説明

建材用コーティング膜及び建材用コーティング剤

【課題】手による剥離作業が容易でありながらも、建材の表面を長期にわたって確実に保護できるようにすることが強く望まれていた。
【解決手段】ウレタン樹脂を水に分散又は溶解させたものであり、造膜したときの前記ウレタン樹脂が、200〜900%の破断伸びを有すると共に、200〜800kg/cm2の引張強度を有する建材用コーティング剤を建材の表面に塗布することにより、200〜900%の破断伸びを有すると共に、200〜800kg/cm2の引張強度を有するウレタン樹脂からなる建材用コーティング膜で建材の表面を被覆するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートやモルタル等のような表面の粗い無機材料からなる建材の表面を保護する建材用コーティング膜及び建材用コーティング剤に関する。
【背景技術】
【0002】
建設現場等において、コンクリートやモルタル等の無機材料からなる建材を施工して、飛散した当該材料の粉末が、施工した当該建材の表面に付着してそのまま乾燥してしまうと、付着した当該材料の粉末を施工した当該建材から除去するのに非常に手間がかかってしまう。このため、従来、建設現場等においては、粘着層を設けた和紙やポリ塩化ビニルシートやポリエチレンシート等を、施工後の当該建材の表面に被覆し、不要となった時点で当該建材の表面から当該シート等を手で引き剥がすようにしている。
【0003】
【特許文献1】特開平10−182204号公報
【特許文献2】特開2001−349060号公報
【特許文献3】特開2006−160867号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、施工した前記建材の表面を和紙で被覆した場合には、和紙の強度が弱いため、前記建材の表面から引き剥がす際に、当該和紙がすぐに切れてしまい、除去作業に手間がかかってしまっていた。他方、施工した前記建材の表面を前述したような樹脂シートで被覆した場合には、雨等の天候の影響によって、被覆した当該シートに部分的又は全面的に浮きや剥がれ等を生じてしまい、当該建材の表面が汚れてしまうことがあった。
【0005】
このため、手による剥離作業が容易でありながらも、建材の表面を長期にわたって確実に保護できるようにすることが強く望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前述した課題を解決するための、本発明は、200〜900%の破断伸びを有すると共に、200〜800kg/cm2の引張強度を有するウレタン樹脂からなることを特徴とする建材用コーティング膜である。
【0007】
加えて、本発明は、上記建材用コーティング膜において、前記ウレタン樹脂が、脂肪族系であることを特徴とする。
【0008】
また、前述した課題を解決するための、本発明は、ウレタン樹脂を水に分散又は溶解させたものであり、造膜したときの前記ウレタン樹脂が、200〜900%の破断伸びを有すると共に、200〜800kg/cm2の引張強度を有するものであることを特徴とする建材用コーティング剤である。
【0009】
加えて、本発明は、上記建材用コーティング剤において、前記ウレタン樹脂が、脂肪族系であることを特徴とする。
【0010】
加えて、本発明は、上記建材用コーティング剤において、前記ウレタン樹脂が、親水性基又は親水性セグメントを有していることを特徴とする。
【0011】
加えて、本発明は、上記建材用コーティング剤において、前記ウレタン樹脂が、5℃以下の最低造膜温度を有していることを特徴とする。
【0012】
加えて、本発明は、上記建材用コーティング剤において、前記ウレタン樹脂が、一液型であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る建材用コーティング膜によれば、風雨や太陽光等の影響による部分的又は全面的な浮きや剥がれ等を防止することができると共に、途中で切れることなく建材の表面から手で引き剥がすことができ、除去作業を非常に容易に行うことができる。
【0014】
また、本発明に係る建材用コーティング剤によれば、建材の表面に塗布することにより、本発明に係る建材用コーティング膜を当該建材の表面に設けることができるので、広範囲な建材の表面であっても、本発明に係る建材用コーティング膜を容易に施工することができ、施工作業の迅速化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明に係る建材用コーティング膜及び建材用コーティング剤の実施形態を以下に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0016】
本実施形態に係る建材用コーティング膜は、200〜900%(好ましくは300〜700%)の破断伸びを有すると共に、200〜800kg/cm2(好ましくは250〜500kg/cm2)の引張強度を有するウレタン樹脂からなるものである。
【0017】
この本実施形態に係る建材用コーティング膜においては、必要に応じて、可塑剤(例えば、フタル酸エステル類、脂肪酸エステル類等)、紫外線吸収剤(例えば、ベンゾトリアゾール類、ベンゾフェノン類等)、剥離向上剤(シリコーンエマルジョン、アルキルリン酸エステル類等)等の添加剤を含有することも可能である。
【0018】
このような本実施形態に係る建材用コーティング膜によれば、上述したようなウレタン樹脂からなるので、風雨や太陽光等の影響による部分的又は全面的な浮きや剥がれ等を防止することができると共に、途中で切れることなくコンクリートやモルタル等のような表面の粗い無機材料からなる建材の表面から引き剥がすことができ、除去作業を非常に容易に行うことができる。
【0019】
ここで、上記建材用コーティング膜は、上記ウレタン樹脂が脂肪族系(例えば、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、水添ジフェニルメタンジイソシアネート等のようなジイソイアネート類や、イソシアヌレート結合HDI等のような特殊ポリイソシアネート類等)であると、変色しにくく、非常に好ましい。
【0020】
そして、本実施形態に係る建材用コーティング剤は、ウレタン樹脂を水に分散又は溶解させたものであり、造膜したときの前記ウレタン樹脂が、200〜900%(好ましくは300〜700%)の破断伸びを有すると共に、200〜800kg/cm2(好ましくは250〜500kg/cm2)の引張強度を有するものである。
【0021】
この本実施形態に係る建材用コーティング剤においては、必要に応じて、上述した可塑剤や紫外線吸収剤や剥離向上剤等はもちろんのこと、消泡剤(例えば、鉱油類、シリコーン類等)、増粘剤(例えば、無機系、有機系等)、pH 調整剤(例えば、有機アルカリ類、エタノールアミン類等)、防腐剤(例えば、ベンゾイソチアゾリン類、トリアジン類等)、造膜助剤(例えば、プロピレングリコールアルキルエーテル類等)、凍結防止剤(多価アルコール類等)、乾燥促進剤(エタノール等の低級アルコール類等)等の添加剤を含有することも可能である。
【0022】
このような本実施形態に係る建材用コーティング剤によれば、建材の表面に塗布することにより、上述した建材用コーティング膜を当該建材の表面に設けることができるので、広範囲な建材の表面であっても、上述した建材用コーティング膜を容易に施工することができ、施工作業の迅速化を図ることができると共に、水を溶媒に用いているので、作業環境の衛生性や安全性の確保等を容易に行うことができる
【0023】
ここで、上記建材用コーティング剤は、上記ウレタン樹脂が脂肪族系(例えば、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、水添ジフェニルメタンジイソシアネート等のようなジイソイアネート類や、イソシアヌレート結合HDI等のような特殊ポリイソシアネート類等)であると、当該ウレタン樹脂が造膜した後に変色することがないので、非常に好ましい。
【0024】
さらに、上記建材用コーティング剤は、前記ウレタン樹脂が、上記親水性基(例えば、スルホン酸基、カルボン酸基、水酸基、硫酸エステル基、リン酸基、アンモニウム基、シアン基、チオ基、酸化エチレン基等)又は親水性セグメントを有している、すなわち、自己乳化型であると、例えば、界面活性剤を添加して水に分散させた強制乳化型で生じるような問題(造膜して乾燥したときに塗膜中に界面活性剤が残存して、降雨にあった場合に膜が相溶しやすく、十分な耐水性を発揮することができない)がないため、非常に好ましい。
【0025】
また、上記建材用コーティング剤は、前記ウレタン樹脂が、5℃以下の最低造膜温度(MFT)を有していると、一般的な施工現場であれば造膜を確実に行うことができるので、非常に好ましい。
【0026】
加えて、上記建材用コーティング剤は、前記ウレタン樹脂が、一液タイプであると、二液タイプのように二種類の溶液を混合する必要がなく、そのまま塗布して造膜させることができるので、施工作業の迅速化をさらに図ることができ、非常に好ましい。
【実施例】
【0027】
本発明に係る建材用コーティング膜及び建材用コーティング剤の効果を確認するために行った確認試験を以下に説明する。
【0028】
〈建材用コーティング剤の製造〉
下記の表1に示す製品等を用いて、下記の表2に示す組成の建材用コーティング剤の試験体1〜4を製造した。なお、比較のため、下記の表1に示す製品等を用いて、下記の表3に示す組成の建材用コーティング剤の比較体1〜4を併せて製造した。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
【表3】

【0032】
〈建材用コーティング膜の被覆〉
前述した組成の試験体1〜4及び比較体1〜4をコンクリート及びポリマ含浸鋼繊維補強コンクリート(PIC)上に塗布し、常温下で30分放置して乾燥させることにより、当該コンクリート及びPIC上に建材用コーティング膜を被覆した。
【0033】
〈乾燥直後試験〉
コンクリート及びPIC上に被覆された乾燥直後の上記試験体1〜4及び比較体1〜4の建材用コーティング膜をそれぞれ手で引き剥がして剥離性を調べた。その結果を下記の表4に示す。なお、比較のため、上記コンクリート及びPIC上を和紙(カモイ社製シーリング用マスキングテープ「No.3303K(品番)」:比較体5)及びポリエチレンシート(オカモト社製養生テープ「No.415(品番)」:比較体6)で被覆した場合の剥離性試験も併せて行った。
【0034】
【表4】

【0035】
上記表4からわかるように、比較体1〜4は、途中で切れて断片状になってしまい、剥離するのに非常に手間がかかってしまった。これに対し、試験体1〜4、比較体5(和紙)及び比較体6(ポリエチレン)は、途中で切れることなく一枚の膜の状態のまま引き剥がすことができ、簡単に剥離することができた。
【0036】
〈屋外曝露後試験〉
続いて、上記試験体1〜4及び比較体5,6を屋外に2ヶ月間曝露して、以下の試験を行った。
【0037】
(1)被覆状態確認
コンクリート及びPICに対する上記試験体1〜4及び比較体5,6の屋外暴露後の被覆状態を目視確認した。その結果を下記の表5に示す。
【0038】
【表5】

【0039】
上記表5からわかるように、比較体5(和紙)及び比較体6(ポリエチレン)は、端部に剥離を生じてしまうと共に、中央部寄りに浮きを生じてしまった。これに対し、試験体1〜4は、コンクリート及びPICに対して全面にわたって密着した状態を維持していた。
【0040】
(2)耐付着物除去性試験
上記試験体1〜4及び比較体5,6の表面にモルタルを付着して、乾燥、固化後、モルタルを当該試験体1〜4及び比較体5,6の表面から取り除いたときの当該試験体1〜4及び比較体5,6の耐性を目視観察した。その結果を下記の表6に示す。
【0041】
【表6】

【0042】
上記表6からわかるように、比較体5(和紙)は、モルタルの除去に伴って、モルタルの付着部分が剥離してしまった。これに対し、試験体1〜4及び比較体6(ポリエチレン)は、モルタルを除去しても、モルタル除去前と相違を生じなかった。
【0043】
(3)剥離性試験
上記試験体1〜4及び比較体5,6をコンクリート及びPIC上からそれぞれ手で引き剥がして剥離性を調べた。その結果を下記の表7に示す。
【0044】
【表7】

【0045】
上記表7からわかるように、比較体5(和紙)は、途中で切れて断片状になってしまい、剥離するのに非常に手間がかかってしまった。これに対し、試験体1〜4及び比較体6(ポリエチレン)は、途中で切れることなく一枚の膜の状態のまま引き剥がすことができ、簡単に剥離することができた。
【0046】
(4)保護性能確認
上記試験体1〜4及び比較体5,6を剥離した後のコンクリート及びPICの表面状態を目視確認して保護性能を調べた。その結果を下記の表8に示す。
【0047】
【表8】

【0048】
上記表8からわかるように、比較体5(和紙)及び比較体6(ポリエチレン)は、コンクリート及びPICの表面に汚れが生じてしまっていた。これに対し、試験体1〜4は、コンクリート及びPICの表面に汚れを生じることはなかった。
【0049】
〈まとめ〉
以上の試験結果から、試験体1〜4は、乾燥直後の剥離性、及び、屋外暴露後の被覆状態、耐付着物除去性、剥離性、保護性能のすべてにおいて、良好な結果を得られることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明に係る建材用コーティング膜及び建材用コーティング剤は、建設業等において、極めて有益に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
200〜900%の破断伸びを有すると共に、200〜800kg/cm2の引張強度を有するウレタン樹脂からなる
ことを特徴とする建材用コーティング膜。
【請求項2】
請求項1に記載の建材用コーティング膜において、
前記ウレタン樹脂が、脂肪族系である
ことを特徴とする建材用コーティング膜。
【請求項3】
ウレタン樹脂を水に分散又は溶解させたものであり、
造膜したときの前記ウレタン樹脂が、200〜900%の破断伸びを有すると共に、200〜800kg/cm2の引張強度を有するものである
ことを特徴とする建材用コーティング剤。
【請求項4】
請求項3に記載の建材用コーティング剤において、
前記ウレタン樹脂が、脂肪族系である
ことを特徴とする建材用コーティング剤。
【請求項5】
請求項3又は請求項4に記載の建材用コーティング剤において、
前記ウレタン樹脂が、親水性基又は親水性セグメントを有している
ことを特徴とする建材用コーティング剤。
【請求項6】
請求項3から請求項5のいずれか一項に記載の建材用コーティング剤において、
前記ウレタン樹脂が、5℃以下の最低造膜温度を有している
ことを特徴とする建材用コーティング剤。
【請求項7】
請求項3から請求項6のいずれか一項に記載の建材用コーティング剤において、
前記ウレタン樹脂が、一液型である
ことを特徴とする建材用コーティング剤。



【公開番号】特開2009−120684(P2009−120684A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−294977(P2007−294977)
【出願日】平成19年11月14日(2007.11.14)
【出願人】(390039712)株式会社リンレイ (18)
【Fターム(参考)】