説明

延伸PTFE用接着剤

【課題】
これまで開発されてきた接着剤で、延伸PTFEを素材とする医療用材料との接着性に優れ、実用に供することができるものは知られていない。
延伸PTFEを素材とする医療用材料との接着性に優れ、実用的な反応性(硬化速度)をもつ延伸PTFE用接着剤を提供することにより、迅速に血液又は髄液の漏出を防ぐことができる手段を提供することを目的とする。
【解決手段】
含フッ素ポリイソシアネート成分(A)と、親水性ポリオール(B1)を必須成分とするポリオール成分(B)とを反応させて得られるウレタンプレポリマー(UP)を含んでな
り、被接着物の少なくとも一方が延伸PTFEを素材とする医療用材料である延伸PTFE用接着剤。ポリオール成分(B)が、ジオールへのエチレンオキシド及びプロピレンオキシドのランダム共付加体と、ポリプロピレングリコールとを含んでなることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、延伸PTFEを素材とする医療用材料との接着性に優れた延伸PTFE用接着剤に関する。さらに詳しくは、人工血管、人工硬膜、及び心臓又は血管等を修復するパッチ材料等の延伸PTFEを素材とする人工医療材料との接着性に優れた延伸PTFE用接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
外科的手術において、人工血管、人工硬膜、及び心臓又は血管等の生体組織を修復するパッチ材料として人工医療材料が頻繁に使用される。人工医療材料の素材としては、延伸PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)は、生体と癒着しにくい性質を有することから、最もよく使用される素材の一つである。
【0003】
慢性腎不全患者に対しては人工透析で治療を行うことが一般的であるが、人工透析療法に先立ち、動静脈吻合による内シャント術を行うことで血液の出し入れが可能となる。また、患者の高齢化や糖尿病等の原疾患により内シャント術を行うことができなくなった患者には延伸PTFE製の人工血管等を移植して用いることが多い。
しかしながら、このような人工血管を人工透析等の頻繁に穿刺が行われる部位に使用すると、人工血管から血液が漏れて、平均週3回行われる治療に支障が出たり、瘤や血腫の形成、感染等を引き起こす危険性が指摘されている。また、血液が漏れやすいため、透析終了後長い時間をかけて止血操作を行ったり、場合によっては帰宅後に再出血したり重篤な事態を引き起こすこともある。さらには、血管縫合時に針穴からの出血も問題となっており、手術時間が長引いたり、術後の合併症の原因ともなる。
【0004】
また、脳神経外科手術に際しては、硬膜を切除せざるを得ない場合があり硬膜欠損が生じたり、硬膜自体の自然収縮のために一次的な縫合が困難になることもある。硬膜を開放したまま閉創する事は、髄液の漏出を招いて頭蓋内感染症を生じたり、脳実質と骨ないし皮下組織との癒着を生じて、局所神経症状を呈したり、てんかん発作の焦点となる等、重篤な合併症を来たす原因となる。従って閉創時には硬膜に隙間が生じないよう厳密な縫合が要求される。このため、硬膜に欠損が生じたり一次縫合が困難となった場合には何らかの補填材料を用いて隙間が生じない様に完全に縫合する必要が生じる。
当初より今日に到るまで最も広く用いられているのは自家筋膜であるが、摘出部位に筋膜の欠損を生じること、脳に対して癒着しやすいこと等問題点も少なくない。ヒト乾燥硬膜は屍体から採取された硬膜を放射線処理等を行った硬膜補填材料であり、これまでの中では最も優れたものであったが、クロイツフェルト・ヤコブ病の原因とされるプリオンが硬膜内に存在する可能性があり、ヒト乾燥硬膜を介してクロイツフェルト・ヤコブ病の感染が生じた事例が報告されるに到り、1998年にその使用は全面的に禁止された。
現在自己筋膜以外に硬膜補填材料として使用可能な素材は、厚生省が認可している延伸PTFEのみである。延伸PTFEは高分子材料であるため生体に対して全く接着性を有していない。この性質は脳と癒着を生じないという面では優れている。一方収縮性に乏しいため針穴から髄液が漏出してしまうため特殊な縫合糸を使用して縫合を行う必要がある。また生体接着性がないため縫合面の隙間からも髄液漏が生じる可能性が高い。これと共に、周辺組織とも接着性を有さないため、単なる骨格素材となってしまう可能性も高い。これ迄に延伸PTFEをいかにうまく使用するかについての多くの試みがなされてきたが、何れも延伸PTFEを骨格素材として使用し、周囲に線維性組織の被膜が形成されるのを待つものであった。
【0005】
上記の例に示した延伸PTFEを素材として使用した医療材料を、治療のために組織に固定するためには、これら材料と生体を吻合により固定する方法が採用されている。しかしながら、手術糸によりこれらの医療用材料を吻合した場合、針の通過した材料部分から血液又は髄液の漏出が生じる。そのため通常は、血液凝固を患部の圧迫により誘導する以外の方法として、フィブリングルーと呼ばれる生体組織接着剤を用いることにより、これらの漏出を防いでいる。しかしながら、フィブリングルーは延伸PTFEの接着性に乏しいため十分な漏出防止効果が得られない。そのため、特許文献1に示されているように延伸PTFEの表面を改質してフィブリングルーとの接着性を上げる方法や特許文献2に示されているような人工血管を多重構造とすることで血液の漏出を抑制する方法が検討されてきた。
【0006】
したがって、表面等に特殊な加工を施していない延伸PTFEを素材とする人工血管又は人工硬膜等の生体内埋入材料からの血液や髄液等の漏出を確実に止めることができる接着剤はこれまで見出されていない。
一方、医療用接着剤としては、含フッ素ポリイソシアネートとポリエーテルポリオールとの反応によって得られるイソシアネート基末端の含フッ素親水性ウレタンプレポリマーからなる医療用接着剤が開発されてきた(特許文献3及び4)。しかしながら、これらの公報の実施例では、PTFEシートを医療用接着剤に対して剥離性の良いシートとして用いており、これらの医療用接着剤はPTFEと接着性を有しないものとして知られている。このことから、これらの医療用接着剤は延伸PTFEとも接着性を有しないことが予想される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−89361号公報
【特許文献2】特開2005−152178号公報
【特許文献3】特開平1−227762号公報(対応特許出願:US4994542A等)
【特許文献4】国際公開WO03/051952パンフレット(対応特許出願:US4994542A等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
これまで開発されてきた接着剤で、延伸PTFEを素材とする医療用材料との接着性に優れ、実用に供することができるものは知られていない。
本発明は、延伸PTFEを素材とする医療用材料との接着性に優れ、実用的な反応性(硬化速度)を有する延伸PTFE用接着剤を提供することにより、迅速に血液又は髄液の漏出を防ぐことができる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明に到達した。すなわち本発明は、含フッ素ポリイソシアネート成分(A)と、親水性ポリオール(B1)を必須成分とするポリオール成分(B)とを反応させて得られるウレタンプレポリマー(UP)を含んでなり、被接着物の少なくとも一方が延伸PTFEを素材とする医療用材料である延伸PTFE用接着剤である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の延伸PTFE用接着剤は、以下の効果を奏する。
(1)延伸PTFEを素材とする医療用材料に対して優れた接着性を示す。
(2)良好は反応性(硬化速度)を有する。
(3)血液抗凝固剤の投与の有無に関係なく塗布できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】延伸PTFE用接着剤の脈圧負荷試験を行うための縫合モデル血管の模式図である。
【図2】脈圧負荷試験の装置接続概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明において、含フッ素ポリイソシアネート成分(A)としては、含フッ素ポリイソシアネート(A1)を必須とする。
【0013】
含フッ素ポリイソシアネート(A1)としては、炭素数1〜22(イソシアネート基の炭素数を含まない。以下同様)の含フッ素脂肪族ジイソシアネート(A11)、炭素数6〜19の含フッ素脂環式ジイソシアネート(A12)、炭素数15〜66の含フッ素ポリ(3〜6価)イソシアネート(A13)及び含フッ素芳香族ポリイソシアネート(A14)等が使用できる。
【0014】
炭素数1〜22の含フッ素脂肪族ジイソシアネート(A11)としては、OCN−Rf−NCOで表されるもの及びOCN−CH2−Rf−CH2−NCOで表されるもの等が含まれる。但し、両式中Rfは、エーテル結合を含有してもよい炭素数1〜20のパーフルオロアルキレン基を表す。
OCN−Rf−NCOで表されるものとしては、ジフルオロメチレンジイソシアネート、パーフルオロジメチレンジイソシアネート、パーフルオロトリメチレンジイソシアネート、パーフルオロエイコサジイソシアネート、ビス(イソシアナトパーフルオロエチル)エーテル及びビス(イソシアナトパーフルオロイソプロピル)エーテル等が挙げられる。
【0015】
OCN−CH2−Rf−CH2−NCOで表されるものとしては、ビス(イソシアナトメチル)ジフルオロメタン、ビス(イソシアナトメチル)パーフルオロエタン、ビス(イソシアナトメチル)パーフルオロプロパン、ビス(イソシアナトメチル)パーフルオロブタン、ビス(イソシアナトメチル)パーフルオロペンタン、ビス(イソシアナトメチル)パーフルオロヘキサン、ビス(イソシアナトメチル)パーフルオロエイコサン及びビス(イソシアナトメチルパーフルオロエチル)エーテル等が挙げられる。
【0016】
炭素数6〜19の含フッ素脂環式ジイソシアネート(A12)としては、ジイソシアナトパーフルオロシクロヘキサン、ビス(イソシアナトメチル)パーフルオロシクロヘキサン、ビス(イソシアナトメチル)パーフルオロジメチルシクロヘキサン、ビス(イソシアナトパーフルオロシクロヘキシル)、ビス(イソシアナトパーフルオロシクロヘキシル)パーフルオロプロパン及びビス(イソシアナトメチルパーフルオロシクロヘキシル)パーフルオロプロパン等が挙げられる。
【0017】
炭素数15〜66の含フッ素ポリ(3〜6価)イソシアネート(A13)としては、上記のジイソシアネートのヌレート体、トリス(イソシアナトパーフルオロフェニル)メタン及びトリス(イソシアナトテトラフルオロシクロヘキシル)メタン等が挙げられる。
【0018】
含フッ素芳香族ポリイソシアネート(A14)としては、炭素数6〜19のフッ素原子を含まない芳香族(例えば、1,3−又は1,4−フェニレンジイソシアネート(PDI)、2,4−又は2,6−トリレンジイソシアネート(TDI)、2,4’−又は4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)及び粗製MDI等)において、芳香環の水素原子の一部又は全部がフッ素原子又はフルオロアルキル基で置換された含フッ素芳香族ポリイソシアネート(A15)、芳香環以外の部分の水素原子の一部又は全部がフッ素原子又はフルオロアルキル基で置換された含フッ素芳香族ポリイソシアネート(A16)、並びに芳香環の水素原子の一部又は全部及び芳香環以外の部分の水素原子の一部又は全部がフッ素原子又はフルオロアルキル基で置換された含フッ素芳香族ポリイソシアネート(A17)等が用いられる。
【0019】
含フッ素芳香族ポリイソシアネート(A15)としては、1,3−又は1,4−パーフルオロフェニレンジイソシアネート、2,4−又は2,6−パーフルオロトリレンジイソシアネート、1,3,5,6−又は1,3,4,5−テトラフルオロ−2,4−又は2,6−トリレンジイソシアネート、及び2,4’−又は4,4’−パーフルオロジフェニルメタンジイソシアネート及びテトラフルオロ−2,4’−又は4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート等が挙げられる。
【0020】
含フッ素芳香族ポリイソシアネート(A16)としては、2,4’−又は4,4’−ジフェニルジフルオロメタンジイソシアネート等が挙げられる。
【0021】
含フッ素芳香族ポリイソシアネート(A17)としては、トリフルオロメチルフェニレン−1,3−又は1,4−パーフルオロジイソシアネート等が挙げられる。
【0022】
なお、含フッ素ポリイソシアネート(A1)中のイソシアネート基の位置は、ポリオール成分(B)との反応性及び血液や体液等との反応性の観点等から、立体障害の少ない位置が好ましく、さらに好ましくは立体障害の少ない末端位置である。
また、含フッ素ポリイソシアネート(A1)は、1種でも、2種以上の混合物でもよい。
また、含フッ素ポリイソシアネート(A1)のうち、架橋反応等の副反応抑制の観点等から、イソシアネート基を2個持つものが好ましい。
【0023】
含フッ素ポリイソシアネート(A1)のうち、変異原性等の安全性の観点等から、含フッ素脂肪族ジイソシアネート(A11)及び含フッ素脂環式ジイソシアネート(A12)が好ましく、さらに好ましくはOCN−CH2−Rf−CH2−NCOで表される含フッ素脂肪族ジイソシアネート、特に好ましくはビス(イソシアナトメチル)パーフルオロプロパン、ビス(イソシアナトメチル)パーフルオロブタン、ビス(イソシアナトメチル)パーフルオロペンタン及びビス(イソシアナトメチル)パーフルオロヘキサンである。
【0024】
また、延伸PTFEとの接着性の観点及びイソシアネートの入手しやすさの観点から、含フッ素ポリイソシアネート(A1)中のフッ素原子の重量の割合(重量%)は、(A1)の重量を基準として、35〜70が好ましく、さらに好ましくは38〜70、特に好ましくは40〜56である。
【0025】
本発明において、含フッ素ポリイソシアネート成分(A)は、フッ素原子を含まないポリイソシアネート(A2)を含んでいてもよい。フッ素原子を含まないポリイソシアネート(A2)としては、炭素数1〜22のフッ素原子を含まない脂肪族ポリイソシアネート(A21)、炭素数6〜19のフッ素原子を含まない脂環式ポリイソシアネート(A22)、フッ素原子を含まない炭素数8〜16の芳香脂肪族ポリイソシアネート(A23)、炭素数6〜19のフッ素原子を含まない芳香族ポリイソシアネート(A24)及びこれらの変性体(A25)等が用いられる。
【0026】
フッ素原子を含まない脂肪族ポリイソシアネート(A21)としては、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート及びリジンジイソシアネート等が挙げられる。
【0027】
フッ素原子を含まない脂環式ポリイソシアネート(A22)としては、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート(水添MDI)、シクロヘキシレンジイソシアネート及びメチルシクロヘキシレンジイソシアネート(水添TDI)等が挙げられる。
【0028】
フッ素原子を含まない芳香脂肪族ポリイソシアネート(A23)としては、m−又はp−キシリレンジイソシアネート(XDI)及びα,α,α’,α’−テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)等が挙げられる。
【0029】
フッ素原子を含まない芳香族ポリイソシアネート(A24)としては、1,3−又は1,4−フェニレンジイソシアネート(PDI)、2,4−又は2,6−トリレンジイソシアネート(TDI)、2,4’−又は4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)及び粗製MDI等が挙げられる。
【0030】
また、これらの変性体(A25)としては、変性HDI(ウレタン変性HDI、カルボジイミド変性HDI及びトリヒドロカルビルホスフェート変性HDI等)、変性MDI(ウレタン変性MDI、カルボジイミド変性MDI等)及び変性TDI(ウレタン変性TDI、カルボジイミド変性TDI等)等が挙げられる。
【0031】
なお、フッ素原子を含まないポリイソシアネート(A2)は、1種でも、2種以上の混合物でもよい。
これらのフッ素原子を含まないポリイソシアネート(A2)のうち、反応性の観点等から、フッ素原子を含まない芳香族ポリイソシアネート(A24)が好ましく、さらに好ましくはMDI及びTDIである。
フッ素原子を含まないポリイソシアネート(A2)を用いる場合、延伸PTFEとの接着性の観点から、(A2)の含有量(重量%)は、含フッ素ポリイソシアネート(A1)の重量に基づいて、20以下が好ましく、さらに好ましくは10以下、特に好ましくは5以下である。
【0032】
含フッ素ポリイソシアネート成分(A)は延伸PTFEとの接着性及びイソシアネートの入手し易さの観点から、含フッ素ポリイソシアネート成分(A)に含まれるフッ素原子の含有量(重量%)は、(A)重量を基準として、28以上が好ましく、さらに好ましくは35〜70、特に好ましくは40〜56である。
【0033】
ポリオール成分(B)としては、親水性ポリオール(B1)を必須とするが、親水性の低い他のポリオール(B2)を含んでもよい。
親水性ポリオール(B1)としては、オキシエチレン基を含有してなりオキシエチレン基の含有量がオキシアルキレン基の重量に基づいて少なくとも30重量%であるポリオールが含まれ、オキシエチレン基を含有するポリエーテルポリオール(B1−1)、及びオキシエチレン基を含有するポリエーテルポリオール(B1−1)を必須構成単位としてなるポリエステルポリオール(B1−2)等が使用できる。
オキシアルキレン基としては、炭素数2〜8のオキシアルキレン基(オキシエチレン、オキシプロピレン、オキシブチレン及びオキシフェニルエチレン等)等が挙げられる。
【0034】
オキシエチレン基を含有するポリエーテルポリオール(B1−1)としては、少なくとも2個の活性水素を有する化合物へのエチレンオキシド(以下、EOと略記する)付加体あるいは、EOと炭素数3〜8のアルキレンオキシド(1,2−又は1,3−プロピレンオキシド(以下、POと略記する)、1,2−、1,3−、2,3−又は1,4−ブチレンオキシド及びスチレンオキシド等)との共付加体等が使用できる。共付加体の場合、その付加形式はランダム、ブロック及びこれらの組合せのいずれでもよいが、好ましくはランダムである。
また、炭素数3〜8のアルキレンオキシドとしては1,2−POが好ましい。
【0035】
少なくとも2個の活性水素を有する化合物としては、水、ジオール、3〜8価のポリオール、ジカルボン酸、3〜4価のポリカルボン酸、モノアミン、ポリアミン及びポリチオール等が使用できる。
なお、活性水素を2個有する化合物を用いた場合には2価の親水性ポリオールが得られ、活性水素を3個以上有する化合物を用いた場合には3価以上の親水性ポリオールが得られる。
【0036】
ジオールとしては、炭素数2〜30アルキレングリコール(エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、オクタンジオール、デカンジオール、ドデカンジオール、テトラデカンジオール、ネオペンチルグリコール及び2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール等);炭素数6〜24の脂環式ジオール(1,4−シクロヘキサンジメタノール及び水素添加ビスフェノールA等);炭素数12〜30のビスフェノール(ビスフェノールA、ビスフェノールF及びビスフェノールS等);ジヒドロキシベンゼン(カテコール及びハイドロキノン等)等が用いられる。
【0037】
3〜8価のポリオールとしては、炭素数3〜8の脂肪族多価アルコール(グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビタン、ジグリセリン及びソルビトール等)等が用いられる。
【0038】
ジカルボン酸としては、炭素数4〜32のアルカンジカルボン酸(コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデセニルコハク酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、オクタデカンジカルボン酸、ドデシルコハク酸及びオクタデシルコハク酸等);炭素数4〜32のアルケンジカルボン酸(マレイン酸、フマール酸、シトラコン酸、メサコン酸、ダイマー酸、ドデセニルコハク酸及びペンタデセニルコハク酸等);炭素数8〜20の芳香族ジカルボン酸(フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸及びナフタレンジカルボン酸等)等が用いられる。これらの他、ジカルボン酸の酸無水物(無水マレイン酸及び無水フタル酸等)等も使用できる。
3〜4価のポリカルボン酸としては、炭素数9〜20の芳香族ポリカルボン酸(トリメリット酸及びピロメリット酸等)等が用いられる。これらの他、ポリカルボン酸の酸無水物(無水トリメリット酸及び無水ピロメリット酸等)等も使用できる。
【0039】
モノアミンとしては、アンモニア及び炭素数1〜20の脂肪族1級アミン{炭素数1〜
20のアルキルアミン(メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ヘキシルアミン、ドデシルアミン及びエイコシルアミン等)等}、炭素数4〜15の脂環式アミン(ピペリジン、アミノシクロヘキサン、イソホロンモノアミン及び4−メチレンジシクロヘキサンモノアミン等);炭素数6〜15の芳香環含有脂肪族アミン(アニリン等)等が用いられる。
【0040】
ポリアミンとしては、炭素数2〜18の脂肪族ポリアミン{炭素数2〜12のアルキレンジアミン(エチレンジアミン、プロピレンジアミン、トリメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、N,N’−ジエチルエチレンジアミン及びウンデシレンジアミン等)及びポリアルキレン(炭素数2〜6)ポリアミン(ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、トリエチレンテトラミン及びペンタエチレンヘキサミン等)等}、炭素数4〜15の脂環式ポリアミン(1,3−ジアミノシクロヘキサン、イソホロンジアミン及び4,4’−メチレンジシクロヘキサンジアミン);炭素数4〜15の複素環式ポリアミン(ピペラジン、N−アミノエチルピペラジン及び1,4−ジアミノエチルピペラジン、N−アミノエチルピリジン等)等が用いられる。
【0041】
ポリチオールとしては、炭素数2〜24のジチオール(エタンジチオール、1,4−ブタンジチオール及び1,6−ヘキサンジチオール等)、3〜6価の炭素数5〜3000のポリチオール[商品名:カプキュア3800(ジャパンエポキシレジン社製)及びポリビニルチオール等]等が用いられる。
少なくとも2個の活性水素を有する化合物として、上記に挙げた以外に、アミノ酸、オキシカルボン酸及びアミノアルコール等も使用できる。
【0042】
これらの少なくとも2個の活性水素を有する化合物は、1種でも2種以上の混合物でもよい。
これら少なくとも2個の活性水素を有する化合物のうち、水及びジオールが好ましく、さらに好ましくは水及びアルキレングリコール、特に好ましくは水及び炭素数2〜4のアルキレングリコールである。
【0043】
オキシエチレン基を含有するポリエーテルポリオール(B1−1)の好適な例としては、ジオールへのEO付加体(エチレングリコールへのEO付加体及びプロピレンレングリコールへのEO付加体等)、及びジオールへのEOと炭素数3〜8のアルキレンオキシドとの共付加体(エチレングリコールへのEOとPOとのランダム又はブロック共付加体、及び、エチレングリコールへのEOとブチレンオキシドとのランダム又はブロック共付加体等)等が挙げられる。
これらのうち、水との反応性が速くなり接着強度等がさらに良好となるという観点等から、ジオールへのEO付加体、及びジオールへのEOとPOとの共付加体が好ましく、特に好ましくはジオールへのEOとPOとの共付加体である。
これらのポリエーテルポリオール(B1−1)は、1種でも2種以上の混合物でもよい。
【0044】
ポリエーテルポリオール(B1−1)のヒドロキシル基当量(ヒドロキシル基1個あたりの数平均分子量)は、50〜5,000が好ましく、さらに好ましくは100〜4,000、特に好ましくは200〜3,000である。この範囲であると、接着強度等がさらに良好となる。
なお、ヒドロキシル基当量は、JIS K1557−1:2007に準拠して測定される水酸基価[試料1g中の水酸基と当量の水酸化カリウムの重量(mg)]で56100を除することにより算出される。
【0045】
ポリエーテルポリオール(B1−1)を必須構成単位としてなるポリエステルポリオール(B1−2)としては、ポリエーテルポリオール(B1−1)と、上記のジカルボン酸、ジカルボン酸酸無水物及び/又はジカルボン酸低級アルキルエステルとのポリエステル等が用いられる。これらのポリエステルの末端は、ヒドロキシル基である。
なお、ジカルボン酸、ジカルボン酸酸無水物及び/又はジカルボン酸低級アルキルエステルの一部として、ポリカルボン酸、ポリカルボン酸無水物及びポリカルボン酸低級アルキルエステル等も使用でき、これらを使用する場合、これらの使用量(モル%)は、全てのカルボン酸、カルボン酸無水物及びカルボン酸低級アルキルエステルの合計モル数に基づいて、0.1〜10が好ましく、さらに好ましくは0.1〜5、特に好ましくは0.1〜2である。この範囲であると、接着強度等がさらに良好となる。
【0046】
ポリエステルポリオール(B1−2)の好適な例としては、ジオールへのEO付加体(エチレングリコールへのEO付加物、プロピレンレングリコールへのEO付加物等)とジカルボン酸(アジピン酸、セバシン酸、マレイン酸、フタル酸等)、ジカルボン酸無水物及び/又はジカルボン酸低級アルキルエステル(ジカルボン酸のメチル、エチルエステル等)とのポリエステルジオール、並びにジオールへのEO及び炭素数3〜8のアルキレンオキシドの共付加体(エチレングリコールへのEOと1,2−又は1,3−POとのランダム又はブロック共付加物、プロピレングリコールへのEOと1,4−ブチレンオキシドとのランダム又はブロック共付加物等)とジカルボン酸、ジカルボン酸無水物及び/又はジカルボン酸低級アルキルエステルとのポリエステルジオール等が挙げられる。
これらのうち、接着強度の観点等から、ジオールへのEO付加体とジカルボン酸、ジカルボン酸無水物及び/又はジカルボン酸低級アルキルエステルとのポリエステルジオール、並びにジオールへのEO及びPOの共付加体とジカルボン酸、ジカルボン酸無水物及び/又はジカルボン酸低級アルキルエステルとのポリエステルジオールが好ましく、さらに好ましくはジオールへのEO付加体とジカルボン酸、ジカルボン酸無水物及び/又はジカルボン酸低級アルキルエステルとのポリエステルジオールである。
これらのポリエステルポリオール(B1−2)は、1種でも2種以上の混合物でもよい。
【0047】
ポリエステルポリオール(B1−2)のヒドロキシル基当量は、粘度及び接着強度の観点から、50〜5,000が好ましく、さらに好ましくは100〜4,000、特に好ましくは200〜3,000である。この範囲であると、接着強度等がさらに良好となる。また、粘度も最適となり外科手術において延伸PTFE用接着剤を塗り広げ易い硬さとなる。
【0048】
親水性ポリオール(B1)中のオキシエチレン基の含有量(重量%)は、オキシエチレン基及び炭素数3〜8のオキシアルキレン基の合計重量に基づいて、30〜100であり、好ましくは40〜95、さらに好ましくは50〜90である。この範囲であると、接着強度等がさらに良好となる。
【0049】
親水性ポリオール(B1)のヒドロキシル基当量は、粘度及び接着強度の観点から、50〜5,000が好ましく、さらに好ましくは100〜4,000、特に好ましくは200〜3,000である。この範囲であると、接着強度等がさらに良好となる。また、粘度も最適となり外科手術において延伸PTFE用接着剤を塗り広げ易い硬さとなる。
【0050】
親水性ポリーエテル(B1)としては、数平均分子量(Mn)が2,000〜6,000である、水、エチレングリコール及び/又はプロピレングリコールへのEO及びPOのランダム共付加体が好ましく用いられる。
なお、本発明において、数平均分子量(Mn)は、ポリスチレンを標準物質として検量線を作成し、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される。
【0051】
親水性の低い他のポリオール(B2)としては、ジオール及び3〜6価のポリオールの他に、オキシアルキレン基を含有してなりオキシエチレン基の含有量がオキシアルキレン基の重量に基づいて30重量%未満であるポリオールが含まれ、ポリエーテルポリオール(B2−1)、このポリエーテルポリオール(B2−1)を必須構成単位とするポリエステルポリオール(B2−2)、及びオキシエチレン基及び炭素数3〜8のオキシアルキレン基を含有しないポリエステルポリオール(B2−3)等が使用できる。
【0052】
ポリエーテルポリオール(B2−1)としては、少なくとも2個の活性水素を有する化合物への炭素数3〜8のアルキレンオキシドの(共)付加体、及びEOと炭素数3〜8のアルキレンオキシドとの共付加体等が使用できる。ただし、オキシエチレン基の含有量はオキシエチレン基及びオキシアルキレン基の合計重量に基づいて30重量%未満である。
ポリエーテルポリオール(B2−1)の好適な例としては、ポリプロピレングリコール(プロピレングリコールの1,2−又は1,3−PO付加物)、ポリアルキレングリコールへのEO付加体(エチレングリコール又はプロピレングリコールへのEO及びPOのブロック付加体であって、EOの含有量が5〜45重量%のもの等)、POとEOのランダム共重合体(エチレングリコール又はプロピレングリコールへのEO及びPOのランダム付加体であって、EOの含有量が10〜25重量%のもの等)、ポリテトラメチレングリコール(1,4−ブチレングリコールの1,2−、1,3−、2,3−又は1,4−ブチレンオキシド付加物)、及び1,4−ブチレンオキシドとEOの共重合体(エチレングリコール又はブチレングリコールへのEO10〜25重量と1,4−ブチレンオキシド75〜90重量%のブロック又はランダム付加物であって、EO含有量が10〜25重量%のもの等)等が挙げられる。
これらのうち、親水性の観点等から、ポリプロピレングリコールへのEO付加体(EOの含有量5〜30重量%未満)が好ましく、さらに好ましくはポリプロピレングリコールへのEO付加体(EOの含有量15〜30重量%未満)である。
これらのポリエーテルポリオール(B2−1)は、1種でも2種以上の混合物でもよい。
【0053】
ポリエーテルポリオール(B2−1)のヒドロキシル基当量は、ポリエーテルポリオール(B1−1)と同様であり、好ましい範囲も同様である。
【0054】
ポリエーテルポリオール(B2−1)を必須構成単位とするポリエステルポリオール(B2−2)としては、ポリエーテルポリオール(B2−1)と、ジカルボン酸、ジカルボン酸酸無水物又はジカルボン酸低級アルキルエステルとから誘導され得るポリエステルポリオール等が使用できる。
【0055】
ポリエステルポリオール(B2−2)の好適な例としては、ポリプロピレングリコール(プロピレングリコールへの1,2−又は1,3−PO付加物)、ポリアルキレングリコールへのEO付加体(エチレングリコール又はプロピレングリコールへのEO及びPOのブロック付加体であって、EOの含有量が5〜45重量%のもの等)、POとEOのランダム共重合体(エチレングリコール又はプロピレングリコールへのEO及びPOのランダム付加体であって、EOの含有量が10〜25重量%のもの等)、ポリテトラメチレングリコール(1,4−ブチレングリコールの1,2−、1,3−、2,3−又は1,4−ブチレンオキシド付加物)、及び/又は1,4−ブチレンオキシドとEOの共重合体(エチレングリコール又はブチレングリコールへのEO10〜25重量と1,4−ブチレンオキシド75〜90重量%のブロック又はランダム付加物であって、EO含有量が10〜25重量%のもの等)と、ジカルボン酸(アジピン酸、セバシン酸、マレイン酸、フタル酸等)、ジカルボン酸無水物及び/又はジカルボン酸低級アルキルエステル(ジカルボン酸のメチル、エチルエステル等)とから誘導され得るポリエステルポリオール等が挙げられる。
これらのポリエステルポリオール(B2−2)は、1種でも2種以上の混合物でもよい。
【0056】
ポリエステルポリオール(B2−2)のヒドロキシル基当量は、ポリエステルポリオール(B1−2)と同様であり、好ましい範囲も同様である。
【0057】
オキシエチレン基及び炭素数3〜8のオキシアルキレン基を含有しないポリエステルポリオール(B2−3)としては、ジオール及び/又は3〜6価のポリオールと、上記のジカルボン酸、ジカルボン酸酸無水物及び/又はジカルボン酸低級アルキルエステルとから誘導され得るポリエステル、カプロタクトンの開環重合により誘導されるポリエステル等が使用できる。
ポリエステルポリオール(B2−3)の好適な例としては、ブタンジオール及びアジピン酸から誘導されるポリエステルジオール;エチレングリコール及びアジピン酸から誘導されるポリエステルジオール;ヘキサメチレングリコール及びアジピン酸から誘導されるポリエステルジオール;エチレングリコール、ブタンジオール及びアジピン酸から誘導されるポリエステルジオール;エチレングリコール及びセバシン酸から誘導されるポリエステルジオール;シクロヘキサンジオール及びフタル酸から誘導されるポリエステルジオール;並びにカプロタクトンの開環重合により誘導されるポリカプロタクトン等が挙げられる。
これらのポリエステルポリオール(B2−3)は、1種でも2種以上の混合物でもよい。
【0058】
ポリエステルポリオール(B2−3)のヒドロキシル基1個あたりの数平均分子量(ヒドロキシル基当量)は、ポリエステルポリオール(B1−2)と同様であり、好ましい範囲も同様である。
【0059】
これらの親水性の低い他のポリオール(B2)のうち、接着強度の観点等から、オキシエチレン基の含有量が30重量%未満のポリエーテルポリオール(B2−1)が好ましく、さらに好ましくはポリプロピレングリコール及びポリプロピレングリコールへのEO5〜15重量%付加体、特に好ましくはポリプロピレングリコールである。
【0060】
これらの親水性の低い他のポリオール(B2)のヒドロキシル基当量は、粘度及び接着強度の観点から、50〜5,000が好ましく、さらに好ましくは75〜3,000、特に好ましくは100〜2,000である。この範囲であると、接着強度等がさらに良好となる。また、粘度も最適となり外科手術において延伸PTFE用接着剤を塗り広げ易い硬さとなる。
【0061】
親水性の低い他のポリオール(B2)を使用する場合、親水性ポリオール(B1)の含有量(重量%)は、反応性(硬化速度)及び接着強度の観点から、ポリオール成分(B)の重量に基づいて、30〜99が好ましく、さらに好ましくは50〜98、特に好ましくは80〜95である。
親水性の低いポリオール(B2)を使用する場合、ポリオール(B2)の含有量(重量%)は、接着強度及び反応性(硬化速度)の観点から、ポリオール成分(B)の重量に基づいて、1〜70が好ましく、さらに好ましくは2〜50、特に好ましくは5〜20である。
【0062】
また、親水性の低い他のポリオール(B2)を使用する場合、ポリオール成分(B)全体におけるオキシエチレン基の含有量(重量%)は、反応性(硬化速度)及び接着強度の観点から、(B)中のオキシアルキレン基の重量に基づいて、30〜100が好ましく、さらに好ましくは35〜98、特に好ましくは40〜95、最も好ましくは50〜90である。
【0063】
また、ポリオール成分(B)全体の平均のヒドロキシル基当量は、粘度及び接着強度の観点から、50〜5,000が好ましく、さらに好ましくは100〜4,000、特に好ましくは200〜3,000、最も好ましくは500〜2,000である。この範囲であると、接着強度等がさらに良好となる。また、粘度も最適となり外科手術において延伸PTFE用接着剤を塗り広げ易い硬さとなる。
【0064】
親水性の低い他のポリオール(B2)を併用する場合、親水性ポリオール(B1)としては、ジオールへのEO付加体(エチレングリコールへのEO付加体及びプロピレングリコールへのEO付加体等)、及びジオールへのEOと炭素数3〜8のアルキレンオキシドとの共付加体(エチレングリコールへのEOとPOとのランダム又はブロック共付加体、及び、エチレングリコールへのEOとブチレンオキシドとのランダム又はブロック共付加体等)等が好ましく、さらに好ましくはジオールへのEOとPOとの共付加体、特に好ましくはジオールへのEOとPOとのランダム共付加体である。
【0065】
親水性の低い他のポリオール(B2)を併用する場合、親水性の低い他のポリオール(B2)としては、オキシエチレン基の含有量がオキシアルキレン基の重量に基づいて30重量%未満であるポリエーテルポリオールが好ましく、さらに好ましくはオキシプロピレン基を含有しオキシエチレン基の含有量がオキシエチレン基及びオキシプロピレン基の合計重量に基づいて30重量%未満であるポリエーテルポリオールが好ましく、特に好ましくはポリプロピレングリコールである。
【0066】
ポリオール成分(B)中のアルカリ金属及びアルカリ土類金属の含有量(mmol/kg)は、(B)の重量に基づいて、0又は0.07未満が好ましく、さらに好ましくは0又は0.04未満、特に好ましくは0又は0.02未満、最も好ましくは0又は0.01未満である。この範囲内であると含フッ素ポリイソシアネート成分(A)とポリオール成分(B)との反応における異常反応を防止しやすい。
なお、ポリオール成分(B)中のアルカリ金属及びアルカリ土類金属の含有量は、(B)の30重量%メタノール溶液を、又は(B)10gを白金皿中で加熱灰化して水10gに溶解させた水溶液をイオンクロマトグラフィー法で分析する方法や、ポリオール成分(B)30gをメタノール100mlに溶解させた溶液を100分の1規定の塩酸水溶液で滴定する方法等によって求められる。
【0067】
アルカリ金属及びアルカリ土類金属は、主に、ポリエーテルポリオールを合成する場合の触媒として混入されるものである。このような触媒としては、水酸化物(水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化セシウム、水酸化ベリリウム及び水酸化マグネシウム等)、アルコラート(リチウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムブチラート及びマグネシウムヘキサラート等)及び金属単体(カリウム、ナトリウム、リチウム、マグネシウム及びカルシウム等)等が挙げられる。(B)中には、これらの触媒が0.1〜0.3mmol/kg残存していることが多い。(B)中のアルカリ金属及びアルカリ土類金属の含有量を上記範囲とするには、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の含有量の少ないポリエーテルポリオール等を使用すればよい。
【0068】
アルカリ金属及びアルカリ土類金属の含有量の少ないポリエーテルポリオールは、上記のような触媒の存在下、活性水素を有する化合物にアルキレンオキシドを付加重合して粗ポリエーテルポリオールを得た後、アルカリ金属及びアルカリ土類金属を除去する方法、並びに特開平8−104741号公報(対応特許出願:US5482908A及びUS5536883A等)で開示されている複合金属シアン化物錯体(ヘキサシアノコバルト酸亜鉛とポリエーテルとの錯体触媒等)、有機ホウ素化合物[トリフルオロホウ素及びトリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン等]、及び遷移金属錯体触媒等のアルカリ金属及びアルカリ土類金属を含有しない触媒の存在下にアルキレンオキシドを付加重合させる方法等によって得られる。粗ポリエーテルポリオールからアルカリ金属及びアルカリ土類金属を除去する方法としては、吸着剤で処理する方法、及びイオン交換剤で処理する方法等が挙げられる。
【0069】
吸着剤としては、ケイ酸塩(ケイ酸マグネシウム、タルク、ソープストーン、ステアライト、ケイ酸カルシウム、アルミノケイ酸マグネシウム及びアルミノケイ酸ソーダ等)、クレー(活性白土及び酸性白土等)、ヒドロタルサイト、シリカゲル、ケイ藻土及び活性アルミナ等が挙げられる。これらの吸着剤のうち、吸着剤除去の簡便性という観点から、ケイ酸塩が好ましく、さらに好ましくはケイ酸マグネシウムである。
イオン交換剤としては、強カチオン交換樹脂、弱カチオン交換樹脂及びキレート樹脂等が挙げられる。イオン交換剤で処理する方法としては、粗ポリエーテルポリオールに水を添加したものを、イオン交換剤と混合撹拌後、ろ過によってイオン交換剤を除去する方法又はイオン交換剤を充填したカラム中を通過させる方法等が挙げられる。ろ過は、ろ紙、ろ布又はガラスフィルター等のろ過装置が用いられる。
【0070】
ウレタンプレポリマー(UP)は、含フッ素ポリイソシアネート成分(A)とポリオール成分(B)とを反応(プレポリマー反応)させることにより得られる。
含フッ素ポリイソシアネート成分(A)とポリオール成分(B)との使用量比としては、(A)のイソシアネート基と(B)のヒドロキシル基との当量比(NCO基/OH基)が、1.5〜3となるような使用量比が好ましく、さらに好ましくは1.8〜2.3、特に好ましくは1.9〜2.1となるような使用量比である。この範囲であると、粘度が比較的低く、接着剤としてさらに取り扱いやすくなり、また接着強度もさらに良好となる。
【0071】
ウレタンプレポリマー(UP)は、分子内に、少なくとも1個(好ましくは2個)のイソシアネート基を持ち、活性水素を持たない構造を有することが好ましい。
なお、ウレタンプレポリマー(UP)中のイソシアネート基の位置は、血液や体液等との反応性の観点等から、立体障害の少ない位置が好ましく、さらに好ましくは立体障害の少ない末端位置である。
【0072】
また、延伸PTFE用接着剤中のイソシアネート基含有率(重量%){延伸PTFE用接着剤全体の重量に占めるイソシアネート基の重量比率}は、1〜10が好ましく、さらに好ましくは1.2〜8、特に好ましくは1.5〜6である。この範囲であると、接着強度がさらに良好となる。
【0073】
延伸PTFE用接着剤中のイソシアネート基含有率は、試料に過剰のジ−n−ブチルアミン溶液を加えて反応させ、未反応のジ−n−ブチルアミンを塩酸標準溶液で逆滴定する方法で測定することができ、例えばJIS K7301−1995、6.3イソシアナネート基含有率に準拠して測定される。
【0074】
ウレタンプレポリマー(UP)中のオキシエチレン基の含有量(重量%)は、(UP)中のオキシアルキレン基の重量に基づいて、30〜100が好ましく、さらに好ましくは50〜98、特に好ましくは60〜95、最も好ましくは70〜90である。この範囲であると、接着強度(特に初期接着強度)がさらに高くなる。
【0075】
ウレタンプレポリマー(UP)の数平均分子量(Mn)は、粘度及び接着強度の観点から、500〜30,000が好ましく、さらに好ましくは800〜20,000、特に好ましくは1,000〜10,000、最も好ましくは1,200〜8,000である。この範囲であると、接着強度がさらに良好となる。また、粘度も最適となり外科手術において延伸PTFE用接着剤を塗り広げ易い硬さとなる。
【0076】
このウレタンプレポリマー(UP)を製造する方法としては、従来公知の方法{国際公開WO03/051952パンフレット(米国特許出願10/499,331の開示内容を参照により本出願に取り込む)等}でよく、例えば、含フッ素ポリイソシアネート成分(A)とポリオール成分(B)とを50〜100℃で、1〜10時間反応させる方法等が挙げられる。この場合、含フッ素ポリイソシアネート成分(A)とポリオール成分(B)との投入方法としては、最初から加えておく方法でも徐々に適下する方法でもよい。
含フッ素ポリイソシアネート(A)は、水分と極めて反応しやすいため、反応装置や原材料中の水分は極力除去しておく必要がある。特に、水分を含みやすいポリオール成分(B)は、脱水処理することが好ましい。脱水処理としては、50〜150℃、0.001hPa〜大気圧で、必要により不活性ガス(窒素ガス等)を通気しながら、0.5〜10時間、脱水する方法等が適用できる。
含フッ素ポリイソシアネート成分(A)とポリオール成分(B)との混合方法としては、(1)一度に混合する方法、(2)(B)を(A)に徐々に適下する方法、(3)(A)と(B)に徐々に滴下する方法、(4)(A)と(B)の一部とを混合して反応させた後、残りの(B)を滴下又は一度に混合する方法等のいずれでもよい。これらのうち、反応操作の簡便性の観点等から、(1)の方法及び(2)の方法が好ましく、さらに好ましくは(1)の方法である。
反応は、触媒(ジブチル錫オキサイド、ジブチル錫ジラウレート等の有機金属化合物、酢酸ジルコニウム等の有機酸金属塩等)の存在下で行なってもよい。
【0077】
本発明の延伸PTFE用接着剤には、さらに、フェノール含有ラジカル捕捉剤(PRS)を含んでいてもよい。フェノール含有ラジカル捕捉剤(PRS)が含まれていると、ウレタンプレポリマー(UP)と水分とが反応して生成するシート状又はスポンジ状の水反応硬化物の経時劣化分解を抑制し、接着力の低下を防止することができるため好ましい。
【0078】
フェノール含有ラジカル捕捉剤(PRS)としては、モノフェノール、ビスフェノール又は高分子型フェノール含有のラジカル捕捉剤等が含まれる。
【0079】
モノフェノール含有ラジカル捕捉剤としては、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール{例えば川口化学製アンテージBHT}、ブチル化ヒドロキシアニソール{例えばオリエント化学製オリエントBHT}、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール{例えば大内新興化学製ノクライザーM−17}及びステアリル−β−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート{例えば旭電化製アデカスタブAO−50}等が挙げられる。
【0080】
ビスフェノール含有ラジカル捕捉剤としては、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール){例えば川口化学製アンテージW−400}、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール){例えば川口化学製アンテージW−500}、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール){例えば川口化学製アンテージクリスタル}、4,4’−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール){例えば川口化学製アンテージW−300}、1,6−ヘキサンジオール−ビス{3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート}{例えばチバスペシャリティケミカルズ製イルガノックスs259}及び3,9−ビス[1,1−ジメチル−2−[β−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニル]エチル]2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン{例えば旭電化製アデカスタブAO−80}等が挙げられる。
【0081】
高分子型フェノール含有ラジカル捕捉剤としては、テトラキス−[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン{例えばチバスペシャリティケミカルズ製イルガノックス1010}、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン{例えば旭電化製アデカスタブAO−330}、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン{例えば旭電化製アデカスタブAO−30}、ビス[3,3’−ビス−(4’−ヒドロキシ−3’−t−ブチルフェニル)ブチリックアシッド]グリコールエステル{例えばヘキスト製アンチオキシダントTMOZ}及び1,3,5−トリス(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシベンジル)−sec−トリアジン−2,4,6−(1H,3H,5H)トリオン{例えば旭電化製アデカスタブAO−20}等が挙げられる。
【0082】
フェノール含有ラジカル捕捉剤(PRS)は、500〜1,200の分子量を有することが好ましく、さらに好ましくは600〜1,100、特に好ましくは700〜1,000である。この範囲であると、水反応硬化物が経時的にさらに劣化分解されにくくなり、すなわち、接着持続性がさらに良好となる。
【0083】
フェノール含有ラジカル捕捉剤(PRS)は、少なくとも2個の水酸基を有することが好ましく、さらに好ましくは2〜5個、特に好ましくは3〜4個である。この範囲であると、水反応硬化物が経時的にさらに劣化分解されにくくなり、すなわち、接着持続性がさらに良好となる。
【0084】
これらのフェノール含有ラジカル捕捉剤のうち、水反応硬化物の経時劣化分解の抑制の観点等から、ビスフェノール含有ラジカル捕捉剤及び高分子型フェノール含有ラジカル捕捉剤が好ましく、さらに好ましくはテトラキス−[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、1,3,5−トリス(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシベンジル)−sec−トリアジン−2,4,6−(1H,3H,5H)トリオン及び1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]である。
【0085】
これらのフェノール含有ラジカル捕捉剤(PRS)の含有量(重量%)は、ウレタンプレポリマー(UP)の重量に基づいて、0.01〜3が好ましく、さらに好ましくは0.02〜1、特に好ましくは0.05〜0.5である。この範囲であると、水反応硬化物の経時劣化を抑制することができ、接着力の低下を防止することができる。
フェノール含有ラジカル捕捉剤(PRS)は、ウレタンプレポリマー(UP)に添加してもよいし、予め、含フッ素ポリイソシアネート成分(A)及び/又はポリオール成分(B)に添加してからウレタンプレポリマー(UP)を得てもよい。
【0086】
本発明の延伸PTFE用接着剤には、ウレタンプレポリマー(UP)及びフェノール含有ラジカル捕捉剤(PRS)以外に、必要により、その他の成分を含むことができる。
その他の成分としては、生理活性を有する薬物(中枢神経用薬、アレルギー用薬、循環器官用薬、呼吸器官用薬、消化器官用薬、ホルモン剤、代謝性医薬品、抗悪性腫瘍剤、抗生物質製剤及び化学療法剤等)、充填剤(カーボンブラック、ベンガラ、ケイ酸カルシウム、ケイ酸ナトリウム、酸化チタン、アクリル系樹脂粉末及び各種セラミック粉末等)、及び可塑剤(DBP、DOP、TCP、トリブトキシエチルホスフェート及びその他各種エステル等)等が含まれる。その他の成分を含む場合、これらの含有量は用途等によって適宜決定される。また、その他の成分は、予め含フッ素ポリイソシアネート成分(A)、ポリオール成分(B)及び/又はフェノール含有ラジカル捕捉剤(PRS)に混合してプレポリマー反応を行ってもよく、また、反応後のウレタンプレポリマー(UP)及び/又はフェノール含有ラジカル捕捉剤(PRS)に混合してもよい。
【0087】
本発明の接着剤は、(1)含フッ素ポリイソシアネート成分(A)及び/又はポリオール成分(B)と、フェノール含有ラジカル捕捉剤(PRS)及び必要によりその他の成分とを混合した後、(A)と(B)とを反応させる方法、並びに(2)ウレタンポリマー(UP)と、フェノール含有ラジカル捕捉剤(PRS)及び必要によりその他の成分とを混合する方法等によって製造できる。
混合方法としては、均一溶解又は均一分散をすることが可能なものであれば、条件や装置に制限がない。しかし、ウレタンプレポリマー(UP)は、水分により容易に重合を起こす傾向があるので、フェノール含有ラジカル捕捉剤(PRS)及びその他の成分は、水分を含まないことが必要である。混合は、混合物が水分と接触しないように、乾燥ガス{不活性ガス(窒素ガス及びアルゴンガス等)及び空気等が使用できるが、不活性ガスが好ましい}雰囲気中で行うことが好ましい。また、混合温度は、0〜60℃が好ましく、さらに好ましくは5〜40℃、特に好ましくは10〜30℃である。
【0088】
本発明の接着剤は、水分との反応の観点等から、水分等に触れないようにして(例えば空気を遮断したアンプルの容器やシリンジ等に充填)保存することが好ましい。
【0089】
延伸PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)とは、PTFEを延伸加工して得られ、微細な連続多孔質構造を有する素材である。化学的安定性、熱的安定性及び低摩擦性等のPTFEの特性に加え生体適合性及び抗血栓性を有することから医療用材料の素材として利用されている。
【0090】
延伸PTFEとしては、微細な連続多孔質構造を有するものであれば良く、特定の製造方法によるものに限定されない。延伸PTFEは、例えば特公昭42−13560号公報、特公昭57−30059号公報等に記される方法で製造できる。
【0091】
延伸PTFEを素材とする医療用材料は、延伸PTFE以外の材料を含んでいても良い。ただし、接着性の観点から本延伸PTFE用接着剤を塗布する表面(すなわち、医療用材料の接着部位)が、延伸PTFEである必要がある。
【0092】
延伸PTFEを素材とする医療用材料としては、プレクロッティング処理されていても良い。
【0093】
延伸PTFEは、PTFEを延伸加工することにより微細な連続多孔質構造を得ている。その多孔質程度の表現は、亀裂によって生じた結節間を結びつける細いフィブリルと呼ばれる繊維の長さ、言い換えれば、個々の結節間の距離で表わす。医療用材料の素材としては、30ミクロンの長さの製品が主に使用されている。この間隙では結節間には無数のフィブリルが存在することから血液は漏れない。しかしながら血液の血球成分が漏れないにしても、血清成分がにじみ出る、いわゆる「汗かき」と呼ばれる現象が生じる。そのため延伸PTFEを素材とする人工血管周囲に透明な血清が貯留する「セローマ」が形成され、人工血管を周囲から圧迫する不都合が生じることがある。このような微細な連続多孔質構造を持つ人工血管を使用するにあたっては、植え込み直前に人工血管を血液に触れさせて、繊維間隙に血栓を人為的に作らせ、この血栓によって繊維間隙を一時的に目詰まりさせる操作、いわゆるプレクロッティング(Preclotting)が行われている。プレクロッティングに使用される材料は、生体内で分解吸収されるゼラチンやコラーゲン等が挙られる。
【0094】
延伸PTFEを素材とする医療用材料としては、人工血管、人工硬膜、及び心臓又は血管等を修復するパッチ材料等が挙げられる。
【0095】
延伸PTFEを素材とする人工血管は、腹部大動脈や下肢の動脈又は静脈等で血管損傷部を置換するのに用いられる。これらの置換術の際に、手術用縫合糸で生体血管を縫い合わせた場合に針穴から血液が漏出することが頻繁に起こる。
【0096】
延伸PTFEを素材とする人工硬膜は、脳腫瘍、くも膜下出血、あるいは交通事故等によって生じた欠損を補うために、開頭手術時に使用される。この手術の際にも、人工血管と同じく針穴から脳髄液の漏出が生じる。
【0097】
延伸PTFEを素材とする心臓又は血管を修復するパッチ材料は、心臓あるいは血管の病巣を摘出した場合、欠損部位を修復する際に用いられる。この修復材料を血管、心臓等に縫い合わせた場合も、同様に針穴からの血液、組織液が漏出する。
【0098】
これらの延伸PTFEを素材とする医療用材料から漏出する血液や髄液等の組織液を止めるために本発明の延伸PTFE用接着剤を用いる。
【0099】
本発明の延伸PTFE用接着剤を使用すると、ウレタンプレポリマー(UP)と水分(血液やリンパ液等の体液中の水等)とが反応して、アミンと二酸化炭素とを生成し、このアミンがさらにウレタンプレポリマー(UP)と反応して高分子量化(重合)が進行する。このとき発生する二酸化炭素により発泡状(スポンジ状)水反応硬化物が生成する。
従って、本発明の延伸PTFE用接着剤は、手術等の医療行為等に適用すると、血液等の体液と接触して急速に重合が進行し、適用部位が接着される。また、必要に応じて、例えば生理食塩水等を噴霧して水分を補給することにより、初期の接着力及び止血効果等を高めることができる。
【0100】
手術において、本発明の接着剤を使用し、縫合部あるいは吻合部を接合する際の塗布方法としては、切開部に直接本発明の接着剤を塗布する直接塗布法;シリコーンフィルム等の剥離性の高いフィルムに接着剤を塗布してから切開部をフィルムと一緒に覆い、反応後フィルムを除く転写塗布法等が挙げられる。
【0101】
本発明の延伸PTFE用接着剤は、延伸PTFEを素材とする医療用材料の他に内臓、皮膚、粘膜及び血管等の生体組織に対して強い接着効果と止血効果を示す。従って、被接着物の少なくとも一方が延伸PTFEを素材とする医療用材料であればよく、生体組織と延伸PTFEを素材とする医療用材料との接合及び延伸PTFEを素材とする医療用材料どうしの接合、並びに、延伸PTFEを素材とする医療用材料の切開部及び針穴の封鎖に好適である。
【0102】
本発明の延伸PTFE用接着剤は、内臓、皮膚、粘膜及び血管等における外科手術に好適であり、血液や体液の漏洩が生じ易い心臓、動脈等の血管、呼吸器及び消化器等の箇所において顕著に止血効果を発揮する。また、噴出性の出血も短時間に止血できることから、特に血管に対する外科手術に好適である、
なお、本発明の延伸PTFE用接着剤はヒト以外の動物(ペットや家畜)の外科手術にも使用できる。
【0103】
人工心肺装置を使用する心臓や大動脈の外科手術では、必ずヘパリン等の血液抗凝固剤が投与される。この血液抗凝固剤が作用している間は、出血した血液が凝固しないため、手術中の多量の出血は患者にとって致命的な障害となることがある。しかし、このような場合でも、本発明の延伸PTFE用接着剤は、血液抗凝固剤の投与の有無に関係なく塗布でき、短時間に止血することができる。
【実施例】
【0104】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。なお、部は重量部を、%は重量%を示す。
<製造例1>
オートクレーブにエチレングリコール15.5部、水酸化カリウム3.8部を仕込み、窒素置換後(気相部の酸素濃度450ppm)120℃にて60分間真空脱水した。
ついで、100〜130℃でEO784.5部とPO200部との混合物を約10時間で圧入した後、130℃で3時間反応を続け、オキシエチレン基の含有量が80%である液状粗ポリエーテルを得た。
この液状粗ポリエーテル1000部をオートクレーブに入れ、窒素置換(気相部の酸素濃度450ppm)を行い、30部のイオン交換水を加え、その後、合成ケイ酸マグネシウム(ナトリウム含有量0.2%)を10部加え、再度窒素置換した後、90℃にて45分間、攪拌速度300rpmで攪拌した。次いで、ガラスフィルタ−(GF−75:東洋濾紙製)を用い、窒素下で濾過を行い、EO/POランダム共付加体(b1)を得た。この(b1)の数平均分子量は4000、オキシエチレン基の含有量は80%、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の含有量は0.02mmol/kgであった。
【0105】
<製造例2>
オートクレーブにプロレングリコール362部、水酸化カリウム3.8部を仕込み、窒素置換後(気相部の酸素濃度450ppm)120℃にて60分間真空脱水した。
ついで、100〜130℃でPO632部を約10時間で圧入した後、揮発分0.1%以下になるまで130℃で反応を続け、液状粗ポリエーテルを得た。
この液状粗ポリエーテルを前記の製造例1と同様の方法で合成ケイ酸マグネシウムで処理し、PO付加体(b2)を得た。この(b2)の数平均分子量は210、オキシエチレン基の含有量は0%、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の含有量は0.04mmol/kgであった。
【0106】
<製造例3>
オートクレーブにプロレングリコール180部、水酸化カリウム3.8部を仕込み、窒素置換後(気相部の酸素濃度450ppm)120℃にて60分間真空脱水した。
ついで、100〜130℃でPO820部を約10時間で圧入した後、揮発分0.1%以下になるまで130℃で反応を続け、液状粗ポリエーテルを得た。
この液状粗ポリエーテルを前記の製造例1と同様の方法で合成ケイ酸マグネシウムで処理し、PO付加体(b3)を得た。この(b3)の数平均分子量は420、オキシエチレン基の含有量は0%、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の含有量は0.03mmol/kgであった。
【0107】
<製造例4>
オートクレーブにプロレングリコール42.2部、水酸化カリウム3.8部を仕込み、窒素置換後(気相部の酸素濃度450ppm)120℃にて60分間真空脱水した。
ついで、100〜130℃でEO800.0部とPO157.8部との混合物を約10時間で圧入した後、揮発分0.1%以下になるまで130℃で反応を続け、液状粗ポリエーテルを得た。
この液状粗ポリエーテルを前記の製造例1と同様の方法で合成ケイ酸マグネシウムで処理し、PO付加体(b4)を得た。この(b4)の数平均分子量は1800、オキシエチレン基の含有量は80%、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の含有量は0.03mmol/kgであった。
【0108】
<実施例1>
ポリオール成分(B)として、製造例1で得たEO/POランダム共付加体(b1)100部を用い、この(b1)を窒素雰囲気下、100℃にて2時間減圧下脱水した後、50℃に冷却し、フェノール系ラジカル捕捉剤(PRS)として0.5部のテトラキス−[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン(イルガノックス1010、チバスペシャリティケミカルズ社製)を添加し、30分間均一に攪拌した。さらに40℃に冷却した後、含フッ素ポリイソシアネート成分(A)としてビス(イソシアナトメチル)パーフルオロブタン{OCN−CH2−(CF24−CH2−NCO}15.6部(NCO基/OH基比=2/1)を加え、均一に撹拌した後、80℃に昇温し、80℃で6時間反応させて、本発明の延伸PTFE用接着剤(P1)を得た。この(P1)のイソシアネート基含有量は1.8%であった。なお、ポリオール成分(B)中のオキシエチレン基含有量は80%、(UP)中のオキシエチレン基含有量は69%、(A)中のフッ素含有量は49%である。
【0109】
<実施例2>
ポリオール成分(B)として製造例1で得たEO/POランダム共付加体(b1)90部と製造例2で得たPO付加体(b2)10部の混合物を使用し、含フッ素ポリイソシアネート成分(A)としてビス(イソシアナトメチル)パーフルオロブタン45.6部(NCO基/OH基比=2/1)を使用すること以外は実施例1と同様にして本発明の延伸PTFE用接着剤(P2)を得た。この(P2)のイソシアネート基含有量は4.0%であった。なお、ポリオール成分(B)中のオキシエチレン基の含有量は72%、(UP)中のオキシエチレン基含有量は49%、(A)中のフッ素含有量は49%である。
【0110】
<実施例3>
ポリオール成分(B)として製造例1で得たEO/POランダム共付加体(b1)70部と製造例3で得たPO付加体(b3)30部の混合物、含フッ素ポリイソシアネート成分(A)としてビス(イソシアナトメチル)パーフルオロブタン61.0部(NCO基/OH基比=2.2/1)を使用すること以外は実施例1と同様にして本発明の延伸PTFE用接着剤(P3)を得た。この(P3)のイソシアネート基含有量は5.6%であった。なお、ポリオール成分(B)中のオキシエチレン基含有量は56%、(UP)中のオキシエチレン基含有量は34%、(A)中のフッ素含有量は49%である。
【0111】
<実施例4>
ポリオール成分(B)として製造例1で得たEO/POランダム共付加体(b1)90部と製造例2で得たPO付加体(b2)10部の混合物を使用し、含フッ素ポリイソシアネート成分(A)としてパーフルオロトリメチレンジイソシアネート{OCN−(CF23−NCO}33.9部(NCO基/OH基比=2/1)を使用すること以外は実施例1と同様にして本発明の延伸PTFE用接着剤(P4)を得た。この(P4)のイソシアネート基含有量は4.6%であった。なお、ポリオール成分(B)中のオキシエチレン基含有量は72%、(UP)中のオキシエチレン基含有量は54%、(A)中のフッ素含有量は49%である。
【0112】
<実施例5>
ポリオール成分(B)として製造例1で得たEO/POランダム共付加体(b1)90部と製造例2で得たPO付加体(b2)10部の混合物を使用し、含フッ素ポリイソシアネート成分(A)としてビス(イソシアナトメチル)パーフルオロプロパン{OCN−CH2−(CF23−CH2−NCO}28.4部及び2,4−トリレンジイソシアネート(TDI)7.0部(NCO基/OH基比=2.1/1)を使用すること以外は実施例1と同様にして本発明の延伸PTFE用接着剤(P5)を得た。この(P5)のイソシアネート基含有量は4.6%であった。なお、ポリオール成分(B)中のオキシエチレン基含有量は72%、(UP)中のオキシエチレン基含有量は56%、(A)中のフッ素含有量は35%である。
【0113】
<実施例6>
ポリオール成分(B)として製造例4で得たEO/POランダム共付加体(b4)90部と製造例2で得たPO付加体(b2)10部の混合物を使用し、含フッ素ポリイソシアネート成分(A)としてビス(イソシアナトメチル)パーフルオロブタン61.2部(NCO基/OH基比=2/1)を使用すること以外は実施例1と同様にして本発明の延伸PTFE用接着剤(P6)を得た。この(P6)のイソシアネート基含有量は5.1%であった。なお、ポリオール成分(B)中のオキシエチレン基の含有量は72%、(UP)中のオキシエチレン基含有量は45%、(A)中のフッ素含有量は49%である。
【0114】
<比較例1>
ポリオール成分(B)として製造例1で得たEO/POランダム共付加体(b1)90部と製造例2で得たPO付加体(b2)10部の混合物を使用し、含フッ素ポリイソシアネート成分(A)の代わりに2,4−トリレンジイソシアネート(TDI)25.2部(NCO基/OH基比=2/1)を使用すること以外は実施例1と同様にして比較の延伸PTFE用接着剤(C1)を得た。この(C1)のイソシアネート基含有量は4.8%であった。なお、ポリオール成分(B)中のオキシエチレン基含有量は72%、(UP)中のオキシエチレン基含有量は58%、(A)のフッ素含有量は0%である。
【0115】
<比較例2>
フィブリングルー(品名:ベリプラストP、ZLBベーリング株式会社製)を比較の延伸PTFE用接着剤(C2)とした。
【0116】
<評価1:接着強度>
ePTFEテープ(品名:PTFEガスケットテープ、番手:ピラーNo.3330、ジャパンゴアテックス株式会社製)(1cm×4cm)の端の部分1cm×1cmの広さに約0.02gの評価用接着剤をスパチュラを使用して塗布した。
評価用接着剤を塗布した上にもう一方のePTFEテープの端の部分1cm×1cmを貼りあわせて試験片を作製した。この試験片を十分に湿らせたキムワイプで覆い、ePTFEテープを貼り合わせた部分に100g/cm2の荷重がかかるように100gの重りをのせて5分間放置後、重りを外し試験片を得た。
次いで、25±5℃、湿度65±5RH%の環境下でJIS K6850−1999に準じて、試験片の引張り強さを測定し、破断時の荷重を接着強度とした。
なお、引張り試験機は島津製作所製オートグラフAGS−500Dを使用し、引張り速度は300mm/minとした。また、つかみ具で固定する箇所は、ePTFEテープの接着させていない端1cmの部分と、もう一方のePTFEテープの接着させていない端1cmの部分とした。
【0117】
【表1】

【0118】
表1の結果から、本発明の延伸PTFE用接着剤(実施例1〜6)は、比較例1及び2に比べ、延伸PTFEに対して、より強く接着していることが判明した。
【0119】
<評価2:脈圧負荷試験>
<縫合モデル血管の作製>
延伸PTFE人工血管(品名:マキシフロー・スタンダードウォール、販売元:日本ライフライン株式会社)を横方向に5mm切開し、6−0縫合糸(品名:プロリーン、ジョンソン・アンド・ジョンソン株式会社製)で1mm間隔に縫合することにより縫合モデル血管を作製した。
<止血判定>
この縫合モデル血管の両端を圧負荷試験装置(有限会社安久工機製)ラインに接続し(縫合モデル血管は図1を、圧負荷試験装置の装置接続概略は図2を参照)、ヘパリン化されたウマの血液を充液させた。圧負荷試験装置ラインの下流側を遮断し、周期1秒で120/60mmHg(16000Pa/8000Pa)の脈圧をかけ、縫合部から出血があることを確認した。一度縫合モデル血管内の血液を除き、縫合部及びその周辺に付着した血液を拭き取った。
評価用接着剤を縫合部に塗布し、生理食塩水をかけ、さらに上からシリコーン製のシートをのせ3分間押さえて硬化させた。比較例2の評価用接着剤は主剤及び硬化剤を順に縫合部に塗布した後、3分間放置した。ただし、比較例2の評価用接着剤に対しては、硬化反応のメカニズムが他の評価用接着剤(実施例1〜6及び比較例1)と異なることから、生理食塩水をかける操作及びシリコーン製のシートで押える操作は行わなかった。
再度、ヘパリン化されたウマの血液を縫合モデル血管に充液させ、圧負荷試験装置ラインの下流側を遮断し、周期1秒で120/60mmHg(16000Pa/8000Pa)の脈圧をかけた。脈圧をかけてから、5分間観察し、その間、出血が全くないものを「止血」、わずかでも出血があるものは「出血」とした。
【0120】
【表2】

【0121】
表2の結果から、本発明の延伸PTFE用接着剤(実施例1〜6)は、延伸PTFE製人工血管の切開部の出血を止めることができた。また、比較例1及び2は延伸PTFE製人工血管の切開部の出血を止めることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明の延伸PTFE用接着剤は、延伸PTFEを素材とする医療用材料との接着性に優れ、実用的な反応性(硬化速度)をもつ延伸PTFE用接着剤を提供することにより、迅速に血液又は髄液の漏出を防ぐことができる。
また、本発明の延伸PTFE用接着剤は、ヘパリン等の血液抗凝固剤の投与の有無に関係なく塗布でき、短時間に止血することができることから、血液抗凝固剤を投与して行う心臓や大動脈の外科手術にも使用することができる。
【符号の説明】
【0123】
1 延伸PTFE人工血管
2 縫合部
3 ホースバンド
4 チューブコネクタ
5 チューブコネクタを挿入できる大きさの穴が開いたゴム栓
6 コンプレッサー
7 低圧レギュレータ
8 高圧レギュレータ
9 タンク
10 タイマー
11 電磁弁
12 絞り弁
13 マノメーター
14 コンプライアンスタンク
15 ウマ血液
16 圧負荷試験装置ライン(上流側)
17 圧負荷試験装置本体
18 血液投入口
19 図1の縫合血管モデル
20 ローラークレンメ
21 圧負荷試験装置ライン(下流側)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
含フッ素ポリイソシアネート成分(A)と、親水性ポリオール(B1)を必須成分とするポリオール成分(B)とを反応させて得られるウレタンプレポリマー(UP)を含んでなり、被接着物の少なくとも一方が延伸PTFEを素材とする医療用材料である延伸PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)用接着剤。
【請求項2】
延伸PTFE用接着剤中のフッ素含有量が含フッ素ポリイソシアネート成分(A)の重量に基づいて28〜70重量%である請求項1に記載の延伸PTFE用接着剤。
【請求項3】
延伸PTFE用接着剤中のイソシアネート基含有量がウレタンプレポリマー(UP)の重量に基づいて1〜10重量%である請求項1又は2に記載の延伸PTFE用接着剤。
【請求項4】
ポリオール成分(B)中のオキシエチレン基含有量が、ポリオール成分(B)中のオキシアルキレン基重量に基づいて30〜100重量%である請求項1〜3のいずれかに記載の延伸PTFE用接着剤。
【請求項5】
ポリオール成分(B)が、ジオールへのエチレンオキシド及びプロピレンオキシドのランダム共付加体と、ポリプロピレングリコールとを含んでなる請求項1〜4のいずれか記載の延伸PTFE用接着剤。

【図2】
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【図1】
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【公開番号】特開2009−268894(P2009−268894A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−89814(P2009−89814)
【出願日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】