説明

廃棄物溶融炉の操業方法

【課題】コークスの使用量を低減し溶融スラグの温度が低くなっても、スラグの排出状況を悪化させることがないように、スラグの融点を調整することができる廃棄物溶融炉の操業方法を提供することを課題とする。
【解決手段】炉上部から投入された廃棄物を、炉下部に形成された高温燃焼帯で熱分解、ガス化し、熱分解残渣を溶融し溶融スラグとして排出する廃棄物溶融炉の操業方法において、次の工程1)ないし3)を行いスラグの融点を調整する。
1)排出されたスラグの成分組成を測定し、排出されたスラグの融点を該成分組成から推定する。
2)融点推定値が、予め定められた所定値より高い場合に、炉中のスラグの融点を該所定値まで下げるのに必要なスラグ中の鉄酸化物目標濃度を、測定したスラグの成分組成に基づき求める。
3)スラグ中の鉄酸化物の目標濃度に基づき、溶融炉へ供給する鉄含有材の供給量を求め、この量の鉄含有材を炉内へ供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炉上部から投入された廃棄物を、炉下部に形成された高温燃焼帯で熱分解、ガス化し、熱分解残渣を溶融し溶融スラグとして排出する廃棄物溶融炉の操業方法に関する。
【背景技術】
【0002】
廃棄物を処理する技術として、都市ごみやシュレッダーダストなどの廃棄物を熱分解して可燃性ガスを発生させ、その熱分解残渣(灰分)を溶融してスラグにして排出するガス化溶融処理方法が知られている。この処理方法は廃棄物をガス化することによりその燃焼熱を回収することができると共に、残渣を溶融して減容化してスラブとして最終処分量を低減し、該スラブを埋立処分などに用いることができるようにするという利点を有している。
【0003】
このような処理方法を実施する溶融炉には幾つかの形式があるが、その一つとして竪型をなすシャフト式ガス化溶融炉がある。
【0004】
このシャフト式ガス化溶融炉は、例えば、炉底部に堆積させたコークスを燃焼させ、この高温のコークス上へ廃棄物を投入して、該廃棄物を熱分解させてガス化し、次いでその熱分解残渣を溶融してスラグにする処理を行う。
【0005】
このようなシャフト式廃棄物ガス化溶融炉においては、炉体内空間はその機能から大別して縦方向で3つの領域に大別できる。
【0006】
すなわち、炉底部の領域にはコークスを堆積して燃焼させることにより高温燃焼帯(熱分解残渣の溶融部)が形成され、その上方の領域では、この高温燃焼帯の上に、炉上部から投入された廃棄物を熱分解させるための廃棄物堆積層が形成される。そして、この廃棄物堆積層の上の領域に、広がった大きな空間をなすフリーボード部が形成されている。
【0007】
3つに大別されている各領域には、それぞれ、外部からの酸素含有ガス(支燃性ガス)の吹き込みが行われる。そのために、先ず、フリーボード部に対しては、廃棄物が熱分解して生成した熱分解ガス(可燃性ガス)を部分燃焼させて内部を所定温度に維持するための空気を吹き込む三段羽口が設けられている。廃棄物堆積層に対しては、投入されて堆積された廃棄物を部分燃焼させると共に廃棄物を緩やかに流動させながら熱分解させるための空気を吹き込む副羽口が設けられている。また、溶融部をなす高温燃焼帯に対しては、堆積されているコークスを燃焼させて熱分解残渣を溶融するための酸素富化空気を吹き込む主羽口が設けられている。
【0008】
上記のように構成された廃棄物ガス化溶融炉においては、炉上部から投入された廃棄物は廃棄物堆積層で熱分解されて熱分解ガス(可燃性ガス)を発生する。発生した可燃性ガスは、廃棄物ガス化溶融炉の後流位置に設けられた二次燃焼炉に送られてここで完全燃焼した後、ボイラ等により熱回収される。一方、熱分解残渣は炉内を下降し、高温燃焼帯において、高温に加熱されて溶融スラグと溶融金属となり排出される。
【0009】
このようにシャフト式廃棄物ガス化溶融炉は、廃棄物を一つの炉で熱分解ガス化溶融処理する設備である。炉内に投入された廃棄物は熱分解され、ガスと残渣を発生する。発生ガスは可燃性ガスを多量に含んでいるので、二次燃焼炉で空気の供給を受けて燃焼され、ボイラやエコノマイザで熱回収された後、サイクロンで比較的粗いダストが除去され、減温装置で冷却され、有害ガスが除去され集塵機で除塵処理され放散される。また、熱分解残渣は炉内を下方に移動し、炉下部の高温燃焼帯で加熱溶融され、溶融スラグと溶融金属として排出される。
【0010】
シャフト式ガス化溶融炉では、炉下部で廃棄物の熱分解残渣(灰分)を溶融し、溶融スラグ、溶融金属として排出するために必要な熱源として、廃棄物内の可燃物の他にコークスを補助熱源として使用している。スラグ温度計測値、あるいは出滓状況の監視結果に基づきコークス使用量を増減させることにより溶融スラグの温度を調整して、溶融スラグを適正な粘性のもとで、安定してスラグ排出(出滓)を行うようにしているが、近年のCO排出問題、運転コスト削減の観点から、コークスの使用量を最小限に抑制することが要望されている。しかし、通常の操業条件から単にコークス使用量を減らすと溶融炉下部での発熱量が減少するため、溶融スラグの温度が低下し粘性が高くなって流動性が低下し溶融スラグの排出状況が悪化したり、溶融スラグの温度が融点以下となりスラグが固化して出滓口付近で閉塞することがあり、運転上で支障が生じる。
【0011】
コークスの使用量を低減して溶融スラグの温度が従来より低くなっても、スラグの排出状況を悪化させないためには、スラグの融点を降下させることにより、溶融スラグの温度が従来より低温度であってもスラグが、この降下させられた融点より高い状態にあって、その粘性が低く流動性が低下しないようにすればよいことが考えられる。スラグの融点を降下させる手段として、溶融炉内に鉄含有材を供給しスラグの成分組成を調整してスラグの融点を降下させる廃棄物溶融ガス化炉の操業方法が特許文献1(請求項6、段落0023)に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2006―112715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献1による廃棄物処理方法では、溶融炉内に鉄含有材を供給する供給量を如何にして定めるのかについて明確でなく、すなわち、鉄含有材の供給量の調整方法について明らかではなく、廃棄物溶融ガス化炉をこの方法に基づいて実際に操業するには困難があるという問題がある。
【0014】
本発明は、このような事情に鑑みて、コークスの使用量を低減し溶融スラグの温度が低くなっても、スラグの排出状況を悪化させることがないように、スラグの融点を調整することができる廃棄物溶融炉の操業方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者等は、上述の課題を解決するために鋭意検討を進めた結果、廃棄物の熱分解残渣が溶融されたスラグ中のカルシウム酸化物(CaO)、珪素酸化物(SiO)、鉄酸化物(FeO)の濃度により、スラグの融点が大きく影響を受けること、そして、鉄成分を含む材料(鉄含有材)を適切な量で溶融炉内に供給すると、スラグ中の酸化鉄濃度を上昇させてスラグの融点を低下させることができることを確認し、スラグの融点を所定範囲内にするために必要なスラグ中の酸化鉄濃度の調整方法を見出した。
【0016】
したがって、溶融炉内に鉄含有材を供給することでスラグの融点を低下させることができ、溶融炉下部で熱分解残渣を溶融して溶融スラグを円滑に出滓させるために必要な熱量を削減することができ、これによりコークスの使用量を削減することができる。
【0017】
本発明による廃棄物溶融炉の操業方法は、炉上部から投入された廃棄物を熱分解、ガス化し、炉下部に形成された高温燃焼帯で熱分解残渣を溶融し溶融スラグとして排出する廃棄物溶融炉の操業方法において、次の工程1)ないし3)を行いスラグの融点を調整することを特徴とする。
1)排出されたスラグの成分組成を測定し、排出されたスラグの融点を該成分組成から推定する。
2)融点推定値が、予め定められた所定値より高い場合に、炉中のスラグの融点を該所定値まで下げるのに必要なスラグ中の鉄酸化物目標濃度を、測定したスラグの成分組成に基づき求める。
3)スラグ中の鉄酸化物の目標濃度に基づき、溶融炉へ供給する鉄含有材の供給量を求め、この量の鉄含有材を炉内へ供給する。
【0018】
本発明において、鉄含有材は、高温燃焼帯に支燃性ガスを吹き込む羽口から供給されるようにすることができる。こうすることにより、鉄含有材を供給するに際し、専用の供給口を炉に設ける必要がない。また、鉄含有材を供給する部位としては、鉄含有材により供給された鉄分を酸化させて鉄酸化物としスラグ中への歩留まりを向上させる観点から、なるべく酸化剤と一緒に供給することが好ましく、上記のように、支燃性ガスに同伴させて供給することが好ましい。
【0019】
また、本発明において、供給される鉄含有材は、廃棄物溶融炉から排出された溶融金属を冷却固化して得られた金属を含有しているようにすることができる。こうすることにより、廃棄物から得られる金属をそのまま鉄含有材として利用できる。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本発明によれば、廃棄物溶融炉内に鉄含有材を適正な供給量で供給することでスラグ中の酸化鉄濃度を調整して、スラグ融点を所定範囲にまで低下させることができるので、溶融炉下部で熱分解残渣の溶融に必要な熱量を削減することができ、そのためのコークス使用量の削減が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明を実施するための装置の概要構成図である。
【図2】スラグの融点とFeO濃度との関係を各塩基度について示す図である。
【図3】本発明の実施の手順を示す流れ線図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面に基づき、本発明の実施の形態を説明する。
【0023】
図1は本発明の実施に適用可能な廃棄物ガス化溶融炉の一例を示す概要構成図である。この廃棄物ガス化溶融炉の構成、その操業方法、スラグ融点の調整原理そしてその融点調整のための鉄含有材供給量の調整について、順次説明する。
【0024】
<廃棄物ガス化溶融炉の構成>
図1に示される廃棄物ガス化溶融炉1は竪型をなすシャフト式廃棄物ガス化溶融炉であって、炉上部に、廃棄物、補助燃料、スラグの成分調整材などを炉内へ投入するための投入口2が設けられ、また、上部側方には炉内の排ガスを炉外へ排出ための排ガス排出口3が設けられている。また、炉底部には溶融スラグと溶融金属を排出するための出滓口4が設けられている。
【0025】
廃棄物ガス化溶融炉1は、その内部空間が縦方向で3つの領域に大別されていて、下方から、炉下部に形成された下部シャフト部1c、その上に位置する中部シャフト部1b、上部に形成されたフリーボード部1aを有する領域となっている。これらの各部は、それぞれ次のような機能を有する領域となっている。下部シャフト部1cは堆積されたコークスを燃焼させて高温燃焼帯を形成する領域、中部シャフト部1bはこの高温燃焼帯上に投入された廃棄物の堆積により形成された廃棄物堆積層50の廃棄物を熱分解させる領域、フリーボード部1aは生成した可燃性ガスを部分燃焼させる領域である。
【0026】
廃棄物ガス化溶融炉1の上方には、都市ごみ等の廃棄物、補助燃料として使用するコークス、生成するスラグの成分調整材として使用する石灰石をそれぞれ供給する供給装置(図示せず)が配設されており、この供給装置から供給された廃棄物、コークス、石灰石は搬送コンベア21により搬送され上記投入口2から廃棄物ガス化溶融炉1に投入される。
【0027】
廃棄物ガス化溶融炉1に形成された上記下部シャフト部1c、中部シャフト部1b、フリーボード部1aの各部に対しては酸素含有ガスを吹き込む羽口が設けられている。すなわち、下部シャフト部1cには、堆積されたコークスを燃焼させて高温燃焼帯を形成し、熱分解残渣を溶融するための酸素富化空気を吹き込む主羽口5が設けられ、中部シャフト部1bには、投入されて堆積された廃棄物を部分燃焼させると共に廃棄物を緩やかに流動させながら熱分解させるための空気を吹き込む副羽口6が設けられ、フリーボード部1aには、廃棄物が熱分解して生成した可燃性ガスを部分燃焼させて内部を所定温度に維持するための空気を吹き込む三段羽口7が設けられている。
【0028】
主羽口5に接続された酸素富化空気の配管には、鉄含有材を供給する鉄含有材供給装置8が接続され、鉄含有材が主羽口5から酸化剤としての酸素富化空気とともに高温燃焼帯を形成する下部シャフト部1cへ吹き込まれるようになっている。
【0029】
<廃棄物ガス化溶融炉の操業方法>
このように構成された廃棄物ガス化溶融炉1の操業は次のように行われる。
【0030】
供給装置(図示せず)からの廃棄物、コークス、石灰石が投入口2を経て、それぞれ所定量ずつ炉内へ投入され、主羽口5、副羽口6、及び三段羽口7から、それぞれ酸素富化空気又は空気が炉内へ吹き込まれる。上記投入口2から投入された廃棄物は、炉内で中部シャフト部1bに堆積して廃棄物堆積層を形成し、下部シャフト部1cの高温燃焼帯から上昇してくる高温ガス及び副羽口6から吹き込まれる空気によって乾燥され、次いで熱分解される。熱分解により生成した可燃性ガスは、フリーボード部1aにて、三段羽口7から吹き込まれる空気により燃焼して850℃以上の温度に保たれ、有害ガスとタール分を分解させる処理が施されてから二次燃焼炉へ送られ、その燃焼ガスがボイラやガスタービン等で熱回収される。中部シャフト部1bの廃棄物堆積層で廃棄物が熱分解した残渣は下降し、コークスが燃焼されている高温燃焼帯が形成されている下部シャフト部1cに達し、該下部シャフト部1cにて、残存する固定炭素が燃焼し、不燃物が溶融し溶融スラグと溶融金属になる。溶融スラグと溶融金属は出滓口4から排出され、図示しない水砕装置に供給され冷却固化される。冷却固化されたスラグと金属の混合物は磁力選別装置によりスラグと鉄を主成分とする金属に分離される。
【0031】
鉄含有材供給装置8からは、鉄含有材が酸素富化空気の配管内に供給され、主羽口5から酸素富化空気とともに上記下部シャフト部1cの高温燃焼帯に吹き込まれ、スラグの融点を所定範囲とするように供給量を調整される。
【0032】
本発明を適用する廃棄物溶融炉においては、スラグを排出する際に同時に鉄分を多量に含む金属成分も溶融状態で排出され、冷却固化された後に磁選機でスラグと鉄を主成分とする金属に選別されて回収されるため、鉄含有材として、該廃棄物溶融炉から排出された溶融金属を冷却固化した金属を利用することが、排出された溶融金属を再利用できるので好ましい。
【0033】
また、鉄含有材を供給する部位としては、鉄含有材により供給された鉄分を酸化させて鉄酸化物としスラグ中への歩留まりを向上させる観点から、なるべく酸化剤と一緒に廃棄物溶融炉下部の高温燃焼帯のスラグ浴近傍に供給することが好ましく、上記のように、廃棄物溶融炉下部の主羽口から酸化剤としての酸素富化空気(支燃性ガス)に同伴させて供給することが好ましい。また、鉄含有材として製鉄所から排出される製鋼ダストを利用してもよい。
【0034】
<スラグ融点の調整原理>
次に、スラグ融点の調整原理とスラグ融点調整のための鉄含有材供給量の調整方法を詳しく説明する。
【0035】
スラグの成分はカルシウム酸化物(CaO)、珪素酸化物(SiO)、鉄酸化物(FeO)などからなる。本発明者等はスラグの組成成分によりスラグの融点がどのように変化していくか熱力学平衡計算を行った。その結果、スラグの融点はスラグの塩基度(CaO/SiO)と鉄酸化物(FeO)濃度に大きく影響を受けることが分かった。具体的には、一般的な廃棄物を処理した際に生じるスラグ組成の範囲では、スラグの塩基度が1.0以上になると融点の上昇が顕著となることが分かった。
【0036】
また、図2は横軸にスラグ中のFeO濃度(重量%)を、縦軸にスラグの融点をとって両者の関係を示すものであるが、パラメータとして三種の塩基度1.4,1.1,0.8の組成にFeOを添加して、FeO濃度を変化させたときのスラグの組成における融点を熱力学平衡計算により求めたものである。図2中、塩基度1.4の場合を(1)、塩基度1.1の場合を(2)、塩基度0.8の場合を(3)の曲線で示している。図2から明らかなように、いずれの塩基度の場合もFeO濃度の増加により融点は低下することと、FeO濃度が12重量%を超えると融点を低下させる効果は変わらなくなることが分かった。
【0037】
上記のことから、スラグの融点を低下させて、熱分解残渣の溶融に使用する補助燃料(コークス)を低減するには、スラグ中のFeO濃度を高くすることが有効である。その際、スラグ中のFeO濃度を高くしてスラグの融点を低下させる効果は、FeO濃度を12重量%より高くしても効果は変わらないため、12重量%より高くする必要はなく、むやみに鉄含有材を多く供給すると、スラグ排出量が多くなり処理量が増大するという問題が生じるので好ましくない。
【0038】
スラグ中のFeO濃度を上げるために、廃棄物溶融炉内に鉄含有材をその供給量を調整して供給する。
【0039】
<スラグ融点調整のための鉄含有材供給量の調整>
スラグの融点を調整するための鉄含有材の供給量の調整は、図3に示される工程にしたがい、次の(i)〜(iii)の手順で行われる。
【0040】
(i)炉から実際に排出されたスラグの成分組成を蛍光X線分析等により現場で測定し、測定して得られたスラグの成分組成に基づきこのスラグの融点を推定する。スラグの融点の推定に際しては、スラグの成分組成と融点との関係を計算により求める手順を予め準備しておき計算して求めてもよいし、スラグの成分組成と融点との関係を示す線図を予め準備しておき求めてもよい。例えば、本実施形態の場合CaO,SiO,FeOの3成分系状態図を用いて、これらの組成から融点を求めることができる。例えば、排出されたスラグについて測定した結果が、CaO:35重量%、SiO:32重量、FeO:5重量%、他:28重量%である場合、上記3成分系状態図からスラグの融点推定値は1200℃として求められる。このときのスラグの塩基度(CaO/SiO)は35/32≒1.1である。
【0041】
(ii)次に、所望の上限温度として定められたスラグの融点の所定値に対して、排出されたスラグの上記融点推定値がこの所定値以下かどうか比較し、融点推定値が所定値以下の場合には、その時点での鉄含有材の供給量を変更せずそのまま維持する。融点推定値が上記所定値より高い場合には、炉中のスラグの融点を所定値とするためのスラグ中のFeO目標濃度を、測定したスラグの成分組成に基づき求める。例えば、上記(i)の例では、スラグの融点を所定値として定められた1100℃としたいとき、図2にて、塩基度が1.1である曲線(2)に基づき、融点を1100℃にするためにはFeO目標濃度は12重量%とすれば良いことが判る(図2中の破線参照)。すなわち(i)で測定したように、すでに排出されたスラグのFeOは5重量%であるから、12−5=7重量%に相当する差分が増加するように鉄含有材供給量を定めれば良いこととなる。
【0042】
(iii)かくして、(ii)で求めたスラグ中のFeO目標濃度と、スラグ排出量、スラグ中のFeO濃度測定値及び鉄含有材から生成する鉄酸化物のスラグへの歩留まりとに基づき、溶融炉へ供給する鉄含有材の供給量を予め定めた計算による手順や予め作成した線図等により求める。鉄含有材から生成するFeOのスラグへの歩留まりは廃棄物溶融炉設備により異なるので予め算定しておけばよい。
【0043】
上記の鉄含有材供給量の調整方法は、予め計算プログラムをコンピューターに装備して自動制御しても良いし、予め作成した線図に基づきオペレーターが手動操作しても良い。
【0044】
こうして鉄含有材供給量を、上記線図等により、上記例の場合、FeO濃度が12重量%となるように定める。この例の場合、高温燃焼帯のスラグ浴の温度をスラグの融点程度である1100℃としても、溶融スラグは流動性を有し出滓に支障が生じないため、スラグ浴の温度が1200℃から1100℃へ降下するまで供給コークス量を低減させることができる。
【0045】
このように、本願発明によると、廃棄物溶融炉内に鉄含有材を上記のような手順により適正な供給量で供給することでスラグ中の鉄酸化物(FeO)濃度を調整して、スラグ融点を上限温度たる所定値にまで低下させることができるので、溶融炉下部で熱分解残渣の溶融に必要な熱量を削減することができ、コークス使用量の削減が可能となる。
【符号の説明】
【0046】
1 廃棄物溶融炉
5 (主)羽口
6 (副)羽口
7 (三段)羽口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉上部から投入された廃棄物を熱分解、ガス化し、炉下部に形成された高温燃焼帯で熱分解残渣を溶融し溶融スラグとして排出する廃棄物溶融炉の操業方法において、次の工程1)ないし3)を行いスラグの融点を調整することを特徴とする廃棄物溶融炉の操業方法。
1)排出されたスラグの成分組成を測定し、排出されたスラグの融点を該成分組成から推定する。
2)融点推定値が、予め定められた所定値より高い場合に、炉中のスラグの融点を該所定値まで下げるのに必要なスラグ中の鉄酸化物目標濃度を、測定したスラグの成分組成に基づき求める。
3)スラグ中の鉄酸化物の目標濃度に基づき、溶融炉へ供給する鉄含有材の供給量を求め、この量の鉄含有材を炉内へ供給する。
【請求項2】
鉄含有材は、高温燃焼帯に支燃性ガスを吹き込む羽口から供給されることとする請求項1に記載の廃棄物溶融炉の操業方法。
【請求項3】
供給される鉄含有材は、廃棄物溶融炉から排出された溶融金属を冷却固化して得られた金属を含有していることとする請求項1又は請求項2に記載の廃棄物溶融炉の操業方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−122625(P2012−122625A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−271305(P2010−271305)
【出願日】平成22年12月6日(2010.12.6)
【出願人】(000004123)JFEエンジニアリング株式会社 (1,044)
【Fターム(参考)】