説明

建設機械の電装品配設構造

【課題】デザイン性と配線の安定性を低下させることなく、エアコンダクトとハーネスやアンテナ線などを交差させて最短距離で配線することができるようにする。
【解決手段】エアコンユニット21からの温風又は冷風をキャブ14内へ送風するためのエアコンダクト22はキャブリアパネル23に沿って配管されている。このとき、エアコンダクト22の所定の位置には屈曲した凹部が形成されている。従って、エアコンダクト22の凹部とキャブリアパネル23との間には隙間が生じる。これによって、エアコンダクト22の凹部とキャブリアパネル23との隙間部分にハーネス24を貫通させれば、エアコンダクト22に対してハーネス24を交差させて配線することができる。これによって、ハーネス24の配線性を向上させることができると共に、該ハーネス24の配線距離を短くして電装品を接続することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ショベルや油圧クレーンなどの建設機械の電装品配設構造に関するものであり、特に、建設機械の運転室内(キャブ内)における電装品配設構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、建設機械としての油圧ショベルは、下部走行体と、該下部走行体上に旋回可能に搭載された上部旋回体と、該上部旋回体に俯仰動可能に設けられたショベル等の作業装置とによって大略構成されている。また、上部旋回体のフレーム上には運転室を構成するキャブが設けられている。
【0003】
この種の従来技術による建設機械用のキャブは、上面部、前面部、後面部及び左,右の側面部を有するキャブボックスと、該キャブボックスの左,右の側面部のうち一方の側面部に回動可能に設けられてオペレータが乗降する乗降口を開閉するドアと、前記キャブボックス内に設けられて外気を取り入れながら室内に調和空気を供給する空調装置(エアコン)とを備えている。さらに、キャブ内には、制御機器、計器類、ランプ類、及びヒューズ等の各種電装品が配置され、これらの電装品が電線類によって電気的に接続されている。また、これらの電装品や空調装置は運転者が座るシートの左右側面に設けられたコンソール内やキャブのサイドパネルなどに分散して配置されている。従って、電線類も邪魔にならないようにシートの下部やサイドパネルに沿って配線されている。
【0004】
また、電線類の配線性と電装品のメンテナンス性とを向上させるために、制御機器などの電装品を収納する台座を、シート下部のスペースに設けた収納位置と、その収納位置から外部に引き出される開放位置との間で、自在にスライドさせることができるように構成した電装品配設構造の技術も開示されている(例えば、特許文献1参照)。さらに、リレーなどのように防水処理が施し難い電装品を蓋付きの収納ケースに収めて運転席のシート下部に収納することにより、該電装品の防水性とメンテナンス性を向上させる技術も開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−242225号公報
【特許文献2】特開2006−97314号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記特許文献1、2の技術は、制御装置やリレーなどの電装品をメンテナンスしやすいように収納し、防水性を高めるように収納ケース内にコンパクトにまとめることができ、且つ、その電線類も一括して束ねて整然と配線することができるが、計器類やランプ類などの電装品はキャブサイドパネルなどの表面の見やすい箇所に分散して配置しなければならない。したがって、これらの計器類やランプ類などの電装品を電気的に接続する電線類は、後部のキャブリアパネルや左右のキャブサイドパネルに沿って固定しながら、各電装品の相互間において配線されることになる。
【0007】
一方、空調装置(エアコン)に外気を取り入れ、該空調装置から新鮮な空気をキャブ内へ送り込むためのエアコンダクトは、キャブサイドパネル等を沿って上部方向や左右方向へ配管されている。従って、エアコンダクトと、計器類やランプ類などの電装品を電気的
に接続する配線であるハーネスやアンテナ線とが、相互に交差してしまう配線状態になることがある。
【0008】
言い換えると、キャブ室内において居住性や快適性の向上を求めると、各電装品(パーツ類)の配置位置やスペースが限られてくるので、必然的に、エアコンダクトと電装品を接続するハーネスやアンテナ線とが交差する箇所が増えてくる。このような場合においては、デザイン性を考慮して、エアコンダクトとの交差を避けてハーネスやアンテナ線を遠回りに配線する場合もある。
【0009】
ところが、ハーネスやアンテナ線を遠回りして配線すると、必然的に、ハーネスなどがコスト高になり、キャブサイドパネルの多くの箇所でハーネスやアンテナ線を固定をしなければならないので、配線の安定性とデザイン性が低下するおそれがある。また、エアコンダクトの表面側を交差してハーネスやアンテナ線を配線しなければならない場合も生じる。しかしながら、このような交差配線を行うと、ハーネスやアンテナ線の配線の安定性や美観性が悪くなり、該ハーネスやアンテナ線がエアコンダクトと交差する部分に無理な屈曲力が作用するおそれもある。
【0010】
そこで、デザイン性と配線の安定性を低下させることなく、エアコンダクトとハーネスやアンテナ線などの電線類を交差させて最短距離で配線することができるような電装品配線構造を実現するために解決すべき技術的課題が生じてくるのであり、本発明はこの課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上記目的を達成するために提案されたものであり、請求項1記載の発明は、建設機械のキャブに設置されたエアコンからの温風又は冷風を該キャブ内へ送風するエアコンダクトを備え、前記キャブの左右及び後部の側面を覆うキャブパネルに沿って配管された前記エアコンダクトに対して、電装品を電気的に接続するための電線材を交差させて配線する建設機械の電装品配設構造において、前記エアコンダクトの所定の位置に屈曲した凹部を形成し、該凹部と前記キャブパネルとの間の隙間部分に前記電線材を貫通させ、前記エアコンダクトに対して前記電線材を交差させて配線することを特徴とする建設機械の電装品配設構造を提供する。
【0012】
この構成によれば、エアコンからの温風又は冷風をキャブ内へ送風するためのエアコンダクトの所定の位置に屈曲した凹部を形成してから、該エアコンダクトをキャブパネルに沿って配管している。これによって、エアコンダクトの凹部とキャブパネルとの間に隙間が生じるので、その隙間部分に電線材を貫通させることにより、エアコンダクトと電線材とを立体交差させて該電線材を配線することができる。このような立体交差の配線により、デザイン性を損なうことなく電線材をレイアウト配線することができる。また、相互の電装品の間を最短距離で配線することができるので、配線の安定性を一段と向上させることができる。さらに、詳しく述べれば、エアコンを備えた建設機械において、エアコンからの温風又は冷風をキャブ内へ送風するエアコンダクトを、キャブ内の背面又は側面のキャブパネルに沿って配管すると、エアコンダクトと電線材とが交差してしまうことがある。従って、エアコンダクトの所定の位置に屈曲した凹部を形成し、その凹部とキャブパネルとの間に生じた隙間部分に電線材を貫通させて配線する。これによって、エアコンダクトと電線材が交差しても、美観を損なうことなく、且つ、電線材の配線経路を短くして、該電線材を最適にレイアウト配線することが可能となる。
【0013】
また、請求項2記載の発明は、前記電線材が、該電線材を束線化したハーネスであることを特徴とする請求項1記載の建設機械の電装品配設構造を提供する。
【0014】
この構成によれば、エアコンダクトの所定の位置に、ハーネスの厚みに合わせた凹部を形成することにより、エアコンダクトの凹部とキャブパネルとの隙間部分にハーネスを貫通させて、エアコンダクトとハーネスとを交差させて配線することができる。このようにしてエアコンダクトとハーネスとを立体交差させて配線することにより、デザイン性を損なうことなくハーネスをレイアウト配線することができる。さらに、ハーネスの配線距離が短くなるので、コストの低減化を図ることができる。
【0015】
また、請求項3記載の発明は、前記エアコンダクトの屈曲した凹部は、予め、成型加工によって形成されていることを特徴とする請求項1又は2記載の建設機械の電装品配設構造を提供する。
【0016】
この構成によれば、建設機械の組み立て時にエアコンダクトとハーネスなどの電線材との交差位置を決めておけば、予め、エアコンダクトの成型加工時において所定の位置に屈曲した凹部を形成しておくことができる。これにより、エアコンダクトをキャブパネルに沿って配管すれば、必然的に、エアコンダクトの凹部とキャブパネルとの間の所定の位置に隙間が生じるので、その隙間部分にハーネスを貫通させて、エアコンダクトとハーネスなどの電線材とを立体交差させて配線することができる。
【発明の効果】
【0017】
請求項1記載の発明によれば、エアコンダクトの凹部とキャブパネルとの間の隙間に電線材を貫通させて、エアコンダクトと電線材とを立体交差させて配線している。これによって、デザイン性を損なうことなく、電線材を最適にレイアウト配線することができる。さらに、相互の電装品の間を最短距離で配線することができるので、電線材の配線部分の安定性が一段と向上する。
【0018】
請求項2記載の発明によれば、エアコンダクトとハーネスとを交差させて配線しているので、請求項1記載の発明の効果に加えて、デザイン性を損なうことなくハーネスを最適にレイアウト配線することができると共に、ハーネスの配線距離を短くすることができるので原価低減を図ることが可能となる。
【0019】
請求項3記載の発明によれば、エアコンダクトの成型加工時において所望の位置に屈曲した凹部を形成しているので、請求項1又は2記載の発明の効果に加えて、エアコンダクトをキャブパネルに沿って配管すれば、必然的に、エアコンダクトの凹部とキャブパネルとの間の所定の位置に隙間が生じるため、その隙間部分にハーネスやアンテナ線などの電線材を貫通させて、エアコンダクトとハーネスやアンテナ線などの電線材とを交差させて配線することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明を適用した建設機械としての油圧ショベルの側面図。
【図2】図1に示す油圧ショベルのキャブ内の一部を詳細に表示した斜視図。
【図3】図2のA−A矢視の一部を示す断面図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明は、デザイン性と配線の安定性を低下させることなく、エアコンダクトとハーネスやアンテナ線などの電線類を交差させて最短距離で配線することができるような電装品配線構造を実現するという目的を達成するために、建設機械のキャブに設置されたエアコンからの温風又は冷風を該キャブ内へ送風するエアコンダクトを備え、前記キャブの左右及び後部の側面を覆うキャブパネルに沿って配管された前記エアコンダクトに対して、電装品を電気的に接続するための電線材を交差させて配線する建設機械の電装品配設構造において、前記エアコンダクトの所定の位置に屈曲した凹部を形成し、該凹部と前記キャブ
パネルとの間の隙間部分に前記電線材を貫通させ、前記エアコンダクトに対して前記電線材を交差させて配線することを特徴とする建設機械の電装品配設構造を提供することにより実現した。
【0022】
以下、本発明の実施形態による建設機械の電装品配設構造を油圧ショベルに適用した場合を例に挙げ、図1乃至図3を参照しながら好適な実施例について詳細に説明する。
【実施例】
【0023】
図1は、本発明を適用した建設機械としての油圧ショベルの側面を示す図である。図1において、該油圧ショベル10は、下部走行体11上に旋回機構12を介して上部旋回体13が旋回自在に載置されている。上部旋回体13には、キャブ(運転室)14と建屋18が設けられている他に、前方中央部にブーム15がブームシリンダ15aによって俯仰可能に取り付けられている。又、ブーム15の先端にはアーム16がアームシリンダ16aによって上下回動自在に取り付けられ、更に該アーム16の先端にはバケット17がバケットシリンダ17aによって可動自在に取り付けられている。
【0024】
また、上部旋回体13の本体カバー18内には、特に図示されていないが、バッテリ、作業機駆動用の油圧ポンプ、エンジン、各種の機器、及び補器等が配設され、ブーム15、アーム16、及びバケット17等をそれぞれのシリンダによって駆動するための動力ユニットが収納されている。また、下部走行体11は、油圧モータによって走行モータ19
を回転駆動させてクローラ20を回動させ、油圧ショベル10を走行させるように構成されている。
【0025】
図2は、図1に示す油圧ショベル10のキャブ14内の一部を詳細に表示した斜視図で
ある。また、図3は、図2のA−A矢視の一部を示す断面図である。図2において、キャブ14のフロア14aの表面には、オペレータシート用台座21aに覆われたエアコンユニット(空調装置)21が設置されている。そして、エアコンユニット21からの温風或いは冷風がエアコンダクト22によってキャブ14内の各所に導かれている。
【0026】
すなわち、エアコンユニット21からエアコンダクト22を通過した温風或いは冷風は、特に図示しないが、運転室の座席近傍の足下吹出口、胸元吹出口、及びフロントデフロスタ等に導かれ、そこから空調された清浄な空気がキャブ14の室内に吹き出される。すなわち、足下吹出口及び胸元吹出口からの空気吹き出しによってキャブ14内の空調(冷房又は暖房)が行われる。また、フロントデフロスタからの温風の吹き出しによって、キャブ14の前面のフロントウインドウの霜が除去される。さらに、エアコンユニット21からのエアコンダクト22は、運転室の座席シートの背面シート部分や座面シート部分の隙間の部分に導かれている。
【0027】
このようなエアコンダクト22は、図2に示すように、例えば、キャブリアパネル23に沿って配管され、キャブ14内の各所に導かれている。一方、電装品を電気的に接続するためのハーネス24もキャブリアパネル23に沿ってキャブサイドパネル25へ配線されている。従って、エアコンダクト22とハーネス24とは交差する状態になる。しかし、エアコンダクト22の形状は、該エアコンダクト22とハーネス24とが交差する部分において、図3に示すように、該エアコンダクト22が屈曲してできた凹部22aが形成されているので、ハーネス24は、エアコンダクト22とキャブリアパネル23との隙間を貫通して交差しながらキャブサイドパネル25側へ配線することができる。
【0028】
すなわち、エアコンダクト22は樹脂材で形成されているので形状自由度が高いために、ハーネス24が交差すると予想される位置において、ハーネス24の厚み分だけエアコンダクト22が屈曲するように該エアコンダクト22を成型加工しておく。これによって
、エアコンダクト22が屈曲されて成型加工された部分が図3に示すような凹部22aとなり、エアコンダクト22とキャブリアパネル23との間に所望の隙間が生じる。
【0029】
このようにして、図3に示すように、エアコンダクト22とハーネス24が交差する位置において、エアコンダクト22とキャブリアパネル23との間に所望の隙間が生じるので、その隙間部分にハーネス24を貫通させてキャブサイドパネル25の所望の位置までハーネス24を配線する。従って、エアコンダクト22とハーネス24を立体交差させて最短距離でハーネス24を配線しても、デザイン性を損なうことなくハーネス24の配線レイアウトを適正に行うことができる。
【0030】
もちろん、ハーネス24に限らず、アンテナ線や他のパーツがエアコンダクト22を交差する場合においても、予め、アンテナ線や他のパーツの高さ分だけエアコンダクト22の所定の位置を屈曲させて凹部を形成しておけば、アンテナ線や他のパーツとエアコンダクト22とをデザイン性よく交差させることができる。
【0031】
このようにして、形状自由度の高いエアコンダクトの形状を、交差する部品(例えば、ハーネスやアンテナ線)の厚みに合わせた凹部を設けて成型加工しておくことにより、エアコンダクト22と前記各部品とをデザイン性よく交差させることができる。これによって、キャブの限られたスペース内に各種パーツを収めることができると共に、デザイン性を損なうことなく適正に配線レイアウトを行うことができる。言い換えると、エアコンダクトの所望の位置に凹部を設けた形状にすることにより、該エアコンダクトの凹部とキャブパネルとの間にできた隙間を利用して、ハーネスやアンテナ線などの電線材を貫通させることができる。これによって、エアコンダクトと電線材とをデザイン性よく交差させることができると共に、該電線材によって電装品の相互間を最短距離で配線することができる。
【0032】
以上、本発明の具体的な実施例を説明したが、本発明はこの実施例に限定されるものではなく、本発明の精神を逸脱しない限り種々の改変を為すことができ、そして、本発明が該改変されたものに及ぶことは当然である。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明に係る建設機械の電装品配設構造は、建設機械に限定されることなく、その他の各種車両の空調装置にエアコンダクトが配管されている場合でも、電装品を接続するハーネスの配線性を向上させるために有効に利用することができる。
【符号の説明】
【0034】
10 油圧ショベル
11 下部走行体
12 旋回機構
13 上部旋回体
14 キャブ
14a フロア
15 ブーム
15a ブームシリンダ
16 アーム
16a アームシリンダ
17 バケット
17a バケットシリンダ
18 本体カバー
19 走行モータ
20 クローラ
21 エアコンユニット
21a オペレータシート用台座
22 エアコンダクト
22a 凹部
23 キャブリアパネル
24 ハーネス
25 キャブサイドパネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建設機械のキャブに設置されたエアコンからの温風又は冷風を該キャブ内へ送風するエアコンダクトを備え、前記キャブの左右及び後部の側面を覆うキャブパネルに沿って配管された前記エアコンダクトに対して、電装品を電気的に接続するための電線材を交差させて配線する建設機械の電装品配設構造において、
前記エアコンダクトの所定の位置に屈曲した凹部を形成し、該凹部と前記キャブパネルとの間の隙間部分に前記電線材を貫通させ、前記エアコンダクトに対して前記電線材を交差させて配線することを特徴とする建設機械の電装品配設構造。
【請求項2】
前記電線材は、該電線材が束線化されたハーネスであることを特徴とする請求項1記載の建設機械の電装品配設構造。
【請求項3】
前記エアコンダクトの屈曲した凹部は、予め、成型加工によって形成されていることを特徴とする請求項1又は2記載の建設機械の電装品配設構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−231556(P2011−231556A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−104502(P2010−104502)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(502246528)住友建機株式会社 (346)
【Fターム(参考)】