説明

建築外装材及び建築物

【課題】夏期には太陽熱を効果的に反射してヒートアイランド現象を防止又は緩和し、逆に冬期には太陽熱を可能な限り吸収・蓄熱して建築物の冷却を防止又は緩和し得る建築外装材及び建築物を提供する。
【解決手段】多数の横向き三角凸条3を上下方向に連続配設し、建築物の外壁に鋸歯状の凸凹面を形成して空側に向かう上向き斜面3xで太陽光を宇宙に向け反射し得るようにした建築外装材1において、横向き三角凸条3は、空側に向かう上向き斜面3xと、地表側に向かう下向き斜面3yとを有し、その上向き斜面3xと下向き斜面3yの間の角度θを約75°〜90°に設定すると共に、上向き斜面3x側を水平面4に対して約45°の勾配に設定した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の外壁を形成する建築外装材及びその建築外装材を使用した建築物に関する。
【背景技術】
【0002】
多数の横向き三角凸条を上下方向に連続配設し、建築物の外壁に鋸歯状の凸凹面を形成して空側に向かう上向き斜面で太陽熱を宇宙に向け反射し得るようにした建築外装材が、特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−192016号公報(図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の建築外装材は、横向き三角凸条の空側に向かう上向き斜面で太陽熱(以下、説明の便宜上「太陽光」ともいう。)を宇宙に向けて反射させ、そうして太陽熱で地表や建築物が暖められるヒートアイランド現象を効果的に防止又は緩和するものである。
【0005】
本発明は、斯かる建築外装材をさらに改良すべくなされたものであり、その目的は、夏期には太陽熱を効果的に反射してヒートアイランド現象を防止又は緩和し、逆に冬期には太陽熱を可能な限り吸収・蓄熱して建築物の冷却を防止又は緩和し得るようにした建築外装材及び建築物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載したように、多数の横向き三角凸条を上下方向に連続配設し、建築物の外壁に鋸歯状の凸凹面を形成して空側に向かう上向き斜面で太陽光を宇宙に向け反射し得るようにした建築外装材において、
前記横向き三角凸条は、空側に向かう上向き斜面と、地表側に向かう下向き斜面とを有し、その上向き斜面と下向き斜面の間の角度を約75°〜90°に設定すると共に、前記上向き斜面側を水平面に対して約45°の勾配に設定した建築外装材を提供する。
【0007】
また、請求項2に記載したように、前記下向き斜面の太陽熱の反射率を前記上向き斜面の太陽熱の反射率より小さくした請求項1記載の建築外装材を提供する。
【0008】
また、請求項3に記載したように、前記上向き斜面と前記下向き斜面を色違いにすることにより太陽熱の反射率を異ならせるようにした請求項2記載の建築外装材を提供する。
【0009】
また、請求項4に記載したように、陶磁製タイルである請求項1〜3の何れか1項に記載の建築外装材を提供する。
【0010】
また、請求項5に記載したように、断面が横向き三角凸形状である陶磁製タイルをコンクリートパネルに多数並べて接合したものである請求項1〜3の何れか1項に記載の建築外装材を提供する。
【0011】
また、請求項6に記載したように、外壁の一部又は全部を請求項1〜5の何れか1項に記載の建築外装材で形成してなる建築物を提供する。
【0012】
なお、本発明において上向き斜面と下向き斜面のなす角θ及び上向き斜面と水平面のなす角θ1等は、実施する上で材質や製法等により多少の誤差が生じ得るのであり、このような実施上の誤差を考慮して「約○○°」という形で規定した。
【発明の効果】
【0013】
本発明の建築外装材は、空側に向かう上向き斜面が水平面に対して約45°の勾配に設定されており、その上向き斜面と直交する法線は水平面に対して逆向きに約45°の傾きを持つ。この法線に対して太陽光の入射角が下回る場合は、図4(b)のように宇宙に向けて反射されると共に一部の反射光が下向き斜面に当たって2回目の反射をする(図4(b)「2回反射領域」参照)。
一方、太陽光の入射角が前記法線を上回る場合も、図4(a)のように宇宙に向けて反射される。この場合、年間を通して最も大きい入射角となる夏至の南中時でも約12°の角度(※北緯35°の地点)で宇宙に向け反射されるため、入射角が前記法線を上回る全ての場合において太陽光の反射光は宇宙に向かう。
以上のことから明らかなように、太陽光の入射角が上向き斜面の法線と一致する約45°を境にして、全ての太陽光が宇宙に向けて反射される場合と、太陽光の一部が下向き斜面に当たって2回反射される場合とに分かれる。
【0014】
しかして、我が国の北緯35°の地点における冬至の南中高度は31.6°であり、その前後2ヶ月弱の期間、南中高度は45°を越えない。言うまでもなくその期間は気温が低く、そうした気温の低い期間中、晴れた日の太陽光によって下向き斜面に一日中反射光が当たる。よって、気温が低い季節に、外壁で受けた太陽熱を効率よく蓄熱することができる。
一方、我が国の北緯35°の地点おける夏至の南中高度は78.4°であり、この時期には日差しが弱い朝方の段階で太陽光の入射角が45°を越えるため、本格的に照りつける午後の日差しは下向き斜面に当たることなく宇宙に向けて反射される。従って地表の温度が上がりにくい。また、入射角が45°を下回る朝方と夕方には、前記のように反射光の一部が下向き斜面に当たるが、その時間帯の太陽エネルギーは比較的弱く且つ時間も短いため、影響は軽微に抑えられる。
【0015】
よって、夏期には太陽熱を効率的に反射してヒートアイランド現象を防止又は緩和し、逆に冬期には太陽熱を吸収・蓄熱して建築物の冷却を防止又は緩和し、もって年間を通してトータルに地球環境の保護に貢献し得る。
【0016】
また、請求項2に記載したように、前記下向き斜面の太陽熱の反射率を前記上向き斜面の太陽熱の反射率より小さくすれば、夏期における上向き斜面での太陽熱の反射効率を高めつつ、冬期における下向き斜面での太陽熱の吸収効率をも高めることができる。
【0017】
また、色による太陽熱の吸収率は、白−黄−青−赤−紫−黒の順に増加するから、請求項3に記載したように、例えば上向き斜面に「白」、下向き斜面に「黒」というように、上向き斜面と下向き斜面を色違いにして太陽熱の反射率(吸収率)を異ならせるようにすれば、上記請求項2の効果に加えて、見る角度によって建築物の外壁が横縞に見えたり(図2参照)、上向き斜面や下向き斜面の何れかの色に偏って見える(図3(a),(b)参照)等、建築物に従来にない装飾性を付与することができる。
【0018】
また、請求項5のように、断面が横向き三角凸形状である陶磁製タイルをコンクリートパネルに多数面状に並べて接合するようにすれば、1枚の陶磁製タイルに複数の横向き三角凸条を形成する場合に考慮すべき厚さの制約がなく、その分大きな凸凹面にすることが可能である。よって、デザインの幅を広げることができる。また、コンクリートパネルに接合する前の個々の陶磁製タイルは1本の棒形態でバラバラの状態であり、上向き斜面と下向き斜面の色分け加工が容易であるため、上向き斜面と下向き斜面に反射率の差を設けやすい。
【0019】
また、請求項6に記載したように、外壁の一部又は全部を請求項1〜5の何れか1項に記載の建築外装材で形成した建築物は、夏期には太陽熱を効率的に反射してヒートアイランド現象を防止又は緩和し、逆に冬期には太陽熱を吸収・蓄熱して建築物の冷却を防止又は緩和することができ、もって年間を通してトータルに地球環境の保護に貢献し得る。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】一部拡大図を含む陶磁製タイルの側面図である。
【図2】陶磁製タイルの正面図である。
【図3】(a)は陶磁製タイルを上方から見下ろした斜視図、(b)は陶磁製タイルを下から見上げた斜視図である。
【図4】(a)は太陽光の入射角が70°である場合の反射態様を示す要部の断面図、(b)は太陽光の入射角が30°である場合の反射態様を示す要部の断面図である。
【図5】一部拡大図を含むコンクリートパネルの縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
実施形態の建築外装材1は、ビルや家屋などの建築物(図示せず)の外壁に貼着する陶磁製タイルであり、一般的なタイルと同様、裏面に複数本の剥離防止溝2,2…を有し、高さが45〜60mm程度(もちろんそれより大きくても小さくても良い。)である。
【0022】
この建築外装材1(以下、単に「タイル」ともいう。)の表面には、筋状の横向き三角凸条3,3…が上下方向に連続配設されている。個々の横向き三角凸条3は、図1拡大図に示したように、空側に向かう上向き斜面3xと、地表側に向かう下向き斜面3yの2面を有し、その上向き斜面3xと下向き斜面3yのなす角θを約75°〜90°に設定すると共に、前記上向き斜面3xと水平面4のなす角θ1を約45°に設定してある。従って、下向き斜面3yと水平面4のなす角θ2は、必然的に30°〜45°の傾斜になる。
なお、図示したタイル1は、前記角θ=75°の設定であるため、下向き斜面3yと水平面4のなす角θ2は(75°−45°)=30°である。また、図示したタイル1の先端は尖った状態になっているが、実際には必要な面取りが施されている。
【0023】
実施形態のタイル1は、表面に釉薬が塗布され、上向き斜面3xが白、下向き斜面3yが赤に着色されている。これにより下向き斜面3yの太陽熱の反射率は、上向き斜面3xの太陽熱の反射率より小さく、つまり下向き斜面3yの太陽熱の吸収率が、上向き斜面3xの太陽熱の吸収率より大きくなっている。なお、上向き斜面3xと下向き斜面3yの色の組合せは白と赤に限定されず、上向き斜面3xの反射率が下向き斜面3yの反射率より大きくなる関係を満たせばどのような組合せでもよい。
【0024】
以上のように構成された実施形態のタイル1を、通常行われる公知の工法で少なくとも強い日差しを受ける建築物の外壁に面状に並べて貼着する。そうすると、建築物の外壁に鋸歯状の凸凹面が形成される。実施形態の上向き斜面3xと下向き斜面3yは、白と赤に色分けされているから、外壁を正面から見ると図2のように横縞に見え、例えば図3(a)のように高いビルの屋上から見下ろすようなケースでは白っぽく見え、さらには図3(b)のように地上から建築物を見上げるようなケースでは赤っぽく見える。このように実施形態のタイル1を外壁に貼り付けた建築物は、見る角度によって全く異なる印象を与えることができる。
【0025】
次に、建築物の外壁が太陽光を受ける場合について図4(a),(b)により説明する。
まず、太陽光の入射角が、上向き斜面3xと直交する45°の法線を上回る70°である場合は、図4(a)のように上向き斜面3xに当たってから水平面4に対し20°の角度で反射する。従って太陽光の反射光は、宇宙に向かう。同様に北緯35°の地点において太陽光の入射角として最大となる夏至の南中時でも11.6°の角度で反射光が宇宙に向かう。
よって、45°の法線を上回る角度で照射される太陽熱は、タイル1に吸収される分を除いて宇宙に反射されるから、地表に到達する日射量が減少し、温度の上昇が抑制できる。
【0026】
次に、太陽光の入射角が、上向き斜面3xと直交する45°の法線を下回る30°である場合は、図4(b)のように上向き斜面3xに当たって宇宙に向けて反射されるが、図4(b)に斜線で示した2回反射領域に当たった反射光は、下向き斜面3yに当たって再度反射する。従って例えば下向き斜面3yの反射率が40%で上向き斜面3xの反射率が50%である場合、上向き斜面3xと下向き斜面3yで2回反射する太陽光は、入射した分の20%が反射される。
【0027】
しかして、我が国の北緯35°の地点における冬至の南中高度は31.6°であり、この地点ではその前後2ヶ月弱の寒い期間、南中高度が45°を越えない。従って、その期間中の晴れた日は、日中ずっと太陽光によって下向き斜面3yに反射光が当たる。よって太陽熱がタイル1に吸収・蓄熱され、建築物の冷却が抑制される。
【0028】
一方、北緯35°の地点における夏至の南中高度は78.4°であり、この時期には日差しが強くなる前に入射角が45°を越え、本格的に照りつける午後の日差しは上向き斜面3xで反射されて宇宙に向かう。もちろん太陽光の入射角が45°に満たない朝方と夕方には、前記のようにその一部が下向き斜面3yに当たって再度反射されるが、その時間帯の太陽エネルギーは弱く且つ時間も短いため、その影響は軽微に抑えられる。
【0029】
よって、実施形態のタイル1は、夏期には太陽熱を効率的に反射してヒートアイランド現象を防止又は緩和し、逆に冬期には太陽熱を吸収・蓄熱して建築物の冷却を防止又は緩和し、もって年間を通して太陽光を利用・制御することができる。
【0030】
以上、本発明を実施の形態について説明したが、もちろん本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、実施形態では下向き斜面3yと水平面4のなす角θ2を30°としたが、この角θ2は約30°〜45°の範囲で設定し得る。もし、角θ2がこの範囲を超えて例えば50°である場合、入射角が50°を超えるまで上向き斜面3xと下向き斜面3yの全面に太陽光が当たるため、昇温対策上マイナスになる。一方、もし角θ2が前記範囲を超えて例えば20°である場合は、横向き三角形の先端が細くなりすぎて強度上好ましくない。
【0031】
また、建築外装材1は、実施形態で説明したタイル1の他、図5に示したようなコンクリートパネル10で構成してもよい。このコンクリートパネル10は、コンクリート型枠で成形する際に、断面が横向き三角凸形である横長棒状の陶磁製タイル30を接合したものであり、具体的には陶磁製タイル30をコンクリート型枠に前もって設置し、そのコンクリート型枠にコンクリートを打設して硬化させ、最終的にコンクリート型枠から脱型する。斯かるコンクリートパネル10の製法は、タイル先付けプレキャストコンクリート工法として公知であり、よって詳細な説明は省略する。なお、図5中、符合5は目地である。
【0032】
また、実施形態では、下向き斜面3yの太陽熱の反射率を上向き斜面3xの太陽熱の反射率より小さくするため、両者を2色に色分けするようにしたが、表面の滑らかさを異ならせることによって反射率に差を設けるようにしてもよい。この場合、両者を同色にしても良いし、異色にしても良い。
【符号の説明】
【0033】
1 …タイル(建築外装材)
10…コンクリートパネル(建築外装材)
3 …横向き三角凸条
3x…上向き斜面
3y…下向き斜面
4 …水平面
30…陶磁製タイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の横向き三角凸条を上下方向に連続配設し、建築物の外壁に鋸歯状の凸凹面を形成して空側に向かう上向き斜面で太陽熱を宇宙に向け反射し得るようにした建築外装材において、
前記横向き三角凸条は、空側に向かう上向き斜面と、地表側に向かう下向き斜面とを有し、前記上向き斜面と下向き斜面の間の角度を約75°〜90°に設定すると共に、前記上向き斜面を水平面に対して約45°の勾配に設定したことを特徴とする建築外装材。
【請求項2】
前記下向き斜面の太陽熱の反射率を前記上向き斜面の太陽熱の反射率より小さくしたことを特徴とする請求項1記載の建築外装材。
【請求項3】
前記上向き斜面と前記下向き斜面を色違いにすることにより太陽熱の反射率を異ならせるようにしたことを特徴とする請求項2記載の建築外装材。
【請求項4】
陶磁製タイルであることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の建築外装材。
【請求項5】
断面が横向き三角凸形状である陶磁製タイルをコンクリートパネルに多数並べて接合したものであることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の建築外装材。
【請求項6】
外壁の一部又は全部を請求項1〜5の何れか1項に記載の建築外装材で形成したことを特徴とする建築物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−137342(P2011−137342A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−298634(P2009−298634)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【出願人】(506110449)岐阜県陶磁器工業協同組合連合会 (1)
【Fターム(参考)】