説明

廃はんだペーストの成分分離方法および再生方法

【課題】はんだペーストは、低温で貯蔵されており、一度開封された後は、使いきるのが原則で、余ったはんだペーストは基本的に廃棄される。この廃棄されるはんだペーストを再利用する際のはんだ粉末と添加物の成分分離方法とそれによるペーストの再生方法を提供する。
【解決手段】はんだペーストを回収分別する分別工程と、この回収されたはんだペーストと溶媒を混合し混合液を得る混合工程により回収されたはんだペーストを溶媒で複数回洗浄し、はんだ粉末と不溶性物質と溶媒に分離する分離工程を経た後、はんだ粉末を乾燥させ、新たなフラックスと混合してはんだペーストに再生する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、はんだのリサイクルに関する発明であり、特にはんだペーストを再利用する際のはんだ粉末と添加物の分離に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
近年の電子部品の微細化・高密度化に伴い、簡便に且つ高精度での実装を可能としたはんだペーストは、電子機器組み立て過程において無くてはならない技術として広く認知されている。
【0003】
はんだペーストは、はんだインゴットを溶融し、アトマイズ法、遠心分離法といった方法で粒径数〜数十μm程度の粉体とし、分級後、松脂成分、チキソ剤、溶剤等からなるフラックスを混合して作製される。
【0004】
しかし、フラックスは反応性が高いため、はんだペーストにした後もはんだ粉末との間で反応が続き、特性が劣化する。すなわち、はんだペーストは比較的短い一定期間のシェルライフ(貯蔵寿命)が存在する。
【0005】
そこでこの寿命を延ばすために、はんだ粉末とフラックスを窒素ガスなどの不活性ガスと共に密封して保存する技術が開示されている(特許文献1参照)。
【0006】
また、はんだペーストの特性劣化は、ペースト中のはんだ粉末表面の腐食が原因であるとして、はんだ粉末の表面に腐食抑制剤を用いた発明も開示されている(特許文献2参照)。
【0007】
しかしながら、はんだペーストが経時的に変化して、特性が劣化することは止められず、上記の先行発明においても、使いきれずに余ったはんだペーストは結局廃棄物として排出される。
【0008】
はんだの回収および再利用に関する発明としては、特許文献3にも開示されているが、基板から機械的に剥離させ、回収したはんだを再溶融して再生する方法が開示されている。
【0009】
上記の廃棄されたはんだペーストは、プリント基板から機械的に剥離させたはんだと異なり、有機物を始めとして様々な物質を含有する。そこで、廃棄されたはんだソルダペーストは、燃焼処理することで有機物成分を分解除去し、その後、通常のはんだの再利用方法再溶融して再利用されていた。
【特許文献1】特開平8−132276号公報
【特許文献2】特開平8−215884号公報
【特許文献3】特開2000−307239号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、上記のように燃焼処理した後再溶融し、はんだのインゴットに戻してから再利用する方法では、はんだペーストに再生するには大量のエネルギーを再度投入し粉体化する必要がある。更に、有機物の分解に伴い、二酸化炭素ガスや有害ガスも大量に放出される。すなわち、従来知られた方法による廃棄されたはんだペーストの再利用では、大量のエネルギーの再投資や、二酸化炭素、有毒ガスといった環境汚染物質を直接排出するとい
う課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上記の課題に鑑みて想到されたもので、はんだペーストを有機溶媒で洗浄して、はんだ粉と有機成分を分離させ再利用するものである。
【0012】
具体的に本発明は、
はんだペーストを回収分別する分別工程と、
前記分別されたはんだペーストと溶媒を混合し混合液を得る混合工程と、
前記混合液からはんだ粉末と不溶性物質と溶解性物質と前記溶媒に分離する分離工程と、前記はんだ粉末を乾燥させる乾燥工程を有する廃はんだぺーストの成分分離方法を提供する。
【0013】
また、本発明は、
前記はんだ粉末にフラックスを混合分散するフラックス分散工程を有する廃はんだぺーストの再生方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、有機溶媒による洗浄を基本とする成分の分離処理を提供するので、廃棄はんだペーストから合金粒子や松脂成分、フラックス成分等を、簡便且つ低エネルギー低コストで分離できるという効果を有する。特に本発明では、溶融及び再粉体化に要するエネルギーの削除や有害ガスや温室効果ガスの放出が抑制されるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明で成分分離または再生することのできる廃はんだペーストは、数〜数十ミクロンの大きさのはんだ粉末をフラックス中に分散したものである。廃はんだペーストは、利用する者が廃棄するので、それを回収して集める。
【0016】
本発明は基本的に廃はんだペーストを洗浄することによってはんだ粉末とフラックスを分離し、そのはんだ粉末を再利用するものである。従って、同時に複数のペーストを処理する場合は、含有されるはんだ粉末の成分別に予め分けておく必要がある。はんだ粉末は組成によって融点が異なるため、異なる組成のはんだ粉末を一緒にしてしまっては、再生したはんだソルダペーストの融点が違ってくるからである。
【0017】
具体的には、現在鉛フリーはんだとして利用されているのは、Snを基本としてAg、Cu、Bi、Znなどの元素から作られる2元系、3元系、4元系が主となる。また、これらに、微量添加元素を加える場合もある。
【0018】
本発明で再利用する廃はんだペーストでは、少なくとも主成分の元素は含有量とともに一致するペースト同士を一緒に処理するのが好ましい。微量添加元素も一致する廃はんだペーストを一緒に処理すれば、より好ましい。
【0019】
従って、本発明の分別工程では、回収してきた廃はんだペーストの組成分析をする工程を含めてもよい。組成分析は、廃はんだペーストをそのままX線質量分析してもよい。ペーストに含まれるフラックス成分は、比較的軽元素であり、質量分析の結果において、はんだ粉末とのピークの違いは明らかであるからである。
【0020】
はんだ粉末の大きさも好ましくは揃っているペースト同士を同時に処理するのがよい。はんだ粉末の大きさは数〜数十ミクロンと大きさに幅がある。そして、この大きさの違いは溶融させる際の熱量の違いとなるため、用途によって大きさはそろえておいた方が好適
であるからである。
【0021】
はんだ粉末の大きさは、実体顕微鏡などで直接観察して分別してもよい。従って、分別工程では、はんだ粉の大きさを測定する工程を含めてもよい。なお、はんだ粉末の大きさをそろえる分級工程を後ほど行う場合は、分別工程では精度の高い大きさの分別を行わなくてもよい。
【0022】
フラックス成分も同じ成分同士の廃はんだペースト同士を一緒に処理するのが好ましい。従って、分別工程では、フラックスの分子量を分ける工程を含めてもよい。これには、ガスクロマトグラフィを好適に利用することができる。分別工程では、フラックス中の組成まで明らかにできなくてもよいからである。
【0023】
次に本発明の混合工程では、回収で集めた廃はんだペーストを溶媒と混合する。廃はんだペーストには、複数の有機物とハロゲンが含まれる場合が多く、それらを個々に溶解する溶剤を用いることができる。具体的には、松脂成分に対しは、テルペン系の溶剤がよく溶解する。
【0024】
また、混合工程の目的は、有機物成分とはんだ粉末を分離することであるので、有機物成分をはんだ粉末の表面から洗い落とすことができれば、有機物成分が溶媒中に溶解しなくてもよい。その意味で混合工程は洗浄を行っているともいえる。従って、本発明の混合工程で利用できる溶媒としては、有機溶媒の多くが利用可能である。
【0025】
例えば、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、シクロヘキサン、ジエチルエーテル、クロロホルム、酢酸エチル、酢酸メチル、塩化メチレン、テトラクロロエチレン、石油エーテル、シンナー、ガソリン、軽油、テトラヒドロフラン、アセトン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、メタノール、エタノール、プロパノール、酢酸、ギ酸、オレイン酸、ステアリン酸、イソプロピルアルコール、ヘキシルグリコール、ヘキシルジグリコール、2エチルヘキシルグリコール、2エチルヘキシルジグリコール、フェニルグリコール、フェニルジグリコール、ベンジルグリコール、ベンジルジグリコール、メチルプロピレングリコール、メチルプロピレンジグリコール、メチルプロピレントリグリコール、プロピルプロピレングリコール、プロピルプロピレンジグリコール、ブチルプロピレングリコール、ブチルプロピレンジグリコール、フェニルプロピレングリコール、ジメチルグリコール、ジメチルジグリコール、ジメチルトリグリコール、ジエチルジグリコール、ジブチルジグリコール、ジメチルプロピレンジグリコール、ターピネオールなどが挙げられる。
【0026】
混合の方法は、溶媒の中に廃はんだペーストを投入するのが好ましい。攪拌しながら投入すれば、より好ましい。この際の攪拌にはラバーフィンなどの比較的やわらかい素材のフィンで攪拌するのがよい。硬い金属フィンだとはんだ粉末がつぶれてしまうからである。
【0027】
はんだ粉末は、その製法上球体状で得られているが、その径を均一にすることによって、ペーストとして所定温度で均一に溶融する。攪拌の際にはんだ粉末がつぶれてしまうことによって粉末の形状が不定形に変わってしまっては、再利用する際に、均一な溶融特性や印刷転写量を得ることができないからである。
【0028】
また、攪拌は超音波を混合溶液に加えることでおこなってもよい。物理的な攪拌よりも表面に付着した有機物成分を効果的に洗い落とすことができる。
【0029】
次に本発明の分離工程では、上述した混合液をはんだ粉末と不溶性物質と溶解性物質と
溶媒に分離する。具体的には、混合液を静置して、はんだ粉末を沈降させる。そして、沈降したはんだ粉末と、上澄み成分を分離する。上澄み成分は、溶解性物質が溶解した溶媒中に不溶性物質が浮かんだ状態のものである。
【0030】
上澄み成分は、濾過若しくは遠心分離、沈降分離を行うことで不溶性物質と、溶解性物質が溶解した溶媒に分離することができる。また、溶解性成分と溶媒は、蒸留することによって分離することができる。分離された溶媒は、再度混合工程の溶媒として利用することができる。
【0031】
混合工程と分離工程は、複数回づつ行ってもよい。はんだ粉末の合金粒子表面には、フラックス成分が吸着しており、1度の洗浄では洗い取れない場合もあるからである。はんだ粉末の表面に付着している有機物には、活性剤の一種であるハロゲン化物、有機酸、アミンなどが付着していることも十分に考えられる。これらの活性剤は反応性に富むため、はんだ粉末を再利用する際に添加する樹脂成分や、はんだ粉末の表面自体を劣化させるおそれも十分考えられる。
【0032】
具体的には、はんだペーストにした際に、ポットライフが著しく低下するといった問題が発生する。従って、はんだ粉末の表面は十分に洗浄しておく必要がある。
【0033】
一方、分離されたはんだ粉末は乾燥工程で乾燥される。乾燥は、室温乃至融点温度以下の温度中で行うのがよい。融点より高くなると、微小粉末が再溶融してインゴットになってしまうからである。また、使用する溶媒の沸点以上の温度であれば、容易に乾燥させることができる。以上のような工程で、廃はんだソルダペーストを成分毎に分離することができる。
【0034】
乾燥したはんだ粉末を用いてはんだペーストを再製造する際には、再度分級を行ってもよい。本発明では、はんだの組成や大きさのそろった廃はんだペーストを一度に処理することができるが、製造メーカーの異なるペーストが一緒に処理される場合もある。製造メーカーによって分級のレベルが違う場合もあるので、ペーストからはんだ粉末を分離した際に再度分級する工程を行うのは好ましいことである。
【0035】
はんだ粉末には、別途調製されたフラックスを加え、混錬分散を行うことではんだペーストを再び得ることができる。次に具体的な実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0036】
(実施例1)
廃はんだペースト10gを有機溶媒(トルエン)を用いて処理した。手順を以下に示す。尚、ここでの処理は全て室温(25℃程度)で行った。
(1)廃はんだソルダー10gを容器に取り出す。
(2)トルエン10mlを添加する。
(3)超音波若しくは物理的分散(攪拌など)により十分分散させる。
(4)合金粒子成分が沈降するまで静置する。
(5)上澄み液を除去する。
(6)(2)〜(5)を3回試行する。
【0037】
試行後に回収された合金粒子部(はんだ粉末)は乾燥し分析を行った。各段階で回収された溶液(若しくは分散液)は濾過し、濾液と濾過材に分割した。濾液は蒸留操作により、有機溶媒と溶解性物質に分割した。
【0038】
上記操作により、廃はんだペーストは以下に分割される。
(a)合金粒子部
(b)不溶性物質(濾過材に相当)
(c)溶解性物質(蒸留により回収された、有機溶媒へ可溶な成分)
(d)有機溶媒(ここではトルエン)
原料として用いた廃はんだペースト(10g)から、8.5〜9.2gの合金粒子が回収された。この値は、はんだペーストの仕込み合金粒子量と一致していることから、ほぼ100%の合金粒子が回収されたものと考えられる。尚、回収量の変動は廃はんだペースト中の不均一性に由来するものであり、操作の過程での損失ではない。また、大気中への蒸発を除けば、(d)有機溶媒の回収率もほぼ100%であった。
【0039】
図1に有機溶媒による洗浄操作1回目〜3回目の各段階で回収された金属粒子の走査型電子顕微鏡像(SEM, 倍率:500倍、5000倍及び15000倍)を示す。なお、洗浄操作の1回とは、上記の混合工程と分離工程を1回行ったという意味である。写真中の白の矢印は倍率に従って、それぞれ60μm、6μm、2μmである。
【0040】
洗浄1回目の操作で回収された粒子表面はまだら模様となっており、倍率を増加すると粒子間が接着されたような状態であった。洗浄操作の繰り返し回数の増加と共に、粒子表面のまだら模様と粒子間の接着状態は低減され、若干の残留はあるが3回の洗浄操作で粒子表面が清浄化されていた。
【0041】
図2に有機溶媒による洗浄操作1回目〜3回目の各段階で回収された金属粒子の赤外分光測定(FT−IR)結果を示す。横軸は波長の逆数であり、縦軸は強度(任意単位)を表わす。図中で洗浄操作1回目は「洗浄1回」などと表わした。洗浄操作1回目の測定スペクトルにおいて、1000〜1800cm-1及び2800〜3000cm-1に明瞭なピーク(矢印で示した)が観測されたことから、有機物が大量に残存していたことが判る。洗浄操作の回数の増加と共に、これら有機物のピークは減少することから、洗浄操作により有機物が十分除去できたことが判った。
【0042】
図3に有機溶媒による洗浄操作1回目(上段)及び洗浄操作3回目(下段)のSEM/EDXによる元素分布マッピングを示す。分析元素は炭素(C)、酸素(O)、錫(Sn)、銀(Ag)及び銅(Cu)とした。尚、試料粒子はカーボンテープ上に接着して測定を行った。即ち、粒子表面上に炭素が少ない場合は、優先的に下地のカーボンテープからのシグナルが検出される。洗浄1回目及び3回目共に、酸素、錫、銀、銅は、SEM像で観測される粒子形状と同様に金属元素及び酸素が観測された。
【0043】
炭素に関しては、洗浄操作3回目の観測では黒丸10の部分にだけ炭素が存在していた。これは、ちょうど粒子の下地のカーボンテープからの反応を表わしており、粒子の表面からの反応はほとんど観測できなかった。一方、清浄操作1回目の観測では、カーボンは粒子表面に一様に点在しているのが観測できた。すなわち、炭素については、洗浄回数により分布状態が異なり、1回の洗浄では粒子表面上に存在するのに対し、3回の洗浄操作を行うと粒子表面上の炭素量は激減していた。
【0044】
以上の結果から、図1で観測された粒子表面上のまだら模様と粒子間の接着は、1回の洗浄では除去できなかった有機物であり、洗浄操作の繰り返しによりこれらは除去可能であることが明らかとなった。
【0045】
図4は未使用の原料粉体(a)及び有機溶媒による3回の洗浄操作により回収された粉体(b)のSEMによる表面観察結果を示す。倍率はそれぞれ、3500倍と15000倍である。図中の白矢印は、3500倍で8.57μmであり、15000倍が2.0μmである。
【0046】
図から明らかなように、それぞれの表面状態は非常に近似しており、どちらの金属粉の表面も滑らかであった。通常、金属粒子表面は酸化物層で覆われていることを考慮すると、粒子表面の平滑化は酸化皮膜の溶解除去によるものと考えられる。そこで、次に、XPSを用いて粒子表面から粒子内部への深さプロファイルを測定した。
【0047】
図5に未使用の原料粉体(a)及び有機溶媒による3回の洗浄操作により回収された粉体(b)のXPSによるSn(3d軌道)の分析結果を示す。粒子表面はArガスによる5秒〜35秒間のスパッタエッチングを行い、深さ方向の分析を行った。横軸は、結合エネルギー(eV)であり、縦軸は1秒あたりのカウント数(kcps)である。
【0048】
未使用原料粒子(a)の最表面のプロファイル(図中0sec)からは、486〜487eV(1)にスズ酸化物のピークのみが観測され、スズ金属(485eV前後)のピーク(2)は検出限界以下であった。そして、エッチング時間の増加と共にスズ酸化物のピーク(1)は低減し、35秒間のエッチングによってほぼスズ金属のピーク(2)のみとなった。
【0049】
一方、3回の洗浄操作により回収された粉体の場合(b)は、最表面のプロファイルからもスズ金属(4)が観測されており、5秒のエッチングを行うだけで、ほぼスズ金属のピーク(4)のみとなった。エッチングの条件は同一で行っていることから、回収された金属粉の酸化物層の厚さは未使用粉体と比較して薄いことが明らかとなった。
【0050】
図6に、未使用の原料粉体(a)及び有機溶媒による3回の洗浄操作により回収された粉体(b)を用いてはんだペーストを作成し、リフロー後のハンダ付け基板の光学顕微鏡像の150倍像を示す。また、使用したフラックスの含有量は12%である。なお、原料粉体および回収された粉体ともにSn−Ag−Cuの組成である。
【0051】
いずれの場合もはんだボールなど工業的使用過程における障害は一切観測されなかった。その上、回収されたはんだ粉体の方が基板への濡れ性が高いことが観測された。即ち、本処理法により再生された粉体は、そのままリサイクル可能であることが明らかとなった。
【0052】
(実施例2)
廃はんだペースト10gを有機溶媒(トルエン)を用いて処理した。手順を以下に示す。尚、以下の(3)〜(5)処理は全て70℃で行った。
(1)廃はんだソルダー10gを容器に取り出す。
(2)トルエン10mlを添加する。
(3)超音波若しくは物理的分散(攪拌など)により十分分散させる。
(4)合金粒子成分が沈降するまで静置する。
(5)上澄み液を除去する。
(6)(2)〜(5)を3回試行する。
【0053】
試行後に回収された合金粒子部は乾燥し分析を行った。各段階で回収された溶液(若しくは分散液)は濾過し、濾液と濾過材に分割した。濾液は蒸留操作により、有機溶媒と溶解性物質に分割した。
【0054】
上記操作により、廃はんだペーストは以下に分割される。
(a)合金粒子部
(b)不溶性物質(濾過材に相当)
(c)溶解性物質(蒸留により回収された、有機溶媒へ可溶な成分)
(d)有機溶媒(ここではトルエン)
原料として用いた廃はんだペースト(10g)から、8.5〜9.2gの合金粒子が回収された。この値は、はんだソルダーの仕込み合金粒子量と一致していることから、ほぼ100%の合金粒子が回収されたものと考えられる。尚、回収量の変動は廃はんだペースト中の不均一性に由来するものであり、操作の過程での損失ではない。また、大気中への蒸発を除けば、(d)有機溶媒の回収率もほぼ100%であった。
【0055】
図7に有機溶媒による70℃洗浄1回目〜3回目の各段階で回収された金属粒子の走査型電子顕微鏡像(SEM, 倍率:500倍、5000倍及び15000倍)を示す。なお、洗浄操作の1回とは、上記の混合工程と分離工程を1回行ったという意味である。写真中の白の矢印は倍率に従って、それぞれ60μm、6μm、2μmである。
【0056】
室温処理の場合と同様に、洗浄操作1回目の操作で回収された粒子表面はまだら模様となっており、倍率を増加すると粒子間が接着されたような状態であることがわかった。洗浄操作の増加と共に、粒子表面のまだら模様と粒子間の接着状態は低減され、若干の残留はあるが3回の洗浄操作で粒子表面が清浄化されていた。但し、若干では有るが、室温処理よりも有機物の残留量が多い傾向が観測された。
【0057】
(実施例3)
本実施例では再生したはんだペーストの貯蔵性(ポットライフ)について説明を行う。用いたはんだ粉は実施例1で洗浄操作が1回、2回、3回のものに、以下の組成のフラックスをはんだ粉末に対して10重量部、混錬して得たはんだペーストである。なお、比較例として未使用のインゴットから作製したはんだ粉末を用いたはんだペーストも用意した。
【0058】
フラックス組成
アクリル酸変性ロジン 50重量部
ヘキシルジグリコール 36重量部
硬化ヒマシ油 10重量部
ハロゲン系活性剤 3重量部
グルタル酸 1重量部
また、溶剤として用いることができるのは、へキシレングリコール、ブチルグリコール、ヘキシルジグリコール、ターピネオールなどの通常のフラックスに使用されるものが使用できる。溶剤はフラックス中に20〜80重量%、好ましくは30〜60重量%の範囲で用いられる。
【0059】
貯蔵性については、ペースト作製直後に、容量500ccのポリ容器に入れ、35℃の環境で放置した。なお、それぞれのペーストは複数瓶作製し、一度開封したものは、その後の貯蔵性について観察を行わない。すなわち、貯蔵性は、容器に封入されて所定時間経過後に初めて開封されたペーストだけを観察する。
【0060】
貯蔵性の評価は開封した容器内のペーストの粘度を測定することで評価した。粘度はJISZ3284付属書6のスパイラル粘度計(10回転)で測定した。結果を表1に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
洗浄1回の場合は、洗浄後の液が濁っており、乾燥しても粉末状態にならず、塊状(ペーストが固まった状態)になってしまった。これを用いてはんだペーストを製造した場合、未使用のはんだ粉末を用いたペーストより、非常に低い粘度になってしまった。また、新たなフラックス成分と混錬しても、はんだペースト中に塊状の物が残存していた。
【0063】
未使用のはんだ粉末を使ったはんだペーストは、製造直後ではおよそ200Pa・s程度の粘度を示す。この粘度が低下するのは、印刷性に影響を与えるので好ましくない。また、すべてフラックス含有量を12%で調整したにもかかわらず、洗浄1回と2回のはんだ粉末を使用したものは未使用のはんだ粉末を使用したものよりも粘度が低くなった。
【0064】
また製造後それぞれのフラックス含有量を測定したところ、洗浄1回と2回のはんだ粉末を使用したものは、調製時に仕込んだフラックス量(12%)より多めに検出された。これははんだ粉末の表面にフラックス分が残っていたために含有量が増え、粘度が低下したものと考えられる。また、35℃環境に放置後、洗浄1回、2回のはんだ粉末を使用したものは1日目で粘度上昇が起こった。以上のことより、洗浄回数が1回、2回のはんだ粉末を使用したものは、目的の粘度設定にすることができず、また貯蔵性に関しては悪かった。
【0065】
洗浄2回の場合は、洗浄1回よりは洗浄液の色が透明に近い白く濁った色であった。乾燥すると、ほとんどが粉末状態になったが、部分的に塊状の物が存在した。これを用いてはんだぺーストを製造した場合、粘度は未使用のはんだ粉末を用いたペーストより、若干低くなった。また、はんだペースト中に部分的に塊状が存在する。そして、やはり製造の1日後に粘度が上昇した。従って、貯蔵性に関しては悪かった。
【0066】
洗浄3回の場合は、洗浄液は完全に透明となり、乾燥すると完全に粉末状態となった。これを用いてはんだペーストを製造した場合、未使用のはんだ粉末を使用した場合と変わらない粘度を得ることができた。また、貯蔵性に関しても、未使用のはんだ粉末から作製したペーストと変わらない性能であった。
【0067】
フラックスが完全に除去できていないと、乾燥しても粉末状態にならず、塊状(ペーストが固まった状態)になってしまった。そのため、同じフラックス含有量で製造したとしても、実際はフラックス含有量が多めとなり、粘度が低下してしまったと考えられる。すなわち、はんだ粉末表面を完全に洗浄できていないと、洗浄度合いにより、フラックス含有量が変化してしまい、粘度がロット毎に不安定になってしまう。
【0068】
また、塊状の物が存在すると、印刷時の転写率が不安定となり、不良の原因となる。これは、近年、部品のファインピッチ化が進んでおり、そこに印刷されるパターンもファインピッチ化されているため、このような塊状の物が存在すると印刷時の転写率が不安定となり、品質不良を招く結果となる。
【0069】
また、フラックスを完全に除去できていないと、目的以外のフラックス成分が混入することとなり、本来の性能を発揮できず、貯蔵性などに悪影響を及ぼす。よって、最低でも3回以上(場合によっては液が透明になるまでの)洗浄が必要である。
【0070】
廃はんだペーストのペースト量によって洗浄の程度が異なる場合がある。その場合は、洗浄に用いた溶媒の透過率を指標にすることができる。具体的には、基準となる無色透明な液体に対する光の透過率と、洗浄液の光の透過率を比較する。なお、基準となる液体は純水でよい。
【0071】
これは所定距離長だけ離して設置した光源と受光体の間に、基準となる液体を置いた場合と、洗浄液を置いた場合の受光部での光の強度比を比較するものである。洗浄液に含まれる不純物が少ないほど、基準となる液体に対する透過率は1に近くなる。本発明では、基準となる液体に対して、少なくとも80%以上、好ましくは90%以上の透過率を示すのがよい。
【0072】
表2に洗浄後の溶液の透過率を測定した結果を示す。測定は、間隔5cmの平行なガラス平面を有する容器に洗浄後の溶液を入れ、白色LEDの光を一方のガラス平面から垂直に照射し、他方のガラス平面に受光素子を置いて、透過光の強度を受光素子の出力電圧として測定した。そして、純水の時の透過率を100%とした時の値である。
【0073】
【表2】

【0074】
以上の結果から、本処理法により、廃はんだペースト中の金属粒子表面は有機溶媒による洗浄により清浄化されており、その回収率はほぼ100%であり、そのままリサイクル粉体として再利用可能である。更に、インゴットから作製された直後のはんだ粉末と比較して、表面酸化物層が薄いことから、従来より反応性に富んだ粒子といえる。また、回収される有機物質も、使用する有機溶媒への溶解度の差により分離されており、再利用可能となる。洗浄に用いる有機溶媒も、蒸発分を除けば100%リサイクル可能である。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、はんだペーストのリサイクルに好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】有機溶媒による洗浄1回目〜3回目の各段階で回収された金属粒子の走査型電子顕微鏡像(SEM, 倍率:500倍、5000倍及び15000倍)である。
【図2】有機溶媒による洗浄1回目〜3回目の各段階で回収された金属粒子の赤外分光測定(FT−IR)結果である。
【図3】有機溶媒による洗浄1回目(上段)及び洗浄3回目(下段)のSEM/EDXによる元素分布マッピングを示す写真である。
【図4】未使用の原料粉体(a)及び有機溶媒による3回の洗浄操作により回収された粉体(b)のSEMによる表面観察結果を示す写真である。
【図5】未使用の原料粉体(a)及び有機溶媒による3回の洗浄操作により回収された粉体(b)のXPSによるSn(3d軌道)の分析結果のプロファイルである。
【図6】未使用の原料粉体(a)及び有機溶媒による3回の洗浄操作により回収された粉体(b)を用いてソルダペーストを作成し、リフロー後のハンダ付け基板の光学顕微鏡像の写真である。
【図7】70℃の有機溶媒による洗浄1回目〜3回目の各段階で回収された金属粒子の走査型電子顕微鏡像(SEM, 倍率:500倍、5000倍及び15000倍)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
はんだペーストを回収分別する分別工程と、
前記分別されたはんだペーストと溶媒を混合し混合液を得る混合工程と、
前記混合液からはんだ粉末と不溶性物質と溶解性物質と前記溶媒に分離する分離工程と、前記はんだ粉末を乾燥させる乾燥工程を有する廃はんだぺーストの成分分離方法。
【請求項2】
前記分離工程は、前記混合液を静置し前記はんだ粉末を沈降させる工程と、
前記はんだ粉末を沈降させた混合液の上澄み液を分離する工程と、
前記上澄み液を濾過し残さと濾過液を分離する工程とを有する請求項1に記載された廃はんだペーストの成分分離方法。
【請求項3】
前記分離工程は、さらに前記濾過液を蒸留し前記溶解性物質と前記溶媒に分離する工程を有する請求項2に記載された廃はんだペーストの成分分離方法。
【請求項4】
前記分離工程後のはんだ粉末を分級する工程を有する請求項1乃至3のいずれか1の請求項に記載された廃はんだペーストの成分分離方法。
【請求項5】
前記混合工程と前記分離工程を複数回行う請求項1乃至4のいずれか1の請求項に記載された廃はんだペーストの成分分離方法。
【請求項6】
はんだペーストを回収分別する分別工程と、
前記分別されたはんだペーストと溶媒を混合し混合液を得る混合工程と、
前記混合液からはんだ粉末と不溶性物質と溶解性物質と前記溶媒に分離する分離工程と、前記はんだ粉末を乾燥させる乾燥工程と、
前記はんだ粉末にフラックスを混合分散するフラックス分散工程を有する廃はんだぺーストの再生方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−156027(P2010−156027A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−335719(P2008−335719)
【出願日】平成20年12月29日(2008.12.29)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、文部科学省、リサイクル技術のための研究開発
【出願人】(000198259)石川金属株式会社 (4)
【出願人】(899000035)株式会社 東北テクノアーチ (68)
【Fターム(参考)】