説明

引張要素駆動装置のための自動プレテンション機構

引張要素駆動装置のケーブルまたは同様な要素をプレテンションするための機構はケーブルのモーター駆動装置をプレテンションのために選択的に結合させる。この機構はケーブルの一部が巻かれたスリーブを使用する。ケーブルの残りの部分の一部はモーターの駆動軸上に反対方向に巻かれる。クラッチはスリーブをモーターの出力軸に接続する。始動機構はスリーブ及びスリーブに巻かれたケーブルの一部の回転を選択的に停止させながら、モーターのトルクが駆動軸に巻かれたケーブルのもう一方の端部に作用することを可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は2003年12月24日出願された米国特許出願No.60/532,847の優先権を主張し、その出願の内容は本願に参照として組み込まれる。
【0002】
本発明は引張要素駆動装置のための自動プレテンション機構(または、自動予備引っ張り機構)に関する。
【背景技術】
【0003】
引張要素駆動装置、特に、微細に撚られた、ステンレス鋼ケーブル駆動装置は高性能自動機器のために使用される機械的伝動において重要な要素になりつつある。増大するコンピューター制御の利用はモーターの命令に素早く応答する、軽量で小型の機器を重要なものにしている。そして、これらの機器の特性の多くは引張要素駆動装置を介して達成される。自動機器に使用される引張要素駆動装置の最も一般的なタイプはケーブル駆動装置であるが、本発明はテープ、バンド、ベルト、ロープ、及びチェーンを含む引張要素駆動装置の他の種類に対しても適用可能である。
【0004】
引張要素駆動装置は適切に設計された場合、高い材料強度、高い剛直、低重量、低い速度の変動、低いトルクの変動、バックラッシュの不在、及び低い摩擦等の特性を有する。さらに、それらは潤滑油の漏れを起こさず、表面潤滑を必要としない。ケーブル駆動装置及び他の種類の引張要素駆動装置は複雑で捻じれを含む幾何的構成を介して滑車の周りで数メートルにわたって誘導されてもよい。ケーブル及び他の引張要素駆動装置は圧縮力やせん断応力を介して力を伝動しないので、歯車の歯、ハーモニックドライブ、リンケージ、駆動軸、及び押棒等で発生する、曲げモーメントやバックリングによって生ずる付加的なコンプライアンス及び強度限界の制限を受ける必要がない。最高圧の油圧システム(40MPa)に比べ、押出ステンレス鋼の引張り強さは、繊維間のエアギャップに対して3分の1に定格を下げた場合であっても、高いオーダーの応力(400MPa)で力を伝動することができるので、ケーブル駆動装置は油圧システムに比べ、非常に大きな出力密度で機械的エネルギーを伝動することができる。信頼性を重視して設計された場合、ケーブル駆動装置は架空索道、ケーブルカー、航空機及びミサイルの操縦面、クレーン、及びエレベーター等の過酷な条件を要求する用途において高い信頼性を得ている。
【0005】
サーボ駆動式のケーブル駆動装置及び他の引張要素駆動装置は、ケーブルがそれらの最大動作張力または少なくともその半分の張力にプレテンションされ(または、予備的に引っ張られ)、それによって、ケーブルがモーターによる最大の動作トルクを受けたときであっても相反するケーブルの組のどちらもがたるまないようにされたときに高い特性を維持することができる。プレテンションは駆動装置または駆動軸から作用されるトルクがゼロであるときに引張要素駆動装置の両方のケーブルに存在する等しい張力である。適当なプレテンションTPが存在するとき、モーターのトルクτMによって駆動される、相反するケーブルの組の瞬時の高いトルクTH及び低いトルクTL

H=TP+τM(rM+rC)>0 及び
L=TP―τM(rM+rC)>0

である。ここで、rCはケーブルの半径であり、rMはモーターの軸の巻きの半径である。動作の前にシステムに適当なプレテンションが存在する限り、全ての動作トルクにおいて両方のケーブルには少なくともある程度のレベルの張力が残り、瞬間的な場合も含めて、両方のケーブルにたるみが形成されないことが確実にされる。
【0006】
たるみは、モーターのトルクが反転するたびに巻き上げなければならないケーブルの負荷を増大させる。(モーターのトルクが反転したとき)モーターは瞬間的にシステムの残りの部分に対して反対方向に加速され、たるみが突然消滅するまでその運動エネルギーを増大させる。そして、増大した運動エネルギーは瞬間的にケーブルの非常に大きな応力に変換され、ケーブルの個々の繊維の局所的な降伏(または、損傷)を生じさせ、ケーブルの急激な伸張及び短時間でのケーブルの破損をまねく。プレテンションはこのような動作を防止するためのものである。
【0007】
プレテンションされたケーブルの組はまた、片方のケーブルだけではなく、ケーブルの組の両方が平行して駆動剛性を高めるために作用することができるので、プレテンションされていないケーブルに対して2倍の駆動剛性を呈する。
【0008】
プレテンションを適用するためにはいくつかの方法があり、それらは例えば、本出願人の米国特許No.5,388,480及びNo.5,046,375、並びに、本出願人の論文「The Effect of Transmission Design on Force-Controlled Manipulation」(Massachusetts Institute of Technology)(1988年)を含み、それらの内容は本願に参照として組み込まれる。しかしながら、これらの従来技術のプレテンション法(例えば、前述の論文及び米国特許No.5,388,480)は自動化されておらず、また、それらの自動化は容易ではない。残念なことに、以下の等式によって与えられる指数的な非線形キャプスタン効果により、ケーブル駆動装置の短い区間に誘発された局所的なプレテンションは駆動装置の残りの部分に容易に移動しないので、プレテンションは非常に反復的な処理である。

H=TL×eμβ

ここでTH及びTLはシリンダーとケーブル表面との間の摩擦係数μとともにシリンダーの周りに半径βで巻かれたケーブルの両端の張力である。金属製またはセラミック製のシリンダー上で動作するステンレス鋼ケーブルの場合、μは0.2<μ<0.5であり、任意のデザインにおいて通常、一定の値である。μがほぼ一定である場合、指数関数的なキャプスタン式はケーブルの巻き数に大きく影響される。
【0009】
例えば、摩擦係数が0.3であり、ケーブルは滑車の周りに5回だけ巻かれていると仮定する。蟻と牛がこの巻かれたケーブルの両端を引く仮定上の綱引きにおいて、蟻は80kg(力)で引く牛を止めるために1gm(力)でケーブルを引けばよい。キャプスタン効果はケーブル駆動装置の多くのデザインの様相を左右する。例えば、通常、脆弱に終端されたケーブルの両端を大きな負荷から保護するために、ケーブルは駆動装置の作用範囲を超えて2〜3回余分に巻かれ、両端に対する衝撃荷重の影響が実質的に排除される。キャプスタン効果はまた、プレテンションを可能にする一般的な分割プニオン法のデザインにも制約を与える。この方法において、2つに分割されたモーターピニオンはプレテンション中に、相対的に反対の方向に回転させられ、ケーブルのたるみを排除し、プレテンションを誘発する。しかしながら、この方法は、両方のケーブルが2つに分割されたモーターピニオンの分割部にまたがっていない場合にのみ動作することができる。ケーブルのどちらか一方が1巻きまたは2巻き以上分割部にまたがっている場合、プレテンションを増大するために必要な相対的な回転はキャプスタン効果によって妨げられてしまうだろう。
【0010】
これに関連する要因は、ピニオンがケーブルの円形の断面形状を支持するらせんとともにスカラップされた場合に、ケーブルが高い性能を呈し、超寿命を有するということである。一方、ピニオンがそのようにされていない場合、ケーブルは巻かれたケーブルの曲線の半径のためにケーブルとピニオン表面との間の高い圧力の下で楕円型になる。ケーブル駆動装置の動作中の、ケーブルはそれがピニオン及び滑車の表面に巻かれたり、解かれたりするときに楕円から円形に周期的に変化する。ピニオンが大きめの直径を有する滑車を駆動する場合、この横方向の圧力はそれらの直径の比率分だけピニオン上で大きくなる。ピニオンと滑車との間でスカラップのパターンを整列させた場合、プレテンションの処理はケーブルの寿命にわたってこの整列を変化させるため、このスカラップのパターンの整列は実質的に実行不可能である。しかし、望まれない圧力はピニオン上で非常に大きいので、ピニオンだけがスカラップされる。しかしながら、ピニオンの分割部のプレテンションは、ケーブルがそれの寿命にわたってプレテンションされるのと同様な整列に対する問題を発生する。それゆえ、周知のプレテンションシステムにおいて、ピニオンはピニオンの分割部の一方の側だけでスカラップされ、もう一方の側はスカラップの底部の半径に一致する単なる円筒形の表面のままにされる。
【0011】
ケーブルの円形の断面と楕円形の断面との間の周期的な変化による損傷は変化の頻度または周期に依存する。平均的な駆動装置の最も活動的な場所のヒストグラムは駆動範囲の中央付近に最大の活動を有し、駆動範囲の両端付近に最小の活動を有するガウス分布に近いものとなる。それゆえ、周知のデザインは、周期的に変化するケーブルがスカラップによって実質的に常に支持されるように、ピニオンの分割部を駆動範囲の端部付近に配置している。この結果、駆動範囲の両端はほとんど使用されない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ケーブルプレテンション生成器は滑車の接線と自由区間の最も近くに巻かれたケーブルの数ラジアンとの間の、ケーブルの(通常、短い)自由区間のコンプライアンスに局所的なプレテンションを生成及び保持するだろう。しかしながら、残りの90%以上のケーブルは影響を受けない。プレテンションを巻きの残りの部分に移動させるための唯一の方法は、ケーブル駆動装置をそれの範囲全体にわたって前後に数回動作させることである。この前後の動きは局所的なプレテンションをケーブル全体に分配し、微弱ではあるがほぼ均一な全体的なプレテンションを生成する。プレテンションをケーブル駆動装置全体にわたって適当なレベルに引き上げるためにはこの処理を複数回繰り返す必要がある。したがって、ケーブル駆動装置をユーザーがプレテンションすることは実質的に不可能であるか、またはユーザーによって不適当にプレテンションされてしまい、増大したコンプライアンス、バックラッシュ、及び急激なケーブルの劣化の結果となってしまう。
【0013】
引張要素駆動装置の最大の欠点は、それらに固有な保守に対する要件を熟知した技術者の不足である。引張要素駆動装置の大きな長所を幅広い分野で利用するためには、ユーザーがケーブル保守の厳しい学習曲線及び面倒な使用方法から開放される必要がある。自動的なプレテンションを取り入れることができれば、ユーザーは引張要素駆動装置に対する最重要で面倒な保守作業に気を使う必要がなくなる。すなわち、埋め込み式の機械知能がケーブルのプレテンションの測定及び維持に対する知識を正確に適用するので、ユーザーにプレテンションをどのように測定及び維持するかを教える必要がなくなる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の自動プレテンション生成器は反復的で面倒なプレテンション処理の一部または全ての自動化を可能にする。本発明は、例えば、手動ウォームプレテンション生成器等を駆動するために同様なトルク能力を有する高価な外付駆動装置を追加するのではなく、プレテンション処理に動力を供給するために高出力でかつ制御可能な駆動装置のトルク自体を使用する。
【0015】
本発明に従ったケーブル駆動装置をプレテンションする(または、予備的に引っ張る)ための装置は回転式出力軸を備えた駆動モーターによって動力を供給される。始動機構はケーブルをプレテンションするために出力軸のトルクを選択的に結合する。
【0016】
本発明の1つの形式において、選択的な始動機構は出力軸の軸方向に拡張する部分にわたって軸方向に拡張するスリーブを有し、1つの方向のみの回転のために出力軸に機能的に結合する。ケーブルは1つの向きにおいて前記出力軸に巻かれ、もう1つの向きにおいて前記スリーブに巻かれる。機械的始動装置は出力軸に対するスリーブの全ての回転を選択的に防止する。結果として、機械的始動装置が選択的に起動されたとき、モーターは事前のプレテンションに打ち勝ち、出力軸をスリーブに対してプレテンションを増大する方向に回転させる。始動機構はスリーブが回転することを防止し、それによってプレテンション処理を開始する小型の電気ソレノイドであってもよい。
【0017】
本発明の他の実施例は純粋に、主要なサーボモーターの動作に依存する始動機構を使用する。もう1つの形式において、機械的始動装置はケーブルが軸とスリーブの間の分割部付近の場所から解かれたときに結合する。ケーブル駆動装置のケーブルの横方向の動きは始動機構を起動する。
【0018】
もう1つの形式において、本発明は回転式結合ロックを含む。出力軸は入力部を結合ロック機構に駆動し、モーターが予め正確に決められた駆動位置の特定のシーケンスでモーターの速度を逆転させた後のみ、任意の駆動場所においてプレテンションが開始されることを可能にする。本発明はまた、プレテンションのレベルを設定するために、例えば、モーターに動力を供給する巻き電流のコントローラー等の、モーターのためのトルク制御装置を含んでもよい。
【0019】
他の形式において、本発明は:(i)最後のプレテンション位置を感知及び保存し、それによってケーブル駆動装置に実際に加えられるプレテンションの程度を監視するためのエンコーダー及びプロセッサー;(ii)プレテンションを測定する装置;及び、(iii)少なくとも始動機構に機能的に接続されたプロセッサーであって、特定のユーザー及びアプリケーションに対して学習及び適応するニューラルネットワークアルゴリズムを動作させ、及び(または)通信ネットワーク上にスケジュール及び警告情報を送信するプロセッサーを含んでもよい。
【0020】
本発明のこれら及び他の特徴及び目的は付随する図面とともに以下の本発明の例としての実施例の詳細な説明を読むことによりより明らかになるだろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1は本発明に従った自動プレテンション生成器を備えた、単純な、一段式引張要素駆動装置を図示している。サーボモーター1は2つの直径2a及び2bを有する出力軸2にトルクを適用するために動作している。Timken/TorringtonのRC-061008-FSシェル形ローラークラッチ等の、一方向クラッチ3はスリーブ4が軸2に対して時計方向15に回転することを防止する。ケーブル5はスリーブ4の表面8に固定され、右回りのらせんに沿ってモーター1の面部に向かって時計方向15に複数回巻かれている。ケーブル5は矢印19で示されているように、駆動される滑車11の表面まで接線方向に張られ、それのピッチ角を維持しながら、滑車11の表面上の端部7で固定されるまで同じピッチ角を維持するために続けられるもう1つの右回りのらせんに沿って時計方向18で複数回巻かれる。同様に、第2のケーブル6は滑車の反対側の端部9に固定され、ケーブル5が張られる位置とほぼ同じ横方向の位置17で接線方向に張られるまで右回りのらせんに沿って、ケーブル5と同じピッチ角を使用して時計方向18に複数回巻かれている。そして、ケーブル6は、それが軸2のアンカー10で終端するまで、大きめの軸の表面2a上で右回りのらせんに沿って、同じピッチ角で時計方向15に複数回巻かれる。ソレノイド13の底部はモーター1に対して固定されている。通常の動作中、それのプランジャー14は収縮した状態にあり、スリーブ4上に固定され、そこから放射方向に拡張する剛性の指部12が妨害されずに回転することを可能にする。
【0022】
ケーブルのプレテンションTPが理想的なプレテンションT*P未満になったとき、図2、3、4に図示されているように、自動プレテンション生成器はそれを回復させることができる。プランジャー14はソレノイド13から拡張しており、モーターは指部12がプランジャー14の反作用力16によって停止されるまで時計方向15に回転するように命令される。モーターのトルクがその時のプレテンションより大きくなったとき、それは増大したプレテンションに対応する、軸2とスリーブ4との間の相対的な小さな動きを誘発する。
【0023】
始動の種類にかかわらず、本発明の自動プレテンション生成器は図5のフローチャートに示されている処理を使用して、知的機械の埋め込み式プロセッサーを利用する。図5は、局所的なプレテンションを加え、駆動装置を全体的な範囲に対して複数回前後に動作させ、その後に、さらなる局所的プレテンションを加え、さらに処理を繰り返す、高度に反復的な処理を図示している。サーボ機構はプレテンション動作の各々において予め決められたトルクを正確に適用する。図5のフローチャートで必要なサイクルの数を減少させるために、最終的な所望の全体的なプレテンションよりかなり大きい局所的なプレテンションを設定する等の、処理を最適化するために複数の手法を利用することができる。サーボモーターがプレテンションを回復するためにトルクを適用したときは常に、結果としてのエンコーダーの位置及び適用されたトルクを保存する。そして、次のプレテンション動作において、任意の変化を測定するために新規のエンコーダーの位置が最後に保存されたエンコーダーの位置と比較されてもよい。位置に変化が存在しない場合、プレテンションの増大は発生しない。システムにプレテンションが加えられると、位置の差異は漸近的にゼロに減少する。予め決められた適当に小さい位置の差異になった時点で、全体的なプレテンションが達成されたと見なされ、駆動装置はさらなる使用のために準備状態にされる。
【0024】
自動プレテンション生成器はシステムがプレテンションの維持のパターンを監視及び記録することに対する可能性を広げる。駆動装置がどの程度の長さ、どの程度の速さで、どの程度の強度で動作させられるか等の、サーボ駆動コントローラーに対して利用可能な他の情報との組み合わせで、埋め込まれた機械知能は最良のプレテンション維持スケジュールを改善するために特定のユーザー及びアプリケーションに適応することができる。また、初期の設置及びケーブルのプレテンションからのスリーブ4の回転方向の変位の記録はケーブルの取り替えの必要性を予想し、電子メールを介してユーザーに警告し、そして、取替え用のケーブルの組を自動的に発注するかまたはXMLインターネットプロトコルによって機器の納入業者へのサービスコールをスケジュールすることを援助することができる。
【0025】
さらに詳細に述べると、本発明のプレテンション生成器はケーブルの破損を予想するために感知器のデータを使用することができる。この動作はニューラルネットの学習アルゴリズムに対するハンドウェービーポインターに類比することができる。各接合軸に対し、動装置は改善がほとんどなくなるまで、複数回プレテンションを設定しなければならない。プレテンションの反復の組全体にわたって、必要とされたエンコーダーのカウント数の全数を判断することができなければならない。この数が大きいほど、再プレテンションに対するケーブルの必要性は悪い状態にある。それは最後のプレテンションからの長時間の経過であってもよいし、または、最後の引っ張りから少なくとも特定のケーブル駆動が(例えば、40,960エンコーダーカウント/回転等の)多数のモーターの回転を駆動した場合であってもよい。例えば、10,000のモーターの回転にわたるたるみの「通常」の量が100エンコーダーカウント(1%の伸張よりはるかに少ない)であると仮定する。次のプレテンションの前にアームが20,000モーター回転のために動作し、それが200エンコーダーカウントの伸張の結果となった場合、これは良好であると見なされる。しかし、伸張の比率は損傷の前に急激に増大する。それゆえ、次の20,000モーター回転が、例えば、1000エンコーダーカウントの伸張を発生した場合、保守がスケジュールされてもよい。
【0026】
また、車のタイヤと同様に、タイヤを交換しなければならない状態の前に特定の距離(キロメートル)を仮定してもよい。しかし、通常のタイヤの組が例えば、インディ500等のレースに使用された場合、これらの同じタイヤが800Km持たないことは容易に理解できるだろう(実際、それらのタイヤはそのような長距離レースの間に交換される)。同様に、ケーブル駆動装置においても、各エンコーダーカウントまたは各モーター回転に対する速度、加速度、及びトルクの状態を収集及び格納することができる。これにより、量的な要素に加え、運転時の過酷さを考慮に入れることができるようになるだろう。
【0027】
ここまで、ソレノイドを用いた方法によってプレテンション処理が容易に実施されることを説明してきたが、以下に本発明の代替的な方法を説明する。本発明の実施例は特定の用途に応じて構成されてもよい。サーボモーターの制御以外の信号の制御を与えることが困難な場合や、ソレノイドに対する電源が存在しない場合、本発明の代替的な解決法はこれらを必要とせず、その代わりに、駆動範囲の最端部付近のモーターの位置の正確な制御やケーブルのたるみ等の他の要因に依存する。
【0028】
ここで、最近のサーボ駆動装置を使用する場合、機械的な駆動範囲の制限による停止より僅かに制限の大きい電子的に駆動される、仮想上の駆動範囲の制限を設計することが一般的であることに注意する必要がある。この差異はプレテンション処理の開始等の、特別な使用のために取っておくことができる小さな禁止領域を生成する。以下の2つの方法の各々はこれらの特徴を利用している。
【0029】
図6に示されている構造を利用する方法はプレテンション処理を開始するためにケーブルのプレテンション自体を使用する。図6Aはプレテンション処理が望まれないときの、通常の駆動動作中の始動機構を示している。拡張可能指部21はスリーブ29のスロット内で放射方向にスライドするように制限されている。圧縮バネ20は指部21を外側方向に向かわせる力を加えている。しかしながら、通常の動作の場合、ピン23は角度付けられたスロットを介して、バネ20を圧縮し、指部21を収縮位置に保持するために適当な、反対向きの半径方向の力28を加えている。ピン23は接続ロッド22と一致して軸方向27の方向のみに動くように制限されている。接続ロッド22は角度付けられたピン24を押している、巻かれたケーブル5の力26によって反対側の端部で駆動される。図6Bはプレテンション処理の開始の直前の機構を示している。図6Cにおいて、ピン24が露出される位置までケーブル5が解かれたとき、指部21の収縮力が消滅し、指部21が外側方向32に押し出され、ピン23が押され、そして、接続ロッド22横方向31にスライドする。指部21が展開すると、それは次の時計方向15の回転で反作用力とともに固定された障害物25に結合し、サーボモーターがプレテンションを設定することを可能にする。ここで、プレテンションが開始された後、どちらのケーブルもピニオン分割部の端部34に交差しないことに注意しなければならない。この方法において、システムはケーブルが完全に設置され、プレテンションされるまでスリーブ4の回転を阻止するように初期状態が設定されている。これは手作業によるケーブルの設置及びプレテンションの開始を援助するために能動的なモーターが利用されている場合に有利である。この図6の方法は通常、ケーブルを駆動範囲の端部に移動させること、すなわち、ピン24を解放するためにケーブル5を巻き戻すことによって開始される。しかしながら、図6の構成においては、本来、通常な状態の下にあるべきケーブルのプレテンションの喪失または低下によっても、プレテンション処理が自動的に開始される。
【0030】
図7はケーブル6の自由区間の軸方向の動きを利用する、プレテンション処理を開始するためのもう1つの構成を図示している。図7A及び7Bは通常動作のシステムを示している。スライダー38は可動不能なベース部35に取り付けられており、軸方向の内腔によって軸方向にのみ移動するように制限されている。スライダー38はそれが回転することを防止するために一方の端部が方形であり、それによってローラー39は常に垂直の状態でケーブル6に結合する。ローラー39はスライド摩擦によるケーブル6の損傷を防ぐために備えられている。バネ37はシステムを収縮状態に維持するので、方形面36は通常の状態において指部12を妨害しない。スライダー38の方形端の保持構造は、それが対応する内腔を通って可動不可能なベース部35内に完全にスライドすることを防止する。プレテンションが望まれるとき、モーターは、図7C及び7Dに示されているように、それの駆動範囲の端部付近まで駆動され、モーターが時計方向15に回転するにつれ、ケーブル6はローラー39と最初の接触を起こす。図7E及び7Fに示されているように、ケーブルとローラーが完全に結合したとき、バネ37はケーブルの横方向の力43によって圧縮され、スライダー38が指部12の経路内に拡張することを可能にする。指部12の次の回転時に、位置42に適用される力41はスリーブ4を停止させ、サーボモーターがプレテンションを設定することを可能にする。この図7の方法は、ケーブルが完全に設置されプレテンションされる後まで、(自動的な)プレテンションを開始することができないという意味において、事前の図6の方法と逆である。この構成は、モーター1が、例えば安全上の理由等により、手動によるケーブル動作中に利用されていない場合等に有利である。
【0031】
ここまで本発明が複数の例としての実施例とともに説明されてきたが、本発明に対して多様な変更及び改良を加えることができることは当業者にとって明白であるだろう。したがって、そのような変更及び改良も付随する請求の範囲によって規定される本発明の範囲に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に従った引張要素(ケーブル)駆動自動プレテンション機構の斜視図である。
【図2】結合された始動機構を備える、図1に示されている機構の斜視図である。
【図3】図1に示されていているプレテンション機構の側面及び部分的な断面の詳細な図である。
【図4】図2に示されていているプレテンション機構の側面及び部分的な断面の詳細な図である。
【図5】所望のレベルのプレテンションを適用または回復するための、図1−4の自動プレテンション機構の制御のフローチャートである。
【図6】図6A〜Cは、部分的に切り取られた、本発明の代替的な実施例の斜視図である。
【図7A】部分的に切り取られた、本発明の代替的な実施例の通常動作中の底面図及び側面図である。
【図7B】部分的に切り取られた、本発明の代替的な実施例の通常動作中の底面図及び側面図である。
【図7C】ケーブルがスライダーと最初に接する状態の、図7A−Bに対応する図である。
【図7D】ケーブルがスライダーと最初に接する状態の、図7A−Bに対応する図である。
【図7E】ケーブルがスライダーと完全に結合した状態の、図7A−B及び図7C−Dに対応する図である。
【図7F】ケーブルがスライダーと完全に結合した状態の、図7A−B及び図7C−Dに対応する図である。
【符号の説明】
【0033】
1 モーター
2 出力軸
3 一方向クラッチ
4 スリーブ
5,6 ケーブル
7−10 アンカー(ケーブル固定場所)
11 滑車
12 指部
13 ソレノイド
14 プランジャー
20 バネ
21 指部
22 接続ロッド
23 ピン
24 ピン
25 障害物
29 スリーブ
35 ベース部
36 方形面
37 バネ
38 スライダー
39 ローラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転式出力軸を備えた駆動モーターによって動力を供給される引張要素駆動装置をプレテンション処理するための装置であって、引張要素をプレテンションするために前記出力軸のトルクを選択的に結合させる始動機構を備えた装置。
【請求項2】
前記選択的始動機構が完全に自動である、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記選択的接続器が半自動的である、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記選択的始動機構が前記出力軸の軸方向の拡張部分にわたって軸方向に拡張するスリーブであって、1つの方向のみの回転のために前記出力軸に機能的に結合するスリーブ、及び、前記スリーブの前記出力軸に対する回転を選択的に防止する機械的装置を備え、前記引張要素が1つの向きにおいて前記出力軸に巻かれ、もう1つの向きにおいて前記スリーブに巻かれ、それによって、前記機械的装置が選択的に起動されたときに、前記モーターが事前のプレテンションに打ち勝ち、前記出力軸を前記スリーブに対してプレテンションを増大させる方向に回転させる、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記機械的装置がソレノイドを備える、請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記機械的装置が、引張要素が存在しないときに結合した状態になるように初期設定されている、請求項4に記載の装置。
【請求項7】
前記機械的装置が、引張要素が存在しないときに分離した状態になるように初期設定されている、請求項4に記載の装置。
【請求項8】
前記機械的装置が、前記引張要素が前記出力軸と前記スリーブの間の分割部付近の場所から解かれたときに結合する、請求項4に記載の装置。
【請求項9】
前記機械的装置が、前記ケーブル駆動装置が動作しているときの前記引張要素の横方向の動きによって動作される、請求項4に記載の装置。
【請求項10】
前記機械的装置がプレテンションを開始するためにナットを軸方向に駆動するネジまたはボールネジを備える、請求項4に記載の装置。
【請求項11】
回転式結合ロックをさらに備え、前記出力軸が入力部を前記回転式結合ロック機構に駆動し、前記モーターが予め正確に決められた駆動位置の特定のシーケンスで前記モーターの速度を逆転させた後のみ、任意の駆動場所においてプレテンションが開始されることを可能にする、請求項4に記載の装置。
【請求項12】
結合に一致するためにn回の速度の反転が必要なときに前記知的機械に機能的に結合されるプロセッサーであって、最後のn−I回の速度の反転の位置を記録するプロセッサーをさらに備え、前記プロセッサーが結合の完了となるべき命令された速度反転位置に対して僅かな距離を加えるまたは減ずることによって結合の成功した完了を防ぐ、請求項11に記載の装置。
【請求項13】
前記始動機構がバネ及びトリガを含み、プレテンション処理の直後の前記モーターの通常の回転がバネを圧縮し、適当な結合ロックの回転が始められたときに前記トリガによってそれが解放されることを可能にする、請求項11に記載の装置。
【請求項14】
プレテンションのレベルを設定する、前記モーターに対するトルク制御装置をさらに備える、請求項1に記載の装置。
【請求項15】
前記トルク制御装置が前記モーターに動力を供給する巻き電流に対するコントローラーを備える、請求項14に記載の装置。
【請求項16】
前記引張要素駆動装置に実際に加えられるプレテンションの程度を監視するために、最後のプレテンション位置を感知及び保存するエンコーダー及びプロセッサーをさらに備える、請求項1に記載の装置。
【請求項17】
前記引張要素駆動装置がキャプスタン効果を呈し、プレテンション装置が少なくとも1回以上駆動範囲全体にわたって駆動装置の動作を交互にするシーケンスで複数の局在的プレテンションを生成するために動作する、請求項16に記載の装置。
【請求項18】
正確な全体的なプレテンションを達成するための局在的なプレテンション処理の反復回数を減少させるために前記プレテンションが最終的に望まれるプレテンションを超えて設定される、請求項1に記載の装置。
【請求項19】
プレテンションを測定するための手段をさらに備える、請求項1に記載の装置。
【請求項20】
前記測定手段がひずみ計を備える、請求項19に記載の装置。
【請求項21】
少なくとも前記始動機構に機能的に接続されたプロセッサーであって、個々のユーザー及びアプリケーションに対して学習及び適応するニューラルネットワークアルゴリズムを動作させるプロセッサーをさらに備える、請求項1に記載の装置。
【請求項22】
前記プロセッサーが自動的な保守スケジュールの開発を援助する、請求項21に記載の装置。
【請求項23】
前記プロセッサーがスケジュール及び警告情報を通信ネットワーク上に送信する、請求項21に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図7D】
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【図7E】
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【図7F】
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【公表番号】特表2007−531846(P2007−531846A)
【公表日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−547405(P2006−547405)
【出願日】平成16年12月23日(2004.12.23)
【国際出願番号】PCT/US2004/043428
【国際公開番号】WO2005/065275
【国際公開日】平成17年7月21日(2005.7.21)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ハーモニックドライブ
【出願人】(506217025)バレット テクノロジー インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】