説明

廃棄物のクロム除去方法及びクロム除去装置

【課題】都市ゴミの焼却飛灰や溶融飛灰等の飛灰、あるいは排気ダスト等の捕集ダスト等の廃棄物に含まれる重金属成分であるクロムを除去しようとする場合に、静電気による吸着や飛散の虞がなく、しかも容易かつ安価に除去することができる廃棄物のクロム除去方法及びクロム除去装置を提供する。
【解決手段】本発明の廃棄物のクロム除去方法は、混合槽11内にて、クロムを含む飛灰等の廃棄物と水とを攪拌・混合してスラリー化する際に、このスラリーS1にクロム除去装置3の磁気選別部材32を接触させ、このスラリーS1に含まれるクロム含有磁性粒子を磁着させてスラリーS1から分離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃棄物のクロム除去方法及びクロム除去装置に関し、更に詳しくは、都市ゴミの焼却飛灰や溶融飛灰等の飛灰、あるいは排気ダスト等の捕集ダスト等の廃棄物に含まれる重金属成分であるクロムを容易かつ安価に除去することが可能な廃棄物のクロム除去方法及びクロム除去装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、都市ゴミの焼却飛灰、ゴミまたは焼却灰の溶融飛灰、下水汚泥の焼却飛灰等の飛灰、あるいは排気ダスト等の捕集ダストをセメント原料として大量に処理するためには、塩素や金属類等の障害成分を何らかの前処理により予め除去しておかなくてはならない。
このような障害成分のうち、亜鉛、銅、鉛等の重金属類については、これらの重金属を煤塵から分離・回収する様々な方法が提案されている。
一方、クロムを飛灰から分離・回収する方法については、亜鉛や鉛等と比べてあまり多くは検討されていない。その理由の1つは、飛灰に含まれるクロムの量が亜鉛や鉛等と比べて非常に少なく、その影響も亜鉛や鉛等に比べて非常に小さいと考えられているからである。
【0003】
ところで、近年では、廃棄物の最終処分場不足や環境への影響等緊迫した状況から、廃棄物を資源として有効利用することが期待されており、例えば、廃棄物の焼却場から排出される飛灰の有効利用の1つとして、この飛灰をセメント製造設備のセメント原料の一部として有効利用することが検討されている。
セメント製造設備における飛灰の有効利用は、大量の飛灰を処理することができることから大いに期待されている。
この飛灰をセメント製造設備にて大量処理する場合、飛灰に含まれるクロムがセメントクリンカに及ぼす影響も無視することができなくなる。そこで、大量の飛灰をセメント製造設備にて処理するためには、この処理の前に飛灰に含まれるクロムを効率的に除去する前処理技術が必要となる。
【0004】
飛灰からクロムを除去する方法としては、カルシウム及び重金属を含む物質をスラリーとした後、このスラリーに塩酸を加えてカルシウムを溶出させ、このカルシウムを溶出させたスラリーにアルカリ化剤、硫化剤を順次加えた後、固液分離して重金属の硫化物を含む固形分とカルシウムを含む液分とを得、このカルシウムを含む液分に第1鉄化合物を添加した後、pH調整し、その後固液分離し、クロムを含む固形分を得る方法(特許文献1)、焼却灰等の重金属類を含有する灰に、水、及び塩酸または硝酸を加え、得られた混合物をボールミル等の粉砕機を用いて機械的に粉砕しつつ重金属の抽出を行い、クロム等の重金属類を含有する抽出液を得る方法(特許文献2)等が提案されている。
【特許文献1】特許3773467号公報
【特許文献2】特許3981758号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来では、飛灰からクロムを除去しようとする場合、飛灰自体が静電気により吸着し易く、塊状になり易いという問題点、飛散し易く取り扱いが難しいという問題点等があった。
また、従来の飛灰からクロムを除去する方法では、クロムを抽出するためには、スラリーや混合物のpHを亜鉛や鉛等と比べて2付近にまで大きく下げる必要があり、このpH領域で処理するためには、pH調整のための薬剤を多量に必要とし、処理コストが非常に高くつくという問題点があった。
また、カルシウム、アルミニウム、ケイ素等の成分の溶解が顕著となってしまうために、固形分の回収率が悪化するだけではなく、スラリーの粘度が高くなって固液分離が難しくなる等の問題点もあった。
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、都市ゴミの焼却飛灰や溶融飛灰等の飛灰、あるいは排気ダスト等の捕集ダスト等の廃棄物に含まれる重金属成分であるクロムを除去しようとする場合に、廃棄物が静電気により吸着してしまったり、廃棄物が飛散する等の虞がなく、しかも容易かつ安価に除去することができる廃棄物のクロム除去方法及びクロム除去装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、焼却飛灰等の各種飛灰や捕集ダスト等の廃棄物中に含まれるクロムが、磁性を有する粒子中に濃集していることを見出し、さらに、クロムを含む廃棄物と水または塩基性溶媒とを含むスラリーを用いることにより、この廃棄物が静電気により吸着したり、あるいは飛散したり等の虞がなく、しかも、このスラリー中にはクロムが殆ど存在しないを見出し、このクロムを含有する磁性粒子をスラリーから分離することにより、廃棄物の成分であるクロムを、容易かつ安価に除去することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の廃棄物のクロム除去方法は、クロムを含む廃棄物と水または塩基性溶媒とを含むスラリーに磁気選別手段を接触させて該スラリーに含まれるクロム含有磁性粒子を前記スラリーから分離することを特徴とする。
【0009】
前記スラリーは、前記廃棄物(Md)と前記水または塩基性溶媒(Mw)との質量比(Md:Mw)が、1:2〜1:10の範囲であることが好ましい。
前記クロム含有磁性粒子を前記スラリーから分離した後、このスラリーを脱水し、固形の脱塩素廃棄物を得ることが好ましい。
前記廃棄物は、飛灰、捕集ダストのいずれか一方または双方であることが好ましい。
【0010】
本発明の廃棄物のクロム除去装置は、クロムを含む廃棄物と水または塩基性溶媒とを貯留する貯留槽、前記貯留槽内に設けられ前記廃棄物と前記水または塩基性溶媒とを撹拌・混合してスラリーとする撹拌手段、前記貯留槽と前記スラリーを脱水する脱水手段との間に設けられたスラリー搬送手段、のうちいずれか1箇所または2箇所以上に設けられた廃棄物のクロム除去装置であって、前記スラリーに接触して該スラリーに含まれるクロム含有磁性粒子を前記スラリーから分離する磁気選別手段を備えてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の廃棄物のクロム除去方法によれば、クロムを含む廃棄物と水または塩基性溶媒とを含むスラリーに磁気選別手段を接触させるので、スラリー中の磁性粒子に濃集しているクロムを、この磁性粒子と共に磁力により磁気選別手段に磁着させることにより、クロムを含有する磁性粒子をスラリーから容易に分離することができる。したがって、廃棄物に含まれる重金属成分であるクロムを除去しようとする場合に、薬剤等を用いることなく、また、クロム除去のための前処理等を行うことなく、簡単な工程で、廃棄物中の重金属成分であるクロムを、容易かつ安価に除去することができる。
【0012】
また、スラリーに磁気選別手段を接触させるだけで、このスラリーに含まれるクロムを容易に分離することができるので、静電気による付着を防止することができ、しかも廃棄物が飛散する虞もない。
さらに、このクロムが除去された廃棄物は、セメント製造設備にて大量処理する場合においても、セメントクリンカに悪影響を及ぼす虞がなく、セメントクリンカの品質を維持することができる。
【0013】
本発明の廃棄物のクロム除去装置によれば、スラリーに接触して該スラリーに含まれるクロム含有磁性粒子を前記スラリーから分離する磁気選別手段を備えたので、構成が簡単でありかつ安価である。
また、この簡単な構成の装置を用いて、廃棄物中の重金属成分であるクロムを、容易かつ安価に除去することができ、静電気による付着を防止することができ、しかも廃棄物が飛散する虞もない。
したがって、クロムの含有率の低い廃棄物を、容易かつ安価に生成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の廃棄物のクロム除去方法及びクロム除去装置を実施するための最良の形態について説明する。
なお、本実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態の廃棄物のクロム除去装置を含む廃棄物の処理装置を示す模式図であり、廃棄物に含まれるクロムを分離・回収するとともに、この廃棄物中のカルシウム成分をセメント原料として利用する処理装置の例である。
図において、1は洗浄・濾過部、2は濾液処理部であり、洗浄・濾過部1には本実施形態の廃棄物のクロム除去装置3が設けられている。
【0016】
洗浄・濾過部1は、廃棄物に水または塩基性溶媒を添加し混合してスラリーとし、このスラリーを濾過により脱塩ケーキ(固形分)と濾液に分離することにより、廃棄物から塩素、塩素化合物のうちいずれか一方または双方を除去(脱塩)する装置であり、廃棄物Dと水(または塩基性溶媒)Wとを混合しスラリーS1とすることにより、この廃棄物Dに含まれる塩素、塩素化合物のうちいずれか一方(1種)または双方(2種共)を水中(または塩基性溶媒中)に溶出させる混合槽(貯留槽)11と、この塩素や塩素化合物が溶出したスラリーS1を加圧濾過により塩素や塩素化合物が除去された固形状の脱塩ケーキCと、塩素や塩素化合物を含む濾液F1に分離し、この加圧濾過後に得られた脱塩ケーキCを加圧した状態のまま水(または塩基性溶媒)Wを圧送して脱塩ケーキCを洗浄するフィルタープレス(脱水手段)12とにより構成されている。
【0017】
濾液処理部2は、濾液F1に還元剤及びpH調整剤を添加し、さらには炭酸カリウム等を添加して濾液F1に含まれる重金属及びカルシウムを含む粒子状物質を生じさせ、この粒子状物質を濾過により分離する装置であり、濾液F1に、例えば、炭酸カリウム(KCO)、炭酸ガス(CO)等を添加し反応させ、さらに塩酸(HCl)または硫酸(HSO)を添加しpHを調整することにより、炭酸カルシウム(CaCO)等のカルシウム分及び重金属等を含む粒子状物質を生じさせる反応槽21と、この粒子状物質を含むスラリーS2を脱水し、炭酸カルシウム(CaCO)等のカルシウム分及び重金属を含む固形状のケーキ(重金属スラッジ)MSと濾液F2とに分離する脱水機22とにより構成されている。
【0018】
クロム除去装置3は、図2に示すように、洗浄・濾過部1の混合槽11内にて、撹拌機(撹拌手段)31を用いて廃棄物Dと水(または塩基性溶媒)Wとを混合し撹拌することによりスラリーS1を生成する段階で、廃棄物中に含まれるクロム(クロム化合物を含む)が廃棄物D中の磁性粒子中に濃集したクロム含有磁性粒子を、磁力により磁着させてスラリーS1から分離するもので、混合槽11の槽内の内壁11aに沿って設けられた円筒状の磁気選別部材(磁気選別手段)32と、この磁気選別部材32を内壁11aに固定するボルト等の固定具(図示略)により概略構成されている。
【0019】
この磁気選別部材32は、スラリーS1に対して耐久性を有する磁性材料により構成されていることが必要であり、図2に示すような表面を樹脂にてコーティングした鉄、ニッケル等の網状かつ円筒状の強磁性体の他、円筒状の強磁性体に多数の孔を形成したもの、複数の棒磁石を円周上に等間隔に立設したもの、等が用いられる。
【0020】
このクロム除去装置3は、スラリーS1に含まれるクロム含有磁性粒子を磁力によりスラリーS1から分離することができればよく、上記の混合槽11の槽内を含め、撹拌機31、混合槽11とフィルタープレス12との間に設けられたスラリー搬送管(スラリー搬送手段)33、のうちいずれか1箇所または2箇所以上に設けた構成としてもよい。
【0021】
例えば、混合槽11の内壁11aに沿って棒状の強磁性体を複数本、等間隔に立設した構成としてもよい。
また、撹拌機31に設ける場合、磁気選別部材32を攪拌機31の回転軸の外径より大径の円筒状の網とし、この磁気選別部材32を攪拌機31の回転軸に固定した構成とすればよい。
また、スラリー搬送管33に設ける場合、磁気選別部材32をスラリー搬送管33の内径とほぼ同じ大きさの円形状の網とし、この磁気選別部材32をバルブ34間のスラリー搬送管33内に設けた構成とすればよい。
【0022】
次に、本実施形態の廃棄物のクロム除去方法を含む廃棄物の処理方法について説明する。
ここで処理される廃棄物としては、クロム(クロム化合物を含む)を含む廃棄物、すなわち都市ゴミの焼却飛灰、ゴミまたは焼却灰の溶融飛灰、下水汚泥の焼却飛灰等の飛灰、あるいは排気ダスト等の捕集ダスト等が挙げられ、これらの中でも、セメント原料として好ましいのは、カルシウム成分やシリカ成分が比較的多い飛灰である。
【0023】
本実施形態の廃棄物の処理方法は、廃棄物に含まれるクロムを分離・回収するとともに、この廃棄物中のカルシウム成分をセメント原料として利用する廃棄物の処理方法であり、
廃棄物Dに水(または塩基性溶媒)Wを添加し混合してスラリーS1とする際に、このスラリーS1を生成する段階で、廃棄物D中に含まれるクロム(クロム化合物を含む)が磁性粒子中に濃集したクロム含有磁性粒子を、磁力によりスラリーS1から分離し、このクロム含有磁性粒子が除去されたスラリーS1を濾過により固形分Cと濾液F1に分離し、得られた固形分Cをセメント原料とする洗浄・濾過工程と、
前記濾液F1に還元剤、pH調整剤、炭酸カリウム等を添加して濾液F1に含まれる重金属及びカルシウムを含む粒子状物質を生じさせ、この粒子状物質を濾過により分離する濾液処理工程と、
を含む処理方法である。
【0024】
これらの各工程について、さらに詳細に説明する。
「洗浄・濾過工程」
まず、混合槽11内に飛灰等の廃棄物Dを所定量投入し、さらに、この廃棄物Dに対して2〜10質量倍の水W、または水酸化カリウム水溶液等の塩基性溶媒を添加して攪拌し、スラリーとするとともに、この廃棄物Dに含まれる塩素化合物等の可溶成分を溶出させリパルプさせる。
【0025】
上記のスラリーにおける廃棄物の質量Mdと水(または塩基性溶媒)Wの質量Mwとの質量比(Md:Mw)が、1:2〜1:10の範囲であることが好ましく、より好ましくは1:3〜1:6の範囲、さらに好ましくは1:4〜1:5の範囲である。
【0026】
ここで、質量比(Md:Mw)を上記の範囲に限定した理由は、上記の範囲がスラリーの流動性がよくかつクロムの付着の機会が増えるからであり、水(または塩基性溶媒)Wの質量Mwが廃棄物の質量Mdの2質量倍未満であると、廃棄物D中の可溶成分である塩素や塩素化合物がスラリー中に十分に溶出することができなくなり、また、クロムを含む磁性粒子がスラリー中で容易に分散し難くなり、磁気選別部材32による磁着の効率が低下し、クロムの除去率が低下するからである。
スラリー中への可溶成分の溶出が不十分であった場合、後段のフィルタープレス12で濾過して得られる脱塩ケーキC中に残存する可溶成分が多くなるという不都合が生じ、また、得られるスラリーの粘性が高くなり、後の工程へのポンプ輸送が難しくなる。
【0027】
また、水(または塩基性溶媒)Wの質量Mwが廃棄物の質量Mdの10質量倍を超えると、水(または塩基性溶媒)Wの量が多すぎてしまい、後段の脱水工程に掛かる時間や費用が過大になる虞があり、したがって、後段の工程においては、これらの成分を取り除くための薬剤の使用量が多くなり、また、晶析工程にて使用する蒸気量などが多量に必要となるからである。
【0028】
このスラリー化及びリパルプの過程で、廃棄物中に含まれる炭酸カルシウム(CaCO)等のカルシウム分が懸濁化すると共に、この廃棄物中に含まれるクロム(クロム化合物を含む)は、磁性粒子中に濃集したクロム含有磁性粒子として生成し、スラリーS1中に浮遊することとなる。
このクロム含有磁性粒子は、混合槽11内の磁気選別部材32により磁着され、スラリーS1から除去される。
【0029】
このクロム含有磁性粒子が除去されたスラリーS1は、スラリー搬送管34を経由してフィルタープレス12に送られる。
このスラリー搬送管34に磁気選別部材32を設けておけば、混合槽11内にて磁気選別部材32に磁着されずにスラリーS1中に残ってしまったクロム含有磁性粒子を、磁着により取り除くことができ、スラリーS1中のクロム含有磁性粒子の含有率をさらに低下させることができるので、好ましい。
【0030】
フィルタープレス12では、クロム含有磁性粒子が除去されたスラリーS1を圧搾して、固液分離を行う。
この固液分離後に、フィルタープレス12内の脱塩ケーキCに残留する可溶成分を水W(または水酸化カリウム水溶液等の塩基性溶媒)で洗浄することにより、脱塩ケーキC中の塩素含有量を十分に低下させることができる。
また、得られた脱塩ケーキCは、炭酸カルシウム(CaCO)等のカルシウム分が多く含まれているので、直接セメント製造設備に送られ他のセメント原料に混合され、乾燥・粉砕の後、粉末セメント原料としてセメント焼成工程にて再循環使用され、セメントクリンカとして焼成される。
【0031】
「濾液処理工程」
洗浄・濾過工程で得られた濾液F1を反応槽21に投入し、この濾液F1に、例えば、残存するカルシウムを反応させる目的で炭酸カリウム(KCO)、炭酸ガス(CO)等を添加して、濾液F1中に残存しているカルシウムを炭酸カルシウム(CaCO)等の粒子状物質として生成させ、さらに、硫酸第一鉄(FeSO)や塩化第一鉄(FeCl)等、塩酸(HCl)または硫酸(HSO)等を添加し、濾液F1中に溶解している重金属を懸濁化する。
これにより、濾液F1は、炭酸カルシウム(CaCO)及び懸濁化した重金属を含むスラリーS2となり、脱水機22に送られる。
【0032】
脱水機22では、スラリーS2を脱水し、カルシウム分及び重金属を含む固形状のケーキ(重金属スラッジ)MSと濾液F2とに分離する。この濾液F2は、反応槽21に送られる濾液F1に添加されることで循環使用される。
この濾液F2は、カルシウム分及び重金属が極力取り除かれ、浄水処理がなされた後、放流される。また、この濾液F2の一部はブローによりセメント製造工程に戻すことによって安全に処理される。
【0033】
以上説明したように、本実施形態の廃棄物の処理方法によれば、廃棄物D及び水(または塩基性溶媒)Wを含むスラリーS1中に含まれるクロム(クロム化合物を含む)が磁性粒子中に濃集したクロム含有磁性粒子を、磁力によりスラリーS1から分離し、このクロム含有磁性粒子が除去されたスラリーS1を固形分Cと濾液F1に分離する洗浄・濾過工程と、この濾液F1から重金属及びカルシウムを含む粒子状物質を生じさせ、この粒子状物質を濾過により分離する濾液処理工程と、を含むこととしたので、廃棄物に含まれる重金属成分であるクロムが廃棄物中の磁性粒子に濃集していることにより、スラリーから容易に分離することができる。したがって、廃棄物に含まれるクロムを、薬剤等を用いることなく、また、クロム除去のための前処理等を行うことなく、簡単な工程で、容易かつ安価に除去することができる。
【0034】
また、このクロム含有磁性粒子が除去されたスラリーS1から得られた固形分Cは、クロムの含有量が少ないので、セメント原料の一部として有効利用することができ、得られたセメントクリンカの品質を維持することができる。
【0035】
本実施形態のクロム除去装置3によれば、スラリーS1に含まれるクロム含有磁性粒子をスラリーS1から分離する磁気選別部材32の構成が簡単でありかつ安価であり、しかも通常の廃棄物の処理装置に簡単に組み込むことができるので、廃棄物中の重金属成分であるクロムを、容易かつ安価に除去することができる。したがって、クロムの含有率の低い廃棄物を、容易かつ安価に得ることができる。
また、磁気選別部材32の装置構成が簡単であるから、従来のセメント製造設備に簡単に装着することができる。
【実施例】
【0036】
以下、本発明の廃棄物のクロム除去方法について実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例によって何ら制限されるものではない。
【0037】
(実施例1)
セメント製造設備から取り出した飛灰A5kgを混合槽11に投入し、さらに25kgの水を添加し、撹拌機31を用いて10分間、撹拌・混合し、スラリーを作製した。このスラリーを作製する過程で飛灰Aに含まれるクロムを磁気選別部材32により磁着してスラリーから除去した。
ここで得られたクロム含有磁気粒子の質量は583gであり、このクロム含有磁気粒子中に含まれるクロムの量は703mg/kgであった。したがって、飛灰Aに含まれるクロムのうち34質量%が除去されていることが分かった。
【0038】
その後、このクロムを除去したスラリーを濾過して固形分と濾液に分離し、得られた固形分をセメント原料の一部としてセメント原料と共にセメントキルンに投入したところ、得られたセメントクリンカに悪影響を及ぼす虞がなく、セメントクリンカの品質を維持することができることが分かった。
また、上記の濾液中のクロム量を測定したところ、検出限界以下であり、この濾液中のクロム量が極めて「0」に近いことが分かった。以上により、この濾液は、国のクロムの排水基準(2mg/L以下)を十分満たしていることが分かった。
【0039】
(実施例2)
セメント製造設備から取り出した飛灰B5kgを混合槽11に投入し、さらに20kgの水を添加し、撹拌機31を用いて10分間、撹拌・混合し、スラリーを作製した。このスラリーを作製する過程で飛灰Bに含まれるクロムを磁気選別部材32により磁着してスラリーから除去した。
ここで得られたクロム含有磁気粒子の質量は341gであり、このクロム含有磁気粒子中に含まれるクロムの量は958mg/kgであった。したがって、飛灰Bに含まれるクロムのうち16質量%が除去されていることが分かった。
【0040】
その後、このクロムを除去したスラリーを濾過して固形分と濾液に分離し、得られた固形分をセメント原料の一部としてセメント原料と共にセメントキルンに投入したところ、得られたセメントクリンカに悪影響を及ぼす虞がなく、セメントクリンカの品質を維持することができることが分かった。
また、上記の濾液中のクロム量を測定したところ、1mg/Lと微量であり、国のクロムの排水基準(2mg/L以下)を十分満たしていることが分かった。
【0041】
(実施例3)
セメント製造設備から取り出した飛灰C5kgを混合槽11に投入し、さらに50kgの水を添加し、撹拌機31を用いて10分間、撹拌・混合し、スラリーを作製した。このスラリーを作製する過程で飛灰Cに含まれるクロムを磁気選別部材32により磁着してスラリーから除去した。
ここで得られたクロム含有磁気粒子の質量は567gであり、このクロム含有磁気粒子中に含まれるクロムの量は565mg/kgであった。したがって、飛灰Cに含まれるクロムのうち24質量%が除去されていることが分かった。
【0042】
その後、このクロムを除去したスラリーを濾過して固形分と濾液に分離し、得られた固形分をセメント原料の一部としてセメント原料と共にセメントキルンに投入したところ、得られたセメントクリンカに悪影響を及ぼす虞がなく、セメントクリンカの品質を維持することができることが分かった。
また、上記の濾液中のクロム量を測定したところ、0.3mg/Lと微量であり、国のクロムの排水基準(2mg/L以下)を十分満たしていることが分かった。
【0043】
(実施例4)
セメント製造設備から取り出した飛灰D5kgを混合槽11に投入し、さらに10kgの水を添加し、撹拌機31を用いて10分間、撹拌・混合し、スラリーを作製した。このスラリーを作製する過程で飛灰Dに含まれるクロムを磁気選別部材32により磁着してスラリーから除去した。
ここで得られたクロム含有磁気粒子の質量は190gであり、このクロム含有磁気粒子中に含まれるクロムの量は806mg/kgであった。したがって、飛灰Dに含まれるクロムのうち9質量%が除去されていることが分かった。
【0044】
その後、このクロムを除去したスラリーを濾過して固形分と濾液に分離し、得られた固形分をセメント原料の一部としてセメント原料と共にセメントキルンに投入したところ、得られたセメントクリンカに悪影響を及ぼす虞がなく、セメントクリンカの品質を維持することができることが分かった。
また、上記の濾液中のクロム量を測定したところ、0.8mg/Lと微量であり、国のクロムの排水基準(2mg/L以下)を十分満たしていることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の一実施形態の廃棄物の処理装置を示す模式図である。
【図2】本発明の一実施形態の廃棄物のクロム除去装置を備えた洗浄・濾過部の要部を示す模式図である。
【符号の説明】
【0046】
1 洗浄・濾過部
2 濾過処理部
3 クロム除去装置
11 混合槽
12 フィルタープレス
21 反応槽
22 脱水機
31 撹拌機
32 磁気選別部材
33 スラリー搬送管
34 バルブ
D 廃棄物
W 水
S1、S2 スラリー
F1、F2 濾液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロムを含む廃棄物と水または塩基性溶媒とを含むスラリーに磁気選別手段を接触させて該スラリーに含まれるクロム含有磁性粒子を前記スラリーから分離することを特徴とする廃棄物のクロム除去方法。
【請求項2】
前記スラリーは、前記廃棄物(Md)と前記水または塩基性溶媒(Mw)との質量比(Md:Mw)が、1:2〜1:10の範囲であることを特徴とする請求項1記載の廃棄物のクロム除去方法。
【請求項3】
前記クロム含有磁性粒子を前記スラリーから分離した後、このスラリーを脱水し、固形の脱塩素廃棄物を得ることを特徴とする請求項1または2記載の廃棄物のクロム除去方法。
【請求項4】
前記廃棄物は、飛灰、捕集ダストのいずれか一方または双方であることを特徴とする請求項1、2または3記載の廃棄物のクロム除去方法。
【請求項5】
クロムを含む廃棄物と水または塩基性溶媒とを貯留する貯留槽、前記貯留槽内に設けられ前記廃棄物と前記水または塩基性溶媒とを撹拌・混合してスラリーとする撹拌手段、前記貯留槽と前記スラリーを脱水する脱水手段との間に設けられたスラリー搬送手段、のうちいずれか1箇所または2箇所以上に設けられた廃棄物のクロム除去装置であって、
前記スラリーに接触して該スラリーに含まれるクロム含有磁性粒子を前記スラリーから分離する磁気選別手段を備えてなることを特徴とする廃棄物のクロム除去装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−104949(P2010−104949A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−281541(P2008−281541)
【出願日】平成20年10月31日(2008.10.31)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】