説明

引張試験片の標点距離ケガキ用冶具

【課題】試験片に標点距離を規定するケガキ線を入れる際、必要なケガキ線のみを適正な位置に迅速に入れることができる標点距離ケガキ用冶具を提供する。
【解決手段】上面を平面とした台座の上面に固定され、それぞれ試験片S1,S2の肩部を保持する保持部2a−2,2b−2及び2a−3,2b−3を有する一対の試験片保持部材2a,2bと、試験片の標点距離と等しい間隔をもって平行に形成された対向する側辺4a,4bを有する標点距離規定板4と、一対の試験片保持部材2a,2bを跨ぐように配置された門型の支承部材3とを備える。標点距離規定板4は、回転軸5を介して支承部材3に支持され、回転軸5を回転させることによって水平回転することなく垂直方向に昇降するように設けられており、回転軸5を回転させることにより、標点距離規定板4が下降して、この標点距離規定板4と台座1の上面とによって試験片の平行部を挟んで固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、金属材料の機械的強度の評価方法である引張試験に用いられる板状の引張試験片(以下「試験片」という。)に、標点距離を規定するケガキ線を入れるときに使用する標点距離ケガキ用冶具に関する。
【背景技術】
【0002】
引張試験では、試験機にて試験片のつかみ部を握持し、軸方向に荷重を加えて引っ張り、標点距離の伸びを測定する。したがって、事前に伸び測定の基準となる標点距離が分かるように、試験片に標線となるケガキ線を入れる必要がある。ケガキ線の入れ方は、従来、1枚の試験片毎にスケールを用い規定の標点距離を測定後、一旦ポンチで印を付け、その印に沿って罫書くというものであった。そのため、ケガキ線を入れるのに手間と時間が掛かっていた。
【0003】
そこで、試験片にケガキ線を入れる作業を省くことのできる手段として、印刷、捺印等の方法でマーキングすることも行われている。例えば、格子と円の組合せからなる標線パターンを有する標線スタンプを試験片に押付けて標線パターンを印刷する技術が特許文献1に開示されている。
【0004】
また、試験片自体の製作については、切削前試験片(短冊状板材であり、以下「供試材」という。)から1種類又は複数種類の試験片を製作するに際し、試験項目と試験片サイズ別にロット編成して、さらに、試験片の加工品質を確保するため、積重ねた供試材をバイブレータ付きアライニング装置で加振しながら、幅及び長さ方向に端面を強制的に揃えた後、ロット単位で一括ドライ切削加工する技術が特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平6−42201号公報
【特許文献2】特開平7−301584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のように標線パターンを印刷する技術では、試験片の表面状態やスタンプインクの濃度により、試験片に印刷された標線パターンの乱調やかすれ、濃淡が生じるほか、格子線が多数存在することから所定の標点距離の読み間違いを生じることがあった。
【0007】
特許文献2のようにロット単位で一括ドライ切削加工する技術では、供試材は、JIS規格による試験片の平行部の長さ(P)、肩部の半径(R)の数値に基づいて切削加工される。この加工前にはアライニング装置によりその端面が揃えられるものの、その後、エンドミルドリル等の切削加工装置へ送られ、クランプ後、切削加工されるため、加工精度の問題もあって、ロットの各々の供試材の端面に若干の乱れが生じることがある。そうすると、一方の端面を基準にスケールを用いて標点距離を定めた場合、試験片の平行部の中心(試験片の長手方向を2分割する位置)が同一ロットを構成する試験片で異なることになり、引張試験結果のばらつきや誤差の原因となる。
【0008】
本発明は、このような従来技術における問題点を解消しようとするものであり、その課題は、試験片に標点距離を規定するケガキ線を入れる際、必要なケガキ線のみを適正な位置に迅速に入れることができる標点距離ケガキ用冶具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の標点距離ケガキ用冶具は、上面を平面とした台座の上面に固定され、それぞれ試験片の肩部を保持する保持部を有する一対の試験片保持部材と、試験片の標点距離と等しい間隔をもって平行に形成された対向する側辺を有し、この対向する側辺が一対の試験片保持部材によって保持された試験片の平行部の長手方向に垂直であって、かつ前記平行部の上方に位置するように配置された標点距離規定板と、一対の試験片保持部材を跨ぐように配置され、一対の試験片保持部材に固定された門型の支承部材とを備え、標点距離規定板は、回転軸を介して前記支承部材に支持され、前記回転軸を回転させることによって水平回転することなく垂直方向に昇降するように設けられており、前記回転軸を回転させることにより、標点距離規定板が下降して、この標点距離規定板と台座の上面とによって試験片の平行部を挟んで固定するようにしたことを特徴とするものである。
【0010】
本発明では、一対の試験片保持部材のそれぞれの両側に引張試験片の肩部を保持する保持部を設け、2枚の引張試験片を同時に平行に保持可能とすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の標点距離ケガキ用冶具によれば、一対の試験片保持部材によって試験片の肩部を保持した上で標点距離規定板をガイドとして使用することで、試験片に必要なケガキ線のみを適正な位置に迅速に入れることができる。つまり、試験片の肩部を保持した上でケガキ線を入れるので、試験片の適正な位置にケガキ線を入れることができる。しかも、スケールやポンチを使用する必要がなく、標点距離規定板をガイドとして使用するので、必要なケガキ線のみを迅速に入れることができる。
【0012】
また、標線パターンを印刷するものと比べ、ケガキ線は明瞭であり、所定の標点距離の読み間違いも生じることはない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の標点距離ケガキ用冶具を示す図で、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は右側面図である。
【図2】本発明の標点距離ケガキ用冶具の使用状態を示す図で、(a)は平面図、(b)は正面図である。
【図3】JIS Z 2201に規定する試験片を示し、(a)は5号試験片、(b)は13B号試験片を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面に示す実施例に基づき説明する。
【0015】
本発明の標点距離ケガキ用冶具を使用してケガキ線を入れる試験片としては、図3に示す、JIS Z 2201に規定する5号試験片及び13B号試験片が圧倒的に多いので、本実施例では、5号試験片及び13B号試験片にケガキ線を入れる場合を説明する。なお、5号試験片及び13B号試験片の規格は表1に示すとおりである。
【0016】
【表1】

【0017】
図1を参照すると、上面を矩形平面とした台座1の上面に、一対の試験片保持部材2a,2bが間隔をおいて対向するように固定されている。そして、一対の試験片保持部材2a,2bを跨ぐように門型の支承部材3が配置され、その立柱部3a,3aの下端が一対の試験片保持部材2a,2bに固定されている。また、矩形の標点距離規定板4が回転軸5を介して支承部材3に支持されている。
【0018】
以下、各部材の詳細な構成を説明するが、説明の便宜上、図1及び図2において横方向をX方向、縦方向をY方向という。
【0019】
一対の試験片保持部材2a,2bは、いわゆる舟形状を有し、対向する各側辺2a−1,2b−1がY方向に沿って平行となるように形成されている。側辺2a−1,2b−1間のX方向の間隔は標点距離規定板4のX方向の長さ(標点距離)と等しくしている。
【0020】
また、一対の試験片保持部材2a,2bのそれぞれの両側には、保持部2a−2,2b−2及び保持部2a−3,2b−3が形成されている。一側の保持部2a−2,2b−2は5号試験片の肩部の形状に倣った形状を有し、他側の保持部2a−3,2b−3は13B号試験片の肩部の形状に倣った形状を有する。すなわち、一側の保持部2a−2,2b−2は5号試験片の肩部の半径Rと等しい半径の曲面に形成され、他側の保持部2a−3,2b−3は13B号試験片の肩部の半径Rと等しい半径の曲面に形成されている。そして、保持部2a−2,2b−2間のX方向の間隔を5号試験片の肩部間の間隔と等しくし、保持部2a−3,2b−3間のX方向の間隔を13B号試験片の肩部間の間隔と等しくすることで、図2(a)に示すように、保持部2a−2,2b−2によって5号試験片S1の両肩部を保持するとともに、保持部2a−3,2b−3によって13B号試験片S2の両肩部を保持し、かつ5号試験片S1と13B号試験片S2を平行に保持することができる。
【0021】
このように一対の試験片保持部材2a,2bに保持部2a−2,2b−2及び保持部2a−3,2b−3を設けることで、規格の異なる試験片S1,S2であっても共通の台座1上で一度にケガキを行うことが可能となる。この場合、2枚の試験片S1,S2の対向する長辺部が接触しないように試験片保持部材2a,2bのY方向の幅を大きくして、舟形状の先頭部を切り落とした平面部を形成することが好ましい。
【0022】
なお、台座1のY方向の幅は、2枚の試験片S1,S2を一対の試験片保持部材2a,2bのそれぞれに合致する側にセットしたときの幅以上とすることが、ケガキを行う際の安定した作業のためにも好ましい。さらに、ケガキ作業を安定して行うために、台座1の試験片搭載面(上面)の下方にマグネットを設けて試験片を磁着するようにしても良い。
【0023】
標点距離規定板4は、試験片の標点距離と等しい間隔をもって平行に形成された対向する側辺4a,4bを有し、この対向する側辺4a,4bが図2(a)に示すように一対の試験片保持部材2a,2bによって保持された試験片S1,S2の平行部の長手方向(X方向)に垂直であって、かつ前記平行部の上方に位置するように配置される。また、標点距離規定板4の側辺4a,4bのY方向の長さは、本実施例においては図2(a)に示すように試験片S1,S2の平行部を完全に横切る長さとしている。具体的には、試験片S1,S2のつかみ部の幅の合計と試験片S1,S2の離間距離とケガキ作業の余裕代の見込み長さを加えた長さとする。なお、標点距離規制板4のY方向の長さに合わせて台座1の上面のY方向長さを決めることが安定的作業のためには好ましい。
【0024】
標点距離規定板4を支承部材3に支持する回転軸5は、支承部材3の梁部3bの中央部に設けた貫通孔を貫通して装着され、その貫通した上端に操作ノブ6が設けられている。この操作ノブ6によって回転軸5を回転させる。
【0025】
回転軸5の中間部には雄ねじ部が設けられており、この雄ねじ部が標点距離規制板4に設けた雌ねじ孔に螺着されている。また、回転軸5の下端部分は台座1に設けた貫通孔に装着されている。上述のように標点距離規定板4のX方向の長さは一対の試験片保持部材2a,2bの対向する各側辺2a−1,2b−1間の間隔と等しいので、標点距離規定板4は、図1及び図2に示すように一対の試験片保持部材2a,2b間に丁度嵌り込む。したがって、操作ノブ6によって回転軸5を回転させると、標点距離規定板4は水平回転せず、垂直方向に昇降する。
【0026】
本実施例では、標点距離規定板4を安定して昇降させるために、回転軸5の両側にガイド軸7を支承部材3の梁部3bと台座1との間に設け、これらのガイド軸7に対応する貫通孔を標点距離規定板4に設け、この貫通孔にガイド軸7を挿通させて標点距離規定板4の昇降動作をガイドするようにしている。
【0027】
次に、本実施例の標点距離ケガキ用冶具を使用したケガキ作業の要領を説明する。
【0028】
まず、試験片S1,S2を台座1の上面に載せ、台座1の上面に固定された一対の試験片保持部材2a,2bの両側の保持部2a−2,2b−2及び保持部2a−3,2b−3にそれぞれ試験片S1とS2の肩部を合致させる。なお、一対の試験片保持部材2a,2bの保持部2a−2,2b−2及び保持部2a−3,2b−3のX方向の間隔と形状は、JIS規格に合わせているので、試験片S1,S2の肩部が保持部2a−2,2b−2及び保持部2a−3,2b−3に合致するか否かで、試験片S1,S2の寸法精度を確認することができる。
【0029】
試験片S1,S2の肩部を保持部2a−2,2b−2及び保持部2a−3,2b−3に合致させた後、操作ノブ6によって回転軸5を回転させて、標点距離規定板4を下降させ、この標点距離規定板4と台座1の上面とによって試験片S1,S2の平行部を挟んで台座1の上面に固定する。
【0030】
試験片S1,S2を台座1の上面に固定した後、標点距離規制板4のY方向の側辺4a,4bをガイドとして、試験片S1,S2にY方向のケガキ線を引く。ケガキ線を引き終わったら、操作ノブ6によって回転軸5を逆方向に回転させて、標点距離規定板4を上昇させ、試験片S1,S2を台座1から取り出す。
【0031】
このように本発明の標点距離ケガキ用冶具を使用すれば、試験片S1,S2に標点距離を規定するケガキ線を簡単かつ正確に入れることができ、多くの試験片を短時間に処理することが可能となる。
【0032】
なお、本実施例では、一対の試験片保持部材2a,2bにより5号試験片S1と13B号試験片S2を保持するようにしたが、一対の試験片保持部材2a,2bの配置やその保持部2a−2,2b−2及び保持部2a−3,2b−3の形状を変更することにより、JIS規格の他の試験片を保持するようにすることができる。また、標点距離も標点距離規定板4のX方向の長さを変更することにより変更可能である。この場合、一対の試験片保持部材2a,2bのX方向の間隔も併せて変更する。
【符号の説明】
【0033】
1 台座
2a,2b 試験片保持部材
2a−1,2b−1 側辺
2a−2,2b−2,2a−3,2b−3 保持部
3 支承部材
3a 立柱部
3b 梁部
4 標点距離規定板
4a,4b 側辺
5 回転軸
6 操作ノブ
7 ガイド軸
S1 JIS 5号試験片
S2 JIS 13B号試験片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面を平面とした台座の上面に固定され、それぞれ引張試験片の肩部を保持する保持部を有する一対の試験片保持部材と、
引張試験片の標点距離と等しい間隔をもって平行に形成された対向する側辺を有し、この対向する側辺が一対の試験片保持部材によって保持された引張試験片の平行部の長手方向に垂直であって、かつ前記平行部の上方に位置するように配置された標点距離規定板と、
一対の試験片保持部材を跨ぐように配置され、一対の試験片保持部材に固定された門型の支承部材とを備え、
標点距離規定板は、回転軸を介して前記支承部材に支持され、前記回転軸を回転させることによって水平回転することなく垂直方向に昇降するように設けられており、
前記回転軸を回転させることにより、標点距離規定板が下降して、この標点距離規定板と台座の上面とによって引張試験片の平行部を挟んで固定するようにした引張試験片の標点距離ケガキ用治具。
【請求項2】
一対の試験片保持部材がそれぞれ両側に引張試験片の肩部を保持する保持部を有し、2枚の引張試験片を平行に保持可能とした請求項1に記載の引張試験片の標点距離ケガキ用治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−226807(P2011−226807A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−94175(P2010−94175)
【出願日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【出願人】(000159618)吉川工業株式会社 (60)
【Fターム(参考)】