説明

建設機械

【課題】マストベースとマスト要素を折り畳むことができるマストを有する建設機械において、マスト要素を効率良く回動可能にする。
【解決手段】マスト20は、キャリッジ11上に回動可能に支持される。動作位置においてマスト要素22は、マストベース21を延長するよう位置し、マストが折り畳まれた折り畳み位置においては、マストベースに対して後方に回動する。マストベースとマスト要素の間には牽引要素が26が張られ、これを張るとマストが伸長し、ゆるめると折り畳まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャリッジとマストとを含む建設機械に関し、マストはキャリッジ上に鉛直面内で回動可能に支持され、マストベースと最低1つのマスト要素とを備え、マスト要素は延長マストを構成する動作位置と折り畳み位置との間でマストベースに対して回動可能に支持される。
【背景技術】
【0002】
本発明に関与する建設機械は、地中にドリル穴を開けるためのドリル等の基礎工事装置でありうる。キャリッジによって建設機械は位置を変えることができ、特に作業現場へ移動できる。だが建設機械は大型であるため、多くの場合、マストを立てて動作位置とした状態での輸送は非常に困難であることがわかっている。したがって建設機械の輸送には、マストを輸送位置へ回動させて建設機械の桁下高が減じられるような手段が設けられる。このように回動可能なマスト付き建設機械については、下記の文献等に記載されている。
【0003】
また、下記の文献には、マストベースに対して回動可能なマスト要素を備えた建設機械が記載されている。この建設機械では、マスト要素の回動は、マストベースと回動可能なマスト要素の両方にヒンジ留めされるリフティングシリンダによって行われる。
【0004】
【特許文献1】米国特許第5,269,107号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第EP0745528号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、単純な構造でありながら、マストベースに対してマスト要素を効率よく回動可能な建設機械を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的は、マスト要素の回動のため、マストベースとマスト要素との間に可撓性のある牽引要素を配置することによって解決される。
【0007】
本発明は、建設機械を輸送する際には、桁下高だけでなく建設機械の長さも決定的な要因であるという認定に基づく。特に、大抵はスペースが限られた作業現場において操作しなければならない小型〜中型の建設機械では、高さではなく建設機械の長さが重要な要因である。
【0008】
マスト要素が回動可能なため、高さは中程度だが長さが特に短縮された建設機械が得られる。本発明は、可能な限り簡単な手段によってマスト要素を回動させるという基本的な考えに基づく。特に、可撓性のある牽引要素は省スペースでマスト上に配置できるという利点を与える。さらに、適正重量に関しては、この可撓性のある牽引要素は公知のどのリフティングシリンダよりもかなり軽量に設計できる。これらすべてのことから、マスト要素がマストベースに対してさらに旋回可能である旋回可能マストを備えた、比較的軽量の建設機械が得られる。
【0009】
基本的には、マスト要素はマストベース上の選択した任意の位置に配置できる。ただし本発明に従えば、マスト要素は動作位置に関してはマストの上方に位置するのが好ましい。マスト要素はマスト全長の相当部分、特定的にはマスト全長の約1/3〜1/2を構成しうる。牽引要素に可撓性があるため、かなり高い位置に設置すべきリフティングシリンダをマスト要素の回動範囲内には設けなくてもよいという利点が得られる。
【0010】
本発明の好適な実施形態では、牽引要素はロープまたはチェーンである。ロープまたはチェーンは、特に長手方向にほとんど伸長せず高い張力に耐えるのに適する。このためロープまたはチェーンはマスト要素を規定位置に保持するのに適している。ロープまたはチェーンは特に頑丈な設計において利用可能である。
【0011】
本発明の特に好適な他の発展箇所は、スライドがマスト前面上を案内され、かつ駆動装置によってマストに対して変位可能であること、および牽引要素が駆動装置と係合している、および/または駆動装置の一部である、という点である。このように牽引要素が2つの機能をもつので、特にコンパクトな建設機械が得られる。牽引要素はマスト要素をマストベースに対して回動させるように機能する一方で、スライドをマスト沿いに変位させる機能をもつ。スライドは変位用の駆動ピニオン等の駆動装置を備える。ここで、例えばチェーンとして設計される牽引要素は、駆動装置の駆動ピニオンの噛み合い部材となりうる。このため駆動チェーンまたは駆動スプロケットを追加配置しなくてもよい。牽引要素はマスト沿いに移動することによって、それ自体スライドの駆動装置の一部ともなりうる。したがって、スライドは牽引要素の移動によってマスト沿いに案内される。
【0012】
スライドの配置に関して特に有利であると確認されている点は、駆動装置が牽引要素と係合する少なくとも1つの駆動ピニオンを備え、牽引要素は駆動ピニオンがマストに押し付けられるように、この駆動ピニオンに巻き付き、巡回するということである。この結果、牽引要素が最適な度合いに引っ張られない場合でも、スライドを信頼性をもって確実に駆動できる。駆動ピニオンが牽引要素とマストとの間に配置されるという点が特に有利である。さらに、スライドを最適に案内するため、少なくとも1つのガイドピニオン、有利には少なくとも2つのガイドピニオンがスライド上に配置され、これを中心に牽引要素がマスト側の面上で巡回する。このような構成の特に有利な点は、牽引要素とスライドの駆動装置との間の不要な噛み合い外れが効果的に防止できるということである。
【0013】
本発明の特に好適な実施形態では、マスト要素の旋回を達成するには、張力装置、より特定的には張力シリンダを設けて、これにより牽引要素を弛緩または緊張させてマスト要素を回動させる。牽引要素は、牽引要素の弛緩によってマスト要素を折り畳み位置に回動させるようにマスト上を案内される。牽引要素に新たに張力を加えるとマスト要素を動作位置へ持ち上げることができる。張力装置は特に、例えば油圧動作可能な張力シリンダとして設計できる。張力装置上の牽引要素の配置に応じて、張力装置の対応するピストンの収縮または伸長によって、牽引装置の張力調節を行うことができる。
【0014】
基本的には張力装置をマスト上の選択した任意の位置に配置することが可能だが、本発明に従えば、張力装置はマストベース上、特にその背面または側部に配置するのが好適である。このため例えばスライドを案内できるマスト前面が張力装置で妨げられることがない。牽引要素を転向させ、張力装置をこの転向部分の後に配置するため、張力装置を非常に省スペースで配置できる。
【0015】
本発明に従えば、牽引要素はマスト前面に沿って案内され、マスト要素はマスト背面へ向けて回動して折り畳み位置となることが特に有利である。牽引要素がマスト前面に沿って配置されることで、特にスライドを動作に好適な面上で案内できる。背面側への回転により建設機械のコンパクトな輸送形状が可能となり、マストベースとマスト要素とがキャリッジ上方で三角形に配置される。
【0016】
本発明に従う一実施形態では、マスト背面側の領域に配置されるピボットジョイントが、マストベースとマスト要素との間に位置する。このためピボットジョイントはマストの折り畳み時に折り畳んだマストの内側に向く部分に配置される。反対に、牽引要素は好適にはマスト前面、すなわちマストの外側にくる部分に配置される。これによりピボットジョイントの内向き配置と、マスト外側を案内される牽引要素との組み合わせにより、マスト要素の回動に利用されるてこの効果が得られる。ピボットジョイントと牽引要素との間が離れるに従い、てこの効果はより大きくなる。折り畳み可能位置で牽引要素に張力をかけて牽引要素を短くすることによって、折り畳まれたマスト要素はマストベース方向へ引かれ、最終位置ではマスト要素はマストベースと整列する。
【0017】
本発明の有利な面は、牽引要素の弛緩中はマスト要素は重力によって回動できるという点である。したがって、マスト要素の回動は下向きに発生する。重力によるマスト要素の回動は、特にマスト要素またはマスト全体が傾斜した状態で実現できる。
【0018】
マスト要素を希望位置に確実に保持するために、ロック装置が設けられるのが好適であり、これによりマスト要素をマストベースに対して規定位置、特定的には動作位置にロックできる。ロック装置は、例えばボルトまたはスナップロックから構成できる。スナップロックは、例えば駆動シリンダ等によって手動または自動で動作できる。
【0019】
マストの安定性をさらに改善するため、およびスライドの案内を改善するため、少なくとも2つの牽引要素と1つの共通張力装置とを設けて、この少なくとも2つの牽引要素に張力をかけることができる。共通の張力装置によって牽引要素の不均一な張力を防止し、これによりマスト要素の引っ掛かりの可能性を防止する。2つの牽引要素はマスト上で平行に案内されるのが有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下の説明では、本発明を添付図面を参照してより詳細に説明する。
【0021】
図1および図2に示す建設機械10は、キャリッジ下部12とキャリッジ上部13とを有するキャリッジ11を含み、キャリッジ上部はほぼ鉛直な軸を中心にキャリッジ下部に回動可能に支持される。キャリッジ上部13の前方には、マスト20がヒンジ留めされる。マスト20は、キャリッジ上部13にヒンジ留めされるマストベース21と、マストベース21にヒンジ留めされるがキャリッジ11に直接は接続されないマスト要素22とを含む。キャリッジ上部13の後方には、マスト20の重量によって建設機械10が傾斜しないように防止するカウンターウェイトが配置される。
【0022】
図1では、マスト20のマストベース21とマスト要素22とは鉛直位置に配置される。こうしてマストベース21とマスト要素22とで延長されたマスト20を構成する。この動作位置では、ドリル動作または他の土木作業動作を実施できる。だが図2に示すマスト20の位置では、マストベース21は鉛直位置から傾斜位置へヒンジを軸として回動している。マストベース21はこのような傾斜位置にされ、ここでマストベース21は例えば輸送のためにほぼ水平にも配置できる。さらに、マスト要素22はマストベース21に対して折り畳まれ、ほぼ鉛直な位置にされる。この折り畳み位置では、マスト要素22は動作位置と比べてほぼ180°回転させられるため、図示する折り畳み位置ではマスト要素22の自由端は下方を向いている。
【0023】
マストベース21をキャリッジ11に対して回動させるため、キャリッジ上部13上に回転ジョイント52が設けられる。この回転ジョイント52はアーム53上に配置され、キャリッジ上部13の長手方向を横切って延びる水平回転軸をもつ。アーム53はキャリッジ上部13に固定接続されるが、他の実施形態では、キャリッジ上部13に旋回可能にヒンジ留めして、回転ジョイント52がキャリッジ上部13に対して変位できるようにしてもよい。
【0024】
マストベース21の回転ジョイント52を軸とした回動は、リフティングシリンダ44によって行われ、このリフティングシリンダ44は回転ジョイント52から離れた位置において、アーム53とマストベース21とに他のジョイントによってヒンジ留めされる。
【0025】
ドリルドライブおよびドリルロッド46を支持するスライド30は、マスト20上をマストの長手方向に変位可能に案内される。このためスライド30のガイドスキッド31とすべり係合するガイドレール24がマスト20上に、これに沿って配置される。マスト20の前面、すなわちキャリッジ11と反対側の面では、この実施形態では例えばチェーンとして設計される牽引要素26が案内される。スライド30はチェーンと噛み合うドライブピニオン32を備え、ドライブピニオン32が回転すると、スライド30がマスト20に沿って移動する。チェーンは、ドライブピニオン32のマスト20から離れた側において、このピニオンの周囲に巻き付いて巡回するように、ピニオンの回りを案内される。スライド30上のドライブピニオン32の上方および下方にはそれぞれガイドピニオン34が配置される。チェーンは、ガイドピニオン34の、マスト20側において、これらのピニオン周囲に巻き付いている。この構成により、スライド30はチェーンでマスト20上に保持され、マスト20に押し付けられる。
【0026】
マスト20の上端にはブーム50が配置され、これはドリルロッド要素のリフティング手段として用いることができる。
【0027】
マスト要素22をマストベース21に対して回動させるため、マスト要素22とマストベース21間にピボットジョイント38が設けられる。このジョイントは、マスト20背面、すなわちキャリッジ11側に配置される。これによりマスト要素22はキャリッジに向けて回動可能となる。
【0028】
マスト20のピボットジョイント38と反対側では、チェーンとして設計される牽引要素26がマストベース21上でマスト要素22に沿って案内される。マストベース21の下部では、チェーンは下転向ローラ56の周囲を案内される。その後、チェーンは、この実施形態では例えば張力シリンダとして設計される張力装置28に結合される。張力シリンダはシリンダブロックとピストンとを備える。シリンダブロックはマストベース21に固定され、チェーンはピストンに取り付けられる。マスト要素22の上部では、チェーンはマスト20背面でそれぞれマスト要素21に等しく配置される2つの上転向ローラ58の周囲を案内される。そこでチェーンは、バネ張力装置49によって上固定点48で固定され、これによりマスト要素21に一定のチェーン張力が生じる。
【0029】
マストを規定位置にロックするため、マストベース21に対してマスト要素22が折り曲げられる位置にロック装置40が設けられる。ロック装置は、ピボットボルトでマスト要素21にそれぞれヒンジ留めされる横方向に、マストを挟んで並列配置された二つのピボットロックを有する。ピボットロックは、マストベース21上に配置されたロックボルトと係合できる。ピボットボルトとロックボルトとはマスト側部の前方に寄った部分に設けられる。
【0030】
マストベース21とマスト要素22とは、互いに向き合った接触面70,71をそれぞれ有し、動作位置ではこの接触面で互いに接する。接触面70,71はマストベース21またはマスト要素22の長手方向の軸27に対して垂直には位置せず、傾斜している。接触面70,71がこのように傾斜または斜めに配置される目的を以下に説明する。
【0031】
図2に示す輸送位置(折り畳み位置)では、マストベース21およびマスト要素22の各々の前面は長さLだけ離れている。牽引要素26は、接触面70,71のそれぞれと、マスト20の前面と交点となる縁部62,63に配置される案内装置66,67に巻き付くようにを回って案内される。図1に示すマスト20の動作位置と比べると、牽引要素26はマスト20の前面上で長さLだけ伸ばされている。図2に示す輸送位置からチェーンが張力装置28で引っ張られると、マストベース21とマスト要素22の前面間の距離は短くなる。これにより、マスト要素22がマストベース21から延長した状態となる位置に来るまでマスト要素22が上昇する。
【0032】
てこの効果を最大限に得るため、ピボットジョイント38から縁部62,63を結ぶ直線までの距離は、所与の折り畳み角度αで可能な限り最大となるように選択される。マストベース21とマスト要素22の接触面70,71が傾斜しているため、マスト要素22を持ち上げるレバーアームとして機能するピボットジョイント38から縁部を結ぶ直線まで距離は、接触面70,71が長手方向の軸27に垂直に位置する場合よりも長くなる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に従う建設機械の右側面図であり、マスト要素が動作位置にある様子を示す図である。
【図2】本発明に従う建設機械の左側面図であり、マスト要素が折り畳み位置にある様子を示す図である。
【符号の説明】
【0034】
10 建設機械、11 キャリッジ、12 キャリッジ下部、13 キャリッジ上部、20 マスト、21 マストベース、22 マスト要素、26 牽引装置、30 スライド、28 張力装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリッジと、
前記キャリッジ上に回動可能に支持され、マストベースと少なくとも1つのマスト要素とを備えるマストと、
を含む建設機械であって、
前記マスト要素が、前記マストベースに対して、延長マストを構成する動作位置と、折り畳まれる折り畳み位置との間で回動可能に支持され、
前記マスト要素の回動のために、前記マストベースと前記マスト要素との間に可撓性のある牽引要素が配置された、建設機械。
【請求項2】
請求項1に記載の建設機械において、前記牽引要素はロープまたはチェーンである、建設機械。
【請求項3】
請求項1に記載の建設機械において、
前記マストの前面上をスライドが案内され、前記スライドは駆動装置によって前記マストに対して変位可能であり、
前記牽引要素は前記駆動装置と係合し、または前記駆動装置の一部であり、またはこの両方である、
建設機械。
【請求項4】
請求項3に記載の建設機械において、
前記駆動装置は少なくとも1つの駆動ピニオンを有し、前記駆動ピニオンは前記牽引要素と係合し、前記牽引要素は、前記駆動ピニオンが前記マストに押し付けられるように前記駆動ピニオンに巻き付き、巡回する、
建設機械。
【請求項5】
請求項1に記載の建設機械において、前記マスト要素を回動させるため前記牽引要素を弛緩または緊張させる張力装置を有する、建設機械。
【請求項6】
請求項5に記載の建設機械において、前記張力装置は前記マストベース上に配置される、建設機械。
【請求項7】
請求項1に記載の建設機械において、
前記牽引要素は、前記マストの前面に沿って案内され、
前記マスト要素は、前記マスト背面へ向けて回動して折り畳み位置となる、建設機械。
【請求項8】
請求項7に記載の建設機械において、前記マストベースと前記マスト要素との間にピボットジョイントが設けられ、前記ピボットジョイントは前記マスト背面領域中に配置される、建設機械。
【請求項9】
請求項1に記載の建設機械において、前記牽引要素の弛緩時に、前記マスト要素は重力によって回動しうる、建設機械。
【請求項10】
請求項1に記載の建設機械において、前記マスト要素を前記マストベースに対して規定位置にロックしうるロック装置が設けられた、建設機械。
【請求項11】
請求項1に記載の建設機械において、少なくとも2つの牽引要素と、前記少なくとも2つの牽引要素に張力をかける共通の張力装置とが設けられた、建設機械。

【図1】
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【図2】
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