説明

建物の耐震劣化診断システム、建物のメンテナンスシステム、及び建物の耐震劣化診断プログラム

【課題】建物の壁の劣化や損傷の診断を可能にすることを目的とする。
【解決手段】新築時に測定した建物の固有振動を記憶しておき、所定期間後或いは地震等の災害発生後に建物の固有振動を測定して、記憶した固有振動と、測定した固有振動との差に基づいて壁の劣化や損傷の診断を行う。具体的には、固有振動が低下している場合には、劣化・損傷があると診断でき、劣化・損傷している場合には、複数の部位の固有振動の測定値と、壁1枚あたりの剛性率などから耐力壁や非耐力壁の劣化・損傷している壁を特定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の耐震劣化診断システム、建物のメンテナンスシステム、及び建物の耐震劣化診断プログラムにかかり、特に、建物の耐震性能の経時劣化を診断する建物の耐震劣化診断システム、建物のメンテナンスシステム、及び建物の耐震劣化診断プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、建物の動的耐震性を評価するための動的耐震性能評価システムが提案されている。
【0003】
特許文献1の技術によれば、建物内のNS方向、及びEW方向にそれぞれ加振器をセットすると共に、地盤のNS方向及びEW方向に加振器をそれぞれセットし、各方向の常時微動の測定値を増幅器で増幅して記録器を介してオシロスコープで測定し、解析システムによりスペクトル解析を行って、解析値から特性値算出システムにより固有周期、共振度合及び増幅度の積から耐震性劣化指数を求めて耐震性を診断することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−162241号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、測定時の耐震性能を評価するのみで、初期状態からの劣化や損傷までは評価できないので、改善の余地がある。
【0006】
本発明は、上記事実を考慮して成されたもので、建物の壁の劣化や損傷の診断を可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために請求項1に記載の発明は、建物に振動が加わったときの固有振動を測定する測定手段と、過去に前記測定手段によって測定した固有振動を取得する取得手段と、過去の前記測定手段の測定から所定期間後に前記測定手段によって測定した固有振動と、前記取得手段によって取得した固有振動と、に基づいて建物の劣化診断を行う診断手段と、を備えることを特徴としている。
【0008】
請求項1に記載の発明によれば、測定手段では、建物に振動が加わったときの固有振動(固有周期や固有振動数)が測定され、取得手段では、過去に測定手段によって測定した固有振動が取得される。すなわち、測定手段によって過去(例えば、新築時等)の固有振動の測定結果をデータベース等の記憶手段に記憶しておき、取得手段が記憶した固有振動を取得する。
【0009】
そして、診断手段では、過去の測定手段の測定から所定期間後に測定手段によって測定された固有振動と、取得手段によって取得した固有振動と、に基づいて、建物の劣化診断が行われる。例えば、固有振動は、壁の劣化や損傷が発生すると変化し、固有周期は長くなり、固有振動数は低下するするため、固有振動の変化があるか否かを判断することによって建物の劣化診断を行うことができる。従って、過去に測定した固有振動と、所定期間後に測定した固有振動とに基づいて、建物の劣化診断を行うことにより、建物の壁の劣化や損傷を診断することが可能となる。
【0010】
診断手段は、例えば、請求項2に記載の発明のように、所定期間後に測定手段によって測定した固有振動と、取得手段によって取得した固有振動と、に基づいて、固有振動の変化の原因となる非耐力壁または耐力壁を特定し、特定した非耐力壁または耐力壁の劣化及び損傷を判断するようにしてもよい。これによって、耐力壁や非耐力壁の劣化診断が可能となる。
【0011】
なお、測定手段は、請求項3に記載の発明のように、建物の各階毎に固有振動を測定するようにしてもよいし、請求項4に記載の発明のように、建物平面視における重心、及び建物の外周毎に固有振動を測定するようにしてもよい。
【0012】
また、請求項5に記載の発明のように、測定手段の測定結果、及び診断手段の診断結果を記憶する記憶手段を更に備えるようにしてもよい。これによって、建築メーカーや、販売店のサーバ等に記憶手段を設けて一括管理することが可能となる。
【0013】
請求項6に記載の発明は、建物に振動が加わったときの固有振動を測定する測定手段と、過去に前記測定手段によって測定した固有振動を取得する取得手段と、地震速報及び気象情報を含む災害情報を取得する情報取得手段と、前記情報取得手段によって前記災害情報を取得した場合に、固有振動を測定するように前記測定手段を制御する制御手段と、前記制御手段の制御によって測定された固有振動と、前記取得手段に取得された固有振動と、に基づいて建物の劣化診断を行う診断手段と、前記診断手段によって建物の劣化が診断された場合に、報知する報知手段と、を備えることを特徴としている。
【0014】
請求項6に記載の発明によれば、測定手段では、建物に振動が加わったときの固有振動(固有周期や固有振動数)が測定され、取得手段では、過去に測定手段によって測定した固有振動が取得される。すなわち、測定手段によって過去(例えば、新築時等)の固有振動の測定結果をデータベース等の記憶手段に記憶しておき、取得手段が記憶した固有振動を取得する。
【0015】
また、情報取得手段では、地震速報及び気象情報を含む災害情報が取得され、制御手段では、情報取得手段によって災害情報を取得した場合に、固有振動を測定するように測定手段が制御される。例えば、地震予知等を行って災害情報を通知するシステムから災害情報が出力された場合に、当該災害情報を取得した場合に、測定手段による測定を行うように制御する。
【0016】
そして、診断手段では、制御手段の制御によって測定された固有振動と、取得手段によって取得した固有振動と、に基づいて、建物の劣化診断が行われる。例えば、固有振動は、壁の劣化や損傷が発生すると変化し、固有周期は長くなり、固有振動数は低下するため、固有振動の変化があるか否かを判断することによって建物の劣化診断を行うことができる。従って、過去に測定した固有振動と、所定期間後に測定した固有振動とに基づいて、建物の劣化診断を行うことにより、建物の壁の劣化や損傷を診断することが可能となる。
【0017】
また、報知手段では、診断手段によって建物の劣化が診断された場合に、報知される。例えば、ディスプレイや警告ランプ等を用いて報知することができ、報知手段の報知によって建物の改修の必要性等を容易に判断することができる。
【0018】
請求項7に記載の建物のメンテナンスシステムは、建物に振動が加わったときの固有振動を測定する測定手段と、過去に前記測定手段によって測定した固有振動を取得する取得手段と、過去の前記測定手段の測定から所定期間後に前記測定手段によって測定した固有振動と、前記取得手段によって取得した固有振動と、に基づいて、次に損傷する壁を予測する予測手段と、前記予測手段によって予測された壁の設置箇所を表示する表示手段と、を備えることを特徴としている。
【0019】
請求項7に記載の発明によれば、測定手段では、建物に振動が加わったときの固有振動(固有周期や固有振動数)が測定され、取得手段では、過去に測定手段によって測定した固有振動が取得される。すなわち、測定手段によって過去(例えば、新築時等)の固有振動の測定結果をデータベース等の記憶手段に記憶しておき、取得手段が記憶した固有振動を取得する。
【0020】
また、予測手段では、所定期間後に測定手段によって測定した固有振動と、取得手段によって取得した固有振動と、に基づいて、次に損傷する壁が予測される。例えば、固有振動は、壁の劣化や損傷が発生すると変化し、固有周期は長くなり、固有振動数は低下するため、固有振動の変化があるか否かを判断し、劣化した壁は次に損傷する可能性があるため、当該壁が損傷する可能性がある壁であると予測することができる。
【0021】
そして、表示手段では、予測手段によって予測された壁の設置箇所が表示される。従って、予測手段によって次に損傷する可能性のある壁を予測して、その位置を表示手段に表示することで、損傷前に事前にメンテナンスを行うことが可能となり、表示手段を確認することによって、メンテナンス箇所を容易に把握することができる。
【0022】
請求項8に記載の建物の耐震劣化診断プログラムは、建物に振動が加わったときの振動を検出する検出手段によって検出した振動から固有振動を測定する測定ステップと、過去に前記測定ステップによって測定した固有振動を記憶する記憶手段から当該固有振動を取得する取得ステップと、過去の測定ステップの測定から所定期間後に前記測定ステップによって測定した固有振動と、前記取得ステップで取得した固有振動と、に基づいて建物の劣化診断を行う診断ステップと、を含む処理をコンピュータに実行させることを特徴とする。
【0023】
請求項8に記載の発明によれば、測定ステップでは、建物に振動が加わったときの振動を検出する検出手段によって検出した振動から固有振動(固有周期や固有振動数)を測定し、取得ステップでは、過去に測定ステップによって測定した固有振動を記憶する記憶手段から当該固有振動を取得する。すなわち、測定ステップによって過去(例えば、新築時等)の固有振動の測定結果をデータベース等の記憶手段に記憶しておき、取得ステップが記憶した固有振動を取得する。
【0024】
そして、診断ステップでは、過去の測定ステップの測定から所定期間後に測定ステップによって測定した固有振動と、取得ステップによって取得した固有振動と、に基づいて、建物の劣化診断を行う。例えば、固有振動は、壁の劣化や損傷が発生すると変化し、固有周期は長くなり、固有振動数は低下するため、固有振動の変化があるか否かを判断することによって建物の劣化診断を行うことができる。従って、過去に測定した固有振動と、所定期間後に測定した固有振動とに基づいて、建物の劣化診断を行うことにより、建物の壁の劣化や損傷を診断することが可能となる。
【発明の効果】
【0025】
以上説明したように本発明によれば、過去に測定した固有振動と、過去の測定から所定期間後に測定した固有振動とに基づいて、建物の劣化診断を行うことにより、建物の壁の劣化や損傷を診断することが可能となる、という効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施の形態に係わる建物の耐震劣化診断システムの概略構成を示すブロック図である。
【図2】(A)は建物の各階に振動センサを設けて測定する点を説明するための図であり、(B)は建物中央や周辺部分に振動センサを設けて測定する点を説明するための図である。
【図3】測定プログラムを実行した場合の処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【図4】診断プログラムを実行した場合の処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【図5】(A)及び(B)は新築時の固有振動を示す図であり、(C)及び(D)は経年劣化や中規模地震時の固有振動の一例を示し図であり、(E)及び(F)は大地震時の固有振動の一例を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態に係わる建物の耐震劣化診断システムの変形例の概略構成を示すブロック図である。
【図7】災害発生時診断プログラムを実行した場合の処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態の一例を詳細に説明する。図1は、本発明の実施の形態に係わる建物の耐震劣化診断システムの概略構成を示すブロック図である。
【0028】
本発明の実施の形態に係わる建物の耐震劣化診断システム10は、建物の振動を検出するための複数の振動センサ12を備えていると共に、加振器14を備えており、加振器14によって建物に振動を入力したときの振動が振動センサ12によって測定される。
【0029】
加振器14は、例えば、2階建ての建物の場合には、2階に設け、建物に振動を入力し、各振動センサ12によって振動を測定する。本実施の形態では、建物の固有振動(固有周期または固有振動数)を測定するために、加振器14は、振動周期をスイープしながら建物に入力し、振動センサ12によって振動を測定する。
【0030】
各振動センサ12は、例えば、建物の各階に設け、図2(A)に示すように各階の振動を測定すると共に、図2(B)に示すように、平面視において建物中央や周囲部分に設けて、各部位の振動を測定する。
【0031】
振動センサ12は、データレコーダ16に接続され、振動センサ12の検出結果がデータレコーダ16に出力され、振動データとしてデータレコーダ16に記録される。
【0032】
データレコーダ16が周波数分析器18に接続され、データレコーダ16に記録された振動データが周波数分析器18に出力される。
【0033】
周波数分析器18はデータレコーダ16から入力される振動データから共振周波数を検出することにより、建物の固有振動(各振動センサ12の設置部位の固有周期または固有振動数)を検出する。
【0034】
また、建物の耐震劣化診断システム10は、パーソナルコンピュータ(PC)20を含んで構成されている。PC20は、CPU22、ROM24、RAM26、及び入出力ポート28を備えている。これらがアドレスバス、データバス、及び制御バス等のバス30を介して互いに接続されている。
【0035】
入出力ポート28には、各種の入出力機器として、ディスプレイ32、マウス34、キーボード36、ハードディスク(HD)38、及び各種ディスク42からの情報の読み出しを行うディスクドライブ40が各々接続されている。
【0036】
また、上述の加振器14は、PC20に接続可能とされており、建物の固有振動を測定する際に接続して、加振器14によって建物へ振動周期をスイープしながら振動が加える。これによって、振動センサ12によって振動を検出し、検出した振動から周波数分析器18によって検出された固有振動がPC20に入力される。
【0037】
また、入出力ポート28には、ネットワーク44が接続されており、ネットワーク44に接続されたデータベース(DB)46等にPC20からアクセス可能とされている。DB46は、振動センサ12によって測定され、周波数分析器18によって検出された固有振動等をPC20から送信して記憶可能とされていると共に、記憶した情報をPC20から読み出し可能とされている。DB46は、例えば、建築メーカーや販売店等に設けることにより、建物の固有振動等の情報を一括管理することが可能となる。
【0038】
また、PC20のHDD38には、後述する耐震劣化診断プログラムがインストールされている。耐震劣化診断プログラムは、建物の固有振動を測定して、測定した固有振動に基づいて、耐力壁や非耐力壁を含む壁の劣化や損傷の診断を行う。具体的には、新築時に測定した建物の固有振動を記憶しておき、所定期間後或いは地震等の災害発生後に建物の固有振動を測定して、記憶した固有振動と、測定した固有振動との差に基づいて壁の劣化や損傷の診断を行うと共に、診断結果をHDD38やDB46に記憶するようになっている。この時、例えば、DB46を建築メーカーや販売店等に設けることにより、建物の固有振動や診断結果等の情報を一括管理することが可能となる。
【0039】
なお、耐震劣化診断プログラムをPC20にインストールするには幾つかの方法があるが、例えば、耐震劣化診断プログラムをセットアッププログラムと共に各種ディスク42に記録しておき、ディスク42をPC20のディスクドライブ40にセットし、CPU22に対してセットアッププログラムの実行を指示すれば、ディスク42から耐震劣化診断プログラムが順に読み出され、読み出されたプログラムがHDD38に書き込まれることで、耐震劣化診断プログラムのインストールが行われる。また、耐震劣化診断プログラムが、公衆電話回線やコンピュータネットワーク(例えば、LAN、インターネット、及び無線通信ネットワーク等)44を介してPC20と接続される他の情報処理機器(例えば、ネットワークサーバ等)の記憶装置に記憶されており、PC20が情報処理機器と通信することで、情報処理機器からPC20へ伝送され、HDD38にインストールされてPC20で実行される構成を採用するようにしてもよいし、ネットワーク44に接続された情報処理機器に記憶された耐震劣化診断プログラムをPC20で実行可能とする構成を採用してもよい。
【0040】
続いて、上述の耐震劣化診断プログラムについて説明する。耐震劣化診断プログラムは、新築時に建物の固有振動を測定するための測定プログラムと、耐震劣化診断を行うための診断プログラムと、からなる。
【0041】
まず、測定プログラムについて説明する。図3は、測定プログラムを実行した場合の処理の流れの一例を示すフローチャートである。なお、測定プログラムは、例えば、新築時の建物の固有振動を測定する際に行う。また、測定プログラムは、建物を識別するための識別情報や日時等を入力してから以下の処理を開始するものとする。
【0042】
測定プログラムを実行する指示が行われると、ステップ100では、加振器14によって加振周期をスイープしながら加振されてステップ102へ移行する。例えば、ゆっくりした振動周期で加振を開始して徐々に振動周期を速くするように建物に加振する。
【0043】
ステップ102では、建物の複数箇所に設置された振動センサ12の測定値がデータレコーダ16に記録されてステップ104へ移行する。
【0044】
ステップ104では、記録した測定値から各箇所の固有振動が周波数分析器18によって測定されてステップ106へ移行する。すなわち、周波数分析器18では、振動周期がスイープされながら加振されているので、共振により振動が大きくなる周期や周波数を検出することにより固有振動を測定する。
【0045】
ステップ106では、ステップ104で検出された各箇所の固有振動がHDD38やDB46に記憶されてステップ108へ移行する。なお、固有周期を記憶する際には、建物を識別するための識別情報や、固有振動の建物の測定位置を表す位置情報、測定日時などの情報を関連付けて記憶する。
【0046】
ステップ108では、壁1枚あたりの剛性率予測が行われてステップ110へ移行する。壁1枚あたりの剛性率の予測は、例えば、耐震壁や非耐震壁を含む壁の位置や数などがそれぞれ異なるサンプルの固有振動を測定して、固有振動の変化をいろんな組み合わせで計算したときに、実際の建物に一致する壁1枚あたりの剛性率を統計的手法(例えば、耐力壁の位置、非耐力壁の位置、壁の幅や長さ、重心からの位置等をパラメータとした重回帰分析等の分析)を用いて予測する。これによって、例えば、耐力壁と非耐力壁を合わせた固有振動がステップ104で得られるので、壁1枚あたりの剛性率から耐力壁のみの固有振動を予測することができ、耐力壁のみの固有振動と、耐力壁と非耐力壁の固有振動を得ることが可能となる。
【0047】
ステップ110では、予測した剛性率がHDD38やDB46に記憶されて一連の測定プログラムの処理を終了する。
【0048】
次に、診断プログラムについて説明する。図4は、診断プログラムを実行した場合の処理の流れの一例を示すフローチャートである。なお、診断プログラムは、建物を識別するための識別情報や日時等を入力してから以下の処理を開始するものとする。
【0049】
診断プログラムを実行する指示が行われると、ステップ200では、測定プログラムと同様に、加振器14によって加振周期をスイープしながら加振されてステップ202へ移行する。例えば、ゆっくりした振動周期で加振を開始して徐々に振動周期を速くするように建物に加振する。
【0050】
ステップ202では、建物の複数箇所に設置された振動センサ12の測定値がデータレコーダ16に記録されてステップ204へ移行する。
【0051】
ステップ204では、記録した測定値から各箇所の固有振動が周波数分析器18によって測定されてステップ206へ移行する。すなわち、周波数分析器18では、振動周期がスイープされながら加振されているので、共振により振動が大きくなる周期や振動数を検出することにより固有振動を測定する。
【0052】
ステップ206では、ステップ204で検出された各箇所の固有振動がHDD38やDB46に記憶されてステップ208へ移行する。なお、DB46に固有振動を記憶する場合には、建物を識別するための識別情報や、固有振動の建物の測定位置を表す位置情報、測定日時などの情報等を関連付けて記憶する。これにより、新築時の固有振動と合わせて管理することができる。
【0053】
ステップ208では、測定された固有振動数が所定値以下か否かが判定され、該判定が肯定された場合にはステップ210へ移行し、否定された場合には診断プログラムを終了する。なお、当該ステップは、固有周期が所定値以上か否かを判定するようにしてもよい。
【0054】
ステップ210では、記憶された以前の固有振動及び剛性率が取得されてステップ212へ移行する。すなわち、診断プログラム開始時に入力された建物の識別情報に対応する、測定プログラムのステップ106で記憶された固有振動、及びステップ110で記憶された剛性率が読み出される。なお、新築時の固有振動ではなく、その後に測定した固有振動を読み出すようにしてもよい。
【0055】
ステップ212では、ステップ212で取得した固有振動、剛性率、及びステップ204で測定した固有振動(測定値)に基づく劣化・損傷診断が行われてステップ214へ移行する。該劣化・損傷診断は、新築時に振動を加振して測定した建物の各部位の固有振動と、所定期間後に振動を加振して測定した建物の各部位の固有振動との差に基づいて劣化・損傷部位があるか否かを診断する。具体的には、壁の劣化や損傷がある場合には固有周波数が低下するので、固有周期が長くまたは固有振動数が低下している場合には、劣化・損傷があると診断でき、劣化・損傷している場合には、複数の部位の固有周期の測定値と、壁1枚あたりの剛性率から劣化・損傷している壁を特定する。
【0056】
例えば、図5(B)に示すように、新築時の耐力壁と非耐力壁を合わせた固有振動数が5Hzだった部位が図D(B)に示すように、経年劣化や中規模地震等により、4Hzに低下している部位がある場合には、当該部位が劣化・損傷していると判断することができる。また、複数の部位の固有振動の変化と、壁1枚あたりの剛性率から劣化・損傷している壁を特定し、剛性の変化から劣化しているのか損傷しているかについても推定することが可能である。また、図5(D)の場合には、耐力壁と非耐力壁を合わせた固有振動数が5Hzから4Hzに変化したので、耐力壁については、図5(C)に示すように固有振動数が3.5Hz以上と推測でき、新築時(図5(A))と変わっていないので、耐力壁と非耐力壁を合わせた固有振動数の低下が非耐力壁の劣化・損傷によるものであると判断することができる。また、図F(C)の場合(大地震時)には、耐力壁と非耐力壁を合わせた固有振動数が3Hzであるため、耐力壁のみの固有振動数も図5(E)に示すように3Hzと推定でき、新築時(図5(A))から低下しているので、耐力壁及び非耐力壁が劣化・損傷していると判断することができる。
【0057】
また、劣化・損傷診断では、次の地震等の災害によって劣化・損傷の可能性のある壁についても予測する。例えば、劣化・損傷診断によって劣化していると診断された壁については、次に損傷すると考えられる。
【0058】
ステップ214では、診断結果がHDD38やDB46に記憶されてステップ216へ移行する。これにより、固有振動と合わせて診断結果を一括管理することができる。
【0059】
ステップ216では、ステップ212の劣化・損傷診断の結果から耐力壁や非耐力壁の劣化や損傷があるか否かが判定され、該判定が肯定された場合にはステップ218へ移行し、否定された場合には診断プログラムを終了する。
【0060】
ステップ218では、ステップ214の診断結果から得られる劣化・損傷箇所がディスプレイ32等に表示されて一連の診断プログラムを終了する。また、次に損傷する可能性のある壁(劣化している壁)がある場合には、損傷する可能性のある壁が分るようにディスプレイ32に表示される。ディスプレイ32への表示は、劣化なのか損傷なのかを表示色や点滅等によって区別して表示すると共に、劣化・損傷している壁がどの壁かが分るように表示される。これによって、ディスプレイ32に表示された内容を確認することで劣化または損傷している壁を確認して壁の改修の必要性等を容易に判断することができる。また、どの部位かを診断によって特定することができるので、表面材を剥がして損傷を評価する必要がなく建物のメンテナンスを容易に行うことができる。さらに、劣化している壁については次に損傷する可能性があると予測されるので、ディスプレイ32を確認して劣化している壁が有るか否かを判断することにより、メンテナンス箇所を容易に把握して損傷前に事前にメンテナンスを行うことが可能となる。
【0061】
なお、ステップ218において、診断結果をディスプレイ32に表示する際には、例えば、「非耐力壁の改修が必要です。」等のように、メッセージを表示したり、音声出力するようにしてもよい。また、「費用と回収日数は○日です。」等のように、改修費用及び日数の見積計算を実施してディスプレイ32に表示したり、音声出力するようにしてもよい。
【0062】
続いて、本発明の実施の形態に係わる建物の耐震劣化診断システムの変形例について説明する。図6は、本発明の実施の形態に係わる建物の耐震劣化診断システムの変形例の概略構成を示すブロック図である。
【0063】
変形例の構成は、基本的には上記の実施の形態と同一構成とされており、上記実施の形態に対して、PC20の入出力ポートに警告ランプ48が接続されていると共に、ネットワーク44に災害速報サーバ50が接続されている。
【0064】
災害速報サーバ50は、例えば、地震等の災害発生を予測して、災害発生が予測された場合にネットワーク44を介して、地震等の災害速報を通知する。
【0065】
変形例では、上述の測定プログラム及び診断プログラムの他に、災害発生時診断プログラムを有している。
【0066】
災害発生時診断プログラムでは、災害速報サーバ50から災害速報が通知された場合に、建物の固有振動を自動的に測定して、劣化・損傷がある場合には、警告ランプ48を点灯して避難を報知する。
【0067】
続いて、本発明の実施の形態に係わる建物の耐震劣化診断システムの変形例で行われる災害発生時診断プログラムの処理の流れについて説明する。図7は、災害発生時診断プログラムを実行した場合の処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0068】
ステップ300では、災害速報を受信したか否かが判定される。該判定は、災害速報サーバ50からネットワーク44を介して災害速報を受信したか否かを判定し、該判定が否定された場合には処理を終了して他の処理を行い、肯定された場合にはステップ302へ移行する。
【0069】
ステップ302では、建物の複数箇所に設置された振動センサ12の測定値がデータレコーダ16に記録されてステップ304へ移行する。
【0070】
ステップ304では、記録した測定値から各箇所の固有振動が周波数分析器18によって測定されてステップ306へ移行する。すなわち、周波数分析器18では、災害によって建物が振動されるので、共振により振動が大きくなる周期や振動数を検出することにより固有振動を測定する。
【0071】
ステップ306では、ステップ304で検出された各箇所の固有振動がHDD38やDB46に記憶されてステップ308へ移行する。なお、DB46に固有振動を記憶する場合には、建物を識別するための識別情報や、固有振動の建物の測定位置を表す位置情報、測定日時などの情報等を関連付けて記憶する。これにより、新築時の固有振動と合わせて管理することができる。
【0072】
ステップ308では、測定された固有振動数が所定値以下か否かが判定され、該判定が肯定された場合にはステップ310へ移行し、否定された場合には災害発生時診断プログラムを終了する。なお、当該ステップは、固有周期が所定値以上か否かを判定するようにしてもよい。
【0073】
ステップ310では、記憶された以前の固有振動及び剛性率が取得されてステップ312へ移行する。すなわち、当該建物の識別情報に対応する、測定プログラムのステップ106で記憶された固有振動、及びステップ110で記憶された剛性率が読み出される。なお、新築時の固有振動ではなく、その後に測定した固有振動を読み出すようにしてもよい。
【0074】
ステップ312では、ステップ312で取得した固有振動、剛性率、及びステップ304で検出した固有振動(測定値)に基づく劣化・損傷診断が行われてステップ314へ移行する。なお、劣化・損傷診断は、上述した診断プログラムのステップ212で同様にして行われる。また、劣化・損傷診断では、災害速報により発生した地震等の災害によって劣化・損傷の可能性のある壁についても予測する。例えば、劣化・損傷診断によって劣化していると診断された壁については、損傷すると考えられる。
【0075】
ステップ314では、診断結果がHDD38やDB46に記憶されてステップ316へ移行する。これにより、固有振動と合わせて診断結果を一括管理することができる。
【0076】
ステップ316では、ステップ312の劣化・損傷診断の結果から耐力壁や非耐力壁の劣化や損傷があるか否かが判定され、該判定が肯定された場合にはステップ318へ移行し、否定された場合には災害発生時診断プログラムを終了する。
【0077】
ステップ318では、警告ランプ48が点灯されると共に、ステップ312の劣化・損傷診断の結果から得られる劣化・損傷箇所がディスプレイ32等に表示されて一連の災害発生時診断プログラムを終了する。また、次に損傷する可能性のある壁(劣化している壁)がある場合には、損傷する可能性のある壁が分るようにディスプレイ32に表示される。ディスプレイ32への表示は、劣化なのか損傷なのがを表示色や点滅等によって区別して表示すると共に、劣化・損傷している壁がどの壁かが分るように表示される。すなわち、警告ランプ48の点灯によって、建物の劣化・損傷があることが分ると共に、ディスプレイ32に表示された内容を確認することで劣化または損傷している壁を確認して壁の改修の必要性等を容易に判断することができる。また、どの部位かを診断によって特定することができるので、表面材を剥がして損傷を評価する必要がなく建物のメンテナンスを容易に行うことができる。さらに、劣化している壁については損傷する可能性があると予測されるので、ディスプレイ32を確認して劣化している壁が有るか否かを判断することにより、メンテナンス箇所を容易に把握して損傷前に事前にメンテナンスを行うことが可能となる。また、変形例では、耐力壁や非耐力壁の劣化や損傷が或る場合には、警告ランプ48が点灯されることにより、避難を報知することができる。また、このとき、警告ランプ48の点灯と共に、「避難してください。」とディスプレイ32に表示したり、音声出力するようにしてもよい。
【0078】
なお、上記の実施の形態及び変形例では、建物の固有振動を測定するための振動センサ12を床に設けるようにしたが、これに限るものではなく、各壁に設けて直接各壁の固有振動を測定して、壁の劣化・診断を行うようにしてもよい。
【0079】
また、上記の実施の形態及び変形例では、建物の複数箇所の固有振動を測定して、耐力壁や非耐力壁の劣化・損傷の診断を行うようにしたが、建物の1箇所の固有振動を測定して、壁まで特定せずに、建物自体の劣化・損傷を診断するようにしてもよい。例えば、予め定めた値までの固有振動数の低下を劣化として判断し、それ以上の固有振動数の低下がある場合に建物が損傷していると判断するようにしてもよい。
【0080】
また、上記の変形例では、災害発生時に建物の固有振動を測定して、建物の劣化・損傷診断を行うようにしたが、災害速報を元に災害発生後に図4の測定プログラムを実行して、建物の劣化・損傷診断を行うようにしてもよい。
【0081】
また、上記の実施の形態及び変形例では、建物の耐震劣化診断システムとして説明したが、次に損傷する壁を予測することによってメンテナンスに利用するメンテナンスシステムとしてもよい。
【符号の説明】
【0082】
10 耐震劣化診断システム
12 振動センサ
14 加振器
16 データレコーダ
18 周波数分析器
20 パーソナルコンピュータ
32 ディスプレイ
38 HDD
46 DB
48 警告ランプ
50 災害速報サーバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物に振動が加わったときの固有振動を測定する測定手段と、
過去に前記測定手段によって測定した固有振動を取得する取得手段と、
過去の前記測定手段の測定から所定期間後に前記測定手段によって測定した固有振動と、前記取得手段によって取得した固有振動と、に基づいて建物の劣化診断を行う診断手段と、
を備えた建物の耐震劣化診断システム。
【請求項2】
前記診断手段は、前記所定期間後に前記測定手段によって測定した固有振動と、前記取得手段によって取得した固有振動と、に基づいて、固有振動の変化の原因となる非耐力壁または耐力壁を特定し、特定した非耐力壁または耐力壁の劣化及び損傷を判断する請求項1に記載の建物の耐震劣化診断システム。
【請求項3】
前記測定手段は、建物の各階毎に固有振動を測定する請求項1又は請求項2に記載の建物の耐震劣化診断システム。
【請求項4】
前記測定手段は、建物平面視における重心、および建物の外周毎に固有振動を測定する請求項1又は請求項2に記載の建物の耐震劣化診断システム。
【請求項5】
前記測定手段の測定結果、及び前記診断手段の診断結果を記憶する記憶手段を更に備えた請求項1〜4の何れか1項に記載の建物の耐震劣化診断システム。
【請求項6】
建物に振動が加わったときの固有振動を測定する測定手段と、
過去に前記測定手段によって測定した固有振動を取得する取得手段と、
地震速報及び気象情報を含む災害情報を取得する情報取得手段と、
前記情報取得手段によって前記災害情報を取得した場合に、固有振動を測定するように前記測定手段を制御する制御手段と、
前記制御手段の制御によって測定された固有振動と、前記取得手段に取得された固有振動と、に基づいて建物の劣化診断を行う診断手段と、
前記診断手段によって建物の劣化が診断された場合に、報知する報知手段と、
を備えた建物の耐震劣化診断システム。
【請求項7】
建物に振動が加わったときの固有振動を測定する測定手段と、
過去に前記測定手段によって測定した固有振動を取得する取得手段と、
過去の前記測定手段の測定から所定期間後に前記測定手段によって測定した固有振動と、前記取得手段によって取得した固有振動と、に基づいて、次に損傷する壁を予測する予測手段と、
前記予測手段によって予測された壁の設置箇所を表示する表示手段と、
を備えた建物のメンテナンスシステム。
【請求項8】
建物に振動が加わったときの振動を検出する検出手段によって検出した振動から固有振動を測定する測定ステップと、
過去に前記測定ステップによって測定した固有振動を記憶する記憶手段から当該固有振動を取得する取得ステップと、
過去の測定ステップの測定から所定期間後に前記測定ステップによって測定した固有振動と、前記取得ステップで取得した固有振動と、に基づいて建物の劣化診断を行う診断ステップと、
を含む処理をコンピュータに実行させるための建物の耐震劣化診断プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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