説明

建築板材の製造方法

【課題】釘側面抵抗力及び釘頭貫通力が高く、釘等を十分に保持でき、耐力壁を構成する壁下地として用いることができる建築板材が得られるようにする。
【解決手段】20〜60重量%の鉱物質繊維と、10〜20重量%の有機質繊維と、10〜70重量%の無機質粉状体と、熱硬化性樹脂を含んでなる10〜25重量%の有機結合剤とを必須成分とするスラリーから湿式抄造により湿潤マットを形成して、該湿潤マットからなる単層の湿潤板材、又は少なくとも表裏層が上記湿潤マットからなる複層の湿潤板材を得る。この湿潤板材を、熱硬化性樹脂が硬化しない温度範囲で、含水率20%以下まで乾燥させた後、熱圧プレスして有機結合剤を完全に硬化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築板材の製造方法に関し、特に、湿式抄造により製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、平滑性に優れかつ生産性が高い建築板材として、特許文献1に示されるように、鉱物質繊維、無機質粉状体及び結合剤を必須成分とするスラリーから湿式抄造して得られた湿潤無機質板を含水率20%以下まで乾燥させた後、熱圧して結合剤を完全に硬化させることで得られる建築板材が知られている。そして、その材料には、曲げ強度を得るための繊維質として、主に鉱物質繊維が含まれるとともに、極く微量の有機質繊維が添加されていた。
【特許文献1】特開2003−251617号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来の建築板材は、繊維質として主に含まれている鉱物質繊維が「脆い」性質を有する。そのため、この建築板材を木造家屋の構造木軸躯体に釘等で固定することで、耐力壁を構成する壁下地材として使用しようとした場合、釘側面抵抗力及び釘頭貫通力が低く、釘等を十分に保持することが困難である。その結果、耐力壁を構成する壁下地として用いることができないという問題があった。
【0004】
本発明は斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、建築板材の製造方法に改良を加えることにより、その建築板材の釘側面抵抗力及び釘頭貫通力を高くして、釘等を十分に保持でき、建築板材が耐力壁を構成する壁下地として用いることができるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために、この発明では、建築板材となる前のスラリーの組成に10〜20重量%の有機質繊維を含有させるようにした。
【0006】
具体的には、請求項1の発明では、20〜60重量%の鉱物質繊維と、10〜20重量%の有機質繊維と、10〜70重量%の無機質粉状体と、熱硬化性樹脂を含んでなる10〜25重量%の有機結合剤とを必須成分とするスラリーから湿式抄造により湿潤マットを形成して、該湿潤マットからなる単層の湿潤板材、又は少なくとも表裏層が上記湿潤マットからなる複層の湿潤板材を得る。そして、この湿潤板材を、上記熱硬化性樹脂が硬化しない温度範囲で含水率20%以下まで乾燥させた後、熱圧プレスして有機結合剤を完全に硬化させることを特徴とする。
【0007】
この発明の構成によると、スラリーから湿式抄造により湿潤マットが形成され、この湿潤マットから単層又は複層の湿潤板材が得られる。この湿潤板材が、熱硬化性樹脂の硬化しない温度範囲で含水率20%以下まで乾燥され、その後に熱圧プレスにより有機結合剤が完全に硬化されることで、建築板材が得られる。
【0008】
そのとき、上記スラリーに有機質繊維が10〜20重量%含まれているため、製造された建築板材は、耐力壁を構成する壁下地材として用いるのに十分な釘側面抵抗力及び釘顕貴通力を持ったものとなる。
【発明の効果】
【0009】
以上説明したように、請求項1の発明によると、有機質繊維が10〜20重量%含まれているため、耐力壁を構成する壁下地材として用いるのに十分な釘側面抵抗力及び釘顕貴通力を持った建築板材を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の最良の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0011】
図1は本発明の実施形態に係る建築板材の製造方法の工程を示す。この実施形態の製造方法は、スラリー生成工程1、湿潤マット形成工程2、湿潤板材形成工程3、乾燥工程4及び熱圧プレス工程5を備え、これら工程1〜5は記載順に行われる。
【0012】
(1)スラリー生成工程
最初のスラリー生成工程1では、鉱物質繊維と、有機質繊維と、無機質粉状体と、熱硬化性樹脂を含んでなる有機結合剤とを必須成分とするスラリーを生成する。これら鉱物質繊維、有機質繊維、無機質粉状体、有機結合剤を水中に投下して撹拌し、さらにサイズ剤、凝集剤等の補助添加剤を加えてスラリーを得る。
【0013】
(鉱物質繊維)
上記鉱物質繊維は、建築板材の曲げ強さを得るとともに、吸水や吸湿による膨張を抑制するために加えられる。
【0014】
この鉱物質繊維は、20〜60重量%(20重量%以上でかつ60重量%以下)加えられる。20重量%未満であると、曲げ強さが低下する一方、60重量%を超えると、抄造時の濾水が悪化し、良好な湿潤マットを得ることができない。
【0015】
鉱物質繊維としては、ロックウール、スラグウール、ミネラルウール、ガラス繊維等が挙げられ、これらは単独、又は複数組み合わせて使用できる。
【0016】
(有機質繊維)
有機質繊維は、鉱物質繊維と同様に曲げ強さを得るとともに、耐力壁を構成する壁下地材として用いるのに十分な釘側面抵抗力及び釘頭貫通力をもたせるために加えられる。
【0017】
有機質繊維は、10〜20重量%(10重量%以上でかつ20重量%以下)加えられる。10重量%未満であると、耐力壁を構成する壁下地材として用いるのに十分な釘側面抵抗力及び釘頭貫通力を得ることができず、20重量%を超えると、抄造時に凹凸が生じ、良好な湿潤マットを得ることができない。
【0018】
有機質繊維としては、ポリエステル、ポリプロピレン、ビニロン等の合成繊維、木質繊維、パルプ等が挙げられ、これらを単独、又は複数組み合わせて使用できる。
【0019】
(無機質粉状体)
無機質粉状体は、硬度を確保するために加えられる。無機質粉状体は、10〜70重量%(10重量%以上でかつ70重量%以下)加えられる。10重量%未満であると、所望の硬度が得られないからであり、70重量%を超えると、鉱物質繊維、有機質繊維の量が相対的に少なくなり、所望の曲げ強度を得ることができない。
【0020】
無機質粉状体としては、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、マイクロシリカ、スラグ等が挙げられ、これらを単独、又は複数組み合わせて使用できる。
【0021】
(有機結合剤)
有機結合剤は、鉱物質繊維、有機質繊維、無機質繊維を結合させるためのものであり、例えば、MDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)等のイソシアネート樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を必須とし、スターチ、ポリビニルアルコール等の熱可塑性樹脂等を組み合わせて使用する。スターチ等の水の存在下で加熱することにより糊化するものを併用することにより、熱硬化性樹脂が硬化するまで保型して取り扱い易くすることができる。
【0022】
有機結合剤は、鉱物質繊維、有機質繊維、無機質繊維が十分に結合させるため、10〜25重量%(10重量%以上でかつ25重量%以下)加えられる。
【0023】
(2)湿潤マット形成工程
次の湿潤マット形成工程2では、上記生成されたスラリーを長網式又は丸網式の抄造機で湿式抄造して湿潤マットを形成する。
【0024】
(3)湿潤板材形成工程
その後の湿潤板材形成工程3において、上記湿潤マットを2枚積層することで、2層構造の積層体からなる湿潤板材を得る。
【0025】
上記湿潤板材(積層体)に保型性やハンドリング強度を得るために、この湿潤板材(積層体)を加熱ロールや連続プレスにより所定の圧力及び所定の温度(80〜180℃)で仮圧縮してもよい。
【0026】
(4)乾燥工程
乾燥工程4では、上記積層体からなる湿潤板材を、例えば熱風ドライヤーにより上記熱硬化性樹脂が硬化しない温度範囲(例えば80〜250℃の温度)で、含水率が20%以下になるまで乾燥させる。このときの含水率が20%を越えると、後工程の熱圧プレスの時間が長くなり、生産性が低下する。ここでいう含水率とは、
含水率=(乾燥前の重量−全乾重量)/全乾重量×100
とする。
【0027】
(5)熱圧プレス工程
最後の熱圧プレス工程5で、上記乾燥工程4を経て所定の含水率まで乾燥された湿潤板材(積層体)を所定の圧力、温度、時間で熱圧プレスして上記有機結合剤を完全に硬化させ、建築板材が得られる。
【0028】
この熱圧プレス工程5で有機結合剤を完全に硬化させる前に、水性液状物又は油性液状物を湿潤板材の表裏面やその一方(片面)に塗布してもよい。結合剤のフローが促進され、表面平滑性及び表面硬度が向上するからである。水性液状物としては、例えば清水の他、酢酸ビニルエマルジョン、ポリビニルアルコール等の水溶性樹脂を使用できる。油性液状物としては、例えばイソシアネート系、エポキシ系等のアルコール希釈品を使用できる。そして、液状物の塗布量としては、片面当たり20〜100g/mが好ましい。20g/m未満であると、殆ど効果が見られず、100g/mを超えると、塗布作業に手間がかかりすぎる。
【0029】
こうして得られた建築板材は、有機質繊維が10〜20重量%含まれているため、耐力壁を構成する壁下地材として用いるのに十分な釘側面抵抗力及び釘顕貴通力を持ったものとなる。
【0030】
因みに、本発明には含まれないが、上記工程の他に、得られた湿潤板材(積層体)を冷圧プレスで圧締した後、開放してドライヤーで乾燥する方法も考えられる。しかし、この方法では、本発明のように有機質繊維を10〜20重量%も含んでいると、その有機質繊維の復元力が鉱物質繊維に比べて大きいため、できあがるものが大きく波打ったものとなってしまい、板材として用いることができず、実用にならない。
【0031】
(その他の実施形態)
尚、上記実施形態では、湿潤マットを2枚積層することで、2層構造の積層体からなる湿潤板材を得るようにしているが、これら2枚の湿潤マットを積層させた積層体に変えて、3枚以上積層させた積層体でもよく、少なくとも表裏層が湿潤マットからなる複層の湿潤板材を得るようにするばよい。また、逆に、単層の湿潤マットからなる単層の湿潤板材としてもよい。
【実施例】
【0032】
次に、具体的に実施した実施例について説明する。
【0033】
(実施例)
鉱物質繊維としてロックウール35重量%、有機質繊維としてポリエステル繊維10重量%及びパルプ5重量%、無機質粉状体として炭酸カルシウム32重量%、有機結合剤として、スターチ10重量%、フェノール5重量%、ポリビニルアルコール2重量%及びMDI1重量%を水中に投下して撹拌し、その他若干量のサイズ剤、凝集剤を加えた後、抄造して2枚の湿潤マットを作製した。これら2枚の湿潤マットを積層して2層構造の積層体を得た。このときの積層体の含水率は80%であった。この積層体を厚さ6mmのディスタンスバーを介して90℃の熱圧プレスで90秒間、仮圧締した。次いで、150℃のドライヤーで10分間乾燥し、含水率10%の積層体を得た。最後に、上記積層体の表裏面のそれぞれに片面50g/mの水を均一に塗布した後、6mmのディスタンスバーを介して200℃の熱圧プレスにて3分間プレスし建築板材を得た。
【0034】
(比較例)
鉱物質繊維としてロックウール35重量%、有機質繊維としてポリエステル繊維3.5重量%及びパルプ5重量%、無機質粉状体として炭酸カルシウム38.5重量%、有機結合剤として、スターチ10重量%、フェノール5重量%、ポリビニルアルコール2重量%及びMDI1重量%を水中に投下して撹拌し、その他若干量のサイズ剤、凝集剤を加えた後、抄造して2枚の湿潤マットを作製した。これら2枚の湿潤マットを積層して2層構造の積層体(含水率は80%)を得、以後は上記実施例と同様の処理を行った。
【0035】
(建築板材の測定結果)
上記実施例及び比較例で得られた建築板材について、釘側面抵抗力及び釘頭貫通力を測定した。釘側面抵抗力は、JIS A 5404に規定されている「木質系セメント板」釘側面抵抗試験に従った。但し、釘はN50、変位速度は3mm/minとした。一方、釘頭貫通力は、ASTM D1037に規定されているNAIL WITHDRAWAL TESTに従った。但し、釘はN50、変位速度は2mm/minとした。その測定結果を図2に示す。この図2により、実施例の釘側面抵抗力及び釘頭貫通力はいずれも比較例に比べて顕著に高くなっていることが判る。
【0036】
また、上記実施例で得られた建築板材を用い、(財)日本建築総合試験所・建築評定センター制定の「木造の耐力壁及びその倍率性能試験・評価業務方法書」無載荷式に従い、壁倍率の測定を行った。尚、釘はN50、釘の打ち付け間隔は四周100mm、中央200mm、縁あきは12mmとした。
【0037】
その結果、壁倍率は3.4であり、本発明の建築板材は耐力壁を構成する壁下地として優れた性能を持つものであることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、釘側面抵抗力及び釘頭貫通力が高く、耐力壁を構成する壁下地として用いることができる建築板材が得られるので、極めて有用であり、産業上の利用可能性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】図1は、本発明の実施形態に係る建築板材の製造方法の工程図である。
【図2】図2は、実施例及び比較例で得られた建築板材について釘側面抵抗力及び釘頭貫通力を測定した結果を示す図である。
【符号の説明】
【0040】
1 スラリー生成工程
2 湿潤マット形成工程
3 湿潤板材形成工程
4 乾燥工程
5 熱圧プレス工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
20〜60重量%の鉱物質繊維と、10〜20重量%の有機質繊維と、10〜70重量%の無機質粉状体と、熱硬化性樹脂を含んでなる10〜25重量%の有機結合剤とを必須成分とするスラリーから湿式抄造により湿潤マットを形成して、該湿潤マットからなる単層の湿潤板材、又は少なくとも表裏層が上記湿潤マットからなる複層の湿潤板材を得、
上記湿潤板材を、上記熱硬化性樹脂が硬化しない温度範囲で含水率20%以下まで乾燥させた後、熱圧プレスして有機結合剤を完全に硬化させることを特徴とする建築板材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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