説明

建築物の沈下修正方法

【課題】
従来から一般的に使用されている油圧ジャッキや油圧供給用のラインを用い、しかも多数の熟練作業員を必要とせず、正確、確実かつ安全に建築物の沈下修正を行うことができるようにする。
【解決手段】
建築物の所要の位置に配設した複数の油圧ジャッキを複数のグループ6、6に分け、油圧供給手段1に一端が接続された油圧主ライン2を油圧分流器3に接続し、同油圧分流器に一端が接続され、前記各グループ6、6に対応する複数の油圧副ライン4、4を設け、各油圧副ラインの途中から分岐し、開閉バルブ7aを備える分流路を各油圧ジャッキに接続し、全ての開閉バルブを予め開としておき、前記油圧供給手段から全ての油圧ジャッキに油圧を掛け、予め設定された伸長量に達した油圧ジャッキに対応する開閉バルブから順次閉止し、全ての油圧ジャッキが設定伸長量となるようにして建築物を水平に修正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は地盤沈下や地下水位の変動等の環境変化に伴って不等沈下が生じ、傾いた建築物を水平な状態に修正する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物の不等沈下に対する修正方法には、建築物下方の地盤改良や支持杭の打設を行ってから地盤や杭と建築物の基礎との間にジャッキを配設し、基礎をジャッキアップして建築物を水平に修正する方法がある。
【0003】
基礎をジャッキアップする際には、多数のジャッキを操作しなければならず、ジャッキアップ量を誤ると建築物の主要な構造に甚大なあるいは補修困難な損傷を与えるおそれがあり、沈下修正作業には熟練技術を有する多数の作業員が必要となる。
【0004】
そこで、従来から熟練作業員がいなくても正確なジャッキアップを行うことができるように各ジャッキにストロークセンサを設け、これらセンサからの信号に基づいてコンピュータを用いて個々のジャッキの操作を自動的に行うことができるようにする技術が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0005】
しかしながら、多数(ジャッキと同じ数)のセンサおよび各ジャッキに対応するバルブ自動制御手段を必要として、コストが掛かること、コンピュータに予め入力される所要ストローク量の入力データの誤りなどミスが生じた際に即時の対応が困難であること、油圧供給手段から各油圧ジャッキに対し、それぞれ個別に油圧供給用のラインを接続しなければならず、準備作業に手間が掛かるとともに、ラインの総延長長さも大となり、油圧トルクのロスが生じるおそれがあることなど、実用上では数々の問題点が指摘されている。
【特許文献1】特開平6−33475号公報(第1〜3頁、図1〜3)
【特許文献2】特開平6−136967号公報(第1〜5頁、図1〜3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来から一般的に使用されている油圧ジャッキや油圧供給用のラインを用い、しかも多数の熟練作業員を必要とせず、正確、確実かつ安全に建築物の沈下修正を行うことができる修正方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る修正方法は、建築物の下方における所要の位置に複数の油圧ジャッキを配設し、これら複数の油圧ジャッキを複数のグループに分け、油圧供給手段に一端が接続された油圧主ラインを油圧分流器に接続し、同油圧分流器に一端が接続され、前記油圧ジャッキのグループに対応する複数の油圧副ラインを設け、各油圧副ラインの途中から分岐し、開閉バルブを備える分流路を各油圧ジャッキの油圧入口に接続し、各油圧ジャッキに対応する前記開閉バルブを予め開としておき、前記油圧供給手段から全ての油圧ジャッキに油圧を掛け、予め設定された伸長量に達した油圧ジャッキに対応する開閉バルブから順次閉止し、全ての油圧ジャッキが設定伸長量となるようにして建築物を水平に修正する構成としてある。
【0008】
また、前記油圧ジャッキのグループを1つの作業管理単位とし、少なくとも1つの作業管理単位を一人の作業員によって管理できるように構成してあり、しかも前記分流器にて各油圧副ラインへの供給油圧の調節を行うように構成してある。
【0009】
さらに、前記油圧ジャッキにて沈下修正を行った後、各油圧ジャッキをジャーナルジャッキに置換し、同ジャーナルジャッキにて建築物の水平度の微調整を行う構成としてある。
【0010】
また、前記ジャーナルジャッキにて微調整を行った後、各ジャーナルジャッキを、互いに平行をなすベース板と支持プレート間に伸縮可能な軸部を備える束に置換し、沈下修正作業の完了後においても上記束の軸部を伸縮させて微調整可能ならしめるように構成としてあり、上記束の軸部を、互いに巻方向が逆をなす雌ねじを有する上下の雌ねじ筒間に、上部と下部に互いに巻方向が逆をなす雄ねじ部を有する雄ねじ体を備え、この雄ねじ体の上下の雄ねじ部を上下の雌ねじ筒の雌ねじに螺合させたもので構成し、雄ねじ体を正逆回動することにより上下の雌ねじ筒を接近または離間させて軸部を伸縮する構成としてある。
【発明の効果】
【0011】
本発明方法によれば、特殊な機器を導入することなく、従来から一般的に使用されている油圧ジャッキや各種油圧供給用の機器を用いて沈下修正を容易かつ確実に行うことができる。
【0012】
また、油圧ジャッキの操作は少なくとも1つの油圧副ラインに沿うグループごとに行うことができ、したがって熟練技術を有する作業員を油圧ジャッキごとに配するような必要はなく、誤った操作によって建築物の構造に損傷を与えるおそれもまずなく、安全かつ確実に施工を行うことができる。
【0013】
さらに、油圧ジャッキへの油圧ラインの配設は、グループごとに一列に行われるので、準備作業が簡単に済むとともに、準備における設定ミスが生じにくく、しかも油圧供給手段から各ジャッキに至る油圧ラインの総延長長さを、従来のようにそれぞれのジャッキへ並列に接続する場合に比して格段に小なるものとすることができ、したがって油圧ラインにおける圧力のロスが小であり、しかも油圧ホース等のライン用材の使用量も格段に抑えることができるという利点もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係る沈下修正方法を添付図面に示す具体例に基づいて詳細に説明する。
まず、沈下修正の具体的施工手順について説明する。
予め建築物沈下量の測量を行い(S1)、建築物まわりにレーザーや糸によって基準水平ラインを設定し(S2)、同水平ラインに調整すべき建築物の部位に所要の目印を付しておく(S3)。
【0015】
そして、予め決めておいた油圧ジャッキの配設位置(例えば、建築物の柱の直下等、建築物の主要構造材部分の直下)の基礎まわりとその下方を掘削し、所要の地盤改良や支持杭の打設を行い、地盤や杭と、基礎との間に油圧ジャッキを配設する(S4)。
【0016】
次いで、上記油圧ジャッキにより建築物をジャッキアップし、前記建築物の目印が前記基準水平ラインに達するように調節し、建築物を水平に修正する(S5)が、この油圧ジャッキによる修正の詳細については後述する。
【0017】
油圧ジャッキによる修正が完了した後、各油圧ジャッキをジャーナルジャッキに置換し(S6)、全てのジャッキを置換してから各ジャーナルジャッキを微調整して建築物をさらに高度に水平調整する(S7)。
【0018】
その後、必要に応じて養生期間を取り(S8)、ジャーナルジャッキによる微調整を繰り返して建築物の水平状態を安定させ、しかる後にジャーナルジャッキを鋼管やブロック等の支持材に置換し、基礎まわりの作業用の穴を埋め戻して(S9)修正作業を完了する。
なお、ジャーナルジャッキについては従来から公知の構造のものが広く実用に供されており、耐荷重性能やストローク範囲等の仕様が所要条件を満たすものであればよく、具体的構成については説明を省略する。
【0019】
しかして本発明方法における前記油圧ジャッキによる沈下修正には、以下のような油圧ジャッキシステムを用いる。
油圧ポンプおよび圧力制御装置を備える油圧供給手段1に一端が接続された油圧主ライン2が油圧分流器3に接続されていて、同油圧分流器3には、複数の油圧副ライン4、4の各一端が接続されている。
【0020】
ところで、建築物の所要箇所に配設された油圧ジャッキ5、5は、建築物の基礎8や土台の長手方向に沿ってほぼひとつの列をなす複数のものを1つのグループとして複数(図2では4つ)のグループ6、6に分けてあり、各グループを作業時における作業管理単位とし、各グループに対し、前記油圧副ライン4、4をそれぞれ配する。
【0021】
上記油圧副ライン4、4は、途中にT字状継手7、7を備えており、具体的には同継手の主流路を油圧副ラインの途中に介設し、主流路から分岐する分流路を油圧ジャッキ5の油圧入口に接続してあり、上記分流路には、開閉バルブ7aを備えている。
なお、上記継手7は副ライン用の油圧ホースを接続していない状態では接続口が自動的に閉止されるタイプのものが好ましく、このタイプのものの場合には副ラインの先端における非接続端にキャップ等の閉止用具を取り付ける手間を省くことができる。
【0022】
本発明方法においては、上述のように構成した油圧ジャッキのシステムを用いて建築物を水平に修正するのであり、油圧ジャッキによる修正作業(S5)の具体的手順について説明する。
【0023】
各ジャッキのグループ6、6に対して作業員をそれぞれ配し、ジャッキの伸長量を目視にて確認できる状態にしておき、また各油圧ジャッキに対応する前記開閉バルブ7a、7aを予め開としておく。
【0024】
次に、前記油圧供給手段1から全ての油圧ジャッキ5、5に油圧を掛け、全ての油圧ジャッキを伸長させる。
【0025】
かくすると、少なくともひとつのグループ6内における油圧ジャッキは、所要修正量の小である建築物の部分に位置するジャッキから先に予め設定された伸長量に達する、すなわち予め建築物に付しておいた目印が水平基準ラインに達するので、作業員は目視により所用伸長量に達した油圧ジャッキに対応する開閉バルブ7aを順次閉止し、全ての油圧ジャッキが設定伸長量となるようにする。
【0026】
なお、油圧ジャッキのグループによっては、所要伸長量の平均が大であったり、小であったりとばらつきが生じることがある。
また、グループ内における各ジャッキの所要伸長量に大なる差がある場合や差が殆どない場合もある。
【0027】
これらのような場合には、油圧ジャッキの伸長に要する時間を調節すればよく、前記油圧分流器3において各油圧副ライン4、4に送出する油圧を適宜設定できるものを使用する。
【0028】
かくすると、所要伸長量の平均が大であったり、所要伸長量の差が大であったりするグループの副ラインには多くの油圧が送って調整終了までの時間を短縮させ、所要伸長量の平均が小であったり、所要伸長量の差が小であったりするグループの副ラインには少ない油圧を送って調整終了までの時間を長くさせ、同一ラインにおける油圧ジャッキの操作間隔が極端に短かったり、あるいは長かったりしないようになし、修正作業の正確さが損なわれないようにするのが好ましい。
【0029】
また、上述のように各油圧副ラインへの油圧供給量を調節することにより、建築物への負荷も可及的小なるものに抑えることができ、安全な作業を行うことができる。
【0030】
上述した実施例においては、ジャーナルジャッキでの微調整を終えた後、ジャーナルジャッキを鋼管やブロック等の支持材に置換する構成としてあるが、この支持材として、図4に示されるような束9を使用するのが好適である。
【0031】
上記束9は、ベース板10と支持プレート11との間に伸縮可能な軸部12を備える構造のものとしてあり、軸部は、互いに巻方向が逆をなす雌ねじを有するナット13a、14aをそれぞれ下端と上端に設けた上下の雌ねじ筒13、14間に、上部と下部に互いに巻方向が逆をなす雄ねじ部15a、15bを有する雄ねじ体15を備え、上下の雌ねじ筒と雄ねじ体を螺合せしめた構成としてある。
【0032】
しかして上述した束9を前記ジャーナルジャッキに代えて、ジャーナルジャッキによる微調整後の地盤や杭と基礎との間、あるいは基礎と建築物の土台との間に設置する。この際、前記雄ねじ体15をその長手方向中央の操作部16で正逆回動することにより、上下の雌ねじ筒を接近または離間させて軸部12を伸縮し、束全体の長さを調節する。
【0033】
なお、ベース板10と下方の雌ねじ筒14間は、同雌ねじ筒14の下端に固定したナット17に、ベース板の下方から同ベース板を貫通せしめたボルト18を締結して固定してあり、また、支持プレート11は上方の雌ねじ筒13の上端に溶接固定してある。
【0034】
上述した構成の束9を使用することにより、一旦沈下修正作業が完了した建築物に対しても、束9の軸部を伸縮させることによって容易、かつ正確に微調整を行うことができる。
このように微調整を継続して行うことができるように構成すると、経時的に変動する地盤の状態によって再び生じる可能性のある建築物の傾きに対し、速やかに水平調整ができ、その後大規模な沈下修正を行う必要がまずなくなるという安全面、経済面での多大なメリットがある。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】沈下修正作業の手順を示すフローチャート。
【図2】本発明方法にて使用する油圧ジャッキシステムの構成図。
【図3】本発明方法における油圧ジャッキの配設状態を示す平面図。
【図4】本発明方法において使用する束の一例を示す一部破断正面図。
【符号の説明】
【0036】
1 油圧供給手段
2 油圧主ライン
3 油圧分流器
4 油圧副ライン
5 油圧ジャッキ
6 油圧ジャッキのグループ
7 継手
8 建築物の基礎
9 束
10 ベース板
11 支持プレート
12 軸部
13、14 雌ねじ筒
15 雄ねじ体
16 操作部
17 ナット
18 ボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物の下方における所要の位置に複数の油圧ジャッキを配設し、これら複数の油圧ジャッキを複数のグループに分け、油圧供給手段に一端が接続された油圧主ラインを油圧分流器に接続し、同油圧分流器に一端が接続され、前記油圧ジャッキのグループに対応する複数の油圧副ラインを設け、各油圧副ラインの途中から分岐し、開閉バルブを備える分流路を各油圧ジャッキの油圧入口に接続し、
各油圧ジャッキに対応する前記開閉バルブを予め開としておき、前記油圧供給手段から全ての油圧ジャッキに油圧を掛け、予め設定された伸長量に達した油圧ジャッキに対応する開閉バルブから順次閉止し、全ての油圧ジャッキが設定伸長量となるようにして建築物を水平に修正する建築物の沈下修正方法。
【請求項2】
前記油圧ジャッキのグループを1つの作業管理単位とし、少なくとも1つの作業管理単位を一人の作業員によって管理できるように構成してなる請求項1に記載の建築物の沈下修正方法。
【請求項3】
前記分流器にて各油圧副ラインへの供給油圧の調節を行うように構成してなる請求項1に記載の建築物の沈下修正方法。
【請求項4】
前記油圧ジャッキにて沈下修正を行った後、各油圧ジャッキをジャーナルジャッキに置換し、同ジャーナルジャッキにて建築物の水平度の微調整を行う請求項1に記載の建築物の沈下修正方法。
【請求項5】
前記ジャーナルジャッキにて微調整を行った後、各ジャーナルジャッキを、互いに平行をなすベース板と支持プレート間に伸縮可能な軸部を備える束に置換し、沈下修正作業の完了後においても上記束の軸部を伸縮させて微調整可能ならしめるように構成とする請求項4に記載の建築物の沈下修正方法。
【請求項6】
前記束の軸部は、互いに巻方向が逆をなす雌ねじを有する上下の雌ねじ筒間に、上部と下部に互いに巻方向が逆をなす雄ねじ部を有する雄ねじ体を備え、この雄ねじ体の上下の雄ねじ部を上下の雌ねじ筒の雌ねじに螺合させたもので構成し、雄ねじ体を正逆回動することにより上下の雌ねじ筒を接近または離間させて軸部を伸縮する構成としてなる請求項5に記載の建築物の沈下修正方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−70983(P2007−70983A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−262193(P2005−262193)
【出願日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【特許番号】特許第3860199号(P3860199)
【特許公報発行日】平成18年12月20日(2006.12.20)
【出願人】(501357049)多摩エンジニアリング株式会社 (7)
【Fターム(参考)】