説明

座面移動椅子

【課題】足腰に負担をかけずに、安全で、かつ、安心して椅子に着座したり、椅子から立ち上がったりできるようにする。
【解決手段】座面11がバネ14aで、前方に回動するようにした椅子で、背もたれ13を回動自在に連結された肘掛12と座面11とで構成されるリンク機構により、座面11の回動中も、常に、起立状態を保つようにして、椅子への着座や椅子から立ち上がる際の移動中の腰や背中を背もたれ13に預けられるようにする。こうすることで、不安な状態に置かれることがないようにして、安全で、かつ、安心して着座したり、立ち上がったりできるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、足腰に負担をかけずに、安全で、かつ、安心して着座したり、立ち上がったりできるようにした座面移動椅子に関する。
【背景技術】
【0002】
脚部が衰えた者や弱った者でも膝関節に負担をかけずに着座したり、立ち上がったりできる椅子として、例えば、特許文献1に記載されたものがある。
【0003】
この椅子は、図9に示すように、椅子の座部1を構成する下板2と座面3との間に、U字形のバネ4を取り付けたもので、U字形のバネ4の取り付けられた座面3は、フックを用いたストッパー5で、下板2に係止する構成となっている。
このような椅子では、着座状態で、ストッパー5を解放すると、座面3は、図の破線のように、U字形のバネ4の反力に付勢されて円弧を描いて跳ね上がる(最大45度)。そのため、椅子に着座している人は、肘掛に両手を添えて態勢を整えていれば、膝に必要以上の負担をかけずに、U字形のバネの反力で立ち上がることができる。
一方、着座の場合は、跳ね上がった座面3は45度に傾斜しているので、その状態から着座すれば、着座時の衝撃はバネ4の反力によって緩和することができる。
このように、座面3がアシストするので、膝関節に負担をかけずに着座をしたり、立ち上がったりできるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実用新案登録第3022144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のものでは、屈んで、跳ね上がった座面板にお尻をあて、徐々に体重を座面へ移動させて着座する。その際、移動中の腰や背中は、何処にも支持されることはなく、何処にも預けることができないので、不安な状態に置かれることになる。そのため、思わず、「ドスン」と尻餅をついて着座することになる。特に、脚部が衰えた者や弱った者では、体重の移動が上手くできないため、不安が強く働いて座り難いと考えられる。
また、この椅子から立ち上がる場合も、座面に押されて腰を浮かせた時に、何処にも腰や背中が支持されず、何処にも預けることができないため、脚部が衰えた者や弱った者では、やはり不安な状態になってしまう問題がある。
【0006】
そこで、この発明の課題は、足腰に負担をかけずに、安全で、かつ、安心して着座したり、立ち上がったりできるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、この発明では、前部が着座部の前方に回動自在に取り付けられ、後部が背もたれの下方に回動自在に連結されて、着座部に戴置される座面と、着座部の両側に設けた支柱部に一端が回動自在に取り付けられ、他端が背もたれの上方に回動自在に連結された肘掛と、前記座面を着座部の前方側へ回動するように付勢する弾性部材とで構成され、前記背もたれが座面の回動中も起立するようにした構成を採用したのである。
【0008】
このような構成を採用したことにより、背もたれは、回動自在に連結された肘掛と座面とで構成されるリンク機構により、常に、起立状態を保つことができるようになっている。そのため、着座の際に、屈んで、跳ね上がった座面にお尻をあて、例えば、肘掛に手を添えて、徐々に座面に体重を移動すると、起立した背もたれが、腰や背中に接して支持するので、そのまま、足腰に負担をかけずに安心して着座できる。このとき、着座時の衝撃は、弾性部材が緩和し着座をアシストする。そのため、自然な座り方ができる。一方、椅子から立ち上がる場合は、腰を浮かせた際に、座面に押し上げられると同時に、起立した背もたれが、腰や背中に接して支持するので、足腰に負担をかけずに安心して立ち上がることができる。このように、着座や立ち上がる際に、移動中の腰や背中を背もたれに預けられるため、不安な状態に置かれることはなく、安全で、かつ、安心して着座したり、立ち上がったりできる。
【0009】
また、このとき、上記座面または背もたれに係合して座面を着座部に止めるストッパー機構を設けた構成を採用することができる。
【0010】
このような構成を採用することにより、ストッパー機構は、椅子を使用しない時に、座面あるいは背もたれに係合させて、座面を着座部に固定する。こうすることで、通常の椅子として扱える。また、ストッパー機構は、着座中に使用して、座面を着座部に固定することで、着座した使用者が立ち上がる向きの押圧を受けないようできる。
【0011】
また、このとき、座面の回動を規制する緩衝機構を設けた構成を採用することができる。
【0012】
このような構成を採用することにより、座席の回動速度を遅くして座席への着座や座席からの起立を優しくサポートできるようにする。
【0013】
さらに、このとき、上記座面、肘掛、弾性部材を備え、上記ストッパー機構あるいは上記緩衝機構のいずれか一方、または両方を備えた車椅子の構成を採用することができる。
【0014】
このような構成を採用することにより、車椅子に着座する際や車椅子から降りる際に、移動中の腰や背中を背もたれに預けられるため、不安な状態に置かれることはなく、体の不自由な人も安全で、かつ、安心して使用できる。
【発明の効果】
【0015】
この発明は、上記のように構成したことにより、足腰に負担をかけずに、安心、かつ、安全に着座したり、立ち上がったりできる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施形態の斜視図
【図2】実施形態の側面図
【図3】図2のA−A´断面図
【図4】(a)実施形態の作用説明図、(b)図4(a)の要部断面拡大図
【図5】実施形態の作用説明図
【図6】(a)実施例1の側面図、(b)図6(a)の作用説明図
【図7】(a)実施例1の他の態様を示す側面図、(b)図7(a)の作用説明図
【図8】実施例2の側面図
【図9】従来例の作用説明図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、この発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。この形態の座面移動椅子は、図1に示すように、着座部10、座面11、肘掛12、背もたれ13、弾性部材14及びストッパー機構15とで構成されている。
【0018】
着座部10は、図1のように、座面11を戴置する部分で、この形態では、脚部16を構成するフレームを用いている。
すなわち、この形態では、脚部16は、前・後、2本ずつの計4本の脚16a、bを有するもので、前脚16aと後脚16b間及び後脚16b間に横木17a〜cを組み合わせたフレーム構造となっている。そのため、図のように、掛け渡した横木17a〜cを利用して着座部を形成する構造となっている。なお、図中の符合18は、座面11を水平にするためのスペーサーである。
【0019】
座面11は、2本のロッド11a、bに座板11cを渡したもので、2本のロッド11a、bの間隔(この形態では座板11cの幅)は、着座部10のフレームの幅と同じにして、フレーム上にロッド11a、bが載るようにしてある。
このロッド11a、bの両端部には、軸20a、bが取り付けられている。前記この両端の軸20a、bは、座面11の前部(端)の軸20aは外側に、後部(端)の軸20bは内側に突出させてあり、それぞれ、着座部10と背もたれ13に連結するようになっている。そのため、着座部10と背もたれ13は、前記軸20a、bを支持するための軸受け部21a、bが設けられている。
すなわち、着座部10の軸受け部21aは、金属板に孔を設けて軸20aを嵌合するようにしたもので、孔には、例えば、焼結含油軸受け(オイルレスベアリング)などを嵌入するようにすれば、回動をスムースに行うようにできる。この軸受け部21aは、図1のように、着座部前方のフレーム(横木17a、b)の側面に取り付け、軸受け部21a、bがフレーム(横木17a、b)上に食い込まないようにしてある。こうすることで、フレーム(横木17a、b)上に、座面11を回動自在に連結した状態で、座面11のロッドを戴置できるようにしてある。
一方、背もたれの軸受け部21bは、背もたれ13の下方に穴を設けて軸20bを嵌合するようにしてある。
【0020】
ここで、背もたれ13は、2本の棒部材の間に背もたれ用の板部材を渡したもので、背もたれ13の幅を着座部10の幅より少し狭くして、着座部10のフレームの内側に嵌るようにしてある。こうすることでフレーム(横木17a、b)上に、座面を回動自在に連結した状態で、座面11のロッド11a、bを戴置できるようにしてある。
また、この背もたれ13の棒部材の上方に、この形態では中程辺りに穴を設けて肘掛12を回動自在に連結するようになっている。
【0021】
肘掛は、図1のように、四角柱の両端に軸22a、bを設けたもので、その軸22a、bを設けた他端22bを前述の背もたれ13の上方の穴に嵌合して取り付けてある。このとき、前記穴には、例えば、焼結含油軸受けを嵌入することで、回動自在に連結している。
一方、肘掛12の一端の軸22aは、着座部の両側に設けた支柱23と連結するようにしてある。
【0022】
支柱23は、この形態の場合、前脚16aを上方に延長して形成したもので、先端を内向きに折り曲げてL形とし、そのL形の部分の外側に軸受け部21aを形成してある。この軸受け部21aは、先のものと同様に穴を設けて、例えば、焼結含油軸受けを嵌入することで、回動自在としたものである。
このとき、この形態では、L形の外側に軸受け部21aを設けたので、肘掛12と背もたれ13との連結はスペーサー24を介して軸を嵌合し、支柱23との取り付けの際の寸法合わせをするようにしてある。このように、肘掛12を張り出すことで、座面11のロッド11a、bとの衝突を避けるようにしてある。
なお、この形態では、支柱23は、前脚16aを延長して設けたが、これに限定されるものではない。前脚16aを延長するのではなく、着座部10の両側のフレーム(横木17a、b)上に形成してもよい。そのとき、形成した支柱23が座面11のロッド11a、bと衝突する場合は、支柱23をフレーム(横木17a、b)の外側の側面に張り出すようして設けて、避けるようにすればよい。また、肘掛12の長さもそれに合わせて調整することは当然である。
【0023】
弾性部材14は、この形態では、キックバネ(コイルバネ)14aを使用しており、キックバネ14aは、図3(図2のA−A´断面)のように、座面11のロッド11aに内蔵してロッド11aの軸20aに装着してある(図3では、一方しか示していないが、両側に設けてある)。そのため、座面11は、前記バネ14aによって、着座部10の前方側へ回動するように付勢される。
なお、この形態では、弾性部材14としてキックバネ14aを示したが、弾性部材14は、これに限定されるものではない。これ以外に、例えば、ゴム、弾性樹脂、エアーシリンダなどの弾性を呈する部材を使用することができる。
【0024】
また、この移動椅子には、ストッパー機構15が設けられている。前記ストッパー機構15は、図4(a)のように、フック25を用いたものである。
すなわち、フック25を着座部10の側部に取り付け、図4(b)のように、コイルバネ26で付勢して、座面11のロッド11aに設けたピン27に係合するようにしてある。そして、前記フック25を支柱(前脚)23に回動自在に取り付けたレバー28とリンク機構29を介して接続したものである。
そのため、このストッパー機構15では、図4(a)の破線のように、座面11が下降すると、ロッド11aのピン27が、フック25の頭を押して回動する。さらに、座面11が回動して、座面11のロッド11aがフレーム17aに載ると、フック25はバネ26に付勢されて、図4(a)の実線のように回動し、ロッド11aのピン27に係合する(嵌る)。
一方、このストッパー機構15を解除するには、レバー28を内側に動かす(座った状態で手前に引く)。すると図4(a)の矢印のようにリンク機構29が作動し、フック25が回動して、ピン27との係合を解除にすることができる。
また、このとき、フック25は、レバー28を離してもバネ26によって作動状態を保持できるというものである。
【0025】
この形態は、以上のように構成され、この椅子は、例えば、使用しない時は、図2のように、フック25をピン27に係合させた状態にして座面11を着座部10に載置した状態に固定しておく。
【0026】
使用の際は、レバー28を手前に動かしてストッパー機構15を解除する。すると、座面11はキックバネ(弾性部材)14aにより押されて回動し、図5のように、例えば50°程度(この角度は、椅子の形態や使用条件により適宜決められる)の起き上がった状態になる。このとき、背もたれ13は、肘掛12と座面11とで構成されるリンク機構により、常に、起立状態を保つようにしてある(例えば、肘掛12の長さと座面11のロッド11a、bの長さを調節して起立状態を保つようにする。勿論、両部材11、12の背もたれ13への取り付け位置の考慮は必要である)。
そのため、屈んで、跳ね上がった座面11にお尻をあて肘掛12に手を添えて、徐々に座面11に体重を移動すると、起立した背もたれ13が腰や背中に当たり、腰や背中を支持する。一方、座面11は、バネ14aの反力で支えて着座をアシストする。そのため、自然な状態で足腰に負担をかけずに着座できる。
このとき、図4(a)のように、フック25は、ピン27に押されて回動し、ピン27に着座と同時に係合して、座面11を固定する。その結果、キックバネ(弾性部材)14aによる押し圧を受けないので、安定して着座できる。また、座面11が固定されるので、安心して着座を続けられる。
【0027】
一方、立ち上がる場合は、ストッパー機構15のレバー28を押して(外向き)解除状態にする。そして、腰を浮かせて立ち上がると、座面11がキックバネ(弾性部材)14aに押されて同時に立ち上がる。同時に、起立した背もたれ13によって腰や背中が支持されるので、足腰に負担をかけずに立ち上がることができる。
【0028】
このように、移動中の腰や背中を背もたれに預けられるため、不安な状態に置かれることはなく、安全で、かつ、安心して着座したり、立ち上がったりできる。
【実施例1】
【0029】
この実施例1は、図6、7に示すように、緩衝機構(ショックアブソーバー)30を設けたものを示す。
図6(a)、(b)のものは、緩衝機構30としてエアーシリンダ30aを用いたもので、エアーシリンダ30aは、図6(a)、(b)のような2本の関節を有するリンク機構31を用いて座面11の回動の規制を行うようにしたものである。このようにエアーシリンダ30aを用いることで、バネ14aだけのものより、座面11の回動速度を遅くできる。したがって、安全で、かつ、安心して着座したり、立ち上がったりできる。
他の構成及び作用効果については実施形態と同じなので同一符号を付して説明は省略する。
【0030】
一方、図7(a)、(b)のものは、緩衝機構30に歯車30bとレール30cを用いたものである。
すなわち、着座部10に歯車30bを設け、その歯車30bと歯合する扇形のレール30cを座面11に取り付けたものである。このとき、歯車30bには、歯車30bの回転を規制するための負荷、例えば、ブレーキシューのようなものを取り付けてある。こうすることで、座面11の回動速度を遅くして座席への着座や座席からの起立を楽にできるようにしてある。
他の構成及び作用効果については実施形態と同じなので同一符号を付して説明は省略する。
【実施例2】
【0031】
この実施例2は、上記の座面11、肘掛13、背もたれ13、弾性部材14を備えた車椅子を示したものである。この車椅子では、上記のストッパー機構15あるいは上記の緩衝機構30を記載していないが、これらストッパー機構15や緩衝機構30を備えることは当然である。
この車椅子では、車椅子に着座する際や車椅子から降りる際に、移動中の腰や背中を背もたれに預けられるため、不安な状態に置かれることはない。そのため、特に、体の不自由な人も安全で、かつ、安心して使用できる。
なお、車輪の部分以外の構成及び作用効果については、実司形態のものと同じなので、図面に同一符合を付して説明は省略する。
【符号の説明】
【0032】
10 着座部
11 座面
12 肘掛
13 背もたれ
14 弾性部材
14a キックバネ
15 ストッパー機構
17a〜c 横木
21a、b 軸受け部
22a、b 軸
23 支柱
29 リンク機構
30 緩衝機構
30a エアーシリンダ
30b 歯車
30c レール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前部が着座部の前方に回動自在に取り付けられ、後部が背もたれの下方に回動自在に連結されて、着座部に戴置される座面と、
着座部の両側に設けた支柱部に一端が回動自在に取り付けられ、他端が背もたれの上方に回動自在に連結された肘掛と、
前記座面を着座部の前方側へ回動するように付勢する弾性部材とで構成され、
前記背もたれが座面の回動中も起立するようにした座面移動椅子。
【請求項2】
上記座面または背もたれに係合して座面を着座部に止めるストッパー機構を設けた請求項1に記載の座面移動椅子。
【請求項3】
上記座面の回動を規制する緩衝機構を設けた請求項1または2に記載の座面移動椅子。
【請求項4】
前部が着座部の前方に回動自在に取り付けられ、後部が背もたれの下方に回動自在に連結されて、着座部に戴置される座面と、
着座部の両側に設けた支柱部に一端が回動自在に取り付けられ、他端が背もたれの上方に回動自在に連結された肘掛と、
前記座面を着座部の前方側へ回動するように付勢する弾性部材とで構成され、前記背もたれが座面の回動中も起立するようにした車椅子に、
前記座面または背もたれに係合して座面を着座部に止めるストッパー機構あるいは前記座面の回動を規制する緩衝機構のいずれか一方、または両方を備えた座面移動椅子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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