説明

建物構造

【課題】変動荷重による梁の撓み制限を満足させ、かつ、梁の鉄骨量を減少させる。
【解決手段】第1梁12は上側梁材34と下側梁材36を備え、上側梁材34と下側梁材36の間には束材30と斜材32が取り付けられトラス梁を構成している。上側梁材34の上面は屋根材28を支持し、屋根材28に加わる変動荷重を受ける。また、下側梁材36で供給室天井材56を吊り下げている。第2梁18も上側梁材42と下側梁材44を備え、上側梁材42と下側梁材44の間を束材38と斜材40で接合しトラス梁を構成している。下側梁材44にはクリーンルーム22の天井材20が吊り下げられ、天井材20と供給室天井材56の空間をクリーンルーム22に清浄空気を供給する空気供給室46としている。第1梁12の下面48及び供給室天井材56と、第2梁18の上面50の間には、所定の隙間が空けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変動荷重による撓み制限が課せられる建物の建物構造に関する。
【背景技術】
【0002】
クリーンルーム等の微細加工機器類が設置される建物(以下、代表してクリーンルームと呼ぶ。)では、予定される外部の変動荷重(例えば風圧や積雪等)に対し、梁の撓み量を所定値以下に制限する場合がある(例えば、変動荷重に対し15mm以下の変形に制限すること、など)。
【0003】
クリーンルームでは、一般に大スパンの梁が使用されており、この大スパンの梁は、軽量で施工が比較的容易なトラス梁が広く用いられている。この大スパンのトラス梁は、変動荷重の影響が生じ易いため、梁の変形量(撓み量)が制限される場合には、梁の断面積を大きくして剛性を高める方法で対応している。
【0004】
このため、多雪地帯にクリーンルームを設置する場合には、変動荷重として積雪量に見合う積雪荷重を考慮する必要があり、次のような問題がある。
【0005】
例えば、想定積雪量を150cmとした場合、単位積雪荷重が30N/m/cmであるから、梁の受ける変動荷重は4500N/mとなる。
即ち、変動荷重として4500N/mが加わった状態で、梁の撓み量が15mm以下であること、という条件を満足させるには、トラス梁の成が8mという大きな梁となり、変動荷重を考慮しない建物に比べ、寸法上の納まりの問題に加え、使用する鉄骨量が増大する等の経済的な問題も生じる。
【0006】
そこで、変動荷重の影響を受けにくい梁構造が求められているところ、トラス梁の屋根梁材と天井梁材が一体として挙動するのを抑制し、屋根材が変動荷重を受けても、屋根梁材の撓みが、天井梁材に及ぼす影響を小さくする技術が提案されている(特許文献1)。
【0007】
図4に示すように、特許文献1の梁Bは、屋根材を支持する屋根梁材80と天井材を吊下する天井梁材82を有している。屋根梁材80は、柱88、中間柱90及び柱88に架けられ、天井梁材82は、屋根梁材80の下方に設けられ、屋根梁材80と所定の隙間を空け、柱88、中間柱90及び柱88に架けられている。
【0008】
そして、屋根梁材80と天井梁材82の柱88側の端部には、束材84と斜材86が取り付けられ、柱88、斜材86及び束材84でトラス部B1が形成されている。同様に、屋根梁材80と天井梁材82の中間柱90側の端部にも、束材84と斜材86が取り付けられ、中間柱90、斜材86及び束材84でトラス部B1が形成されている。
【0009】
この結果、柱88側のトラス部B1と、中間柱90側のトラス部B1の間の中間部B2では、屋根梁材80の変動荷重が天井梁材82に及ぼす影響を小さくできる。
【0010】
しかし、トラス部B1では、屋根梁材80の撓みの影響を、束材84と斜材86を介して天井梁材82が直接受けるため、屋根梁材80の変動荷重が天井梁材82に及ぼす影響を小さくできない。
【特許文献1】特開2002−30760号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記事実に鑑み、変動荷重による梁の撓み制限を満足し、かつ、梁の鉄骨量を減少させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に記載の発明に係る建物構造は、柱に架けられ上面で屋根材を支持する第1梁と、前記第1梁の下面と所定の隙間を空けて前記柱に架けられ、前記第1梁から荷重が直接伝達されず、下面で天井材を吊下する第2梁と、を有することを特徴としている。
【0013】
請求項1に記載の発明によれば、第1梁の上面が屋根材を支持し、第1梁の下方に架けられた第2梁の下面が天井材を吊下する。このとき、第1梁の下面と第2梁の上面との間には所定の隙間が空けられ、第1梁から第2梁には荷重が直接伝達されない。
【0014】
これにより、第1梁が屋根材の変動荷重を支える専用の梁となり、第2梁が天井材を吊下して撓み制限を満足させる専用の梁となる。
このように、第1梁と第2梁に、それぞれ梁の機能を分担させることで、撓み制限を受ける第2梁の撓みを小さくでき、変動荷重を受けても撓み制限を満足できる。
【0015】
更に、2つの梁の断面積を、それぞれ最適化することで、1つの梁の断面積を大きくして撓み制限を満足させる従来の梁に比べ、梁に使用する鉄骨量を低減できる。
また、第2梁に天井材を吊下することで、天井材に施され気密性を高めるためのシールの長期信頼性を確保することができる。
【0016】
請求項2に記載の発明に係る、請求項1に記載の建物構造は、前記第1梁の下面と前記第2梁の上面の所定の隙間は、前記第1梁が所定の変動荷重を受けて下方に撓んだとき、前記第1梁の下面と第2梁の上面が当接しない寸法であることを特徴としている。
【0017】
請求項2に記載の発明によれば、第1梁の下面と第2梁の上面の所定の隙間が、第1梁が所定の変動荷重を受けて下方に撓んだとき、第1梁の下面が第2梁の上面に当接しない寸法とされている。
これにより、第1梁が変動荷重の影響を受けて撓んでも、第2梁が、変動荷重の影響を直接受けることはなく、第2梁は撓み制限を満足した状態を維持できる。
【0018】
請求項3に記載の発明に係る、請求項1又は2に記載の建物構造は、前記第1梁と前記第2梁をトラス梁とし、前記天井材は、前記第2梁の下方に設けたクリーンルームの天井となるシステム天井材であり、前記第1梁の下面に、前記クリーンルームへ空気を供給する供給室天井材を設け、前記システム天井材と前記供給室天井材との間の空間を空気供給室としたことを特徴としている。
【0019】
請求項3に記載の発明によれば、第1梁と第2梁はトラス梁で構成され、第2梁の下方にはクリーンルームが設けられ、第2梁がクリーンルームの天井であるシステム天井材を吊り下げている。また、第1梁の下面には供給室天井材が設けられ、供給室天井材とシステム天井材の間の空間を、クリーンルームへ空気を供給する空気供給室としている。
これにより、供給室天井材とシステム天井材の間の空間を利用して清浄空気の供給が可能となり、空気供給室として有効活用できる。
【0020】
請求項4の発明に係る、請求項1又は2に記載の建物構造は、前記第1梁と前記第2梁をトラス梁とし、前記天井材は、前記第2梁の下方に設けたクリーンルームの天井となるシステム天井材であり、前記第2梁の上面に、前記クリーンルームへ空気を供給する供給室天井材を設け、前記システム天井材と前記供給室天井材との間の空間を空気供給室としたことを特徴としている。
【0021】
請求項4に記載の発明によれば、第1梁と第2梁はトラス梁で構成され、第2梁の下にはクリーンルームが設けられ、第2梁がクリーンルームの天井であるシステム天井材を吊り下げている。また、第2梁の上面には供給室天井材が設けられ、供給室天井材とシステムの天井材の間の空間を、クリーンルームへ空気を供給する空気供給室としている。
これにより、供給室天井材とシステム天井材の間の空間を利用して清浄空気の供給が可能となり、空気供給室として有効活用できる。
【0022】
請求項5の発明に係る、請求項1〜4のいずれか1項に記載の建物構造は、前記第1梁の両端部の成が同一であり、前記第1梁が支持する屋根材の勾配と、前記第1梁の勾配を同一としたことを特徴としている。
【0023】
請求項5に記載の発明によれば、第1梁の両端部の成が同一とされ、第1梁が支持する屋根の勾配と、第1梁が同一勾配で傾斜している。
これにより、第1梁で屋根材を直接支持することで屋根材が傾斜するので、屋根材を傾斜させるための補助部材を、第1梁と屋根材の間に設ける必要がない。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、上記構成としてあるので、変動荷重による梁の撓み制限を満足させ、かつ、梁の鉄骨量を減少させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
(第1の実施の形態)
図1に示すように、第1の実施の形態に係る建物構造10には、大スパンの大梁である第1梁12が架けられている。
【0026】
第1梁12の左端部12Lは柱14Lに接合され、右端部12Rは柱14Rに接合され、中間部12Mは中間の柱16に接合されている。
【0027】
第1梁12は、H型鋼からなる上側梁材34と、同じくH型鋼からなる下側梁材36が所定の隙間を空けて架け渡され、上側梁材34と下側梁材36の間には束材30と斜材32が接合されている。束材30と斜材32は左側の柱14Lと中間の柱16の間、及び中間の柱16と右側の柱14Rの間に、所定の間隔で複数個設けられ、上側梁材34、下側梁材36、束30及び斜材32でトラス梁が構成されている。なお、第1梁12の左端部12Lの成、中間部12Mの成、及び右端部12Rの成は、いずれも同じ高さとされている。
【0028】
第1梁12は、左端部12Lが最も高い位置に接合され、次いで中間部12M、右端部12Rの順に低くなる傾斜(勾配θ)で接合されている。
【0029】
また、上側梁材34の上面には屋根材28が、上側梁材34と平行に取り付けられ、第1梁12が屋根材28を支持している。この結果、第1梁12の傾斜と屋根材28の傾斜は、いずれも同じ勾配θである。
【0030】
このような構成とすることにより、強風時の風圧や積雪時の積雪荷重などの屋根材28に加えられる変動荷重を、第1梁12が直接受けて、柱14R、柱14L及び柱16に伝えることができる。
また、下側梁材36の下面には、後述する空気供給室の天井となる、供給室天井材56が図示しない吊り下げ材で吊り下げられている。
【0031】
第1梁12の下方には、大スパンの大梁である第2梁18が水平に架けられている。
第2梁12は、右端部18Rが柱14Rに接合され、左端部18Lが柱14Lに接合され、中間部Mが中間の柱16に接合されている。
第2梁18は、H型鋼で形成された上側梁材42と、同じくH型鋼で形成された下側梁材44が所定の隙間を空けて架け渡され、上側梁材42と下側梁材44の間に束材38と斜材40が接合されている。束材38と斜材40は左側の柱14Lと中間の柱16の間、及び中間の柱16と右側の柱14Rの間に、所定の間隔で複数個設けられ、上側梁材42、下側梁材44、束材38及び斜材40でトラス梁が構成されている。
【0032】
第1梁12の下面48及び供給室天井材56と、第2梁18の上面50の間には、所定の隙間が空けられており、第1梁12が変動荷重を受けて撓んでも、第1梁12の下面48及び供給室天井材56と、第2梁18の上面50が直接接触することはなく、第1梁から第2梁へ荷重が直接伝達されることはない。
【0033】
この結果、第2梁18は、変動荷重を受けず、第2梁18が受ける荷重が低減される分、第2梁18の断面積を小さくでき、撓み量も少なくできる。
第2梁18の下部にはクリーンルーム22が設けられ、クリーンルーム22の天井材20が図示しない吊り材で第2梁18から吊り下げられている。
【0034】
クリーンルーム22には微細加工機器類(図示せず)が設置されており、建物の外部の環境変化等に基づく変動荷重による、第2梁18の撓み量が制限されている。
【0035】
また、第1の実施の形態では、撓み量が少ない第2梁18でクリーンルーム22の天井材20を吊り下げており、天井材の接合部に施されたシール材の損傷を低減でき、クリーンルーム22の気密性能の長期信頼性が確保できる。
【0036】
また、第1梁の下面48に供給室天井材56を設けることで、クリーンルーム22の天井材20と供給室天井材56の間の空間を清浄に維持することができ、空気供給室46として活用できる。即ち、空気供給室46に清浄空気の供給機器類(図示せず。)を設置すれば、空気供給室46からクリーンルーム22に清浄空気を供給できる。
【0037】
また、クリーンルーム22の下部の空間が、クリーンルーム22を出たリターン空気用の空気戻り室24とされている。
これにより、清浄な空気を空気供給室46からクリーンルーム22へ送り、クリーンルーム22からのリターン空気を空気戻り室24へ戻す、連続した空気流れを作ることができ、クリーンルーム22の空気を清浄に保つことができる。
【0038】
なお、空気戻り室24の下階は機械室26とされ、クリーンルーム22で使用する微細加工機器類の制御装置等が設けられている。また、機械室26の下には建物の基礎54が施されている。
【0039】
以上説明したように、実施の形態に係る建物構造10は、第1梁12が屋根材の変動荷重を支える専用の梁として作用し、第2梁18が天井材20を吊下して撓み制限を満足させる専用の梁として作用する。
【0040】
このように、第1梁12と第2梁18に、それぞれ梁の機能を分担させることで、撓み制限を受ける第2梁18の撓みを小さくでき、撓み制限を満足できる。
また、第1梁12と第2梁18の断面積をそれぞれ最適化することで、単に梁の断面積を大きくして撓み制限を満足させる従来の梁に比べ、梁の鉄骨量を低減できる。
【0041】
次に、鉄骨量の試算例について説明する。
図2に示すように、実施の形態で示した第1梁12と第2梁18に分けた場合(以下、ダブルトラス案と呼ぶ)と、1つの梁52を大きくした場合(以下、シングルトラス案と呼ぶ)について、必要とする鉄骨量を試算した。
【0042】
試算条件は、梁のスパン(クリーンルームの幅)を72mとした。使用する梁はトラス梁とし、中間位置に1ヶ所、中間柱16を建てた。また、計算の便宜上、第1梁は水平に架けた状態とした。
【0043】
変動荷重Pは、多雪地帯を想定しP=4500N/m(積雪量h=150cm、単位積雪荷重ρ=30N/m/cm)とした。
【0044】
また、変動荷重による梁のたわみ制限を「変動荷重に対し、15mm以下の変形に制限すること」とした。
この条件を満たす梁を、束材や斜材の配置を含め、ダブルトラス案とシングルトラス案でそれぞれ設計し、設計結果に基づき鉄骨量を算出した。なお、ダブルトラス案では、第1梁12と第2梁18のそれぞれの鉄骨量の合計量とした。
【0045】
結果は、図2に示すように、必要とする鉄骨量は、シングルトラス案では73kg/mであるが、ダブルトラス案では69kg/m となり、ダブルトラス案とすることで鉄骨量を約5.5%減少させることができる。
【0046】
この効果は、変動荷重の大きい程、若しくは目標性能としての撓み制限が厳しいほど大きくなる。
なお、トラスの形式は、ワ−レントラス、プラットトラス、ハウストラスのいずれでも構わない。
【0047】
(第2の実施の形態)
図3に示すように、第2の実施の形態に係る建物構造62は、空気供給室58の天井となる供給室天井材60を、第2梁の上面50に設けた構成である。
他の構成は、第1の実施の形態と同じである。以下、第1の実施の形態と相違する点について説明する。
【0048】
第2梁18の上側梁材42の上面50には、供給室天井材60が設けられている。
このように、第2梁18の上面50に供給室天井材60を設けることで、クリーンルーム22の天井材20と供給室天井材60の間の空間を清浄に維持することができ、空気供給室58として活用できる。即ち、空気供給室58の、第2梁と第2梁の間の空間を利用して清浄空気の供給機器類(図示せず。)を設置すれば、空気供給室58からクリーンルーム22に清浄空気を供給できる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る建物構造の基本構成を示す図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る建物構造の効果の一例を示す図である。
【図3】本発明の第2の実施の形態に係る建物構造の基本構成を示す図である。
【図4】従来の建物構造の基本構成を示す図である。
【符号の説明】
【0050】
10 建物構造
12 第1梁
14 柱
16 中間柱
18 第2梁
20 天井材(システム天井材)
22 クリーンルーム
28 屋根材
46 空気供給室
56 供給室天井材
58 空気供給室
60 供給室天井材
60 建物構造

【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱に架けられ上面で屋根材を支持する第1梁と、
前記第1梁の下面と所定の隙間を空けて前記柱に架けられ、前記第1梁から荷重が直接伝達されず、下面で天井材を吊下する第2梁と、
を有する建物構造。
【請求項2】
前記第1梁の下面と前記第2梁の上面の所定の隙間は、前記第1梁が所定の変動荷重を受けて下方に撓んだとき、前記第1梁の下面と第2梁の上面が当接しない寸法である請求項1に記載の建物構造。
【請求項3】
前記第1梁と前記第2梁をトラス梁とし、
前記天井材は、前記第2梁の下方に設けたクリーンルームの天井となるシステム天井材であり、
前記第1梁の下面に、前記クリーンルームへ空気を供給する供給室天井材を設け、
前記システム天井材と前記供給室天井材との間の空間を空気供給室とした請求項1又は2に記載の建物構造。
【請求項4】
前記第1梁と前記第2梁をトラス梁とし、
前記天井材は、前記第2梁の下方に設けたクリーンルームの天井となるシステム天井材であり、
前記第2梁の上面に、前記クリーンルームへ空気を供給する供給室天井材を設け、
前記システム天井材と前記供給室天井材との間の空間を空気供給室とした請求項1又は2に記載の建物構造。
【請求項5】
前記第1梁の両端部の成が同一であり、前記第1梁が支持する屋根材の勾配と、前記第1梁の勾配を同一とした請求項1〜4のいずれか1項に記載の建物構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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