説明

廃液処理方法、ポリエステルの製造方法、及びポリエステルの製造装置

【課題】ポリエステルの製造工程から排出される水及び1,4−ジオキサンを含む廃液中の1,4−ジオキサン濃度を効率的に減少させる技術を提供する。
【解決手段】ジカルボン酸とエチレングリコールを含むジオールとをエステル化及び重縮合させてポリエステルを製造する工程から排出された、水及び1,4−ジオキサンを含む廃液を蒸留し、廃液中の1,4−ジオキサンを留出させるとともに、1,4−ジオキサンを実質的に含有しない缶出液を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジカルボン酸とエチレングリコールを含むジオールとから直接重合法によりポリエステルを製造する方法におけるエステル化反応工程や重縮合反応工程等から排出される水及び有機物を含む廃液(以下、「含水廃液」ということがある)を処理する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジカルボン酸とエチレングリコールを含むジオールとをエステル化及び重縮合させてポリエステルを製造する場合、ジカルボン酸とジオールとのエステル化反応工程で発生する水は、通常、エステル化反応装置に付属する蒸留塔等の分離装置でジオールと分離され、含水廃液として排出される。また、重縮合工程では、留出物として含水廃液が排出される。さらに、エステル化工程や重縮合工程からの含水廃液からエチレングリコール等のジオールを回収する工程においても、水及び有機物を含む廃液(含水廃液)が排出される。
【0003】
これらの含水廃液は、通常、エチレングリコールやそれに由来する有機物等を多量に含有するため化学的酸素要求量(COD)が高く、環境保護や法規制の観点から、含水廃液をそのままでは河川等に放流することはできない。このようなCODの高い含水廃液は、活性汚泥処理してCODを下げ、また、有害成分を許容濃度以下に下げて放流するのが一般的である。しかしながら、エチレングリコールを原料として含むポリエステル製造工程から出る上記含水廃液には、2−メチル−1,3−ジオキソランや有害成分である1,4−ジオキサン等の、活性汚泥処理が必ずしも有効でない成分が通常は含まれる。
【0004】
このような含水廃液の処理方法としては、例えば、含水廃液を強酸性イオン交換樹脂に接触させた後、活性汚泥処理をする方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。しかしこの方法では、強酸性イオン交換樹脂に接触させた後の含水廃液中の2−メチル−1,3−ジオキソランは減少しているものの、1,4−ジオキサンを減少させる方法としては十分に有効であるとはいえない。
【0005】
また含水廃液の処理方法としては、例えば、ポリエステルの製造工程より排出される含水廃液のCODを低減させるため、含水廃液をハロゲン酸素酸のアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩で処理する方法が知られている(例えば、特許文献2参照。)。しかしこの方法では、ハロゲン酸素酸の金属塩の含水廃液への添加量が多く、経済性や、含水廃液からの金属の回収を要する等の観点から現実的でない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平3−270799号公報
【特許文献2】特開昭49−59468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ポリエステルの製造工程から排出される水及び1,4−ジオキサンを含む廃液中の1,4−ジオキサン濃度を効率的に減少させる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意検討の結果、1,4−ジオキサン(沸点101℃)と水(沸点100℃)との共沸混合物中の水分量が比較的低いことを利用して
、活性汚泥処理すべき含水廃液から効率的に1,4−ジオキサンを減少できることを見出し本発明に到達した。
即ち、本発明の要旨は以下である。
【0009】
本発明は、ジカルボン酸とエチレングリコールを含むジオールとをエステル化及び重縮合させてポリエステルを製造する工程から排出された、水及び1,4−ジオキサンを含む廃液を蒸留して1,4−ジオキサンを留出させ、1,4−ジオキサンを実質的に含有しない缶出液を得る廃液処理方法を提供する。
【0010】
また本発明は、前記廃液がアセトアルデヒドをさらに含む前記の廃液処理方法を提供する。
【0011】
また本発明は、前記蒸留で得られた留出物の留出温度が55〜90℃である前記の廃液処理方法を提供する。
【0012】
また本発明は、前記廃液を排出する、前記ポリエステルを製造する工程が、ジカルボン酸とエチレングリコールを含むジオールとをエステル化するエステル化工程と、エステル化工程で得られたエステル化物を重縮合してポリエステルを生成する重縮合工程と、エステル化工程及び重縮合工程で排出される留出物の一部又は全部を蒸留してジオールを缶出液として回収するジオール回収工程とを含み、前記廃液が、エステル化工程で排出される留出物の一部又は全部、及びジオール回収工程で排出される留出物の一方又は両方を含む前記の廃液処理方法を提供する。
【0013】
また本発明は、前記ポリエステルがポリエチレンテレフタレートであり、前記ジカルボン酸がテレフタル酸を主成分として含み、前記ジオールがエチレングリコールを主成分として含む前記の廃液処理方法を提供する。
【0014】
また本発明は、前記蒸留で得られた留出物中の1,4−ジオキサンを焼却、分解、又は除去する工程をさらに含む前記の廃液処理方法を提供する。
【0015】
また本発明は、前記蒸留で得られた留出物を焼却する工程をさらに含む前記の廃液処理方法を提供する。
【0016】
また本発明は、前記廃液の蒸留で得られた前記缶出液中の有機物を分解する活性汚泥処理工程をさらに含む前記の廃液処理方法を提供する。
【0017】
また本発明は、前記廃液の水の含有量が10質量%以上である前記の廃液処理方法を提供する。
【0018】
また本発明は、前記蒸留を蒸留塔で行い、蒸留塔の塔頂温度が、塔頂圧力における水と1,4−ジオキサンとの共沸混合物の沸点以上、沸点+20℃以下の温度である前記の廃液処理方法を提供する。
【0019】
また本発明は、ジカルボン酸とエチレングリコールを含むジオールとをエステル化及び重縮合させてポリエステルを製造する方法において、前記の廃液処理方法をさらに含むポリエステルの製造方法を提供する。
【0020】
また本発明は、ジカルボン酸とエチレングリコールを含むジオールとをエステル化するためのエステル化装置と、エステル化装置で得られたエステル化物を重縮合してポリエステルを生成するための重縮合装置と、エステル化装置及び重縮合装置から排出される留出
物の一部又は全部を蒸留してジオールを缶出液として回収するためのジオール回収装置とを有するポリエステルの製造装置において、前記エステル化装置から排出される留出物の一部又は全部、及び前記ジオール回収装置から排出される留出物の一方又は両方を蒸留して1,4−ジオキサンを留出させ、1,4−ジオキサンを実質的に含有しない缶出液を得るための蒸留装置をさらに有するポリエステルの製造装置を提供する。
【0021】
また本発明は、前記蒸留装置の留出物を焼却するための焼却装置をさらに有する前記のポリエステルの製造装置を提供する。
【0022】
また本発明は、前記蒸留装置の缶出液中の有機物を分解するための活性汚泥処理装置をさらに有する前記のポリエステルの製造装置を提供する。
【0023】
また本発明は、前記ポリエステルがポリエチレンテレフタレートであり、前記ジカルボン酸がテレフタル酸を主成分として含み、前記ジオールがエチレングリコールを主成分として含む前記のポリエステルの製造装置を提供する。
【発明の効果】
【0024】
本発明により、ポリエステルの製造工程から排出される含水廃液中の1,4−ジオキサンを効率よく含水廃液から分離させることができる。本発明により、1,4−ジオキサンが除去された含水廃液を効率よく得ることができる。また本発明により、ポリエステルの製造工程から排出される含水廃液から、アセトアルデヒド、1,3−ジオキソラン、2−メチル−1,3−ジオキソラン等の成分も、効率よく分離し、除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施例で用いられる連続式ポリエチレンテレフタレート製造プラントの要部を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の廃液処理方法は、ジカルボン酸とエチレングリコールを含むジオールとをエステル化及び重縮合させてポリエステルを製造する工程から排出された含水廃液を蒸留して、含水廃液中の1,4−ジオキサンを留出させ、1,4−ジオキサンを実質的に含有しない含水廃液を缶出液として得る、廃液処理工程である。
【0027】
本発明の廃液処理方法に供する含水廃液は、水と1,4−ジオキサンとを含有し、これらの共沸混合物の蒸留によって、理論上、全ての1,4−ジオキサンが留出するのに十分な水を含有する液である。ここで、前記含水廃液の水の含有量は、通常、10質量%以上、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上であり、また、通常、99.9質量%以下、好ましくは99.5質量%以下である。
【0028】
また、前記含水廃液の1,4−ジオキサンの含有量は、通常、水の含有量に対する質量比で4倍以下、好ましくは1倍以下、より好ましくは0.1倍以下、さらに好ましくは0.01倍以下である。前記含水廃液の水の含有量、1,4−ジオキサンと水との質量比が前記範囲である場合、本発明の廃液処理方法により含水廃液中の1,4−ジオキサン濃度を減少させる効率が良くなるため、一層好ましい。なお、大気圧における水と1,4−ジオキサンの共沸混合物は、水と1,4−ジオキサンとの質量比が1:4である。
【0029】
また前記含水廃液は、アセトアルデヒドをさらに含有していてもよい。前記含水廃液のアセトアルデヒドの含有量は、本発明の廃液処理方法により含水廃液中の1,4−ジオキサン濃度を効率よく減少させる観点から、0.01質量%以上であることが好ましく、0
.05質量%以上であることがより好ましく、0.1質量%以上であることがさらに好ましく、0.2質量%以上であることが特に好ましい。また、前記含水廃液のアセトアルデヒドの含有量は、前記の観点から、30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、15質量%以下であることがさらに好ましく、10質量%以下であることが特に好ましく、6質量%以下であることが最も好ましい。前記含水廃液のアセトアルデヒドの含有量が上記の範囲の場合、本発明の処理方法における留出温度を比較的低くできるため、処理に要する熱源の使用量が少量で済み、一層好ましい。
【0030】
前記含水廃液中の1,4−ジオキサンやアセトアルデヒドには、例えばポリエステルの製造工程において、脱水反応によりエチレングリコールから副生した1,4−ジオキサンやアセトアルデヒドが挙げられる。含水廃液は、本発明の効果が得られる範囲において、その他の成分を含有していてもよい。また含水廃液には、ポリエステルの製造工程から排出される含水廃液以外の、1,4−ジオキサンやアセトアルデヒドを含有する廃液を、本発明の効果が得られる範囲で混合することが可能である。
【0031】
前記含水廃液は、ジカルボン酸とエチレングリコールを含むジオールとをエステル化及び重縮合させてポリエステルを製造する工程から得られる。本発明において、「エチレングリコールを含むジオール」とは、エステル化の原料である全ジオール中に含まれるエチレングリコールの比率が1モル%以上、好ましくは10モル%以上、より好ましくは51モル%以上、さらに好ましくは65モル%以上、特に好ましくは80モル%であることを言う。前記ジカルボン酸は、一種でも二種以上でもよく、前記ジオールも、エチレングリコールのみでもよいし他のジオールをさらに含んでいてもよい。エチレングリコール以外のエステル化の原料は、製造しようとするポリエステルに応じて適宜選ばれる。例えばポリエチレンテレフタレートを製造する場合では、エステル化の原料には、テレフタル酸を主成分として含むジカルボン酸とエチレングリコールを主成分として含むジオールとが用いられる。
【0032】
「テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸」とは、ジカルボン酸中のテレフタル酸が90モル%以上であることを言い、このようなジカルボン酸中のテレフタル酸の好ましい含有量は95モル%以上である。テレフタル酸以外の前記ジカルボン酸としては、例えばイソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等のポリエステル形成性のジカルボン酸が挙げられる。
【0033】
「エチレングリコールを主成分とするジオール」とは、ジオール中のエチレングリコールが90モル%以上であることを言う。エチレングリコール以外の前記ジオールとしては、例えばジエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、及び1,4−シクロヘキサンジメチロールが挙げられる。
【0034】
前記のポリエステルを製造する工程(方法)としては、例えば、ジカルボン酸とエチレングリコールを含むジオールとをエステル化するエステル化工程と、エステル化工程で得られたエステル化物を重縮合してポリエステルを生成する重縮合工程と、エステル化工程及び重縮合工程で排出される留出物の一部又は全部を蒸留してジオールを缶出液として回収するジオール回収工程とを含む工程が挙げられる。このような工程では、例えばエステル化工程で排出される留出物、重縮合工程で排出される留出物、及びジオール回収工程で排出される留出物が得られる。前記含水廃液は、これらの留出物の一部でもよいし全部であってもよい。さらには、前記含水廃液は、他の工程で排出される水及び有機物を含む廃液を含んでもよい。
【0035】
前記のポリエステルを製造する工程は、製造しようとするポリエステルの種類に応じて
公知の技術に基づいて行うことができる。以下、ジカルボン酸としてテレフタル酸を使用し、ジオールとしてエチレングリコールを使用するポリエチレンテレフタレートの連続的な製造工程を例として、本発明を説明する。
【0036】
前記エステル化工程は、ポリエチレンテレフタレートの製造では、通常、エチレングリコールとテレフタル酸とが、エチレングリコール:テレフタル酸のモル比で1:1〜1:2で原料として用いられる。エステル化反応は通常、反応温度200〜270℃、反応圧力50〜500kPaで、一段又は複数段の反応槽を用いて連続的に行われる。
【0037】
エステル化工程で得られたエステル化反応生成物(エステル化物)は重縮合工程に移される。重縮合工程では、重縮合反応槽において副成する水及びエチレングリコール等を反応槽外へ留出させつつポリエステルを得る。留出させた水及びエチレングリコール等は、通常、乾式又は湿式のコンデンサで凝縮させ、その一部又は全部を、ジオール回収工程に供する。重縮合反応は、ポリエチレンテレフタレートの製造では、通常、反応温度250〜300℃、反応圧力100〜0.01kPaで、複数段の反応槽を用いて連続的に行われる。
【0038】
また、重縮合反応は、ポリエチレンテレフタレートの製造では、通常、減圧下で行われるが、反応槽に減圧を付加するためにスチームエジェクタを使用する場合、スチームエジェクタとエジェクタ下流部に設置されたバロメトリックコンデンサ、及び該コンデンサと大気圧を介して接続されたホットウェルタンクとを組み合わせることが多い。
【0039】
反応槽外へ留出したエチレングリコールはジオール回収工程で蒸留回収され新たな反応等に使用される。またジオール回収工程では、反応槽その他の洗浄に使用したエチレングリコールを蒸留回収することもある。
【0040】
ポリエチレンテレフタレートの製造工程では、エステル化工程、重縮合工程、及びジオール回収工程のそれぞれから含水廃液が排出される。また、これらの含水廃液は、通常、1,4−ジオキサンやアセトアルデヒドを含有する。
【0041】
ポリエチレンテレフタレートの製造におけるエステル化工程では、エステル化反応槽中でテレフタル酸等のジカルボン酸とエチレングリコールを含むジオールとのエステル化反応が行われ、反応によって生成する水は反応槽に付設された分離塔で分離され、反応系外に留出される。反応系外に留出される水は、アセトアルデヒド、1,4−ジオキサン等の有機物を含む含水廃液である。この含水廃液中の有機物としては、例えばアセトアルデヒド(通常0.1〜1.0質量%)、エチレングリコール(通常0.1〜1.0質量%)、1,4−ジオキサン(通常100〜5,000質量ppm)、酢酸(通常100〜1,000質量ppm)、2−メチル−1,3−ジオキソラン(通常50〜500質量ppm)、及び1,3−ジオキソラン(通常10〜100質量ppm)が挙げられる。
【0042】
ポリエチレンテレフタレートの製造における重縮合工程では、前記乾式又は湿式のコンデンサで凝縮されなかった水や有機物が、スチームエジェクタを経由して、バロメトリックコンデンサで捕集され、水に溶解し、含水廃液となる。この含水廃液中の有機物としては、例えばアセトアルデヒド、エチレングリコール、1,4−ジオキサン、酢酸、2−メチル−1,3−ジオキソラン、及び1,3−ジオキソラン等が挙げられる。含水廃液中の、これらの有機物の濃度は、通常、1質量ppm〜5質量%程度である。
【0043】
ポリエチレンテレフタレートの製造におけるジオール回収工程では、例えばエチレングリコールを蒸留回収する場合では、通常、エチレングリコールは高沸点成分として回収される。低沸点成分は留出物となる。この留出物は、水、アセトアルデヒド、1,4−ジオ
キサン等の有機物を含んだ含水廃液である。この含水廃液中の有機物としては、例えばアセトアルデヒド(通常0.1〜1.0質量%)、エチレングリコール(通常1.0〜5.0質量%)、1,4−ジオキサン(通常100〜5,000質量ppm)、酢酸(通常0.1〜1.0質量%)、2−メチル−1,3−ジオキソラン(通常0.1〜1.0質量%)、及び1,3−ジオキソラン(通常100〜1,000質量ppm)が挙げられる。
【0044】
本発明の廃液処理方法により、1,4−ジオキサンを実質的に含有しない廃液を缶出液として得ることができる。本発明の「1,4−ジオキサンを実質的に含有しない廃液」とは、1,4−ジオキサンを含有しないか、あるいは、その廃液をそのまま、又は希釈して、又は活性汚泥処理法等の有機物分解処理を施した後に放流することができる量の1,4−ジオキサンを含有している廃液を意味する。前記缶出液中の1,4−ジオキサンの濃度は、10質量ppm以下であることが好ましく、5質量ppm以下であることがより好ましく、3質量ppm以下であることがさらに好ましく、0.1質量ppm以下であることが特に好ましい。缶出液中の1,4−ジオキサンの濃度が10質量ppmを超えると、缶出液を活性汚泥処理しても、得られる処理物に1,4−ジオキサンが高濃度で残存することがあり、また缶出液又は処理物を河川等へ排出するのに大量の希釈水を要することがある。
【0045】
本発明の蒸留は、減圧、加圧、常圧(大気圧)のいずれでも行うことができる。この蒸留は、蒸留塔、これに付設する還流コンデンサ、及び蒸留熱源装置を用いて行うことができる。前記蒸留工程による水と1,4−ジオキサンとの共沸混合物の沸点は1気圧で88℃である。この共沸混合物の組成は比較的1,4−ジオキサン側に寄っているので、含水廃液からの1,4−ジオキサンの分離に有利である。この蒸留の理論段数としても過大な理論段数は必要なく、通常、蒸留の理論段数は10〜40段から適宜選択することができ、好ましくは13〜25段である。
【0046】
前記蒸留塔は、このような水と1,4−ジオキサンとの共沸混合物の蒸留に用いられる蒸留塔であればよい。例えば、塔中段に含水廃液フィード口と、塔底部に加熱用水蒸気吹き込み口とを有し、塔頂部で還流コンデンサと接続された蒸留塔、又は、塔中段に含水廃液フィード口を有し、塔底部で加熱用熱交換器と、塔頂部で還流コンデンサとそれぞれ接続された蒸留塔等が使用できる。
【0047】
前記蒸留塔の運転条件は、塔頂圧力が通常5〜300kPaであることが好ましく、90〜110kPaであることがより好ましい。塔頂温度は、塔頂圧力における水と1,4−ジオキサンとの共沸混合物の沸点以上、沸点+20℃以下の温度であることが好ましく、沸点+16℃以下の温度であることがより好ましく、沸点+14℃以下の温度であることがさらに好ましい。ここで、塔頂圧力が大気圧の場合は、水と1,4−ジオキサンとの共沸混合物の沸点は88℃である。また蒸留塔の塔頂から還流コンデンサを経て気相として抜き出される留出物の留出温度は、蒸留されている含水廃液から1,4−ジオキサンを実質的に全量留出させられる温度として、例えば55〜100℃の範囲から決められる。
【0048】
ここで「実質的に全量」とは、含水廃液中の1,4−ジオキサンの全量、又は、この全量から、希釈や有機物分解処理により缶出液を放流することができる缶出液における1,4−ジオキサンの含有量を差し引いた量、である。前記留出温度は、本発明の処理方法に供される含水廃液中の1,4−ジオキサンの含有量や、本発明の処理方法に供される含水廃液中のアセトアルデヒドの含有量に応じて決めることができる。蒸留中の含水廃液中の1,4−ジオキサンの含有濃度が「1,4−ジオキサンを実質的に含有しない廃液」中の1,4−ジオキサン濃度よりも高い場合には、留出温度を高くすることによって、1,4−ジオキサンを含水廃液から実質的に全量留出させることができる。
【0049】
また、前記含水廃液がアセトアルデヒドを含有する場合では、留出温度は55〜90℃であることが好ましく、55〜70℃であることがより好ましく、55〜63℃であることがさらに好ましい。前記還流コンデンサの気相側の出口の気相の温度を本発明では留出温度とする。留出温度が前記範囲の場合、1,4−ジオキサンの蒸留塔からの留出を制御しやすくなるため、一層好ましい。前記含水廃液は、前述したように、通常、アセトアルデヒドを含有するが、含水廃液がアセトアルデヒドを含有しない場合では、例えば55〜100℃の範囲で留出温度をより高くすることによって、1,4−ジオキサンを含水廃液から実質的に全量留出させることができる。
【0050】
前記塔頂温度や前記留出温度がそれぞれ前記範囲の場合、水と1,4−ジオキサンとの共沸混合物が留出しやすいため、蒸留熱源の過大化を防止できることから、一層好ましい。また、前記塔頂温度や前記留出温度がそれぞれ前記範囲の場合、不必要な水分の留出を抑制できることから、前記留出物中の水分の増加を抑えて前記留出物の焼却処理による有機成分の除去を容易にできるため、一層好ましい。また、前記塔頂温度や前記留出温度がそれぞれ前記範囲の場合、本発明の処理方法で得られる缶出液中の1,4−ジオキサンの濃度を排出規制濃度以下にすることが容易となり、経済的である。前記塔頂温度や留出温度は、例えば、加熱用水蒸気の吹き込み量、加熱用熱交換器の熱交換量、還流コンデンサから蒸留塔への還流量、還流液の温度等によって制御することができる。
【0051】
前記蒸留塔の塔底温度は、塔頂圧力が大気圧の場合、前述の観点から95〜105℃であることが好ましく、98〜103℃であることがより好ましい。また、前記缶出液が蒸留塔の塔底から排出されるときの温度は95〜105℃であることが好ましく、100〜103℃であることがより好ましい。
【0052】
前述の運転条件によると、含水廃液の蒸留において、1,4−ジオキサンと水の共沸混合物が留出し、1,4−ジオキサンを効率よく留出させることができる。また、前述の運転条件によると、蒸留熱源の使用量も少量で済む。
【0053】
前記蒸留における留出物とは、含水廃液中に含まれていた1,4−ジオキサンと水とを含有し、さらに含有していてもよい組成物としては、例えばアセトアルデヒド(通常10〜60質量%)、エチレングリコール(通常1.0質量ppm以下)、1,4−ジオキサン(通常1〜20質量%)、酢酸(通常1.0質量ppm以下)、2−メチル−1,3−ジオキソラン(通常0.1〜10質量%)、及び1,3−ジオキソラン(通常0.01〜5.0質量%)が挙げられる。
【0054】
前記蒸留における缶出液とは、前記共沸混合物の沸点よりも高い沸点を有する成分を主に含有する組成物である。前記缶出液に含有される成分としては、水の他に、例えばエチレングリコール(通常500〜10,000質量ppm)、及び酢酸(通常100〜5,000質量ppm)が主な成分として挙げられる。
【0055】
本発明の廃液処理方法は、前記蒸留で得られた留出物中の1,4−ジオキサンを焼却、分解、又は除去する工程を含むことができる。前記留出物中の1,4−ジオキサンは、焼却によって分解することができ、また活性炭等の吸着剤による吸着処理によって留出物中から除去することができる。前記含水廃液中の排出規制物質である1,4−ジオキサンを容易に処理(炭酸ガスと水に分解し無害化)することができることから、前記留出物を焼却する工程を含むことが好ましい。
【0056】
本発明の廃液処理方法は、前述した工程以外の他の工程をさらに含んでいてもよい。このような他の工程としては、例えば、前記含水廃液の蒸留工程で得られた前記缶出液中の有機物を分解する活性汚泥処理工程が挙げられる。
【0057】
前記缶出液は活性汚泥処理することが好ましい。前記活性汚泥処理工程は、水中の有機物の分解に用いられる通常の活性汚泥処理技術によって行うことができる。前記缶出液は、1,4−ジオキサンを極微量しか又は全く含有しないことから、缶出液を活性汚泥処理することにより、缶出液のCODを規制値以下に低減させることができ、それによって活性汚泥処理後の缶出液を河川等にそのまま排出することが可能になる。
【0058】
本発明の廃液処理方法は、含水廃液を蒸留するための蒸留装置とこの蒸留装置に含水廃液を供給するための手段(例えば含水廃液を収容するタンク等)とによって行うことができるが、既存のポリエステル製造装置に、含水廃液を蒸留するための蒸留装置を追加した装置で好適に行うことができる。
【0059】
前記ポリエステル製造装置としては、例えば、ジカルボン酸とエチレングリコールを含むジオールとをエステル化するためのエステル化装置と、エステル化装置で得られたエステル化物を重縮合してポリエステルを生成するための重縮合装置と、エステル化装置及び重縮合装置から排出される留出物の一部又は全部を蒸留してジオールを缶出液として回収するためのジオール回収装置とを有するポリエステルの製造装置が挙げられる。これらの装置には、ポリエステルの種類に応じた、ポリエステルの製造に用いられる通常の装置を用いることができる。前記ポリエステル製造装置としては、例えば、前記ジカルボン酸がテレフタル酸を主成分として含み、前記ジオールがエチレングリコールを主成分として含む原料が用いられるポリエチレンテレフタレートの製造装置が挙げられる。
【0060】
前記蒸留装置としては、前記エステル化装置から排出される留出物の一部又は全部、並びに前記ジオール回収装置から排出される留出物の一方又は両方を蒸留して1,4−ジオキサンを留出させ、1,4−ジオキサンを実質的に含有しない缶出液を得るための廃液蒸留装置が挙げられる。このような廃液蒸留装置には、前述した運転条件での前記蒸留工程が可能な通常の蒸留装置を用いることができる。前記蒸留装置は、留出物の一方又は両方を55〜100℃、好ましくは55〜90℃、より好ましくは55〜70℃、さらに好ましくは55〜63℃の留出温度で蒸留して1,4−ジオキサンを前記留出物から実質的に全量留出させられる装置であることが、一層好ましい。
【0061】
前記廃液蒸留装置において、所期の留出温度を実現する蒸留が可能な構成としては、例えば、留出温度の実測値や設定値に基づいて蒸留における加熱条件や、還流コンデンサから蒸留塔への還流量を制御する装置が挙げられる。また前記の構成としては、例えば、缶出液における1,4−ジオキサンの濃度に基づいて留出温度を制御する装置や、含水廃液におけるアセトアルデヒドの濃度に基づいて留出温度を制御する装置も挙げられる。
【0062】
さらに前記ポリエステル製造装置には、前記蒸留装置から排出される留出物や缶出液を分解又は除去するさらなる装置を設けることができる。このようなさらなる装置としては、例えば、前記蒸留装置の留出物を焼却するための焼却装置や、前記蒸留装置の缶出液中の有機物を分解するための活性汚泥処理装置が挙げられる。前記焼却装置には、水分と1,4−ジオキサン等の有機物とを含有する気相の組成物の焼却に用いられる通常の装置を用いることができ、前記活性汚泥処理装置には、水中の有機物の分解に通常用いられる装置を用いることができる。
【実施例】
【0063】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はその要旨を越えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0064】
実施例における各成分の濃度分析はガスクロマトグラフ法で行った。
分析機器には、(1)ガスクロマトグラフ 株式会社島津製作所製、GC−2010、(2)ワークステーション 株式会社島津製作所製、GC−Solution、(3)オートインジェクター 株式会社島津製作所製、AOG−20iを用いた。カラムには、アジレント・テクノロジー株式会社製、J&W DB−WAX(0.53mm×30m)を用いた。キャリアガスには窒素を用いた。外部標準法で、2点検量線法で定量を行った。なお、低沸点成分V中の水の量は、検出された有機物の質量比の合計を100%から引くことにより、算出した。
【0065】
また本実施例では、図1に示す連続式ポリエチレンテレフタレート製造プラントを用いた。この製造プラントは、連続する二つのエステル化反応槽1及び2と、エステル化反応槽1及び2のそれぞれの副生物を留去するための分離塔3及び4と、分離塔3及び4からの留出物を蒸留するための蒸留塔5と、エステル化反応槽2の反応生成物であるエステル化物を重縮合するための不図示の連続する3つの重縮合反応槽と、これらの重縮合反応槽のそれぞれの留出物を凝縮するための不図示の3つの湿式コンデンサと、前記湿式コンデンサで凝縮・回収されたエチレングリコールを蒸留によって缶出液として回収するための不図示のジオール回収装置とを有する。エステル化反応槽1にはエステル化の原料を供給する原料フィードライン6が接続されている。またエステル化反応槽1及び2は、エステル化反応槽1の反応生成物がエステル化反応槽2に供給されるように接続されている。またエステル化反応槽2と最上流側の重縮合反応槽とは、エステル化物フィードライン7によって接続されている。
【0066】
分離塔3は第一の含水廃液フィードライン8を介して蒸留塔5と接続されている。分離塔4は第二の含水廃液フィードライン9を介して第一の含水廃液フィードライン8と接続されている。また前記ジオール回収装置の塔頂は、乾式コンデンサ及び第三の含水廃液フィードライン10を介して第一の含水廃液フィードライン8と接続されている。
【0067】
蒸留塔5の塔頂は還流コンデンサ11と接続されている。還流コンデンサ11の凝縮物の出口は蒸留塔5の塔頂部と接続されている。また還流コンデンサ11のガスの出口は、留出物排出ライン12を介して不図示の焼却装置に接続されている。還流コンデンサ11の出口には、蒸留塔5からの留出物の温度(留出温度)を測定する温度計13が設けられている。
【0068】
蒸留塔5の塔底部には、蒸留熱源用の水蒸気を蒸留塔5の内部に供給するための加熱用水蒸気フィードライン14が接続されている。また蒸留塔5の塔底は、缶出液排出ライン15を介して不図示の活性汚泥処理装置に接続されている。
【0069】
蒸留塔5は、内径が259.4mmであり、蒸留塔5には、濃縮部と回収部にそれぞれ充填物としてカスケードミニリングが充填されている。濃縮部にはSUS製のNo.1(φ25×22×8H)のカスケードミニリングが、回収部にはポリプロピレン(PP)製のNo.0(38×30×13H)のカスケードミニリングがそれぞれ充填されている。なお、濃縮部の長さは2mであり、回収部の長さは6mである。蒸留塔5は、還流コンデンサ11の凝縮物の出口と塔頂との間の温度を測定するための温度計16を有している。
【0070】
[実施例1]
図1に示す、テレフタル酸とエチレングリコールとからポリエチレンテレフタレートを連続的に製造するプラントにおいて、エステル化工程でエステル化反応を連続する2つのエステル化反応槽1、2で行い、副生する水等を留去しつつエステル化反応生成物を得た。各エステル化反応槽1、2の分離塔3、4の上部からは含水廃液I、IIがそれぞれ排出された。
【0071】
前記エステル化反応生成物は、不図示の連続する3つの重縮合反応槽で重縮合反応によってポリエチレンテレフタレートとなり、重縮合反応槽から連続的に取り出しされてポリエステルペレットとなった。前記反応槽からは、重縮合反応を行い副生するエチレングリコール、水等が留去された。副生するエチレングリコール、水等は湿式コンデンサで凝縮後、前記ジオール回収装置へ連続的に移送され、エチレングリコールが当該装置の塔底より回収され、1,4−ジオキサンを含む含水廃液IIIが当該装置の塔頂から排出された。
【0072】
含水廃液Iは、第一のフィードライン8に供給され、含水廃液IIは、第二のフィードライン9を介して第一のフィードライン8に供給され、含水廃液IIIは、第三のフィードライン10を介して第一のフィードライン8に供給され、含水廃液I〜IIIは第一のフィードライン8で合流して蒸留塔5に供給される。蒸留塔5に供給される各含水廃液、及び、これらの含水廃液が合流してなる、蒸留塔供給時の含水廃液(合流含水廃液)の組成及び流量を表1に示す。なお、以下の各表中の「ppm」は「質量ppm」であり、「%」は「質量%」であり、「−」は測定していないことを示す。また、表1の各含水廃液の主成分は水である。
【0073】
【表1】

【0074】
蒸留塔5において、塔頂圧力は大気圧とし、塔底には、水蒸気フィードライン14を介して蒸留熱源として水蒸気(圧力400kPaG(ここでGはゲージ圧力であることを示す)、温度140℃)を流量150kg/hで連続的に直接導入した。還流コンデンサ11における還流比を調整することによって、温度計13で示される留出物の温度(留出温度)を60℃にコントロールした。塔頂温度は98℃(塔頂圧力(大気圧)における水と1,4−ジオキサンとの共沸混合物の沸点(88℃)+10℃)、塔底温度は100℃であった。
【0075】
この温度コントロールにより、蒸留塔5に供給された含水廃液I〜IIIは蒸留塔5において缶出液である高沸点成分IVと留出物である低沸点成分Vとに分けられ、蒸留塔5の塔底及び蒸留塔5の塔頂からそれぞれ連続して排出された。
【0076】
缶出液である高沸点成分IV中の1,4−ジオキサンの量は1.5質量ppmであった。高沸点成分IVは不図示の活性汚泥処理装置にて処理され、その後、河川への放流により、製造プラントより排出された。留出物である低沸点成分Vは焼却装置に送られ、焼却された。高沸点成分IV及び低沸点成分Vの組成及び蒸留塔5からのそれぞれの排出流量を表2に示す。なお、表2で、高沸点成分IVの主成分は水である。
【0077】
[実施例2]
留出温度を80℃にコントロールした以外は実施例1と同様にして含水廃液I〜IIIを蒸留塔5で蒸留した。このときの缶出液である高沸点成分IV及び留出物である低沸点
成分Vの組成及び流量を表2に示す。低沸点成分Vは焼却装置に送られて焼却された。高沸点成分IV中の1,4−ジオキサン量は0質量ppm(検出されず)であった。高沸点成分IVは活性汚泥処理装置にて処理後、河川への放流により製造プラントより排出された。なお、表2で、高沸点成分IVの主成分は水である。
【0078】
【表2】

【0079】
[比較例1]
留出温度を50℃にコントロールした以外は実施例1と同様にして含水廃液I〜IIIを蒸留塔5で蒸留した。このときの缶出液である高沸点成分IV及び留出物である低沸点成分Vの組成及び流量を表3に示す。低沸点成分Vは焼却装置に送られて焼却された。高沸点成分IV中の1,4−ジオキサン濃度は250質量ppmと高く、この高沸点成分IVは、活性汚泥処理を施しても1,4−ジオキサンの濃度が排出基準値を下回らないため、活性汚泥処理に適さないことが判った。なお、表3で、高沸点成分IVの主成分は水である。
【0080】
[比較例2]
留出温度を54℃にコントロールした以外は実施例1と同様にして含水廃液I〜IIIを蒸留塔5で蒸留した。このときの缶出液である高沸点成分IV及び留出物である低沸点成分Vの組成及び流量を表3に示す。低沸点成分Vは焼却装置に送られて焼却された。高沸点成分IV中の1,4−ジオキサン濃度は13質量ppmと高く、この高沸点成分IVは、活性汚泥処理を施しても1,4−ジオキサンの濃度が排出基準値を下回らないため、活性汚泥処理に適さないことが判った。なお、表3で、高沸点成分IVの主成分は水である。
【0081】
【表3】

【0082】
[実施例3]
蒸留熱源として蒸留塔5に導入する水蒸気の流量を250kg/hにした以外は実施例1と同様にして含水廃液I〜IIIを蒸留塔5で蒸留した。このときの缶出液である高沸点成分IV及び留出物である低沸点成分Vの組成及び流量を表4に示す。低沸点成分Vは焼却装置に送られて焼却された。高沸点成分IV中の1,4−ジオキサン量は0質量ppm(検出されず)であった。高沸点成分IVは活性汚泥処理装置にて処理後、河川への放流により製造プラントより排出された。なお、表4で、高沸点成分IVの主成分は水である。
【0083】
【表4】

【0084】
[実施例4〜7]
蒸留塔5に供給される含水廃液のアセトアルデヒドの含有量の影響を、アスペンテック社のシミュレーションモデル(ASPEN PLUS Ver.2006)を用いて評価した。即ち、図1に示す第一のフィードライン8で合流して蒸留塔5に供給される含水廃液の合計の組成及び流量を表5のとおりとし、蒸留塔5において、塔頂圧力は大気圧とし、塔底には、水蒸気フィードライン14を介して蒸留熱源として水蒸気(圧力400kPaG、温度140℃)を流量200kg/hで連続的に直接導入し、温度計13で示される留出物の温度(留出温度)を80℃にコントロールする条件で、アスペンテック社のシミュレーションモデルを用いて計算を行った。なお、表5の含水廃液の主成分は水である。
【0085】
【表5】

【0086】
各実施例で、温度計16で示される塔頂温度は98℃(塔頂圧力(大気圧)における水と1,4−ジオキサンとの共沸混合物の沸点(88℃)+10℃)、塔底温度は100℃と計算された。また、各実施例、比較例における、缶出液である高沸点成分IV及び留出物である低沸点成分Vの組成及び流量の計算結果を、表6及び表7に示す。
【0087】
【表6】

【0088】
【表7】

【0089】
実施例4〜7から、蒸留塔5に供給される含水廃液のアセトアルデヒドの含有量が増加すると、留出物である低沸点成分Vの流量が増加し、また、その水の含有量も増加することから、留出物を燃焼処理する場合のエネルギーコストが増加する傾向にあることが判る。
【0090】
[実施例8]
図1に示す第一のフィードライン8で合流して蒸留塔5に供給される含水廃液の合計の組成及び流量を表8のとおりとし、蒸留塔5に導入する水蒸気の流量を150kg/hとし、温度計13で示される留出物の温度(留出温度)を98℃にコントロールする以外は実施例4〜7と同様にして、アスペンテック社のシミュレーションモデルを用いて計算を行った。なお、表8の含水廃液の主成分は水である。このとき、温度計16で示される塔頂温度は98℃(塔頂圧力(大気圧)における水と1,4−ジオキサンとの共沸混合物の沸点(88℃)+10℃)、塔底温度は100℃と計算された。また、缶出液である高沸点成分IV及び留出物である低沸点成分Vの組成及び流量の計算結果を表9に示す。
【0091】
【表8】

【0092】
【表9】

【0093】
[比較例3]
図1に示す第一のフィードライン8で合流して蒸留塔5に供給される含水廃液の合計の組成及び流量を表10のとおりとする以外は実施例4〜7と同様に、蒸留塔5において、塔頂圧力は大気圧とし、塔底には、水蒸気フィードライン14を介して蒸留熱源として水蒸気(圧力400kPaG、温度140℃)を流量200kg/hで連続的に直接導入し、温度計13で示される留出物の温度(留出温度)を80℃にコントロールする条件で、アスペンテック社のシミュレーションモデルを用いて計算を行った。なお、表10の含水廃液の主成分は水である。本比較例において、温度計16で示される塔頂温度は98℃(塔頂圧力(大気圧)における水と1,4−ジオキサンとの共沸混合物の沸点(88℃)+10℃)、塔底温度は100℃と計算された。缶出液である高沸点成分IV及び留出物である低沸点成分Vの組成及び流量の計算結果を表11に示す。
【0094】
【表10】

【0095】
【表11】

【0096】
実施例8と比較例3から、蒸留塔5に供給される含水廃液にアセトアルデヒドが含有されていない場合でも、留出温度を高くすれば、缶出液である高沸点成分IV中の1,4−ジオキサン濃度を低くすることができることが判る。一方で、比較例3によれば、蒸留塔5に供給される含水廃液にアセトアルデヒドが含有されていないと、アセトアルデヒドが含有されている含水廃液と同様に蒸留を行った場合では、缶出液である高沸点成分IV中の1,4−ジオキサン濃度が高くなることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0097】
1,4−ジオキサンの排出規制が議論される中、従来からの廃液処理手段に蒸留装置を組み合わせるだけで、廃液中の1,4−ジオキサン量を本発明により容易に減少させることができる。
【符号の説明】
【0098】
1、2 エステル化反応槽
3、4 分離塔
5 蒸留塔
6 原料フィードライン
7 エステル化物フィードライン
8 第一の含水廃液フィードライン
9 第二の含水廃液フィードライン
10 第三の含水廃液フィードライン
11 還流コンデンサ
12 留出物排出ライン
13 温度計(留出温度測定用)
14 水蒸気フィードライン
15 缶出液排出ライン
16 温度計(塔頂温度測定用)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカルボン酸とエチレングリコールを含むジオールとをエステル化及び重縮合させてポリエステルを製造する工程から排出された、水及び1,4−ジオキサンを含む廃液を蒸留して1,4−ジオキサンを留出させ、1,4−ジオキサンを実質的に含有しない缶出液を得る廃液処理方法。
【請求項2】
前記廃液が、さらにアセトアルデヒドを含むことを特徴とする請求項1に記載の廃液処理方法。
【請求項3】
前記蒸留で得られた留出物の留出温度が55〜90℃であることを特徴とする請求項2に記載の廃液処理方法。
【請求項4】
前記廃液を排出する、前記ポリエステルを製造する工程が、ジカルボン酸とエチレングリコールを含むジオールとをエステル化するエステル化工程と、エステル化工程で得られたエステル化物を重縮合してポリエステルを生成する重縮合工程と、エステル化工程及び重縮合工程で排出される留出物の一部又は全部を蒸留してジオールを缶出液として回収するジオール回収工程とを含み、
前記廃液が、エステル化工程で排出される留出物の一部又は全部、及びジオール回収工程で排出される留出物の一方又は両方を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の廃液処理方法。
【請求項5】
前記ポリエステルがポリエチレンテレフタレートであり、前記ジカルボン酸がテレフタル酸を主成分として含み、前記ジオールがエチレングリコールを主成分として含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の廃液処理方法。
【請求項6】
前記蒸留で得られた留出物中の1,4−ジオキサンを焼却、分解、又は除去する工程をさらに含むことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の廃液処理方法。
【請求項7】
前記蒸留で得られた留出物を焼却する工程をさらに含むことを特徴とする請求項6に記載の廃液処理方法。
【請求項8】
前記廃液の蒸留で得られた前記缶出液中の有機物を分解する活性汚泥処理工程をさらに含むことを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の廃液処理方法。
【請求項9】
前記廃液の水の含有量が10質量%以上であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の廃液処理方法。
【請求項10】
前記蒸留を蒸留塔で行い、蒸留塔の塔頂温度が、塔頂圧力における水と1,4−ジオキサンとの共沸混合物の沸点以上、沸点+20℃以下の温度であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の廃液処理方法。
【請求項11】
ジカルボン酸とエチレングリコールを含むジオールとをエステル化及び重縮合させてポリエステルを製造する方法において、
請求項1〜10のいずれか一項の廃液処理方法をさらに含むことを特徴とするポリエステルの製造方法。
【請求項12】
ジカルボン酸とエチレングリコールを含むジオールとをエステル化するためのエステル化装置と、エステル化装置で得られたエステル化物を重縮合してポリエステルを生成するための重縮合装置と、エステル化装置及び重縮合装置から排出される留出物の一部又は全
部を蒸留してジオールを缶出液として回収するためのジオール回収装置とを有するポリエステルの製造装置において、
前記エステル化装置から排出される留出物の一部又は全部、及び前記ジオール回収装置から排出される留出物の一方又は両方を蒸留して1,4−ジオキサンを留出させ、1,4−ジオキサンを実質的に含有しない缶出液を得るための蒸留装置をさらに有することを特徴とするポリエステルの製造装置。
【請求項13】
前記蒸留装置の留出物を焼却するための焼却装置をさらに有することを特徴とする請求項12に記載のポリエステルの製造装置。
【請求項14】
前記蒸留装置の缶出液中の有機物を分解するための活性汚泥処理装置をさらに有することを特徴とする請求項12又は13に記載のポリエステルの製造装置。
【請求項15】
前記ポリエステルがポリエチレンテレフタレートであり、前記ジカルボン酸がテレフタル酸を主成分として含み、前記ジオールがエチレングリコールを主成分として含むことを特徴とする請求項12〜14のいずれか一項に記載のポリエステルの製造装置。

【図1】
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【公開番号】特開2011−167681(P2011−167681A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−10381(P2011−10381)
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【出願人】(510021225)越前ポリマー株式会社 (1)
【Fターム(参考)】