に対する検出電極自体の抵抗値の比率を小さくする。さらに、検出電極及び駆動電極の厚みによりシート抵抗値を変えても良い。同じ電極材料を用いる場合には、検出電極の厚みを駆動電極の厚みより厚くすればするほど、検出電極の抵抗値を小さくする。例えば、検出電極の正方形当りのシート抵抗値を約80Ωとし、駆動電極の抵抗膜の正方形当りのシート抵抗値を約100Ωとすることにより、駆動電極自体の抵抗値に対する検出電極自体の抵抗値の比率を小さくする。検出電極の抵抗膜の正方形当りのシート抵抗値は、透過率がある程度低下してしまうことを犠牲にすれば、ITOを使用した場合には5Ω程度まで下げることも可能である。これらの値は、材料の電気的および光学的な特性によるもので、今後の材料の改善により更に大きな比率で検出電極の抵抗値を相対的に小さくできる可能性がある。
【0060】
(3)駆動電極に直列に抵抗を設け、相対的に検出電極のインピーダンスを小さくした。ここで、駆動電極に直列に挿入する抵抗については、検出電極の抵抗を補正するために、検出電極の配線端に近い駆動電極ほど大きな値の抵抗を挿入するようにしても良い。
【0061】
(4)検出電極の両端から配線を接続するようにした。図1に示すように、通常タッチパネルを小さくすることができるため、検出電極の片方の端から配線を接続する。図7に一例を示すように、検出電極の両端から配線を接続すると、検出電極の抵抗の影響を小さくすることができる。
【0062】
(5)同時に駆動する電極を指の直径を想定して、10mm以上離れるように、符合行列C(t、n)を決定した。こうすることにより、少なくとも1本の指で指示している場合には、他の駆動電極に流れ込まなくすることができる。
【0063】
但し、これらの項目は必ずしもすべてを行う必要はなく、必要に応じて行うようにすればよい。
【0064】
このように相対的にインピーダンスを低下させた検出電極104に流れ込む電流は、検出電極104から電流測定手段152に流れ込み、電流測定手段152にて測定される。このための電流測定手段152の一例を、図3に示す。図3において、演算増幅器311の入力電圧は、電圧Vmに仮想接地されている。電圧Vmは、演算増幅器311で反転しても単一の電源電圧の範囲からはみださないようにマルチライン駆動手段151の正論理レベルと負論理レベルの電圧の中間の電圧にしたが、特にこの限りではない。検出電極104は仮想接地された演算増幅器の負の入力端子に接続されているため、電圧Vmに制御されている。また、検出電極104に流れ込んだ電流は抵抗Rr321により電圧値に変換される。また、抵抗Rr321は仮想接地の帰還抵抗としても機能している。演算増幅器311の出力端子と負の入力端子に接続されているコンデンサCf331は、高周波ノイズを減衰させるためのもので、必要に応じて設ける。電圧に変換された値は、ADC手段351でアナログデジタル変換される。デジタル値に変換された値は、記憶手段361に記憶される。記憶手段361は、時間により変化する時系列符号の駆動に対応したものである。従って、符号行列の時分割数Tと受信電極の数Mの積の記憶容量を持つようにした。
【0065】
具体的には、電流測定手段では、マルチライン駆動手段により駆動電極に符号行列C(t、n)に対応した電圧波形が印加される毎に、m番目の検出電極に流れる受信電流を測定して、デジタル値に変換し、対応する検出電流行列D(t、m)の値を更新して線形演算手段に出力する。
【0066】
図3では、検出電極104から電流測定手段152に流れ込む電流を一旦電圧に変換してからアナログデジタル変換した場合の電流測定手段152の例を示したが、電流測定手段に流れ込む電流を例えばシグマ・デルタ型のアナログデジタル変換器でデジタル値に変換するなど、検出電極104から電流測定手段152に流れ込む電流を測定するものであれば、どのようなものを用いても良い。
【0067】
また、電流測定手段152を構成する各手段は、各検出電極104毎に設けても良いが、マルチプレクサなどにより時分割して共通の手段で複数の検出電極104に流れ込む電流を測定するようにしても良いことは言うまでもない。
【0068】
図1において電流測定手段152で測定して更新されたデジタル値の検出電流行列D(t、m)は、線形演算手段132での演算により、駆動電極103と検出電極104との2次元の各交点の抵抗値に対応した交点導通行列N(n、m)に変換される。
【0069】
このため、線形演算手段132では、各駆動電極103に印加した時系列の符号を示す符号行列C(t、n)と検出電流値の時間変化を示す検出電流行列D(t、m)について、駆動電極103と検出電極104の各交点ごとに相関を演算して交点導通行列N(n、m)を得る。例えば、3番目の駆動電極と4番目の検出電極の交点の交点導通行列N(3、4)は、3番目の駆動電極に印加された符号を示す符号行列C(t、3)と4番目の検出電極からの電流の測定値を示す検出電流行列D(t、4)の相関により求める。全ての交点の交点導通行列N(n、m)は、検出電流行列D(t、m)の左側から符号行列C(t、n)の転置行列を掛けることにより一括して求めることができる。
【0070】
その結果、相関が得られた交点導通行列N(n、m)に対応するn番目の駆動電極とm番目の検出電極との交点は、指示により導通したことが分かる。電流測定手段の演算結果は、単に相関の有無でも良いし、定量的な相関値でも良い。
【0071】
ここで、各駆動電極103に印加された時系列符号が完全に直交する場合には、導通していない交点に対応する相関演算結果は通常相関なしとなる。しかし、各駆動電極に印加された時系列符号が直交しない場合には、導通していない交点に対応する相関演算結果が必ずしもゼロにならないために、検出結果にクロストークを生じる。クロストークを回避するためには、通常相関演算では転置行列を掛け算するが、相関演算の代わりに逆行列を掛けるようにすれば良い。逆行列は複雑な演算になることが多いが、一般的に直交行列の場合には転置行列と逆行列はある係数を掛けることで一致するため、直交行列を用いると比較的簡単な演算でクロストークのない交点導通行列N(n、m)を得られることが多い。
【0072】
但し、線形演算手段132の演算は必ずしも転置行列や逆行列の掛け算を行う必要はなく、符号行列C(t、n)の転置行列や逆行列の要素の値が0になる項については演算の必要がないし、要素の値が1または−1に同一の係数を掛けた値の場合には単純な加減算を行えば良い。つまり、符号行列C(t、n)の転置行列や逆行列の全要素に同一の係数を掛けてから数式1の演算を行うようにしても良い。こうすることにより、小数の要素をすべて整数にすれば、演算が簡単になるからである。特に0を除くすべての要素の絶対値が同一の小数の場合などには、係数倍によりすべての要素を1か0か−1にすることができるため、簡単な加減算のみにするとこができる。係数倍しても、座標演算手段140では、絶対値でなく相対値で座標演算するため、演算の結果には殆ど影響がないという特徴があるため、各要素を整数になるよう係数倍することは有益である。
【0073】
【数1】

相関演算や逆行列を掛ける演算の結果得られる交点導通行列N(n、m)の値は、実際には送信電極103や受信電極104の配線抵抗や直列抵抗の影響を受けており、必要に応じて交点の位置による補正を行うようにしても良い。
【0074】
また、相関演算や逆行列を掛ける演算の結果得られる交点導通行列N(n、m)の値が、一つの検出電極104について、複数の駆動電極103との交点で導通していることを示している場合には、導通の程度から駆動電極間で流れる電流による減衰分を推測して補正するようにしても良い。
【0075】
線形演算手段132は、演算回路により実現しても良いが、プログラマブルなプロセッサなどにより実現しても良い。
【0076】
座標演算手段140では、線形演算手段132で求めた駆動電極103と検出電極104との2次元の各交点の抵抗値に対応した交点導通行列N(n、m)の値から、指示物体の有無及び指示座標を求める。各交点の抵抗値に対応した値が単に相関の有無の場合には、隣接する相関ありの交点の座標の平均を指示座標とし、各交点の相関値の場合にはある閾値を超える交点が隣接する場合には加重平均により指示座標を求めるようにした。さらに、指示座標の変化や同時に指示される複数の座標の変化などからジェスチャーを判定するようにしても良い。座標演算手段140の演算は、線形演算手段と同様に、演算回路により実現しても良いが、プログラマブルなプロセッサなどにより実現しても良い。
【0077】
制御手段111は、座標入力装置および座標入力方法全体の状態及び工程を制御する。ここでいう状態とは、例えば電流測定中などの状態を指し、工程とは電流測定のONやOFFの手順などを指す。制御手段は、通常プロセッサ等により実現されるが、シーケンサなどにより実現しても良いことは言うまでも無い。本発明による近接検出方法全体の工程フロー図の一例を図4に示す。
【0078】
図4において、メイン工程430は、符号駆動測定工程440と線形演算工程450のハンドリングを行う。符合駆動測定工程440では、駆動電極103に符号を印加しつつ検出電極104に流れ込む電流を電流測定手段152で測定する。線形演算工程450では、線形演算手段132で駆動電極103と検出電極104の各交点の抵抗値に対応した値に変換する。線形演算工程450を終了すると座標演算工程460を実行する。座標演算工程460では、座標演算手段140で指示の有無及び指示座標あるいはジェスチャーなどを演算により求める。符号駆動測定工程440あるいは座標演算工程460が終了するとメイン工程430に戻る。
【0079】
通常、メイン工程430は、指示座標入力中には5〜100ミリ秒毎に、毎符号駆動測定工程440を行う。但し、送信電極と受信電極との全交点について相関のない入力待ち状態では、符号駆動測定工程440の実行頻度を低くすることにより、消費電力を低減する。さらに、メイン工程430は、通常符号駆動測定工程440で一通りの検出について最新の電流測定値に更新した後に、線形演算工程450と座標演算工程460を順に行う。
【0080】
但し、全体の工程フローは図4に示す例に限られるものではなく、線形演算工程と座標演算工程は、符号駆動測定工程とは非同期に実行するようにしても良い。例えば、符号駆動測定工程の実行中でも、常に最新に更新された電流測定結果に基づいて、線形演算手段と座標演算手段を並列処理により繰り返し実行するようにしても良い。あるいは、線形演算手段や座標演算手段の実行中に割り込み処理で符号駆動測定工程を実行するなど、図4に示すフロー以外でも、最新の指示座標を得られるフローは、多様に決定し得る。
【0081】
検出対象の物体が未だ接近していない場合で正確な位置の演算をする必要がない場合などでは、いわゆるパワーセーブモードとして、必ずしも符号行列C(t、n)の全ての期間tについて駆動電極103への駆動と検出電極104からの電流測定を行う必要はない。最低限、全ての駆動電極103が駆動されるための符号行列C(t、n)の期間tについてのみ駆動すれば良い。例えば、後述する数式2に示す符号行列C62を用いる場合には、期間tの1〜3についてのみ駆動すれば全ての駆動電極103が駆動される。つまり、駆動電極103の数よりも駆動する期間tの数のほうが少ない回数で駆動する。この場合には変化のみを抽出できれば良いからである。従来の線順次駆動では駆動測定工程の頻度を低くすることで消費電力を削減していたが、マルチライン駆動の場合には符号駆動測定工程の頻度を低くするばかりでなく1回の符号駆動測定工程の期間の数も減らすことにより更なる低消費電力を可能にする。
【0082】
【数2】

符号駆動測定工程440のタイミングの一例について、図5を基に、より詳細に説明する。図5の例は、説明の便宜上、少ない期間による簡単なタイミングを示したものである。図5において、横軸は共通の時間軸で、期間tは期間の番号を示し、駆動電極1〜6は符号行列C(t、n)が後術する数式2の場合に各々1〜6番目の駆動電極に印加される電圧波形であり、電流測定は電流測定を行うタイミングを表している。駆動電極1〜6の斜め線によるハッチングは、オフ状態でインピーダンスが高く、座標が指示されていても測定する電圧に影響のほとんどないことを示している。電流測定は、各駆動波形が時分割して印加されている間に全ての検出電極に流れ込む電流を測定している。ここで、駆動波形が変化してから電流測定を開始するまでに遅れ時間があるのは、駆動電極103及び検出電極104の分布定数による伝達の遅れに対応するためである。
【0083】
本発明では、図5に示すように複数の駆動電極に同時に電圧を印加しているが、電流測定のタイミングは図7に示す従来の線順次駆動の場合と特に異なるところはない。
【0084】
これより、本発明の特徴である符号行列C(t、n)の各要素の値と特徴について説明する。なお、以降の例において便宜上比較的小さい行列でその特徴を説明するが、その限りでないことは言うまでもない。
【0085】
符号行列C(t、n)の要素の値は、駆動回路を簡単にするためには、1か0か−1に同一の係数を掛けた値であることが望ましい。
【0086】
符号行列C(t、n)は、擬似ランダム列の遅延系列を用いることが出来る。但し、擬似ランダム列の遅延系列は、直交するとは限らない。直交しない場合には、相関による線形演算の結果にクロストークを生じる。数式3に示す符号行列C71(t、n)の例は、1行ごとに1つずつ右に循環シフトして決定された直交する遅延系列である。
【0087】
【数3】

符号行列C(t、n)は、その要素が1もしくは−1のみで構成される直交行列であるアダマール行列を用いることができる。但し、アダマール行列は、すべての行数あるいは列数で存在するわけではないので、駆動電極の数に若干の制約がある。数式1に示す符号行列C81(t、n)の例は、8行8列のシルベスターの生成法によるアダマール行列である。
【0088】
符号行列C(t、n)は、前述したアダマール行列の部分行列を用いることが出来る。数式4に示す符号行列C72(t、n)の例の例は、数式1に示すアダマール行列C81(t、n)の1行目と1列目を除いた部分行列である。
【0089】
【数4】

符号行列C(t、n)は、部分行列に複数のアダマール行列をもつ行列を用いることができる。数式5に示す符号行列C82(t、n)の例は、3つのシルベスターの生成法による2行2列のアダマール行列を部分行列に持つ。
【0090】
【数5】

符号行列C(t、n)は、行の順番や列の順番を入れ換えても良い。数式2に示す符号行列C83(t、n)の例は、数式5に示す符号行列C82(t、n)の行も列も奇数番目を前に寄せたものである。列の並べかえは、近くにある複数の送信電極を同時に駆動しないようにしたもので、1本の指の指示によりある受信電極と近くにある複数の送信電極の交点が同時に接続して信号が減衰する確率を小さくすることができる。行の並べかえは、同一の駆動電極を駆動しない時間が長くならないように分散させることにより、検出の応答を改善する。
【0091】
符号行列C(t、n)がシルベスターの生成法によるアダマール行列の場合には、線形演算手段132および線形演算工程で逆行列を掛ける場合に、高速アダマール変換を活用して演算量を少なくすることができる。高速アダマール変換を活用できるのは、符号行列C(t、n)がシルベスターの生成法によるアダマール行列の場合だけではない。シルベスターの生成法によるアダマール行列の行や列の順番を入れ換えた行列や、任意の行や列をマイナス1倍した行列の場合でも、同様に高速アダマール変換を活用することができる。さらに、符号行列C(t、n)がこれらの行列の部分行列の逆行列の場合にも、高速アダマール変換を活用することができる。数式6に示す符号行列C73(t、n)の例は、シルベスターの生成法による8行8列のアダマール行列の部分行列である数式4に示す符号行列C72(t、n)の逆行である。
【0092】
【数6】

以上に本発明による線形演算で送信電圧行列の逆行列を演算する場合の実施例について、高速アダマール変換を応用して効率的に高速化する方法を詳細に説明したが、演算の途中結果を記憶することにより受信電流の値から送信電極と受信電極の各交点の静電容量に対応した値を高速で求める方法はこの限りではない。例えば、本発明による演算の高速化は、従来の相関演算に送信電極と受信電極の各交点の静電容量に対応した値を求める際にも同様に用いることができる。つまり、共通した演算の途中結果を記憶手段で記憶して、複数回読み出すことにより、演算量を削減することができる。但し、相関演算では、演算の重複は通常少ないために、高速アダマール変換を応用した送信電圧行列の逆行列演算のように効率的に演算量を削減するものではない。
【0093】
以上に示したように、本発明による座標入力装置及びその方法を用いると、同時に複数の駆動電極に電圧を印加することにより、検出領域を分割せずに、短時間に低消費電力で検出してもノイズの影響を抑えることのできる複数座標同時検出可能な抵抗方式のデジタル式の座標入力装置及びその方法を実現することができる。
【0094】
また、本発明による座標入力装置及び座標入力方法により、図8aに示すような携帯電話や図8bに示すようなマルチメデイアプレーヤーや図8cに示すようなナビゲ―ションシステムや図8dに示すようなコンピュータなどのディスプレイ装置上に透明な検出パネルを重ねることにより、ノイズに強い安定したスムーズな操作を可能にした携帯機器やコンピュータなどの情報機器を構成することが出来る。
【0095】
図8(a)〜(d)に示す情報機器の構成として、情報機器を保護するケース820と、情報を出力するディスプレイと、ディスプレイ上に設置された検出領域102からの入力を受け付け物体の接近や位置を特定する本発明の座標入力装置と、座標入力装置からの入力と、ディスプレイへの出力を制御するCPUと、により成り立つ。また、図8(a)、図8(b)や図8(d)に示されるようにキーボード830が情報機器に備え付けられていても良い。
【符号の説明】
【0096】
101 タッチパネル
102 検出領域
103 駆動電極
104 検出電極
110 制御手段(従来例)
111 制御手段
151 マルチライン駆動手段
152 電流測定手段
132 線形演算手段
140 座標演算手段
211 符号行列参照手段
221 トライステートバッファー
231 抵抗
311 演算増幅器
321 抵抗Rr
331 コンデンサCf
351 ADC手段
361 記憶手段
430 メイン工程
440 符号駆動測定工程
450 線形演算工程
460 座標演算工程
611 上シート
621 下シート
632 スペーサ
820 ケース
830 キーボード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
指あるいはペンなどにより指示座標を入力する座標入力装置であって、
タッチパネル上の検出領域における1つの次元に対応する複数の駆動電極と、他の1つの次元に対応する検出電極と、
前記駆動電極と前記検出電極とを一定の間隔で離間させるスペーサと、
前記駆動電極の少なくとも二つ以上の電極に電圧を同時に印加するマルチライン駆動手段と、
前記検出電極からの電流を前記駆動電極への駆動に同期して測定する電流測定手段と、
前記電流測定手段で測定した電流値を前記駆動電極と前記検出電極の各交点の抵抗値に対応した値に変換し前記検出領域での指示座標を求める演算手段と、
マルチライン駆動手段と電流測定手段と演算手段の状態及び工程を管理する制御手段とにより構成される座標入力装置。
【請求項2】
前記検出電極のシート抵抗値は前記駆動電極のシート抵抗値より小さい請求項1に記載の座標入力装置。
【請求項3】
前記検出電極の両端から配線を接続する請求項1または2に記載の座標入力装置。
【請求項4】
前記検出電極の長さは前記駆動電極より短い請求項1ないし3のいずれか1項に記載の座標入力装置。
【請求項5】
前記駆動電極の各々には、直列に抵抗が付加されている請求項1ないし4のいずれか1項に記載の座標入力装置。
【請求項6】
前記抵抗の値は、駆動電極により異なる請求項5に記載の座標入力装置。
【請求項7】
前記検出電極は、前記電流測定手段により仮想接地されている請求項1ないし6のいずれか1項に記載の座標入力装置。
【請求項8】
前記線形演算手段は、前記マルチライン駆動手段での駆動を示す符号行列の転置行列と前記電流測定手段で測定した検出電流行列を掛けることにより各交点の交点導通行列を求める請求項1ないし7のいずれか1項に記載の座標入力装置。
【請求項9】
前記線形演算手段は、前記マルチライン駆動手段での駆動を示す符号行列の逆行列と前記電流測定手段で測定した検出電流行列を掛けることにより各交点の交点導通行列を求める請求項1ないし7のいずれか1項に記載の座標入力装置。
【請求項10】
前記マルチライン駆動手段での駆動を示す符号行列が、擬似ランダム列の循環シフト系列である請求項1ないし7のいずれか1項に記載の座標入力装置。
【請求項11】
前記マルチライン駆動手段での駆動を示す符号行列が、アダマール行列もしくはアダマール行列の部分行列もしくはアダマール行列の部分行列の逆行列である請求項1ないし7のいずれか1項に記載の座標入力装置。
【請求項12】
前記線形演算手段が、高速アダマール変換を用いる請求項11に記載の座標入力装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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