説明

建物解体工法

【課題】下層部から解体中の建物に作用する地震等による水平力を軽減することができる簡易な建物解体工法を提供する。
【解決手段】解体する建物2の下層部4にジャッキ6からなる支持機構8を介装して建物2を支持し、ジャッキ6の伸張工程と収縮工程を繰り返しながら建物2をその下層部4から解体する建物解体工法において、支持機構8の一部として免震装置10を介在させて建物2を支持するようにする。免震装置10は、積層ゴムで構成され、ジャッキ6の上部または下部に設けることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の下層部から解体する建物解体工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄筋コンクリート造の外筒と、煙を通す鋼製の内筒とからなるRC造煙突の内筒の解体工法として、内筒を外筒から吊り下げ、内筒下部を解体して内筒を順次下降させる解体工法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
一方、建物解体工法として建物の下層部から解体する工法が知られている(例えば、特許文献2参照)。特許文献2の解体工法は、解体する建物の所定の下層階の全柱にそれぞれジャッキを介装し、その直上階に床梁等が建物の全柱と切り離された解体作業階を設け、全柱のジャッキを同時に縮める収縮ステップと順次にジャッキ直上部を吊るし切りして伸ばす伸長ステップとを繰り返すことにより解体作業階上方の柱に結合した各階を徐々に降下させ、降下した各階の柱以外の躯体を解体作業階で順次解体するものである。
【0004】
このような建物の下層部から解体する工法によれば、解体装置を上層部に設置する必要がないので解体装置を順次下降させる必要がない、解体材を上層部から荷降ろしする必要がない、上層部から周囲への振動、騒音、飛石、粉塵の拡散、飛散の防止のための仮設養生を必要としないなどの利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−1983号公報
【特許文献2】特開2009−138378号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の従来の建物の下層部から解体する工法では、解体工事中の建物はジャッキなどで支持される不安定な状態で地震などの水平力に対応しなければならない。
【0007】
この解体工事中の水平力への対策として、建物の近傍に水平力抵抗体を新設したり、補強した水平力抵抗コアを設けるなどの方法が知られているが、新たな架構や補強工事を伴うので建物解体工法としては今一歩であった。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、下層部から解体中の建物に作用する地震等による水平力を軽減することができる簡易な建物解体工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の請求項1に係る建物解体工法は、解体する建物の下層部にジャッキからなる支持機構を介装して前記建物を支持し、前記ジャッキの伸張工程と収縮工程を繰り返しながら前記建物をその下層部から解体する建物解体工法において、前記支持機構の一部として免震装置を介在させて前記建物を支持することを特徴とする。
【0010】
また、本発明の請求項2に係る建物解体工法は、上述した請求項1において、前記免震装置を、前記ジャッキの上部に設けたことを特徴とする。
【0011】
また、本発明の請求項3に係る建物解体工法は、上述した請求項1または2において、前記免震装置を、前記ジャッキの下部に設けたことを特徴とする。
【0012】
また、本発明の請求項4に係る建物解体工法は、上述した請求項1〜3のいずれか一つにおいて、前記免震装置を、積層ゴムで構成したことを特徴とする。
【0013】
また、本発明の請求項5に係る建物解体工法は、上述した請求項1〜4のいずれか一つにおいて、前記ジャッキが介装される下層部の前記建物躯体間にダンパーを設けて前記建物を解体することを特徴とする。
【0014】
また、本発明の請求項6に係る建物解体工法は、上述した請求項1〜5のいずれか一つにおいて、前記建物を居室部とコア部とに分離し、前記コア部と前記居室部間をダンパーで連接して前記建物を解体することを特徴とする。
【0015】
また、本発明の請求項7に係る建物解体工法は、上述した請求項6において、前記居室部の下層部にジャッキからなる支持機構を介装して前記居室部を支持し、前記ジャッキの伸張工程と収縮工程を繰り返しながら前記居室部をその下層部から解体する一方、前記居室部の解体に応じて、前記コア部を上層部より下方に順次解体することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、解体する建物の下層部にジャッキからなる支持機構を介装して前記建物を支持し、前記ジャッキの伸張工程と収縮工程を繰り返しながら前記建物をその下層部から解体する建物解体工法において、前記支持機構の一部として免震装置を介在させて前記建物を支持するので、免震装置によって解体中の建物に作用する地震等による水平力を軽減することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本発明の実施の形態1に係る建物解体工法により解体する建物の一例を示す立面図である。
【図2】図2は、支持機構の一例を示す側面図である。
【図3】図3は、支持機構の他の一例を示す側面図である。
【図4】図4は、ダンパーを設置した一例を示す図である。
【図5】図5は、本発明の実施の形態2に係る建物解体工法により解体する建物の一例を示す立面図である。
【図6】図6は、ジャッキの伸張工程と収縮工程による解体手順の一例を示す側面図である。
【図7】図7は、ジャッキの伸張工程と収縮工程による解体手順の一例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明に係る建物解体工法の実施例(実施の形態1および2)を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【0019】
[実施の形態1]
まず、本発明の実施の形態1について説明する。図1は、本発明の実施の形態1に係る建物解体工法により解体する建物の一例を示す立面図である。
【0020】
図1に示すように、本発明の実施の形態1に係る建物解体工法は、解体する建物2の下層部4にジャッキ6からなる支持機構8を介装して建物2を支持し、ジャッキ6の伸張工程と収縮工程を繰り返しながら建物2を下層部4から解体していく建物解体工法である。本発明では、支持機構8の一部として免震装置10を介在させており、解体中の建物2は、免震装置10を介してジャッキ6で支持される。下層部4の解体作業にはバックホウなどの解体装置30を用いる。
【0021】
免震装置10は、積層ゴムで構成してある。免震装置10の配置は、図2および図3に示すように、ジャッキ6の上部や下部に配置することができる。なお、ジャッキ6および免震装置10の建物躯体への接続固定、ならびに、ジャッキ6および免震装置10相互間の接合は、公知の任意の方法で行うことができる。
【0022】
ここで、ジャッキの伸張工程と収縮工程によって建物2を下層部4から解体していく概略手順について説明する。
【0023】
図6および図7に示すように、(a)のステップ1において、建物の下層部4の梁34(建物躯体)を、免震装置10を介してジャッキ6(支持機構8)で支持する。ジャッキ6は、建物の下層部4の全柱の周囲に配置するものである。各柱に対しては、柱32を囲むように柱32の前後左右の4箇所にジャッキ6を配置するようにする。
【0024】
次に、(b)のステップ2において、ジャッキ6を配置した階の柱32を切断撤去する。そして、下層部4の全柱の切断解体が完了した後で、全てのジャッキ6を同時に収縮させ、(c)のステップ3のように、建物を下降させる。
【0025】
次に、(d)のステップ4において、左右に配置した2本のジャッキ6の上方の梁34の一部を切除し、上下に貫通した開口36をつくる。そして、左右2本のジャッキ6を伸張して開口36を通し、上階の梁38の下面に免震装置10を押し当て、左右2本のジャッキ6で梁38を支持する。続いて、前後に配置した2本のジャッキ6についても同様の作業を行い、伸張して梁38を支持する。全てのジャッキ6を同時に収縮させ、下降した梁34を切断解体する。以後、ステップ2〜4のジャッキの収縮工程と伸張工程とを繰り返しながら建物をその下層部4から解体していく。
【0026】
なお、上記の図6による説明では、免震装置10をジャッキ6の上部に配置した場合について説明しているが、免震装置10をジャッキ6の下部に配置した状態で解体作業を行ってもよい。
【0027】
本実施の形態1によれば、免震装置10を介在して解体中の建物躯体を支持するので、解体中の建物躯体に加わる地震等による水平力を軽減することができる。したがって、解体工事中も建物を安定した状態に保持することができる。さらに、建物躯体に加わる水平力を弱めるので、旧法規にて建設された耐力が不足している建物であっても、解体工事中に安全に解体することができる。また、建物の近傍に水平力抵抗体を新設したり、補強した水平力抵抗コアを設けるなどの新たな工作物も必要としない。
【0028】
上記の実施の形態1において、図4に示すように、ジャッキ6が介装される下層部4の建物躯体間にダンパー16を設けた状態で建物2を下層部4から解体してもよい。この場合、免震装置10による水平方向の過大な移動を制限し、復元力を持たせるために、解体中の上側の建物躯体12と、作業床となっている例えば一階床部の下側の建物躯体14間をダンパー16にて接続するのが好ましい。ダンパー16は、建物2のジャッキ6による下降の際は躯体の下降に対して拘束されないフリーな状態とし、躯体の下降完了後速やかに作用を発揮する状態に復帰させるのが好ましい。
【0029】
[実施の形態2]
次に、本発明の実施の形態2について説明する。図5は、本発明の実施の形態2に係る建物解体工法により解体する建物の一例を示す立面図である。
【0030】
上記の実施の形態1では、建物の解体は、地上部を解体前の状態に維持しつつ建物の下層部のみを解体することにより行われるが、本実施の形態2は、図5に示すように、建物2をコア部18と居室部20とに水平方向に分離させて、居室部20の水平移動をダンパー22を介してコア部18で受けてその振動を減衰させながら建物2を解体する工法である。
【0031】
コア部18の建物内における配置は中央コア型、両サイドコア型などいずれの型式でも適用することができる。建物2の中央のコア部18とその周囲の居室部20間を先行して鉛直方向に解体することによりコア部18と居室部20とを水平方向に分離させ、中央のコア部18と周囲の居室部20間に適当な間隔でダンパー22を適宜複数設置する。このダンパー22は、移設可能な状態で、かつ、ダンパー作用が有効に機能する位置に設置する。
【0032】
周囲の居室部20については、その下層部にバックホウなどの解体装置30を配置し、上記の実施の形態1の工法で解体していく。コア部18については、上部にバックホウなどの解体装置30を配置し、居室部20の解体進捗状況に応じて、順次、コア部18の上層部より下方に向けて解体を行う。
【0033】
このようにすれば、居室部20の水平移動はダンパー22を介してコア部18で受け止められるので、居室部20に加わる振動を減衰させながら建物2を解体することができる。
【0034】
また、解体中の居室部20は、免震装置10(不図示)を介して支持されているので、これよりも上部の建物に加わる水平力を弱めることが可能である。このため、そもそも旧法規にて建設された耐力の不足している建物でも、解体工事中安全に解体できる。その上、これに加えて、ジャッキが介装される居室部20の下層部の建物躯体間にダンパー16(図4参照)を設置することにより、免震装置が介在する建物2の過大な動きが防止されるので、より安全に解体作業が行える。
【0035】
また、居室部20とコア部18との間をダンパー22を介して連接しているので、解体中の居室部20に加わる減衰された水平力を、さらにダンパー22を介してコア部18に負担させるので、解体工事中の建物2はより安全に保てる。
【0036】
次に、本発明により得られる効果について説明する。
本発明に係る建物解体工法は、地上に近い下層部で解体作業を行うので、解体作業に用いるバックホウなどの解体装置を上方に設置したり、順次下降させる必要はない。また、解体材は下層部から発生し、上層部から発生しないので、解体材を上層部から荷降ろしする必要もない。
【0037】
また、解体作業は、地上に近い建物の下層部で行うので、上層階から周囲への振動、騒音、飛石、粉塵の拡散、飛散の防止のための仮設養生を必要とせず、仮設養生設備は、地上近傍で行う通常の工事と変わらない仮設養生設備でよい。
【0038】
特に、本発明は、こうした建物の下層部からの解体工事の利点を有すると同時に、解体工事中の建物の安定性に関しても、免震装置を介在させた簡易な支持機構によりその上部の建物に加わる水平力を弱めることができるので、解体工事中も建物を安定した状態に保持することができる。
【0039】
さらに、建物に加わる水平力を弱めるので、旧法規にて建設された耐力が不足している建物でも、解体工事中安全に解体することができる。また、建物の近傍に水平力抵抗体を新設したり、補強した水平力抵抗コアを設けるなどの新たな工作物も必要としない。
【0040】
その上、ジャッキが介装される下層部の建物躯体間にダンパーを設置することにより、免震装置が介在する建物の過大な動きが防止されるので、より安全に解体作業を行える。
【0041】
また、建物のコア部と居室部との間をダンパーで連接した場合は、解体中の居室部に加わる減衰された水平力を、さらにこのダンパーを介してコア部に負担させるので、解体工事中の建物はより安全に保てる。
【0042】
以上説明したように、本発明によれば、解体する建物の下層部にジャッキからなる支持機構を介装して前記建物を支持し、前記ジャッキの伸張工程と収縮工程を繰り返しながら前記建物をその下層部から解体する建物解体工法において、前記支持機構の一部として免震装置を介在させて前記建物を支持するので、免震装置によって解体中の建物に作用する地震等による水平力を軽減することができる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
以上のように、本発明に係る建物解体工法は、建物の下層部に介装したジャッキの伸張工程と収縮工程を繰り返しながら建物の下層部から解体する建物解体工法に有用であり、特に、解体中の建物に作用する地震等による水平力を軽減するのに適している。
【符号の説明】
【0044】
2 建物
4 下層部
6 ジャッキ
8 支持機構
10 免震装置
12 上側の建物躯体
14 下側の建物躯体
16,22 ダンパー
18 コア部
20 居室部
30 解体装置
32 柱
34 梁
36 開口
38 上階の梁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
解体する建物の下層部にジャッキからなる支持機構を介装して前記建物を支持し、前記ジャッキの伸張工程と収縮工程を繰り返しながら前記建物をその下層部から解体する建物解体工法において、前記支持機構の一部として免震装置を介在させて前記建物を支持することを特徴とする建物解体工法。
【請求項2】
前記免震装置を、前記ジャッキの上部に設けたことを特徴とする請求項1に記載の建物解体工法。
【請求項3】
前記免震装置を、前記ジャッキの下部に設けたことを特徴とする請求項1または2に記載の建物解体工法。
【請求項4】
前記免震装置を、積層ゴムで構成したことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の建物解体工法。
【請求項5】
前記ジャッキが介装される下層部の前記建物躯体間にダンパーを設けて前記建物を解体することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の建物解体工法。
【請求項6】
前記建物を居室部とコア部とに分離し、前記コア部と前記居室部間をダンパーで連接して前記建物を解体することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載の建物解体工法。
【請求項7】
前記居室部の下層部にジャッキからなる支持機構を介装して前記居室部を支持し、前記ジャッキの伸張工程と収縮工程を繰り返しながら前記居室部をその下層部から解体する一方、前記居室部の解体に応じて、前記コア部を上層部より下方に順次解体することを特徴とする請求項6に記載の建物解体工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−226136(P2011−226136A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−96360(P2010−96360)
【出願日】平成22年4月19日(2010.4.19)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】