説明

引き返し編成方法およびその編地

【課題】本発明は、編地が歯口の下方に下がることを阻害せず、引き返し編成の折り返し部分での孔明きも防止できる引き返し編成方法とその編地を提供する。
【解決手段】往路編成と復路編成との折り返しとなる位置を移動させながら編成を繰り返して編地に傾斜部を形成した後、各折り返し近傍の編目に対して割増やし編成を行って増し目を形成し、その増し目を折り返し近傍の編目に重ねて重ね目を形成し、重ね目に続く新たな編目を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、往路編成と復路編成とからなる引き返し編成方法およびその方法で編成された編地に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、編地の編成において、往路編成と復路編成とからなる引き返し編成方法が行われている。例えば、特許文献1では、セーターの衿ぐり部で引き返し編成を行って、ネックホールを形成した後、ネックホールの形成箇所に衿部を形成するようにした編地の編成方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−111996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
引き返し編成を行う過程では、一つの編地の内、編成を行った部分は、新たな編目が形成されていき、歯口の下方に下がっていく。これに対して、編成を行っていない部分は、針床に係止されたままの状態になる。特に引き返し編成の往路と復路の折り返しによる段差部分では、孔明きを防止するためにタックを利用している。このタック編成は、往路編成と復路編成の途中で行っている。しかし、編成を行っていない部分で、一本の編針に編糸が二重にかかる状態になり、この部分における編糸の動き代が少なくなる。つまり、編成が行われていない編地部は、編成を行って新たに形成されていく編地部が歯口の下方に下がることを阻害する。そのため、引き返し編成の回数を多くしていくと、編成を行う部分の編針に係止される編目が浮いてしまって編成動作(特にノックオーバー)を行えなくなる虞がある。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、編地が歯口の下方に下がることを阻害せず、引き返し編成の折り返し部分での孔明きも防止できる引き返し編成方法とその編地を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、少なくとも前後一対の針床を有する横編機を用いて、往路編成と復路編成とを繰り返しながら編地に傾斜部を形成するための引き返し編成方法において、
往路編成と復路編成との折り返しとなる位置を、編地の一端側から他端側へ移動させながら、往路編成と復路編成とを繰り返す工程A、
前記工程Aに続いて編目を形成する際に、前記各折り返し近傍の編目に対して割増やし編成を行って、一方の針床に該編目に続く新たな編目と他方の針床に増し目を形成する工程B、
前記工程Bで形成した増し目を、前記各折り返し近傍の編目に重ねて重ね目を形成する工程C、
少なくとも前記工程Cで形成した重ね目に続く新たな編目を形成する工程D、とを備えることを特徴とする引き返し編成方法である。
【0007】
また本発明では、復路編成の始端となる編目の位置は、該復路編成の直前の往路編成での終端となる編目よりも1目分編地の一端側であることを特徴とする。
【0008】
また本発明では、前記工程Bでの重ね目の形成は、前記各割増やし編成を行った編目に対して編地の他端側寄りの編目に前記増し目を重ねることを特徴とする。
【0009】
また本発明は、少なくとも前後一対の針床を有する横編機を用いて、往路編成と復路編成とを繰り返しながら編地に傾斜部を形成するための引き返し編成された編地において、往路編成と復路編成との折り返しとなる位置が編地の一端側から他端側へ移動して傾斜部が形成された後、該傾斜部を構成する各折り返し近傍の編目に対して割増やし編成で増し目が形成され、該増し目が前記各折り返し近傍の編目に重ねられた重ね目と少なくとも該重ね目に続く新たな編目とを有することを特徴とする引き返し編成された編地である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、往路編成と復路編成との折り返しとなる位置を、移動しながら往路編成と復路編成とを繰り返して、先に編地に傾斜部を形成する。その後、各折り返し近傍の編目に対する割増やし編成によって形成した増し目を折り返し近傍の編目と重ねるため、編地が歯口の下方に下がることを阻害せず、且つ往路と復路の折り返しによる段差部分を繋いで孔明きを防止することができる。
【0011】
また本発明によれば、復路編成の始端となる編目の位置は、その直前に編成された往路編成における終端となる編目よりも1目分編地の端部側(折り返し位置の移動とは反対の方向)に突出しているため、編目の段差を滑らかにし、孔明きを防止することができる。また復路編成の始端となる編目は捻れ目となるため、編地の見栄えも良くなる。
【0012】
また本発明では、重ね目の形成における増し目の移動を折り返し位置の移動と同じ方向にすることで、目移しされた編目が傾斜の上昇方向に沿うため、編地の見栄えがよい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施例である引き返し編成方法の編成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図1の編成図を用いて本発明の一実施例としての引き返し編成方法を説明する。本実施例で編成に使用する横編機は、前後一対の針床を備えた二枚ベッド横編機であり、各針床間で目移しと割増やしが可能である。編成に使用する横編機は四枚ベッドでもよく、横編機に備える編針は、べら針または複合針のいずれであってもよい。また説明の便宜のため、編針の数や往路と復路の折り返し回数は実際の編成よりも少なくしている。図1の編成図にて、図中左側の数字は編成ステップ(S)を示し、左右方向の矢印は編成方向を、上下方向の矢印は目移し方向を示す。FBは前針床を、BBは後針床を示す。大文字のA〜HはFBの編針を、小文字のa〜hはBBの編針を示す。また、太線の丸印はその編成ステップで形成される編目を、細線の丸印はその編成ステップの編成に関係せず編針に係止されたままの編目を、2重の丸印は重ね目を示す。
【実施例】
【0015】
図1は、本発明の実施例として、引き返し編成方法の編成図である。以下、図1で示す編成ステップS1〜S9について説明する。
【0016】
S1は、引き返し編成を開始する直前の編成コースである。給糸口1を図の左方向に移動させながら、FBの編針H〜Aで編目を形成する。
【0017】
S2〜S5は、一対の往路編成と復路編成とを、その折り返しとなる位置を編地の一端側(図の右側)から他端側(図の左側)へ移動させながら、2回繰り返す引き返し編成を行っている。これら編成によって、編地のコース方向端部(図の右側)に傾斜部を形成することができる。
【0018】
S2では、往路編成として右方向にFBの編針A〜Eで新たな編目を形成する。S3では、復路編成として左方向に編針F〜Aで新たな編目を形成する。ここで往路編成の終端となる編目は、編針Eで形成された編目2である。復路編成の始端となる編目は、編針Fで形成された編目4である。即ち往路編成と復路編成を折り返して編成し、復路編成の始端となる編目4の位置は、その直前に編成された往路編成における終端となる編目2よりも1目分編地の右側(折り返し位置の移動とは反対の方向)に突出している。編目4は、S1にて編針Fで形成された編目6に続く編目であり、且つS3で編針Eで形成される編目8と編目2との間を繋ぐ編目でもあり、編目の段差を滑らかにし、孔明き防止にもなっている。
【0019】
S4では、往路編成として右方向にFBの編針A〜Cで新たな編目を形成する。S5では、復路編成として左方向に編針D〜Aで新たな編目を形成する。ここで往路編成の終端となる編目は、編針Cで形成された編目10である。復路編成の始端となる編目は、編針Dで形成された編目12である。復路編成の始端となる編目12の位置は、往路編成における終端となる編目10よりも1目分編地の右側に突出している。S4,S5での編成は、S2,S3での編成に対して折り返しの位置が左側に2目分ずれている。編目12は、前述の編目4と同様の役割をする編目である。
【0020】
S6は、S2〜S5で示した往路編成と復路編成の繰り返しが完了した後に行われる編成コースである。給糸口1を図の右方向に移動させながら、前針床FBの編針A〜Hで新たな編目を形成する。S2〜S5における2回の折り返し近傍である編目8,14に対して割増やし編成を行う。尚、割増やし編成の対象となる編目8,14は、復路編成の始端の編目4,12に隣接する右側の編目であり、編成を休止して編針E,Gで係止していた編目である。割増やし編成の結果、FBの編針E,Gでそれぞれ新たな編目16,18を係止し、BBの編針e,gで割増やし編成による増し目20,22を係止する。
【0021】
S7では、増し目20,22をそれぞれ対向する編針よりも左側の編針D,Fへ目移しする。対向する編針E,G以外へ目移しすればよく、対向する編針よりも右側の編針F,Hへそれぞれ目移ししてもよいが、左側(折り返し位置の移動と同じ方向)の編針D,Fへ目移しする方が傾斜の上昇方向に目移しされた編目が沿うため、編地の見栄えがよい。S8は、S7での目移し後の編目の係止状態を示すものであり、編針Dで編目20と編目24が重ね目28として係止され、編針Fで編目22と編目26が重ね目30として係止されている。
【0022】
S9は、重ね目28,30を係止する編針D,Fを含む編針H〜Aでそれぞれ新たな編目を形成する編成コースである。
【0023】
以上のように、S2〜S5で往路編成と復路編成との折り返しとなる位置を、図の左側に移動しながら往路編成と復路編成とを繰り返して、まず編地の右側に左上がりの傾斜部を形成する。そしてその後S6で、各折り返し近傍の編目に対する割増やし編成によって形成した増し目を目移しして重ね目を形成することで、従来のタックに代わる方法で往路と復路の折り返しによる段差部分を繋いで孔明きを防止することができる。また、従来のタック編成は一対の往路編成と復路編成の途中で行うため、編地が歯口の下方に下がることを阻害するが、本件では傾斜部を先に形成した後に割増やし編成によって孔明きを防止するため、編地が歯口の下方に下がることを阻害しない。
【0024】
本実施例における折り返しの位置の移動は2目分であるが、これに限られることなく、1目や3目であってもよい。例えば折り返しの位置の移動が1目分の場合、S4における往路編成の終端は編針D,S5における始端は編針Eとなり、S6での割増やし編成の対象を編針F,Gとして、各増し目はそれぞれ編針E,Fへ目移しして重ね目を形成すればよい。また、割増やし編成の対象となる編目は、各折り返し近傍の編目であればよく、復路編成の始端の編目に隣接する右側の編目に限らない。
【0025】
また、本実施例では、復路編成の始端となる編目の位置は、その直前に編成された往路編成における終端となる編目よりも1目分編地の右側(折り返し位置の移動とは反対の方向)としているが、往路編成の終端の編目の方が1目分右側に突出するようにしてもよい。本実施例のように復路編成の始端の編目の方を1目分右側に突出させると、その始端となる編目が捻れ目となるため、編地の見栄えがよい。
【0026】
また、セーターの袖山部分などに本発明の引き返し編成方法を適用すると、内減らしを伴うことがある。このような場合は、本実施例のS3とS4の間やS5とS6の間で内減らし編成を行えばよい。従来のタックを利用した方法では内減らしの際に、タックによって二重に重なった編目を目移しする必要があり、編成を困難にする虞がある。しかし、本件の引き返し編成方法では、タックを利用していないため、重なった編目を目移しすることはない。
【0027】
尚、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の主旨に逸脱しない範囲において実施可能である。
【符号の説明】
【0028】
1 給糸口
2,4,6,8,10,12,14,16,18,24,26 編目
20,22 増し目
28,30 重ね目

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも前後一対の針床を有する横編機を用いて、往路編成と復路編成とを繰り返しながら編地に傾斜部を形成するための引き返し編成方法において、
往路編成と復路編成との折り返しとなる位置を、編地の一端側から他端側へ移動させながら、往路編成と復路編成とを繰り返す工程A、
前記工程Aに続いて編目を形成する際に、前記各折り返し近傍の編目に対して割増やし編成を行って、一方の針床に該編目に続く新たな編目と他方の針床に増し目を形成する工程B、
前記工程Bで形成した増し目を、前記各折り返し近傍の編目に重ねて重ね目を形成する工程C、
少なくとも前記工程Cで形成した重ね目に続く新たな編目を形成する工程D、とを備えることを特徴とする引き返し編成方法。
【請求項2】
復路編成の始端となる編目の位置は、該復路編成の直前の往路編成での終端となる編目よりも1目分編地の一端側であることを特徴とする請求項1記載の引き返し編成方法。
【請求項3】
前記工程Bでの重ね目の形成は、前記各割増やし編成を行った編目に対して編地の他端側寄りの編目に前記増し目を重ねることを特徴とする請求項1または請求項2記載の引き返し編成方法。
【請求項4】
少なくとも前後一対の針床を有する横編機を用いて、往路編成と復路編成とを繰り返しながら編地に傾斜部を形成するための引き返し編成された編地において、
往路編成と復路編成との折り返しとなる位置が編地の一端側から他端側へ移動して傾斜部が形成された後、該傾斜部を構成する各折り返し近傍の編目に対して割増やし編成で増し目が形成され、該増し目が前記各折り返し近傍の編目に重ねられた重ね目と少なくとも該重ね目に続く新たな編目とを有することを特徴とする引き返し編成された編地。

【図1】
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【公開番号】特開2013−40413(P2013−40413A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−176691(P2011−176691)
【出願日】平成23年8月12日(2011.8.12)
【出願人】(000151221)株式会社島精機製作所 (357)
【Fターム(参考)】