説明

建物の接地工法と接地ハンガー

【課題】建物の接地工法における高所作業の危険性や、手間の掛かる接地、インサート工事等の作業性を改善する。
【解決手段】細長い棒状体で一端側に設けられたねじ溝部3aの反対側で端部に向けて開口されたスリット3cと、スリット3cの内部でねじ本体3の端部に略90°回転自在に軸支され略直交状態でねじ本体3から突出して貫通された孔部の抜け止めおよび回転止めとなる止着バー4a4bと、一端部に片端部が繋着される接地線5とからなる建物の接地用ハンガー1を形成し、梁に敷設したデッキプレートの任意の位置に穿設された孔に接地用ハンガー1の接地線5と止着バー4a4bとを貫通させ、ねじ本体3を引き戻し同時に止着バー4a4bをねじ本体3に対して直交状態に回転させて前記孔から抜け出ないようにし、ネジ溝部3aにナット2を締め込むことで接地用ハンガー1を前記デッキプレートスラブに固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の接地工法と接地ハンガーの発明であり、更に詳しくは、建物全体を接地して電気的にシールドすることでノイズや雷の影響を防止するための接地工法とその接地構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、建物の躯体接地構造は、図7(A),(B)に示すように、従来例1:鉄骨柱15にピース16を溶接し、このピース16から接地線5で接地を取る方法がある。また、図7(C)に示すように、従来例2:特許文献1に記載されているように、デッキプレート6と、該デッキプレート6の上方に間隔を有し且つ電気的に導通してグリッド状に配筋されデッキプレート上に打設されるスラブコンクリート8中に埋設される主筋17と、全ねじボルトからなる横ボルトの略中央に全ねじボルトからなる縦ボルトの上端を固定してT字型に形成したT字型吊ボルト18を具備し、デッキプレート6の所望位置にボルト穴を穿設し、T字型吊ボルト18の縦ボルトをボルト穴に貫通させてスラブ下に垂設させると共に、横ボルトの両端側のそれぞれを横ボルトに交差する主筋17aに載置して、電気的に導通させた状態で接続固定し、スラブ下に垂設された縦ボルトに接地ケーブル5をナット19,19で固定し、電気的に接続してななるものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−56594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来例1のピースを鉄骨柱に溶接する方法では、コストが嵩むと共に、ピースの固定位置を工程上早い段階で決めてしまうので変更対応が困難であり、更に接地を取る位置が限定されると言う課題がある。また、従来例2では、T字型鉄筋をスラブ鉄筋に結束させ、デッキススラブの下に入りボルトで締め付ける作業が発生するので作業性が悪い。また、コンクリート打設後にデッキスラブを締め付けているボルトまで登る必要があって高所作業となって危険である。前記T字型鉄筋の設置には結束線が必要で作業に手間が掛かり、インサート工事と一緒にできないので作業効率が悪い。本発明に係る建物の接地工法と接地ハンガーは、このような課題を解決するために提案されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る建物の接地工法の上記課題を解決して目的を達成するための要旨は、細長い棒状体で一端側にねじ溝部が設けられ、そのねじ溝部の反対側で端部に向けて開口されて所要長さのスリットが設けられたねじ本体と、前記スリットの内部で前記ねじ本体の端部に略90°回転自在に軸支されねじ本体に対して略直交状態ではこのねじ本体から突出して貫通された孔部の抜け止めおよび回転止めとなる止着バーと、前記ねじ本体におけるスリット側の一部若しくは止着バーの一端部に片端部が繋着される接地線と、前記ねじ本体のねじ溝部に螺着されるナットとからなる建物の接地用ハンガーを形成し、デッキプレートを梁に架設し敷設した後に、任意の位置に穿設された孔に前記接地用ハンガーの接地線と止着バーとを貫通させ、前記接地ハンガーのねじ本体を引き戻し同時に前記止着バーをねじ本体に対して直交状態に回転させて前記孔から抜け出ないようにし、前記接地ハンガーのネジ溝部にナットを締め込むことで前記デッキプレートに固定することである。
【0006】
また、本発明に係る接地ハンガーの要旨は、細長い棒状体で一端側にねじ溝部が設けられ、そのねじ溝部の反対側で端部に向けて開口されて所要長さのスリットが設けられたねじ本体と、前記スリットの内部で前記ねじ本体の端部に略90°回転自在に軸支されるとともに、ねじ本体に対して略直交状態では前記ねじ本体から突出して該ねじ本体が貫通された孔部の抜け止め及び回転止めとなる止着バーと、前記ねじ本体におけるスリット側の一部若しくは前記止着バーの一端部に線材の片端部が繋着される接地線と、前記ねじ本体のねじ溝部に螺着されるナットとからなることである。
前記ねじ溝部は、一端側から少なくとも接地ハンガーを取り付けるデッキプレートをナットで締結できる位置までの範囲に設けられていることを含むものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の建物の接地工法と接地ハンガーによれば、デッキプレートを梁に敷設した後、任意の場所に孔を開けて、当該デッキプレートスラブ上から接地ハンガーの固定作業ができる。これにより、従来の高所作業が解消されて作業効率が向上し、作業員も一人でできるなど工期の短縮及びコスト低減と成る。
天井懐が高い場合は、接地線を延ばすことで接地し、スラブ下まで登らなくて良くなり、高所作業の危険性を回避できる。また、インサート工事と同時に施工できるので、スラブ用配筋が邪魔することなく、短時間に作業することができて、作業能率が向上する。更に、接地ハンガーのねじ溝部を、スペーサ不要にしてナットで直接デッキプレートを締結できるようにすることで、作業能率が向上すると共にコスト低減となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明に係る建物の接地工法に使用する接地ハンガーの正面図(A)と側面図(B)とである。
【図2】同本発明の建物の接地工法におけるITハンガー1の使用状態の断面図である。
【図3】本発明の第2実施例に係る拡大側面図である。
【図4】本発明の第3実施例の使用状態を示す断面図である。
【図5】本発明の第4実施例における使用状態を示す側面図である。
【図6】ITハンガー1の使用状態を示す縦断面図である。
【図7】従来例に係る接地工法における、従来例1に係る実施例の正面図(A)と側面図(B)とであり、従来2に係る実施例の縦断面図(C)である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に係る建物の接地ハンガー1は、図1(A),(B)に示すように、ナット2付きのITハンガー1における止着レバー4に、接地線5を設けたものである。このITハンガー1を、図2に示すように、接地線5を先にしてデッキプレート6の貫通孔6aに上から下へと止着レバー4を貫通させるように、降ろす。
【0010】
その後、前記止着レバー4が前記貫通孔6aを貫通した時点でこのITハンガー1を引き上げる。そして、図2に示すように、前記止着レバー4を回転させて水平状態にし、前記貫通孔6aから前記ITハンガー1が抜け出ないようにする。前記ITハンガー1の上端からスペーサ(図示せず)を装着して介在させ、ナット2をねじ溝部3aに締結する。こうしてITハンガー1をデッキプレート6に固定するものである。
【実施例1】
【0011】
前記ITハンガー1の構成について説明する。図1乃至図2に示すように、このITハンガー1には、細長い棒状体で一端側にねじ溝部3aが設けられ、そのねじ溝部3aの反対側で端部に向けて開口されて所要長さおよび幅のスリット3cがスリット部3bに設けられたねじ本体3がある。
【0012】
前記スリット3cの内部で間隙を有して、前記ねじ本体3の端部に90°回転自在に軸支され、ねじ本体3に対して略直交状態ではこのねじ本体3から突出して、貫通されたデッキプレート6の前記貫通孔6a部の抜け止めおよび回転止めとなる止着バー4がある。
【0013】
この止着バー4は、金属製の平板体であり、通常、市販状態では、長手方向の中心位置からいずれかに偏った位置に軸孔が設けられている。これは、この止着バー4が上に持ち上げられた時に、片側に質量が偏在して直交状態に倒れやすくするものである。この実施例1では、スリット部3bに軸止された回転軸3eに止着バー4の軸孔が遊嵌され、回転自在となっていて、この軸孔から長手方向の端部まで短い方4aが上になり長い方4bが下になっている。
【0014】
前記ねじ本体3におけるスリット3c側の一部若しくは止着バー4の一端部、この実施例の場合におては、図2に示すように、止着バー4の長い方4bに、ボルト7a,スペーサ7b,ナット7cによって片端部5aが繋着される接地線5がある。この接地線5の他端部は電子・電子機器の接地用端子などに接続される。前記ねじ本体3のねじ溝部3aには、ワッシャー付ナット2が繋着される。このようにして建物の接地用ハンガーであるITハンガー1が形成される。
【0015】
前記ITハンガー1の使用した建物の接地工法について説明する。まず、図2に示すように、デッキプレート6を建物の梁(図示せず)に架設し敷設した後に、任意の位置に貫通孔6aを穿設する。これは、他の鉄筋・金具類のインサート工事と同時に、且つ、前記デッキプレート6の上にて穿設工事を行う。
【0016】
そして、前記デッキプレート6の上から、前記穿設された貫通孔6aに前記ITハンガー1の接地線5と止着バー4とを貫通させる。そして、前記ITハンガー1のねじ本体3を上方に引き戻す。このとき、引き上げると同時に、前記止着バー4をねじ本体3に対して直交状態になるように、正・逆に回転させて、ITハンガー1が前記貫通孔6aから抜け出ないようにする。
【0017】
その後、図2に示すように、前記止着バー4の側端面4cをデッキプレート6の下面に押し当てた状態で、ITハンガー1の上端部からスペーサを挿入し、ナット2をねじ溝部3aに螺着させる。
【0018】
前記ITハンガー1のねじ溝部3aにナット2を締め込むことで前記デッキプレート6にITハンガー1が固定される。その後、図6に示すように、デッキプレート6上にコンクリートが打設され、スラブ8が形成される。符号9は、天井を示している。
【実施例2】
【0019】
本発明の第2実施例に係るITハンガーは、図3に示すように、接地線5の片端部5aを、スリット3cの中に配置させたものである。このようにすることで、止着レバー4に取付孔を加工する必要が無くなる。また、図1に示した取付用のボルト7a〜ナット7cが不要となって、コスト低減及び部品点数の削減となる。なお、電気的に導通をしっかり確保する必要があるので、回転軸3eと片端部5aとは、きつく嵌合(締まりバメ程度)させる必要がある。
【実施例3】
【0020】
本発明の第3実施例に係るITハンガーは、図4に示すように、ねじ溝部3aに螺合させるナット2が、直接デッキプレート6の表面まで締め込められるようにして、スペーサの介在を不要にするものである。それには、図示のように、ねじ溝部3aは、ねじ本体3の一端側、即ち下端面3gから寸法tの位置まで、ねじ溝を設けるようにする。前記寸法tは、止着レバー4の幅t1と、デッキプレート6の板厚寸法t2の合計とする。また、このようなねじ溝3aが刻設できるように、ねじ溝部3aとスリット部3bの太さを同じにしておく。このように、ねじ本体3におけるねじ溝部3aの範囲を、デッキプレート6側の一端側から少なくともITハンガー1を取り付けるデッキプレート6をナット2で直接締結できる位置までの範囲に設けることで、スペーサが不要となり部品点数が削減され、コスト低減となる。
【実施例4】
【0021】
本発明の第4実施例に係るITハンガーは、図5に示すように、ねじ本体3において、ねじ溝部3aであった部分にねじ溝を刻設しないで細径部3fとし、これよりも径の太いスリット部3bにおいてねじ溝部3dを刻設する。
【0022】
前記ねじ溝部3dは、実施例3と同様にデッキプレート6をナット2で直接締結できる位置までの範囲に設けるものである。具体的には、図示のように、回転軸3eの上位置で、下端面3gから寸法tの位置である。これにより、ねじ本体本体3にナット2を螺着させるとき、細径部3fを前記ナット2が素早く通過し、スリット部3bのねじ溝部3dの部分に直ぐたどり着いて、短時間で締結することができる。ナット2の締結時間が大幅に短縮されて、作業工期の短縮とねじ溝部の加工範囲も狭くなってコスト低減となる。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明に係る建物の接地工法と接地ハンガーは、デッキプレートの上から一人で作業できるようになり、建物のあらゆる個所にも適用が可能であり、高所作業を伴わずに容易に接地することができる。
【符号の説明】
【0024】
1 ITハンガー、
2 ナット、
3 ねじ本体、 3a ねじ溝部、
3b スリット部、 3c スリット、
3d ねじ溝部、 3e 回転軸、
3f 細径部、 3g 下端面、
4 止着レバー、 4a 短い方、
4b 長い方、
5 接地線、 5a 片端部、
6 デッキプレート、 6a 貫通孔、
7a ボルト、 7b スペーサ、
7c ナット、
8 スラブ、
9 天井、
15 鉄骨柱、
16 ピース、
17 主筋、
18 T字型吊ボルト、
19 ナット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細長い棒状体で一端側にねじ溝部が設けられ、そのねじ溝部の反対側で端部に向けて開口されて所要長さのスリットが設けられたねじ本体と、
前記スリットの内部で前記ねじ本体の端部に略90°回転自在に軸支されねじ本体に対して略直交状態ではこのねじ本体から突出して貫通された孔部の抜け止めおよび回転止めとなる止着バーと、
前記ねじ本体におけるスリット側の一部若しくは止着バーの一端部に片端部が繋着される接地線と、
前記ねじ本体のねじ溝部に螺着されるナットとからなる建物の接地用ハンガーを形成し、
デッキプレートプレートスラブを梁に架設し敷設した後に、任意の位置に穿設された孔に前記接地用ハンガーの接地線と止着バーとを貫通させ、
前記接地ハンガーのねじ本体を引き戻し同時に前記止着バーをねじ本体に対して直交状態に回転させて前記孔から抜け出ないようにし、
前記接地ハンガーのネジ溝部にナットを締め込むことで前記デッキプレートプレートに固定すること、
を特徴とする建物の接地工法。
【請求項2】
細長い棒状体で一端側にねじ溝部が設けられ、そのねじ溝部の反対側で端部に向けて開口されて所要長さのスリットが設けられたねじ本体と、
前記スリットの内部で前記ねじ本体の端部に略90°回転自在に軸支されるとともに、ねじ本体に対して略直交状態では前記ねじ本体から突出して該ねじ本体が貫通された孔部の抜け止め及び回転止めとなる止着バーと、
前記ねじ本体におけるスリット側の一部若しくは前記止着バーの一端部に線材の片端部が繋着される接地線と、
前記ねじ本体のねじ溝部に螺着されるナットとからなること、を特徴とする建物の接地用ハンガー。
【請求項3】
ねじ溝部は、一端側から少なくとも接地ハンガーを取り付けるデッキプレートをナットで締結できる位置までの範囲に設けられていること、
を特徴とする請求項2に記載の建物の接地ハンガー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−99257(P2011−99257A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−254863(P2009−254863)
【出願日】平成21年11月6日(2009.11.6)
【出願人】(000166432)戸田建設株式会社 (328)
【出願人】(000152424)株式会社日建設計 (55)
【Fターム(参考)】