延性に優れたアルミニウム合金製部材
【課題】積載効率の悪い加工・成形した後の時効処理を廃止し、平板、直管形状といった素形材形状で時効処理し、その後加工・成形できる延性に優れたアルミニウム合金製部材を提供することを技術課題とする。
【解決手段】時効処理性アルミニウム合金を用いて所定の素形材を製造し、この素形材を溶体化処理した後に所定の加工歪み量を付与し、その後に時効処理を施すことを特徴とする。ここで、加工歪み量は10〜60%の範囲であることが好ましい。
【解決手段】時効処理性アルミニウム合金を用いて所定の素形材を製造し、この素形材を溶体化処理した後に所定の加工歪み量を付与し、その後に時効処理を施すことを特徴とする。ここで、加工歪み量は10〜60%の範囲であることが好ましい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時効処理をして必要な強度等の機械的性質を確保して使用する、例えば、6000系のアルミニウム合金圧延材、アルミニウム合金押出材などにおける延性改善技術に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金は軽量で、比較的高強度なため、構造材などに広く使用されている。
しかしながら、時効処理を施して構造材として必要な強度を確保する時効処理性アルミニウム合金は、時効処理することにより延性が低下し、曲げ加工等の塑性加工が困難になるため、通常は、時効処理前に塑性加工・成形して、その後時効処理を施す。
しかし、曲げ加工等により3次元化した製品形状では時効処理炉に対する積載効率が悪く、熱処理費用が増大するという技術的課題があった。
【0003】
従って、アルミニウム合金製部材の価格を低減するためには、積載効率の悪い加工・成形後の形状で時効処理するのではなく、圧延板や押出形材のような平板、直管形状等の素形材(粗形材)で時効処理し、その後、構造材形状等の製品形状に加工・成形する工程が好ましい。
【0004】
本出願に係る発明者らは、これまでに、Al−Mg2Si基合金の時効析出に及ぼす加工の影響に関して、主に、時効硬化との関係について研究し、その成果を発表してきた。
今回は、予備歪み(予備塑性加工)の延性に及ぼす影響に関して明らかになり、本発明に至ったものである。
【0005】
【非特許文献1】松田健二,寺崎稔,多々静夫,池野進、「軽金属,Vol43,No3」、1993、P127〜P133
【非特許文献2】松田健二,寺崎稔,多々静夫,池野進、「軽金属,Vol45,No2」、1995、P95〜P100
【非特許文献3】松田健二,岩下綱樹,石動正和,蓮覚寺聖一,上谷保裕,池野進、「軽金属,Vol47,No7」、1997、P385〜P390
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、積載効率の悪い加工・成形した後の時効処理を廃止し、平板、直管形状といった素形材形状で時効処理し、その後加工・成形できる延性に優れたアルミニウム合金製部材を提供することを技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために本発明に係る延性に優れたアルミニウム合金製部材は、時効処理性アルミニウム合金を用いて所定の素形材を製造し、この素形材を溶体化処理した後に所定の加工歪み量を付与し、その後に時効処理を施すことを特徴とする。
ここで、加工歪み量は10〜60%の範囲であることが好ましい。
【0008】
アルミニウム合金組成は、化学量論組成においてMg2Siを0.6〜1.6質量%含有し、Mg2Siバランス組成よりも過剰のSiを0.4質量%以下の範囲で含有するのがよい。
さらには、上記成分組成に、Cuを0.5質量%以下の範囲で含有することがより望ましい。
【0009】
時効処理した6000系アルミニウム合金は、その結晶粒内にMg2Si析出物が生成することにより強度上昇する。
そのため本発明では、質量%で擬2元系に代表されるMg2Si化学量論組成において0.6〜1.6質量%含有し、Mg2Siバランス組成よりも過剰のSi量を0.4質量%以下の範囲にて含有したものである。
このMg2Si析出物の析出により強度が上昇するのは、アルミニウム合金内に存在する転位が加工・成形に対して移動する際に、いわゆるせん断又はバイパス機構により変形抵抗となるためである。
この機構の中でせん断機構によりせん断されたMg2Si析出物は、その後容易にすべり面を提供できるようになるため、時効処理した6000系アルミニウム合金は加工・成形時、粒界に応力が集中する。
また、結晶粒界にはMg2Si析出物が析出していないPFZ(無析出帯)が存在する。
このPFZはMg2Si析出物が存在しないために弱く、そのため、結晶粒内と結晶粒界の強度差が著しくなり、結晶粒界で破壊が発生する。
時効処理後に加工・成形するためには、PFZ内部にMg2Si析出物が生成することでPFZ間隔を狭くし、PFZを強化することが好ましい。
また、結晶粒界が大きく湾曲し、結晶粒界に沿った割れの伝播を抑制することが好ましい。
そのため本発明は、溶体化処理後に冷間歪みを導入したことにより、結晶粒界に存在するPFZ内部に転粒を導入することができ、この転位上にMg2Si析出物が生成することによってPFZ間隔が狭小化し、PFZを強化することができたものである。
また、歪みにより結晶粒界が大きく湾曲するため、割れの伝播を抑制することができる。
【0010】
以下、成分の影響について説明する。
MgとSi成分は、溶体化処理することにより過飽和固溶体を形成し、その後の時効処理においてMg2Si析出物を生成し、せん断又はバイパス機構により強度向上する。
しかしながら、多く含有すると溶体化処理後の過飽和固溶体に多く含有するため、溶体化処理直後の強度が上昇し、加工・成形が困難になるため、化学量論組成Mg2Siは1.6質量%以下であることが好ましい。
ここで、化学量論組成Mg2Siとしての成分量は、0.6質量%以上したのは、この値以下では歪みを導入しなくても転位上に優先析出すると推定されるからである。
また、過剰Si量は、多く含有すると時効処理においてSiが析出するために、破断の起点となる恐れがある。
これを考慮し、Mg2Siバランス組成よりも過剰Si量は0.4質量%以下に抑えるのがよい。
【0011】
Cuは、強度及び延性を確保するために含有することが好ましいが、過剰であると耐食性が低下する。
また、溶体化処理直後の強度が上昇し、加工・成形しづらくなる傾向がある。
これを考慮し、0.5(質量)%以下とするのがよい。
【0012】
本発明においては、素形材の溶体化処理後直ちに冷間で10%以上の歪みを導入する。
これにより、PFZに転位が導入することができ、この転位上にMg2Si析出物が生成することにより、PFZを強化することができる。
また、結晶粒界が大きく湾曲し、割れの伝播を抑制することができる。
素形材の溶体化処理後の加工歪み量を10%以上としたのは、歪みを導入することによりPFZ側に転位を導入できるからである。
なお、結晶粒界の湾曲による効果は加工歪み量が多い方がよい。
従って、加工歪み量は20〜60%の範囲が好ましく、理想的には30%以上である。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るアルミニウム合金製部材によると、溶体化処理後直ちに10%以上の歪みを導入することによって、時効処理後の加工・成形が可能な延性を改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明においては、所定の成分配合に溶湯を調整し、これをブスバー、ビレット等所定の形状に鋳造した後に、熱間圧延あるいは押出等により板材や押出形材に製造した素形材を得る。
このような素形材を溶体化処理し、冷間圧延や引張り、引抜き等により加工歪みを付与する。また、加工歪み量は、例えば厚み等、加工前に対する寸法変化割合をいう。
【実施例】
【0015】
Al−1%Mg2Si−0.5%Cuの組成になるように成分調整した原料を溶解し、角柱状の鋳隗を溶製した。
その後400℃で50%熱間圧延し、575℃で1hr溶体化処理し、氷水中に焼入れした。その後厚みで30%減少するように30%の冷間圧延し、150℃(423K)及び200℃(473K)で時効処理を施して、試料を製造した。
なお、比較のために冷間圧延せずに同様の時効処理したものも製造した。
製造した試料から評点間距離17.5mm、幅5.8mm、厚さ0.8mmの引張試験片を切出し、引張試験に供した。
図1に150℃(423K)で時効処理した試料を引張試験した結果を示し、同様に図2に200℃(473K)で時効処理した場合の引張試験結果を示す。
公称歪みが増加するにつれ、公称応力が増加し、TS(引張強度)に到達した後(図に矢印で示す)、急激に応力が低下し、破断した。
溶体化処理後直ちに30%冷間圧延したものは、引張始めからTSまでの伸び(以下、均一伸びと称す。)が大きくなり、破断した時の伸び(以下、破断伸びと称す。)も大きくなった。
【0016】
図3に150℃及び図4に200℃で時効処理した試料の溶体化処理直後直ちに30%冷間圧延したものとしないもの(図3、4にて0%と表示)について、引張破断面の観察結果を示す。
溶体化処理後に30%冷間圧延したものは、破断面に粒界が見えず、粒界破壊していない。
しかしながら、冷間圧延しないものは引張破断面に結晶粒界が観察され、粒界破断が発生している。
このために、溶体化処理後直ちに冷間加工したものは、均一伸び及び破断伸びが向上したことが明らかになった。
図5及び図6に粒界近傍の組織観察結果を示す。溶体化処理後直ちに30%冷間圧延したものは粒界近傍まで転位が存在し、PFZが狭小化していることが確認できる。
より具体的には、図5、図6に示すように、時効処理423Kのものは、PFZ幅が平均で70nmから50nmに減少し、時効処理473Kのものは同160nmが120nmに減少している。
図7にその拡大写真を示す。転位に沿ってMg2Si析出物が生成していることが確認できる。
これにより、PFZを強化することができ、粒界破壊を抑制したと考えることができる。
【0017】
図8〜図10にそれぞれの時効処理温度における硬化曲線を示す。
これにより、加工歪み量10%以上で速く最高硬度まで上昇することが明らかになった。
【0018】
図11に過剰Si量及びCu成分の伸びへの影響を調査した結果を示す。
過剰Si0.4%添加しても加工歪みの効果が確認できた。
また、Cu成分が強度のみならず、伸びの改善効果が認められる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】423Kで時効処理したものの引張り試験結果を示す。
【図2】473Kで時効処理したものの引張り試験結果を示す。
【図3】423Kで時効処理したものの破断面を示す。
【図4】473Kで時効処理したものの破断面を示す。
【図5】423Kで時効処理したもののPFZを示す。
【図6】473Kで時効処理したもののPFZを示す。
【図7】組織拡大図を示す。
【図8】時効処理温度423Kの硬化曲線を示す。
【図9】時効処理温度448Kの硬化曲線を示す。
【図10】時効処理温度473Kの硬化曲線を示す。
【図11】伸び測定結果を示し、表中0%とは加工歪みを導入していないことを示し、30%とは歪み量が30%であることを示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、時効処理をして必要な強度等の機械的性質を確保して使用する、例えば、6000系のアルミニウム合金圧延材、アルミニウム合金押出材などにおける延性改善技術に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金は軽量で、比較的高強度なため、構造材などに広く使用されている。
しかしながら、時効処理を施して構造材として必要な強度を確保する時効処理性アルミニウム合金は、時効処理することにより延性が低下し、曲げ加工等の塑性加工が困難になるため、通常は、時効処理前に塑性加工・成形して、その後時効処理を施す。
しかし、曲げ加工等により3次元化した製品形状では時効処理炉に対する積載効率が悪く、熱処理費用が増大するという技術的課題があった。
【0003】
従って、アルミニウム合金製部材の価格を低減するためには、積載効率の悪い加工・成形後の形状で時効処理するのではなく、圧延板や押出形材のような平板、直管形状等の素形材(粗形材)で時効処理し、その後、構造材形状等の製品形状に加工・成形する工程が好ましい。
【0004】
本出願に係る発明者らは、これまでに、Al−Mg2Si基合金の時効析出に及ぼす加工の影響に関して、主に、時効硬化との関係について研究し、その成果を発表してきた。
今回は、予備歪み(予備塑性加工)の延性に及ぼす影響に関して明らかになり、本発明に至ったものである。
【0005】
【非特許文献1】松田健二,寺崎稔,多々静夫,池野進、「軽金属,Vol43,No3」、1993、P127〜P133
【非特許文献2】松田健二,寺崎稔,多々静夫,池野進、「軽金属,Vol45,No2」、1995、P95〜P100
【非特許文献3】松田健二,岩下綱樹,石動正和,蓮覚寺聖一,上谷保裕,池野進、「軽金属,Vol47,No7」、1997、P385〜P390
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、積載効率の悪い加工・成形した後の時効処理を廃止し、平板、直管形状といった素形材形状で時効処理し、その後加工・成形できる延性に優れたアルミニウム合金製部材を提供することを技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために本発明に係る延性に優れたアルミニウム合金製部材は、時効処理性アルミニウム合金を用いて所定の素形材を製造し、この素形材を溶体化処理した後に所定の加工歪み量を付与し、その後に時効処理を施すことを特徴とする。
ここで、加工歪み量は10〜60%の範囲であることが好ましい。
【0008】
アルミニウム合金組成は、化学量論組成においてMg2Siを0.6〜1.6質量%含有し、Mg2Siバランス組成よりも過剰のSiを0.4質量%以下の範囲で含有するのがよい。
さらには、上記成分組成に、Cuを0.5質量%以下の範囲で含有することがより望ましい。
【0009】
時効処理した6000系アルミニウム合金は、その結晶粒内にMg2Si析出物が生成することにより強度上昇する。
そのため本発明では、質量%で擬2元系に代表されるMg2Si化学量論組成において0.6〜1.6質量%含有し、Mg2Siバランス組成よりも過剰のSi量を0.4質量%以下の範囲にて含有したものである。
このMg2Si析出物の析出により強度が上昇するのは、アルミニウム合金内に存在する転位が加工・成形に対して移動する際に、いわゆるせん断又はバイパス機構により変形抵抗となるためである。
この機構の中でせん断機構によりせん断されたMg2Si析出物は、その後容易にすべり面を提供できるようになるため、時効処理した6000系アルミニウム合金は加工・成形時、粒界に応力が集中する。
また、結晶粒界にはMg2Si析出物が析出していないPFZ(無析出帯)が存在する。
このPFZはMg2Si析出物が存在しないために弱く、そのため、結晶粒内と結晶粒界の強度差が著しくなり、結晶粒界で破壊が発生する。
時効処理後に加工・成形するためには、PFZ内部にMg2Si析出物が生成することでPFZ間隔を狭くし、PFZを強化することが好ましい。
また、結晶粒界が大きく湾曲し、結晶粒界に沿った割れの伝播を抑制することが好ましい。
そのため本発明は、溶体化処理後に冷間歪みを導入したことにより、結晶粒界に存在するPFZ内部に転粒を導入することができ、この転位上にMg2Si析出物が生成することによってPFZ間隔が狭小化し、PFZを強化することができたものである。
また、歪みにより結晶粒界が大きく湾曲するため、割れの伝播を抑制することができる。
【0010】
以下、成分の影響について説明する。
MgとSi成分は、溶体化処理することにより過飽和固溶体を形成し、その後の時効処理においてMg2Si析出物を生成し、せん断又はバイパス機構により強度向上する。
しかしながら、多く含有すると溶体化処理後の過飽和固溶体に多く含有するため、溶体化処理直後の強度が上昇し、加工・成形が困難になるため、化学量論組成Mg2Siは1.6質量%以下であることが好ましい。
ここで、化学量論組成Mg2Siとしての成分量は、0.6質量%以上したのは、この値以下では歪みを導入しなくても転位上に優先析出すると推定されるからである。
また、過剰Si量は、多く含有すると時効処理においてSiが析出するために、破断の起点となる恐れがある。
これを考慮し、Mg2Siバランス組成よりも過剰Si量は0.4質量%以下に抑えるのがよい。
【0011】
Cuは、強度及び延性を確保するために含有することが好ましいが、過剰であると耐食性が低下する。
また、溶体化処理直後の強度が上昇し、加工・成形しづらくなる傾向がある。
これを考慮し、0.5(質量)%以下とするのがよい。
【0012】
本発明においては、素形材の溶体化処理後直ちに冷間で10%以上の歪みを導入する。
これにより、PFZに転位が導入することができ、この転位上にMg2Si析出物が生成することにより、PFZを強化することができる。
また、結晶粒界が大きく湾曲し、割れの伝播を抑制することができる。
素形材の溶体化処理後の加工歪み量を10%以上としたのは、歪みを導入することによりPFZ側に転位を導入できるからである。
なお、結晶粒界の湾曲による効果は加工歪み量が多い方がよい。
従って、加工歪み量は20〜60%の範囲が好ましく、理想的には30%以上である。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るアルミニウム合金製部材によると、溶体化処理後直ちに10%以上の歪みを導入することによって、時効処理後の加工・成形が可能な延性を改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明においては、所定の成分配合に溶湯を調整し、これをブスバー、ビレット等所定の形状に鋳造した後に、熱間圧延あるいは押出等により板材や押出形材に製造した素形材を得る。
このような素形材を溶体化処理し、冷間圧延や引張り、引抜き等により加工歪みを付与する。また、加工歪み量は、例えば厚み等、加工前に対する寸法変化割合をいう。
【実施例】
【0015】
Al−1%Mg2Si−0.5%Cuの組成になるように成分調整した原料を溶解し、角柱状の鋳隗を溶製した。
その後400℃で50%熱間圧延し、575℃で1hr溶体化処理し、氷水中に焼入れした。その後厚みで30%減少するように30%の冷間圧延し、150℃(423K)及び200℃(473K)で時効処理を施して、試料を製造した。
なお、比較のために冷間圧延せずに同様の時効処理したものも製造した。
製造した試料から評点間距離17.5mm、幅5.8mm、厚さ0.8mmの引張試験片を切出し、引張試験に供した。
図1に150℃(423K)で時効処理した試料を引張試験した結果を示し、同様に図2に200℃(473K)で時効処理した場合の引張試験結果を示す。
公称歪みが増加するにつれ、公称応力が増加し、TS(引張強度)に到達した後(図に矢印で示す)、急激に応力が低下し、破断した。
溶体化処理後直ちに30%冷間圧延したものは、引張始めからTSまでの伸び(以下、均一伸びと称す。)が大きくなり、破断した時の伸び(以下、破断伸びと称す。)も大きくなった。
【0016】
図3に150℃及び図4に200℃で時効処理した試料の溶体化処理直後直ちに30%冷間圧延したものとしないもの(図3、4にて0%と表示)について、引張破断面の観察結果を示す。
溶体化処理後に30%冷間圧延したものは、破断面に粒界が見えず、粒界破壊していない。
しかしながら、冷間圧延しないものは引張破断面に結晶粒界が観察され、粒界破断が発生している。
このために、溶体化処理後直ちに冷間加工したものは、均一伸び及び破断伸びが向上したことが明らかになった。
図5及び図6に粒界近傍の組織観察結果を示す。溶体化処理後直ちに30%冷間圧延したものは粒界近傍まで転位が存在し、PFZが狭小化していることが確認できる。
より具体的には、図5、図6に示すように、時効処理423Kのものは、PFZ幅が平均で70nmから50nmに減少し、時効処理473Kのものは同160nmが120nmに減少している。
図7にその拡大写真を示す。転位に沿ってMg2Si析出物が生成していることが確認できる。
これにより、PFZを強化することができ、粒界破壊を抑制したと考えることができる。
【0017】
図8〜図10にそれぞれの時効処理温度における硬化曲線を示す。
これにより、加工歪み量10%以上で速く最高硬度まで上昇することが明らかになった。
【0018】
図11に過剰Si量及びCu成分の伸びへの影響を調査した結果を示す。
過剰Si0.4%添加しても加工歪みの効果が確認できた。
また、Cu成分が強度のみならず、伸びの改善効果が認められる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】423Kで時効処理したものの引張り試験結果を示す。
【図2】473Kで時効処理したものの引張り試験結果を示す。
【図3】423Kで時効処理したものの破断面を示す。
【図4】473Kで時効処理したものの破断面を示す。
【図5】423Kで時効処理したもののPFZを示す。
【図6】473Kで時効処理したもののPFZを示す。
【図7】組織拡大図を示す。
【図8】時効処理温度423Kの硬化曲線を示す。
【図9】時効処理温度448Kの硬化曲線を示す。
【図10】時効処理温度473Kの硬化曲線を示す。
【図11】伸び測定結果を示し、表中0%とは加工歪みを導入していないことを示し、30%とは歪み量が30%であることを示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
時効処理性アルミニウム合金を用いて所定の素形材を製造し、この素形材を溶体化処理した後に所定の加工歪み量を付与し、その後に時効処理を施すことで延性に優れていることを特徴とするアルミニウム合金製部材。
【請求項2】
加工歪み量が10〜60%の範囲であることを特徴とする請求項1記載のアルミニウム合金製部材。
【請求項3】
化学量論組成においてMg2Siを0.6〜1.6質量%含有し、Mg2Siバランス組成よりも過剰のSiを0.4質量%以下の範囲で含有することを特徴とする請求項1又は2記載のアルミニウム合金製部材。
【請求項4】
化学量論組成においてMg2Siを0.6〜1.6質量%含有し、Mg2Siバランス組成よりも過剰のSiを0.4質量%以下の範囲で含有し、銅を0.5質量%以下の範囲で含有することを特徴とする請求項1又は2記載のアルミニウム合金製部材。
【請求項1】
時効処理性アルミニウム合金を用いて所定の素形材を製造し、この素形材を溶体化処理した後に所定の加工歪み量を付与し、その後に時効処理を施すことで延性に優れていることを特徴とするアルミニウム合金製部材。
【請求項2】
加工歪み量が10〜60%の範囲であることを特徴とする請求項1記載のアルミニウム合金製部材。
【請求項3】
化学量論組成においてMg2Siを0.6〜1.6質量%含有し、Mg2Siバランス組成よりも過剰のSiを0.4質量%以下の範囲で含有することを特徴とする請求項1又は2記載のアルミニウム合金製部材。
【請求項4】
化学量論組成においてMg2Siを0.6〜1.6質量%含有し、Mg2Siバランス組成よりも過剰のSiを0.4質量%以下の範囲で含有し、銅を0.5質量%以下の範囲で含有することを特徴とする請求項1又は2記載のアルミニウム合金製部材。
【図1】
【図2】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図2】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【公開番号】特開2006−9066(P2006−9066A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−185603(P2004−185603)
【出願日】平成16年6月23日(2004.6.23)
【出願人】(000100791)アイシン軽金属株式会社 (137)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年6月23日(2004.6.23)
【出願人】(000100791)アイシン軽金属株式会社 (137)
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