説明

引張試験用掴み具

【課題】簡易な装置および操作により合成樹脂製の試験片のチャック切れを防止できる引張試験用掴み具を提供すること。
【解決手段】引張試験機に連結される掴み具本体2に着脱可能に形成される締結具10が、掴み具本体2から取り外された状態で冷却される。冷却された締結具10を掴み具本体2に取り付けた後、チャック3,4により試験片Tの端部を把持すると、試験片T及びチャック3,4と締結具10との間の熱伝導により試験片Tの端部が冷却される。試験片T及びチャック3,4が冷却される結果、締結具10は温められる。締結具10の温度は指標部により示され、試験片Tが冷却されたかを推定できる。合成樹脂製の試験片は冷却されると硬さが増すので、試験片の端部が冷却された後に引張試験を行うことで、試験片Tの端部近傍で局部変形が起こることを防止でき、チャック切れを防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は引張試験用掴み具に関し、特に、簡易な装置および操作により合成樹脂製の試験片のチャック切れを防止できる引張試験用掴み具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、合成樹脂材料の引張試験は、試験片の両端部を一対の掴み具で把持し、引張試験機により負荷軸に沿って掴み具の間で試験片に引張力を与えることにより行われる。掴み具の把持力が小さいと、引張力を与えるときに試験片が掴み具から抜けてしまう。これを防ぐため、掴み具の把持力を大きくすると、掴み具の近くで試験片は局部変形を起こし、そこで破断することがある(以下「チャック切れ」と称す)。チャック切れによる破断荷重は合成樹脂材料の本来の破断荷重より小さいため、チャック切れが生じると、正確な試験結果が得られないという問題がある。
【0003】
金属材料の引張試験においても、これと似通った現象が生じることが知られている。これを防ぐため、金属材料の引張試験装置においては、試験片の両端を把持するチャックを室温以下の温度に冷却する冷却手段と、試験片の中央部の表面温度を規定温度に制御する温度制御手段とを備えるものが開示されている(特許文献1)。特許文献1に開示される技術では、試験片の両端を室温以下の温度に冷却し、試験片の中央部の表面温度を規定温度に制御する。これにより試験片の端部の引張強さを中央部の引張強さより大きくすることができ、チャック切れを防止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−249011号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示される技術は金属材料の引張試験に関するものであり、合成樹脂材料の引張試験に関して、チャック切れを防止するための技術は存在しなかった。
【0006】
また、特許文献1に開示される技術を合成樹脂材料の引張試験に適用した場合には、引張試験機は、チャック内に設けられる冷却コイルに接続される冷却装置と、試験片の中央部近くに取り付けられる加温コイルと、試験片の中央部の表面温度を検出する温度センサと、冷却装置、加温コイル及び温度センサに接続される温度制御装置とを備え、温度制御装置により試験片の中央部の表面温度と端部との間に温度勾配ができるように制御するので、装置構成や操作が複雑化するという問題点があった。
【0007】
本発明は上述した問題点を解決するためになされたものであり、簡易な装置および操作により合成樹脂製の試験片のチャック切れを防止できる引張試験用掴み具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段および発明の効果】
【0008】
この目的を達成するために、請求項1記載の引張試験用掴み具によれば、引張試験機に連結される掴み具本体に着脱可能に形成される締結具により、掴み具本体から締結具が取り外された状態で冷却される。冷却された締結具を掴み具本体に取り付けた後、締結具の締結操作により試験片の端部をチャックで把持すると、試験片およびチャックと締結具との間の熱伝導により試験片の端部およびチャックが冷却される。試験片およびチャックが冷却される結果、締結具は温められる。その締結具またはチャックの温度は指標部により示され、その温度から、試験片の端部が冷却されたかを推定できる。合成樹脂製の試験片は冷却されると硬さが増すので、試験片の端部が冷却された後に引張試験を行うことで、試験片の端部近傍で局部変形が起こることを防止できる。これによりチャック切れを防止できる。
【0009】
以上のように請求項1記載の引張試験用掴み具によれば、従来のような複雑な装置や操作を用いることなく、簡易な装置および操作により合成樹脂製の試験片のチャック切れを防止できる効果がある。
【0010】
さらに、試験片の冷却をチャックの開閉に用いる締結具を利用して行うので、着脱が容易であり操作性を向上できる効果がある。
【0011】
請求項2記載の引張試験用掴み具によれば、引張試験機に連結される掴み具本体に着脱可能に形成されるチャックが、掴み具本体から取り外された状態で冷却される。冷却されたチャックを掴み具本体に取り付けた後、試験片の端部をチャックで把持すると、試験片とチャックとの間の熱伝導により試験片の端部が冷却される。これと同時に掴み具本体とチャックとの間の熱伝導も生じ、掴み具本体も冷却される。その掴み具本体またはチャックの温度は指標部により示され、その温度から、試験片の端部が冷却されたかを推定できる。合成樹脂製の試験片は冷却されると硬さが増すので、試験片の端部が冷却された後に引張試験を行うことで、試験片の端部近傍で局部変形が起こることを防止できる。これによりチャック切れを防止できる。
【0012】
請求項3記載の引張試験用掴み具によれば、指標部は、室温より5〜10℃低い設定温度に達すると外観が変化するものなので、指標部が形成された部材の温度が室温より5〜10℃低い温度に達したことを検出できる。指標部が形成された部材の温度は、試験片が冷却される結果として変化するので、指標部の外観が変化したときは、試験片の端部が室温より低い温度に冷却されたものと推定される。合成樹脂製の試験片は、把持される端部が室温より低い温度であると、試験片の端部と中央部との間に温度勾配ができ、試験片の端部を中央部より硬くすることができる。これにより請求項1又は2の効果に加え、チャック切れを確実に防止できる効果がある。
【0013】
請求項4記載の引張試験用掴み具によれば、指標部は、締結具またはチャックに形成される凹部と、その凹部に収容される室温より5〜10℃低い融点をもつ液状物とを備えているので、凝固した液状物が融解することにより、締結具またはチャックの温度が室温より5〜10℃低い温度まで上昇したことを検出できる。締結具またはチャックは、試験片が冷却される結果として温められるので、液状物が融解したときは、試験片の端部が室温より低い温度に冷却されたものと推定される。合成樹脂製の試験片は、把持される端部が室温より低い温度であると、試験片の端部と中央部との間に温度勾配ができ、試験片の端部を中央部より硬くすることができる。これにより請求項1又は2の効果に加え、チャック切れを確実に防止できる効果がある。
【0014】
請求項5記載の引張試験用掴み具によれば、試験片は、引張力の方向に対して直交方向の断面積が引張力の方向に亘って同一に形成されているので、合成樹脂材料を加工して、端部の断面積が中央部の断面積に比べて広く設定される試験片を調製することを省略できる。これにより請求項1から4のいずれかの効果に加え、試験片の調製作業を簡略化できる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(a)は第1実施の形態における引張試験用掴み具の正面図であり、(b)は引張試験用掴み具の側面図である。
【図2】(a)は引張試験用掴み具の締結具の側面図であり、(b)は第2実施の形態における引張試験用掴み具のチャックの斜視図である。
【図3】(a)は第3実施の形態における引張試験用掴み具の正面図であり、(b)は引張試験用掴み具のチャックの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、添付図面を参照して説明する。まず、図1及び図2(a)を参照して、本発明の第1実施の形態における引張試験用掴み具1について説明する。図1(a)は第1実施の形態における引張試験用掴み具1の正面図であり、図1(b)は引張試験用掴み具1の側面図である。
【0017】
図1(a)及び図1(b)に示すように、引張試験用掴み具1は、引張試験機の負荷ロッド100に連結される一対の部材であり、負荷ロッド100の相対移動により負荷軸Lに沿って引張力を試験片Tに与えるため、合成樹脂製の試験片Tの端部を把持する部材である。引張試験用掴み具1は、ユニバーサルジョイント101を介して連結される掴み具本体2と、その掴み具本体2の端部側に形成されるチャック3と、そのチャック3に対向して配設されると共に掴み具本体2と分離して形成されるチャック4と、それらチャック3,4を開閉可能に掴み具本体2に取り付けられると共に、掴み具本体2から着脱可能に形成される締結具10(ボルト11及びナット12)とを備えて構成されている。
【0018】
掴み具本体2及びチャック4は、正面視して矩形状の板状体により形成されると共に、厚さ方向に貫通形成される取付孔3b,4bが負荷軸Lの両側の相対位置にそれぞれ形成されている。取付孔3b,4bは、各々にボルト11の軸部11aが挿通される部位であり、軸部11aにナット12が締結される。チャック3,4の間に試験片Tを負荷軸Lと同軸に差し込み、ボルト11及びナット12を締結することにより、チャック3,4の把持面3a,4aに試験片Tが押止され、試験片Tの端部がチャック3,4に把持される。
【0019】
次に、図2(a)を参照して、引張試験用掴み具1の締結具10について説明する。図2(a)は引張試験用掴み具1の締結具10(ボルト11)の側面図である。なお、図2(a)において、ボルト11の軸部11aの長手方向の図示を省略している。
【0020】
ボルト11は、頭部11bから軸部11aに向かう有底の凹部11cが頭部11bの先端面に形成されている。凹部11cは、ボルト11の温度を示す指標部の一部であり、引張試験機が設置される試験室(図示せず)の室温より5〜10℃低い融点をもつ液状物11dが収容される部位である。融解した液状物11dが凹部11cから漏れ出すことを防ぐため、凹部11cの内側を視認可能な透明なフィルム11eが、凹部11cを密封しつつ頭部11bの先端面に貼付されている。本実施の形態では、液状物11dとして酢酸(融点は約17℃)が用いられている。
【0021】
次に、引張試験用掴み具1の使用方法について説明する。引張試験機が設置される試験室の室温は、約22〜27℃に設定されているものとする。引張試験機の負荷ロッド100に連結される掴み具本体2からボルト11及びナット12を取り外した後、ボルト11及びナット12を冷凍庫(図示せず)に保管し、十分な時間だけ放置する。これによりボルト11及びナット12は冷却されると共に、ボルト11の凹部11cに収容された液状物11dは融点以下に冷却されて凝固する。
【0022】
本実施の形態では、試験片Tは、合成樹脂製チューブを一対の引張試験用掴み具1,1の間隔より少し長めに切断したものとする。これにより引張力の方向(負荷軸Lの方向)に対して直交方向の断面積が引張力の方向(負荷軸Lの方向)に亘って同一とされる試験片Tを用いて引張試験を行うことができる。
【0023】
試験片Tの引張試験を行うときは、冷凍庫(図示せず)から十分に冷却されたボルト11及びナット12を取り出し、直ちにチャック3,4の間に試験片Tを負荷軸Lと同軸に差し込むと共に、ボルト11を取付孔3b,4bに挿通しつつナット12を締結する。これによりチャック3,4の把持面3a,4aに試験片Tが押止され、試験片Tの端部が引張試験用掴み具1に把持される。
【0024】
この状態ではチャック3,4とボルト11及びナット12との間の熱伝導によりチャック3,4が冷却され、次いでチャック3,4に把持される試験片Tの端部が冷却される。試験片Tが冷却される結果、ボルト11及びナット12は温められる。ボルト11の温度は、指標部としての液状物11dが融解することにより約17℃(酢酸の融点)まで上昇したことが示される。ボルト11及びナット12は放射等によっても熱伝達されて温められるが、チャック3,4及び試験片Tとボルト11及びナット12との間の熱伝導が支配的なので、液状物11dの状態(凝固または融解)から、試験片Tの端部が冷却されたかを推定できる。合成樹脂製の試験片Tは冷却されると硬さが増すので、試験片Tの端部が冷却された後に引張試験を行うことで、試験片Tの端部近傍で局部変形が起こることを防止できる。これにより試験片Tのチャック切れを防止できる。
【0025】
ここで、試験片Tが金属製の場合、熱伝導率が大きいので、試験片Tの端部が冷却されたときに試験片Tの長手方向に温度勾配が生じ難い。そのため、試験片Tの端部が冷却されると短時間で試験片Tの長手方向の中央部も冷却される。その結果、本実施の形態における引張試験用掴み具1を用いた場合、試験片Tの本来の材料特性を表す試験結果を得ることができない。従って、金属製の試験片Tの長手方向に温度勾配を強制的に生じさせるため、特許文献1に開示されるような複雑な装置や煩雑な操作が必要であった。
【0026】
これに対し、本実施の形態における合成樹脂製の試験片Tは、熱伝導率が金属材料に比べて小さいので、チャック3,4に試験片Tを把持させることで、試験片Tの長手方向に大きな温度勾配を生じさせることができる。そのため、試験片Tの端部が冷却されても試験片Tの長手方向の中央部は冷却され難い。その結果、試験片Tの長手方向の中央部は略室温に維持され、試験片Tの本来の材料特性を表す試験結果を得ることができる。
【0027】
以上説明したように第1実施の形態における引張試験用掴み具1によれば、従来のような複雑な装置や操作を用いることなく、簡易な装置および操作により合成樹脂製の試験片Tのチャック切れを防止でき、正確な試験結果を得ることができる。
【0028】
また、掴み具本体2から取り外して冷却した締結具10(ボルト11)を用い、チャック3,4を閉じて試験片Tを把持することにより、チャック3,4を介して試験片Tを冷却することができる。これによりチャック3,4を介して試験片Tを徐々に冷却することができ、試験片Tが急冷されることを防止できる。また、掴み具本体2からの着脱が容易な締結具10を利用するので、着脱操作性を向上できる。
【0029】
また、締結具10は掴み具本体2やチャック4と面接触するので、熱伝導効率を向上できる。さらに、引張試験を行う試験片Tの数と同じだけの締結具10を冷却しておき、試験片Tを交換する度に締結具10を冷却されたものと交換することにより、試験結果の再現性を確保できる。
【0030】
また、締結具10の温度を示す指標部は、締結具10(ボルト11)に形成される凹部11cと、その凹部11cに収容される室温(約22〜27℃)より5〜10℃低い融点(約17℃)をもつ液状物11d(酢酸)とを備えて構成されるので、液状物11dが凝固した状態にあるか融解した状態にあるかを確認することにより、締結具10が融点以下に冷却されているか否かを確認できる。
【0031】
また、冷却された締結部10を掴み具本体2に取り付けた後は、凝固した液状物11dの融解を確認することで、締結具10の温度が室温より5〜10℃低い温度まで上昇したことを検出できる。締結具10は、試験片Tが冷却される結果として温められるので、液状物11dが融解したときは、試験片Tの端部が室温より5〜10℃低い温度に冷却されたものと推定される。合成樹脂製の試験片Tは、チャック3,4に把持される端部が室温より5〜10℃低い温度であると、試験片Tの端部と中央部との間に温度勾配ができ、試験片Tの端部を中央部より硬くすることができる。これにより試験片Tのチャック切れを確実に防止できる。なお、チャック3,4が室温より5〜10℃低い温度になったときに引張試験を行うと、試験片Tのチャック切れを防止でき、正確な試験結果を得ることができることを実験により確認した。
【0032】
また、本実施の形態では、試験片Tの端部を冷却することにより硬化させ、試験片Tの端部近傍で局部変形が生じることを防止できるので、試験片Tの端部の断面積が中央部の断面積に比べて広く設定されるように調製することを省略し、引張力の方向(負荷軸Lの方向)に対して直交方向の断面積が引張力の方向に亘って同一に形成される試験片Tを用いることができる。これにより、製品や試料から切り取られた試験片の引張試験結果ではなく、製品や試料そのものの引張試験結果を得ることができる。
【0033】
次に、図2(b)を参照して、第2実施の形態について説明する。第1実施の形態では、締結具10(ボルト11)に液状物11dが収容される凹部11cが形成される場合について説明した。これに対し第2実施の形態では、液状物14cが収容される凹部14bがチャック14に形成される場合について説明する。図2(b)は、第2実施の形態における引張試験用掴み具のチャック14の斜視図である。チャック14は、第1実施の形態における引張試験用掴み具1のチャック4に代えて配設されるものとし、第1実施の形態と同一の部分は、同一の符号を付して以下の説明を省略する。
【0034】
チャック14は、平面視して矩形状の板状体により形成される部材であり、2つの取付孔4bが貫通形成される面であって、把持面4aの反対面14aに有底の凹部14bが形成されている。凹部14bは、指標部の一部であり、液状物14cが収容される部位である。本実施の形態では、液状物14cとして、引張試験機が設置される試験室の室温より5〜10℃低い融点に調整されたワックスが収容されている。
【0035】
次に、第2実施の形態における引張試験用掴み具の使用方法について説明する。引張試験機の負荷ロッド100(図1参照)に連結される掴み具本体2からボルト11及びナット12を取り外すことでチャック14を取り外した後、チャック14を冷凍庫(図示せず)に入れ、十分な時間だけ放置する。これによりチャック14は冷却されると共に、チャック14の凹部14bに収容された液状物14cは融点以下に冷却されて凝固する。
【0036】
引張試験を行うときは、冷凍庫(図示せず)から冷却されたチャック14を取り出し、直ちにチャック3(図1参照),14の間に試験片Tを負荷軸Lと同軸に差し込みつつ、ボルト11及びナット12を締結する。これによりチャック3,14の把持面3a,4aに試験片Tが押止され、試験片Tの端部がチャック3,14に把持される。これによりチャック3,14に把持された試験片Tの端部およびボルト11等が冷却される。試験片T及びボルト11等が冷却される結果、チャック14は温められる。指標部としての液状物14cが融解することにより、チャック14の温度は液状物14cの融点まで上昇したことが示される。チャック14は放射等によっても温められるが、試験片Tとチャック14との間の熱伝導が支配的なので、液状物14cの状態から、試験片Tの端部が冷却されたかを推定できる。合成樹脂製の試験片Tは冷却されると硬さが増すので、試験片Tの端部が冷却された後に引張試験を行うことで、試験片Tの端部近傍で局部変形が起こることを防止できる。これによりチャック切れを防止できる。
【0037】
以上説明したように第2実施の形態においても、第1実施の形態と同様に、従来のような複雑な装置や操作を用いることなく、簡易な装置および操作により合成樹脂製の試験片Tのチャック切れを防止できる。また、冷却されたチャック14に把持されて試験片Tが冷却されるので、試験片Tの冷却効率を向上できる。なお、引張試験を行う試験片Tの数と同じだけのチャックTを冷却しておき、試験片Tを交換する度にチャック14を冷却されたものと交換することにより、試験結果の再現性を確保できる。
【0038】
次に、図3を参照して、第3実施の形態について説明する。第1実施の形態および第2実施の形態では、締結具10やチャック14に液状物11d,14cが収容される凹部11c,14bが形成され、それらが指標部を構成する場合について説明した。これに対し第3実施の形態では、指標部として、ラベル状の温度表示具23dがチャック23に貼付されている場合について説明する。なお、第1実施の形態と同一の部分は、同一の符号を付して以下の説明を省略する。図3(a)は第3実施の形態における引張試験用掴み具21の正面図であり、図3(b)は引張試験用掴み具21のチャック23の斜視図である。なお、図3(a)では、負荷ロッド100に連結される一対の引張試験用掴み具21のうち、一方の図示を省略している。
【0039】
図3(a)に示すように、引張試験用掴み具21は、ユニバーサルジョイント101を介して引張試験機の負荷ロッド100に連結されると共に、正面視して略コ字状に形成される掴み具本体22と、その掴み具本体22の内側に配設される一対のチャック23,23とを備えて構成されている。掴み具本体22は、略コ字状に形成される両側の対向部22aに取付孔22bが貫通形成され、その取付孔22bに締結具としてのねじ棒24が螺挿されている。ねじ棒24は、一端に摘み部24aが形成され、他端はチャック23に当接される。
【0040】
図3(a)及び図3(b)に示すように、チャック23は、ブロック状に形成される部材であり、試験片Tを把持する把持面23aが、ねじ棒24が当接される面の反対面に形成されている。またチャック23は、把持面23aの反対面23bに、ねじ棒24の他端が係合される係合孔23cが形成されると共に、掴み具本体22に配設された状態で視認可能な位置に指標部としてのラベル状の温度表示具23dが貼付されている。
【0041】
温度表示具23dは、ワックス、液晶、マイクロカプセル等の性状が温度により変化する特性を利用して、予め設定された設定温度に達したことを色調や色彩等の変化により表示する部材であり、例えば特許第3426546号公報等により公知である。本実施の形態では、温度表示具23dは、引張試験機が設置される試験室の室温より5〜10℃低い温度に達すると外観(色)が変化するものが採用されている。
【0042】
次に、引張試験用掴み具21の使用方法について説明する。まず、摘み部24aを回転させることにより、引張試験機の負荷ロッド100に連結される掴み具本体22からねじ棒24を螺退させ、チャック23の係合孔23cからねじ棒24を抜き、チャック23を取り外す。次いで、チャック23を冷凍庫(図示せず)に入れ、十分な時間だけ放置する。これによりチャック23は冷却されると共に、温度表示具23dは設定温度以下に冷却されて外観(色)が変化する。
【0043】
引張試験を行うときは、冷凍庫(図示せず)から十分に冷却されたチャック23を取り出し、掴み具本体22の対向部22aの内側に位置させる。次いで、係合孔23cにねじ棒24の先端を係合させると共にねじ棒24を螺進させつつ、チャック23,23の間に試験片Tを負荷軸Lと同軸に差し込む。これによりチャック23,23の把持面23a,23aに試験片Tが押止され、試験片Tの端部がチャック23,23に把持される。これによりチャック23に把持された試験片Tの端部およびねじ棒24等が冷却される。試験片T及びねじ棒24等が冷却される結果、チャック23は温められる。温度表示具23dの外観の変化(変色)により、チャック23は設定温度まで上昇したことが示される。チャック23は放射等によっても温められるが、試験片Tとチャック23との間の熱伝導が支配的なので、温度表示具23dの状態から、試験片Tの端部が冷却されたかを推定できる。合成樹脂製の試験片Tは冷却されると硬さが増すので、試験片Tの端部が冷却された後に引張試験を行うことで、試験片Tの端部近傍で局部変形が起こることを防止できる。これによりチャック切れを防止できる。
【0044】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。例えば、上記実施の形態で挙げた数値(例えば、各構成の数量等)は一例であり、他の数値を採用することは当然可能である。
【0045】
上記実施の形態では、管状に形成される試験片Tについて説明したが、必ずしもこれらに限られるものではなく、試験片Tを他の形態とすることも可能である。他の形態としては、例えば、棒状、糸状、紐状、フィルム状等であって、引張力の方向(負荷軸Lの方向)に対して直交方向の断面積が引張力の方向に亘って同一に形成される合成樹脂材を挙げることができる。これにより端部の断面積が中央部の断面積に比べて広く設定される試験片(JIS K6815−1:2002に規定されるもの)を調製することを省略でき、試験片の調製作業を簡略化できる。なお、上記JIS K6815−1:2002に規定される形状に加工した試験片を用いて引張試験を行うことも当然可能である。
【0046】
上記第1実施の形態では、ボルト11に指標部(凹部11c及び液状物11d)が形成される場合について説明したが、必ずしもこれに限定されるものではなく、ナット12に指標部を形成することも可能である。この場合も同様の効果を実現できる。
【0047】
また、上記第1実施の形態ではボルト11及びナット12(締結具10)を冷却する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、掴み具本体2から取り外したチャック4も併せて冷却することが可能である。これにより試験片Tの冷却効率を向上できる。
【0048】
また、上記第1実施の形態おいて、2個のナット12を両方とも取り外して2本のボルト11をチャック4から取り外すのではなく、片方のナット12を取り外して、片方のボルト11を取り外すことも可能である。これによりボルト11及びナット12の着脱操作を簡略化できる。さらに片方のボルト11を冷却することにより、ボルト11を取り付けたときの試験片Tの冷却速度や温度を調整することができる。
【0049】
上記第3実施の形態では、冷却されるチャック23に温度表示具23d(指標部)が貼付される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、チャック23に温度表示具23dを貼付するのに代えて、掴み具本体22に温度表示具23dを貼付することも可能である。この場合は、チャック23により熱伝導でねじ棒24及び掴み具本体22が冷却されるので、掴み具本体22の温度を温度表示具23dで確認することにより、試験片Tが冷却されたことを推定できる。
【0050】
上記第3実施の形態では、掴み具本体22からチャック23を取り外して冷却する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、掴み具本体22からねじ棒24を取り外して、ねじ棒24を冷却することも可能である。この場合は、冷却されたねじ棒24により熱伝導でチャック23が冷却されるので、チャック23の温度を温度表示具23dで確認することにより、試験片Tが冷却されたことを推定できる。チャック23は試験片Tと接触しているので、試験片Tが冷却されたことの推定精度を向上できる。
【0051】
上記各実施の形態では、締結具10、チャック14,23を冷凍庫により冷却する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、これらを液体窒素等の冷媒を用いて冷却する(深冷する)ことも可能である。これにより、これらの冷却に要する時間を短縮できる。その結果、引張試験を行う試験片Tの数と同数の締結具10等を準備しなくても、引張試験ごとに締結具10等を冷却することにより、数多くの引張試験を行うことが可能となる。
【0052】
上記第1実施の形態では、ボルト11に形成された凹部11cがフィルム11eで密封されている場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、フィルム11eを貼付することなく凹部11cを開放した状態にしておくことも可能である。この場合はボルト11を冷却する都度、或いはボルト11を冷却した後、凹部11cに液状物11dを注ぎ込むことにより液状物11を凝固させて、同様の効果を実現できる。
【0053】
上記各実施の形態では、指標部を構成する液状物11d,14cとして、酢酸やワックスを用いる場合について説明したが、必ずしもこれらに限られるものではなく、例えば、融点を調整した油脂類を用いることも当然可能である。
【符号の説明】
【0054】
1,21 引張試験用掴み具
2,22 掴み具本体
3,4,23 チャック
10 締結具
11c,14b 凹部(指標部の一部)
11d,14c 液状物(指標部の一部)
23d 温度表示具(指標部)
24 ねじ棒(締結具)
100 負荷ロッド(引張試験機の一部)
T 試験片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂製の試験片の端部を把持する引張試験用掴み具において、
引張試験機に連結される掴み具本体と、
その掴み具本体に配設されると共に、前記試験片の端部を把持するチャックと、
そのチャックを開閉可能に構成されると共に、前記掴み具本体に着脱可能に形成され、取り外された状態で冷却される締結具と、
その締結具または前記チャックに形成され、前記掴み具本体に取り付けられる前記締結具または前記チャックの温度を示す指標部とを備えていることを特徴とする引張試験用掴み具。
【請求項2】
合成樹脂製の試験片の端部を把持する引張試験用掴み具において、
引張試験機に連結される掴み具本体と、
その掴み具本体に着脱可能に形成され、取り外された状態で冷却されると共に前記試験片の端部を把持するチャックと、
そのチャック又は前記掴み具本体に形成され、前記掴み具本体に取り付けられる前記チャック又は前記掴み具本体の温度を示す指標部とを備えていることを特徴とする引張試験用掴み具。
【請求項3】
前記指標部は、室温より5〜10℃低い設定温度に達すると外観が変化するものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の引張試験用掴み具。
【請求項4】
前記指標部は、前記締結具または前記チャックに形成される凹部と、その凹部に収容される室温より5〜10℃低い融点をもつ液状物とを備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載の引張試験用掴み具。
【請求項5】
前記試験片は、引張力の方向に対して直交方向の断面積が、引張力の方向に亘って同一に形成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の引張試験用掴み具。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−154871(P2012−154871A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−16089(P2011−16089)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(000004617)日本車輌製造株式会社 (722)
【Fターム(参考)】