建築物の耐震壁構造
【課題】簡単な構造で鋼板同士の接合と鋼板の補強とを行うことができるので、施工性の向上が図れ、しかも施工時における騒音、振動、粉塵の発生を防止することが可能となる。
【解決手段】構面Rの面方向に配列されるとともに外周に第1凹凸係合部4aを有する複数のユニット鋼板4と、一端が既存躯体(柱2、梁3)に接着固定され、ユニット鋼板4側の他端に第1凹凸係合部4aに噛合する第2凹凸係合部6aを有して既存躯体及びユニット鋼板4を接合する外周接合部材6と、ユニット鋼板4、4同士、及びユニット鋼板4と外周接合材6同士をそれぞれの噛合部で接合するようにして、噛合部におけるユニット鋼板4の両側面に固定された面外補強材5と、噛合部の隙間に充填される充填材7とを備えル構成とした。
【解決手段】構面Rの面方向に配列されるとともに外周に第1凹凸係合部4aを有する複数のユニット鋼板4と、一端が既存躯体(柱2、梁3)に接着固定され、ユニット鋼板4側の他端に第1凹凸係合部4aに噛合する第2凹凸係合部6aを有して既存躯体及びユニット鋼板4を接合する外周接合部材6と、ユニット鋼板4、4同士、及びユニット鋼板4と外周接合材6同士をそれぞれの噛合部で接合するようにして、噛合部におけるユニット鋼板4の両側面に固定された面外補強材5と、噛合部の隙間に充填される充填材7とを備えル構成とした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板を用いた補強部材により構成される建築物の耐震壁構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、既存の鉄筋コンクリート構造物を耐震補強として、柱梁架構内に鉄筋コンクリート造耐震壁を構築する工法が多用されている。このような工法では、既存柱梁架構に後施工アンカーを打ち、配筋をした後にコンクリートを打設するといった作業を行うため、工期が長く、また騒音や粉塵の発生が多くなっている現状がある。
これに対して、アンカー打ちやコンクリート打設による施工を低減させる工法として、柱梁に囲われた構面に複数枚の鋼板を配列して組み込み、柱梁に連結させることで鋼板耐震壁を構築する工法がある(例えば、特許文献1、2参照)。このような鋼板耐震壁では、予め工場等で鋼板を製作しておくことができるため、施工が簡略化されて、施工期間を短縮できるという利点もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−23568号公報
【特許文献2】特開平11−293950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の鋼板を使用した耐震壁構造では、以下のような問題があった。
すなわち、鋼板同士の接合には、多数のボルトを用いて連結したり、溶接手段により連結しているうえ、鋼板を補強するために多数のリブ等をボルト或いは溶接により設けているので、鋼板の組立てに手間がかかっていた。
また、鋼板耐震壁を構築する場合には、コンクリート造の耐震壁のようにコンクリート打設はなくなるが、鉄筋コンクリート造や鉄骨コンクリート造の既存躯体と鋼板との接合にはアンカーで固定する必要があり、その際、騒音、振動、粉塵が発生するといった問題があった。
【0005】
さらに、後施工アンカーを用いないで枠付き鉄骨ブレースや枠付き鉄骨フレームを設置する工法も実用化されており、騒音や粉塵は低減されるが、鋼材の部材費用が増大するうえ、組立ての手間がかかることから、施工性に問題があった。
このようなことから鋼板同士の接合と鋼板の補強を容易に行える簡単な構造であって、しかも施工時に騒音、振動、粉塵の発生を防止することをバランスよく達成できる鋼板を用いた耐震壁構造が求められており、その点で改良の余地があった。
【0006】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、簡単な構造で鋼板同士の接合と鋼板の補強とを行うことができるので、施工性の向上が図れ、しかも施工時における騒音、振動、粉塵の発生を防止することが可能となる建築物の耐震壁構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係る建築物の耐震壁構造では、構造物の柱梁からなる既存躯体によって囲まれた構面に鋼板耐震壁を備える建築物の耐震壁構造であって、構面の面方向に配列されるとともに外周に第1凹凸係合部を有する複数のユニット鋼板と、一端が既存躯体に接着固定され、ユニット鋼板側の他端に第1凹凸係合部に噛合する第2凹凸係合部を有して既存躯体及びユニット鋼板を接合する外周接合部材と、ユニット鋼板同士、及びユニット鋼板と外周接合材同士をそれぞれの噛合部で接合するようにして、噛合部におけるユニット鋼板の少なくとも一方面に固定された面外補強材と、噛合部の隙間に充填される充填材とを備えていることを特徴としている。
【0008】
本発明では、構面に配列される複数のユニット鋼板同士、及びユニット鋼板と外周接合材同士が面外補強材によって一体的に接合されて鋼板耐震壁が構築され、且つユニット鋼板を面外補強材によって補強することができる。つまり、ユニット鋼板同士、及びユニット鋼板と外周接合部材同士がそれぞれ第1凹凸係合部と第2凹凸係合部によって噛合しているので、ユニット鋼板の面内方向に作用する荷重を伝達することができる。
また、ユニット鋼板の噛合部の隙間には充填材が充填されているので、噛合部に離間が設けられていても面内方向に作用する荷重を確実に伝達することが可能である。
さらに、ユニット鋼板の側面に面外補強材が固定されているので、ユニット鋼板の噛み合わせ面外にずれて外れるのを防止することができるうえ、ユニット鋼板の面外座屈を抑えることができる。
このように、本耐震壁構造では、ユニット鋼板の噛合部に面外補強材を設けるといった簡単な構造により、ユニット鋼板の接合と補強とを同時に行うことができる。
さらにまた、外周接合部材を構面を形成する既存躯体に対して例えば接合材による充填手段や接着剤等による固着手段により接着固定で接合できる構造であるため、従来のようなアンカー施工による騒音、振動、粉塵の発生を無くすことができる。
【0009】
また、本発明に係る建築物の耐震壁構造では、構面に配置される上段のユニット鋼板の上端と、構面上部に配置される外周接合部材との間に施工調整用の隙間を設け、隙間には接合材が充填されていることが好ましい。
【0010】
本発明では、構面に施工調整用の隙間を設けることで、既存躯体、ユニット鋼板、および外周接合部材の寸法誤差や施工誤差を吸収することができる。つまり、ユニット鋼板を配列して1枚の一体化された板状壁体を構築する場合において、ユニット鋼板同士の噛合により生じた施工誤差を施工調整用の隙間で吸収することができ、部材の寸法調整等の手間のかかる作業を行う必要がなくなるので、施工効率を向上させることができる。また、ユニット鋼板の噛合部のガタを無くすことが可能となるので、高い剛性をもった壁体を構築することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の建築物の耐震壁構造によれば、面外補強材を設けるといった簡単な構造で、ユニット鋼板同士の接合とユニット鋼板の補強とを行うことができるので、施工性の向上を図ることができる。
また、外周接合部材を構面を形成する既存躯体に対して例えば接合材の充填手段や接着剤等の固着手段により接着固定で接合できる構造であるため、従来のようなアンカー施工による騒音、振動、粉塵の発生を無くすことができ、施工時における環境面の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1の実施の形態による鋼板耐震壁を示す立面図である。
【図2】図1に示す鋼板耐震壁の水平断面図である。
【図3】図1に示す鋼板耐震壁の縦断面図である。
【図4】図1に示す鋼板耐震壁の立面図であって、面外補強材を省略した図である。
【図5】図4に示す鋼板耐震壁の部分拡大図である。
【図6】ユニット鋼板の構成を示す側面図である。
【図7】面外補強材の構成を示す側面図である。
【図8】外周接合部材の構成を示す側面図である。
【図9】外周接合部材の接合状態を示す図であって、(a)は側面図、(b)は(a)に示すA−A線断面図である。
【図10】第2の実施の形態による鋼板耐震壁の部分拡大図であって、図5に対応する図である。
【図11】図10に示すユニット鋼板の構成を示す側面図である。
【図12】第3の実施の形態による鋼板耐震壁の部分拡大図であって、図5に対応する図である。
【図13】図12に示すユニット鋼板の構成を示す側面図である。
【図14】第4の実施の形態による鋼板耐震壁を示す立面図であって、図4に対応する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本第1の発明の実施の形態による建築物の耐震壁構造について、図面に基づいて説明する。
図1乃至図3に示すように、本第1の実施の形態による建築物の耐震壁構造は、既存の鉄筋コンクリート造、或いは鉄骨鉄筋コンクリート造の建物の柱梁架構内に、複数のユニット鋼板4、4、…を並べて配置することにより構築される鋼板耐震壁1を備えている。
すなわち、鋼板耐震壁1は、構造物の柱2、2と梁3、3で囲まれた矩形状の空間(構面R)を塞ぐようにして縦横(上下方向および横方向)に複数のユニット鋼板4、4、…が配列され、ユニット鋼板4を両側面から面外補強材5で接合した構成となっている。
【0014】
具体的に鋼板耐震壁1は、構面Rの面方向に配列されるとともに外周に第1凹凸係合部4aを有する複数のユニット鋼板4と、一端が既存躯体(柱2、梁3)に接着固定され、ユニット鋼板4側の他端に第1凹凸係合部4aに噛合する第2凹凸係合部6aを有して既存躯体及びユニット鋼板4を接合する外周接合部材6と、ユニット鋼板4、4同士、及びユニット鋼板4と外周接合材6同士をそれぞれの噛合部で接合するようにして、噛合部におけるユニット鋼板4の両側面に固定された面外補強材5と、噛合部の隙間に充填される充填材7(図5参照)とを備えて概略構成されている。
【0015】
図4乃至図6に示すように、ユニット鋼板4は、平板状のパネルで側面視で縦長の略矩形状をなし、例えば繊維強化プラスチック(FRP)などの高剛性を有する部材からなり、外周の四辺には山形状(尖形状)の第1凹凸係合部4aが形成されている。そして、構面Rには、その大きさに合わせて適宜な枚数のユニット鋼板4、4、…(本実施の形態では縦方向に2段、横方向に8列を配置している)がそれぞれ面一となるようにして配置されている。また、ユニット鋼板4には、長辺部に沿って面外補強材5を取り付けるためのボルト孔4bが設けられている。
【0016】
図7に示すように、面外補強材5は、断面視でT字型(図2参照)をなし、構面Rの縦方向の長さに相当する長さ寸法で形成されている。その接合面5aには、構面Rに配置されたユニット鋼板4のボルト孔4b(および外周接合部材のボルト孔)に対応する位置にボルト孔5bが設けられている。つまり、面外補強材5は、ユニット鋼板4、4同士、及びユニット鋼板4と外周接合材6同士をそれぞれの噛合部で、ユニット鋼板4の両側面から挟持してボルト・ナット接合するものである。
【0017】
図4および図8に示す外周接合部材6は、既存躯体(柱2および梁3)に沿って接合されるものであり、柱2、梁3のそれぞれに対応して設けられている。各外周接合部材6は、柱梁方向に延びる平板状の基板61と、基板61の一面に構面Rの面方向に一体的に立設される接合鋼板62とからなる。接合鋼板62は、外周接合部材6が既存躯体に接合された状態で、構面R側の端部がユニット鋼板4の第1凹凸係合部4aに対応して噛合する第2凹凸係合部6aが形成されている。
なお、外周接合部材6は、構面Rの各辺の長さに相当する長さ寸法の単体であっても良いし、長さ方向に複数に分割されていても良い。
【0018】
また、図9(a)、(b)に示すように、外周接合部材6は、既存躯体(柱2、梁3)に対して基板61がモルタルやグラウトなどの接合材64によって接着固定されている。このとき基板61の接合面61a(既存躯体側の面)にはシアキー63が外周接合部材6の長手方向に所定間隔をもって固着されている。シアキー63は、外周接合部材6と接合材64との接着力を高めるものである。なお、接合材64としては、ユニット鋼板4、4同士間で荷重を伝達するだけの強度を有していれば良い。
【0019】
次に、上述した鋼板耐震壁1の作用について、図面を用いて説明する。
図1および図5に示すように、構面Rに配列される複数のユニット鋼板4、4同士、及びユニット鋼板4と外周接合材6同士が面外補強材5によって一体的に接合されて鋼板耐震壁1が構築され、且つユニット鋼板4を面外補強材5によって補強することができる。つまり、ユニット鋼板4、4同士、及びユニット鋼板4と外周接合部材6同士がそれぞれ第1凹凸係合部4aと第2凹凸係合部6aによって噛合しているので、ユニット鋼板4の面内方向に作用する荷重を伝達することができる。
【0020】
また、ユニット鋼板4の噛合部の隙間には充填材7が充填されているので、噛合部に離間が設けられていても面内方向に作用する荷重を確実に伝達することが可能である。
さらに、ユニット鋼板4の側面に面外補強材5が固定されているので、ユニット鋼板4の噛み合わせ面外にずれて外れるのを防止することができるうえ、ユニット鋼板4の面外座屈を抑えることができる。
このように、本耐震壁構造では、ユニット鋼板4の噛合部に面外補強材5を設けるといった簡単な構造により、ユニット鋼板4の接合と補強とを同時に行うことができる。
【0021】
また、鋼板耐震壁1では、面外補強材5をボルト接合によりユニット鋼板4に取り付けることで、ユニット鋼板4、4同士の接合も同時に行える構造であるので、ボルト数を減らせることができ、組み立て作業が容易になり、施工時間を減少でき、施工性を向上させることができる。
さらに、本鋼板耐震壁1は、ユニット鋼板4の配列数、長さ寸法、幅寸法を変更することで、補強する建築物の構面Rの大きさに合わせて構築することができる。
【0022】
さらにまた、外周接合部材6を構面Rを形成する既存躯体に対して接合材64による充填手段により接着固定で接合できる構造であるため、従来のようなアンカー施工による騒音、振動、粉塵の発生を無くすことができる。
【0023】
上述のように本実施の形態による建築物の耐震壁構造では、面外補強材5を設けるといった簡単な構造で、ユニット鋼板4、4同士の接合とユニット鋼板4の補強とを行うことができるので、施工性の向上を図ることができる。
また、外周接合部材6を構面Rを形成する既存躯体に対して接合材64の充填手段により接着固定で接合できる構造であるため、従来のようなアンカー施工による騒音、振動、粉塵の発生を無くすことができ、施工時における環境面の向上を図ることができる。
【0024】
次に、本発明の建築物の耐震壁構造による他の実施の形態について、添付図面に基づいて説明するが、上述の第1の実施の形態と同一又は同様な部材、部分には同一の符号を用いて説明を省略し、実施の形態と異なる構成について説明する。
【0025】
図10および図11に示すように、第2の実施の形態による鋼板耐震壁1Aは、上述した第1の実施の形態によるユニット鋼板4のボルト孔4b(図5、図6参照)の形状を代えたものである。すなわち、図11に示すように、ユニット鋼板4には、長辺部において、第1凹凸係合部4aの切欠き側の尖形状をなす凹頂部4cに連通するボルト穴4dが形成されている。このボルト穴4dは、第1凹凸係合部4aを加工する際に凹頂部4cから欠き込むようにして形成することが可能であるので、第1の実施の形態のようにユニット鋼板4に別途ボルト孔4b(図5、図6)を開ける工程が不要になり、製作コストの低減を図ることができる。
なお、とくに図示しないが、ユニット鋼板4に横方向に接合される外周接合部材6の第2凹凸係合部6a(図4参照)にも前記ボルト穴4dと同様のボルト穴が設けられている。
【0026】
本第2の実施の形態による鋼板耐震壁1Aでは、複数のユニット鋼板4をそれぞれの第1凹凸係合部4a同士で噛合させて配置した状態で、互いに噛合する一方のユニット鋼板4の前記ボルト穴4d第1凹凸係合部4a側の開口が他方のユニット鋼板4の凸頂部4eによって塞がれるのでボルト孔として機能させることができる。
【0027】
次に、図12に示す第3の実施の形態による鋼板耐震壁1Bは、上述した第2の実施の形態のユニット鋼板4において第1凹凸係合部4a(図5参照)の形状を代えたものである。すなわち、図12および図13に示すように、ユニット鋼板4の第1凹凸係合部4aの凹凸が尖形状ではなく、平坦部を有する略台形状となっている。そして、本ユニット鋼板4もまた、第2の実施の形態と同様に面外補強材5が接合される長辺部において、第1凹凸係合部4aの凹部4fに連通するボルト穴4dが形成された構成となっている。
【0028】
次に、図14に示すように、第4の実施の形態による鋼板耐震壁1Cは、構面Rに配置される上段のユニット鋼板4の上端4gと、構面Rの上部に配置される外周接合部材6(ここでは符号6A)との間に施工調整用の隙間(施工調整隙間S)を設け、この施工調整隙間Sに接合材8を充填させた構成となっている。
さらに具体的に鋼板耐震壁1Cは、ユニット鋼板4、外周接合部材6、面外補強材5を設けた状態で形成される施工調整隙間Sを塞ぐようにして両側面から拘束部材9によって挟持してボルト接合してから、施工調整隙間Sに前記接合材8を充填した構成となっている。ここで、接合材8としては、モルタル、あるいはグラウトなどの充填材料を用いることができる。
【0029】
面外補強材5は、構面上部に拘束部材9が設けられているので、その分だけ上述した第1〜3の実施の形態の面外補強材5よりも短い長さ寸法となっている。そして、上部の外周接合部材6Aの接合鋼板62にはボルト穴62a(図8参照)が設けられ、この上部の外周接合部材6に対向するユニット鋼板4の上端4gの第1凹凸係合部4aにもボルト穴4dが設けられている。
【0030】
拘束部材9は、面外補強材5と同じ構成とされ、外周接合部材6のボルト穴(図示省略)とユニット鋼板4のボルト穴4dに対応する位置にボルト孔(図示省略)が形成されている。なお、外周接合部材6とユニット鋼板4のボルト穴の位置は一定ではなく、施工調整隙間Sの隙間寸法の大きさに応じて変化することから、その変化に対応できるように拘束部材9のボルト孔は例えば長穴にしておくことが好ましい。
【0031】
このように構成される第4の実施の形態による鋼板耐震壁1Cでは、構面Rに施工調整隙間Sを設けることで、既存躯体、ユニット鋼板4、および外周接合部材6の寸法誤差や施工誤差を吸収することができる。つまり、ユニット鋼板4を配列して1枚の一体化された板状壁体を構築する場合において、ユニット鋼板4、4同士の噛合により生じた施工誤差を施工調整隙間Sで吸収することができ、部材の寸法調整等の手間のかかる作業を行う必要がなくなるので、施工効率を向上させることができる。
また、ユニット鋼板4の噛合部のガタを無くすことが可能となるので、高い剛性をもった壁体を構築することができる。
【0032】
以上、本発明による建築物の耐震壁構造の実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本第1の実施の形態ではユニット鋼板4に形成される第1凹凸係合部4aおよび外周結合部材6の第2凹凸係合部6aの形状を頂部を有する尖形状とし、第3の実施の形態では平坦部を有する略台形状としているが、このような凹凸形状に限定されることはなく、他の形状であっても良い。例えば、凸曲部と凹曲部が交互に連続する形状とすることができる。
【0033】
また、本実施の形態ではユニット鋼板4を縦長の略長方形状としているが、このような形状であることに限定されることはなく、例えば正方形など任意の形状、大きさに設定することが可能である。したがって、構面Rに配列されるユニット鋼板4の列数、段数は、構面の形状、大きさに合わせて変更することができる。
さらに、ユニット鋼板4に窓(開口)を設けることも可能であり、この場合、採光、眺望、通風などを確保することができる。
【0034】
また、本実施の形態では面外補強材5をユニット鋼板4の両側面に配置させているが、このような形態であることに制限されることはなく、例えばユニット鋼板4の片面だけ、或いはユニット鋼板4の表裏交互に配置してもよい。要は、ユニット鋼板4の少なくとも一方面に面外補強材5が固定されていればよいのである。
なお、ユニット鋼板4の片面のみに面外補強材5を接合する場合には、ユニット鋼板4のボルト孔に雌ねじを形成しておき、ボルトで固定すればよい。そして、面外補強材5の接合についても、ボルト接合に制限されることはなく、ユニット鋼板4側にボルト孔を設けず、ユニット鋼板4に当接させた面外補強材5の孔内で溶接するようにしてもよい。
【0035】
さらに、面外補強材5は断面視T字型状の部材であることに限定されることはなく、例えばC型鋼、L型鋼、角型棒材等であってもよい。要は、ユニット鋼板4のずれを止めや、面外への座屈を防ぐことができればよいのである。
【0036】
さらにまた、本実施の形態では外周接合部材6と既存躯体との間に接合材64を充填して接合しているが、これに限らず、エポキシ樹脂等の接着剤により接着固定する接合であってもかまわない。
【符号の説明】
【0037】
1 鋼板耐震壁
2 柱
3 梁
4 ユニット鋼板
4a 第1凹凸係合部
4b ボルト孔
5 面外補強材
6 外周接合部材
6a 第2凹凸係合部
7 充填材
8 接合材
9 拘束部材
64 接合材
S 施工調整隙間(施工調整用の隙間)
R 構面
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板を用いた補強部材により構成される建築物の耐震壁構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、既存の鉄筋コンクリート構造物を耐震補強として、柱梁架構内に鉄筋コンクリート造耐震壁を構築する工法が多用されている。このような工法では、既存柱梁架構に後施工アンカーを打ち、配筋をした後にコンクリートを打設するといった作業を行うため、工期が長く、また騒音や粉塵の発生が多くなっている現状がある。
これに対して、アンカー打ちやコンクリート打設による施工を低減させる工法として、柱梁に囲われた構面に複数枚の鋼板を配列して組み込み、柱梁に連結させることで鋼板耐震壁を構築する工法がある(例えば、特許文献1、2参照)。このような鋼板耐震壁では、予め工場等で鋼板を製作しておくことができるため、施工が簡略化されて、施工期間を短縮できるという利点もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−23568号公報
【特許文献2】特開平11−293950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の鋼板を使用した耐震壁構造では、以下のような問題があった。
すなわち、鋼板同士の接合には、多数のボルトを用いて連結したり、溶接手段により連結しているうえ、鋼板を補強するために多数のリブ等をボルト或いは溶接により設けているので、鋼板の組立てに手間がかかっていた。
また、鋼板耐震壁を構築する場合には、コンクリート造の耐震壁のようにコンクリート打設はなくなるが、鉄筋コンクリート造や鉄骨コンクリート造の既存躯体と鋼板との接合にはアンカーで固定する必要があり、その際、騒音、振動、粉塵が発生するといった問題があった。
【0005】
さらに、後施工アンカーを用いないで枠付き鉄骨ブレースや枠付き鉄骨フレームを設置する工法も実用化されており、騒音や粉塵は低減されるが、鋼材の部材費用が増大するうえ、組立ての手間がかかることから、施工性に問題があった。
このようなことから鋼板同士の接合と鋼板の補強を容易に行える簡単な構造であって、しかも施工時に騒音、振動、粉塵の発生を防止することをバランスよく達成できる鋼板を用いた耐震壁構造が求められており、その点で改良の余地があった。
【0006】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、簡単な構造で鋼板同士の接合と鋼板の補強とを行うことができるので、施工性の向上が図れ、しかも施工時における騒音、振動、粉塵の発生を防止することが可能となる建築物の耐震壁構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係る建築物の耐震壁構造では、構造物の柱梁からなる既存躯体によって囲まれた構面に鋼板耐震壁を備える建築物の耐震壁構造であって、構面の面方向に配列されるとともに外周に第1凹凸係合部を有する複数のユニット鋼板と、一端が既存躯体に接着固定され、ユニット鋼板側の他端に第1凹凸係合部に噛合する第2凹凸係合部を有して既存躯体及びユニット鋼板を接合する外周接合部材と、ユニット鋼板同士、及びユニット鋼板と外周接合材同士をそれぞれの噛合部で接合するようにして、噛合部におけるユニット鋼板の少なくとも一方面に固定された面外補強材と、噛合部の隙間に充填される充填材とを備えていることを特徴としている。
【0008】
本発明では、構面に配列される複数のユニット鋼板同士、及びユニット鋼板と外周接合材同士が面外補強材によって一体的に接合されて鋼板耐震壁が構築され、且つユニット鋼板を面外補強材によって補強することができる。つまり、ユニット鋼板同士、及びユニット鋼板と外周接合部材同士がそれぞれ第1凹凸係合部と第2凹凸係合部によって噛合しているので、ユニット鋼板の面内方向に作用する荷重を伝達することができる。
また、ユニット鋼板の噛合部の隙間には充填材が充填されているので、噛合部に離間が設けられていても面内方向に作用する荷重を確実に伝達することが可能である。
さらに、ユニット鋼板の側面に面外補強材が固定されているので、ユニット鋼板の噛み合わせ面外にずれて外れるのを防止することができるうえ、ユニット鋼板の面外座屈を抑えることができる。
このように、本耐震壁構造では、ユニット鋼板の噛合部に面外補強材を設けるといった簡単な構造により、ユニット鋼板の接合と補強とを同時に行うことができる。
さらにまた、外周接合部材を構面を形成する既存躯体に対して例えば接合材による充填手段や接着剤等による固着手段により接着固定で接合できる構造であるため、従来のようなアンカー施工による騒音、振動、粉塵の発生を無くすことができる。
【0009】
また、本発明に係る建築物の耐震壁構造では、構面に配置される上段のユニット鋼板の上端と、構面上部に配置される外周接合部材との間に施工調整用の隙間を設け、隙間には接合材が充填されていることが好ましい。
【0010】
本発明では、構面に施工調整用の隙間を設けることで、既存躯体、ユニット鋼板、および外周接合部材の寸法誤差や施工誤差を吸収することができる。つまり、ユニット鋼板を配列して1枚の一体化された板状壁体を構築する場合において、ユニット鋼板同士の噛合により生じた施工誤差を施工調整用の隙間で吸収することができ、部材の寸法調整等の手間のかかる作業を行う必要がなくなるので、施工効率を向上させることができる。また、ユニット鋼板の噛合部のガタを無くすことが可能となるので、高い剛性をもった壁体を構築することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の建築物の耐震壁構造によれば、面外補強材を設けるといった簡単な構造で、ユニット鋼板同士の接合とユニット鋼板の補強とを行うことができるので、施工性の向上を図ることができる。
また、外周接合部材を構面を形成する既存躯体に対して例えば接合材の充填手段や接着剤等の固着手段により接着固定で接合できる構造であるため、従来のようなアンカー施工による騒音、振動、粉塵の発生を無くすことができ、施工時における環境面の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1の実施の形態による鋼板耐震壁を示す立面図である。
【図2】図1に示す鋼板耐震壁の水平断面図である。
【図3】図1に示す鋼板耐震壁の縦断面図である。
【図4】図1に示す鋼板耐震壁の立面図であって、面外補強材を省略した図である。
【図5】図4に示す鋼板耐震壁の部分拡大図である。
【図6】ユニット鋼板の構成を示す側面図である。
【図7】面外補強材の構成を示す側面図である。
【図8】外周接合部材の構成を示す側面図である。
【図9】外周接合部材の接合状態を示す図であって、(a)は側面図、(b)は(a)に示すA−A線断面図である。
【図10】第2の実施の形態による鋼板耐震壁の部分拡大図であって、図5に対応する図である。
【図11】図10に示すユニット鋼板の構成を示す側面図である。
【図12】第3の実施の形態による鋼板耐震壁の部分拡大図であって、図5に対応する図である。
【図13】図12に示すユニット鋼板の構成を示す側面図である。
【図14】第4の実施の形態による鋼板耐震壁を示す立面図であって、図4に対応する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本第1の発明の実施の形態による建築物の耐震壁構造について、図面に基づいて説明する。
図1乃至図3に示すように、本第1の実施の形態による建築物の耐震壁構造は、既存の鉄筋コンクリート造、或いは鉄骨鉄筋コンクリート造の建物の柱梁架構内に、複数のユニット鋼板4、4、…を並べて配置することにより構築される鋼板耐震壁1を備えている。
すなわち、鋼板耐震壁1は、構造物の柱2、2と梁3、3で囲まれた矩形状の空間(構面R)を塞ぐようにして縦横(上下方向および横方向)に複数のユニット鋼板4、4、…が配列され、ユニット鋼板4を両側面から面外補強材5で接合した構成となっている。
【0014】
具体的に鋼板耐震壁1は、構面Rの面方向に配列されるとともに外周に第1凹凸係合部4aを有する複数のユニット鋼板4と、一端が既存躯体(柱2、梁3)に接着固定され、ユニット鋼板4側の他端に第1凹凸係合部4aに噛合する第2凹凸係合部6aを有して既存躯体及びユニット鋼板4を接合する外周接合部材6と、ユニット鋼板4、4同士、及びユニット鋼板4と外周接合材6同士をそれぞれの噛合部で接合するようにして、噛合部におけるユニット鋼板4の両側面に固定された面外補強材5と、噛合部の隙間に充填される充填材7(図5参照)とを備えて概略構成されている。
【0015】
図4乃至図6に示すように、ユニット鋼板4は、平板状のパネルで側面視で縦長の略矩形状をなし、例えば繊維強化プラスチック(FRP)などの高剛性を有する部材からなり、外周の四辺には山形状(尖形状)の第1凹凸係合部4aが形成されている。そして、構面Rには、その大きさに合わせて適宜な枚数のユニット鋼板4、4、…(本実施の形態では縦方向に2段、横方向に8列を配置している)がそれぞれ面一となるようにして配置されている。また、ユニット鋼板4には、長辺部に沿って面外補強材5を取り付けるためのボルト孔4bが設けられている。
【0016】
図7に示すように、面外補強材5は、断面視でT字型(図2参照)をなし、構面Rの縦方向の長さに相当する長さ寸法で形成されている。その接合面5aには、構面Rに配置されたユニット鋼板4のボルト孔4b(および外周接合部材のボルト孔)に対応する位置にボルト孔5bが設けられている。つまり、面外補強材5は、ユニット鋼板4、4同士、及びユニット鋼板4と外周接合材6同士をそれぞれの噛合部で、ユニット鋼板4の両側面から挟持してボルト・ナット接合するものである。
【0017】
図4および図8に示す外周接合部材6は、既存躯体(柱2および梁3)に沿って接合されるものであり、柱2、梁3のそれぞれに対応して設けられている。各外周接合部材6は、柱梁方向に延びる平板状の基板61と、基板61の一面に構面Rの面方向に一体的に立設される接合鋼板62とからなる。接合鋼板62は、外周接合部材6が既存躯体に接合された状態で、構面R側の端部がユニット鋼板4の第1凹凸係合部4aに対応して噛合する第2凹凸係合部6aが形成されている。
なお、外周接合部材6は、構面Rの各辺の長さに相当する長さ寸法の単体であっても良いし、長さ方向に複数に分割されていても良い。
【0018】
また、図9(a)、(b)に示すように、外周接合部材6は、既存躯体(柱2、梁3)に対して基板61がモルタルやグラウトなどの接合材64によって接着固定されている。このとき基板61の接合面61a(既存躯体側の面)にはシアキー63が外周接合部材6の長手方向に所定間隔をもって固着されている。シアキー63は、外周接合部材6と接合材64との接着力を高めるものである。なお、接合材64としては、ユニット鋼板4、4同士間で荷重を伝達するだけの強度を有していれば良い。
【0019】
次に、上述した鋼板耐震壁1の作用について、図面を用いて説明する。
図1および図5に示すように、構面Rに配列される複数のユニット鋼板4、4同士、及びユニット鋼板4と外周接合材6同士が面外補強材5によって一体的に接合されて鋼板耐震壁1が構築され、且つユニット鋼板4を面外補強材5によって補強することができる。つまり、ユニット鋼板4、4同士、及びユニット鋼板4と外周接合部材6同士がそれぞれ第1凹凸係合部4aと第2凹凸係合部6aによって噛合しているので、ユニット鋼板4の面内方向に作用する荷重を伝達することができる。
【0020】
また、ユニット鋼板4の噛合部の隙間には充填材7が充填されているので、噛合部に離間が設けられていても面内方向に作用する荷重を確実に伝達することが可能である。
さらに、ユニット鋼板4の側面に面外補強材5が固定されているので、ユニット鋼板4の噛み合わせ面外にずれて外れるのを防止することができるうえ、ユニット鋼板4の面外座屈を抑えることができる。
このように、本耐震壁構造では、ユニット鋼板4の噛合部に面外補強材5を設けるといった簡単な構造により、ユニット鋼板4の接合と補強とを同時に行うことができる。
【0021】
また、鋼板耐震壁1では、面外補強材5をボルト接合によりユニット鋼板4に取り付けることで、ユニット鋼板4、4同士の接合も同時に行える構造であるので、ボルト数を減らせることができ、組み立て作業が容易になり、施工時間を減少でき、施工性を向上させることができる。
さらに、本鋼板耐震壁1は、ユニット鋼板4の配列数、長さ寸法、幅寸法を変更することで、補強する建築物の構面Rの大きさに合わせて構築することができる。
【0022】
さらにまた、外周接合部材6を構面Rを形成する既存躯体に対して接合材64による充填手段により接着固定で接合できる構造であるため、従来のようなアンカー施工による騒音、振動、粉塵の発生を無くすことができる。
【0023】
上述のように本実施の形態による建築物の耐震壁構造では、面外補強材5を設けるといった簡単な構造で、ユニット鋼板4、4同士の接合とユニット鋼板4の補強とを行うことができるので、施工性の向上を図ることができる。
また、外周接合部材6を構面Rを形成する既存躯体に対して接合材64の充填手段により接着固定で接合できる構造であるため、従来のようなアンカー施工による騒音、振動、粉塵の発生を無くすことができ、施工時における環境面の向上を図ることができる。
【0024】
次に、本発明の建築物の耐震壁構造による他の実施の形態について、添付図面に基づいて説明するが、上述の第1の実施の形態と同一又は同様な部材、部分には同一の符号を用いて説明を省略し、実施の形態と異なる構成について説明する。
【0025】
図10および図11に示すように、第2の実施の形態による鋼板耐震壁1Aは、上述した第1の実施の形態によるユニット鋼板4のボルト孔4b(図5、図6参照)の形状を代えたものである。すなわち、図11に示すように、ユニット鋼板4には、長辺部において、第1凹凸係合部4aの切欠き側の尖形状をなす凹頂部4cに連通するボルト穴4dが形成されている。このボルト穴4dは、第1凹凸係合部4aを加工する際に凹頂部4cから欠き込むようにして形成することが可能であるので、第1の実施の形態のようにユニット鋼板4に別途ボルト孔4b(図5、図6)を開ける工程が不要になり、製作コストの低減を図ることができる。
なお、とくに図示しないが、ユニット鋼板4に横方向に接合される外周接合部材6の第2凹凸係合部6a(図4参照)にも前記ボルト穴4dと同様のボルト穴が設けられている。
【0026】
本第2の実施の形態による鋼板耐震壁1Aでは、複数のユニット鋼板4をそれぞれの第1凹凸係合部4a同士で噛合させて配置した状態で、互いに噛合する一方のユニット鋼板4の前記ボルト穴4d第1凹凸係合部4a側の開口が他方のユニット鋼板4の凸頂部4eによって塞がれるのでボルト孔として機能させることができる。
【0027】
次に、図12に示す第3の実施の形態による鋼板耐震壁1Bは、上述した第2の実施の形態のユニット鋼板4において第1凹凸係合部4a(図5参照)の形状を代えたものである。すなわち、図12および図13に示すように、ユニット鋼板4の第1凹凸係合部4aの凹凸が尖形状ではなく、平坦部を有する略台形状となっている。そして、本ユニット鋼板4もまた、第2の実施の形態と同様に面外補強材5が接合される長辺部において、第1凹凸係合部4aの凹部4fに連通するボルト穴4dが形成された構成となっている。
【0028】
次に、図14に示すように、第4の実施の形態による鋼板耐震壁1Cは、構面Rに配置される上段のユニット鋼板4の上端4gと、構面Rの上部に配置される外周接合部材6(ここでは符号6A)との間に施工調整用の隙間(施工調整隙間S)を設け、この施工調整隙間Sに接合材8を充填させた構成となっている。
さらに具体的に鋼板耐震壁1Cは、ユニット鋼板4、外周接合部材6、面外補強材5を設けた状態で形成される施工調整隙間Sを塞ぐようにして両側面から拘束部材9によって挟持してボルト接合してから、施工調整隙間Sに前記接合材8を充填した構成となっている。ここで、接合材8としては、モルタル、あるいはグラウトなどの充填材料を用いることができる。
【0029】
面外補強材5は、構面上部に拘束部材9が設けられているので、その分だけ上述した第1〜3の実施の形態の面外補強材5よりも短い長さ寸法となっている。そして、上部の外周接合部材6Aの接合鋼板62にはボルト穴62a(図8参照)が設けられ、この上部の外周接合部材6に対向するユニット鋼板4の上端4gの第1凹凸係合部4aにもボルト穴4dが設けられている。
【0030】
拘束部材9は、面外補強材5と同じ構成とされ、外周接合部材6のボルト穴(図示省略)とユニット鋼板4のボルト穴4dに対応する位置にボルト孔(図示省略)が形成されている。なお、外周接合部材6とユニット鋼板4のボルト穴の位置は一定ではなく、施工調整隙間Sの隙間寸法の大きさに応じて変化することから、その変化に対応できるように拘束部材9のボルト孔は例えば長穴にしておくことが好ましい。
【0031】
このように構成される第4の実施の形態による鋼板耐震壁1Cでは、構面Rに施工調整隙間Sを設けることで、既存躯体、ユニット鋼板4、および外周接合部材6の寸法誤差や施工誤差を吸収することができる。つまり、ユニット鋼板4を配列して1枚の一体化された板状壁体を構築する場合において、ユニット鋼板4、4同士の噛合により生じた施工誤差を施工調整隙間Sで吸収することができ、部材の寸法調整等の手間のかかる作業を行う必要がなくなるので、施工効率を向上させることができる。
また、ユニット鋼板4の噛合部のガタを無くすことが可能となるので、高い剛性をもった壁体を構築することができる。
【0032】
以上、本発明による建築物の耐震壁構造の実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本第1の実施の形態ではユニット鋼板4に形成される第1凹凸係合部4aおよび外周結合部材6の第2凹凸係合部6aの形状を頂部を有する尖形状とし、第3の実施の形態では平坦部を有する略台形状としているが、このような凹凸形状に限定されることはなく、他の形状であっても良い。例えば、凸曲部と凹曲部が交互に連続する形状とすることができる。
【0033】
また、本実施の形態ではユニット鋼板4を縦長の略長方形状としているが、このような形状であることに限定されることはなく、例えば正方形など任意の形状、大きさに設定することが可能である。したがって、構面Rに配列されるユニット鋼板4の列数、段数は、構面の形状、大きさに合わせて変更することができる。
さらに、ユニット鋼板4に窓(開口)を設けることも可能であり、この場合、採光、眺望、通風などを確保することができる。
【0034】
また、本実施の形態では面外補強材5をユニット鋼板4の両側面に配置させているが、このような形態であることに制限されることはなく、例えばユニット鋼板4の片面だけ、或いはユニット鋼板4の表裏交互に配置してもよい。要は、ユニット鋼板4の少なくとも一方面に面外補強材5が固定されていればよいのである。
なお、ユニット鋼板4の片面のみに面外補強材5を接合する場合には、ユニット鋼板4のボルト孔に雌ねじを形成しておき、ボルトで固定すればよい。そして、面外補強材5の接合についても、ボルト接合に制限されることはなく、ユニット鋼板4側にボルト孔を設けず、ユニット鋼板4に当接させた面外補強材5の孔内で溶接するようにしてもよい。
【0035】
さらに、面外補強材5は断面視T字型状の部材であることに限定されることはなく、例えばC型鋼、L型鋼、角型棒材等であってもよい。要は、ユニット鋼板4のずれを止めや、面外への座屈を防ぐことができればよいのである。
【0036】
さらにまた、本実施の形態では外周接合部材6と既存躯体との間に接合材64を充填して接合しているが、これに限らず、エポキシ樹脂等の接着剤により接着固定する接合であってもかまわない。
【符号の説明】
【0037】
1 鋼板耐震壁
2 柱
3 梁
4 ユニット鋼板
4a 第1凹凸係合部
4b ボルト孔
5 面外補強材
6 外周接合部材
6a 第2凹凸係合部
7 充填材
8 接合材
9 拘束部材
64 接合材
S 施工調整隙間(施工調整用の隙間)
R 構面
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の柱梁からなる既存躯体によって囲まれた構面に鋼板耐震壁を備える建築物の耐震壁構造であって、
前記構面の面方向に配列されるとともに外周に第1凹凸係合部を有する複数のユニット鋼板と、
一端が前記既存躯体に接着固定され、前記ユニット鋼板側の他端に前記第1凹凸係合部に噛合する第2凹凸係合部を有して前記既存躯体及び前記ユニット鋼板を接合する外周接合部材と、
前記ユニット鋼板同士、及び前記ユニット鋼板と前記外周接合材同士をそれぞれの噛合部で接合するようにして、該噛合部における前記ユニット鋼板の少なくとも一方面に固定された面外補強材と、
前記噛合部の隙間に充填される充填材と、
を備えていることを特徴とする建築物の耐震壁構造。
【請求項2】
前記構面に配置される上段の前記ユニット鋼板の上端と、前記構面上部に配置される前記外周接合部材との間に施工調整用の隙間を設け、該隙間には接合材が充填されていることを特徴とする請求項1に記載の建築物の耐震壁構造。
【請求項1】
構造物の柱梁からなる既存躯体によって囲まれた構面に鋼板耐震壁を備える建築物の耐震壁構造であって、
前記構面の面方向に配列されるとともに外周に第1凹凸係合部を有する複数のユニット鋼板と、
一端が前記既存躯体に接着固定され、前記ユニット鋼板側の他端に前記第1凹凸係合部に噛合する第2凹凸係合部を有して前記既存躯体及び前記ユニット鋼板を接合する外周接合部材と、
前記ユニット鋼板同士、及び前記ユニット鋼板と前記外周接合材同士をそれぞれの噛合部で接合するようにして、該噛合部における前記ユニット鋼板の少なくとも一方面に固定された面外補強材と、
前記噛合部の隙間に充填される充填材と、
を備えていることを特徴とする建築物の耐震壁構造。
【請求項2】
前記構面に配置される上段の前記ユニット鋼板の上端と、前記構面上部に配置される前記外周接合部材との間に施工調整用の隙間を設け、該隙間には接合材が充填されていることを特徴とする請求項1に記載の建築物の耐震壁構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2011−184900(P2011−184900A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−49622(P2010−49622)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】
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